- 著者
-
神原 廣二
- 出版者
- 長崎大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1991
クルーズトリパノソーマの感染哺乳類中の非増殖型トリポマスチゴートは体液中に孤立するため,多くの生残機能を発達させている。一つの手段として筋肉細胞をはじめとする宿主細胞に侵入して増殖型に変化する。したがって侵入は早ければ早い程原虫にとって宿主の攻撃をまぬがれることになるが,種の維持のためには昆虫(サシガメ)に吸血され昆虫内発育をする必要がある。このためには他方で血流中での長期生存機能を発達させねばならない。私達は牛血清アルブミンを含む低pHのMEM中で,トリポマスチゴートがすみやかにアマスチゴートに変化することを認め,この系を用いて形態維持因子を検出しようとした。まず低pH条件で促進される形態変化が原虫にとって生理学的なものであることを証明するため,電子顕微鏡による観察を用い,キネトプラスト構造を中心とする変化が,非増殖型から増殖型に向かう典型的な生理変化であることを示した。さらにイミュノブロッティングを用いて副鞭毛蛋白がこの変化に伴い消失することから,アマスチゴートへの変化であることを示した。トリポマスチゴートは中性条件においても血清または血清アルブミンの共存なしには生残できない。この原因は私達がこれまで考えてきたトリボマスチゴートから分離される細胞膜溶解物質の中和によるのでなく,アルブミンまたは他の血清成分はトリポマスチゴートの膜構成の安定化に必要であるためらしい。いくつかの血清成分の形態維持作用が調べられたが有意な効果を認めない。形態変化に伴いいくつかの蛋白が失われるが,このうちトランスシアリダーゼは早く消失するものの1つである。各種の細胞内情報伝達に影響を与える試薬の形態変化に対する影響を調べてみると,オカダ酸,KT5720に形態変化促進作用がある。このことと形態維持因子がいかにかかわっているのか,果して形態維持因子が特定できるのかは今後の問題である。