- 著者
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田中 妙子
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, pp.47-67, 1997-03-31
繰り返し表現(以下, 本稿の規定によるものを<くりかえし>と呼ぶ.)は, 会話の相手の発話を繰り返すことで, その発話に対する何らかの心的反応を示す会話特有の表現である.本稿は, <くりかえし>を・<くりかえし>の機能(会話の相手にどのような性質の働きかけを行っているか.)・会話の展開における<くりかえし>の効果(会話の流れの中で, 先行発話をどのように受け継ぎ, 次の発話者へどのように引き継いでいくか.)という二つの点から分析するという方法を採り, 会話において<くりかえし>表現が果たす役割を明らかにすることを目的とする.<くりかえし>の機能については, 相手の発話を受信・認識したという合図, 相手の発話のどの部分に注意を向けているかの表示という二つの基本的機能のほかに, 相手の発話への感想を表現する機能, 自分の思考・感情が相手と同じであることを示す機能, 相手が質問や共感要求をしてきた事柄について肯定する機能, からかい・ことば遊びの機能が認められる.<くりかえし>の効果については, 会話の展開上, 相手の発話方向を決める, 自分の発話を進めるという二点が指摘できる.後者の場合, <くりかえし>は相手から発話権を得る, 相手の発話を利用して自分の発話を補う, 相手の発話に自分の発話を合わせる, ということのために行われる.<くりかえし>は, それによって相手に事柄的な情報を提供することはできないが, 受け取った情報に対する様々な心的反応を相手に伝達するという機能を持つ.また, その機能を利用して, 会話を先へ進めようとする意識的な働きかけも見られる.