著者
大口 昭英 松原 茂樹
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平成15年4月〜平成20年3月までに、妊婦1500例に対して妊娠16〜23週に子宮動脈血流速度波形計測を行った。妊娠20〜23週、妊娠28〜29週および妊娠37週の採血時に、各々1358例、916例、365例に妊婦より10mLの採血を行い、血清および血漿を分離し、-20℃で保存した。これらのコホートを用いて以下3つの研究成果が得られた。(1)初期コホート587例についての検討から、妊娠中期(妊20週前後)の子宮動脈血流速度波形notch depth index(NDI)上昇(深いnotch)と妊娠中期の高血圧前症/高血圧を用いたスクリーニングにおける妊娠高血圧腎症(以下PE)発症予知の感度(84%)は、各々単独でのスクリーニングに比べて(各々53%、63%)、PE発症予知の感度を大きく上昇させることを明らかにした。(2)妊娠16-23に子宮動脈血流速度波形計測を行い、かつ、妊娠16-23週、27-29週で血清PIGF、sFlt-1値を測定した単胎妊婦コホート261例についての検討から、妊娠中期に子宮動脈血流速度波形のノッチの深さが深い症例(NDI増加例)では、妊娠中期の血清P1GF値がすでに低値を示していること、また、妊娠中期にNDI増加及びPIGF低値を示した群は、妊娠28週前後の血清sFlt-1高値を示す割合とPE発症率が最も高いことを明らかにした。(3)妊娠20-23週、27-30週、及び36-38週で採血した正常妊婦85名の血清を用いて、妊娠20-38週の血清soluble endoglin(sEng)正常域を決定した。さらに、早発型PEでは、疾患発症後sEngは全例(25/25)高値(≧95%値以上)を呈したこと、また、将来早発型PEとなった妊婦では、妊娠16-23週において全例(5/5)がsEng高値を呈していたことを見出した。
著者
長井 栄子
出版者
自治医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

認知症高齢者を対象としてユニットケアを実施している施設における安全なケア提供についての実態を知るため、2009年度に施設スタッフおよび管理者を対象にインタヴュー調査を実施した。2010年度は2009年度の調査で得られた結果をもとに質問紙を作成し、無作為抽出した全国の高齢者施設の管理者・看護師・介護士に対し、質問紙調査(郵送法)を実施した。因子分析を行った結果、「安全なケア提供への工夫と困難」として、"全入居者の安全確保因子"、"職員の資質向上因子"、"多職種間での情報共有・支援因子"などの25の因子が抽出できた。さらに、施設群ごとの因子得点(平均値)を多重比較したところ、ユニットケア実施施設と非実施施設間における有意差は認めなかった。しかしながら、各因子を構成する項目ごとには有意差を認めるものがあるため、今後さらに分析を進め、認知症高齢者を対象としてユニットケアを実施している施設でのケアの特徴を見出す必要がある。
著者
横山 徹 南 浩一郎 上田 陽 岡本 隆史
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

腰痛をはじめとする疼痛機序解明を目的にTRPチャネルを中心に細胞内痛みセンサーの解析を行った。皮膚や脊髄などでは、痛み刺激に反応するTRPV1やTRPA1が中枢神経系では、水分調節に関係する視索上核の存在するバゾプレッシン産生細胞に興奮性に作用することをはじめて見出した。また、下肢の痛みなどではバゾプレッシンの分泌が増加し、痛みとバゾプレッシンに密接な関係がある可能性を明らかにした。
著者
伊東 紘一 入江 喬介 川井 夫規子 中村 みちる 谷口 信行
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

