著者
塩崎 麻里子
出版者
近畿大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

終末期の治療選択に際するがん患者と家族に対する心理的支援プログラムを開発するにあたっての基礎的な知見を得ることを目的に,一般成人を対象とした意向調査とがん患者の家族を対象にしたインタビュー調査を実施した.結果から,従来までの意思決定モデルを終末期の治療選択に応用する上で,以下の3点を考慮する必要があることが示唆された.第一に,患者と家族の未来展望が判断の枠組みに影響すること,第二に,延命治療に対する信念は直感的な意思決定を促すこと,第三に納得できる意思決定の判断基準は患者と家族で異なることである.今後,終末期の意思決定に関するモデルを実証的に検討し,より実態に沿うよう改良していく必要がある.
著者
楳田 高士 石部 裕一 石部 裕一 楳田 高士
出版者
近畿大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

1.イヌの左下葉肺分離換気標本を用いて、血管拡張薬ニトログリセリン(TNG)、プロスタサイクリン(PGI_2)の低酸素性肺血管収縮反応(HPV)に及ぼす影響を検討した。その結果TNGは肺血管を非特異的に拡張し換気血流不均衡を増強し、一方PGI_2は用量依存性にHPVを抑制しいずれも低酸素血症の原因になることを明らかにした。2.より正確に肺血管ト-ヌスを評価するために、in vivoでイヌの左下葉肺血管の圧・流量曲線を検出可能な標本を考察し、その標本を用いて、吸入麻酔薬イソフルレンとハロセンのHPVへの作用を検討した。その結果両麻酔薬とも低酸素領域に直接吸入すると用量依存性にHPVを抑制するが、1ー2MACの臨床使用濃度では従来指摘されていたようなHPV抑制は見られないことを報告した。3.同じ標本を用いてプロスタグランジンE_1(PGE_1)のHPVへの作用を検討した結果、イヌの体血圧を30%低下させる量のPGE_1はHPVを抑制し、低酸素血症の原因になることを示した。4.ARDSなどの傷害肺においてHPV反応がどのように修飾されているかについて、同じ標本で検討した。イヌに微量のエンドトキシンを投与すると、HPVは完全に抑制され、この時プロスタサイクリンの代謝産物6ーketoーPGF_1αの減少を伴った。このHPV抑制はあらかじめシクロオキシゲナ-ゼ阻害薬イブプロフェンで前処置しておくと予防され、6ーketoーPGF_1αも減少しなかった。この結果からエンドトキシンによるHPV抑制には肺血管内皮細胞からプロスタサイクリンの遊離あるいは産生の増加が関与していることが明らかになった。
著者
堂寺 知成
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

古典結晶学で許されない回転対称性を持つ「準結晶」の発見は20世紀後半の物質科学上の大発見の1つであるが、その発見は合金系であり、高分子系では準結晶のような複雑な構造は発見されていなかった。本研究計画において研究代表者ははじめて高分子準結晶を発見し、さらに理論研究を推進することによって、金属(ハードマター)だけでなく高分子(ソフトマター)にも準結晶が存在することを明らかにし、準結晶構造の普遍性を示した。物理と化学の両業界から大きな反響を呼んだ。
著者
堂寺 知成
出版者
近畿大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

