著者
鹿川 修一 吉田 清英 寺岡 靖剛
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は,ディーゼル排ガス中の炭素微粒子(パティキュレート;PM)と窒素酸化物(NOx)の有害成分を同時に除去,無害化する新しい排ガス浄化システムの開発を目指したものである.1.触媒とPMの混合物を反応ガス中で連続昇温しながら反応を追跡する昇温反応法を用いて,ペロブスカイト型酸化物(ABO_3),K_2NiF_4型酸化物(A_2BO_4),スピネル型酸化物(AB_2O_4)のPM-NOx同時除去活性を調べた.(1)PM-NOx同時除去活性は,ペロブスカイトおよびK_2NiF_4型酸化物のBサイト,スピネル型酸化物のA,Bサイトに入る遷移金属イオンの種類に大きく依存し,CoやMnを含むものは活性は高いがNOxのN_2への還元選択性が低く,CuやFeを含むものが適度な活性と高い選択性を示す.(2)アルカリ金属,特にKの添加により活性と選択性が同時に向上し,高性能なPM-NOx同時除去触媒を得るにはKの添加が必須である.(3)複合金属酸化物は遷移金属単独酸化物やそれらの機械的混合物および担持白金触媒よりもNOxの還元能が高く,PM-NOx同時除去反応に対して複合金属酸化物が有効である.2.反応の速度論的検討から,NOの酸化によるNO_2の生成,NO_2の解離吸着による原子状吸着酸素の生成,PM表面での原子状吸着酸素により活性化された中間体(C^*[O])の生成,気相酸素の関与によるC^*[O]中間体濃度の増加をキ-ステップとするPM-NOx同時除去反応機構を提案した.3.ぺロブスカイト型La_<0.9>K_<0.1>CoO_3をハニカムフィルターに担持し,実排ガスから直接PMを捕集した後に,SO_2,H_2Oを含む模擬ディーゼル排ガス中でのPM-NOx同時除去特性を測定した.PM/触媒混合物を用いた基礎研究と比較して,着火温度が約100°C高くなり,またNOx還元率も低下したが,比較的良好な同時除去特性を示し,本プロセスの実用化の可能性が強く示唆された.
著者
霜川 修
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,正常線維芽細胞のγ-線照射を行った後に細胞をクローニングして,個々の細胞のゲノム変化を定量化することを目的とした。正常男性ヒト線維芽細胞に4グレイのγ-線照射を行い限外希釈して再培養して,細胞クローン10個を得た。また,対照としてγ-線照射を行わないでクローニングした細胞クローン10個を得た。ゲノムコピー数の解析を行うためにaffymetrix社製のGeneChipシステムを用いて,γ-線非照射細胞クローンとγ-線照射細胞クローンを解析してゲノムの大きな構造変化数を比較した。結果,γ-線非照射細胞とγ-線照射細胞クローンの両方にコピー数変化をともなった大きな部位(>1Mb)を検出できたが,γ-線非照射細胞において明らかにコピー数変化部位数が増加している傾向は認められなかった。理由としては,実験に用いたクロンーン化細胞数が少ないことが挙げられるが,明瞭な差異を検出できないのであれば解析細胞数を増やすことは,研究費用内では無理であったので,次の実施計画に移った。DNAの塩基変異を検出して定量化することを試みた。方法は,正常男性ヒト線維芽細胞に4グレイのγ-線照射を行いそのまま10万個の細胞を1日培養して,DNAを抽出してPCR後にプラスミドヘクローニング後シークエンス解析を行い変異部位の数を数えてγ-線非照射群と比較するのである。現在,xxx遺伝子,yyy遺伝子,zzz遺伝子をhigh-fiedility Taq polymeraseで増幅しクローニング後のシーケンス解析を行っている。一遺伝子当たり,500bp/clone x800clone=400,000,のべ400kbを解析している最中である。
著者
長岡 信治
