著者
原 恵美子
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.61-69, 2010-02
被引用文献数
1

知的障害児への学校での性教育は,継続的な取り組みや教材等の開発も困難な状態が今日まで続いている。その根拠として学習指導要領の中での位置づけがいまだ決まっていないことに加えて,教員や保護者等関係者らの「寝た子を起こすな」という消極的な姿勢があげられることが少なくないが,これを確認するため,おおむね1990年代以降発表の性教育に関する文献を調べ,特別支援学校教員による記述に見られる性教育に対するイメージの整理,関係者へのインタビューを実施した。今回特に女子知的障害児の保護者の意識を中心に調べたが,子の状態によって保護者の要望も個人差が大きいことがわかった。しかし,女子の場合は性的問題行動や性被害が問題になりやすいのは学校教育終了後で,卒業後の性教育の担当者や場所の確保が必要であることが示唆された。
著者
遠西 昭壽 川上 昭吾 大高 泉 吉田 淳 平野 俊英 楠山 研 森本 弘一 磯崎 哲夫 橋本 健夫 劉 卿美 遠西 昭壽
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

アジアの中で発展が急な韓国、中国、台湾、シンガポール4ヶ国、中国については教育特区の北京、上海、香港の理科教育の実態を調査した。アジア各国は例外なく理科教育の充実に努めている。特に、韓国では英才教育院、科学英才教育院において英才教育が進められていること、シンガポールでは2007年に「シンガポール大学附属理数高校」(National University of Singapore High School of Math and Science)、理数教育に特化した高校が開校していることが特記すべきことである。コンピュータ教育の充実も盛んに行われている。特に、シンガポールでは国が力を入れ、コンピュータはインターネット、電子黒板等多面的に利用されている。いじめがあるのは日本で、韓国では問題になりつつある。その他の国ではこの問題はない。3年間の本研究で、韓国、中国(北京、上海、香港)、台湾、シンガポールの研究者との交流を深めることができ、国際シンポジウムを開催することもできて、今後の研究交流の基盤が整備されたことは、大きな成果であった。
著者
子安 潤 久保田 貢
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.9-16, 2000-03-29

1950年代末より積極的に展開された「主権者教育論」は,その初期の頃,「国家の一員」におしとどめようとする教育内容が,「国家の教育権」のもとに強制されようとしていたことに抗し,「国民」を「主権者」と位置付け,次代の主権者を育てようと提起した点で,意義は大きい。しかし,「国民」に限定した点や,子ども自身が権利行使主体としてどのような行動ができ,あるいはその行動能力を育むのか,といった考察が乏しかった点など,問題点も残されていた。
著者
伊藤 貴啓
出版者
愛知教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究は経済の国際化・グローバル化における農業地理学分野からの貢献を念頭に,フードシステムにおける農業生産部門に焦点を当て,その国際的なネットワークの形成と構造について花卉産業を事例に究明しようとした。まず,農業に関連した国際化の推移を考察した。農業の国際化は,「農業生産の国際化」と「食の国際化」の両者が相互に作用して農業に影響している。後者では,食の外部化のなかで,加工・小売といった川下部門が影響力を強めて,農産物や加工原料の輸入を拡大させて国内産地に多大な影響を与えてきた。そこで,そのような状況と今後の日本農業の発展戦略を検討した(愛教大研究報告第50輯)。また,前者では,農業生産に海外からの技術や海外産の原材料が利用されているだけでなく,より積極的に国際的ネットワークを形成しながら経営を発展させ,地域的な農業の活性化・発展をもたらしている事例が存在していることが判明した。このような事例のなかから,本研究では,愛知県と沖縄県のキク栽培地域,およびネットワーク提携先のオランダを対象として研究を進めた。愛知県では渥美半島の農家群がオランダのファン・ザンデン社から種苗を輸入していた。これはリーダーが自ら同社とのネットワークを開拓して,試行錯誤しながら品種の導入をはかり,隣接農家をグループ化して形成したものであった。このネットワーク形成は近接効果によるといえよう。その形成目的は生産コストの低減と経営の大規模化であった。これに対して,沖縄県では花卉専門農協がインドネシアに地元出資者と合弁で種苗生産を行い,組合員に種苗を供給していた。これは農協が台風被害を最小限に食い止め,夏季の暑さで難しい県内での育苗をインドネシアで行ったものであった(『21世紀の地域問題』第V章)。次に,ネットワークの提携先としてのオランダで,日本の花卉生産者の国際的ネットワークの形成の特色を知るため,ネットワーク提携先のある花卉生産地域を対象に土地利用調査や資料等の収集を行った。その結果,花き生産を含む,施設園芸の立地移動が大規模に伝統的温室園芸地域で生じていることが明らかになった(経済地理学会中部支部例会発表,2002年2月)。以上から,(1)国勢的なアグロネットワークは,地域リーダーによる個別の情報収集からの形成と組織的な対応という2類型がみらること,(2)後者は合弁という形態で現地化をはかり,中国等への進出とネットワーク形成の類型となりえること,(3)国際的なアグロネットワークは,地域産業や個別経営の上方的発展をドライビングフォースとして内発的に形成されてきたことが明らかになった。しかしながら,ネットワークの形成と構造に関するフードシステムにおける川下部門からの研究が今後の課題として残されている。
著者
吉岡 恒生
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.183-190, 2011-03-31

