著者
中 大輔
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

積雪は春先に安定した水資源を供給する.一方,融雪出水の要因でもある.近年の地球温暖化は冬季の降雪を降雨に変え,冬期の流出量増加と春先の流出量減少が指摘されている.したがって,対象流域内における積雪を広域で把握するとともに,積雪の変動が河川流量に及ぼす影響を明らかにする必要がある.特に中国地方は暖地性積雪のため,湿雪である.そのため,積雪深ではなく,積雪深と積雪密度を考慮した積雪水量を正しく把握しなければならない.衛星データと積雪モデルを用いた積雪水量の広域推定手法が検討されている.積雪モデルは降雪モデルと融雪モデルで構成され,融雪モデルとして,Degree-Day法を適用した.しかしながら,中国地方は暖地性積雪であるため,積雪の日変化が大きく,日積雪水量の推定精度が十分でないことがわかっている.そこで,本研究では,次の3つを進め,積雪水量が冬期河川流量に及ぼす影響を解明する予定である.まず,①積雪モデルを改良し,積雪水量の推定精度を向上させる.次に,②改良した積雪モデルと衛星データを用いて,対象流域内の積雪水量の広域推定を行う.そして,③河川流量の観測結果と比較することで流域内の積雪水量の変化が冬期河川流量に及ぼす影響を把握する.本稿では,①の積雪モデルの精度向上に着目し,積雪モデルに関する先行研究をレビューし,降雪モデルと融雪モデルを整理するとともに,各モデルが中国地方に適用可能かどうかを検証することを目的とする.
著者
菊池 秀哉
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.26, 2013

近年の気候変動に伴い,気温は上昇している.気温の変化の予測は各地とも上昇傾向にあり1),不確実性はどのくらいの温度上昇幅か,という大きさの問題だけである.しかし降水量の変化は非常に複雑であり,地域によって量も大きく増減するために不確実性はまだまだ大きいといえる.また,降水形態が雪から雨に変化し,また積雪も直ちに融解するため,積雪量は大きく減少し,季節の訪れが早くなり,融雪が早まり,融雪水量の減少が考えられる.実際に平成23年4月に岩木川水系において融雪洪水が生じ,新鳴瀬橋(弘前)地点における氾濫注意水位を上回った.また,暖冬傾向となり,積雪量が減少し,梅雨期の降水量も多い年と少ない年の変動が大きくなる.そうなれば渇水などの頻度が増える可能性が高いと考えられ,水不足が懸念される.実際に平成23年夏季に岩木川水系において渇水が生じた.目屋ダムの貯水位は平成に入ってから最低水位である160mを下回った2).したがって流量解析における積雪水量の推定が重要であると考えられる.しかしながら本研究で用いるSWEモデル3)は実測の積雪深データを使用し,同化する手法(section3-2)を用いているため,データ自体の不足や将来予測を行う際の積雪深データはないため,補う必要がある.そのため,推定式を導きたい.したがって,本研究は前段階として同化手法を用いて各積雪深観測地点における同化量(積雪水量差)を解析し,積雪量と標高,同化量の関係を評価した.
著者
近藤 純正
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.1-13, 1990
被引用文献数
1
著者
瀬戸 心太 下妻 達也 久保田 拓志 井口 俊夫
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

二周波降水レーダ(DPR)を搭載した全球降水観測計画(GPM)主衛星は、2014年2月28日にH2Aロケットにより打ち上げられ、3月よりDPRの運用が開始された。DPRは、TRMM(熱帯降雨観測衛星)搭載のPR(降雨レーダ;周波数13.8GHz)の後継と位置づけられるKuPR(周波数13.6GHz)と、弱い雨や固体降水の観測に適した設計のKaPR(周波数35.5GHz)から構成されている。図-1に示すように、一部のピクセル(紫色)では、KuPRとKaPRによる二周波同時観測が可能であり、降水推定精度が高くなると期待されている。DPRに適用する降水推定アルゴリズムは、日米共同チームで数年前から開発が進められてきた。打ち上げまでは、PRから作成した模擬観測データを用いて、アルゴリズムの検証と改良を行った。運用開始以降、実際の観測データにより、プロダクトの検証とアルゴリズムの調整を行っている。標準プロダクトは、打ち上げ半年後の9月頃から一般公開される予定である。本発表では、レベル2プロダクトの概要と初期評価結果を紹介する。
著者
久米 朋宣 オダイール ジョセ マンフロイ 蔵治 光一郎 田中 延亮 鈴木 雅一
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.94, 2006

