著者
米山 秀 THOMAS Olding
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、経済史上もっとも古典的な研究テーマの一つである農業賃金労働者の形成過程を、農民層分解論としてではなく賃金労働者の家族史として考察することにあった。すなわち小農民の土地所有の分解論としてではなく、若い男女の独身の奉公人が、小農民になるかその世帯内に奉公人のまま生涯包摂されるというライフサイクルの在り方が、若い奉公人の大半が結婚して賃金労働者となるというライフサイクルの在り方へ変化する過程として住民台帳で捉えることにあった。本研究においては、こうした想定を研究史の再構成によっていくつかの具体的な仮定にするとともに教区簿冊や住民台帳類でその検証を試みた。その結果、本研究の範囲内では賃金労働者家族自体の増加は直接的には検出できなかったが、短期奉公人(ライフサイクル・サーヴァント)は決して近世イギリスの奉公人の一般的な特徴ではなく、賃金労働者の結婚前のライフサイクルの特徴であり、しかも近世後半に急増したという形で、農業賃金労働者家族の形成過程が間接的には論証されたといえる。
著者
川上 和人 阿部 真 青山 夕貴子
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.1-19, 2011-03

小笠原諸島では、外来木本植物であるトクサバモクマオウ Casuarina equisetifoliaが野生化し、優占種となることで、様々な影響を与えている。本研究では、父島列島の西島において、本種が優占する森林の環境特性を明らかにするため、開空度、リター厚、土壌水分量、土壌硬度、リター下の温湿度の測定をおこなった。その結果、モクマオウ林では、在来樹林に比べ、開空度が高く、リターが厚く堆積し、土壌が乾いていることが示され、また比較的温度が高い傾向があった。このような環境の違いは、動植物相の成立に影響を与える可能性がある。西島では、トクサバモクマオウの試験的な駆除がおこなわれており、環境特性の変化をモニタリングする必要がある。The invasive alien woody species Casuarina equisetifolia has expanded its range and become dominant in various areas in the Bonin Islands, situated in the northwestern Pacific. In order to clarify the environmental characteristics of Casuarina forests, we examined the canopy openness, litter depth, soil moisture, soil hardness, air temperature, and air humidity on Nishijima, which is widely occupied by the alien plants. We found that the canopy was opener, the litter was thicker, and the soil was drier in Casuarina forests than in native forests. These physical differences are likely to affect the faunal and floral assemblages. As experimental eradication is being conducted on the island, and the trend in the physical conditions should be monitored.
著者
畑 憲治
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