臨床応用を試みるために正常者ボランティアの手の骨を用いて骨および周囲の骨膜,腱、関節の描出を行った。骨の内部はおよそ半分が描出できた。骨膜の認識は13MHzの周波数を用いた時にわずかに可能であったが、明瞭な画像とならないので、周波数を更に高めたり、画像処理のための工夫が必要と考えられた。そこで、骨内部における超音波の減衰を測定し、その減衰量から、骨内部の描出に必要なダイナミックレンジを演算処理により向上させる方法を考案し、動物の骨を用いて超音波出力を2通りに変化させて検討した。その結果、動物の骨では送信出力強度の差による変化は見られなかった。また、受信側のサチュレーションや透過パルス以外の信号が混入していないことを確認できた。一方、半分に切断した骨と切断していない骨との間で10dBの減衰量の差があり、骨膜の散乱が大きいことが推測できた。動物および人の骨において骨内部の描出に必要なダイナミックレンジは80dB以上であるとの結論を得た。また、骨内部の描出には一音線上で64回以上の加算が必要であることが判明した。
著者
柳川 洋 藤田 委由 中村 好一 永井 正規
出版者
自治医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

厚生省の実施している感染症サ-ベイランス事業の対象疾患のうち,主に小児が罹患する12疾病を対象として,流行様式の観察を行った。観察の期間は,昭和60年第1週から昭和63年第52週までの209週とし,各週の全国1定点当たりの患者数を資料として用いた。流行の周期性をみるために,自己相関係数を求めた。次に,流行周期は,様々な要因から複合的に構成されることが考えられるため,各疾病ごとにフ-リエ解析を行い,スペクトルを求めた。この際,各疾病で患者数が異なることから,各週の患者数を209週の合計患者数で除して標準化を行った。更に,スペクトルの係数の大きいものから3つの周期を用い,どの程度元のデ-タと一致するかを観察した。結果は以下のとおりである。(1)麻しん様疾患,水痘,乳児嘔吐下痢症,ヘルパンギ-ナについては,季節性がはっきりとしており,第2スペクトルまでで流行の80%以上が説明できる。(2)流行性耳下腺炎,異型肺炎,伝染性紅斑は,長い周期性が推測され,観察期間をさらに伸ばす必要がある。(3)風しん,手足口病は,年間の季節変動と長い周期性があり,複雑なスペクトルを示した。(4)百日せき様疾患は,観察期間の前半と後半で流行の形が異なっており,今後の推移を観察する必要がある。(5)溶連菌感染症,突発性発疹は,季節方動が認められるが,さらに複雑な要因が関与している可能性がある。
著者
濱崎 圭三 岡山 雅信 三瀬 順一 梶井 英治 鶴岡 浩樹 濱崎 圭三
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

【目的】地域医療および総合診療を担うための医師養成の卒前教育における地域医療現場での臨床実習(地域医療実習)の効果的なプログラムの作成である.【方法】デザインはアンケート調査(横断研究)である。対象は医学部5年生で、調査項目は、実習施設と内容、実習の感想、実習前後の地域医療や将来への思いである。実習施設と内容以外の項目はVisual Analogue Scale (VAS)を用いた.【結果】回答率は97%,96%(H12,H13)であった.実習施設は病院のみが42%,31%,診療所のみが22%,14%,病院と診療所が36%,55%であった。実習内容もすべての学生が外来診療以外の地域医療活動を実習した.「実習は意義がある」のVASスコア(平均±SD)は77.3士24.3,86.8±16.3,また「地域の継続が必要である」は76.7±22.6,86.0士20.4と高く,学生から,実習は肯定的な評価を得た.地域医療への動機付けの点で重要な項目である実習前後で「地域医療は夢がある」のVASスコアは7.4,8.2,「地域医療はやりがいがある」は8.1,5.3と増加した(P<0.05).H12年度の結果から,(1)病院と診療所で実習を行う,(2)多くの地域医療活動を実習させるなどの実習プログラムがHl3年度に推奨された.H13はHl2に比べ「実習は意義がある」「実習の継続は必要である」「地域医療に夢がある」でそれぞれ9.6,9.2,5.7と高かった(P<0.05).また外来診療や病棟実習以外の地域医療活動9項目中5項目以上実施した群は4項目以下の群に比べ,「実習は意義がある」「地域医療を担う自信がある」「行政の人と話すのが苦にならない」がそれぞれ8.1,15.1,11.8と高かった(p<0.05).【まとめ】地域医療実習は学生の評価はよく,また地域医療への動機付けの点で効果があったと思われる.H13に推奨された実習プログラムにより,その教育効果が向上したと考える.
著者
中村 好一
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