本研究では,単木の蒸散計測手法である樹液流測定を利用した簡便な遮断蒸発量の推定方法を開発した.本法では遮断蒸発が生じる樹冠濡れ時間を特定することがキーとなる.筆者らは,樹液流測定を利用して樹冠濡れ時間を特定する方法を編み出し,この樹冠濡れ時間を蒸発散量推定モデルの検証データとして利用し,未知パラメーターである最大付着水分量及び空気力学的抵抗を決定した.得られた未知パラメーターより遮断蒸発量を推定し,観測値と比較検討することにより,本研究で開発した手法の実用性を検証した.
著者
沖村 孝
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-4, 2016-01-05 (Released:2016-04-15)

In Japan, debris disasters often took place caused by intense rainfall that intensity is more than 70~80 mm/hr. Other characteristics of these intense rainfalls are as follows; 1) affected areas was small within limited areas, and 2) continued period was very short such as 1~5 hours. From 2010 to 2015 years, many debris flows took place by these intense rainfalls and many lives were killed by these debris flows. In order to save human lives from these debris disasters, evacuation is very important in addition to construct check dams. Such evacuation may be achieved by the risk information about for hazardous site and time. For the purpose to mitigate debris disasters, three wears, hard (to construct disaster prevention structures), soft (to delineate hazard area and to push risk information) and human (to participate in evacuation training and to evacuate), are pointed as important measures.
著者
山本 浩大 佐山 敬洋 近者 敦彦 中村 要介 寶 馨
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2017年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.81, 2017 (Released:2017-12-01)

近年、局所的な豪雨の影響により、計画規模に匹敵する、または、それを上回る洪水が発生し、都道府県が管理する中小河川では深刻な洪水被害が頻繁に生じている。中小河川災害の一つとして、2009年8月の台風9号による洪水災害が挙げられる。本災害では、千種川水系の上流部の中小河川で溢水・越水が発生し、特に佐用川流域では、山地からの流出や支川の氾濫が複合的に発生し、各地で深刻な被害が生じた。地球温暖化に伴うゲリラ豪雨の発生等に対して、治水整備のみで安全を実現するのは容易ではなく、洪水予測システムの情報に基づき、避難体制を構築することが重要である。洪水予測モデルとして、最近では分布型モデルも実務で使用されているが、それらのモデルは、雨量から流出量を予測し、流出流を河川水位に換算するものであり、氾濫を予測するものではない。また、洪水氾濫の影響が河川流量に大きく影響している場合は、従来の方法では、氾濫後の河川流量の再現性には問題があった。一方で、既存の氾濫モデルは、破堤地点上流の河川流量や水位を境界条件とし、特定の堤内地をにおける詳細な氾濫解析に適するものが多い。千種川のような中山間地域を含む流域では、河川沿いの氾濫が複数箇所で発生するため、降雨情報から各地で起きる浸水域を予測するには、流域全体で降雨流出過程と氾濫過程を一体的で解くモデルが望ましい。本研究で用いる降雨流出氾濫モデル(Rainfall-Runoff-Inundation model)は、流域全体で降雨流出から氾濫計算まで一体的に解析するものであり、溢水・越流などの氾濫を伴う洪水を解析するのにふさわしいと考えられる。既往の適用研究はアジアを中心とした低平地を含む流域が多く、モデルの評価に用いる水文データが不十分であったため、限られた観測点を対象に適用性を検証してきた。本研究は、水系全体で詳細な河道断面の情報を反映し、多地点の観測流量・水位情報を用いてモデルの適用性を詳細に検証した。その結果、モデルは浸水深の動向だけでなく、任意の断面で水位や流量が再現できることがわかった。
著者
戸田 淳治 田中 賢治 浜口 俊雄
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.26, 2013

