著者
権田 幸祐
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

がん転移は脈管(リンパ管、血管)を通して起こるが、リンパ行性転移は、血行性転移よりも病初期段階において進行が観測されるために、がん転移早期診断の格好の指標となる。本研究では、(1)独自担がんマウスを使ったリンパ節転移機構の解析、(2)異なるイメージングモダリティを利用した転移リンパ節検出法の開発、(3)手術で摘出したがん組織(原発巣や転移リンパ節)の高精度病理診断法の開発、以上の研究を主に行い、がんリンパ行性転移メカニズムの解明とその概念に基づく新たながん転移診断法の開発を目指した。
著者
古山 和道 柴原 茂樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

赤芽球型アミノレブリン酸合成酵素(ALAS2)がタンパク質として合成された後、生体内でどのように調節を受けるのかを明らかにする事を目的に研究を行ない、ALAS2タンパク質は細胞内のヘムの量に応じてALAS2を2分子含むより大きな分子を形成することを見出した。さらに、ALAS2タンパク質はSUMO(Small Ubiquitin like MOdifier)化されうる事も明らかにした。これらは今まで報告されていないALAS2 の新規の翻訳後修飾であり、ALAS2の機能発現、さらには赤芽球の分化において果たす役割を今後明らかにしたい。
著者
大槻 純也
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

局在性の強い4f電子が主な物性を担う希土類化合物を近藤格子模型に基づき調べた。動的平均場理論と連続時間量子モンテカルロ法を用いた数値計算により、重い電子の形成に重要な局所相関を正しく取り込んだ計算を行った。それにより、以下の結果を得た。(1)coherent potential approximation (CPA)と呼ばれる近似を動的平均場理論に適用することにより、Ce化合物の重い電子状態におけるフェルミ面に対するLa置換効果を調べた。その結果、フェルミ面に対する置換効果が、外部磁場の大きさによって、定性的に異なることを明らかにした。通常、フェルミ面の測定は磁場下で行われるが、この結果は、置換実験によって重い電子状態を調べる際の指針となる結果である。(2)サイトあたり局在スピンが2つあるf2近藤格子模型を調べた。この模型では、局在スピンの局所的な一重項状態はf2電子配置の結晶場一重項状態を表していると考える。数値計算の結果、特定の伝導電子数において、結晶場一重項と近藤一重項が空間的に交互に配置した基底状態が実現することを見出した。この秩序状態の起源は近藤一重項と結晶場一重項を形成することによるエネルギー利得であり、多くの希土類化合物のようなRKKY相互作用が起源ではない点が新しい。この秩序状態がPrFe4P12で観測されている秩序状態を定性的に説明することを明らかにした。
著者
仲田 栄子 有賀 久哲 半田 康延 小倉 隆英 関 和則 高井 良尋
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2009

