著者
張 陽
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アンケート調査を行わず、中国政府の公表したデータに基づき、1992年〜2007年までの中国の全国的な失業率を算出することができ、結果は中国政府の公表したデータの5倍となっている。中国の失業率がすでに20%に近いという外界の風聞や推測に確証を提供した。さらにFDIと都市部失業率との関係を究明するため、修正したHarris-Todaroモデルを開発し、シミュレーション結果によってFDIが被投資国のGDPを増加させるが同時に被投資国の失業率をも増加させることを示した。
著者
平田 政嗣
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

現在広く臨床応用されている人工歯根(インプラント)は、天然歯根と違いその周囲に歯根膜を有しないため、様々な問題が存在している。そこで、歯根膜由来培養細胞を用いて人工歯根周囲に歯根膜を再構築する必要がある。近年、付着依存型細胞の大量培養法としてマイクロキャリアー培養法が開発・応用されてきている。前年度の研究では、マイクロキャリア培養法が歯根膜線維芽細胞にも応用可能であり、その足場および移植担体(scaffold)としてコラーゲンゼラチン製の多孔性マイクロキャリアに関して適用可能であることが判明した。今回の研究では細胞を付着させたマイクロキャリアの生体内への応用および生体内での応答に関して、ラットおよびビーグル犬を用いて組織学的ならびに免疫組織化学的に検討した。歯根窩洞に細胞を付着させたマイクロキャリアおよびチタンを挿入し、歯周組織の反応を検索した結果、チタン周囲に新生骨様組織が形成されていた。また新生骨様組織とチタンとの間には一部線維が垂直に配列した歯根膜様軟組織が形成されていた。1.コラーゲンゼラチン製多孔性マイクロキャリア上で歯根膜由来線維芽細胞は付着伸展し、立体的な構造を呈することが判明した。3.ラットを用いたチタン埋入実験では、既存歯根膜組織が埋入チタン表面に伸展し、セメント質様構造物を伴った歯根膜様組織が再構築されることが判明した。またチタン表面に近接した組織ではアルカリホスファターゼ活性が上昇し、当部位での高い細胞活性と硬組織産生能が示唆された。以上の結果より、コラーゲンゼラチン製多孔性マイクロキャリアが歯根膜細胞の足場(scaffold)として応用可能であり、歯根膜および骨組織再生の可能性が示唆された。今後は、既存歯根膜組織に頼らない組織再構築の開発および培養・移植された細胞特性の詳細な解明が必要であると思われる。
著者
小野 哲也 法村 俊之 島田 義也 上原 芳彦 上原 芳彦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

実験動物ではカロリー制限が放射線による発癌効果を抑制することが分かっているが、そのメカニズムは未解明である。そこで本研究では突然変異、染色体異常、遺伝子発現変化などを指標として解析を行った。その結果、突然変異と染色体異常についてはカロリー制限による影響を見出すことはできなかったが、いくつかの遺伝子の発現の変化からは可能性のあるものがみつかり、今後の解析の手がかりが得られた。
著者
前門戸 任 西條 康夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では研究者がすでに作製しているSLPIプロモーターを用いたアデノウイルス(AdSLPI.E1AdB)の非小細胞肺癌特異的腫瘍の腫瘍選択性についてさらに研究を進め、in vitroだけでなくin vivoにおいてもSLPI分泌非小細胞肺癌で複製されていることをその抗腫瘍効果と同時に観察した。SLPIプロモーターのはたらきをその下流にレポーター遺伝子をつなぎマウスの静脈に投与を行うと、肝臓での発現は僅かにしか認められず、気管内投与でも発現する正常細胞は太い気管支に少数の細胞が認められるのみで当ベクターの安全性が期待できる。次に、非複製アデノウイルスであるAdCMV.NK4(NK4はHGFの分子内断片でありHGFのアンタゴニストとしてのはたらきとHGFに依存しない強力な血管新生阻害作用御もつ)とAdSLPI.E1AdBの併用療法を行った。二つのウイルスが同一SLPI産生腫瘍内に感染したとき、AdSLPI.E1AdBより発現したE1A蛋白がAdCMV.NK4にはたらき、単独では複製しないAdCMV.NK4に複製と発現増強が認められた。また、この併用療法を腫瘍に対し試みると単独療法を凌ぐ効果があり、なおかつ通常の遺伝子治療では効果を発揮することが難しい径が1cmを超える腫瘍に対しても十分な効果を発揮することが出来た。腫瘍組織の分析では、AdCMV.NK4の作用である血管新生阻害の増強が認められた。この二つのウイルスベクターの併用療法は非小細胞肺癌特異的な強力な遺伝子治療として期待できる。
著者
タレブ タリク
