著者
山川 夏葵 松浦 拓哉 手計 太一 前川 修 林 達夫 尾田 茂彦
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2019年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.178, 2019 (Released:2019-12-07)

本研究の目的は,神通川流域内に位置する公立小中学校の校歌と河川の歴史的背景の関連性を明らかにすることである.研究対象領域を神通川流域内の現存する全ての公立小学校と公立中学校とした.この全ての学校から校歌を収集し,解析を行った.収集した校歌を全てテキストデータ化した後,形態素解析を実施し,単語抽出を行った.校歌詞に出現する名詞や形容詞の回数を調べた.神通川流域内の富山県の小中学校の名詞の出現頻度では,神通という単語よりも,立山という単語が多く出現し,神通川流域内の岐阜県の小中学校の名詞の出現頻度では,山という単語よりも,宮川という単語が多く出現した.また,神通川流域内の全ての小中学校の形容詞の出威厳頻度では,清いというが最も多く出現した.全小中学校の創立年と校歌に神通川が含まれる学校数を調べた.いつの時代においても,神通川が含まれる学校の割合が変わらず,学校の創立年と校歌に神通川が含まれる学校数の関係性は認められなかった.神通川が含まれる学校の創立年と神通川の歌われ方を創立年順にまとめた.明治に創立した学校では,神通川は,たくましい,強い力,雄々しいなどのうたわれ方をしており,昭和や平成に創立した学校では,清い,おおらか,優しいなどのうたわれ方をしていることがわかる.神通川の歴史を振り返ると,明治34年に馳越工事が開始し,明治36年に完了した.明治43年には水害,大正3年には洪水が起こった.大正14年にようやく,神通川上流,下流両方の堤防が完成し,氾濫を抑えられた.神通川の歴史と照らし合わせると,神通川の氾濫があった明治に創立した学校では,神通川は強いイメージであり,大正14年に氾濫を完全に抑えることができてからの,昭和や平成に創立した学校では,神通川は清い,優しいといったイメージである.本研究では,岐阜県では,山よりも宮川が多く出現しているが,富山県では,神通川に比べ立山の出現頻度が高く,立山への親しみや愛着の強さが考えられた.清いは,山や川など自然を連想させ,地域を代表する景観と校歌の関連性があると考えられる.また,神通川のうたわれ方は神通川の状況とともに,強いイメージから優しいイメージに変化している.神通川流域内に位置する公立小中学校の校歌と河川の歴史的背景の関連性が高いことが明らかになった
著者
宮本 守 木内 豪
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 第18回(2005年度)水文・水資源学会総会・研究発表会
巻号頁・発行日
pp.51, 2005 (Released:2005-07-25)

人口増加や生活水準の高度化などの都市成長により,都市の熱環境は近年大きく変化している.水圏においても河川水温上昇や淡水化など人為的要因による問題が考えられる.本論文では東京都区部とその周辺地域を流れる荒川下流部を対象として河川水温の長期変動傾向の分析と水熱輸送統合モデルを用いた水温変動の原因解明を行った.その結果,最近20年間の河川水温は新河岸川と荒川の岩淵水門より上流部において顕著な上昇傾向を示していた.逆に隅田川と荒川下流部では,20年間の観測結果からは顕著な水温上昇は観られなかった.また数値計算によって,1998年から2000年までの3年間の河川水温の挙動を再現し,その結果から下水処理水が冬期に約3℃程度河川水温を上昇させていることも確認された.
著者
西山 浩司 広城 吉成 井浦 憲剛
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2019年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.66, 2019 (Released:2019-12-07)

本研究では,古記録に基づいて,享保5年に筑後国の耳納山麓で起こった土石流災害をもたらした豪雨の特徴を調べた.その結果,その土石流災害は,東西方向に走行を持つ線状降水帯が耳納山地の西側から東側にかけて豪雨をもたらしたことが要因であることが推測できる.その結果は,地域の災害リスクを明確化し,地域住民に危機意識を持たせる意味で極めて重要である.
著者
陳 建耀 福嶌 義宏 唐 常源 谷口 真人
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.555-564, 2004 (Released:2004-11-19)
参考文献数
32
被引用文献数
3 2