今日のがん治療において、腫瘍内低酸素領域の克服が重要な課題となっている。そこで我々は電気刺激を用いることで腫瘍内低酸素領域を改善できるのではないかと考えた。C3H マウスの右大腿部に Squamous Cell Carcinoma-VII腫瘍(SCC-VII)を移植し、仙骨部後仙骨孔直上の皮膚表面に電気刺激を行った結果、刺激中に腫瘍表面の血流値で 22%の増加、電気刺激終了から約 50分後に腫瘍内部の酸素分圧で 28%の増加が確認された。低酸素マーカーであるピモニダゾールを使用した結果、電気刺激終了後 40 分で低酸素領域は 20%有意に減少した。X 線を腫瘍移植部に局所照射したところ、一回照射(総線量 5Gy)・分割照射(総線量 7.5Gy)のいずれにおいても放射線単独群より放射線+電気刺激併用群で腫瘍の成長に遅延が認められた。
著者
大園 真子
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は,2008年岩手・宮城内陸地震後に観測した長期・広域の余効変動を説明するための粘弾性構造モデルの構築を試みた.また,先行研究との比較,モデルで説明できない部分についての考察を行い,博士論文としてまとめた.2010年8月31日までの稠密GPS観測から,水平成分で太平洋側から日本海側に至る広い範囲で10mm以上の変位が,上下成分で震源域近傍の顕著な沈降が見られた.この余効変動の主要因が粘弾性緩和であると判断し,粘弾性構造モデルによる推定を行った.上部地殻に対応する弾性層と下部地殻以深の粘弾性層から成る球殻成層構造を仮定し,弾性層の厚さHおよび粘弾性層の粘性係数ηの最適値を探索した.震源域近傍は他の要因による影響の可能性が考えられたため,試行錯誤の末,震央距離35km以上に分布する観測点のみを推定に用いた.2期間について調べた結果,本震後2ヶ月-1.5年間の観測値は,H=19.5-25.5km,η=2.4-3.4E+18Pa・s,2ヶ月-2.2年間の観測値は,H=17.0-23.5km,η=3.1-4.8E+18Pa・sとした時に最も良く説明される.推定した弾性層の下端の深さは,本研究対象領域の地震発生領域の下端に概ね対応している.粘性係数は,1896年陸羽地震後の余効変動から推定された結果の約1/3となる.この違いは,奥羽脊梁山脈直下の局所的低粘性領域を反映していることや,定常状態に戻る前の時間変化を見ていることなどの可能性が考えられるが本研究では結論づけられない.粘弾性緩和モデルのみでは説明できない残差が震源域近傍で生じるが,震源断層直上の2点については,この残差の約7-8割が余効すべりで説明でき,先行研究の推定とも概ね一致する.今後は,他の測地観測データと共に,地震波低速度域や火山の存在を考慮した,水平方向にも不均質な粘弾性構造モデルによる推定が重要となる.
著者
山下 博司
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の期間内に、タミル・ヒンドゥー教の聖徒列伝『ティルットンダル・プラーナム』(通称『ペリヤ・プラーナム』)の核心部分(重要聖者にまつわる中心的説話等)に対し批判的な日本語訳を施し、翻訳出版の基礎を整えた。さらに、上記作業に関わる副産物として、専門研究者向けの英語による共著 A Concise History of South India: Issues and Interpretations(Delhi: Oxford University Press, 2014)、及び一般向けの単著『古代インドの思想-自然・文明・宗教-』(ちくま新書、2014年)等も執筆・公刊し、成果を広く発信し得た。
著者
陣内 佛霖
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

プラズマエッチングプロセス中の表面反応過程を解明するためには、プラズマから基板に照射されるイオン・ラジカル・紫外光などの活性種をモニタリングすることが重要です。特に、イオンは基板表面に形成されるシースによって加速され、基板に入射する。MEMSデバイスでは、基板の表面形状サイズがシース長と同程度となるため、シースが基板表面に沿った形となりイオンの入射軌道が曲がり、ホールが斜めにエッチングされてしまうといったマクロな形状異常が発生してしまう。この問題を解決するためには、実際の基板に入射するイオンの情報から、基板形状に沿ったイオン軌道の予測を行うことが必要である。基板上のイオン情報を得る技術として、オンウェハプローブを開発した。オンウェハプローブは、シリコン基板上に電極と絶縁膜で形成されており、プラズマ照射中の電流・電圧特性を測定することができる。この電流・電圧特性から、シース長を求めることができる。これらの値から、基板形状に沿ったシース形状が予測でき、イオン軌道の予測に成功した。オンウェハプローブ測定に基づいたイオン軌道の予測は、基板上で測定することにより、実際のプラズマ状態を反映することができる。この技術は、エッチングプロセス中のマクロな形状異常の発生メカニズムを明らかにするという点において学術的意義があり、同時にプラズマ形状予測にも貢献することにより産業応用的にも意義あるものである。
著者
中野 俊樹 白川 仁
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