研究題目「多元高分子配列ナノ空間物質の構造設計と物性理論」の研究目的は、多元高分子による全く新しい配列ナノ空間構造を設計構築すること、およびその新規物性の理論研究を行うことであった。特にコロイド結晶では作成できない充填密度が低いダイヤモンド構造創製の成果を世界に発信し、物性発現として未来のデバイス、フォトニック結晶への応用可能性を研究することであった。平成21年度は、新しく発見した階層シャイロイド構造の構造解析を進め、実施計画に基づき研究成果の公表準備をした。また、フォトニックバンド計算の精度を高めるべくコンパクト差分法を導入したFDTD法の開発を進めた。この研究には数値計算の専門家に援助を受け、共同研究に発展しつつある。方法論としての有効性を検証しているところである。次に、高分子の作るシングルジャイロイド構造の螺旋軸に注目し、コレステリック液晶あるいは甲虫などに見られる左右螺旋偏光の反射率が異なるという現象が、多元高分子配列ナノ空間物質でも生ずるという仮説を立て、数値実験で確かめた。この研究は継続する予定である。まとめると当該研究期間で、多元高分子による全く新しい配列ナノ空間構造を設計し、自己組織化を用いて2つの新規な構造(巨大ジンクブレンド構造、階層ジャイロイド構造)を構築することに成功した。これらの研究は物質科学、物理および高分子化学の進展に貢献し、学術的にも意義の高いもので、結晶学、数学への関連も重要だと考えている。また理論的には多元高分子のフォトニック結晶への応用可能性を広げた点、これまで議論されなかった偏光実験を提案するなど新しい物性発現の予言を行った点で当初の目標を達成したと言える。
著者
辻本 典央
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大學法學 (ISSN:09164537)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.121-140, 2007-06

本稿は, 2007年3月に開催された刑事判例研究会での報告を, 判例研究としてまとめたものである。
著者
江藤 剛治 竹原 幸生 中口 譲 梶井 宏修 高野 保英
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.河川や海岸におけるPTVの適用技術の開発(1)効果的なトレーサーの自動認識技術を開発した。カラー画像を用いた判別分析、および粒子候補の継続時間(2秒以上継続するものが粒子候補)による判別の組み合わせにより、水面のさざ波により反射する多数の光点と、トレーサー粒子を、誤認率1%程度で識別することができるようになった。[江藤・竹原・高野ら:土木学会論文集](2)淀川、鳥取海岸等で、実際にヘリコプターや繋留気球を用いてPTV計測を行った。淀川ではグランドツルースとして、同時にADCPによる流れの空間3次元計測を行った。PTVによる計測結果とADCPによる計測結果は比較的良く一致した。[江藤他:水工学論文集、河川技術論文集等](3)風波発生時の波と流れのPTVによる同時計測技術を開発中した。[竹原(海岸工学論文集等)]。(4)同時に水質のグランドツルースとして淀川における窒素やリンについても実測を継続し、季節変動特性を明らかにした。[中口]2.繋留飛行船等による大気サンプリング技術の開発(1)繋留飛行船(微風時)や大型カイト(やや強風時まで)の係留索に、高度別に吊り下げることが可能な大気サンプラーを開発した。[中口・高野](2)実際にサンプリング実験を行った。NOx濃度やSPM濃度の計測値において、高度50m程度で濃度が最大になり、100m程度では再び濃度が下がる、ダストドームが生じていることが確認された。ダストドームは繋留飛行船に搭載したカメラで撮影した画像からも確認できた[中口・高野]。3.関連して得られた研究成果今回の科学研究費で購入した赤外線ビデオカメラを用いて、水域のローカルリモートセンシング以外にも以下のような貴重な研究成果が得られた。(1)交差点の管理における赤外線ビデオカメラの利用技術の開発[江藤]人体レベルにおける熱環境計測[梶井]
著者
浜西 千秋 福田 寛二 野中 藤吾 森 成志 山崎 顕二
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