1970年代に黄河から河川水の取水量が増えるにつれて,下流域に断流,地下水汚染及び塩分集積など水環境問題が深刻になってきた.山東省禹城と斉河県の研究地域を例として,自然変化と人間活動を総合してこれらの問題を解析した.まず文献による年代ごとの黄河流域の主な気候・植生変化と人間活動の影響を整理し,三段階の史的区分を行った.つぎに水資源量・人口・耕地の比率と長期間の降水・流量の時系列資料より断流現象を分析した結果,その主な理由が人間活動に由来するのではないかと考えられた.地下水流動系からみると黄河下流域は流出域であり塩分集積が起こりやすいという特徴を持つが,黄河断流が発生しない限り,すなわち黄河からの水が灌漑に利用可能である限り,下流域の農業は持続可能であろう.下流域の浅い帯水層でのみ硝酸が検出されたが,その主な理由は1.2mのZFPの存在,および上向きの地下水流動である.また,窒素同位体の結果に基づき硝酸汚染は化学肥料,人間廃棄物および家畜し尿によるものと思われる.
著者
筒井 暉
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.14-20, 1990-10-30 (Released:2009-10-22)
参考文献数
5
被引用文献数
1
著者
松田 咲子 西田 顕郎 大手 信人 小杉 緑子 谷 誠 青木 正敏 永吉 信二郎 サマキー ブーニャワット 戸田 求
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.44-56, 2000
被引用文献数
2

タイの熱帯モンスーン地域において,NOAA/AVHRRデータを用い,植生地域を対象として正規化植生指標NDVIと輝度温度Tsの関係と地表面状態との対応について検討した.その結果, NDVI-Ts関係は地表面状態の乾雨季の変化に対応して明瞭な季節変化を見せた.また対象地域においてNOAA/AVHRRの各ピクセルは,植生面,湿潤土壌面,乾燥土壌面といった特徴的な地表面の混合ピクセルとして扱えることが示唆された.この混合ピクセル的解釈に基づきNDVI-Ts関係を地表面の熱収支的観点から表現するモデルを提示した.本モデルによる定量的な解析からは, NDVI-Ts関係には土壌水分条件が反映することが示唆された.またこの混合ピクセル的解釈に基づくフラックス観測データの広域的拡張の一例として,広域潜熱フラックス推定マップを試作した.そしてこの方法を用いて観測データを拡張する際には,密な植生面上と裸地面上といった,いくつかの極端に異なる地表面上で観測する必要があることが示唆された.
著者
渡部 哲史 山田 真史 吉田 奈津妃 佐々木 織江 神谷 秀明 田中 智大 丸谷 靖幸 峠 嘉哉 木村 匡臣 田上 雅浩 木下 陽平 林 義晃 池内 寛明
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.260-265, 2017
被引用文献数
1

 平成29年2月18,19日に東京大学本郷キャンパスにおいて,合計16名の参加者により第6回目となるWACCA (Water-Associated Community toward Collaborative Achievements)meetingを開催した.第6回となる今回は各自の研究内容を理解し,多様なスケールで展開される様々な水関連研究の現状やそれぞれが抱える課題,それらを克服するために必要なブレークスルーについて考える機会を設けた.各自の研究発表を基に,様々な研究分野に共通する課題やブレークスルーなど研究に関する議論や,アウトリーチのような活動に関する情報共有,その他研究を進める上で感じていること等の意見交換を行った.本報告ではそれらの議論の概要について記す.
著者
阿部 紫織 中村 要介 若月 泰孝 佐山 敬洋
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, 2017