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

九州の霧島火山,阿蘇火山,九重火山の過去約10万年間のテフラの層序と分布の詳細を明らかにした。テフラから霧島・阿蘇・九重の各火山の高解像度の爆発的噴火史の復元を試みた。霧島火山や阿蘇火山は成層火山の形成を伴う爆発的噴火を繰り返しているが,九重は,溶岩ドーム形成が主体で,爆発的噴火は少ない。噴出率については,阿蘇は最近低下しているが,霧島と九重は増加傾向にあり,将来大規模な噴火が発生する可能性が高い。
著者
香川 明男 大貝 猛 水本 将之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

積層造形法は当初プラスチックなどの成形用金型の模型を作製する迅速模型作製法(Rapid Prototyping)として幅広く研究されてきたが,近年,機械部品などの製品そのもののニアネットシェイプ製造法として脚光を浴びて来ている.RP技術の一つである溶融紡糸堆積(Fused Spinning Deposition)法は,プラスチックを対象とした技術として研究されてきたが,本研究課題は金属製品そのものの製造法としての応用を目指したものである.研究代表者らは1995年に米国,ドイツとほぼ機を同じくして積層造形法による金属製品の製造技術に関する研究をスタートさせ,本研究課題の基礎となる溶融紡糸堆積(FSD)法を用いてアルミニウム合金と銅合金の円筒,角筒,板,棒などの基本形状ならびにそれらの組み合わせ形状について,形状制御パラメータのデータベース化を進めてきた.本究課題では材料と形状の適用範囲の拡大を図るために,以下の3点の改良を加えた装置の試作を行った.1.基板駆動部を回転とX-Y-Zの3軸駆動を一体化したものに改良する.2.合金溶解部に予備溶解用高周波コイルと溶湯搬送システムを組込むことにより連続溶解ができるように改良する.3.溶湯流出部を2ノズルとし,異材複合構造体にも適用範囲を広げる.これらをもとにマルチノズルを用いた場合の金属部品の製造パラメータを整理し,より大型の金属部品製造へのFSD法の応用展開を図ることを目指した.得られた結果から,FSD法による精密かつ大型の金属部品の製作のために必要な試作機の開発および種々の合金系における積層条件に関する基礎的知見を十分に得ることができた.
著者
内藤 真理子 庄子 幹郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

歯周病原菌であるポルフィロモナス ジンジバリス菌は我々の研究により菌株ごとにゲノム構造の多様性を持つことが明らかになった。本研究では転移因子の一つであるConjugative transposon (CTn)が実際に菌株間、だけでなく他の菌種の間で遺伝子を受け渡している事を明らかにした。この結果から、歯周病原菌は遺伝子情報のやり取りを通じて多様性と口腔内環境への適応性を獲得していると考えられる。
著者
新庄 文明 川崎 浩二 林田 秀明 吉田 治志 久保 至誠 久保田 一見
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

N県下の歯科保健に関する地域格差や課題を明らかにするため、4つの調査と分析を行った。(1)受療調査:全歯科診療所における平成16年7月第2火曜日の受診者全数17,117人(女性57%)の年齢区分は小学生相当年齢に最初のピークがあり、55-64歳が最大であった。訪問診療は1.2%を占めたが、全受診者の25%が受診した県庁所在市19地区のうち3地区、および別の1市が全訪問診療の75%を占めており、これらの地区で訪問診療が全診療に占める割合は、11%、2.4%、1.3%、3%と、特定の地区で集中的に実施されていた。(2)歯科医師の活動調査:県歯科医師会全会員を対象とする保健活動の実情調査では、回収数25%の時点で訪問診療実施経験なしが22%、52%は訪問診療のみを実施、26%が居宅療養管理指導、摂食機能療法などを併せて実施していた。