著者
眞柄 秀子 井戸 正伸 新川 敏光 鈴木 基史
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

構造改革と政治変化に関する日伊比較研究の国際研究集会をミラノ大学と早稲田大学でそれぞれ2回ずつ開催し、最終的な研究成果としてStructural Reforms in Italy and Japan Revisited-Riforme Strutturali in Italia e Giappone : Una Riflessione Critica, The Japan Society for the Promotion of Science Grant-in-Aid for Scientific Research (B) #18402014, Hideko Magara, Waseda University, 18 March 2010, 196p.にまとめた。
著者
ソジエ内田 恵美
出版者
早稲田大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

モーリシャス共和国は植民と移民の歴史から成り立ち、インド・中国・アフリカ・ヨーロッパ・ミックス系と多民族・多言語社会である。モーリシャス共和国は1968年の独立以来、砂糖黍の単一産業による植民型経済から、繊維・観光・ITなどからなる複合型経済へと変革を成功させ、アフリカ圏随一の高い経済発展を経ている。グローバル経済への参加は、英語・仏語といった旧宗主国言語を国際共通語として促進する傾向が強いが、各政党はその動きとは逆に、支持基盤確保を狙い、モーリシャス独自の言語であるクレオール、祖先の言語にあたるインド系や中国系言語を優遇する政策を掲げてきた。本研究では、社会的特徴が異なる中学校六校の生徒562名と教員45名にアンケート・インタヴューを行い、その言語状況を調査した。参加者は全員多言語話者であり、典型的な例として、家族や友達とはクレオール、学校の教員とは英語・仏語、宗教儀式はヒンディー、アラビア語、仏語、Eメールでは英語・クレオールと、使い分けることが多い。学校で使用される教授言語は、英語のみが一番多く、英語・仏語・クレオールの混合型が続いた。都市校よりも田舎校の教員はクレオールを含む多言語を使用し、生徒の満足度も高い。クレオールに対する態度にも都市・田舎での差異がみられ、田舎校ではクレオールにより好意的な意見が多い。田舎校では、クレオールは指導言語として使用されるべきと考え、またクレオールの綴りが標準化されるべきと考える生徒の割合が高い。言語に対するイメージとしては、英語・仏語は概ね、社会・経済的成功をもたらす権威ある国際語として認識されており、歴史上植民宗主国から強制された言語との見方はほとんどない。祖先の言語は年配者や祖先の文化への尊敬の念を示すものとして捉えられるが、実用的でないとの意見も顕著である。クレオールはモーリシャス人としてのアイデンティティを形成すると考えられるが、学習意義に対する意見は多岐に渡る。モーリシャスの若い世代は植民地としての過去に囚われることなく、その独自の多文化性を誇り、国際社会における経済的成功を重視する傾向が強い。母語(日本語)における教育が基盤となっている日本は、植民地としての過去を持つモーリシャス共和国とは社会・歴史・経済的状況が大きく異なる。しかし、グローバル化が進みにつれ、英語などの目標言語を指導言語とするイマージョン教育は、その重要性を増してきた。そのため、モーリシャスの教育制度に見られるようなアプローチで、初期から外国語を使った教育を導入する必要があるだろう。しかし、本研究で田舎校の教員がクレオールの使用で示唆したように、生徒に外国語で学問の本質を学ばせるため、そしてそれを確かめるためには、母語による教育は不可欠である。
著者
松永 康
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

