著者
持田 邦夫 小林 浩之 横山 保夫
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

ゲルマニウム-ゲルマニウム結合を骨格とする新しいσ共役系ポリマー(ポリゲルマン)を合成し、その薄膜における有機感光体としての評価を行った。以下、成果をまとめる。(1)σ共役系ポリゲルマンおよびその関連化合物の合成…従来のジクロロゲルマンのナトリウム金属還元法の他、ヨウ化サマリウム(II)による還元法や触媒による開環重合法の開発、さらにはπ系の置換したゲルマニウム-ゲルマニウム結合を骨格とする新しいポリマーの合成にも成功した。(2)ポリゲルマンは薄膜の物性研究…合成したポリゲルマンの可視・紫外吸収極大(300-350nm)やイオン化ポテンシャル(5-6eV)の物性研究を行った。(3)キャリヤ-輸送能力の検討…TOF法を用いて、その値が10^<-4>-10^<-5>cm^<-2>/V.sであることを見いだし、感光体として従来にない能力を有することがわかった。(4)イオンラジカルの研究…キャリヤ-輸送を理解するため必要なポリゲルミル陽イオンラジカルの研究を放射光を用いて行なった。発生した陽イオンラジカルの吸収極大は可視・紫外部に存在し、その分子量が伸びるに従い吸収極大が長波長にシフトをすることを見いだした。(5)ポリゲルマン薄膜の光、熱分解特性…溶液状態と比較しながら検討した。
著者
川嶋 辰彦 平岡 規之 山村 悦夫 田中 伸英 平岡 夫之
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.我が国の「都市圏システム」及び「都市圏の核都市システム」について:(1)都市圏システムは集中化段階をほぼ終えており、近い将来加速的分散化段階に入る可能性が大きい。(2)核都市システムは分散化段階をほぼ終えており、近い将来加速的再集中化段階に入る可能性が大きい。(3)核都市システムは、空間的循環過程に於いて都市圏システムより凡そ20年先行している。2.我が国の「巨大都市圏システム」及び「中小都市圏システム」について:(1)巨大都市圏システムは、減速的分散化段階の後半期にある。(2)中小都市圏システムは、減速的集中化段階の後半期にある。3.我が國の大都市圏人口の変化について:(1)三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の人口増減は、米国大都市圏の人口増減動向を後追いしている。(2)「都市圏人口の純減過程」に対する先行指標と見做せる「核都市人口の純減過程」に目を遣ると、二大都市圏(大阪、名古屋)の核都市人口は既に比較的長期間に恒り続減している。(3)大都市圏の核都市は、空間的人口集散過程の文脈に於て、将来郊外部に対して相対的強者(即ち人口吸収力が相対的に勝る立場)となり得る。(4)大都市圏の核都市は将来、中小都市圏の核都市に対して相対的強者となり得る。(5)三大都市圏人口は1960年代以降続伸しているが人口成長率は三者とも0%に近づきつつあり、これら大都市圏は将来中小都市圏に対して暫らく弱い立場に立つとは言え、上述の諸点に照らすと比較的早い時期に中小都市圏に対して再び相対的強者となり得る可能性が小さくない。4.以上を踏まえて判断すると、大都市圏の核都市部が今後極めてクリティカルな都市機能的役割りを果たす可能性が大きく、その意味で特に東京都市圏中心地域の積極的な創造的都市投資が強く乞われている。
著者
数土 直紀 赤川 学 富山 慶典 盛山 和夫 金井 雅之 伊藤 賢一 樽本 英樹
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本プロジェクトは、期間中に合計12回の研究会を学習院大学において開催した。また、研究会での成果を、海外を含む各種学会・会議において発表報告をした。研究会での報告内容は、次の通りである。