心後遺症を持たない者も含めた川崎病既往者の追跡を行い、生命予後を明らかにする目的で、第8回~第12回川崎病全国調査(1982年7月~1992年12月)で52病院から報告された患者のうち、特定の要件を満たす6,576人について、戸籍を用いて2009年末日までの生存状況を確認し、死亡が判明した場合には死亡診断書に基づく死亡の解析を行った。全体でのSMRは1.00であったが、心後遺症を持つ者の急性期以降のSMRは1.86と有意に高かった。
著者
作山 葵
出版者
自治医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

高齢化が進行し骨粗鬆症の患者数が増加しており,ビスフォスフォネート系薬剤(以下BP薬)の服用による顎骨壊死が多く報告されている. BP薬がインプラントへおよぼす影響をインプラント周囲骨形成の観点から研究を行った.インプラントと骨接触率は,下肢においてBP薬投与の有無により顕著に有意差があった.下肢と顎骨では,インプラント周囲への新生骨形成が異なるため新生骨形成を解明するには顎骨を観察する必要がある.またBP薬を投与していない時に,活発な骨形成が認められた.BP薬は, インプラントが骨結合した後でもインプラント周囲骨へ影響をおよぼすため定期検診が重要である.
著者
藤社 勉 竹元 伸之 甲斐 敏弘 岡本 秀樹 小西 文雄 山田 茂樹
出版者
自治医科大学
雑誌
自治医科大学医学部紀要 (ISSN:13488198)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.113-117, 2003-12-01

症例は,65歳女性。左側乳房腫瘤を主訴に近医を受診し,乳癌を疑われ精査目的に当センターを受診。来院時,左側乳房AB領域に径3.4cm大の腫瘤を触知した。穿刺吸引細胞診で角化を伴う悪性腫瘍細胞塊を認め,扁平上皮癌と診断し,胸筋温存乳房切除術(Bt+Ax)を施行した。病理組織検査では,扁平上皮癌が主体で,一部乳頭腺管癌も認め,腺癌からの扁平上皮化生によって生じた混合型の乳腺扁平上皮癌と考えられた。ホルモンレセプター(ER,PgR)はともに陰性であった。乳腺扁平上皮癌は,乳癌取扱い規約では特殊型に分類され,その頻度は0.1%前後と比較的稀な疾患とされる。以上の症例に対し,若干の文献的考察を加えて報告する。
著者
落合 信寿
出版者
自治医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,安全色の国際規格と諸外国の規格との規格整合化に寄与するため,日本,中国,韓国の東アジア3カ国4地域における安全色のリスク認知の普遍性と文化的差異について国際比較を行い,東アジアにおける安全色(特にJIS独自の採用色であるオレンジ)の有効性を検証することを目的とした。調査結果から,東アジア3カ国4地域においては,黄より高い危険レベルを示す安全色としてオレンジを用いることが不適切である事などが明らかになった。
著者
谷原 真一
出版者
自治医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