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の分野はConvergence of Networks(ネットワークの融合)として世界的なホットトピックとなっている。現在、次世代ネットワーク(NGN)に関する議論が盛んに行われているが、通信速度やカバレッジなど様々な特徴をもつ次世代ハイブリッドネットワークには、シームレスな接続に加えてセキュリティ問題やアプリケーションが容易に流通できるプラットフォームの開発が緊急かつ重要な課題である。本研究では以下の提案を行い、国内外で高い評価を得た。-ハイブリッドネットワーク向けの新しいQuality of Serviceアーキテクチャーの提案-安定性と効率を両立した経路選択技術の開発-無線、有線ハイブリッドネットワークにおける高効率・高品質な通信プロトコールの提案
著者
平沢 政広
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本研究は,Li-NH_3,アミン溶液の薄層から溶媒を蒸発させて迅速に除去し,Liを析出させることにより金属Li膜を生成させるプロセスについての基礎研究である.本年度は,当初の計画に従い,Li膜を生成させるための多孔質材料の選定に重点を置いて,種々の有機,無機系素材とLi-NH_3溶液の反応性について検討するための実験をおこなった.実験では,213.15〜243.15Kにおいて,真空雰囲気のパイレツクスガラスおよび石英ガラス製のセル内に種々の組成のLi-NH_3溶液を調整し,溶液に試験素材を漬浸して撹拌(円柱状試料の回転などの方法による)を行い,試験素材と溶液の反応に伴う溶液の電気伝導度の変化を測定する方法などによって,溶液内のLi濃度の経時変化を調べた.使用した試験素材は,フッ化樹脂(Teflon),ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック系素材と,グラファイト,リチウムナイトライドの無機系素材である.実験の結果,グラファイト,リチウムナイトライドでは,固体表面の触媒作用によりLiとNH_3間のアミド生成反応が速やかに進行することがわかった.フッ化樹脂の場合,溶液内のLiと樹脂の化合物生成反応が認められ,この反応は液側Liの物質移動と固体内のLiの拡散により律速されることが推定された.ポリエチレンテレフタレートの場合も同様な反応が進行するものと考えられる.これらの結果は,FやOなどがLiに対して官能基として作用することを意味すると考えられる.一方,ポリエチレン,ポリプロピレンでは,溶液と素材の反応は十分遅く,実際に,これらの素材表面にLi膜を生成させることができた.現在,生成したLi膜と素材界面のキャラクタリゼーションと,スプレー法による膜生成について検討を進めている.
著者
桑原 正明 飯沼 一浩 大川 俊之 伊勢 秀雄 景山 鎮一 高山 和喜 OHKAWA Toshiyuki HOSOYA Fumio 細谷 文夫
出版者
東北大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1986

微小爆発を水中衝撃波のエネルギー源とした体外衝撃波結石破砕システム(mESWL)を開発し, 222名の上部尿路結石症患者(229治療症例)に試験治療を行い, 96%の症例に治療効果を認めた. 合併症としては発熱と結石排出に伴うせん痛が20%の内外の患者に見られた. この他には菌血症1例, 消化管出血1例, 腎被膜下血腫2例が見られた. 後者の4症例は, 1例の腎被膜下血腫の1例に経皮的なドレナージを施行した他は保存的に治療した. これらの合併症の発生頻度はこれまで実用化されている体外衝撃波結石破砕機におけるものとほぼ同様であった. 従って, mESWLはこれまでのESWL機と同様に臨床的な治療機として応用できることが示された.mESWLは現時点では一応, 完成されたシステムであると考えているが, 欠点がないわけではない. 例えば私たちはmESWLの治療方式として衝撃波のエネルギー効率を重視し, 患者を水槽内に入れて治療をおこなう方式(water-tub)を採用した. また, 私たちは爆薬の単純性とその強力さに注目して, 衝撃波発生のエネルギー源に専ら爆薬を用いてきた. しかし, 爆薬を使用する限り, 爆発に伴う騒音の発生や爆薬を取り扱うことの煩わしさが避けられない. 騒音についてはDornier機(HM-1)と同じレベルであることが確かめられ, この点についての問題は少ないが, 経済的な見地からみると爆薬そのもののコストも無視することはできない. こしたことから, 将来的にはtub-less方式の検討やピエゾ素子など他のエネルギーを用いることについても検討を進めたいと考えている.mESWLの総合評価は治療効果, 操作性, 経済性などを含めた他の体外衝撃波結石破砕機との比較を待たなければならないが, 国産の体外衝撃波結石破砕機を独自の方式で開発することができた意義は大きいとかんがえられる.