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において,IPCC第5次評価報告書が公表されており,人為的な気候変動の理論はもはや疑う余地がない.この気候変動が河川の流況や人間活動に及ぼす影響については,全球レベルでの研究は多数報告されているが,流域スケールでの影響評価事例はまだ十分ではない.一方,気候変動との因果関係は定かではないが,全国各地で浸水被害が発生しており,2015(平成27)年9月関東・東北豪雨による鬼怒川の堤防決壊や2016(平成28)年8月末の小本川の外水氾濫は記憶に新しい.現在気候下での外水氾濫のリスクを評価するだけでなく,将来気候下での浸水被害を定量的に評価することは,気候変動への適応策としても水防災意識社会の再構築の観点からも重要である.本研究では,利根川水系鬼怒川・小貝川を対象とし,気候変動が河川の流況やその氾濫原に及ぼす影響を定量的に評価することを目的とした.<br />本研究では,CMIP-3,SRES-A1Bシナリオに基づいた21世紀末の気候場について,領域気象モデル(WRF)で予測を行った結果を用い,将来の気候場の予測を領域気候モデル実験で推定した.同様のモデルを用いて現在気候の再現計算を行い,現在気候と将来気候の比較を行った.気候変動を評価する水文モデルにはRRIモデルを用いた.シミュレーション期間は2007年~2009年の3年間とし,それぞれ2ヶ月のスピンナップ期間を除いた前年の11月1日~当該年の10月31日とした.<br />河川への気候変動の影響を評価するため,①基準水位の超過頻度,②豊平低渇流量,③氾濫による浸水域について集計を行った結果,以下の推察が得られた.<br />氾濫危険水位の超過が最大で2倍増加し,浸水リスクが増加傾向にあると予測された.また,平水~渇水流量は減少傾向にあり,渇水リスクが増加傾向にあることが示唆された.浸水リスク増加に伴い浸水域が10~40%程度増加し,地域の水害リスクが高まることが確認された.<br />なお,気候変化影響評価には3年間の集計では不十分であり,今後30年分の計算結果を適用する予定である.また,本気候実験の降水量は過大であり,バイアス補正についても別途検討している.
著者
永田 謙二
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.221-236, 2017
被引用文献数
1

<p>&emsp;紛争後国であるアフガニスタンでは,2002年から国際社会による復興支援が開始された.現在は国家開発戦略の実現のために「政府のオーナーシップ」を重視したカブール・プロセスが実施されているが,復興と再建が成功しているとは言い難い.本研究は,水資源セクターから,カブール・プロセスの過程と成果について社会階層別に問題と課題を分析した.その結果,1)政治レベルでは復興支援における「政府のオーナーシップ」原則が不明確であった,2)政策策定レベルでは水資源セクターを分散化して調整機関を二重化した,3)政策実施レベルでは総合的な水資源政策が作成できず政策調整が行われなかった,4)現地社会レベルでは国民によるニーズの意思表示機会が無かった,などの問題を明らかにした.部族主義を基本とする自主独立性の強いアフガニスタンの地域社会では,「国民のオーナーシップ」がより重要である.政府は,地域社会のニーズを政策に反映する必要があり,そのための地方の組織・制度整備と人財育成が必要である.「国民と政府のオーナーシップ」を尊重し促進していくために,ドナーはその基本方針を明確にし,そのための能力向上を図る必要がある.</p>
著者
綿貫 翔 田中 智大 丸谷 靖幸 谷口 陽子 星野 剛 岡地 寛季 小坂田 ゆかり
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.31, 2018

水文・水資源学若手会(以降,若手会)は,主に水文・水資源学会(以下,本学会)に所属する博士課程学生・20代から30代の若手研究者を中心に構成され,2009年に発足した研究グループである.ここ数年の若手会は,発足当時の学位を取得したメンバーが主だった会を主催し,研究面での意見交換や共同研究の可能性など議論してきた.しかしながら,総会の活動報告で,若手会のメンバーが工学に偏っているという指摘があり,試行錯誤しながら,勉強会や現地見学会を企画してきた.<br><br>本学会の創立30周年にあたる本年は,学会誌に特別号が組まれ,その中で若手研究者による総説原稿執筆の機会をいただいた.この機会を活用することで,より幅広い若手研究者との協働の場が得られ,また現在までの研究の軌跡を残すことができると考えられる.<br>そのため,これらの背景を踏まえ,本グループ活動では,工学系以外を背景に持つ人との人脈の作成・拡大を目的として,その人脈によって見識を広げ,水文・水資源学に応用するために勉強会や討論会を通じて,議論することを目指した.さらに,上記の背景から多数の若手研究者による総説を本学会30周年記念号に寄稿した.
著者
丹治 肇 桐 博英 小林 慎太郎
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.22, pp.5, 2009