(3)幼児の生活とう蝕の関連:3歳児う蝕有病者率を市町村別にみると離島、および島原半島南部が有病率が高く、また、「近隣に歯科医院がある」、「できるだけ遅くまで甘味食を与えない」という回答者の多い地区では、う蝕有病者率が低かった。(3)離島住民の口腔保健:平成14年〜16年に離島で歯科健診を実施した1343人の約4割が未処置う蝕、15%が2本以上の未処置う蝕を有し、年齢差はなかった。65歳以上の3割以上が義歯を必要としつつ義歯を使用せず、歯が原因で不快な思いをしたことのある人の割合は歯数が少ないほど多かった。(4)児童相談所健診:N県下2箇所の児童相談所において、平成16年5月下旬以降の被虐待児を含む一次保護対象者の口腔診断査を行い、10月までの対象者70名の41%に未処置歯あり、20%に痛い歯があり、14%は「歯で困った時、我慢する」と回答した。以上の結果より、離島や歯科医療の希薄な地域、保健習慣不良、被虐待児など重点的に取り組む対象者がうかびあがり、訪問診療などの実施状況にも地域格差のあることが明らかとなった。
著者
木村 拓也
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

テストによる品質保証が教育において求められている中で、「テストの専門家」は戦後減少の一途を辿り、「テストの専門家」の供給源も1 大学と限定されてきた現状が明らかとなった。結果、日本の公的テストを支える人材は限られており、少数の者の労苦と彼らのマンパワーに支えられている現状が浮き彫りになった。テスト学会会員対象に行った調査では、多種多様な分野からの参入が浮き彫りになり、様々なレベルでの「テストの専門家」の養成に努めなければならない事態であることが確認された。
著者
中根 允文 本田 純久 高田 浩一 三根 真理子 朝長 万左男
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

長崎市にて生活している原子爆弾被爆者(原爆被爆者手帳の保有者)はおおよそ5万人いるが、彼らについて科学的方法論に則って詳細な疫学研究は未だ行われてこなかった。われわれは、原爆投下から50年を経過してこの被爆者における精神的な負担の程度を知り、且つ精神障害の有病率を明らかにすることによって、現在彼らが如何なる精神保健支援を必要としているかを探ろうとした。対象は調査期間内に被爆者健康診断を受診してくる被爆者のうち、本研究に参加の同意が表明された者で、彼らに全般健康調査12項目版(GHQ-12)でスクリーニングを施行し、二次調査としてCIDI面接、および三次調査として精神科医による臨床面接が実施された。協力の得られた事例は7,670名(男性3,216名、女性4,454名)である。一次調査の結果として、GHQ-12における高得点者の頻度は9.3%であり、性別・年齢階層別に全く同一の頻度ではないものの有意な差を見るほどではなかった。これを被ばく距離別に見たとき、近距離被爆者(〜2km)が他の被爆距離群の者より高い平均得点を示し、また高得点者も多いことが確認された。次にこの一次調査のスコアをもとに二次調査(参加協力者は225名)・三次調査対象(同212名)が抽出されたが、彼らに見られた精神障害のうち最も頻繁に見られた診断はF4「神経症性、ストレス関連性、および身体表現性の障害」であり、中でも身体表現性障害・他の不安障害の亜型が目立った。次に多かったのはF3「気分(感情)障害」で、特にうつ病圏患者が目立って多かった。今回の多数の協力をもとに、被爆者における精神疾患の有病率を推算してみると、最低の11.59〜19.59%までの幅があった。日本においては、こうしたデータの報告が全くと言っていいほどに見られないので、同値が低率なのか高率なのかを判断できない。われわれは、一般内科外来を受診した患者について全く同じ方法論でもって調査研究を行い、20%を越える有病率であったことを報告している。それに比すと、やや高率であることが窺われる。ただ、今後も詳細な疫学研究を継続することによって、適切な解釈が可能となるであろう。更に、こうした頻度に影響する要因の解明も必要であり、今後は心理社会的背景を綿密に調査していく予定にしている。