前半は,金属的性質を持つ単層アームチェア型ナノチューブを選択成長させるための最適なシース電場をヒュッケル・ポアソン法を用いて定量的に評価した.最適シース電場はチューブ長の3乗に逆比例し,ある長さより長いチューブに対しては外部シース電場制御による選択成長が可能であるとの結論を得た.次に自己磁場と有限長という効果を取り入れるためスラブモデルを設定し,電子の束縛状態の固有関数を近似的に解いた.有限の厚みのシートと平行方向に磁場を配置し,シートの中心面に原子核による正電荷を分布させる.遮蔽効果を考慮し,電場・磁場の両効果を取り込んだ一電子の波動関数は超幾何関数で表すことができ,これらの関数の各領域における接続条件とエネルギー固有値の条件によって決まる新たな束縛状態(ランダウモード)を発見した.具体的にはシートの中心面を挟んで進行方向が異なるモードが存在する波数条件を見いだすことに成功した.そして最近注目されている電気的破壊の実験結果において報告者が指摘している新たなランダウモードが影響を与えているのではないかという一つの証拠を見つけた.これは一定電流値以上を流した大半径多層チューブでは殻が一枚ずつ消失して細ってゆき(thinning),また単層チューブのロープでも同様の破壊(breakdown)が,特に空気中で起こるというものである.そこで報告者が得たモードとこれらの現象について考察し,成果を学術雑誌にまとめた.結論として,カーボンナノチューブという特異な幾何学条件と電磁気条件によって,新たな量子力学的束縛状態が発見された.この新たなランダウモードは,印加電流による自己磁場が強くないと存在しない,マクロな電流には寄与しない,チューブ外側に状態密度が存在するためbreakdownやthinningに強く関与する,ことなどがわかった.このモードが存在するとチューブ周りのガスやチューブ壁上の付着物を活性化させ,その結果炭素壁の結合が破壊されると考えられる.
著者
山名 早人
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

2010年度は、2009年度に開発したシステム自動最適化アルゴリズムの実機評価を目指した。本アルゴリズムはProducer-Consumer型のモジュール群で構築されたアプリケーションにおいて、メニーコアCPUを最大限に利用できるよう各モジュールに割り当てる計算機やスレッド数を自動で決定し、アプリケーションの性能を最適化することが目標である。研究には我々が開発している分散処理フレームワークであるQueueLinkerを用いた。2010年度は、まず、自動最適化アルゴリズムの評価用アプリケーションとしてWebクローラを開発し、QueueLinkerのプロトタイプにより動作を確認した。本クローラを構成するモジュールは全てProducer-Consumer型であり、QueueLinkerにより分散実行できる。実験に先立ち、本クローラがWebサーバにかける負荷を軽減するために、同一Webサーバに対するアクセス時間間隔の最小値を厳密に保証するクローリングスケジューラを開発した。本スケジューラは、時間計算量が0(1)であり、空間計算量の上限がクローリング対象のURL数に依存しない。本アルゴリズムはDEIM 2011において発表した。そして、開発したWebクローラをアプリケーションに用い、QueueLinkerの自動プロファイリング機能を開発した。本プロファイリング機能は、モジュールが使用するCPU時間や、ネットワーク通信量をプロファイリングできる。その後、昨年度開発したシステム自動最適化アルゴリズムを実際のプロファイリングデータを利用して動作するよう設計を修正した。本アルゴリズムは、各モジュールが使用するリソース量に基づいて、アプリケーションの性能が最大になるように、モジュールに割り当てる計算機やスレッド数を自動で決定するものである。
著者
桜井 光昭
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.80-97, 1992-03-25

