著者
名取 貴光 中川 裕子 桜林 ひかる 福井 智 野田 聖子 窪島 愛華 戸澤 一宏 仲尾 玲子
出版者
日本食品保蔵科学会
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.91-102, 2015 (Released:2015-11-24)

野山に自生する山菜の多くは古くより食用として好まれてきた。また,これら山菜は様々な効能をもつことから民間療法として薬用にも用いられている。山菜由来成分には,抗腫瘍効果や抗酸化作用,抗菌活性,抗肥満作用などが報告されており,多種多様な生理活性物質が含まれている。本研究では,山梨県内で採取される山菜の機能性成分と生理活性について検討を行った。試料は,山梨県総合農業技術センター,八ヶ岳薬用植物園で採取した山菜を使用した。14種類の山菜の総ポリフェノール量およびDPPHラジカル消去活性を測定したところ,ミツバアケビ,ワレモコウ,メグスリノキにポリフェノールが多く含まれており,抗酸化活性が高いことが確認され,ポリフェノール含量と抗酸化活性に高い相関がみとめられた。次に,これらサンプルのC6 glioma株に対する抗腫瘍効果について検討を行ったところ,アケビ,ワラビ,ツリガネニンジン,モミジガサ,ギヨウジャニンニク,オオバギボウシ,ヒメツルニチニチソウ,メグスリノキに濃度依存的な抗腫瘍効果が認められた。特に,オオバギボウシとヒメツルニチニチソウにおいては低濃度で顕著な抗腫瘍効果が確認された。また,カルセイン-AMおよびプロピディウムイオダイドを用いた生死細胞の判定を行ったところ,アケビおよびワラビ,メグスリノキにおいて顕著な細胞死が誘導されており,アポトーシスの指標であるCaspase-3の活性の上昇や細胞膜成分の転移が確認されたことから,これら山菜による抗腫瘍効果はアポトーシスであると考えられる。一方,ギョウジャニンニク,オオバギボウシ,ヒメツルニチニチソウにはG2/M期における細胞周期に異常がみとめられた。今回供試した山菜による抗腫瘍効果はアポトーシスおよび細胞周期の異常であると考えられる。
著者
鶴永 陽子 高林 由美 鈴木 芳孝 西 万二郎 松本 真悟
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.309-314, 2009-11-30
参考文献数
22

柿葉茶の浸出方法および浸出液の保存方法が、アスコルビン酸、アストラガリンおよび総ポリフェノール含量に及ぼす影響を検討した。その結果、成分により効率よく浸出するのに適する入れ方は異なった。アスコルビン酸は、5℃の冷水の場合は10〜60分間、60〜100℃の熱水の場合は、3〜10分間程度置く方法が適していた。一方、アストラガリンおよび総ポリフェノールは、半量になるまで煮詰める方法や加圧浸出などの方法を用いることによって浸出効率は高まった。また、浸出液中のアスコルビン酸は5℃程度の低温下で保存する方法が最も含量が保持された。しかし、アストラガリンおよび可溶性ポリフェノールは高温条件下の保存でも安定性に優れ、90℃で24時間保存した場合でも、アストラガリン含量の減少は約10%の減少にとどまり、総ポリフェノール含量はほとんど減少しなかった。
著者
秋永 孝義 山城 嵩陛 田中 宗浩
出版者
日本食品保蔵科学会
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.199-206, 2013 (Released:2014-03-06)

近赤外およびFTIR分光分析法を用いて,沖縄県産泡盛の基本成分の非破壊品質評価モデルの開発を検討した。また,中赤外分光法を用いて泡盛の産地分級の可能性を調べた。泡盛の物性と化学成分測定の結果から,密度と粘度の供試材料間の差は確認されなかった。フーゼル油量,アルデヒド量,メチルアルコール量は微量しか検出されなかった。しかし,酸度は八重山地区の請福,宮之鶴,泡波が他の地区の試料より高かった。請福,宮之鶴,泡波を除いた試料では,酸度とpHの間にr=-0.82の相関が得られた。酸度とアルデヒド量の間にはr=0.52の相関が得られた。フーゼル油量,メチルアルコール量は北部から南部,離島の順に高い値を検出した。近赤外吸光度スペクトルを用いた各成分のPLS回帰分析の結果,すべての項目においてR=0.95以上の測定精度となった。FTIRの結果,フーゼル油量,アルデヒド量,メチルアルコール量,酸度,pHは,それぞれR=0.91,0.74,0.78,0.98,0.80の精度で予測可能であった。また,近赤外吸光度スペクトルを用いたクラスター分析により,泡盛の生産地域が分類可能であることが確認された。
著者
谷口(山田) 亜樹子 鈴木 昌治 小泉 武夫
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.127-134, 2002-05-31
参考文献数
21

