著者
前川 佳代 森 由紀恵 宍戸 香美 宮元 香織
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究の目的は、多様な日本古代菓子について日本と大陸での実態を明らかにし、古代菓子を再現して活用することである。日本古代菓子の起源、伝来、実相、展開と変質を実証的に研究し、古代菓子の大陸におけるルーツと大陸に対して甘味料の甘葛煎は日本独自という由来を解明する。その過程で得られた情報から古代菓子を再現する。甘葛煎は菓子だけでなく平安時代に利用された薫物を再現する。再現した古代菓子や甘葛薫物の活用と普及を目指す。菓子は大陸の儀礼や行事とともに伝来した。その用法を食儀礼や修法を含め検討する本研究は、東アジアの食膳研究解明の第一段階である。次いで食膳形態や箸匙の使用法へと発展が見込まれる。
著者
吉村 あき子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

「メタ言語否定」は、命題の真理条件的内容を否定する「記述否定」とは異なり、先行発話の持つ様々な要因(前提、慣習含意や会話の含意、形態、スタイル、発音など)に基づいて、その先行発話に異議を唱えるものであり、否定は語用論的に多義的であるとHorn(1985,1989,2000^2)は主張する。本研究はメタ言語否定の全体像を明らかにすることを目標に、メタ言語否定の否定対象に対する統一的規定、メタ言語否定の現象から明らかになる自然言語の否定辞の意味、さらに、個別言語としての日本語におけるメタ言語否定の特徴を明らかにした。メタ言語否定の否定対象は、上記のように非常に多様である。しかしメタ言語否定という現象が自然類をなすのであれば、その対象に対して統一的規定が可能であるはずだという考えに基づき、発話の認知処理プロセスという視点から、メタ言語否定の否定対象は、エコーの元になるものによって必然的にあるいは一般的に伴われるが伝達されないもの、と規定できることを示した。自然言語の否定辞のコード化された意味について、Horn(1985,1989,2000^2)はグライスの精神とメタ言語否定/記述否定という現実に存在する使用の区別(語用論的多義性)の間のジレンマに苦しみ、Carston(1996,1998a, b,2002)の、否定辞の意味はメタ言語否定を含むどのような否定辞の例も真理関数演算子であるという主張も、本来の定義に沿うと矛盾を生じる。メタ言語否定の現象の詳細な観察分析から、自然言語の否定辞は、論理学において定義される真理関数演算子を超えた非常にgeneralな「異議を唱える」機能を持つものであると分析しなければ解決しないことを示した。さらに、日本語のメタ言語否定を観察することによって、日本語には「の」を伴う「〜のではない」のような、述語を含むレベルの帰属的な(帰属元を持つ)メタ表示の否定であることをマークする表現形式があること、このことによって通常の否定形式が用いられた場合に伴われるニュアンス/効果が説明できることを示した。
著者
尾崎 まみこ 針山 孝彦 永田 仁史 綾部 早穂 金山 尚裕 小早川 達 大坪 庸介
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-07-18

「赤ちゃんの匂いはいい匂い」とは、経験的によくいわれてきたが、これまで科学的に証明されたことはなかった。私たちは生後、数時間から数日の20名の新生児の頭部からストレスフリーで非侵襲な方法で採集し、そのうち19名の匂いを個別に分析した。19名のうち16名の匂いは相互によく似た成分構成を示し、残りの4名の匂いは、1,2の成分の含有量が他と異なっていた。この結果から、新生児の頭部の匂いには、“標準的な”化学成分構成が存在することが示唆された。化学分析結果をもとに、含有量の上位を占める20成分を使って19名の匂いを再現する調香品をそれぞれ作成した。それらの調香品の匂いについて、20名の学生(男女10名ずつ)から、匂いに関連する50のタームへの当てはまり度を回答する心理学的感覚評価の結果を得た。この回答のスコアに対する因子分析を行うため、スクリープロットから妥当と考えられる3因子解を求めた。得られた第1、第2、第3因子は、それぞれ、「快い情動を引き起こす匂い」に関与する因子、「快い質の匂い」に関与する因子、「不快な情動を引き起こす匂い」に関与する因子であり、寄与率は順に0.32、0.13、0.11であった。ちなみに「不快な質の匂い」に関係の深い13タームはいずれも極めて低いスコアしか獲得していなかったので、あらかじめ因子分析の対象から除外した。このように、本研究から、化学―心理学的な根拠を示すことにより、「赤ちゃんの匂いは快い情動を引き起こす匂いである」ことを、世界で初めて証明することができた。最後に、学生による調香品の匂いの評価と父母などによる本物の赤ちゃんの匂いの評価を同じ感覚評価テストで比較したところ、およそ矛盾の無い結果が得られた。
著者
三成 美保 粟屋 利江 村上 薫 小浜 正子 鈴木 則子 小野 仁美 長 志珠絵 山崎 明子 桃木 至朗 河上 麻由子 野村 鮎子 久留島 典子 井野瀬 久美惠 姫岡 とし子 永原 陽子 落合 恵美子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「アジア・ジェンダー史」の構築に向けて、次の3つの課題を設定して共同研究を行う。①「アジア≪で≫問うジェンダー史」に関する史資料の収集・整理、②高校「歴史総合」のための「アジア≪を≫問うジェンダー史」教材の作成、③アジア諸国の研究者と協力して「アジア≪から≫問うジェンダー史」研究を発展させることである。研究成果は書籍として刊行するほか、比較ジェンダー史研究会HP(https://ch-gender.jp/wp/)を通じて広く国際社会に成果を公表する。とくに②については、高校教員との対話や共同作業を通じて、ジェンダー視点から歴史教育の発展をはかるためのテキスト・資料を作成・提供する。