昭和27年(1952)の文部省『これからの敬語』(国語審議会建議)の「敬称」の項に, (二)「さま(様)」は, あらたまった場合の形, また慣用語に見られるが, 主として手紙のあて名に使う.将来は, 公用文の「殿」も「様」に統一されることが望ましい.とある.この提言から, すでに三十数年が経過している.その間, 都道府県庁・市区役所から, 所管の地域住民あての公文書では, だいぶ様が使用されるようになり, 特に平成元年度(1989)の時点において顕薯であった.このような時点において, 全国規模でアンケートによる使用実態の調査を行い, 使用意識を考察することにした.平成2年(1990)アンケートを発送したところ, 市区役所601箇所, 都道府県庁4箇所から回答を得た.これを分析した結果, 時期的に3グループに分類でき, 第1期は散発的個別的であること, 第2期は過渡的, 第3期は地域活性化の目的から地域住民との交流を深めるため, お役所言葉改善の一環として敬称も様に切り替える傾向が見られる.この場合, 世間一般に用いない語は避ける方針であるから, それだけで, 殿は様に地位を奪われてしまう.また, アンケートの回答を見ると, 女性が特に様を支持する傾向がある.現在は女性の時代である.一方水道料金や税金の徴収に関係する窓口では, 現在まで, つねに住民との関係を円滑にしようと, 様切り替えの努力を払っており, この面では, 殿・様のいずれが適当かだけにしぽられて検討が行われている.大勢としては, 70%以上が様に切り替えており, 今後もこの傾向は続くであろう.
著者
ユ ゼグン
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では室内環境に適するサービス用ロボットに単眼ビジョンセンサを用いて特徴地図を作成し、自己位置を推定しながら自律走行を実現するのが目標である。まず、1年次に行った単眼カメラの視野角を改善した多視点単眼カメラ(Multi-View Single Camera)と高速ガウスぼかしフィルタ(Fast Gaussian Blurring Filter)を本VSLAM(Visual Simultaneous Localization and Map-Building)のアルゴリズムに適用し、アルゴリズムとロボットシステムの最適化を行った。単眼カメラと距離センサにより構築された特徴点地図とトポロジカル地図を用いてロボットの経路計画と自律走行を実現するためにGNP-SARSA(General Network Programming-State Action Reward State Action)を導入した。GNPは遺伝的アルゴリズムと遺伝的プログラミング,進化的プログラミングを元に作られた進化的計算手法である。また、そのGNPアルゴリズムのなかに決定プロセスを強化するためにSARSA学習手法を加えてロボットの走行シミュレーションを作成した。本研究を通して一般的な経路はトポロジカル地図によるノードで繋がれる全体的な経路を設定し,ロボットの精密な走行の際には特徴点地図によって制御されることが可能となり、また、ロボットの走行の際に静的・動的障害物を油然と回避することが可能になった。
著者
神津 武男
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「浄瑠璃本じょうるりぼん」とは、「人形浄瑠璃にんぎょうじょうるり」の台本・脚本をさす。中でも本研究課題が研究対象とする、最後に興った流派「義太夫節ぎだゆうぶし」の浄瑠璃本は、単に演劇台本であるに留まらず、読み物としてひろく流通した。江戸時代の文学書(出板物)で日本全国に現存・伝来するものは、浄瑠璃本に限られる。膨大な点数の残る浄瑠璃本を基礎資料として、近世後期人形浄瑠璃史の欠を補う。
著者
BOYD James Patrick
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

研究成果として、1)戦後日本のナショナリズムの要素となる40個のコードを記載するコーディング・マニュアルの作成、2)戦後首相の所信表明・施政方針演説、そしてこの演説に対する最大野党代表の質疑と大手新聞社3社の社説のデータベース化(収集・電子化・整理)、3)コーダー間の信頼性を確認するデータベースのコーディング結果などがあげられる。
著者
柴田 重信 堀川 和政 工藤 崇
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

スケルトン同調のメカニズムを明らかにする目的で、本年度は薬物の噴霧装置や給餌装置を利用して、Bmall-lucのレポーターのトランスゼニックマウスに対してまず、デキサメサゾンの15分間の噴霧吸入および給餌を朝夕の12時間おき(12:12)にした。これらの対照実験としては、光照射を15分間、朝夕12時間おき(12:12)にした。これらの処置を7日間行い、Bmall-lucのレポーター発現リズムの振幅と位相を肝臓、肺で調べた。明暗環境を逆転、新しい明暗環境に慣れるのに最低7日間を有することから、上記の条件飼育を7日間とした。本実験から、視交叉上核を介した末梢時計の同調の様式と末梢時計が直接同調されたときの様式が同じか、否かがわかる。まず朝夕に刺激をおこなうスケルトン同調を行った動物ではいずれの場合でも、肝臓・肺での生物発光リズムのピークは一つであった。さらに、デキサメサゾンでは肝臓より肺に対して強力な作用をもたらす可能性が示唆された。また、餌を朝夕に与えるというスケジュールは、自由に餌をとれるというスケジュールに比較して、位相が前進する傾向が認められた。餌の同調刺激は光のそれより強力であることがわかった。また1日2回の給餌により、夜間の最初の給餌がより強力な同調因子となるために、位相が前進したものと思われる。以上の結果、(1)スケルトン同調でも末梢臓器の時計発現は一峰性である。(2)デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイドや給餌の同調刺激は強力である。(3)スケルトン刺激でも十分同調が可能であるので、人の体内時計の位相維持のためにも、朝夕の同調刺激を受けるようにすることを強く示唆した。
著者
田中 良明
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