本論は、臨床心理士の経験と知識を踏まえて、教育現場の問題に主体的に参画し、教育の場における問題を検討していくという臨床教育学の視点から、「叱ること」について論じたものである。実践報告という形式を取り、ある小学校での保護者向けの子育て相談会と教員向けの研修会において、筆者が講師として「叱ること」について当事者との対話を通して検討していった。保護者との間では、「きょうだいのなかで叱ること」「どこまでを叱るべきなのか」について、教員との間では、「叱ったあとの失敗感を分かち合う」「叱られたら子どもも苦しむ」「子どもの変容についていけない大人たち」「子どもの言い訳を封じてはいないか」「叱ることができない悩み」「発達障害児への特別な叱り方はあるのか」「それぞれの子どもに応じた叱り方」「自分のことを棚に上げていないか」などについて検討がなされた。
著者
甲斐 健人
出版者
愛知教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は「底辺校」の運動部員が獲得する文化を通して学歴社会における学校文化を問い、「課外スポーツの経歴」と社会的再生産に関する基礎的知見を得ることにあった。申請者は一農業高校サッカー部を対象とし参与観察を行いながら事例研究を実施した。サッカー部員には積極的入部希望者と1年生は全員部活動に入らなければならないという校則に従った消極的入部者とがいた。実際に活動している人数は部員登録人数よりもはるかに少ない。アルバイト、友人や彼女との約束などの理由で部活動に参加しないのは「当然」であり、練習に何人の部員が参加するかを予測しにくい。さらに、農業高校のカリキュラム上、日常的に実習、当番などで時間を拘束されるために部活動運営はますます厳しい状況にある。彼らにとって部活動は空いた時間に行う「趣味」ともいえるだろう。このような状況においては予定された練習計画を十分に消化することは難しく、現実的には長期の練習計画は作成されていない。結果的には優秀な「スポーツの経歴」を獲得することは困難である。彼らの多くは中学時代の成績によって選別され農業高校に進学し、学校に対してあまり多くを期待していない。彼らの行動は各自がその時々で行動する必要性を感じるか否かによって決定され、校則などは実質的にはあまり意味をもたない。既に彼らは学校文化、学歴社会を相対化していた。その背後には家庭において学校で教えられる価値観とは違う価値観を身につけているなど、家庭の影響を指摘できる。3年生9名の進路は進学4名(短大2、専門学校2)、就職5名。両親の学歴、職業と彼らの進路を考えたとき「スポーツの経歴」が社会的再生産につながっている可能性が示唆された。
著者
米田 力生
出版者
愛知教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