地域における多・重複受診者の受療行動及び服薬状況などの実態把握を目的として、T県A市の老人医療受給対象者のうち、1997年6〜8月又は1998年6〜8月の期間で受診件数(診療報酬請求明細書の枚数)が上位1%の者(多受診者)、及び1月間に同一診療科を3か所以上受診したか、2月以上連続して同一診療科を2か所以上受診した者(重複受診者)を対象に保健婦による聞き取り調査を実施した。調査対象とされた317人中、241人(76.0%)から回答が得られた。薬剤服用状況については、処方された薬剤を全て服用すると回答した者が202人(83.8%)、一部のみ服用すると回答した者が39人(16.2%)であった。1日に処方されている薬剤数の合計は、平均11.8錠であった。最大値は37錠であり、「なし」と回答した者が5名認められた。1日平均5-9錠を処方されている者が全体で73人(30.3%)ともっとも多く、33人(13.7%)が1日20錠以上の薬剤を処方されていた。薬剤服用状況別に1日の平均処方薬剤数をみると、一部のみ服用すると回答した群が10.2錠、全て服用すると回答した群が12.2錠と、全て服用する者の方でより多くの薬剤を処方されている傾向が認められた。老人保健医療給付対象者中の多・重複受診者の大半が処方された薬剤を全て服用していたことが明らかになった。しかし、実際に受けている医療行為の全てが有効に利用されているわけではない事例も存在することが示された。高齢者に必要な医療サービスを提供しつつ、医療費の高騰を抑制するためには、多・重複受診者と判定されたものを一律に指導するのではなく、診療内容に関する情報を把握しておくことが重要と考えられた。
著者
田代 真人 小田切 孝人 田中 利典 田代 真人
出版者
自治医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.ラット気管支上皮のクララ細胞が分泌する新しいセリン型酵素トリプターゼ・クララを分離同定し、これが肺における野生株ウイルスの活性化プロテアーゼの本体であることを証明した。更に、トリプターゼ・クララが気道上皮にのみ分布することが、センダイウイルスの感染増殖が肺に限局することの直接の原因であることを証明した。2.初感染巣である気管支上皮細胞において、ウイルスの出芽極性が尖頂領域に限局していることが気道における局所感染を規定し、一方、側基底領域から出芽することが全身臓器へのウイルスの播種に必要であることを証明した。3.センダイウイルスに感染した上皮性細胞が膜融合を起こして融合巨細胞を形成するためには、F蛋白の開裂活性化に加えて、ウイルス糖蛋白が側基底領域に発現していることが必要条件である。4.側基底領域からも出芽するF1-R株の感染細胞では、微小管などの細胞骨格系の構造と機能が破壊されており、上皮性細胞の持つ細胞極性が破綻していた。更に遺伝子塩基配列の比較から、F1-R株の変異M蛋白がこれに関与していることが強く示唆された。
著者
井廻 道夫 金子 隆志 森山 貴志 安藤 量基
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

HLA B44を有する慢性C型肝炎患者の検討で,HCVコア抗原アミノ酸残基88-96を抗原エピトープとするHLA B44拘束性CTL応答が認められる症例では末梢血HCV RNA量が低値であり,CTLがHCVの増殖に対して抑制的に作用していることを示唆する結果が得られた.また,同一患者において異なった抗原エピトープを認識する2種類以上のCTLが存在することも明らかになった.CTL応答が認められるにも関わらずHCVが存在することは,HCV感染においてはCTL応答が不十分であることが考えられる.抗原エピトープの変異が認められたのは27例中3例と多くはなかったが,その3例のHCVコア抗原アミノ酸残基88-96のアミノ酸配列のペプチドを作製し,HCV特異的CTLに認識されるか,あるいはCTLを効率良く誘導できるかを検討したところ2例では変異エピトープは野生型エピトープと同様に認識されるものの,CTL誘導能は低いことが判明した.他の1例ではむしろ変異エピトープの方が抗原性が強いという結果が得られた.このなかのエピトープの一つを用いて,変異ウイルスが野生型ウイルスと混在した場合にどのような影響がCTL応答に生じるかを検討したところ変異ウイルスは野生型ウイルスと混在した場合には,CTLのウイルス感染細胞障害が抑制されるとともに,変異ウイルスを認識するCTLの増殖も抑制されることが明らかになった.HCVコア抗原アミノ酸残基88-96をHLAB44拘束性に認識するCTLクローンを用いた検討より,C型肝炎においてはCTLはHCV感染細胞を認識しパーフォリン,Fasリガンド,TNFにより認識した細胞を障害すると共に,抗原を認識し活性化したCTLは炎症などにより感受性を獲得した肝細胞をFasリガンド,TNFにより障害し,肝炎の拡大に関与していることが明らかになった.
著者
出崎 克也 矢田 俊彦 加計 正文
出版者
自治医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、膵β細胞におけるグルコース代謝情報およびホルモン情報変換装置としてのKvチャネルとTRPチャネルを介した新たなインスリン分泌制御機構を解明し、そのセンサー情報統合メカニズムを明らかにすることを目的とする。ラット膵島におけるKvチャネルの発現を検討した結果、Kv2.1チャネルのmRNA発現を検出し、二重免疫染色の結果、Kv2.1チャネルは膵β細胞に局在していた。Kvチャネル電流はグルコース濃度依存性を示し、Kv2.1チャネルブロッカーはラット分離膵島からのグルコース誘発インスリン分泌を促進し、β細胞のKv電流を抑制しグルコース刺激による[Ca^<2+>]_i上昇を増加させた。自然発症2型糖尿病GKラットは正常Wistarラットと比較して、β細胞Kv2.1の発現が増大していた。K_<ATP>チャネルサブユニットKir6.2および2型糖尿病との相関が報告されている電位依存性K^+チャネルKCNQ1の膵島発現レベルは、GKラットとWistarラットで同程度であった。単離膵β細胞のKvチャネル活性を電気生理学的に比較すると、GKラットではβ細胞Kvチャネル電流が増強していた。Kv2.1チャネルブロッカー存在下ではGKラットβ細胞におけるKvチャネル電流の増強が観察されなかった。TRPM2ノックアウトマウスは、グルコースやGLP-1刺激によるβ細胞[Ca^<2+>]_i上昇とインスリン分泌が低下していた。以上より、膵β細胞ではKv2.1チャネルやTRPM2チャネルがβ細胞インスリン分泌およびそのホルモン制御機構のセンサー分子として機能していると考えられる。また、2型糖尿病ラットβ細胞では、Kv2.1分子の発現増大によりKvチャネル電流が亢進しており、Kv2.1の発現機能亢進が糖尿病態におけるβ細胞インスリン分泌不全に関与することが示唆される。
著者
斎藤 茂子
出版者
自治医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