現在のインターネットは通信品質が一定していないが,安定した品質が必要なことも多い.これに応える方法として差別化サービスがある.差別化サービスにおいては,品質の差に応じて料金にも差を付けることになる.本研究では,現在のインターネットトラヒックの解析を行って,その性質を明らかにした上で,料金要素の導入を行って理論を構築し,それに基づいたトラヒックの制御法やサービス提供法などの提案を行った.
著者
八巻 和彦 矢内 義顕 川添 信介 山我 哲雄 松本 耿郎 司馬 春英 小杉 泰 佐藤 直子 降旗 芳彦 橋川 裕之 岩田 靖男 芝元 航平 比留間 亮平
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

<文明の衝突>から<文明の対話>への道は、各社会が己の価値観を絶対視することなく、互いの相違を外的表現の相違であって本質的な相違ではないことを認識することによって確保されうる。たとえば宗教において教義と儀礼を冷静に区別した上で、儀礼は各社会の文化によって表現形式が異なることを認識して、儀礼の間に相違が存在するから教義も異なるに違いないとする誤った推論を避けることである。キリスト教ユニテリアニズムとイスラームの間の教義には本質において相違がないが、儀礼形式は大いに異なることでしばしば紛争が生じ、他方、カトリックとユニテリアニズムの間では教義は大いに異なるにもかかわらず、儀礼が類似しているとみなされることで、ほとんど紛争が生じない、という事実に着目すれば、われわれの主張が裏付けられるであろう。
著者
三神 弘子 KO J.-O.M. KO J.-OM
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度の主要な研究目的はジェンダーと〈クイア〉および異形の身体表象という視点で映画を体系的に考察することであった。研究代表者、三神は、マーティン・マクドナー作のアイルランド映画『In Bruges』(2008)を考察し、道徳的タブーを覆すために、小人症などに代表される〈フリークス=異形の者〉を登用するケースを論じるとともに、映画に登場するヒエロニムス・ボッシュの絵画「最後の審判」の中の〈異形の者たち〉との関連性を考察することによって主人公の内面の楝獄/地獄が観光都市ブルージュと結び付けられていることを議論した。外国人特別研究員、高は〈クイア〉という視点では松本俊夫による『薔薇の葬列』(1967)を分析し、ゲイボーイの身体表象を映画のリアリズムと関連付けて考究し、「ジェンダーとエスニシティ」のテーマにおいては、大島渚による『日本春歌考』(1967)を考察し、映画内という枠組みを超えて、より広範な社会・文化的文脈との関連性をからみあわせて考察を試みた。さらに『日本春歌考』の中で歌われる『満鉄小唄』に想起される、従軍慰安婦の問題を1950年代の戦争アクション映画における表象の考察に発展させを論じた。三神による研究はこれまでのアイルランド映画研究の主要テーマであったナショナルアイデンティティや〈アイリッシュネス〉の表象を踏まえながらも身体表象、絵画、またマクドナーの演劇作品との隣接性に焦点を当てることで従来のアイルランド映画研究に新しい視点とメソドロジーを提供し多大な学術的貢献をしたといえる。高の研究も、従来の日本映画研究ではほとんど論じられることのなかったリアリズムと身体表象、エスニシティとジェンダーという錯綜するテーマを取り上げることにより、既存のジェンダー・セクシュアリティ、クイア表象研究の枠組みを発展させる重要な役割をもつといえる。
著者
小林 哲則 中川 聖一 菊池 英明 白井 克彦 匂坂 芳典 甲斐 充彦
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