[研究の目的]自然災害による犠牲者を一人でも減らすため、洪水災害や土砂災害の予測から避難警報に至るまでのプロセスをシステム化し、防災情報を必要とする人々が避難に対する意思決定を行う上での指針を示すことが最終目標であるが、今回は洪水氾濫シミュレーション部分を中心に述べる。  [システムの概要]近年頻発するようになった大雨などによる洪水災害に備えるため、我々は流出予測及び氾濫予測を行うための流出氾濫統合システムを構築した。流出モデル及び氾濫モデルを統合し一元的に扱うため、両モデルの空間解像度、計算時間間隔は同一とする(前者は1km、後者は10分毎)。流出モデルから出力されるメッシュ毎の水位データ等が氾濫モデル入力データとなる。また地盤高データは10mDEMを使用し、下記の佐用川流域での大雨イベントにおける再現計算で使用した降雨データは1kmメッシュの解析雨量である。  [これまでの研究]構築された洪水氾濫統合解析システムを実流域にあてはめ、再現性を評価する研究を行った。我々が取り上げたのは2009年8月に兵庫県佐用町で発生した水害である。出力結果(メッシュ毎の浸水深)の評価手法であるが、浸水深実績データとの比較に加えて平面二次元不定流モデルの出力結果と比較することで行った。平面二次元不定流モデルの空間解像度(50m)を基準にして、内・外水氾濫マクロモデルの空間解像度を50m、100m、1kmと変化させて計算精度を比較した。1kmメッシュの浸水深データは50mメッシュにダウンスケーリングした。 [今後の予定]上記システムを用いて2011年8月下旬に発生した台風12号がもたらした紀伊半島豪雨の再現計算を行う。計算対象は十津川流域、降雨データは空間解像度2kmのメソアンサンブルデータを使用する予定である。この事例では洪水災害に加えて土砂災害の影響が大きかったため、洪水氾濫モデルから出力されるメッシュ毎の浸水深データに土砂災害の発生危険度分布を加味したデータ(複合災害に対する危険度を示すデータ)を作成し、避難モデルの入力データとする。
著者
田中 智大 丸谷 靖幸 田上 雅治 綿貫 翔 池内 寛明
出版者
水文・水資源学会
雑誌
研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, 2017

水文水資源学若手会(以下若手会)は,主に水文・水資源学会に所属する博士課程学生・20代から30代の若手研究者を中心に構成されている研究グループである.本若手会は2009年から活動を開始しており,多分野との交流および研究面での意見交換や共同研究の議論を積極的に進めている.この活動で得られた研究者間のつながりや自身の研究に対するフィードバックは大きく,水文・水資源研究に関わる現在未参加,未加入の研究者がより魅力を感じられるように本活動を展開することが重要であると考えている.一方で,このような活動を続ける中で,水文・水資源研究をキーワードにして多分野の研究者が集まることに対し,どの程度の関心が寄せられ,どれほどの展開を見込むことができるかを知りたいという想いもあった.若手研究者による多分野交流や研究者間ネットワークの構築を基本的な活動としたうえで,その活動の根本にある本学会・学会誌の意義について現状の認識を調査することは,今後も本学会に携わっていく若手研究者として重要な活動ではないかと考える.これらの背景を踏まえ,本グループ活動では,水文・水資源研究をキーワードにした異分野交流やネットワーク構築を目指し,若手研究者が自由に議論する機会を設けること,およびアンケート調査を通して若手会の基礎である本学会・学会誌の現状を把握することを目的とする.以上の目的を踏まえ,2016年度は,1)総会・研究発表会前に研究アプローチに着目した討論会を開催するとともに,福島県の猪苗代湖に端を発する安積疏水関連施設の現場見学会を実施した.さらに, 2)水関連分野研究コミュニティによるテーマ勉強会の開催し,研究内容や今後の展望に特化して一人40分から60分程度の発表・質疑を行い,参加者の専門分野の研究について詳細まで共有した.また,3)本学会員の学会に対する認識に関するアンケート調査を実施した.以上の活動を通して,研究活動とより密接した形で研究者間ネットワークの構築を図ることができた.また,学会の現状に関するアンケート調査から,分野融合や研究者ネットワークの構築に関して,さらに精力的に,もしくは少し視点を変えた取り組みが必要であることが示唆された.今後は,これまでの活動を踏まえ,若手研究者のネットワーク構築のための活動をさらに展開したいと考えている.
著者
島村 雄一 泉 岳樹 中山 大地 松山 洋
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.331-348, 2003-07-05
参考文献数
31
被引用文献数
8 9