(1)「ウォルト・ディズニーの思想」、(2)"Evolution of Social Influence Networks in Unanimous Opinion Formation"、(3)「Social Capital概念の適用可能性」、(4)「階層意識上の性-権力」、(5)「Dunkan WattsのSmall Worldシミュレーションを応用して」、(6)"Independence of Protestantism and Capitalism"、(7)「規範性のメタ理論的考察」、(8)「『社会構造のモデル樽築』」、(9)"Evolution of Distributive Justice in Social Influence Networks"、(10)「政治的権力の正当性からの独立性」、(11)「後期ハーバーマスの展開の体系的分析」、(12)「都市型公共空間における不関与の規範の形成」、(13)「損害賠償額が上昇するメカニズム」、(14)「シミュレーションということ:く社会>の理解/記述/創出」、(15)「構成主義と構成されざる現実」、(16)「利他的な行為者はゲームをどうみているか」、(17)"Escape from Free-riders"、(18)「倫理的判断の不偏性」、(19)「ロマンティック・ラブの日本的受容〜『主婦の友』に見る「愛」と「恋愛」の変遷〜」、(20)「社会移動表における非対角セルの分析」、(21)「社会運動への動員における紐帯の効果」、(22)「メディアと「信頼」」。最終年度は、プロジェクト期間中に参加者が議論を基にした論文を収録し、計13本、約280ページの報告書を作成した。
著者
中村 生雄 岡部 隆志 佐藤 宏之 原田 信男 三浦 佑之 六車 由実 田口 洋美 松井 章 永松 敦
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、日本および隣接東アジア地域の狩猟民俗と動物供犠の幅広い事例収集を通じて、西洋近代率会において形成された「供犠」概念の相対化と批判的克服を行ない、東アジアにおける人と自然の対抗・親和の諸関係を明らかにすることを目的とした。言うまでもなく、狩猟と供犠は人が自然にたいして行なう暴力的な介入とその儀礼的な代償行為として人類史に普遍的であるが、その発現形態は環境・生業・宗教の相違にしたがって各様であり、今回はその課題を、北海道の擦文・オホーツク・アイヌ各文化における自然利用の考察、飛騨地方の熊猟の事例研究、沖縄におけるシマクサラシやハマエーグトゥといった動物供犠儀礼の実地調査などのほか、東アジアでの関連諸事例として、台湾・プユマ(卑南)族のハラアバカイ行事(邪気を払う行事)と猿刺し祭、中国雲南省弥勒県イ族の火祭の調査をとおして追求した。その結果明らかになったことは、日本本土においては古代の「供犠の文化」が急速に抑圧されて「供養の文化」に置き換わっていったのにたいして、沖縄および東アジアの諸地域においては一連の祭祀や儀礼のなかに「供犠の文化」の要素と「供養の文化」の要素とが並存したり融合して存在する事例が一般的であることであった。そして後者の理由としては、東アジアにおけるdomesticationのプロセスが西南アジアのそれに比して不徹底であったという事実に加え、成立宗教である仏教・儒教の死者祭祀儀礼や祖先観念が東アジアでは地域ごとに一様でない影響を及ぼし、そのため自己完結的な霊魂観や死後イメージが形成されにくかった点が明らかになった。またく狩猟民俗と動物供犠とに共通する「殺し」と「血」の倫理学的・象徴論的な解明、さらには、人間と自然とが出会うとき不可避的に出現する「暴力」の多面的な検証が不可欠であることが改めて確認された。
著者
若月 剛史
出版者
学習院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、大正期から昭和初期にかけての技術官僚の政治的動向について重点的に研究を進めた。その一環として、東京大学工学部や国立国会図書館などで史料調査を行ったほか、2010年8月から2011年3月にかけて、米国のUC・バークレー校日本学研究所に滞在し、戦前日本の技術官僚の政治運動に多大な影響を与えたアメリカの技術者諸団体(ASCEやAICEなど)に関する史料を収集した。その成果の一部として、同研究所のセミナーで"The activities of technocrats under Political Party Rule in Japan"(「政党内閣期(1924年~1932年)における技術官僚」)と題する報告を行った。また、前受入研究者であった村松岐夫氏(京都大学法学部名誉教授、行政学)が残された文書を整理し、目録を作成して公表した。同文書には、戦後の各種審議会や研究会についての貴重な史料が含まれており、本研究を進めるうえでも大きく資するものであった(同文書は今後、しかるべき史料収蔵機閥において公開される予定である)。他に、戦前日本の政党内閣制や官僚制を考えるうえで重要な史料である「牧野伸顕日記」、「入江相政日記」、「浜口雄幸日記」についての小論を執筆した。現在、これらの研究成果を踏まえたうえで、本研究の完成を目指して研究を進めているところである。