著者
田中 繁史
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

研究の目的シバ草地は生産性が高く,一度定着すれば無施肥でも良質な草資源として長期にわたり利用可能で低投入・環境保全的であると同時に,生物多様性の維持,土壌流〓防止,景観維持など,多面的機能も非常に高い。荒廃人工草地をシバ草地へ更新する場合,シバは被陰に弱く,周囲の雑草との光競合に負けてしまうことが多いため.定着までには繊細な管理が必要である。特に放牧管理下では嗜好性の悪いエゾノギシギシやヒメスイバなどの雑草が残り,繁茂してしまう。そこで,荒廃革地の早期シバ草地化を目的として,(1)放牧管理下(20ha,うち草地3.1ha/日本短角種,計8頭,246-546kg,定置放牧)にある移植2年目のノシバ苗を対象に掃除刈りの効果を検証することとした。また,近年開発されたシバ新品種"たねぞう"は,匍匐茎の数が多くかつ長く,生育が早いことから,良好なシバ放牧地の造成が可能であると期待されている。そこでたねぞうの有用性を確認することを目的に,(2)たねぞう苗とノシバ苗の糞上移植後の初期定着の比較(定着評価,草高)を行った。結果および考察(1)ハンマーナイフモアによる掃除刈り約2ヵ月後のノシバ出現メッシュ数(1メッシュ5cm×5cm)は,掃除刈り無区21±26.8メッシュに対して,有区27±16.2メッシュであり,有意な差はなかった(t検定)。掃除刈りの頻度が年1回であることおよび放牧圧が高い環境下だったことが影響していると考えられた。(2)糞上移植したノシバ苗とたねぞう苗の初期定着を明らかにするために移植約3ヵ月後に,旺盛(A)から枯死(D)までの4段階(A~D)で評価した結果,定着と評価した苗(A評価+B評価)の割合はノシバ46.2%に対してたねぞう72.2%であり,たねぞうの高い活着力が明らかになった(P<0.01, Mann-Whitney検定)。一方,定着と評価した苗の草高(平均±標準偏差)は,ノシバとたねぞうでそれぞれ10.34±3.26cm(n=6)および13.07±2.75cm(n=13)であり,両間で有意な差はなかった(t検定)。
著者
川人 貞史 坂本 孝治郎 増山 幹高 待鳥 聡史 福元 健太郎 空井 護
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.国会運営ルールの形成と変化(1)予算国会の衆院予算委の審議日程等に関するデータを整理し,運営方式の変遷や争点の推移を概観できるようにした.(2)国会中心主義の国会制度と議院内閣制に関する法整備の分析を進め,国会制度の形成・変容とその政治的帰結を分析する研究を本にまとめた.(3)戦後国会における両院間調整の制度がどのように運用され,そこで参議院の意向がどの程度まで政策結果に反映されるかに関する論文を執筆し,衆議院の優越が条件付きにとどまることを示した.2.立法案件データの作成(1)法案の議事日程の資料整備を進め,会期延長と法案成立に要する日数の関係を分析し,また厚生省関連法案の動向と所管部局再編の関連を検証した.(2)両院間調整に至った議案についてのデータを,閣法,衆法,参法についても完成させた.(3)第119回〜141回国会の内閣提出法案審議状況を一覧形式で資料としてまとめた論文を公刊した.3.国会運営の制度と立法行動を説明するための理論と実証(1)国会法改正が法案の議事日程に及ぼした作用を検証した.(2)参議院議員は衆議院議員に比べてシニアとは限らないことを,全国会議員のデータ分析で明らかにした.(3)米連邦議会の予算編成改革を比較政治学的観点から分析した単著を公刊した.(4)国会における内閣提出法案を対象とした議事運営の計量分析を本にまとめた.(5)国会運営の制度分析を行う際に,諸外国や地方の議会との比較の視座を導入する意義を示した論文を執筆した.(6)内閣提出法案と議員提出法案の立法過程を法案個々の成立確率という意味において比較し,権力の集中と分散を規定する国会の憲法構造的作用を戦後の長期的な時系列変化という観点から検証する論文を執筆した.(7)日本の国会と内閣の関係を概説し,内閣が選挙や立法においてリーダーシップを発揮する状況を分析した論文を公刊した.