林床積雪の判別が可能な積雪指標S3 (斎藤&middot;山崎, 1999) をLANDSAT-5/TM画像に適用し, 積雪水当量&middot;融雪量を推定した. 積雪指標の適用を想定したADEOS-II/GLIが未稼働なので, 衛星データへの適用は本研究が初めてである. 1986年の融雪期の黒部湖集水域を対象として, 積雪指標を用いて積雪域を抽出した. ここでは, この地域における標高と積雪水当量の関係 (関西電力株式会社工務部, 1960) と山地積雪モデル (小池ほか, 1985) に基づき算出した2時期 (1986年4月14日と4月30日) の積雪水当量の差を融雪量とした.<BR>推定された融雪量は, 同じ期間の黒部第四ダムでの観測流量と相対誤差&mdash;8.2%で一致した. 植生の影響を考慮せずに可視波長帯から抽出した積雪域を使った場合の推定誤差は&mdash;23.8%であり, この差は積雪指標が林床積雪を判別できているためと考えられる. 以上から, 積雪指標による積雪域の抽出は妥当であり, 植生の影響を考慮しない方法よりも優れていると言える.
著者
鈴木 哲司
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

土地利用の改変は、放射環境や蒸発散量を変化させ、地域の水収支や熱収支そして生態系に対して影響を与える可能性がある。近年、半乾燥地域であるナミビア北中部地域では、従来は未利用であった季節性湿地帯(以下,オシャナ)の水資源を有効活用し稲作を導入しようとする動きがある。オシャナはその下流部に多くの野生動物の生息域となっているエトーシャ国立公園を有する。そのため、稲作導入によりオシャナの水収支に対しどのような影響が及ぼされるのかを明らかにすることは、地域の生態系保護の観点からも重要である。そこで、本研究は、ナミビア北中部地域に出現するオシャナでの稲作導入に伴う水収支への影響について、とくに蒸発散量の変化とその要因を明らかにすることを目的とし実施した。2008年9月よりナミビア北中部地域に位置するナミビア大学オゴンゴキャンパスにて、オシャナ内にイネ圃場(Rice field, RF)と自然植生圃場(Natural vegetation field, NVF)を、アップランドにアップランド圃場(Upland field, UF)を設営し、ボーエン比・熱収支法によって蒸発散量(<i>ET</i>)を測定した。<i>ET</i>は、すべての圃場において降雨(<i>P</i>)の開始と共に増加した。しかし、UFでは雨季終盤にかけて<i>P</i>の減少に伴い<i>ET</i>も減少する傾向が見られたが、NVFとRFについてはオシャナに水面が存在している期間は<i>P</i>の存在に依存せず比較的高い<i>ET</i>を維持していたことがわかった。NVFとRFの<i>ET</i>は2010年の乾季に顕著な差を示した。その乾季の間、RFの<i>ET</i>は約0.6 mm day<sup>-1</sup>を推移したが、NVFのそれは約0.9 mm day<sup>-1</sup>を推移した。RFではイネの収穫に伴いイネの地上部が刈り取られたことで地表面が現れアルベドが増加し、<i>Rn</i>が減少し、<i>ET</i>が減少したのではないかと考えられる。この結果は、イネを導入する際の栽培管理方法によって栽培期間の雨季だけでなく、乾季においても<i>ET</i>が影響を受ける可能性があることを示唆しており、より詳細に解析を進めていく必要があろう。今後は当地の<i>ET</i>を規定する要因について分析を進め、それらの因子に対する稲作導入の影響についてさらに検討していく。
著者
田中 幸夫 中山 幹康
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.144-156, 2010
被引用文献数
5

本稿では,中東に位置するティグリス・ユーフラテス川流域を事例に国際河川紛争の解決要因の検討を行う.同流域では主にトルコ・シリア・イラクによる水争いが20世紀後半以降顕在化し,流域国間での合意形成が幾度にもわたって試みられたが,いずれも不調に終わり,現在に至っている.このような膠着状態を脱却する要件として,本稿では「イシューのパッケージ化」に着目した.特定の争点の妥協を誘引するためにその他の争点を交渉に導入する(イシューをパッケージ化する)という手法は意識的または無意識的に様々な資源交渉もしくは国際交渉の場で行われている(本稿では米国とメキシコの間のコロラド川水質汚染問題におけるイシューのパッケージ化を例示した).ティグリス・ユーフラテス川の事例においても,流域国間でトレードオフが可能な争点としてエネルギー,国境貿易および経済開発,民族(クルド人)問題などが挙げられた.これらを水資源配分の問題と合わせて流域国間交渉に導入することにより,流域国の協調が達成可能となることが期待される.
著者
真木 雅之 前坂 剛 岩波 越 三隅 良平 清水 慎吾 加藤 敦 鈴木 真一 木枝 香織 Lee Dong-In Kim Dong-Soon 山田 正 平野 廣和 加藤 拓磨 小林 文明 守屋 岳 鈴木 靖 益田 有俊 高堀 章
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.21, pp.11, 2008