エネルギー供給とスマートグリッド技術の進歩を前提に,21世紀の水田灌漑システムの再編の条件を検討した.今後,化石エネルギーから自然エネルギーへの転換が起こり,灌漑システムでもエネルギーの自立性が求められよう.スマートグリッドの通信制御技術を効率的に使うために,水田灌漑システムは流水システムから貯水システムへの転換が必要になり,耕作放棄地を活用したラグーン等の設置が求められる.スマートグリッド技術を活用し,水循環を制御すれば,水利用の自由度が上がるとともに,生態系,水質問題の解決が可能である.また,ラグーンを揚水発電と組み合わせることで,灌漑システムのバッテリー利用も有望である.これらの改変で,農地面積は減少するが,発電等の使用料が農家の収入になれば,全所得の向上が可能になろう.
著者
向田 清峻 芳村 圭 キム ヒョンジュン 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

文化の黎明期から人類は常に洪水に悩まされてきた、我が国日本もその例外ではない。本研究では、全球モデルを小さな領域スケールにおいて適用することによってスケールの違いをシームレスにつなぐ河川流路網のモデリングの枠組みを構築することを目的とする。またダウンスケーリングに従って全球モデルでは考慮されていなかった現実の断面形状を組み込み、水位・流量のモデル内での表現を現実に近づける。本研究に用いるCaMa-Floodという河川流路網モデルを開発したYamazaki(2011)の手法を基に日本域において1/12&deg;格子の解像度で河川流路網を作成しシミュレーションを行った。計算は浅水回水路における一次元サンブナン方程式を採用し、キネマティック波に加え拡散波による水の流れを表現し、かつ拡散方程式では無視れさた局所慣性項を考慮して計算の安定性を確保すると同時に高速化を実現している。その中で高解像度にすることに応じて河道断面形状を考慮するために二つの点を導入した。一点目は利根川流域において国土交通省の水文水質データベースとGoogle Mapを用いて各グリッドに対して河道幅と河道深を一つ一つ手作業で入力した。二点目は矩形の単断面に仮定していた断面形状を2つの矩形を横に連結した形の複断面とし導入した。この二点の導入により現実の河道断面形状をモデルに反映させた。栗橋観測所での水位と流量を比較した結果、流量・水位の変動のトレンドを良く表現できた。また全球モデルのCaMa-Floodのシミュレーションでは河道幅、深さは各グリッドの上流流出量の関数によって推定していたが、その関数を本研究での利根川の実河道幅、深さで補正することで利根川流域における河川断面マップを作成した。利根川流域の検証により流量のトレンドが捉えられた。それを利用し河道幅、河道深を推定し全国の河川でシミュレーションを行い水位流量に関して一定の改善が見られた。これは全球における河道幅、深さのパラメタでは小さいスケールの河川を表現できなかったことに起因する。以上の結果から全球スケールでの再現性が確認されているモデルを用い、日本の河川の流域という領域スケールでの水位・流量の再現性を確認できた。実断面形状を考慮することで結果が向上したことにより、十分な地理的データのある場所で高解像度でのシミュレーションが行えることが分かった。
著者
吉田 奈津妃 キム ヒョンジュン 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.28, 2015

陸域水循環のモデリング研究において、大気と地表面の間のエネルギー交換(潜熱と顕熱)とそれに伴う水の相変化(蒸発散)は重要なプロセスである。これまで地球規模のエネルギー・水収支の算定をより現実的に行うため、地表面の情報を陸面モデルに取りこむ研究がなされてきた。しかし、地表面情報には異なる手法や元データの時空間的な不均一性等による不確実性が存在することが指摘されている。陸域水文研究においても、気候外力である降水データの持つ不確実性が河川流量に影響を与えることが明らかになっている。しかし、これまで地表面情報の不確実性が全球陸面水文モデルの推定値にどのような影響を与えるのかはほとんど明らかにされていない。そこで、本研究では地表面情報の不確実性が全球陸面モデルによる水収支に与える影響を明らかにすることを目的とする。地表面の情報については、植生被覆・土地被覆・土壌タイプを対象とし、現存するこれらのデータを複数収集し、陸面モデル入力データの整備をした。そして、陸域水文モデルMATSIROを用いたアンサンブルシミュレーションを行った。得られた水文量について、降水が蒸発散量と流出量に分かれる内訳や、蒸発散量の内訳(蒸散・遮断蒸発・土壌蒸発・植生からの昇華、土壌からの昇華)、流出量の内訳(表層流出、深層流出)について、全球やBudyko気候区分による地域ごとの比較を行った。その結果、まず地表面情報の不確実性については、LAIと土地被覆分類は、特に北半球の高緯度地域において不確実性が高いこと、土壌分類は全球的に不確実性が高いことが確かめられた。また、LAIと土地被覆分類の不確実性は、水収支へ与える影響は小さいものの、蒸発散量や流出量の内訳を大きく変えることがわかった。特に半湿潤地域と寒湿潤地域での流出量の内訳を変えることがわかった。土壌分類においては、水収支と蒸発散量の内訳へ与える影響は小さく、半湿潤地域と寒湿潤地域の流出量の内訳を変えることがわかった。本研究は、初めて地表面情報の不確実性が全球陸面モデルに与える影響を明らかにした研究であり、複数のデータセットを収集し、アンサンブルシミュレーションを行うことで不確実性の幅を明らかにした。この成果は、陸域水循環のモデリング研究において、推定値の確からしさを判定する際やモデルの改良点を見つける際に有益な情報となる。
著者
ソクサバト ボンサック 中山 幹康
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.24, pp.9, 2011