著者
吉野 博 長谷川 兼一 岩前 篤 柳 宇 伊藤 一秀 三田村 輝章 野崎 淳夫 池田 耕一 岸 玲子 持田 灯
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、ダンプビルの原因となる高湿度環境を解決するための最適設計法・住まい方の提案に資する資料を構築することを目的とする。そのために、住宅のダンプビル問題の実態を全国的規模で把握し、居住環境と居住者の健康状態との関連性を統計的に明らかにした。また、室内の湿度変動を安定させる機能をもった様々な多孔質の建材(調湿建材)等の高湿度環境緩和技術の使用効果について、実測やシミュレーションを用いた評価を行った。
著者
汐海 沙知子
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

中国雲南地方の在来品種である「麗江新団黒谷」は、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」などの日本の強度耐冷性品種を上回る極強の耐冷性を有することが知られている(。申請者らはこれまでに「麗江新団黒谷」と「ひとめぼれ」の交配後代系統を用いてQTL解析を行ってきており、2年間の反復をとった耐冷性検定の結果から第3染色体長腕に「麗江新団黒谷」型の対立遺伝子の作用による耐冷性QTLを確認した。さらに染色体部分置換系統を作成し、候補領域内で組換えが生じている系統10系統を選抜して、2008年度および2009年度の2年間の反復をとった耐冷性検定の結果から候補領域を約1.2Mbの領域に絞り込んだ。この領域について「麗江新団黒谷」の塩基配列を決定して「日本晴」と比較したところ、ミスセシス変異を起こすSNPが6遺伝子に生じていた。これらのSNPについて、dot-blot-SNPマーカー化し、「麗江新団黒谷」と「ひとめぼれ」の遺伝子型を調べてところ、「ひとめぼれ」は全て「日本晴」型であった。また、推定遺伝子領域の上流5kb以内にSNPが存在る遺伝子について、「ひとめぼれ」及び準同質遺伝子系統の穂ばらみ期穎花からRNAを抽出して発現解析を行ったところ、両者で発現量に大きな差が見られるのはなかった。本研究では、「麗江新団黒谷」に由来する強度耐冷性の候補遺伝子を6遺伝子に絞り込むことができた。今後これらについて相補性試験等を進めることで、耐冷性遺伝子を単離できる可能性が高い。また、研究の過程で作成した準同質遺伝子系統は、実際に「ひとめぼれ」に比べて耐冷性程度が向上していることを確認しており、耐冷性育種にも貢献できると期待される。
著者
永富 良一 鈴木 克彦 矢野 博巳 鈴井 正敏 和久 貴洋
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

運動やストレスに伴う免疫学的パラメータの変化は多数報告されているものの、その意義は未だ明らかにならず、実用的な研究が少ない。そこで2003年7月国際運動免疫学会コペンハーゲン大会の将来構想委員会において、今後スポーツ選手など運動に伴う免疫学的な問題に焦点を当てることを提案した。その結果、2005年モナコでの学術集会、2007年10月日本での学術集会では実用的な研究に焦点を当てることになり、本研究の代表者永富は国際運動免疫学会副会長に選出され、同時に2005年学術集会のプログラム委員長を務めることになった。この決定に伴い、これまでほとんど行われてこなかったスポーツの現場での免疫系が関連する問題点の調査を実施した。様々なレベルのスポーツ種目指導者に面接の上、質問紙を作成し、平成15年12月〜2月にかけて、大学生、プロスポーツ選手、実業団スポーツ選手、目本代表候補選手などを対象に無記名のアンケート調査を実施し1409名から回答を得た。有効街回答1367件を分析した結果、およそ20%にあたる274名が免疫に関連する疾患がスポーツ活動の障害になっていることを申告した。原因疾患として48.9%が急性上気道感染症を、25.2%がインフルエンザを、22.3%が花粉症を挙げた。インフルエンザ以外は軽症疾患といえどもスポーツ実施者にとっては無視できない問題であることがあらためて浮き彫りにされた。詳細な分析結果は現在報告書にまとめつつあり、各競技団体に配布する予定である。また本研究代表者が代表を務める日本運動免疫学研究会では2005年、2007年の学会に向けて今回明らかになった現場での問題点に関連する研究を奨励していく予定である。