-2SD以下で明らかなGH分泌不全のない低身長患者に対し、インフォームドコンセントを得てミトコンドリアDNA(mtDNA)検査を行った。家族歴のある低身長のみの患者8名、低身長+精神遅滞患者(てんかん合併患者含む)12名、MELAS患者5名(全例低身長あり)、Leigh脳症患者7名(全例低身長あり)、低身長+中枢神経症状+高乳酸血症(MELASやLeigh脳症の画像所見なし)2名の計34名を対象とした。従来、mtDNAの点変異が報告されている塩基部位の変異についてPCR-RFLPを行い、変異の有無を確認した。低身長+精神遅滞(軽度)の患者のうち、母親が糖尿病である例および母親に難聴がある例、それぞれ1名ずつの検体からはmtDNAのシークエンスを行った。MELAS患者の約80%、糖尿病患者の1%に認められるmtDNA塩基番号3243のA-G変異(3243変異)が、MELAS4名(80%)、Leigh脳症1名に認められた。MELAS患者のうち1名は低身長で受診し、高乳酸血症とmtDNA変異が認められ頭痛などの症状出現と脳波異常等をあわせて診断された。低身長のみまたは低身長+精神遅滞の患者では3243変異は認められなかった。シークエンスを行った2例についてもmtDNA変異は見いだせなかった。家族性低身長は多くの遺伝子群が関与する多因子遺伝と考えられ、mtDNA単独では説明できない。しかし、我々の検討で3243変異が発見された症例のうち低身長が主訴である例も存在しており、患者のインフォームドコンセントが得られればmtDNAの検索を行うことが望ましい。また、3243変異は家族性低身長単独の患者の中には認められないものの、糖尿病、MELAS、Leigh脳症といった多様な臨床像を示した。今後この変異によってもたらされる機能障害についての研究をすすめたいと考えている。
著者
大嶺 謙 永井 正
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