今年度の成果は以下の通りである。a)対話のリズムと韻律制御前年度までの成果に基づいて、対話における話題境界の判別を題材に、韻律情報におけるアクセント句単位でのパラメータを用いて統計的なモデルを学習し、オープンデータに対しても人間と同程度の判別精度が得られることを確認した。(白井・菊池)自然な対話システムを構築する上で重要なシステム側の相槌生成と話者交替のタイミングの決定を、韻律情報と表層的言語情報を用いて行う方法を開発した。この決定法を、実際に天気予報を題材にした雑談対話システムに実装し、被験者がシステムと対話することにより主観的な評価を行い、有用性を確認した。(中川)b)対話音声理解応用対話音声における繰り返しの訂正発話に関する特徴の統計的な分析結果を踏まえ、フレーズ単位の韻律的特徴の併用と訂正発話検出への適用を評価した。また、これらと併せた頑健な対話音声理解のため、フィラーの韻律的な特徴分析・モデル化の検討を行った。(甲斐)c)対話音声合成応用語彙の韻律的有標性について程度の副詞を用い、生成・聴覚の両面から分析を行い、自然な会話音声生成のための韻律的強勢制御を実現した。また、統計的計算モデルによる話速制御モデルを作成し、会話音声にみられる局所話速の分析を進め、自由な話速の制御を可能とした。さらに、韻律制御パラメータが合成音声の自然性品質に及ぼす影響を調べた。(匂坂)d)対話システム上記の成果をまとめ,対話システムを実装した。特に,顔表情の認識・生成システム,声表情の認識・生成システムなどを前年度までに開発した対話プラットホーム上に統合し,パラ言語情報の授受を可能とするリズムある対話システムを構築した。(小林)
著者
辻 絵理子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

科研を用いた海外調査では、申請書の計画通りブリティッシュ・ライブラリーの最重要写本のひとつである『テオドロス詩篇』、及びフランス国立図書館の『パリの74番』の実見調査が叶った。この二冊は11世紀ビザンティンの修道院写本工房を考える上で不可欠な写本であり、顔料の剥落の度合いや綴じの状態などを詳細に調査することができた意義は大きい。研究成果としては、まず美術史学会全国大会、美学会、比較文学研究会において計4回の口頭発表を行った。それぞれ、会の特質に合わせたテーマめ選定と研究手法を選んだことで、活発な質疑を行うことができた。本年度特に意識したことは西ヨーロッパとの関わりであり、両者に共通するモティーフを取り上げ分析することで、各方面の専門家からのご意見を伺うことができた。また、美学会では新しい余白挿絵詩篇の分析方法を提示し、方法論に優れた専門家からの意見を求めた。二度にわたる比較文学研究会の発表においては、比較文学的な観点からモティーフめ東西伝播を探り、あるいは美学会で示した新たな手法を実際に適用することで得られた知見を発表した。それらの口頭発表のうち2本を、今年度中に論文の形で発表することができた。ひとつでは西洋古代の写本から中世までのイメージの変遷を辿り、それがやがて日本近代に形を変えて受け入れられていく過程を指摘した。もうひとつでは、『ブリストル詩篇』のこれまで等閑視されていた頁に隠された意味と機能を、口頭発表でも示した手法を用いて分析・指摘した。
著者
川畑 隼人
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2010年度はこれまでの研究に引き続き、中央ユーラシアにおける青銅鈴の出現と拡散、社会的意味について検討を深めていった。特に、今年度は博士論文構想発表会と、全国規模の学会での発表と、ロシアでの資料調査が主な活動となった。まず、11月に奈良文化財研究所で開催された、日本中国考古学会で口頭発表を行なった。その内容は昨年度に文学研究科紀要に基づく内容で、「出土状況からみた弓形器の用途-諸説の検証と解釈-」という題目で研究発表を行ない、全国や海外から集まった専門の研究者から指摘と教示を受けた。また、同会の会員と交流を深めた。12月には、ロシアのモスクワとサンクト・ペテルブルクを訪れ、両都市の博物館を歴訪し資料の収集や本の購入、現地研究者との親交を深めた。特に、モスクワ歴史博物館とエルミタージュ美術館には、旧ソ連時代より収集された考古資料が多数所蔵されており、騎馬遊牧民の青鋼器や鉄器を中心に観察と写真撮影を行ない、多くの収穫を得た。この資料調査をまとめ、論文や研究ノートとして成果を発表する予定である。また、所属している草原考古研究会においても、資料調査の内容について発表を予定している。上記以外にも様々な調査を行なって来ており、その成果は論文や報告として雑誌に掲載される。来年度はロシアでの資料調査をもとにして論文執筆を行ない、年度末までに提出予定の博士論文の一部とする。堤出前に必要となる学内の博士論文構想発表会も7月に済ませており、「後期青銅器時代の中央ユーラシアにおける青銅鈴の出現」という題目で研究経過を発表し、今後の展開についての批判を受けた。現在は章立てや構成を精査している段階であり、各章にあたる論文をまとめている状況である。
著者
鈴木 克彦 PEAKE J.M. PEAKE J.M
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