著者
後藤 元
出版者
学習院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

株主が会社に対して拠出した財産が少なすぎる場合(過少資本)には、株主は会社債務について責任を負い、また株主の会社に対する債権を劣後化すべきであると主張していた従来の学説を、法と経済学の見地を踏まえて再検討した。これにより、株主有限責任制度の弊害として問題とすべきなのは、会社の自己資本の多寡ではなく、会社事業の実施に関する株主のインセンティブのゆがみであるということが明らかになった。
著者
中野 春夫
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は平成9年度から11年度にかけて、ルネサンス文学における魔術主義的想像力の特筆を分析、考察した。本研究はまず英国ルネサンス文学における魔術の扱われ方を考察した。この考察を通じて、「魔術」に潜む秘めやかな欲望、願望、空想を突きとめることができ、その現象を具体的に指摘した。その成果は『エリザベス朝演劇の誕生』(水声社)における「ルネサンス魔術のメタモルフォシス」(平成9年)に発表された。ルネサンス期において通常魔術と呼ばれたもの(自然魔術、星界魔術、天空魔術)は、霊(スピリトゥス、オカルト、プロパティー)という謎の作用力を対象とする点で錬金術と同じである。ところが、錬金術において霊を物質と単一化(現代の用語なら融合)させることが最終目的である一方、その他の魔術のおいては霊を物質の中に貯えるか、支配することが目標となる。護符(タリスマン)や悪魔召還がその典型的な例である。以上の成果は、『逸脱の系譜』(研究社)における「ルネサンス錬金術の想像力」(平成11年)に発表された。ルネサンス魔術は発想の点で現代の応用科学とそう変わりはない。いずれも(電磁力、原子力など)目に見えない作用力を応用しようと試みる点である。一方、違いも大きい。現代であれば物質的な因果関係から理解することを、ルネサンス期には霊的な存在を原因と考えたことである。必然的にルネサンス期の物理学、化学、天文学は空想的な仮説を生み出したこれが同時代の文学にしばしば応用された魔術主義的想像力である。
著者
西坂 崇之 政池 知子 矢島 潤一郎 矢島潤 一郎 足立 健吾 須河 光弘 堀部 恵子 龍口 文子
出版者
学習院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

新しい光学顕微鏡技術を用い、膜超分子モーター(主にFoF1-ATPase)の作動原理について、分子のレベルにおける解明を試みた。タンパク質の部分的な領域が機能する瞬間のダイナミクスが可視化され、化学反応と対応づけることもできた。さらにキネシン-微小管系におけるコークスクリュー運動の直接可視化にも成功した。これらの技術や成果は「1分子構造生物学」という新しい学問領域に発展する可能性がある。
著者
飯高 茂 水谷 明 藤原 大輔 中島 匠一 岡部 恒治 川崎 徹郎
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては主に高校数学の数学教育のあり方を様々な面から研究した。平成13年度から15年度まで9月と1月に数学教育の研究会「数学教育の会-夏の集会、冬の集会」を開催し、大学、高校、教育行政、学会など幅広い数学教育関係者が70名前後集まり、論文の発表と討論を行った。具体的事項を挙げる。1 新しい学習指導要領での新科目「数学基礎」について、その構成、具体的な素材の展開などが研究会でくり返し発表され議論された。その結果は「数学教育研究数学教育の会編集」に詳しく発表され実際の教育現場で活用された。