複素平面上の開単位円板上において、p-乗可積分である正則関数によって作られるバナッハ空間をベルグマン空間という。本研究の目的は、このベルグマン空間を一般化した空間である荷重付きディリクレ空間上のマルティプライヤーにおけるシンボル空間がどの程度縮小するのかを解析し、荷重付きディリクレ空間上で定義された(ある特殊な二つの)積分作用素の性質を詳しく調べることである。一般に、その二つの作用素は、有名なテープリッツ作用素とハンケル作用素と呼ばれる二つの作用素と密接な関係がある。そのため、これら二つの作用素の性質を調べることは、テープリッツ作用素やハンケル作用素の新たな性質を導き出す鍵となる。そこで先ず、それらの作用素がいつ有界、コンパクトとなるのかに関しての研究を行った。これらに関する研究は、一定の成果を上げ、幾つかの研究集会において発表し、専門雑誌に受理され出版された。また更に吟味を重ね、別の幾つかの成果(有名な空間であるBMOA上での積分作用素及びマルティプライヤーに関する)を上げることに成功した。その結果は、専門雑誌に受理され、今年度出版予定である。また今年度は、荷重付きブロッホ空間上で定義される合成作用素及び積分作用素がいつ閉値域を持つのかに関する研究を行った。先ず、積分作用素がいつ閉値域を持つのかに関して研究を行い、これまでにはまったく知られていなかった必要十分条件を導き出すことに成功した。これらに関する成果は、幾つかの研究集会で発表し、更に吟味を重ね、現在、専門雑誌に投稿中である。更に、これらの結果を合成作用素に応用出来ないかという研究に着手し、幾つかの成果が上がってきている。これらの結果は来年度、発表予定であり、更なる吟味の上で、専門雑誌に投稿する予定である。
著者
舩尾 日出志
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学研究報告. 教育科学 (ISSN:0587260X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.17-30, 1991-02-20

In diesem Aufsatz handelt es sich um die Darstellung der Ergebnisse unseres sorgfältigen Durchsehens von P. Oestreichs einigen Schriften in den Jahren 1925-1927. Mit dem Artikel "Ein Fußtritt" (1925) rechnet Oestreich wiederum mit den rechten SPD-Schulpolitikern ab. Der Artikel "Die Begabung der Begabten" (1926) ist seine Auseinandersetzung mit Dr. Wilhelm Hartnacke, Stadtschulrat von Dresden, der mit seinen reaktionären biologischen und rassenkundlichen Begabungstheorien zum Wegbereiter der faschistischen Pädagogik wurde. Darauf haben wir folgende Erkenntnisse durch das Durchsehen von seinen weiteren Schriften in der Jahre 1927 gewonnen : "Prüfel als Schul-'Strafe'?" ; Sind Kolonien Erzieher zu volklicher Persönlichkeit? ; Die Not Front!. (1) Aus humanistischer Haltung wendet sich er gegen die Prügelstrafe. (2) Er hat zusammen mit seinem Kampf gegen Nationalismus, Chauvinismus, Rassismus und Militarismus den fortschrittsfeindlichen und antidemokratischen Charakter der Kolonialpropaganda als einen wesentlichen Bestandteil der ständigen intensivierten imperialistischen Erziehung angegriffen. (3) Besonders eingehend hat er sich mit den Bestrebungen reaktionärer Kräfte auseinandergesetzt, durch Wiederherstellung der konfessionellen Gebundheit aller Volksschulen den EinfluB fortschrittlicher politischer und weltanschaulicher Lehren zurückzudrägen.
著者
戸谷 義明 伊藤 弘晃 後藤 大希
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学研究報告. 自然科学 (ISSN:03653722)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.33-43, 2007-03-01