外部環境の変化により生じる機械的刺激に対して,細胞が種々の応答を行うことにより,生体はその変化に適応してきた.このような生命の神秘を解明し,ティッシュエンジニアリングいう最新の工学手技を利用して,治療に応用しようとするのが本研究の目的である.脚延長術は骨や筋肉・血管といった軟部組織を伸張して、組織を増殖・改変させる技術である.そこで骨芽細胞を対象に,脚延長時と同じ牽引負荷におけるフリーラジカル産生の有無をin vitroで検討することを第1の目的とした.また脚延長仮骨をin vivoのモデルとして使用し、生体内での調節機構を検討することを第2の目的とした.平成16年度にはFlexercell strain unit(FX-3000)を用いて骨芽細胞に周期的牽引負荷を加え,フリーラジカル産生を検討した.牽引負荷によりフリーラジカルおよびその中和剤であるSODの産生亢進を認めた.このことは,骨芽細胞に対する機械的刺激がフリーラジカルという調節因子を介して何らかの細胞応答に変換されている可能性を示唆している.平成17年度はこの調節機構mRNAレベルでの確認した.さらに,細胞内のフリーラジカルを速やかに増加させる薬剤であるパラコートを使用して,細胞内でのレドックス制御を検討した.これにより,細胞内フリーラジカルがSOD活性を自己調節しているという興味深い知見を得た.平成18年度はこれらの所見を総合し,機械的ストレスによって誘導される活性酸素およびSOD誘導の機構について解析した.細胞膜透過性のSOD存在下で骨芽細胞に機械的牽引負荷を加えたところ,フリーラジカルの産生が抑制されるとともに,SOD活性も抑制された.このSOD活性の抑制はmRNAレベルでも明らかであった.したがって,骨芽細胞に対する機械的刺激が,細胞内のフリーラジカル増加を介してSOD誘導を調整していることが証明された.
著者
吉田 忠彦 桜井 政成
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.313-325, 2004-03-25

従来のボランティアコーディネート理論,ボランティアマネジメント理論について批判的に考察を行った。次に,それらの理論の限界を克服し,新たなボランティアマネジメント・モデルの構築を図るために,戦略的人的資源管理論(SHRM)の適用可能性について論じた。SHRMを適用させた新たなボランティアマネジメント・モデルによって,NPOはその活動において競争優位を得ることができると考える。ここで提示した諸仮説の検証が今後の課題である。
著者
松田 克礼
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

プラズマフィールドを利用した害虫忌避スクリーンを開発し、害虫の侵入が問題となる栽培温室や青果物保存施設、食品工場や穀物の貯蔵倉庫などに適用した。その結果、いずれの施設においても害虫の侵入は観察されず、その有効性が確認された。また、施設の環境は大きく改善され夏場においても良好な環境が維持された。さらに、この装置は、害虫を忌避させるだけでなく、害虫を捕捉できることも明らかとなった。
著者
中迫 昇
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