著者
奥松 俊博 岡林 隆敏 永田 正美
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、高精度振動特性推定法による橋梁構造物の健全度診断とリアルタイムモニタリングの確立を目指したものである。移動体通信による可搬型動態観測・データ転送システムを用いて、実現場対応型のシステムへと発展させた。橋梁動特性や温度などの各種データの統合、高機能携帯端末による遠隔モニタリングにより、橋梁維持管理のためのユビキタス環境の構築を行なった。一方で、本研究で開発したシステムを実橋梁長期モニタリングに適用し、橋梁健全度診断を行うための基礎データの蓄積、すなわち気温等の環境変動に伴う、橋梁振動特性の年間変化を明らかにした。以下に研究実績を示す。(1)構造同定理論を用いた高精度振動特性推定法およびプログラム開発:健全度診断のための構造同定理論を用いた高精度振動特性推定法を適用し、実構造物の挙動から固有振動数の推定を行った。(2)リアルタイム計測システムの開発:小型センサを導入し、多点計測の有効性を確認した。その一方で橋梁構造物の健全度診断を行なうためには、長期モニタリングが必要となるため、現状では電源供給等に問題があることを認識した。よって本研究期間内の実橋長期モニタリングを行なう上では、従来の加速度計を適用した。(3)データ抽出等に関する検討:多機能携帯端末を利用したデータブラウジング、および実時間モニタリングシステムについて、必要情報の効率的抽出について検討および処理ソフトの開発を行なった。さらに遠隔地の管理事務所において統合化した情報を効率的に閲覧するためのモニタリングシステムを構築した。(5)実橋梁長期モニタリングの実施:実橋梁の長期遠隔振動モニタリング実験を行なった。固有振動数は季節的な温度変化により変化することを確認した。
著者
管原 正志 上平 憲 田井村 明博 大渡 伸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、脊髄損傷で車椅子マラソン競技者の温熱環境下(寒冷は平成10年度、暑熱は平成11年度)での運動時における体温調節反応特性と生理学的反応を明らかにすることである.被験者は、脊髄損傷の男子車椅子マラソン競技者(車椅子競技者)と一般男子大学生(大学生)であり、持久的運動能力の指標である最大酸素摂取量は車椅子競技者が大学生より大きかった.測定は、12℃(寒冷)と35℃(暑熱)の環境温度で、平均相対湿度60%そして平均気流0.5m/secの測定室で実施した.測定負荷は、30分間安静の後、arm cranking運動を20watts(50rpm)で60分間負荷した.測定項目は、鼓膜温、平均皮膚温、産熱量、カテコールアミンそして寒冷血管反応である.A.寒冷暴露下での運動中の鼓膜温、産熱量、カテコールアミンは、車椅子競技者が大学生より増加が大きかった.平均皮膚温は、車椅子競技者の低下が少なかった.寒冷暴露下での寒冷血管反応の抗凍傷指数は,車椅子競技者が高かった.寒冷下での運動に対する体温調節の感受性や熱産生反応は、車椅子競技者が一般大学生より亢進していた.B.暑熱暴露下での運動中の鼓膜温、平均皮膚温、産熱量、カテコールアミンの増加は、車椅子競技者が大学生より大きかった.寒冷血管反応には、差異はなかった.暑熱下での運動に対して体温調節の感受性や熱産生反応は、車椅子競技者が一般大学生より低い傾向であったのは、脊髄損傷が暑熱下運動時の体温調節に少なからず影響を及ぼしていることが示唆された.今後は、脊椎損傷者の暑熱環境における生体応答を運動系・自律機能・免疫能よりの検討を行う予定である.