著者
沖田 美佐子 塚本 幾代 冨岡 加代子 川上 貴代 村上 泰子 横山 純子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法中のC型慢性肝炎患者を対象にビタミンE、Cと併用した亜鉛やエイコサペンタエン酸の補給を行い、治療中における副作用の軽減を認め、栄養療法が補助療法として有用であることを明らかにした。また、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者に対して魚類摂取の栄養指導を行うとともにビタミンE、Cの投与を行った結果肝病態の改善を認め、栄養療法の重要性を示唆した。
著者
西谷 敬
出版者
奈良女子大学
雑誌
人間形成と文化 : 奈良女子大学文学部教育文化情報学講座年報 (ISSN:13429817)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.25-37, 1999

福沢諭吉は,日本の啓蒙主義を代表する思想家であり,西洋の文明を日本に紹介して,日本を西洋化し,近代化しようと努力した。彼の活動はしかしそれにとどまらず,西洋の思想に基づいて彼独自の思想を展開するに至った。彼の思想家,著作家,ジャーナリスト,教育者としての活動は,明治時代の大半に及ぶが,啓蒙思想家としての活動の頂点をなすのは,明治初年であり,彼の代表作である『文明論の概略』は1875年(明治8年)に出版された。彼は比較文明論を展開することによって,西洋文明をモデルとして,日本の文明を批判し,「半開」の段階にある日本の文明を批判し,日本を近代化しようとした。そのために西洋の文物を輸入することより,むしろ西洋文明の精神を取り入れることが肝要であることを彼は主張した。彼は,文明を人民の知徳の進歩として把握し,知と徳について説明している。彼は,道徳が人間の内面に関わる限りにおいて,私徳に帰着し,道徳を身につけることは個人の性情によるものであり,また道徳の内容は時と場所を選ばず,変化しないと考えた。これに対して知識は日々進歩し,変化しているが,広く通用し,伝達可能であるとされた。彼は,科学的知識なかんずく物理学を重視し,それを社会に適用しようとした。彼は,近因と遠因を区別し,法則的連関に従う遠因に注意を向けるべきであることを主張した。彼はまた自立的に軽重を判断する能力,智恵を重視したが,これは彼が強調した自主独立の精神の要素となるものである。彼は,西洋文明を特色づける要素として,物理学と精神の独立をあげて,これらを日本に導入することが彼の啓蒙主義の課題であった。その障害になるのは,マックス・ヴェーバーのいう伝統主義であり,福沢はそれを「惑溺」の精神として批判した。この精神を育成したのが,儒教であり,彼は,儒教の内容そのものよりも,イデオロギーとして,すなわち伝統主義的,階層的,支配者的教えとして儒教を徹底的に批判した。また西洋における自由,平等に対して,日本においては,対政府だけでなく,社会の至る所において権力の不均衡が見られることを彼は批判した。彼は,日本のこれらの伝統を破壊し,新しい精神を導入することによって思想の全面的革新をはかったということができる。他方福沢は,日本の伝統に依拠して日本の近代化を促進しようとしたということができる。まず第一に彼は,社会の基盤となる中産階級として,士族をあげている。彼は国の独立は国民の独立に依存すると考えて,国民の啓蒙をはかったが,1870年代になって平民に期待を寄せなくなったとともに,士族の活発さ,責任感,視野の広さによって産業が促進されることを期待した。士族は,福沢によって否定された封建的,階層的社会の担い手であったが,変化した状況の下で国家と産業の担い手になるとされたのであるσまた福沢は,この世界を過ぎ去りゆく浮世として見,また人間をつまらないウジ虫のように把握している。この思想は,仏教に近いが,彼は同時に社会に対して働きかけ,人間としての義務を果たすことの重要性を説いている。このような態度は,士道(武士道)の教えに親近的であることに注意しなければならない。なぜなら武士は,常に死を覚悟して,生に執着しないように教えられた。同時に彼は全力を尽くして忠誠,節約,勤勉などの義務を果たすように諭されたのである。このように生に対する態度が対立している中で,人間にとって生の意義が示される。彼の思想は,この点で日本の伝統に根ざしているが,それだけではない。というのは世界に対してこのように分裂,矛盾したあり方は,トーマス・ネーゲルが「不条理性」の論文の中で展開したように,人間にとって不可避的窮状であるということができる。福沢もこの事態に気づき,ネーゲルとは少々異なった仕方でこの問題に答えを与えようとしている。福沢はまた,実学を推奨し,経済活動の(国家的,道徳的)意義を人々,とくに士族に説くことによって,日本の資本主義の発展に大いなる貢献をなした。この点でも,彼は思想の革新を成し遂げた。というのは武士の伝統では,経済活動は卑しい,武士に無関係なものとみなされていたからである。彼は,国民の独立があって国の独立のあることを説いて個人の経済的独立が国家の繁栄に寄与することを論じて,実業を促進した。その際に彼は勤勉,忠誠といった武士の精神,つまり日本の伝統に訴えかけた。他方,精神の独立はいかに彼が力説しても,日本に定着することはなかった。これは日本の同調主義的,情緒的,審美的伝統に根ざしていないからだと考えられる。
著者
清水 新二 金 東洙 川野 健治 関井 友子 服部 範子 廣田 真理