騒音制御には、吸音材などを用いる受動的な手法や、騒音を音で打ち消す能動的な手法が知られている。一方、電磁波の分野では,不規則な揺らぎのある媒質中を波が伝わるとき,波が遠くまで伝わらず,その結果小さな領域に波動が閉じ込められる共振現象(局在)が知られている。ランダム媒質あるいはランダムな装荷をもつ音場でも急激な音の指数的減衰があると予想され、それを騒音抑圧に利用することが期待できる。本研究では、ランダム性を導入した1次元ダクト(ランダムダクト)の減衰特性に着目し、その理論解析に基づいてシミュレーションを行い、最終的に実機での消音実験を目指した。具体的な年度ごとの成果は以下のようになる。[2005年度]1.ダクト内の音場を分布定数線路の等価回路で表し、音源(騒音源)に対して通常の1次元ダクト内での音場を解析ならびにシミュレーションを行った。2.1の理論を元にダクト内にランダム媒質が存在する場合の音場の減衰特性を理論的に見出した。3.理論の正当性を検証するためにシミュレーションを行い、急激な音の減衰が起こることを示した。4.得られた成果を、学会発表ならびに論文として公表した。[2006年度]1.2005年度に引き続き、ダクト内の音場を分布定数線路の等価回路で表し、音源(騒音源)に対して通常の1次元ダクト内での音場を解析ならびにシミュレーションを行った。2.ついで、1の理論を元にダクトにランダム装荷を導入した場合の音場の減衰特性を理論的に見出した。3.理論の正当性を検証するためにシミュレーションを行い、ランダム媒質と同様、ランダム装荷でも急激な音の減衰が起こることを確かめた。4.得られた成果は、論文発表として公表した。
著者
小川 千里 高橋 潔
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,プロスポーツ選手の現役引退に伴っておこるキャリア上の諸問題を,経営学的視点から明らかにし,第二の職業人生に対する望ましい支援の方法について検討することを目的に行われた。プロスポーツ選手のキャリア・トランジションに関して,(元)Jリーガーと既存の支援システムを対象とした定性的調査を実施した。その結果,スポーツ選手の引退とその後のキャリアへの移行の実態を詳らかにした。そして「現役時代」の行動や考え方の傾向と周囲の人の属人的な要素が,引退に関する「内的キャリア」や支援に影響を与えること,選手個人が引退に伴う心理的激動を受容するために望ましい支援の特徴と組織の在り方を見出した。
著者
吉田 久
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の主な目的は、1.Renyiのα次拡張ダイバージェンスを用いた統一的な新しい等価帯域幅のクラスの提案とその理論構築、2.非定常過程における瞬時等価帯域幅の新たな提案とその推定法に関する研究の推進、3.本研究で提案する解析法を心音などの実際の生体信号解析へ応用し、新たな知見を得ることであった。当該研究期間に得られた研究成果は以下の通りである。1.Renyiのα次拡張ダイバージェンスを用いることによって、音声処理分野でスペクトルの広がりを表現するときによく使われるSpectral Flatness Measureを包含するような等価帯域幅の表現を得た。また、従来から提案している等価帯域幅との比較を行った。2.統計学におけるCopulas理論を援用して非定常確率過程の正値の時間-周波数分布を推定する方法を検討し、非定常確率過程に対する等価帯域幅の拡張を行った。3.非定常信号の等価帯域幅に関する理論構築において、時間-周波数分布の時間周辺分布の推定法、および周波数周辺分布の新規な推定方法の提案を行った。4.提案する非定常性解析法を実際の生体信号である脳波に適用した。その結果、覚醒維持の努力をしている区間の脳波は非常に帯域が広く、脳の活動が活発化しているように見えることを明らかにした。これは覚醒と睡眠の中枢である視床下部と能動的行動を司る前頭部の関係を知る上でも大変興味深い研究成果である。眠気に逆らって覚醒維持を続けるといった状態の脳波解析はあまりなく、こうした脳波の生理学的知見を得ることは、仕事の効率を定量的に検討する場合に大変有用であると考えられる。こうした関係をより詳しく調べる上でも、前頭部に混入する瞬きや眼球運動によるアーチファクトの除去法などの信号処理における課題を今後解決していく必要がある。
著者
池上 博司 川畑 由美子 能宗 伸輔 馬場谷 成
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1型糖尿病遺伝子の解析をヒトとマウスの染色体相同性を駆使して進めた結果、主効果遺伝子であるHLAとの関連にサブタイプ間で差を認めること(劇症と他のサブタイプ間で質的差異、緩徐進行と急性発症間で量的差異)、臓器特異性を決定する遺伝子としてインスリン特異的転写因子MafAが胸腺でのインスリン発現量の変化を介して1型糖尿病の疾患感受性に関与することが示された。
著者
中村 聡一 小林 博
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.7-12, 1990-03-20