Sweet candies are remarkably familiar and attractive not only for the primary school children, but also for adults. For visiting instruction of the chemical experiment in a cooking room, procedures of candies making were investigated. Three sweet candies, "Gummy Candies", "Lemonade Candies", and "Sweet Alginate Beads" were chosen and their preparation methods for visiting instruction were developed chemically. A practice by using the developed methods was performed in a cooking room at Mizuho Young People's Center(Seinen-no-i-e) in Nagoya city on August8, 2006. The experimental method in candies making was proved to be educationally useful and effective to master the basic theory and handling in chemical experiments by analyzing the questionnaire data.
著者
村岡 眞澄
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.77-82, 2003-03-29

いわゆる「一年生プロブレム」などをきっかけにして、幼・小連携への実践的取り組みに対する関心が高まっている。より実りある連携を推進するには、従来のようなイベント的な交流に終ることなく、教育内容や指導方法の見直しといったところにも踏み込んでいく必要があると思われる。このような問題意識から、小学校低学年の子どもの発達特性に相応しい教育の内容や指導方法を「体育」を切り口として探ろうとした。幼少年期の子どもにとって、身体活動の持つ意味は大きいからである。運動種目を課題として与えず、「子どもがやりたい」と思い、「やってみよう」と自分で取り組み、多種多様な動きを工夫してつくり出す子ども中心の生き生きとした体育学習を総合的につくろうとしている岩井の「忍者体育」のような実践が追究されるならば、そこに自ずと幼・小連携の道が開かれるであろう。岩井の実践はまた幼児教育の見直しを要請する。幼・小の相互理解をふまえながら、子どもの側からの教育を追究することが小連携の基本となると考える。
著者
牛田 憲行
出版者
愛知教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

世界で唯一最多のニュ-トリノ・エマルジョン(νEm)反応(FNAL E531)を解析しその荷電カレント(C.D)反応における終状態二次粒子(SHOWER Ns,GREY Ng,BLACK Nb)の多重度、角分布、エネルギ-分布、各粒子相互の相関を調べた。W依存性とKNO scalingの様子から〈Ns〉はPROJECTILE粒子の種類によらず、むしろ標的に依ることがわかった。Nbの角分布、エネルギ-分布からこれが核からの蒸発粒子であることが明確となった。Ngについては、陽子・EMULSION(pEm)反応と比べ多重度の低い所ではνEmの方が多く、逆に高い所では逆になっていて、νEmとpEmとでPROJECTILEの核内相互作用の違いによるNgの頻度の差が浮き彫りにされた。〈Ns〉はW^2に依存して漸次増加するのに対して〈Ng〉も〈Nb〉もW^2の値によらずほぼ一定となった。NbとNgとの間には強い相関があり、これらはUNIVERSALな勾配をもつが、Nsと無関係である。Ngの角分布はpEmに比べ前方への傾きは緩やかで、Ngの前後方の放出比はpEmよりも小さく、pEmの場合よりも多く後方に放出される。νEmにおける核効果を解く鍵がNgであり特に後方に出るNgが重要で(核子標的の場合後方放出は禁止される)、さらに300MeV/c以上の後方放出Ng(CUMULATIVE PROTON;CP)生成について約700例のC.C反応を完全解析してCUMULATIVE EFFECTを調べた。CPの運動量自乗分布の勾配は他のνNeやハドロン実験での値と良い一致をし〈A〉=80の場合でもNUCLEARE SCALINGが成立していることがわかった。CPの生成率はA^αに依存し他の泡箱実験と本研究のデ-タから20≦A≦80にたいしてα=0.68となりA^<2/3>に依存することがわかった。また10≦Eν≦200GeVにわたってCPの生成率にエネルギ-依存性がないことがわかった。後方放出Ngと前方放出Ngの間には相関があり、核内のSUCCESIVEなREINTERACTIONの過程から前方陽子が増えると後方陽子も増えるというCP生成模型が有効であると考えられる。
著者
江口 誠
出版者
愛知教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、ジャーナリズムと文学という観点からピータールー虐殺事件の受容に焦点をあて、19世紀初頭イギリスにおける様々な言説の把握を試みたものである。主な研究成果は、以下の3点にまとめられる:(1)単著Progress and Stasisの出版、(2)学術論文「サミュエル・バムフォードの詩におけるピータールー虐殺事件」の発表、(3)学術論文「ピータールー虐殺事件とWilliam Hone」の発表。
著者
藤江 充
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