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.アルコール関連問題の一つとして位置づけられたドメスティック・バイオレンス(DV)に関する研究は、わが国で初めての試みである。それに加え、全国データが収集されたことは今後の研究のベースラインを設定するものであり、研究成果の集合的蓄積上大きな貢献と考えられる。2.実践的な実態調査が中心であったこれまでのDV研究に対して、今回の調査研究は学術的、研究的視点から実施された。その結果、(1)特にDVと過剰飲酒の相関性が明らかになったこと、ならびに(2)全国一般住民のDVの経験率はこれまでの行政を中心にしたどの全国調査よりも低い事実が判明したこと、などは大いに論争的なものであり、今後さらに展開するDV研究の第二段階開始を刺激するインパクトをもつ。3.上記の研究上のみならず、現実の問題解決に向けた対策上の示唆が明らかな形で導き出されたことも、確実な成果といえる。具体的には、(1)DVの世代連鎖に関する分析からは、16歳前の家族暴力の目撃経験、被害経験は本人のDV被害とは無関連だが、DV加害に最も強く関与していることが判明した。DVの世代的再生産を抑止する上で、現在のDV予防、介入の重要性が示唆された。また(2)臨床調査の結果からは、アルコール依存症の場合断酒が成功するとDV行為も劇的に減少する事が確認され、DVと過剰な飲酒の関連性が浮き彫りにされたのみならず、今後アルコール臨床がDVの防止、介入に有効であることが示唆された。4.国際比較の点では、日本は米国、英国などとともに行動的というよりも言葉による暴力が比較的に多く観察された。身体的暴力の自己申告ではアフリカ諸国が目立つが、アメリカは相当に高い経験率が観察されている。日本は英国、チェコ、などとともに中位の上位国に位置づけられる。アフリカ諸国では性的虐待を含めて、多くの被害体験が報告されている。また国際共同調査の観点からは20数カ国もの多国間の共同性の確保の難しさと問題点も整理された。
著者
上田 薫
出版者
奈良女子大学
雑誌
学習研究 (ISSN:09116117)
巻号頁・発行日
no.63, pp.2-13, 1952-08
著者
片山 紀子
出版者
奈良女子大学
雑誌
人間形成と文化 : 奈良女子大学文学部教育文化情報学講座年報 (ISSN:13429817)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.115-126, 2000

In the West, historically in the context of education the corporal punishment has been used heavily. On this point, the situation in America was the same. However, the movement that many states of America prohibited corporal punishment appeared after 1980'. Yet, most of them are northern states, and the school corporal punishment remains in the south even now. The subject of this research is to clarify this reason. As a result of my study, the following reasons are conceivable. 1.The religious background; Above all, the existence of Fundamentalist is strong factor. They believe Christian Bible strictly and many of them live in the south. Therefore, southern area is called "Bible Belt" They are known to be conservative with discipline and like corporal punishment more to discipline a child than others. 2. The influence of the social structure ; The social structure of the southern states is different from the northern states. Including the slavery system, the social structure in the southern states has great influence on the education, the economic activities and the sense of values among people. By the unique social structure of the southern states, the corporal punishment is maintained to be used. 3. The ethos of the southern states ; It is unable to limit the basis of the corporal punishment that continues in the southern states only to these independent factors, such as the religion and social structure. Because they are mutually related factors, and form a/the particular southern ethos . I argue that the corporal punishment continued in the southern states is sustained by the ethos of the people in the south. As for our country, though the corporal punishment in school is legally prohibited, it continues even now. Thus, it may be possible to say that the ethos which allows the corporal punishment also exists in Japan even now.