著者
竹中 隆 田中 俊幸 周 輝 西本 昌彦
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

長崎大学の研究グループでは改良された合成開口処理法を提案した.次に乾燥した砂による地雷フィールドを作成した.この地雷フィールドに金属製の地雷を想定した直径3cm,長さ5cmの金属円柱とプラスチック製地雷を想定した直径7cm,長さ5cmの円柱(ロウソク:比誘電率2.6)を埋設し,検出実験を行い,改良された2次元合成開口処理法の有効性と現有のレーダ装置に対する地雷探査の限界を確認した.さらに,改良された3次元合成開口処理法を提案し,2次元合成開口処理では識別が困難であった模擬プラスチック地雷でも,精度良く推定できることを示した.また,処理時間の短縮化を図るため,2段階の3次元合成開口処理を検討し,マルチグリッドの概念を3次元合成開口処理に取り入れることにより処理時間の大幅な短縮(従来法で約60分の処理時間が約1分)が可能であることを示した.熊本大学の研究グループでは,地雷とその他の物体(石など)を識別するのに有効な特徴の一つとして,ターゲットの上面と下面で反射されたパルスの時間間隔を用いる方法を提案した.この特徴を用いた検出・識別アルゴリズムを基に,実際に地雷識別部を構成し,計算機シミュレーションにより有効性を確認するとともに,信頼性・安定性の検証を行った.すなわち,地雷の種類,地面の粗さ,地雷の深さ,土壌の誘電率や導電率(含水率)など,種々のパラメータの変化に対する識別性能の変化を定量的に評価し,総合的な検出・識別性能と適用限界を明らかにした.同時に適用限界についても検討にした.また,実験的にも有効性を確認するため,センサ用のアンテナシステムを構築し,これを用いたモデル実験による有効性の確認を行った.さらに,性能向上へ向けての取り組みとして,最適な低次元特徴ベクトルについての検討も行なった.
著者
若木 太一 高山 百合子 不破 浩子
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

唐通事・異国通詞および周辺の唐話学者(稗官の徒、小説家)たちが編纂した唐話辞書の探索、書誌的調査、及び翻訳語彙の分析えを通して、日本近世文学・語学に及ぼした日中言語文化の顕著な相互影響を解明を目的とした4年間(平成9年度〜同12年度)の研究成果は次の通りである。1)唐話辞書、唐話学書の所在調査・書誌調査など基礎調査をカード化した。唐通事の諸家において編纂された唐話辞書、及び出版された唐話学書、あるいは翻訳書等の所在調査を行い、書誌をとり目録化した。(国文学研究資料館、東京大学図書館、慶応大学図書館、松平文庫、長崎県立図書館その他)2)「唐話辞書・通俗書略年表」をまとめた。「唐話辞書類従」(長沢規矩也解題)などに収載する唐話辞書・通俗書よび唐話学関係の文献・データなど既存の基礎目録を確認し、国文学研究資料館、国会図書館、国立公文書館等の唐話辞書の調査を基礎に、新資料を加えた目録「唐話辞書・通俗書略年表」を作成した。3)唐話辞書の語彙・内容の分析研究分担者の協力をえて辞書の翻刻、語彙の分析などを行い、索引を制作した。*『訳詞長短話』巻一の翻刻と解題*『東京異詞相雑解』の総合語彙索引4)『唐話辞書と翻訳語彙の研究-日中言語文化交渉史-』の報告書を制作した。これまで資料の発掘や収集の基礎調査と各辞書の図書館・文庫所蔵の唐話辞書、通俗書などの調査をふまえた「唐話辞書・通俗書略年表」、『訳詞長短話』の翻刻、『東京異詞相雑解』の総合語彙索引、唐通事の生活と文事等を収載。
著者
濱野 真二郎 久枝 一 野崎 智義
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