森林生態系において優占する外来木本種の駆除は、生態系内の水循環を変化させる可能性がある。この仮説に基づいて、海洋島である小笠原諸島の森林生態系で優占する外来木本種トクサバモクマオウの駆除が、土壌含水量に及ぼす影響を野外実験的なアプローチから明らかにした。除草剤によってトクサバモクマオウを枯死させた調査区(以下駆除区)における土壌含水量は、隣接する対照区においてよりも有意に高く、これは駆除処理によって土壌含水量が増加したことを示唆した。また、この駆除処理による土壌含水量の増加は、降雨がない乾燥期間における土壌含水量の低下の程度が駆除処理によって緩和されることと関係していることが明らかになった。
著者
清水 徹英
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、硬質/軟質相が面内方向に規則配列された「面内ヘテロ構造」を有するテクスチャード表面を実現することで,連続摺動に伴う摩耗をパッシブに利用し,軟質相の選択的摩耗を促進させることでテクスチャ構造の自己形成化を図るものである.特に提案する面内ヘテロ構造の創製手法の確立およびその基礎摩擦・摩耗特性を解明することを研究目的とした.本研究を通して,イオン化蒸着法,酸素プラズマエッチング,プラズマCVD法を同一チャンバー内で行うことにより,面内ヘテロ構造を有するDLC膜の形成に成功した.創製した面内ヘテロ構造DLC膜における軟質相の選択的な優先摩耗挙動を明らかにし本提案手法の有効性を示した.
著者
大西 琢朗
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は,多様な論理の妥当性を統一的に説明しうるような「二元論的/双対的な意味のモデル」を,「証明論的意味論」の立場から確立することである。平成26年度はこの目的に照らして(1)「推論のパラドクス」に対する証明論的意味論の立場からの解明,および(2)「様相演算子としての否定」にかんする形式的研究,を行った。(1)について:推論のパラドクスとは,演繹的推論の正当性 (説得力があること) と有用性 (新しい知識の獲得を可能にすること) という2つの特徴のあいだには衝突があるのではないか,という問題である。本研究では,この問題にかんするマイケル・ダメットの議論を批判的に検討し,論文「間接検証としての演繹的推論」として発表した。そこではまず,彼の枠組みのなかでも特に「検証可能性」という様相的な概念に注目し,それが彼の議論においてほんらい意図されている役割を十分に果たせていないということを明らかにし,次に,オルタナティブな推論モデル,すなわち(二元論的/双対的な)「双側面説」をベースにしたモデルを提示し,それがダメットの枠組みの欠陥をある仕方で解消できる,と論じた。(2)について:否定演算子を,いわゆる可能世界意味論によって定式化される様相演算子と捉える研究伝統に対し次のような寄与を行った。第一に,様相としての否定を形式化するシークエント算(ディスプレイ計算)の体系を構築した。第二に,「自己双対的」な否定は「不可能性」と「非必然性」という二種類の否定的様相を同一視することで得られる,ということを明らかにした。これにより,従来の研究で構築されてきた枠組みのなかに含まれていた,いくつかの不自然な点を解消することができた。この研究成果は学会・研究会で口頭発表した後,Australasian Journal of Logicに投稿し,現在,修正の上掲載可という査読結果を得ている。
著者
玉川 英則 野澤 康 市古 太郎 河村 信治
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,東日本大震災の津波被災地であり,研究メンバーが発災直後から支援調査活動を継続し「顔の見える関係」のある岩手県野田村を対象に、現地での復興シャレットワークショップ(CWS)の実施をとおして、復興空間パターンを抽出し、周辺他都市との機能連携でのコンパクトな居住復興モデルを実践的かつ理論的に導出しようとしたものである。3年の研究期間(プレスタディ期間を含めれば4年間)において、素朴で物的な計画を中心とした提案から、期間途中から民泊プログラム等を組み入れることにより、当地のなりわいを体験し被災地に寄りそう中で、より地域に密着した提案を考案していくプロセス構築がなされていった。
著者
谷口 千絵
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的のひとつは、妊娠期を通じて、対象者自身が生活活動量を測定することによって対象者の妊娠経過および健康に対する認識と行動化へ寄与するか明らかにすることである。子年度は引き続き、生活活動量の測定方法について検討した。1つの方法として、加速度計(ライフコーダEX)を用いた歩数および活動量の実測があり、プレテストを実施した。また、もう一つの方法として、今年度は調査票により生活活動量を測定する方法を検討した。先行研究によると具体的な運動については、自記式でもインタビュー形式でも妥当性にほとんど違いはないことが明らかになっている。しかし、生活活動量については明らかになっていない。第一段階として、日記法を用いて実施したが、どの生活行動を記述するのか明確にならず、対象者によってバラツキがでることが考えられた。第二段階として、主な生活行動を項目として列挙した記録用紙を用いたが、対象者の生活パターンが多様であるため、該当する項目が少なく一定の記録用紙は完成しなかった。主に座位の行動や不活動が生活行動の大半を占める対象を想定しているため、質問紙による測定が困難であった。セルフモニタリングは単独あるいは、別の手法と組み合わせて、個人の行動変容を促す認知行動的介入のひとつの技法である.その有効性は一般成人においては、多く先行研究において確認されている。また、必ずしも目標に設定どおりの行動をとることができずに、やり損なったときめ罪悪感を感じたり、逆戻りの生活行動に戻らないような予防的な措置が必要ともいわれている。妊婦を対象とした場合は、失敗体験として受け止めることや実施しなかったことが児への罪悪感へつがることを防ぐための方策を介入にあたって検討する必要があることが明らかになった。
著者
三宅 紀子
出版者
首都大学東京
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は身体描画法の量的指標以外のその他の指標を深層心理学的に分析する活用法について検討した。個別の事例を取り上げ、身体描画法により得られた描画の質的な分析結果と被検者との面接により聴取された情報との対応・一致の程度を吟味し、身体描画に表出した被検者の身体に対する感情や態度等を検討した。事例を挙げると、不安定な対人関係の経験があり、病的痩せにより無月経となり、婦人科の処方薬を飲んで月経を起こさせている被検者Aさんは、大きな頭、細く長い首、異常に長い脚を描いた。面接では「お腹が空いた感じがわからない。」「私は時間で食事をしている。」と話した。この事例は、自然に感じられる空腹感がわからず、大きな頭で食事をコントロールしているが、頭を支える首が細いために頭がグラグラとして、頭のコントロールも不安定になりがちなAさんの様子が描画に反映されたものと考察された。また、体重増加の懸念や痩身願望が強く、大食や自発嘔吐を繰り返すという非常に不安定な摂食態度を持つBさんは身体の輪郭が曖昧で、足部(正面画、横向き画の両方)と腕および手(横向き画)がない不完全な身体を描いた。面接では、「食べちゃいけない、という反動で食べちゃう。」「夜にたくさん食べてしまい、これではいけない、吐かなきゃ、と毎日のように吐くこともある。」と話した。先行研究より、腕なしは不適応感や無力感を表わし、足なしは自立心の欠如を表わすとされるが、Bさんの描画はBさんの摂食に対する不適応感や食欲に抵抗する無力感、摂食コントロールの自律性の無さを表わすものと推察された。このような事例より、描画には被検者が意識しているか、否かに関わらず、被検者の身体に対する感情や態度などの内面が表出していることが認められた。これにより一般的に身体像を測定するために身体描画法を用いるだけではなく、言語による自己表現能力が低い生徒や学生を理解するための方法、あるいは恣意的な回答を避けるための身体像測定方法として身体描画法が適用可能であることが確認された。
著者
林 文男 上村 佳孝
出版者
首都大学東京
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