BCR/ABLキナーゼ阻害薬imatinibは慢性骨髄性白血病に対する有用な分子標的薬であるが、同剤の耐性機序の解明と有効な克服法の開発は重要な課題である。1.DNAマイクロアレイ法による、BCR/ABL陽性白血病細胞株KCL22とimatinib耐性株KCL22/SRとの遺伝子発現プロフィールの比較から、情報伝達系関連分子RhoAの耐性株における高発現が明らかとなった。新たなimatinib耐性株K562/SRとKU812/SRにおけるRhoAの発現をWesternblot法を解析し、特にKU812/SRで発現がきわめて増強していることを見いだした。2.新規Chk1阻害薬UCN-01をimatinibに併用することによりimatinibの耐性克服が可能であるか検討した。imatinib耐性BCR/ABL陽性細胞株は両剤の併用によってもアポトーシスの誘導がみられず、一方でG_0G_1期にある細胞比率の増加を認めた。さらにisobologramで細胞増殖に対する効果を検討した結果、何れの耐性細胞株でも相乗的増殖抑制効果は認められず、一部の細胞株ではむしろ拮抗的に作用した。従って、細胞周期に抑制的に作用する分子標的薬はimatinibの作用を阻害する可能性がある。3.様々な細胞内因子の機能調節に関与しているヘムのimatnib感受性への影響について検討した。hemin存在下で、KCL22細胞に対するimatinibのIC_<50>値は3.17倍に増加し、アポトーシスが誘導され、アポトーシス関連分子の増加が抑制された。heminはimatinibによるリン酸化BCR/ABL量の低下を阻害しなかったことから、BCR/ABLキナーゼ活性非依存的に作用しているものと推察された。更に、KCL22細胞にheminを添加することでYGCS遺伝子プロモーター活性の上昇および細胞内グルタチオン(GSH)濃度の増加を認めた。以上からヘムはimatinib感受性の調節に重要であり、その機序の一端はGSH合成系を介しているものと推察された。
著者
永井 正 大嶺 謙
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.Imatinibに対する耐性機序の解析-CML由来細胞株KCL22にheminを添加すると、imatinibに対するIC_<50>値が増加した。Hemin存在下では、imatinib添加後でもリン酸化Bcl2、BclXL、cleaved caspase 3、7,9、PARP等の量的変化が抑制されたことから、hemeはimatinibによるアポトーシスの誘導を阻害するものと考えられた。Heminの添加により、(1)AREを有する_-glutamylcystein synthetase(γ-GCS)軽鎖のプロモーター活性が増加し、(2)γ-GCSが律速酵素であるglutahioneの合成量の増加を認めた。さらに(3)γ-GCS阻害薬Buthionine sulfoximineを添加すると、heminによるimatinib感受性低下が部分的に回復した。この結果は、hemeによるNrf2活性の変化がimatinib感受性調節機序の一端を担っていることを示唆している。2.ImatinibとFarnesyltransferase阻害薬であるTipifarnibとの併用により、imatinib耐性株および親株で相乗的に細胞増殖が抑制された。この場合、細胞株によってアポトーシスの誘導と細胞周期阻害のそれぞれの重要性が異なっていた。次にTipifaarnibに対する耐性獲得機序を明らかにする目的で、ヒトCML急性転化由来細胞株K562を親株としてTipifarnibに対する耐性細胞株K562/RRを新たにクローン化した。K562/RRにTipifarnibを添加すると、K562と同程度にHDJ-2蛋白のfarnesylationが阻害された。従って、K562/RRにおけるTipifarnib耐性は、標的分子であるfarnesyltransferaseに非依存性の機序によるものと推察された。K562では、Tipifarnib添加によりアポトーシス関連分子の発現量が変化しAnnexin V陽性細胞数の増加を認めたが、同量のTipifarnibをK562/RRに添加してもこれらの変化を認めなかった。次に、DNAマイクロアレイ法によりK562とK562/RRにおける遺伝子発現プロフィールの差異について検討した。その結果、K562/RRでは細胞周期関連分子の他にβ-globinの発現増強が認められた。さらに、それぞれの細胞株におけるTipifarnib添加前後での遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイ法で検討したところ、β-globinの発現量がK562ではTipifarnib添加により増加するのに対し、K562/RRでは低下することが明らかとなった。この結果は、分化形質の発現と耐性獲得との関連を示唆している。
著者
瀬嶋 尊之
出版者
自治医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アレルギーの成立とその後の病態に、線溶因子が関与するのではないかという仮説に基づき、主に動物実験(マウス)を主体に実験を行った。線溶因子のPAI-1ノックアウトマウスの感作モデルにおいては、鼻症状・血清中特異的抗体価・組織変化・局所でのサイトカイン産生などの面で、コントロールに比べてアレルギー性炎症が抑制されるという結果が得られている。本年度は、この結果を治療法の開発に応用する基礎実験として、後天的にマウスの局所でPAI-1をノックダウンするRNAi実験を行った。使用するsiRNAはプラスミドベクターとして作製し、マウスへの局所投与により、そのノックダウン効率を検討して本実験に備えた。本実験ではこれまで確立されたアレルギー性鼻炎モデルの感作過程で、PAI-1のsiRNA発現プラスミドを投与し、in vivoでのRNAi実験を行った。その結果、siRNA発現プラスミド投与マウスは、コントロール(通常の感作モデルマウス)に比較して、鼻症状(鼻掻きおよびくしゃみ回数)・鼻粘膜の組織検査(好酸球浸潤や上皮の杯細胞化生)・鼻粘膜局所でのサイトカイン産生などが抑制され、PAI-1ノックアウトマウスの実験とほぼ同様の結果を得た。しかし血清中特異的抗体価(Ig-G1やIg-E)は一定の傾向がみられず、全身に対する効果としてははっきりと認められなかった。これらのことは、ある疾患にかかわると思われる特定の遺伝子を、後天的に局所のみで制御できる可能性があるという点で、非常に意義があることと考えられる。局所のアレルギー性炎症のように、できるだけ全身的には大きな影響を及ぼさず、症状の出る局所のみで病態をコントロールできることは非常に重要と思われる。本研究をさらに発展させることにより、今後のさらなる病態解明や治療法への応用も期待される。
著者
成田 伸 大原 良子 鈴木 幸子 遠藤 俊子 齋藤 益子 吉沢 豊予子 野々山 未希子 水流 聡子 跡上 冨美 矢野 美紀 西岡 啓子 加藤 優子 森島 知子 齋藤 良子 角川 志穂 段ノ上 秀雄 黒田 裕子 工藤 里香
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