著者
大林 茂
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

仙台空港には電子航法研究所(ENRI)により後方乱気流の検出を目的としたドップラーライダが設置されている。我々のグループでは、仙台空港において実フライト機を対象とした後方乱気流の計測を過去3年間継続的に行ってきており、あらゆる条件下における後方乱気流の位置データを保有している。我々のグループでは、ライダ計測値からの後方乱気流の自動抽出法を開発しており、開発した自動抽出法を全ての観測データに適用することにより、後方乱気流移流データベースを構築した。このデータベースにより,減衰過程と気象因子との相関関係を得て、時々刻々変化する気象条件に照らし合わせて後方乱気流の挙動を事前に予測することができると考えられる。そのため、構築した後方乱気流移流データベースにデータマイニング手法を適用した。それにより、気温の影響により後方乱気流の垂直移動距離が変化することを示すことができた。また、我々のグループでは数値流体力学シミュレーション(CFD)を利用した後方乱気流の挙動解析をベースとした離発着効率化をこれまで検討してきた。これまでは,実際の運航に近い技術になるほどCFDシミュレーションの果たす役割は大きくなかった。その理由としては、CFDシミュレーションが理想状態の解析を得意とし、大気乱れを含むような実環境下における後方乱気流の挙動を予測することが困難であることが挙げられる。そこで、従来のCFDシミュレーションとは異なる初期値・境界値の設定方法を行うために局地気象予報モデルを利用したネスティングシミュレーションも行った。これにより、仙台空港周辺で特に卓越する海風中に発生する水平ロール対流の中での後方乱気流の挙動を再現することができた。
著者
宮崎 譲
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

Bi_2Te_3系熱電材料の使用可能な温度域を拡張し、高効率な熱電変換素子を実現させるために、キャリア濃度を傾斜させた材料の開発が期待されている。これまで、バルクについて多くの報告があるものの、薄膜の傾斜機能化に関する報告はなされていない。電解析出(電析)法は、室温近傍で金属相を得ることができ、また電析膜の組成や粒径を容易に制御することが可能な合成法である。さらに、装置が簡単で、任意形状試料の作製が可能などの特徴を有していることから、II-VI族化合物半導体膜の合成にも適用されつつある。Bi_2Te_3膜についても最近になって合成に関する報告がなされたが、電析膜の組成に最も大きく影響する析出電位と生成膜の組成や物性値の関係については調べられていない。本研究では、キャリア濃度(組成)が連続的に変化したBi_2Te_3系傾斜機能膜を作製するための基礎データを得ることを目的とし、BiおよびTeイオンを含む硝酸水溶液中で電流-電位曲線を作製して、Bi_2Te_3膜の得られる電位範囲を明らかにすることを試みた。続いて、その析出電位範囲内で、電位と得られた膜の組成、格子定数の関係を調べるとともに、膜のゼ-ベック係数を測定した。ポテンショスタットを用いてTi電極上に3電極方式で電析を行ったところ、-0.25〜+0.08V vs Ag・AgClにおいてBi_2Te_3の単相膜が得られた。析出電位の減少とともにBi_2Te_3のa軸長が増加し、逆にc軸長は減少する傾向が見られたことから、析出電位を変化させるにより膜の組成を制御できることが明らかになった。+0.02Vを境にこれより貴な電位ではn型膜が、卑な電位域ではp型膜が生成した。これまでのところ、物性測定が可能な緻密な膜は+0.02V近傍で合成された低キャリア濃度のものに限られており、ゼ-ベック係数の最高値は+0.04Vで作製された膜の-63.4μVK^<-1>(300K)である。
著者
平田 武