稲麹粒から分離した<I>A. oryzae</I> groupの多酸性麹菌N-1株と清酒用麹菌<I>A. oryzae</I> RIB-176株からNTG処理により変異株を取得し, プロトプラスト融合によりアミラーゼ生産性が強く, クエン酸生産能の高い有用な融合株Fを造成することができた。F株と<I>A. oryzae</I> RIB-176株を用いて製麹した麹を用いて小仕込試験を行った結果, <I>A. oryzae</I> RIB-176株に比べF株で製造したもろみの方がクエン酸量は約2倍高く, 製品の清酒の酸度も2倍高い値を示した。
著者
森 哲也 金内 誠 進藤 斉 角田 潔和 吉澤 淑 小泉 武夫
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.9-15, 2004-01-31
参考文献数
26
被引用文献数
1

金華火腿から分離された微生物309株より, 火腿脂質の不飽和化に関与する菌株のスクリーニングを行い, 糸状菌6株を選抜した。この中でA-59は脂質中の不飽和脂肪酸の割合が82.0%と選抜菌株の中で最も高く, 特にオレ・イン酸, リノレン酸含有率が高かった。A-59は各種形態試験の結果, <I>Aspergillas oryzae</I>と同定された。本菌株は, 培養温度25℃, 初発pH6.0, 0.5%コール酸ナトリウム, パルミチン酸とステアリン酸を炭素源として, その比率が60 : 40で最も高い不飽和脂肪酸量を示した。また, 本株はパルミチン酸, ステアリン酸を菌体内に取り込み, オレイン酸やリノール酸, リノレン酸を生産していると推察した。以上より, 火腿脂質の不飽和化は<I>A. oryzae</I> A-59を中心とする6株が作用していることが明らかとなった。
著者
杉本 昌明
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
食品と低温 (ISSN:02851385)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.137-142, 1986-11-29 (Released:2011-05-20)
参考文献数
28
被引用文献数
2
著者
本間 裕人 徳田 宏晴 中西 載慶
出版者
日本食品保蔵科学会
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.195-199, 2009 (Released:2011-03-05)

チーズ製造における牛乳の代替原料として、植物性のタンパク質と脂質を豊富に含むナッツ類に注目し、各種ナッツ類を絞って得た乳液に対してプロテアーゼを添加し凝乳試験を行い、チーズ様食品の製造を試みた。13種類のナッツを用いて凝乳試験を行った結果、ブロメライン、パパイン、サーモリシン、サブチリシン、E. faecalis TUA 2495 L株由来プロテアーゼ、あるいはE. faecalis IAM 10065株由来プロテアーゼを添加した場合において、多くのナッツ類で乳液がカードとホエーに分離し、カード形成能が認められた。特に麻の実、ココナツ、アーモンド、松の実あるいはマカダミアナッツを原料とした乳液で良好な凝固が認められた。そこで麻の実、ココナツ、アーモンド、松の実、カシューナッツ、マカダミアナッツの6種のナッツ類を用いて実際にチーズ様食品の製造を試みたところ、試験したすべてのナッツにおいてチーズ様食品を製造することが可能であった。製造したチーズはいずれも牛乳チーズよりも軟質で、収量については多くのもので牛乳チーズと同程度であった。香りについては原料ナッツ由来の香りと乳酸発酵によるヨーグルト様の香りを有している物が多かった。一般成分については、多くのナッツチーズで牛乳チーズよりも低タンパク高脂質であった。製造したナッツチーズの中では、ココナツチーズが硬度や香りの点で優れていた。また、原料あたりのチーズ収量は麻の実チーズが最も多く、一般成分やpHなども牛乳チーズに近かった。
著者
鈴木 修武
出版者
日本食品保蔵科学会
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.115-121, 2004 (Released:2011-03-05)

本研究は炒めもの、焼きもの等の用途に適する食用油脂を製造するために、ハネ現象の解明を目的とした。加熱温度によるハネは、鉄板の表面温度が120℃以下ではほとんど認められず、140℃から少量跳ねはじめ、160℃で本格的に跳ね、180℃で著しく跳ね、200℃で爆発的に跳ねた。投入油量と投入水量によるハネは、油量の多少にかかわらず跳ね、水は少ない状態ではあまり跳ねなかったが一定量以上になると跳ねた。市販の食用油脂類については、ハネない油として売られている油はハネ防止の効果があり、また炒め油でもハネ抑制効果があった。ごま油やラードのような油脂は激しく跳ねたが、ファットスプレッドやバターはハネ防止効果があった。調味料によるハネは、穀物酢や料理酒のような粘性のないものは断続的に激しく跳ねた。醤油、ソース、みりんのような粘性のある固形物の多い調味料は、泡が出て持続的に跳ねた。食材の違いによるハネでは、牛肉は豚肉よりも跳ね、ジャガイモ、人参、ナスの野菜類については付着水や材料の吸水性、吸油性により異なった。食材におけるハネない油、炒め油、菜種油のハネ量の違いは、ハネねない油<炒め油<菜種油の順で跳ねた。異なる食材でも傾向は同じであった。ホットブロックバスにおいては温度が高いとよく跳ねた。また鉄板焼き器のように初期の温度が高くても食材を入れることによって急激に温度低下するとハネは少なかった。以上のことから、食用油脂のハネ現象は鉄板の温度が高く、油脂が存在し、一定以上の水が存在するときに跳ねた。ハネない油やハネ防止処理をした油脂は跳ねなかった。調味料、肉類や野菜類の違いによりハネ方が異なり、ハネない油等でハネを抑制できた。
著者
鶴永 陽子
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.85-94, 2009-03-31
参考文献数
50