望まない妊娠や性感染症罹患の予防を専門的に支援する避妊・性感染症予防カウンセラー育成プログラムを構築した。プログラムは6日間の集合教育と専用のウエブサイトを活用した自己学習からなり、2008年度と2009年度の2回にわたって助産師を対象に開催した。育成プログラムの成果を評価するために、受講者と非受講の比較群で学習成果を比較した結果、受講者に知識の増加や態度の変容がみられた。また受講者のカウンセリング能力が向上した。今後は、育成されたカウンセラーの実践自体を評価する研究が必要である。
著者
吉新 通康 和座 一弘 鶴田 貴志夫 吉新 通康 五十嵐 正紘
出版者
自治医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

米国では、簡便で正確に精神疾患をスクリーニングするNew Prime-MDなる質問票の有効性が報告されている。そこで、日本でもこのNew Prime-MDの利用可能性、妥当性が保証されれば、これを利用して、鬱病の一般プライマリ・ケア外来での受診率、プライマリケアでの場での初期症状をも明らかにに出来ると考えた。また、米国については今までPrime-MDが実施されたデーターを使用した。まず、New prime-MDの日本語訳を作成した。次に都会型診療所1ヶ所、僻地診療所、自治医科大学の地域家庭診療センターの外来患者で一定期間の各診療所の外来患者の中で1)20歳以上、2)痴呆がない、3)緊急患者でない、4)本研究に対して同意の得た患者に対して(各診療所の100人計300人の患者) Prime-MDの記入と診察を終えた患者に対して患者満足度質問票に回答してもらい、質問票の回答を分析して、Prime-MDの日本での利用可能性や各主要精神疾患の受診率や、各主要精神疾患、特にうつ病の初期症状を米国のデーターと分類比較した。また妥当性を検証するために、プライマリ・ケア医師がPrime-MDによって診断し、次にDSM-IVに精通した精神、心理領域の専門家が、上記診療を終了直後にStructured Clinical Interviewに沿って、診断し、上記の2つの診断名の一致率(κ値)を求めた。以上の研究から、以下の新たな知見を得た。1) Prime-MDの利用可能性と妥当性は、日本においても高い。2)主要な精神疾患の受診率は、プライマリ・ケアの現場でかなり高い率である。3)うつ症状の初期症状として、多彩な身体症状を呈する。4)うつの身体症状として、日本では、特異的(腹部症状、肩こり等)なものが存在する。