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、政治学研究上の空白となっているハプスブルク君主国とその継承諸国の政治発展をヨーロッパ全体の政治発展の中に位置づけることに寄与する目的をもって始めたものである。研究期間中には研究文献・同時代文献・史資料の収集とその分析をすすめ、その成果の一部として、ハプスブルク君主国のオーストリア側における政治発展を概観した研究(雑誌論文)、東中欧・南東欧地域における政治発展の見取り図を含む論文(近刊の共同研究論文集に所収の予定)、1920年代の当該地域におけるデモクラシーの崩壊事例の研究などをまとめた。
著者
服部 徹太郎 諸橋 直弥
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

申請者は,CO_2をLewis酸で活性化し,有機化合物へ親電子的に固定化する方法について研究しており,AlBr_3の存在下,トルエンのCO_2によるカルボキシル化が,過剰量のMe_3SiXの添加により著しく促進されることを見出している。本研究の目的は,本反応の反応機構を検証し,その原理を抽出して新しい高度分子変換法へ展開することであり,今年度は,下記の成果を得た。1. トルエンのCO_2によるカルボキシル化におけるシリル化剤の反応促進効果は,シリル化剤が活性種と考えられるCO_2とAlからなる錯体をよりいっそう活性化するためであることが昨年度の研究により示唆されたが,このことがIRによる活性種の分析でも支持された。また,CO_2圧下,R_3SiClとAlBr_3を反応させて得た反応混合物を用いると,窒素下でもトルエンを30%程度の収率でカルボキシル化できることを見出した。2. N-上に置換基を有するピロール類およびインドール類が,Me_2AlClの存在下に,CO_2で容易にカルボキシル化できることを見出した。3. CO_2を選択的かつ強く活性化する金属錯体を設計することを最終的な目標として,種々のモノおよびビスチアカリックス[4]アレーン類を合成し,チタンとの錯形成能を評価した。4. ケイ素上に種々の置換基を有するシリルアミンR_3SiNR'_2とAlCl_3を用いて,N-メチルピロール,N-メチルインドールを良好な収率でシリル化できることを見出した。また,シリルクロリドR_3SiClをAlCl_3,^iPr_2EtNとともに用いると,シリルアミンを用いた場合に比べて収率が向上した。5. 班員間共同研究により,1,1'-ビナフタレン-2,2'-ジカルボン酸の誘電率制御分割に成功した。
著者
西村 直子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,ヤジュルヴェーダサンヒター冒頭のマントラ(祭詞,祝詞)集成とそのブラーフマナ(マントラの解釈,意義付けと神学議論)のローマ字テキスト作成,翻訳と注解,並びに分析を行い,ヴェーダ祭式における穀物祭の本祭前日に成される準備儀礼について全容を解明することを目的として出発した。内容は「放牧」「敷き草刈り」「搾乳と酸乳製造」という3つの表題に分けられ,研究全体は「総論」「テキスト」「翻訳」「各論」の4部構成を取る。本年度は「搾乳と酸乳製造」の「各論」後半部分に着手し,酸乳製造の由来を伝えるタイッティリーヤサンヒターII5,シャタパタブラーフマナI6,4と,他派に対応のないマントラを集めたタイッティリーヤブラーフマナIII7,4以上の文献箇所のテキスト作成と翻訳・注解を行った。これらの箇所は文献成立史と祭式の整備過程を解明する重要な典拠となる。しかし,それ故に一つの単語の意味を確定するのにも細心の注意を払わねばならない。また,各文献におけるマントラの扱いに関しては,後代の儀規文献(シュラウタスートラ)への展開の跡付けにもつながる問題を孕んでいる。中でも,先に挙げたタイッティリーヤブラーフマナIII7,4のマントラの殆どは,タイッティリーヤ派から分派した一学派であるアーパスタンバ派のシュラウタスートラにしか採用されていない。当該箇所を,ヴェーダ文献全体の歴史という大きな枠組みから検討し直す必要のあることも明らかになった。本研究を通じ,タイッティリーヤ派とヴァージャサネーイン派とがヴェーダ祭式を大きく転換させる原動力となったことが更に明らかとなった。それは,両派より古層にあるマイトラーヤニーヤ派,カタ派の議論が前提となっていることは明らかである。その過程の解明には,ヤジュルヴェータ学派全体のマントラ集とヴラーフマナとの精査が必要不可欠である。