魚類を含む脊椎動物の成長は,成長ホルモン(GH)‐インシュリン様成長因子系により制御されている.しかしGH遺伝子組換え魚におけるその系にかかわる代謝産物の動態については不明な点が多い。本研究ではGH遺伝子組換えギンザケを用い、メタボローム解析により代謝産物を非組換え魚と比較した。組換え区の筋肉では解糖系のアクティビティーが変化していた。TCA回路では一部の代謝産物レベルが組換え区で変化していた。また肝臓ではそれらの様相が異なっていた。さらにそれらの変化は絶食により顕著となった。以上よりGH遺伝子の組換えは特に筋肉において高成長のためのエネルギーの生産を増大させていると推察される。
著者
山下 正廣 宮坂 等 伊藤 翼 高石 慎也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

超常磁性化合物に対して、外場を印加することにより、新規物性や機能性の発現を目指すものである。これまでに、単分子量子磁石Pc2TbとPc2Dyを用いて電界トランジスター素子を作成し、前者はp型を、後者はアンバイポーラーを示すことを明らかにした。また、STSを用いてPc2Tbの近藤ピークを観測することに初めて成功した。さらに、電子注入により近藤ピークの出現と消去を可逆的に行なうことに成功し、単分子メモリーの基礎を実現した。一次元鎖構造を持つ単分子磁石[Pc_2Tb]Cl_0.6は8K以下で世界で初めて負の磁気抵抗を示した。
著者
清水 透 黒河 博文 田中 敦成 五十嵐 城太郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2005

[1]ヘム制御キナーゼ(HRI)、及びヘム結合時計遺伝子制御因子のNOやヘムセンシングの分子機構を解明し、水銀が、このヘム-蛋白質結合を破壊することを示した。[2]メチル水銀で誘起されたマウスの日内活動の異常性は、チオレート化合物と血液脳関門透過化合物であるα-リポ酸を同時に投与した場合のみ、修復された。[3]ヘム受容体を保持するガスセンサー酵素のガス結合部位の同定、及びガス結合による活性上昇の分子機構を明らかにした。
著者
越村 俊一
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

巨大地震災害発生直後の津波災害インパクトの即時的開示を目標とした広域被害把握技術の体系を構築した.広域被害把握までの流れは,数値解析と津波被害関数による浸水域内建物棟数および被害棟数の推定,衛星画像解析による津波浸水状況の把握,浸水域内建物棟数の推計,航空写真の判読による建物被害の把握,航空写真・衛星画像による瓦礫量の把握という,4つの技術で構成する.本研究では,2011年東北地方太平洋沖地震津波災害を事例として上記研究の実証を行い,その有効性と課題を明らかにすることができた.
著者
中山 亨
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

キンギョソウの花色発現に関わるフラボノイド(アントシアニン・フラボン・オーロン)生合成関連酵素間の相互作用を酵母ツーハイブリッド法やBimolecularfluorescencecomplementation法などの各種の方法で解析した.その結果,キンギョソウ花弁細胞内でフラボンとアントシアニンの生合成酵素群が代謝酵素複合体を形成し,オーロン生合成関連酵素と空間的かつ機能的に仕分けられていることが強く示唆された.
著者
丸森 亮太朗
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

最先端成膜プロセス技術の一つ,マイクロ波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)成膜技術により,白金加金表面へのチタニアコーティングを試みた.その結果,(1)結晶相の主要な生成物としてルチル型チタニアおよびTiOが認められた.(2)測色結果では,白金加金は金属色を十分に遮蔽しているとはいえない結果であった.(3)SEMによる観察では,等方性の結晶組織が観察された.
著者
山田 正 高橋 信博
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