昆虫類のオスの交尾器の多様性は顕著である.そうした多様性は,雌雄の交尾器の接合を通して進化してきたものである.しかし,交尾器のそれぞれの部分の機能については,その方法上の問題からほとんんど解明されていない.そこで,本研究では,新しい手法として,微細蛍光ビーズをオスの交尾器の各部に塗布し,交尾後にその蛍光ビーズがメスの腹部末端のどこに付着するのかを調べることによって,交尾器の接合部を明らかにした.大型昆虫であるカマキリ類を用いて,この手法を確立し,カマキリ類のオスの左右非対称な交尾器の機能が,メスの産卵弁を持ち上げることにあることを明らかにした.この手法は交尾器の機能解明に広く応用できる.
著者
島田 恵 正木 尚彦 池田 和子 木村 弘江 金子 千秋 眞野 惠子 兒玉 俊彦 郷 洋文
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

慢性肝炎患者調査から、患者の治療継続を支援するには“患者の考える”治療の必要性や生活上の制限を聞き取る必要があることが分かった。また、外来看護師調査からは、患者の相談対応技術や外来システム・連携に課題があることが分かった。そこで、アクティブ・ラーニング形式で外来看護システムについて学ぶ「外来看護師育成プログラム」を作成し、肝炎外来看護研修を実施した。受講者は「HIV/AIDS外来療養支援プロセス」を参考に自施設における外来看護システムを考案し、アクションプランを立案した。研修後のフォローアップ調査では、受講者10名中3名が達成率80%以上に到達しており、その看護師達は管理職経験者であった。
著者
井上 薫 木下 正信 和田 一義 柴田 崇徳 伊藤 祐子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、認知症をもつ高齢者に対するロボットPAROを活用したケアの効果を調査し、ロボットの効果的活用法を検討することであった。施設生活の認知症高齢者に対しては、医療・福祉専門職による支援でコミュニケーションや活動性の向上が認められた。在宅の場合、家族の支援により同様の効果がみられたケースがあったが、すべての高齢者が良い反応を示したわけではなかった。成功例の場合、家族の介護負担感が軽減したことがわかった。ただし、施設においては、明らかな効果がみられたが、専門職に対する訓練は必要であることがわかった。家庭では家族だけでは治療的かかわりは難しく、専門職による支援が必要であると考えられた。
著者
三上 岳彦 成田 健一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