バングラデシュにおいて赤痢アメーバ症のゲノム疫学および免疫学的コホート研究を展開した。研究期間中、生後30ヶ月までの新生児385人より1426 検体の下痢便検体が得られた。病原性 E. histolyticaに加えて、非病原性E. dispar、病原性が未確定のE. moshkovskiiの検出・同定を試みたところ、4.6% の検体において病原性E. histolytica が検出され、およそ3%の検体においては E. moshkovskii が検出され、同原虫と下痢症との相関関係が認められた。一方、非病原性 E. disparは僅か 0.4% の検体で検出されるにとどまった。さらに、少なくとも6検体が E. moshkovskii単独感染による下痢と考えられた。以上の研究結果よりE. moshkovskiiが小児下痢症の原因となる病原性アメーバである可能性が示唆された。
著者
野村 亜由美
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.73-78, 2009-03

精神科医/臨床家・小澤は,数年前肺がんの告知を受け余命一年と宣告された.死を前にした小澤が「ぼけ」,「ケア」をどう捉えているのか.本書には専門用語がほとんど用いられず,平易な文章で綴られている.平易な文章で「ケア」を語る切り口は,「ケア」がおそらく万人が共通して持つであろう<やさしさに至る知>であり,そしてそれが,精神科医/臨床家として得た答えだったと考えられる.小澤は,痴呆という障害のありようを明らかにし,暮らしのなかで彼ら(認知症を患うもの)が抱えている不自由を知ること,できないことは要求せず,できるはずのことを奪わないこと,そして現在の暮らしぶりを知り,彼らが生きてきた軌跡を折にふれて語っていただけるようなかかわりをつくりたいと考えてきた.小澤は,研究者あるいは医療者が社会的に力を持つのは仕方がない.大切なのはそれを自覚することであるという.そのことばを受け筆者が感じたことは,医療に限らず,人類学者が対象を一方的に研究するのではなく,研究の対象となる人たち自身に人類学者になってもらって自らを研究し,そして自らが置かれている状況や文化を相対的な視点からながめるようになる.病気を患う人たちや医療に携わる人たち双方が,自らの状況を文化人類学的な視点でみつめるようになり,それぞれの立場や置かれた状況から解放されていく.そんな「野生の人類学者たち」が生まれることを期待しながら書評としてまとめた.
著者
神薗 健次
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

金融派生証券価格理論においては,まず原資産価格の変動を表すモデルとして,例えば対数正規過程などの確率過程が与えられる.次に派生証券は,ヨーロピアン型の場合では,派生証券満期におけるペイオフとして特徴付けられ,これはモデルの上では満期時点における原資産価格の関数として与えられる.そして,当該金融派生証券の現在時点における価格は,満期でのペイオフの割引現在価値の期待値を,いわゆるリスク中立確率測度のもとでとることによって得られる.これが,無裁定価格理論の概要である.本研究は,金融派生証券価格を非対称情報のもとで考察することを目標としてスタートした.平成19年度における本研究の研究実績の概要は以下の通りである.前年度までに Bikulov and Volovich(1997)によるBrown運動による対称確率積分を定義し,Malliavinの発散作用素との関連を論じたが,今年度には論文のさらなる改訂を行い,最終的に学術雑誌Stochastics第79巻・第6号に成果を発表するに至った.前年度より引き続き手がけていた,Donskerの不変原理に相当する定理の証明は未完であるが,p進時変数のDoobの不等式に相当するものを求めるということが新たな問題として浮かび上がった.また,前年度得られた成果であるρ進有理数全体を時変数にとるBrown運動をPaley-Winnerの方法によるBrown運動の構成について,The Third International Conference on p-Adic Mathematical Physicsにて成果報告を行った.