我々は、運動負荷に伴う血中サイトカイン濃度の変動が、運動の強度や時間などの生体負担に依存することを明らかにしてきた。本研究では、究極の運動負荷と考えられる鉄人トライアスロン(3.8km水泳、180km自転車、42.2kmマラソン)のレース前・後、1日後に被験者9名から採血し、筋損傷・炎症との関連を調べた。筋損傷の指標としては、筋力、関節可動域、腫張、疼痛、血中ミオグロビン濃度、クレアチンキナーゼ活性を、炎症マーカーとしてはCRP、SAAを、ストレスタンパク質としてはHSP70を測定したが、すべて顕著な変動を示し、レース後および1日後に筋損傷が顕在化した。サイトカインは10種類の測定を行ったが、炎症性サイトカインである1L-1βとTNF-αは変動を認めず、一方、IL-6、IL-1ra、IL-10、IL-12p40、G-CSFが顕著に上昇した。しかし、筋損傷とは関連が認められず、血中サイトカインから筋損傷のメカニズムを説明することはできなかった。これらのサイトカインは、細胞性免疫を抑制する作用があり、炎症の全身性波及を抑制する適応機構として働く反面、感染に対する抵抗能力を低下させる可能性が考えられる。以上の研究成果は、国際運動免除学会にて発表し、現在、European Journal of Applied Physiologyにて審査中である。また、運動による筋損傷と炎症の機序に関して、先行研究の知見を文献的に整理したが、血中のサイトカインの関与は少なく、むしろ白血球の産出する活性酸素の関与の重要性が示唆され、その方向で今後の研究を進める必要性が考えられた。
著者
西原 博史 戸波 江二 後藤 光男 今関 源成 斎藤 一久
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、学校関係法の体系を構築するにあたって、学校・教師・親などといった教育主体間の権限配分ルールを確立することを急務と考え、その際、子どもの権利を基底に据えた体系化の可能性を模索することを目的としてきた。2年間にわたる研究代表者・研究分担者の共同研究(研究開始前における準備作業と、研究終了後における成果の刊行に向けた共同作業を含む)の結果、当該研究目的はかなりの程度で達成できた。理論的には、学校制度と子どもの権利の関係に関する体系的理解が得られた点が重要な成果と言える。すなわち、公教育の正当化に関し、二つの道筋が区別される。子どもの権利実現の文脈で正当化される場面と、社会の側からの子どもに対する期待を実現するためのものとして一定の社会的・民主的価値との関係で正当化される場合との二つである。この両者の正当化方法は、子どもの権利との関係で異なった位置づけが必要になる。子どもの権利実現のために公教育が正当化される場面では、本人利益に合致しているか否かが正当化根拠の妥当性を判断する基準となる。それに対して、社会的・民主的な価値の実現を目的とする場合には、公教育における強制は子どもの権利に対する制約と捉えられ、目的実現のために必要な制約と判断できるか否かが正当化根拠の妥当性判断の基準となる。それぞれの正当化根拠に関して、国家観・人間観・社会観によって正当化可能範囲に広狭あることが確認されるとともに、日本国憲法が想定する個人主義の社会モデルに基いた場合に、基本的に倫理的働きかけが公教育の射程外と位置づけられることが明らかになった。以上の点は、研究代表者が発表した複数の論文や書籍において展開されている。その上で、民主教育がどの程度で子どもの権利を制約できるのかについては、研究分分担者間でなおも論争が続いている。この間の成果は、戸波・西原編著の書籍に示される。
著者
高松 寿夫 新川 登亀男 吉原 浩人 陣野 英則 河野 貴美子 後藤 昭雄 波戸岡 旭 仁平 道明
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