著者
藤井 美加
出版者
奈良女子大学
雑誌
奈良女子大学社会学論集 (ISSN:13404032)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.181-194, 2009-03-01

The purpose of this paper is to analyze the influence of the school on a depopulated area. In this paper, Hatoma Island in Okinawa Prefecture is took up. People in Hatoma have coped with the maintaining of the elementary and junior school. They have experienced in a severe decrease in population since 1960's, and almost all the children left there. They worried if school was closed. Because they thought that school closing meant island end. Then they have adopted the foster-parent system since 1980's, and have accepted children from the nursing home in Naha city.But recently no children come from the nursing home. Now children come as Kaihin-Ryugaku system by which children come to stay village near the sea, and to go to school in the village. In Hatoma, children come from all over the Japan and they stay at agent's home. Such children's change leads people to new recognition of the children. The change is that people can't expect children to play a part in Hatoma when they grow up.The analysis of this paper suggests school has an important effective on a depopulated area. School makes people expect not only children staying there but also lasting of their community in the future.
著者
野々村 戒三
出版者
奈良女子大学
雑誌
學習研究 (ISSN:09116117)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.29-31, 1931-05-01
著者
三木 健寿
出版者
奈良女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

恐怖や不安記億の再生は交感神経活動の変化を伴うがその詳細は不明である。睡眠REM期には記憶の再生と固定が行われており、睡眠REM期の海馬神経活動と交感神経活動の関係は、記憶の再生と交感神経活動変動との因果関係を検討するモデルとなる。本研究は、睡眠REM期における海馬CA1領域の神経活動と地域血流量の変化の定量化し、睡眠REM期と覚醒運動時の行動ステージとの差を検討し、睡眠REM期の特徴を明らかにすることを目的とした。また、腎および腰部交感神経活動との相関性について検討した。Wistar系の雄ラットを用い、脳波、海馬CA1神経活動、海馬CA1領域血流量、動脈圧、中心静脈圧、心電図、筋電図測定のための電極、プローブ、カテーテルを慢性留置した。海馬CA1神経活動は、4極のステンレススティールMicro-wire arrays電極によリ計測した。海馬CA1神経活動は、REM機が最も低く他の行動ステージに比べて有意に低かった。一方、睡眠REM期の海馬CA1領域血流量は、ノンレム期に比べて増加した。以上、睡眠REM期の海馬CA1神経活動は、睡眠-覚醒の行動サイクルの中で最も低い値を示すが、血流量は最も高い値を示すことが明らかになった。本研究は、睡眠REM期海馬CA1領域の血流量は神経活動低下時に増加していることを明らかにした。脳神経細胞では、一般に神経活動とその領域の血流量は同じ方向に変化する(neuro-vascular coupling)と考えられている。しかし、睡眠REM期にはneuro-vascularのuncouplingが生じている。従って、睡眠REM期には海馬の錐体細胞以外の代謝(グリアなど)の細胞の代謝亢進が考えられる。すなわち、睡眠REM期には記憶情報処理自体の活動が抑制され、その周辺機能の亢進が生じている可能性を示唆する。