緑地規模や土地被覆構成と緑地内の気温低下量との関係を明らかにするために、2006年夏季に都内11箇所の公園緑地(対象の緑地は皇居、明治神宮と代々木公園、新宿御苑、自然教育園、小石川植物園、小石川後楽園、芝公園、戸山公園、六義園、新宿区立甘泉園公園、港区立有栖川宮記念公園)にて気温の長期連続観測を行った。その結果、以下の成果が得られた。1.都内の主要な緑地における連続的な気温観測記録を得た。それにより、夏季の緑地内外の気温差は最大で5℃に達するほどであることなど、都市内緑地の熱環境緩和効果が明らかになった。2.緑地内外の気温差は、緑地総面積や樹林面積の対数に近似される曲線で近似できることが分かった。このことは、都市内緑地の熱環境緩和効果を論じるうえで近年課題となっているSLOSS(Single large or several small)問題に答えたことになる。また、緑地内の樹林面積と樹林率からなる、公園緑地における気温低下量を説明できる指標を提案した。3.高時間分解能での観測を生かし、時刻ごとに公園の土地被覆構成と気温低下量との関係を表す重回帰式から、どのような土地被覆構成要素がどの時間帯にどの程度の熱的効果(気温低下量への寄与の大きさ)を持っているのかを明らかにした。
著者
渡邊 知佳子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

不妊症女性の冷えの特徴を出産した女性との比較により明らかにした。出産女性の方が不妊症女性よりも末梢体温が低く、躯幹と末梢の体温差も開いていた。つまり不妊症女性の方が冷えは強くないが、冷えをつらいと感じている者は多かった。不妊症女性10名を対象に、冷えの改善に向けた生活行動の教育プログラム(服装、睡眠、運動、食事、入浴等)を行い、検討した。その結果、末梢体温の上昇や冷えの改善だけでなく、「発汗しやすい」「寝つきが良い」という意見や、基礎体温の上昇、月経痛の緩和が見られ、6ヵ月間で2名の妊娠が判明した。本研究の教育プログラムは不妊症女性のセルフケアを促し、健康感や妊孕性の向上に繋がると示唆された。
著者
齋藤 秀敏 藤﨑 達也
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、高エネルギーX線による放射線治療において患者体内で発生するコンプトン散乱光子の情報を利用して、放射線治療の確かさ向上のための照射位置検出および投与線量分布再構成可能なガンマカメラシステムを開発することである。この目的のためコンプトンカメラに着想し、シミュレーションによりその可能性を示した。また、原型となるシステム構築を目的として、コンプトン散乱光子のエネルギースペクトルおよび発生効率をシミュレーションにより求め、実験的に検証した。これらのデータを利用し、検出器、コリメータシステムおよび再構成アルゴリズムなどに関する基礎的研究を進めた。
著者
山田 拓実 妹尾 淳史
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は1)虚弱高齢者を対象として(A)運動トレーニング,(B)呼吸筋トレーニングを実施しての姿勢,嚥下機能,咳嗽能力に対する介入効果について明らかにすることである。デイサービス利用の要支援1・2の軽度介助高齢者52名を対象とした。介入期間は週2回3ヶ月間とした。インセンティブ・スパイロメトリ(Tri-Ball)と振動PEP療法(Acapella)を使用して呼気筋トレーニングを実施した。運動トレーニングは、低強度の筋力・柔軟性トレーニングを実施した。(A)呼吸筋トレーニング群+運動トレーニング群(B)呼吸筋トレーニング群(C)コントロール群の3群の介入前後での測定値の比較をした。(C)コントロール群と比較して(A)呼吸筋トレーニング群+運動トレーニング群(B)呼吸筋トレーニング群では、1秒量、ピークフロー、反復唾液嚥下テスト(RSST)、最大呼気・吸気口腔内圧の有意な改善がみられた。これらの改善量には有意な差はみられず交互作用はみられなかった。デイサービス利用の要支援1・2の軽度介助高齢者を対象とした週2回3ヶ月間の呼吸筋トレーニングは咳嗽力、呼吸筋筋力、嚥下機能の改善に有効であった。
著者
可知 直毅 平舘 俊太郎 川上 和人 吉田 勝彦 加藤 英寿 畑 憲治 郡 麻里 青山 夕貴子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