近年、健康維持にかかわる三次機能(生理的機能性)が注目を集めている。特に、生活習慣病の発症や老化の進行に活性酸素が大きく関与し、その予防策として食品中のビタミン、ポリフェノール類をはじめとする抗酸化物質の摂取が有効であるとする知見が多く報告されている。その中、日常的に飲用できるお茶の機能性が注目を集め、多くの研究がなされている。例えば、緑茶の抗酸化性、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用、抗ウイルス作用などの機能性が明らかになり、健康食品素材として高い評価を得ている。また、ツバキ科のチャ葉以外の材料からつくられた健康茶も消費者の「安心志向」「健康志向」を背景に関心が高まっている。これは、健康茶素材の長い食履歴から得られる安心感と、近年の分析技術向上による生理活性機能などの科学的データの裏づけによるところが大きい。例えば、ルイボスティーの便秘解消作用、甜茶の抗アレルギー作用、タラ葉茶の血糖値上昇抑制作用など多数の報告がなされている。特に、グアバ葉ポリフェノールの血糖値上昇抑制作用については、多くの報告がなされ、それを原料としたお茶は特定保健用食品(「血糖値が気になり始めた方の食品」)として販売されている。また、全国各地で、地域資源を地域振興や活性化に活用する動きが活発化しており、その手段として健康茶への利用が増大している。筆者は、島根県内では未利用資源であった「カキの葉」と「ヤマモモの葉」が有する高い抗酸化性に着目して、機能性成分含量の高い健康茶を製造するための技術を開発した。本総説は、筆者が実施した一連の研究成果をとりまとめたものである。
著者
阿知波 信夫 片寄 政彦 阿部 一博
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.341-346, 2003-12-30
参考文献数
28
被引用文献数
13 9

強酸性電解水を利用したカットキャベツの実用的な殺菌処理方法を確立した。カットキャベツの処理量に対する処理水量の比率および処理時間を, 従来の殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウム水処理と比較して同等の殺菌効果となる条件を明らかにした。続いて強酸性電解水と次亜塩素酸ナトリウム水で処理後のカットキャベツ中のトリハロメタン量を経時的に測定したところ, 次亜塩素酸ナトリウム水処理では保存72時間後までほぼ一定して0.05mg/kgのクロロホルムが検出し続けたのに対し, 強酸性電解水処理では直後でも不検出であった。官能試験 (パネラー30名) では次亜塩素酸ナトリウム水処理直後臭いや食味に問題ありと判定した人が半数以上いたが, 強酸性電解水処理では直後でも異常ありと判定した人は1名以下であった。また, 次亜塩素酸ナトリウム水処理では放置60分後には臭いや食味で異常ありと判定した人は2名以下となった。つまり, トリハロメタンは残存していたにもかかわらず, 臭いや食味では異常を感じないということが判明した。強酸性電解水処理ではトリハロメタンの生成もなく, 消費者へ提供する直前に食品を処理しても臭いや食味にほとんど異常を与えない点からも, 有効な処理方法であるといえる。
著者
田尻 尚士
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
食品と低温 (ISSN:02851385)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.81-86, 1986
被引用文献数
1