2 研究代表者は、高等学校数学の科目「数学C」で学習される「いろいろな曲線」の内容をさらに研究し、専門的な数学の立場に立った研究書「平面曲線の幾何」他を出版し研究成果を公表した。3 高校から大学の数学教育の中心は微積分であるが、その社会での有用性の研究を行った。4 学力向上のためには数学的活動の活発化が大切で、そのための様々な素材や方法が研究された。また、簡単な内容でも数学的に深い研究ができる例が発表された。5 数学の勉強を日常化するのに有効な方法として、携帯型ゲーム機にグラフ電卓の機能を付加して生徒がゲーム感覚の延長で数学を視覚的に捉えるここを可能にするソフトを開発した。これを用いて関数のグラフを身近なものとし、数学力を確かにつけることが期待できる。6 これらの研究成果を「数学教育研究数学教育の会編集」にまとめ2002年1月、2003年1月、2004年1月に出版し、各方面に配布した。また、数学的活動の例示集「数学教育研究番外編コンピュータを用いた数学的活動数学教育の会編集」を2002年2月に出版した。
著者
芳賀 達也 市山 進 橋本 祐一
出版者
学習院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

ムスカリン性アセチルコリン受容体M2サブタイプ変異体の結晶化・高次構造の解明を主目的とした。約8Aの回折点を示す結晶が再現的に得られる条件を見いだしたが、原子構造の解明には至らなかった。副次的課題として、ムスカリン受容体の細胞内第3ループがフレキシブルな構造を取ること、ムスカリンM4受容体の細胞内移行には2つ以上の機構が併存すること、ムスカリン受容体のリサイクリングに関わるモチーフの同定、などの結果を得た。
著者
細野 薫
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、預金者による規律付けの理論分析と実証分析からなる。理論分析(第1部)では、預金保険のもとで、預金者による銀行の選別がどのような条件で起こりうるのか、また、預金者による銀行選別がどのように銀行経営者のリスクテークに影響を及ぼすかを解明した。とくに、政府による銀行救済政策が預金者による規律付けを無効にし、銀行のリスクテークを助長してしまうことが強調されている。実証分析は、90年代における日本の全国銀行のデータを用いた研究(第2部)と、世界63カ国の銀行のデータを用いた研究(第3部)からなる。まず、日本の実証結果によれば、預金増加率と預金金利はそれぞれ銀行のリスク指標との負、正の相関が見られ、預金者による選別行動が観察された。特に定期預金の増加率とリスク指標との相関は、ペイオフ解禁(2002年3月)の直前に高まっていた。次に、各国の実証分析をサーベイした上で、世界63カ国の約18,000に及ぶ銀行・年データと各国の銀行規制や法制度などのデータを整備して実証分析を行った(鶴光太郎氏、岩城裕子氏との共同研究)。この結果、銀行規制が甘いほど、また、法による統治の程度が低く、金融資本市場が未発達なほど、預金者のリスク感応度は高く、預金者による規律付けが機能していることがわかった。これは、規制当局が預金者の代表として銀行を監督するという「代表仮説」と整合的であり、政府による規制と市場規律が代替的に機能していることを示唆している。
著者
村松 弘一
出版者
学習院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では近代中国の古都・長安における文物保護の動きを『長安史蹟の研究』を著した足立喜六をめぐる様々な資料を通じて見ることが目的である。(1)足立の撮影した古写真と現代の遺跡の比較、(2)碑林の博物館化を通じて見た近代中国の政治権力と文化政策、(3)外国人による西安の文物の海外流出と現在の所蔵状況(米国・ペンシルバニア大学博物館、仏国・ギメ美術館)など様々な観点からの調査をおこなった。外国人が西安を訪れることによって発生した大秦景教流行中国碑流出未遂事件や唐太宗六駿流出事件などを通じて、一地方都市となっていた西安の文物に光があてられたが、複数の政治勢力が存在していた民国期においては、別々に文物保護を行っていたため、1944年なりようやく文物保護の拠点たる博物館が完成したことが判明した。なお、本研究を通じて、足立喜六氏遺品資料の調査が可能となったため、さらなる研究の深化が期待できる。