著者
坂本 貴志
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ヘルメス的伝統の思想的な核心が、世界、自然、あるいは宇宙全体を唯一神の無限に多様な表出と見る考え方にあることを明らかにした。ルネサンスの末期に起こった宇宙観の革命は、ヘルメス的伝統に新たなる展開の可能性を与えた。その具体的な展開は、もはやヘルメス的伝統の名前で呼ばれることはなかったが、思想的な核心を継承しつつ、ドイツ近代においてもなされた。批判期前のカント、レッシング、ゲーテ、シラー達は、宇宙を含む世界全体とその中に生きる人間存在を総体的に了解しようとして、この伝統を新たに変奏した。
著者
徳田 修 松永 尚文 木戸 尚治
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ファントム実験では、腸管ガスによるアーチファクトの影響が大きいことがわかったため、正常ボランティア3名に対して、腸管内ガス排出促進剤内服前後で、骨盤部MRIのSWI像を撮像したところ、内服後の方が、アーチファクトの少ない良好な画像が得られた。骨盤部MRIでSWIを撮像するときは、腸管ガスによるアーチファクトを減らすために、検査前に腸管内ガス排出促進剤を内服することが望ましいことがわかった。
著者
小粥 良
出版者
山口大学
雑誌
山口大学独仏文学 (ISSN:03876918)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.57-69, 2004-12-24

ハインリッヒ・フォン・クライストの『O侯爵夫人』は1808年2月、クライスト自身が編集していた雑誌「フェーブス」に2回に分けて発表された。完成時期は遅くとも1807年の末と推測されている(Schmidt 197)。この作品を通してクライストは何を訴えようとしたのか。筆者は一学期間(ドイツ語を履修したことのない学生がほとんどだったので、英訳テキストを用いた授業ではあったが)この作品をテキストとして授業を行い、テキストの精読を通じて考察してみたが、むしろ謎は深まるばかりであった。授業においては、ヨッヘン・シュミットの解釈を参考にしながら、啓蒙主義的な女性の自立の物語として読むという方向を取ったのであるが、そうするうちに多くの疑問を抱かざるを得なかった。この物語には、たしかにヨッヘン・シュミットが指摘するように、「偏見に対する批判、特に偏見によって固定された権威に対する批判」(Schmidt 200)が込められていて、政治と宗教の結託した支配制度に対する当てこすりと見える点が多々存在する。しかし、はたしてシュミットの言うように「クライストの叙述の第一の目標は、ひとりの女性の解放の物語を物語ること(注: 点を付した部分は原文では斜字体)」(Schmidt 202)なのであろうか。そして、もしそうであるとしたら、それは啓蒙的理性による解放と言えるであろうか。これが筆者の抱いた最も大きな疑問である。物語の中心は、むしろ、人間理性の限界の方にあるのではないか。開示されるのは「世界の脆い仕組み」(Kleist 49, 32-33)であり、それを克服するものは諦念であり、そこから立ち現れる寛容に基づいた赦しであると筆者には思われる。
著者
木谷 秀勝
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

今回の3年間での調査研究では、高機能広汎性発達障害児者(HFPDD)の自己意識の発達的変化についてHFPDD計41名(女性9名)を対象に調査した。具体的には、WISC-III(WAIS-III)知能検査、○△□物語法、人物画、CAT(TAT)を比較検討した。その結果、自己意識の転帰として、9・10才、14才、17才、20才で変化が生じることが示唆された。また、自己意識の安定のために積極的な環境調整が重要であり、その成果が高校年代で生じることが示唆された。
著者
長谷川 明洋
出版者
山口大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では肺組織内での細胞の動き・ゆらぎと細胞間相互作用の形成による炎症巣の場の決定メカニズムを解明することを目的として、独自に開発したマウス肺内in vivo live imagingシステムを用いて解析を行い、今年度に以下の結果を得た。1.マウス肺内in vivo live imagingシステムを用いた樹状細胞の抗原分子取り込み過程の動的挙動解析:樹状細胞のみが蛍光を発するトランスジェニックマウスに対して、異なる色で蛍光標識した抗原分子を吸入させて肺組織内で抗原を取り込む課程の時間的定量的解析を行ったところ、抗原提示細胞は抗原吸入20分後には抗原分子の取り込みを開始することが明らかになったことから、抗原を取り込む過程をビデオ撮影して抗原取り込み過程の動的挙動解析を行った。2.抗原提示細胞とTh細胞の細胞間相互作用のダイナミクス解析:抗原を取り込んだ樹状細胞と肺に集積してきた抗原特異的Th2細胞の細胞間相互作用についてタイムコースを追った実験を行い、また細胞集団形成における役割を解析した。3.マウス肺内in vivo live imagingシステムによる喘息肺でのリンパ球の動的挙動解析:Th1やTh2細胞について抗原吸入後の肺組織内での動的挙動解析を行って差異を検討した。また同様の実験を劇症型急性肺炎モデルを用いて行い、種々の免疫細胞分画の動的挙動解析を行った。
著者
尾崎 千佳
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