著者
橋爪 真弘
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

インド洋熱帯域の海面水温の異常変動「ダイポールモード現象」とバングラデシュのコレラ患者数の関連を明らかにするため時系列解析をおこなった。エルニーニョ現象の影響とは独立して、ダッカ(都市部)およびマトラブ(農村部)でのコレラ流行が「ダイポールモード現象」およびベンガル湾海面水温と関連あることが明らかとなった。
著者
江頭 誠 清水 康博 兵頭 健生
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,様々な材料をメソ・マクロポーラス化する手法を確立するとともに,電気化学デバイスへ応用することを試みた。1.メソポーラス(m-)あるいはマクロポーラス(mp-)セラミックスの調製とガスセンサへの応用通常の界面活性剤やトリブロックコポリマーの自己集合体を用いてm-SnO_2粉末を調製するとともに,その調製条件を最適化して結晶子径・細孔径をコントロールすることにより,H_2に高い応答を示すm-SnO_2センサを得た。そのm-SnO_2を既存の大粒径SnO_2粉末へ表面修飾することでH_2検知特性が改善することも明らかにした、また,アルミニウムイソプロポキシドとベヘン酸(メソ孔テンプレート)を利用して高表面積m-Al_2O_3が調製できること,これを用いた吸着式マイクロガスセンサは,現行のものに比べてアルコール応答が大幅に向上することを明らかにした。一方,サブミクロン径のポリメタクリル酸メチル(PMMA)球状微粒子を鋳型として作製したmp-SnO_2センサは,H_2およびNO_xともに高い応答を示すことを明らかにした。また,同様の手法により水晶振動子表面にmp-BaCO_3膜を取り付けNO_2検知特性を評価したところ,極めて高い応答(約30Hz/ppm-NO_2)を示すことを明らかにした。2.乾式法(パルスレーザー析出法・スパッタリング法)による多孔質酸化物膜の作製PMMA球状微粒子を鋳型として利用すると,パルスレーザー析出法やスパッタリング法といった一般的な乾式法によっても,規則性サブミクロン細孔を有するmp-酸化物膜(CeO_2,BaTiO_3,CaCu_3Ti_4O_<12>,La_<1-x>Sr_xCoO_3など)が作製できることを明らかにした。3.mp-白金膜の作製と電極特性スパッタリング法あるいは電析法によりmp-Pt電極を基板上に作製した。得られた電極は,既存の緻密Pt電極に比べて酸素還元活性が良好であることを明らかにした。また,グルコースセンサ用電極としても高い特性を有することを明らかにした。4.色素増感太陽電池に用いる多孔質チタニア電極の細孔構造の最適化PMMA球状微粒子テンプレートを用いて得られたmp-TiO_2膜を一般的なc-TiO_2電極に積層することにより,同じ膜厚のc-TiO_2電極に比べて高い電極特性を示すことを明らかにした。
著者
神原 廣二 上村 春樹 柳 哲雄
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

インドネシアは群島国であり,島によって住む民族が異なるようにマラリア流行様式も島によって異なるだけでなく,1つの島の中でも地域によって異なる。この多様性を生み出しているのは媒介蚊の種を決定する自然環境であり,人間側の生活習慣,貧困であった。しかし現在の社会経済の発達は流行地図,様式を大きく変動させている。都市化はこの地域でのマラリアを撲滅へと導いている。この典型がジャワ島やバリ島であり,私達が調査を行なったロンボク・スンバワ島においても,これまで重要な流行をもたらしていた沿岸マラリアは,経済発達のためロンボク島では一部の未開発地域を残して減少,消滅へと向かっている。ところが人口増加,社会経済活動の変化は,海岸のすぐ背後に控える森林丘陵地帯へと人々の生活圏を拡大させた。ロンボク調査地では今やマラリア流行は森林部でこれらの人々の間で起きていることが判明した。同じようなことがスンバワ島南部の新しい入植地で起きていた。どのような条件が入植地でのマラリア流行を引き起こしたのかは現在調査中であるが,旧村落から遠く離れた三つの入植地で高いマラリア流行が起きていることが発見された。すべてに共通して言えることは,マラリア流行地は医療の手の及ばないところに発生することである。興味あることは,これまでマラリア免疫は高度流行地での繰り返し感染によってのみ獲得されるという教科書的考えがここではあてはまらないことである。ロンボク森林丘陵部のマラリア流行は中等度であるにかかわらず,10才を超えるとマラリアに抵抗できる免疫を獲得すること,新しい入植地でも入植後7〜8年を経た村では15才以上の成人には抗マラリア免疫があることが明らかになってきた。いずれの地域でも熱帯熱マラリア原虫のクロロキン耐性関連遺伝子のひとつpfcrtは100%の耐性変異,もうひとつのpfmdr-1は50%を越す耐性変異を示した。
著者