オクラさく果の鮮度保持性にっき, 食品物性および成分消長の点から開花結実後6日のグリーンスター変種を用い検討した。さく果は緑色ネットと熱収縮ポリビニリデンコロライドフィルムでシュリンクパック包装を行い, 貯蔵温度は低温区として1, 5℃, 常温区は20℃, 中温区は10, 15℃, および凍結区として-20℃区を設定した。<BR>1. 食品物性<BR>針入度, 弾力度および粘性度とも低温貯蔵区および常温区において貯蔵5~41日で物性度は劣化し, さく果は "はり" を消失し, 萎稠軟化し腐敗へと進行し, 貯蔵限界日数は5~7日であった。中温区および凍結区ではこれらの現象は顕著に抑制され, 25日前後の貯蔵が可能となった。<BR>2. 色調<BR>食品物性の劣化と類似した傾向を呈し, 褐色化するが, 測定値と肉眼観測値では見かけ上より測定値が3日前後退色現象が早い。低温区では貯蔵限界日数は10日前後であり, 中温区では20日前後, 凍結区では30日間の貯蔵が可能であった。<BR>3. 総アスコルビン酸含有量の消失度<BR>食品物性の劣化より急速かつ高く, 低温区および常温区でこの傾向がとくに顕著であり, 貯蔵限界日数は5日前後であった。中温区, 凍結区では低下様相は緩慢で低下率はかなり抑制され貯蔵限界日数は25~30日となった。<BR>4. 総ペクチン含有量の消失度<BR>粘性度と極めて類似した傾向で低下した。食品物性度および総アスコルビン酸含有量の低下速度より低温区においては3~5日遅延された。中温区, 凍結区では貯蔵初期にやや低下率は高いが, 貯蔵10日以後はほとんど低下せず極めて安定した状態を呈し, 貯蔵限界日数は低温区で7~10日前後, 中温区, 凍結区で25~30日間の貯蔵が可能である。<BR>オクラさく果の鮮度保持性は貯蔵温度に大きく左右され, 適性貯蔵温度は10~15℃であり, 生食以外ペースト状などでの調理, 加工の大量利用では-20℃が良好である。低温貯蔵1~5℃および20℃では貯蔵初期より大きく品質は劣化し, 貯蔵限界日数は5~7日であった。<BR>本研究の概要は昭和60年9月の本会関西講演会において発表した。
著者
太田 輝夫
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
コールドチェーン研究 (ISSN:02851377)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.110-114, 1980-12-10 (Released:2011-05-20)
参考文献数
3
著者
三沢 宏 石川 英司 織田 邦明
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.215-222, 2007-07-31
参考文献数
10

最近、健康志向食品の市場は急速な成長を続けている。多くの人々が自身の健康に不安をもち、疾病の予防や健康増進に大きな関心を寄せていることを鑑みれば、健康・長寿に関連した機能性食品に加え栄養補助食品等のいわゆる健康食品への需要はさらに拡大すると考えられる。クロレラは、健康食品の草分け的存在で約40年前からローヤルゼリー、朝鮮人参と並ぶ健康食品の御三家として定着している。クロレラには、ビタミン・ミネラル・必須アミノ酸などが豊富であるため、栄養補助食品として利用されることが多いが、一方で、豊富に含まれるファイトケミカルによる生活の質(QOL)の改善作用や生活習慣病の予防といった作用も期待されている。クロレラを安心して供給できる生産体制を構築するためには、光合成に依存しない培養技術の開発が必要であった。そこで私たちは、無菌かつ密閉系のタンクを用いた従属栄養的培養法によるクロレラの生産性向上と品質改善法を開発し、当該培養法によって製造されたクロレラの機能評価を行うため、臨床試験を実施した。以下にその経緯を概説する。
著者
辻井 良政 清瀬 紀子 立田 奈緒美 矢口 行雄 内野 昌孝 高野 克己
出版者
日本食品保蔵科学会
雑誌
日本食品保蔵科学会誌 = Food preservation science (ISSN:13441213)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.127-134, 2009-05-30
参考文献数
29

本研究で、炊飯において米胚乳細胞壁構成成分のペクチン、ヘミセルロースおよびセルロースの分解と米胚乳酵素の作用について検討した。(1)米飯から抽出したペクチン画分は、精米の同画分に比べ繊維状組織が崩壊し、ヘミセルロースAおよびB画分は密な板状構造が大きく崩壊していた。しかし、セルロースにおいては、明確な差はみられなかった。(2)炊飯外液には、D-ガラクチュロン酸、D-キシロース、D-マンノースおよびD-アラビノース等が検出され、また、これらの糖から構成されたヘテロオリゴ糖が可溶化していることから、米胚乳細胞壁が炊飯中に分解していると示唆された。(3)米飯の各細胞壁多糖画分は、精米の同画分に比べて低分子量領域に変化していることを確認し、特にペクチン画分の変化は顕著であった。(4)米飯の各細胞壁多等画分の構成糖の変化から、ペクチン画分ではD-ガラクチュロン酸が大きく低下し、ヘミセルロースAおよびB画分ではD-キシロースおよびL-アラビノースが増加したことから、各画分で分解を受けている部位が異なると示唆された。(5)米胚乳より調製した酵素液中に、ポリガラクチュロナーゼ、αおよびβ-ガラクトシダーゼ、β-キシラナーゼ、β-グルカナーゼおよびα-マンノシダーゼ活性を確認し、これらの酵素は炊飯中の温度上昇下で作用していると示唆された。以上の結果から、炊飯において米胚乳中に存在する各種細胞壁分解酵素の作用によって、米胚乳細胞壁多糖画分が低分子量化し、米飯の食味形成に対する影響力が示唆された。