西山宗因の短冊・色紙・懐紙について現存するすべての真蹟資料の書誌調査を実施し、メタデータを採取して西山宗因真蹟資料データベースを構築した。データベースに基づいた成果を『西山宗因全集 第5巻 伝記・研究篇』(2013)「宗因書影」「西山宗因年譜」に発表した。『西山宗因全集 第6巻 解題・索引篇』には「現存西山宗因真蹟一覧」(2014印刷中)が掲載される予定である。あわせて、宗因自筆巻子本・宗因書写本・宗因評点資料について原典調査を実施し、書誌的観察を反映した論考を発表した。
著者
李 海峰 米谷 雅之 藤田 健
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、中国における市場経済発展の過程において社会経済がどのように変動しているか、大衆消費社会がどのように形成されているか等について、経済水準の異なる都市で消費者の生活や意識行動の調査を行い、中国における大衆消費社会の形成過程を解明するための調査研究である。本研究は計画とおりに大都市の北京市、上海市、広州市、重慶市において、各300世帯、地方都市の瀋陽市、石家荘市、武漢市において各200世帯、計1800世帯を無作為で抽出し、アンケート調査を実施した。この定量的調査研究を行うと同時に、定性的調査研究も行っている。北京市、上海市、広州市、重慶市、瀋陽市の5都市で計120世帯に対し、聞き取り調査を実施した。二通りの各調査は回収率が99%で、広範囲にわたって質の高い調査結果が得られた。回収したデータを日本に持ち帰り、分析を進めてきた。1990年代との時系列の比較、都市間比較、国際比較の観点から、解明している。従来,アメリカや日本における大衆消費市場の形成過程では,所得階層間の格差が次第に縮小し,上流階層だけではなく,多くの家庭が消費の自由選択力を持ち,消費財を絶えず買い換えたり,購買量を増やしたりする。しかし,中国は欧米や日本と異なり,都市間、所得階層間の格差が1990年代より拡大している一方、「中流階層意識」が急速に増加し、消費者はより高次の欲求の充足を求めているのは特徴である。都市における消費者ニーズは、必需品への支出から贅沢品への支出へ、モノへの支出からサービスへの支出に重点を移している。総体として「量」的欲求から「質」的欲求へと向上している。「消費生活水準の上昇」「所得増加への欲求」「今後の消費支出傾向」「消費者行動の特性」からみて,今後,中国の経済成長率は「政府」「企業」だけではなく,「消費者(家計)の力」から大きな影響を受けることになる。
著者
佐野 晴夫
出版者
山口大学
雑誌
山口大学独仏文学 (ISSN:03876918)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.117-126, 1993
著者
藤島 政博 道羅 英夫 GORTZ Hans-Dieter FOKIN Sergei
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

繊毛虫Paramecium属とその核内共生細菌Holospora属を野外採集し, 世界分布図に棲息が確認された場所をプロットすることを目的とし, 北欧(フィンランド, スウェーデン, ノルウェー)とその周辺国(エストニア, ロシア), 中国, ブラジル及びオーストラリアで現地協力者の協力を得て採集を行った。その結果, オーストラリアとブラジルで, P. caudatum, P. aurelia species, P. bursaria, 及び, 新種と思われるP. bursaria類似の細胞を採集したが, Holospora維持細胞は採集できなかった
著者
小林 一于
出版者
山口大学
雑誌
山口經濟學雜誌 (ISSN:05131758)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.433-449, 2002-05-31
著者
加藤 大智
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

アフリカで広くリーシュマニア原虫を媒介するサシチョウバエPhlebotomus duboscqiの主要唾液成分をコードするDNAワクチンを作成し、マウスを免疫することにより、効率よく液性免疫応答を誘導する3種の唾液成分を同定することができた。これらのタンパクは自然感染時にリーシュマニア原虫とともに注入され宿主に液性免疫応答を誘導することから、宿主の免疫応答を介して原虫感染を増強する因子であることが示唆された。
著者
高橋 肇 神野 裕信 西村 努
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

西日本生態型品種は、山口の環境条件下において高い光合成生産能力を維持することができ、稈に蓄積した貯蔵養分をもあわせて利用することで登熟中盤からの子実生長速度を高く保つことで粒重を重くして収量性を高めることを明らかにした。さらに、西日本生態型品種は、粒数を多く着生することで植物体の光合成能力を高める優性形質を有しており、このため山口のような環境条件下でも一定の収量を確保することができるものと考えた。
著者
関根 雅彦 渡部 守義 浜口 昌巳
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

撮像機能付き食害検出装置の開発、二枚貝の食害時の摂食音の採取、二枚貝食害時の摂食音を検出するアルゴリズムの開発、食害生物忌避装置の開発を行い、食害検出装置をトリガーとしたナルトビエイ等による二枚貝食害の検出・防除システムを構築した。
著者
村上 龍
出版者
山口大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