3年間の研究は,学校と美術館との連携に関わる分野のうち,(1)美術館での教育活動の実態調査とその課題の指摘,(2)学校教員と美術館学芸員との連携の実態調査とその課題の指摘,(4)学校と美術館での美術鑑賞教育の実践上の課題,(3)学校と美術館との連携を展望するための視座の提案,を中心に行った。以下にその成果を述べる。(1)実態調査では,いくつかの県立美術館や都立美術館を訪れ,担当者に面接し,資料などの提供を受けた。そうした現場で直面している共通の課題について整理した。また。児童生徒を対象とした美術館のワークショップやギャラリー・トークなどの活動をビデオに撮影して各館の保存資料として提供した。また,北米の事例を美術館へも紹介した。(2)特に,「アミューズ・ヴィジョン研究会」を中心とする連携促進の活動に参画し,シンポジウムでのまとめをするなど連携の方向を提案した。また,教員や美術館ボランティアに対して,連携のあり方に関する意識調査を行ない,現状認識を知るデータとした。学校での美術館との連携授業に参加し,ビデオに撮影し,研究・実践資料として提供した。(3)公開講座やいくつかの学校での研修会の講師として,美術鑑賞教育の考え方や事例を紹介し,「アート・ゲーム」など最新の鑑賞指導の普及に努めた.学校や美術館での美術鑑賞活動に対する提案をすると同時に,両者を結ぶ教材を研究し,試作し,授業資料を提供した。(4)連携の方法論だけに終わらずに,連携の基本的な意義を確認するために,学術研究の対象としての連携問題を展望するためのマトリックスを示し,今後の検討のための一つの視座を提示した。今後は,収集した資料や撮影したビデオ映像などを分類・整理して,データ・ベースとして活用できるようにしたい。
著者
富田 理沙 谷尾 千里 村松常司 〔他〕 佐藤 和子
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学研究報告. 芸術・保健体育・家政・技術科学・創作編 (ISSN:13461818)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.15-23, 2003-03-01

本研究では小学校5・6年生369名(男子181名,女子188名)を対象に日常ストレス・対処行動とセルフエスティームとを追究し,以下に示す結果を得た。(1)小学生の日常ストレスは「試験や試合などで失敗した」が最も多く,以下「自分が失敗するのではないかと恐れた」,「友達とうまくいかなかった」と続いた。「試験や試合などで失敗した」,「自分が重い病気になった」は男子に多く,「自分の性格のことで悩んだ」,「自分の成績のことで悩んだ」,「自分の顔やスタイルのことで悩んだ」は女子に多く,日常ストレスには性差が認められた。(2)日常ストレスの影響として最も大きかったのは「自分の大切なものを失ってしまった]であり,以下「誰かにひどくいじめられた」,「身近な人が病気になった,または亡くなった」と続いた。(3)ストレス対処行動は「信頼できる人に相談する」が最も多く,以下「勉強や趣味に集中する」,「困難に立ち向かい,努力して乗り越える」と続いた。また,「友達の家へ遊びに行く」,「気分転換のため軽い運動をする」は男子に多く,「信頼できる人に相談する」,「人に話し,気持ちを分かってもらう」,「買い物などをして気を晴らす」,「泣きわめいたり,取り乱したりする」は女子に多く,対処行動に性差が認められた。(4)男女ともセルフエスティーム得点の高い子どもは積極的対処行動が多く,セルフェスティーム得点の低い子どもは消極的対処行動が多かった。(5)男女ともセルフエスティーム得点の高い子どもはストレスの程度(ストレス個数ならびにストレス得点)が低かった。以上の結果が示すように,小学生において日常ストレス・対処行動とセルフエスティームとの関連を確認することができた。今後,小学生のストレス軽減にはセルフエスティームを高める視点からの教育指導を取り入れることが重要であることが示唆された。