外来哺乳動物の攪乱の結果、生態系機能が消失した海洋島において、外来哺乳動物の駆除が生態系機能に及ぼす影響を評価し、駆除後の生態系の変化を予測するために、小笠原諸島をモデルとして、野外における実測データの解析と生態系モデルによる将来予測シミュレーションを実施した。シミュレーションの結果、ヤギとネズミを同時に駆除した方が植生や動物のバイオマスの回復効果が大きいことが明らかとなった。また、予測の精度を上げるために、環境の空間的不均質性を考慮する必要があることが示唆された。
著者
河原 加代子
出版者
首都大学東京
巻号頁・発行日
2006

1.本研究は、後遺症として認知機能に障害をきたす割合が高い脳血管障害者を対象に、リハビリテーション病院のベットサイドの生活空間において、患者の動作と脳血流の変化を測定することにより、認知機能のアセスメントと評価、そして具体的な看護方法を開発することを目的とする。2.対象は、リハビリテーション病院に入院中の脳血管障害者7名(男6名、女1名)と、健常者1,1名(男6名、女5名)の合計18名であった。測定用具は、非侵襲的かつ量的視覚的に測定可能な近赤外光イメージング装置fNIRS(functional near-infrared spectroscopy)島津製作所を用いて前頭葉の脳血流の変化を測定した。看護方法の課題(タスク)の作成と精選-歯をみがく、髭をそる、靴下をはく、靴をはく、ボタンをかける、手洗いをする、字をかく、塗り絵をぬる、字をよむ、ルービックキューブ、アイスマッサージ、箸をつかうなど16動作を実施した。3.全タスクにおいて、健常者、脳血管障害者の両者で、介助よりも自力で行った際の脳血流量の変化が著明であった。脳血管障害者が生活動作を再獲得していく過程において、自力で行うことへの看護介入の段階的な援助は、刺激として有効であることを新ためて視覚的に確認することができた。また「食べる」タスクは、他のタスクに最優先して援助される必要がある。「食べる」能力の再獲得は他の日常生活動作の能力を引き出すきっかけともなり得る。この脳賦活化の良質な刺激となるタスク動作の順序性と段階的な刺激の提示が、障害者の機能レベルに合致した介入方法としてプログラミングされることが重要である。こうした看護介入の根拠を明らかにすることは、同時に患者及び家族にとっても機能回復にむけた訓練の効果を視覚的に知ることが可能となる。
著者
宮下 清 丹野 勲 中山 健 山本 寛 薄上 二郎 杉浦 正和 櫻木 晃裕 細海 昌一郎
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の成果として、資格を中心にホワイトカラー人材の育成、評価について日米英の比較から、新たな知見を見出すことができた。まず仕事に使えるよう知識や経験を応用・適用する力であることが重要とされた。日本にホワイトカラー資格は存在しないし、今後も浸透の可能性は低い。英米でも実務経験、OJTが重要で、企業で求められる専門性とは仕事をする力であり、職場・仕事こそが最高の人材育成の場であることが確認できた。
著者
鈴木 晃志郎 鈴木 亮
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.85-93, 2009-03-30

首都大学東京の南側斜面にある松木日向緑地は、十分な維持管理が行われていないため近年ササや竹林が繁茂し、荒廃が進んでいる。この背景には、大学側が管理のための予算を継続して取ってこなかったこと、維持管理のための組織体制が学内で統一できていないことが関係している。松木日向緑地は、大学移転前までは地域の里山であり、人々の生活と密接に関わりのある入会地的性格をもった緑地であった。しかし大学側は、移転当初から地域住民の立ち入りを禁止し、圃場のみ技術職員を配置して維持管理にあたらせた。これに熱心な教職員の緑地保全活動も加わった。しかしながら、こうした大学側の対応は、地域住民の生活から松木日向緑地を遠ざける結果へと結びついた。大学側の対応は、植生の維持管理についても、業者への委託によって不定期におこなわれる下草刈りにとどまった。自発的な緑地の維持管理主体を喪失したことが、現在の状況を生み出す要因になったといえる。今後は、教職員・学生のみならず、エコロジーに対する意識の高い地域住民を取り込み、三者が一体となった組織的かつ持続可能な緑地保全の在り方を探っていく必要があろう。