フランスの美学者ヴィクトール・バッシュ(一八六三‐一九四四年)を一つの軸として、一九世紀末から二〇世紀前半にかけてのフランス美学を、近代ドイツ哲学との関係という視角から検証した。またそれに付随して、世紀転換期のヨーロッパで盛り上がりをみせた心霊研究などについて併せて調査することにより、当該時期のフランスの思想的環境をいっそう広い視野から検討した。
著者
杉山 孝一郎
出版者
山口大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度には、大質量星(太陽の8倍以上の質量)の形成メカニズムを解明するため、大質量星形成領域W75 North (W75N)に付随する6.7GHzメタノールメーザのVLBIデータ解析に着手した。W75NのVLBI観測は、大学連携VLBI観測網(JVN)を用いて2008年10月、および2010年8月に行われ、その2観測間での固有運動(視線方向に垂直な方向への運動)検出に成功した。W75Nのメタノールメーザは空間的には南北方向に伸びた楕円状の湾曲構造を示しており、その楕円上に直線的な視線速度の勾配が見られた。これは単純な回転円盤モデルに良くフィットし、その中心質量は約8太陽質量と算出された。今回検出出来た固有運動は、反時計回りの回転運動を示しており、視線速度情報を加えた3次元速度情報に対して膨張/降着運動を伴う回転円盤モデルを用いた3次元モデルフィットを行った。その結果、誤差の範囲内で膨張/降着を伴わない単純な回転運動をしていることが明らかになった。これは視線速度のみに対するフィッティング結果に矛盾していない。この結果は、形成中の大質量原始星の周囲に回転円盤が存在し得ることを強く示唆しており、形成現場の回転運動を固有運動として直接的に検出出来た希な観測例となる。さらに、他の大質量星形成領域からJVNを用いて検出された固有運動(Cepheus A:降着+回転運動、Onsala 1:膨張運動)との違いの要因についても議論した。原始星周囲のダストや電離ガスなどから検出される電波連続波放射と空間的に重ね合わせることで、運動の違いは大質量原始星の進化段階の違いで良く説明できることがわかった。これにより、多数のメタノールメーザ天体で同様な固有運動計測を行うことにより、大質量原始星の進化をメーザの運動として捉えられることを示すことが出来た。これらの研究の一部は、査読論文"Sugiyama et al. (2011), PASJ, 63, 53"としてまとめ発表した。
著者
羽田野 袈裟義 安福 規之 兵動 正幸 橋本 晴行 久保田 哲也 福岡 浩 里深 好文 山本 晴彦 高橋 和雄 宮田 雄一郎 鈴木 素之 牛山 素行 田村 圭子 後藤 健介 藤田 正治 牧 紀男 朝位 孝二 善 功企 守田 治 滝本 浩一 三浦 房紀 種浦 圭輔
出版者
山口大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2009

(1)災害概況:2009年7月の豪雨により防府地域と福岡県北半部の全域で土砂災害が多発し合計で27名が亡くなった.(2)土砂災害の実態:防府の土砂災害は,土石流中の巨礫堆積後の土砂流による埋没である.土質調査からマサ土地域での崩壊発生と間隙水圧の関係が示唆された.土石流の流動解析で石原地区の土砂流出量を評価し,砂防施設の有効性を評価した.(3)情報伝達と警戒避難体制の状況:防災・避難情報の収集・伝達や警戒避難体制の整備状況や土砂災害警戒区域の指定に伴う警戒避難体制の整備状況と問題点を明らかにした.
著者
山本 晴彦 大槻 恭一 森永 邦久 宮本 久美
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、高糖系温州のマルチ栽培において、連年安定・高品質果実生産を実現するため、樹体・土壌水分環境と樹体光環境を迅速に計測するシステムを開発し、両環境の制御により水分ストレスを抑制して、好適な光環境下で高品質果実生産を実現できる技術を構築することを目的としている。土壌水分および樹体水分の計測法の開発においては、市販されているセンサを用いて炉乾燥法と併用して安価で迅速に計測できるセンサを選定した。半楕円モデルより算出した樹体体積を乗して得られた樹体総葉面積と実測による樹体総葉面積には非常に高い相関(r=0.897)が得られ、PCA(プラント・キャノピー・アナライザー)のほぼ10分の1の十数万円の魚眼レンズ付きデジタルカメラを用いて、樹体総葉面積を高精度かつ非接触・非破壊で推定可能な技術を開発した。また、最新の樹木蒸散流の計測手法であるグラニエ法を用いて、白色マルチ栽培下における土壌水分およびカンキツ樹体の蒸散流計測を試みた結果、蒸散流速度は日射量に追随して推移する傾向を示し、白色シートマルチの降雨遮断による土壌乾燥が、樹体に乾燥ストレスを与えて蒸散流速度を低下させることを明らかにした。さらに、近赤外分光解析装置を用いて、カンキツ個葉の水分状態を非破壊で推定する手法と推定精度について検討した。土壌の水分状態、日射・気温・湿度などの気象条件により変動する葉内水分ポテンシャルの範囲内において、全測定波長1,061個(1300〜2400nm)を使用した場合の8主成分のPLS回帰式は、重相関係数R=0.817、予想標準偏差SEP=0.300MPa、残差の平均値Bias=0.004MPaの高い予測精度が得られた。このことから、近赤外分光法を用いてカンキツ葉の葉内水分ポテンシャルを非破壊的かつ迅速で推定が可能であることが明らかになった。