「漢方薬」は免疫増強作用などホスト側の体質の改善を主目的とし、結果として疾患を改善させようとするものが多い。その中でも日常的に「健胃薬」などとして用いられている漢方薬は、副作用の心配が少なく、口腔内局所投与によっても影響が少ないと思われる。そこで、本研究計画では、黄連や黄柏がもつ(1)各種歯周病関連菌の増殖に対する影響、(2)その作用様式、(3)有効成分、(4)プロテアーゼなどの菌体外酵素に対する影響などを明らかにし、これらの漢方薬の抗菌メカニズムを解明することを目的とし、以下の結果を得た。1.黄連・黄柏の水抽出物は歯周病関連菌Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Actinobacillus actinomycetemcomitans、Actinomyces naeslundiiの増殖を抑制した。一方、齲触関連菌であるStreptococcusとLactobacillusの増殖はあまり抑制しなかった。2.黄連・黄柏水抽出物の有効成分はベルベリンに代表されるアルカロイドであることが分かった。3.この抗菌効果の作用様式は殺菌作用であることが明らかになった。2.さらにPorphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Actinobacillus actinomycetemcomitansの菌体外プロテアーゼを阻害することが分かった。しかし、プロテアーゼ抑制に必要な黄連・黄柏水抽出物の濃度は増殖阻害に必要な濃度よりも高かった。以上の結果から、黄連・黄柏は歯周病関連菌に対して抗菌作用を示すことが明らかになった。また、プロテアーゼ活性阻害効果があるものの、抗菌効果の本質は殺菌作用であることが推察された。
著者
原 梓
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

大迫コホート研究では、前年度の検診で収集した高血圧性臓器障害に関する検査結果からデータベースの更新を行なった。大迫コホート研究の55歳以上の一般地域住民309名を5.7年間追跡し、家庭血圧と頸動脈病変進展との関連を検討した。高血圧基準値として、家庭血圧135/85mmHgおよび検診時血圧140/90mmHgを用い、初回検診時と再検診時の血圧により,家庭血圧,検診時血圧のそれぞれについて対象者を「正常血圧維持群(正常→正常)」,「高血圧進展群(正常→高血圧)」,「高血圧改善群(高血圧→正常)」,「高血圧持続群(高血圧→高血圧)」の4群に分類し、頸動脈内膜中膜複合体厚の進展を比較したところ、家庭血圧を用いた場合,高血圧持続群の頸動脈内膜中膜複合体厚の進展は,正常血圧維持群に比べて有意に大きかった。一方,検診時血圧を用いた場合にはこのような群間差は認められなかった。また大迫研究の一環として毎年行われる家庭血圧測定事業時に、セルフメディケーションに関する調査項目を含むアンケートの配布・回収を実施し、約400名分回収されている。産科コホート研究では、対象者となる妊婦の登録を参加施設において連続的に行った。妊娠期間中の家庭血圧測定・脈波伝播速度測定・採血・尿検査・児の出生児調査、産後の家庭血圧測定を行い、データーベース化した。本コホートにおいて、妊娠・出産を経験した母体に郵送したアンケート調査を用い、現在回答が得られ、データベース化されている64名を解析対象者として、妊婦におけるサプリメントの摂取状況について検討を行った結果、47%の者が妊娠期間中にサプリメントを摂取しており、さらに、妊娠期間中最も摂取率が高いサプリメントは葉酸であり、妊婦全体に占めるその摂取割合は41%であった。
著者
越後 成志
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