次世代の豪雨強風監視システムとして,防災科学技術研究所が複数の研究機関,大学と連携して進めているXバンドレーダネットワーク(X-NET)の概要について述べた.2007昨年度に準備を終了し,2008年と2009年の試験観測を通じて以下の項目に焦点を当てた研究をおこなう.•首都圏上空の雨と風の3次元分布(時間分解能6分,空間分解能は数100m~500m)の瞬時集約と配信.•上記の情報に基づく豪雨域,強風域の検出と監視.•外そう法による降水ナウキャスト,およびデータ同化した雲解像数値モデルによる降水短時間予測.•局地気象擾乱の構造,発生過程,発生機構の理解.•都市型災害の発生予測手法の高度化.•気象学,防災研究,気象教育,建築,都市,交通,電力,通信,情報,レジャー産業などの様々な分野における基礎的な気象データベース作成.
著者
尾中 俊之
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

近年,局地的集中豪雨の多発や水資源の偏在化による旱魃など,地球温暖化に起因すると思われる異常気象災害が地球規模で年々深刻になりつつある.それらの対策としてクラウド・シーディングを用いた気象制御手法の研究が世界各地で行われている.ただし,降雨を促進させる人工降雨の研究はこれまで数多く実施されているが,豪雨抑制を目的とした研究はあまり行われていない.そこで本研究では,シーディングによる豪雨抑制効果を明らかにするため,複数の豪雨事例についてメソ気象数値モデルMM5を用いて実験的なシミュレーションを行った.また,シーディングを行うことによる積雲対流の変化のメカニズムについて詳しく解析し,主にシーディング高度と効果との関係に着目して,どのようなプロセスを経て豪雨抑制効果が得られるか検討した.複数の事例を比較・検討した結果,事例による傾向の違いはあるものの,対流性の雲が発達した事例においては比較的高高度のシーディングに対して高い抑制効果が表れたものが多く見られた.また,高度毎にシーディングを行うことで発生しやすい降水粒子に違いがあることが分かり,降水粒子の落下速度に依存して降水域の集中度が増減していることが分かった.<br>
著者
小林 哲夫
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.280-284, 1996

自然状態下の土壌中では,液体水と水蒸気が局所熱力学的平衡状態にあると見なせることは既に確認されている(Milly, 1982).本報では,蒸発時には,土壌表面およびその近傍においても局所平衡が成り立つと見なせることが明らかにされる.この結果は,数値気象・気候モデルにおいて土壌表面の含水率から"表面湿度"を推定するために提案された多くの実験公式が,熱力学的平衡公式(本文式(7))に代わるもの(Lee and Pielke, 1992)ではなく,水蒸気の移動に対する抵抗の影響を強く受けた物理的意味の乏しい経験公式であることを示唆する.
著者
山本 太郎
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.28, 2015

日本近海で発生する多くの台風は,北海道に接近するまでに勢力が衰えたり進路がそれたりするため北海道では本州ほど台風被害は多くないが,近年H15年日高豪雨やH18年豪雨など台風による大雨被害が発生し,さらに道東方面の河川で台風が主要因の洪水が増加している状況もある.これらを踏まえこれまで北海道に接近または到達した台風の特徴として経路と降雨分布の傾向を調べた. 1961年以降2014年までの54年間に発生した台風について,北海道に接近した台風を抽出し接近するまでのルートと中心気圧の変化の傾向を整理した.北海道の接近した台風のうちほぼ6割の台風が日本海ルートで接近し,残りが本州縦断ルート,太平洋ルートから接近している.北海道に接近した台風のうち中心が北緯30度を気圧980hPa以下で越えた台風の北緯40度を越えたときの中心気圧を整理すると,1961年以降54年間の平均でみれば,北緯40度を越えた時の中心気圧は日本海ルートでは986hPaに対して太平洋ルートでは981hPaと低く,太平洋ルートで北海道に接近する台風は接近する台風の割合は少ないが中心気圧が低いままで接近することが多いことが示された. 北海道に接近した台風について北海道の通過コースを区分し,そのうち1991年以降に北海道に接近した台風から北緯40度を中心気圧980hPa以下で越えた台風を抽出し,アメダス降雨量を整理した.日本海寄りのコースを通過した台風では,函館や苫小牧,稚内など道南・道央・道北で降雨量が多いが,雨量としては80mm程度でそれほど多くなく50mmにも達しない程度の場合も多い.これに対して主に太平洋寄りのコースを通過した台風では帯広や釧路,北見など道東で総雨量100mmを超えることも複数回発生しており,近年北海道を通過した台風では道東が主に影響を受けていることがわかった.
著者
河野 真典 萩原 良巳 萩原 清子
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 第21回(2008年度)水文・水資源学会総会・研究発表会
巻号頁・発行日
pp.67, 2008 (Released:2008-11-28)