1.グッピー,ティラピア,メダカ,コイ,コイナ,ワキン,コメットについて鰓蓋運動数の温度変化を測定し,その値から温度係数Q_<10>とArrheniusの式のμを常温から下の温度範囲で求めた. 2.Q_<10>は,いずれの魚種においても中等度の温度範囲では2〜3の値を示したが,低温まひによる鰓蓋運動の停止直前の温度では変動が大きく3〜8の高い値を示した. 3.Log f と1/Tの関係においてグッピー,ティラピア,メダカ,コイ,コイナでは,変曲点(臨界温度)が1つ求められ,その温度はグッピーとティラピアでは14.7〜15.9℃,他の魚種では9.2〜10.0℃であった. 4.μの値は臨界温度より高温では各魚種の間にほとんど差はなく1.0×10^4〜1.3×10^4であったが,臨界温度より低温ではμは高温側の値より大きく,魚種により変動が大きかった. 5.鰓蓋運動の停止温度の平均値はグッピー,ティラピアで9.6〜10.3℃,その他の魚種では3.7〜5.6℃の範囲内にあった.
著者
土屋 孝次
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1、本研究期間は、司法制度改革推進法の制定、司法制度改革推進本部の設置及び改革関連法の成立により、わが国に法の支配を根付かせるための改革がはじまった時期にあたる。しかしながら、司法制度改革推進本部の活動において、弾劾制度や懲戒制度、苦情処理制度に関する具体的な改革提案は見られない。本研究では、裁判官に関する苦情申立てが国民に開かれていない点、処分が戒告と科料に限定されており軽微と思える点などの理由により、年間500件以上もの裁判官に対する苦情が弾劾手続へ流れている実体を問題と考える。性質を異にする弾劾手続と懲戒手続の連動が憲法上望ましくないのであれば、停職、事件配点中止などの懲戒処分の追加、懲戒手続への国民の関与を認める制度、もしくは内部規律に関する新たな苦情処理制度の導入などを検討すべきである。もっとも、手続導入に際しては、個々の裁判官が主権者たる国民の信頼を確保しつつ、司法部内外からの不当な圧力に抗する事ができるよう、公開原則を維持する等の配慮が必要と考える。2、アメリカ合衆国においても、司法部の員数拡大により一部にみられる質的低下、終身任期による裁判官の高齢化、そして国民に対するアカウンタビリティの確保を当然とする風潮がみられ、裁判官規律制度の改革が進められている。本研究においては、下級審裁判官の弾劾手続の簡略化は、議会の負担増、司法部の人的拡大という現実の前には、政策的には理解できるとみなす。しかしながら、弾劾権は裁判官の独立が濫用された場合に適応できる例外的な憲法制度である。このため、より一般性のある懲戒手続としての司法協議会改革法に着目する。その行使は司法部の自律的判断に委ねられており、手続き実施のあり方については議会による不断の監視が行われている。手続の大部分が非公開である点、控訴裁長官により苦情却下事例が多い点などの問題は残るものの、同法の基本構造には、裁判官の独立とアカウンタビリティのバランスを確保するという憲法的価値が見いだせると評価する。今後は、同法手続きの具体的事例に対する個別的検討、およびカリフォルニア州憲法に見られる市民代表を構成員とする裁判官規律手続の展開を吟味する必要がある。
著者
新田 和宏
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学生物理工学部紀要 = Memoirs of the School of Biology-Oriented Science and Technology of Kinki University (ISSN:13427202)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.33-46, 2008-03

政治の世界において、政治の言葉というもののしめる重みが増している。政権担当者や政治指導者から発せられる政治の言葉が大きい意味をもつようになった。とりわけ、5年5ヶ月に及んだ小泉政権と連動するかたちで顕在化した「新しい政治(new politics)」の一つの側面として、「ワンフレーズ・ポリティクス」とも言われる、政治的フレーズを駆使するアイディアの政治の重要性を指摘することができる。本稿は、そのような「新しい政治」としてのアイディアの政治について着目し、その省察を試みる。これまで、政治学は、「政治は何によって決定されるのか?」という問いにこだわってきた。政治的フレーズを用いるアイディアの政治について検討することは、こうした政治学の問いに対して、一定程度の返答を提示することにもなるであろう。本稿は、アイディアの政治に関連する諸概念の定義を踏まえ、小泉政治が問題提起したというべき、「不利益政治」とアイディアの政治、テレポリティクスと「劇場型政治」、インターネット・ポリティクスと「新しい右翼」、並びにアイディアの政治の政治的学習、というアイディアの政治に関する諸論点について検討を行う。こうして、本稿は、政治的フレーズを駆使するアイディアの政治が、一体、どこまで政治を決定することができるか、この点についても確定したいと思う。