著者
西村 直子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,ヤジュルヴェーダのマントラ(ヤジュス:個々の行作に伴って唱える祭詞)と,これに対するブラーフマナ(マントラの解釈,意義付けと神学的議論)の翻訳・精査を通じ,古代インドの祭式文献及び祭式の展開を最古層から解明することを目的としている。特に「搾乳と酸乳製造」に関わる諸問題を精査・解明し,穀物祭の準備儀礼に留まらずヴェーダ祭式全体との関連の中で解明することを目指した。本年度は,インドラによるヴリトラ殺しの後日譚を中心として研究を進めた。この神話は,ヤジュルヴェーダ文献の古層以来,特別な新月祭の供物であるサーンナーィヤと結びつけて議論が重ねられてきた。その展開を辿り,ヴァージャサネーイン派のシャタパタブラーフマナに至って,ソーマの循環理論の整備を促したことを指摘した。サーンナーィヤは,酸乳と熱した牛乳とを献供の直前に混ぜ合わせたものである。本祭前日(ウパヴァサタの日)の晩に搾乳した牛乳を酸乳にし,本祭当日の朝に搾乳した牛乳を加熱する。従来は朔の夜に先立つ日中にウパヴァサタを行っていたものと思われるが,ヴァージャサネーイン派は,月の満ち欠けと神々の食物たるソーマが循環するという観念とを連動させ,新月祭のウパヴァサタを朔の夜が明けた日中に行うべきであると主張する。地上の草や水に宿ったソーマを牛達に回収させ,牛乳として手に入れ,献供することによって月を天界に返すことになる。しかし,この新たな方法は貫徹せず,ヴァージャサネーイン派の人々も朔の夜に先立つ日中にウパヴァサタを行っていたことが贖罪法の議論から推測される。その背後にはソーマの循環理論の整備が関与しており,後の五火説を準備する基盤の一つとなっていたことが窺われる。
著者
上原 聡 SANDERS ROBERT 上原 聡
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、北京・台湾の標準中国語間の差異について、特に話者が同一の声調を持つ母音を発音する際に、・この2言語地域の間にどのような音韻学的・音響言語学的相違が規則的に現れるか・それぞれの言語地域内においてどのような社会言語学上のバリエーションが見られるかの2点に関して調査するため、両地域の被験者計83名(北京:54名、台北:29名)を対象にフィールド調査を実施し、現代標準中国語において可能な音節1,275種の発音を、各被験者につき約1時間分の音波ファイルという形で収集した。その後、本研究期間終了時の平成17年3月に至るまでに、計18名分(北京:5名、台北:13名)の音声ファイルに関して、各ファイルの一連の音波を個々の音節に分割し、音節毎の音響学的分析を進めた。従って、現在はデータ全ての分析に基づいた研究成果について結論づけて述べられる段階ではないが、これまでの対照分析の結果、台湾の標準中国語話者の声調について以下のような特に注目すべき点が存在することが判明した。すなわち、(1)台湾話者の第3声は不安定な場合があり、約3%の音節が第二声または第四声として発音されていた。(2)第三声として発音された音節の大半が、通説となっている第三声のピッチパターン、いわゆる半声調と呼ばれる短時間の落ち込み(2-1-1)を示さず、長時間の3-1型下降パターンになっていた。同時に、通常5-1の下降パターンを持つ第四声は、5-3というパターンをとっているケースが多数見られた。従来から標準中国語には地域的差異が存在しないという論理的前提があり、声調各声のピッチパターンについてもそれは同様であるが、この現象は明らかにそれへの反証であり、台湾の標準中国語の声調が独自の内部相関的体系を有していることを窺わせる。以上の考察を、さらにデータ処理・分析を進め、サンプル数を増やすことによって検証して行くことが今後の課題となる。