水辺環境は場所によって変化し,その場にいる人に与える刺激は異なるため,感じ方も変化する.そこで,本研究は水辺の評価として印象に着目し,鴨川の左岸と右岸の印象の差を明らかにすることを目的とする.鴨川で2区間を設定し,それらの両岸で調査を行った.単純集計から左岸と右岸の差を明らかにした.次にクラメールの関連係数によって調査項目間の関連を明らかにし,次いで印象をプロフィール図と因子分析により考察した.単純集計からは「歩道」「特色」「変化の度合い」などで差があることが分かり,山の比較的見えやすい区間2の右岸では「風景がよい」という回答が左岸より多かった.プロフィールでは「変化の度合い」や「特色」で大きな差があることが分かり,因子分析では区間2の方が構成するI構成項目に差があることが分かった.関連分析と現地調査から,歩道の状態,遠景の見えやすさ,にぎわいが印象の差に影響を与えていると考えられる.
著者
田原 俊彦 大石 哲
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

近年,局地的集中豪雨,台風等による気象災害が問題となっており,その一例として河川増水による浸水被害が挙げられる.河川増水による浸水被害を抑制するためには,河川上流に位置するダムによる洪水調節の最適化が重要である.そこで本研究では,2013年台風第18号(MAN-YI)による一連の降雨時における桂川上流の日吉ダムの放流操作に動的計画法(DP),確率動的計画法(SDP)を用い,気象庁の週間アンサンブル数値予報GPVを導入することにより,事前放流を考慮したダムの放流操作の最適化の検討を行った.その結果, SDP,DPによるダムの放流操作は,週間アンサンブル予報の予報精度がある程度高ければ,実際の操作よりも洪水調節効果が高くなるが,予報精度が低ければ実際の操作よりも洪水調節効果が低くなる可能性があることがわかった.また,週間アンサンブル予報を用いて事前放流を行い,降雨が始まればダムの流入量,下流の流量を見ながら適宜ダムの放流操作を修正する提案手法においても十分に洪水調節効果を高めることができると示された.
著者
能登谷 拓 小林 健一郎 奥 勇一郎 木村 圭佑
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

2013年9月,台風第18号が日本に上陸し,近畿地方においては,淀川水系の桂川や宇治川などが氾濫し,京都府,滋賀県を中心に大規模な浸水被害が生じた.日本は地形的に洪水災害が発生しやすくなっており,突発的な豪雨に備えた防災体制が必要であると考えられる.本研究は,淀川流域における将来的な大雨の影響評価を行うことを目的とし,最新のメソ気象モデルであるWRFを用いて,平成25年台風第18号による大雨の再現実験と温暖化差分を加算した海面水温を境界値とする海面水温温暖化実験を行う.本来温暖化の影響を厳密にシミュレーションするためには,気温,水蒸気量,気圧などのあらゆる諸物理量の気候変動の影響を考慮した擬似温暖化実験の手法が用いられるべきという報告がある.しかし,今回は海面水温の上昇だけを考えた海面水温温暖化実験を行うことにより,海面水温の変動がもたらす影響を定量的に評価することとした.本研究で行った実験では,海面水温を上昇させると時間降水量,積算降水量ともに大きく増加した.このことから,将来的な台風第18号を超える大雨の発生を想定し,河川計画の策定なども含めた防災体制を整える必要があると考える.