平安時代前期の漢詩文集、とりわけ『菅家文草』の諸本調査を行い、本文の異同、諸本の系統についての検討を行い、新たな見識を得た。2種版本(寛文版本・元禄版本)の本文異同については、漢詩部分(前半6巻)については、一覧にした冊子も作成した。渤海使関係詩の注釈作業を行ったが、その際にも、『菅家文草』諸本調査の成果が役立った。渤海使関係詩の注釈成果は、『早稲田大学日本古典籍研究所年報』誌上に公表した。
著者
竹下 香寿美
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は,様々な周期で運動を行わせたときの筋線維と腱組織の長さ変化及び関節角度との関連について異なる負荷条件下において検討した.被検者は,健康な成人男性7名(平均23.1、±2.4歳,身長170.8±6.6cm,体重64.9±9.2kg)であった.踵を上げた状態から踵を下げ,その後すばやく元の位置に戻すという足関節底屈〜背屈〜底屈という一連の動作を連続して行わせた.運動はすべて角度を変化させることができるスレッジ台上で行い,運動時の負荷条件を変化させるために床面とスレッジ装置の角度は30°または60°となるように設定した.被検者が足を載せる部分に床反力を測定するためのフォースプレートを設置した.運動周波数は,1Hz,2Hz,3Hzとし,運動の頻度を規定するためにメトロノームの電子音に運動を合わせるように指示した.床反力と同時に足関節及び膝関節角度変化を測定するために被検者の右側方よりハイスピードカメラで撮影した.また,超音波診断装置を用いて運動中の腓腹筋内側頭の超音波縦断画像を取得し,筋束長,羽状角を計測した.腓腹筋内側頭,腓腹筋外側頭,ヒラメ筋,前脛骨節より表面筋電図を導出し記録した.本研究の結果,運動時の筋-腱複合体の長さ変化に対する筋束長の長さ変化の割合は,スレッジ台30°試行では,1Hzに対して2Hz,3Hzともに長さ変化の割合が低くなり(p<0.05),一方,スレッジ台60°試行においては運動頻度が高くなるにつれて長さ変化の割合が有意に小さくなった(1Hz vs 2Hz:P<0.05,2Hz vs 3Hz:P<0.01)ことから,周期的な運動を様々な頻度で実施する場合,筋-腱複合体の働き,すなわち,筋の力発揮及び腱組織の弾性体としての働きの兼ね合いは,運動時の負荷条件が異なることにより至適に働く周波数が異なることが示唆された.
著者
浅田 匡 野嶋 栄一郎 魚崎 祐子 佐古 秀一 淵上 克義 佐古 秀一 淵上 克義
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、次の4つのアプローチを行なった。教師の認知に関する研究に関しては、教師の認知と子どもの認知とのズレは学習方略、思考内容・思考過程などにおいて大きいことが明らかになった。単元開発に関する研究に関しては、単元開発の進め方(相互作用)によって教師の学びに差があることが示された。校内・園内研修に関する研究に関しては、校内研究は必ずしも教師の成長・発達におよびカリキュラム開発に関する知識創造が生起していないことが示された。また、校内研究が十全に機能するためには、継続的な記録、互いが心理的に支え合う文化(風土)、プライマリーグループの存在、組織へのコミットメントが関連することが示唆された。メンタリングに関しては、徒弟的関係に基づくメンタリングが行われ、心理社会的機能が重視されていることが明らかになった。