太田 保之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1990年11月に始まった雲仙岳噴火災害は、1996年6月に噴火終息宣言が出されるまでに、44人の死者と広大な農耕地や多数の・家屋の焼失・埋没をもたらした。1991年9月から1995年9月までの期間に行われた被災住民の精神的健康に対する支援活動の中で、総計5回の健康調査が実施された。調査によって、次の諸点が明らかになった。(1)General Health Questionnaire30項目版(GHQ)の所見から、(1)GHQ得点8点以上(GHQ高得点者)のハイリスク群は、被災から8年間で66.9%から32.4%へと低下したが、被災地と同じ島原半島にあり、社会・経済状況が類似した対照地域の住民のGHQ高得点者率(12.3%)よりも明らかに高い水準にあった。しかし、(2)「不安感・緊張感」関連症状や「社会的無能力感」関連症状などは、避難生活開始から12ヶ月で改善した。(3)「抑うつ感」関連症状は、避難生活開始から3年〜4年以上も継続していた。(4)「対人関係困難感」関連症状は、被災から8年後にも継続していた。このように、被災住民の精神状態は時間経過と共に変化することが明らかになった。(2)自宅に戻った後の被災住民の生活実態と精神状態との関連でみると、(1)生活リズムの顕著な変化、(2)家族内役割の顕著な変化、(4)馴染みの人との付き合い減少、(5)健康感の喪失、などは精神的不健康と有意な関係にあった。(3)被災住民の精神的不健康のリスク要因は、(1)女性、(2)中・高齢者、(3)持病で長期間の受療者、(4)初期の頻回避難経験者、(5)自営業的就業者などであった。災害発生時には、被災住民の支援ニーズ変容プロセスを念頭に置いて、支援活動を行うことの必要性が明らかになった。
著者
千葉 まさこ
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.115-120, 1998
被引用文献数
1

Disabilityに対する統一的な評価法であるFIMの臨床的実用性を検討するために,FIMを用いてADL評価を行った.対象は脳血管障害患者13例で,年令は64歳から89歳(平均年齢75.4歳),性別は女性7名,男性6名で,2週間隔で2回ADL評価を実施した. その結果,運動項目(Motor Items)では,セルフケア(Self-Care)のうちの食事(Eating)は自立度が高く,入浴(Bathing)は低い例が多かった.括約筋コントロール(Sphincter Control排尿・排便)も自立度が高かった. 一方,認知項目(Cognitive Items)では理解(Comprehension)と表出(Expression)の自立度が高かった. 実際の評価に要した時間は1回当たり約20分であった。 アンケートによると,FIMは,マニュアルがわかりにくいので使用しないという意見があるが,臨床的に実用可能であり,今後積極的に使用されるべき評価法と考えられた.We studied 13 patients of cerebro-vascular accidents using the FIM Scale for it's evaluation of the Practicality for clinical use. It seems to be necessary to have a uniform scale to describe and communicate about Disability in Medical Rehabilitation. The Functional Independence Measure (FIM) has been developed to offer a uniform method for describing the Severity of Disability and the Functional Outcomes of Medical Rehabilitation. Though the FIM has been used in more than 60% of U.S. Medical Rehabilitation Facilities and has been translated into several languages for international use, it is employed only in 19.5% as first choice in Japanese Medical Rehabilitation Facilities because of some difficult feel to deal. Most clinicians would prefer to use shorter scales rather than longer ones to assess their patients, if they are equally available. It is concluded that the FIM is not only a much easier scale than so far appreciated but a proper scale to assess the patients of cerebro-vascular accidents.