ラオスのナムグム1ダムは1971年に発電を目的として建設された.本研究は,建設後約40年を閲した時点での,移転民の生活再建状況を精査することである.1968年に移転したPakcheng村および1977年に移転したPhonhang村の2つの村について,各50世帯を対象とした訪問調査を実施した.Pakcheng村の人々はPhonhang村に比べて遙かに豊かであった.2つの村での貧富の差は,水利と道路整備の差異に起因していることが判った.Phonhang村での灌漑施設の建設や道路の舗装など,2つの村の間に存在する経済的な格差を減少する為の対策が,政府により執られることが望まれる.
著者
萩原 葉子 栗林 大輔 澤野 久弥
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.28, 2015

&nbsp; 2011年のタイ国チャオプラヤ川の洪水は死者815名、経済被害約400億ドルという大きな被害をもたらした。日本はこれまでタイへの最大の投資国であり、特に浸水被害が大きかった中~下流域の7つの工業団地では被災企業804社のうち日系企業が半数以上の451社を占めた。本稿の目的は、2011年の洪水後、在タイ日系企業の工場がどのように洪水対策を強化したかを調査し、今後の企業防災や地域防災のための課題を明らかにすることである。2015年2月~3月に、バンコク日本人商工会議所会員企業1,605社のうち、製造業の会員企業735社を対象に実施したアンケート調査の結果を2011年の洪水前後の洪水対策の実施率に焦点をあてて、浸水のあった工場と浸水のなかった工場それぞれについて分析した。<br> &nbsp; アンケートについて、コンピュータ・電子製品・光学製品、電気機器、金属製品、その他輸送用機械器具等の業種に属する28工場から回答を得た。そのうち12工場が2011年の洪水で浸水し、平均床上浸水深は約1.7mであった。浸水した工場は中~下流のアユタヤ県あるいはパトムタニ県に位置していた。浸水しなかった残りの16工場は下流のバンコク都、サムトプラカン県、バンコク南西のサムサコン県、東部のプラチンブリ県、南東部のチャチェンサオ県、チョンブリ県、ラヨン県に位置していた。<br>&nbsp;&nbsp; 分析の結果、企業防災・地域防災を強化していくうえでの今後の課題が明らかになった。2011年に浸水したアユタヤ県、パトムタニ県に位置する12工場は従業員の安全確保や浸水を防ぐ構造物の築造、洪水関連情報の入手、操業の早期復旧、防災計画や防災を管轄する部署の設置等の対策を強化した事がわかった。しかし、自社の生産拠点の多角化、事務所・工場等の生産拠点の確保、取引先との災害時の協力体制の構築、といった事業継続に必要な社内外との協力を伴う対策については、実施率が低いことがわかった。一方、2011年に浸水しなかった工場も非常時の連絡網の整備や指揮命令系統明確化については洪水後に6割以上の工場が実施し、敷地の盛土・防水壁の築造等や基幹業務システムのバックアップ対策の実施率も上がったが、他の対策の実施率は未だ低く、ほとんどの対策について5割以下であることがわかった。今後さらに業種、事業規模、取引先との関係等によって洪水対策実施率に違いがあるかを分析する。