当研究科で開発した骨再生材料であるoctacalcium phosphate(OCP)と豚皮膚由来のアテロコラーゲンとの複合体は自己修復不可能と言われる骨欠損へのインプラントで骨架橋を形成したが、組織学的所見で、僅かではあるが母床骨と異なっており、形成された骨が歯科矯正的な歯の移動に際し障害を与えることが考えられた。そこで、イヌに人工的な顎裂を形成し、顎裂部へ骨再生材OCP/Collagen埋入後、イヌ自身の骨髄穿刺液を播種した群と播種しない群とで骨形成を比較することを目的とし実験した。その結果、骨再生材料(OCP/Col)へ骨髄穿刺液を播種した群の骨形成がよりよい骨形成が得られた。
著者
佐藤 勝則
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は、スイスをフィールドとして、アルプス・ヨーロッパにおける空間秩序意識の形成について考察した。博物館としては、チューリヒ国立博物館、ベルン市立博物館、バーゼル市立博物館、サンクト・ガレン修道院歴史博物館を訪ね、誓約同盟スイスにおける地域空間秩序に関する、対照的な都市空間秩序形成に関する三類型を確定することができた。第一類型:チューリヒは、都市空間のスプロール化を特徴とする商工金融複合都市、第二類型:ベルンは中世都市空間秩序の化石化を特徴とする文化・政治都市、第三類型:バーゼルは、旧城塞・ライン河貫流によって規定されたメッセ(大市)国際商業・金融(BIS)都市。日本やアジア諸国には、基本的に第一類型のチューリヒ型のスプロール化された都市空間秩序しかない。北京も清朝時代の胡同を解体することで、政治文化都市としての性格を一掃させつつある。バーゼルは、ロッテルダムからバーゼルまでを同一の河川船舶で連結できる城塞を有するメッセ都市(大市特権神聖ローマ皇帝マキシミリアン賦与)であること。ベルンは1218年に神聖ローマ皇帝フリードリヒII世から認可された帝国自由都市形成の基盤が、湾曲するアーレ河に囲まれた台地状の地形によって決定されており、旧市街の街わりを維持してきた街区共同体(水くみ場=噴水)の強固な残存が中世都市を化石化したこと。歴史的には、自由農民、自治都市市民層主導の誓約同盟自治のスイスが、神聖ローマ帝国から分離後も、特に前方オーストリアにおいては、バーゼル八人衆がハプスブルク家による地域統合を支持していたことによってその伝統的空間秩序を規定していたことが明らかになった。
著者
尾崎 彰宏 幸福 輝 元木 幸一 森 雅彦 芳賀 京子 深谷 訓子 廣川 暁生 松井 美智子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

最大の研究成果は、「カーレル・ファン・マンデル「北方画家列伝」註解」が完成し、出版の準備を整える事ができたことである。この翻訳研究の過程で、以下の点が明らかになった。(1)マンデルは『絵画の書』において、inventie(着想/創意)、teyckenconst(線描芸術)、welverwen(彩色)という鍵となる概念を用いて、15、16世紀ネーデルラント絵画史を記述したこと。(2)マンデルは、自律的に『絵画の書』を執筆したのではなく、とくにヴァザーリの『芸術家列伝』に対抗する形で、ヴェネツィアの絵画論、とりわけロドヴィコ・ドルチェの『アレティーノ』で論じられている色彩論を援用した。つまり、マンデルのteckenconstは、ヴァザーリのdesegnoを強く意識しながらも、マンデルは本質と属性の関係を逆転した。ヴェネツィアにおける色彩の優位という考えとディゼーニョを一体化させることで、絵画とは、素描と色彩が不即不離の形で結びついたものであり、絵画として人の目をひきつけるには、属性として軽視された色彩こそが重要なファクターであるという絵画論を打ち立てた。(3)この絵画とは自律的な存在ではなく、鑑賞者の存在を重視する絵画観である。つまりよき理解者、コレクターが存在することで、絵画の意味はその「あいだ」に生まれるという絵画観が表明されている。このように本研究では、マンデルの歴史観が明らかになり、ネーデルラント美術研究のための新たなる地平を開くことができた。
著者
翠川 博之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、サルトル演劇の分析を通じて「対話のモラル」を提起するものである。暴力は他者を支配しようとする主体の欲望から生じる。したがって、人間関係を規制する倫理は絶対対等な人間関係に基づいて構想されなければならない。本研究では、個人の自律性を損なわない対等な関係性を「遊戯的関係」というモデルで明示している。「遊戯的関係」に基づく「遊戯的対話」は規範を創出する自由な相互活動である。