著者
太田 宏平
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

圏論について現代的意義のある哲学的研究を行うために論理学及び計算論の進展との関わりに注目した。categorical combinator、categorical abstract machine、λσといった、直接的に圏に関わっていた諸体系は計算を自然演繹的およびラムダム計算における正規化ではなくて式計算におけるカット除去によって捉えるという現代の潮流(それは具体的には、proof net, geometry of interaction, game semantics, pointer abstract machineを始めとする諸々のabstract machine, interaction net, 微分ラムダ計算等である。)の源となっている。2006年5月に投稿し、2007年1月に差し戻された論文「空所について」では、フレーゲの空所ないし項場所に基づく関数表現の捉え方が、上記の潮流のひとつのまとまった成果であるP.-L.Curienの抽象ベーム木の体系に近いということを指摘した。このことは、変項という一種の表現ではなくて、表現をそこにおくことのできる場所という考えに基づいて関数表現を捉えることや、フレーゲが不飽和性を本来見出すべき領域として意義Sinnの領域を挙げていることの重要性にもつながっていくことが投稿後明らかになったので、今後行う再投稿においてはこのあたりの事情も論じていく予定である。7月と11月に行った研究発表では抽象ベーム木と同様の体系であるludicsにおける証明および命題の取り扱いを、ダメットおよびマルティン=レーフのそれと比較して論じた。上記フレーゲ研究の進展に伴い、これは証明を関数のような不飽和なものとしてとらえるか、それともマルティン=レーフのように飽和した数学的対象としてとらえるかという問題であることが明らかになった。
著者
今中 國泰 西平 賀昭
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、顕在的・潜在的知覚と運動反応に関して、逆向マスキング下の反応時間と事象関連電位、偏側性運動準備電位から検討した。逆向マスキング下の反応時間課題では、感覚閾値付近の弱い刺激(prime)とその数十ミリ秒後に提示される強い刺激(mask)の2つの連続刺激を用い、それらに対してできるだけ早く反応するという単純反応時間課題を用いた。またprime刺激の検出率及び脳波事象関連電位を測定し、単純反応時間と脳内情報処理の時間関係を検討した。その結果、単純反応時間は逆向マスキング下ではprime刺激が顕在的には知覚されないにもかかわらず、prime刺激があるときの方がないとき(つまりmask刺激のみ)よりも反応が早く起こることが示された。またその短縮した単純反応時間は、刺激呈示から偏側性運動準備電位(S-LRP)立ち上がりまでの時間(対側性運動準備過程が始まるまでの時間)と相関性が高く、LRP立ち上がりから反応動作までの時間(運動準備過程に要する時間)とは関連性がなかった。この結果から、逆向マスキング下の反応時間短縮効果は、顕在化されないprime刺激によって知覚過程の活性化が生じ知覚情報処理時間が短縮したか、あるいはprime刺激の感覚入力が直接運動準備過程の情報処理を賦活させたか、これらのいずれかによって運動準備過程の早期化が起こったものと考えられた。事象関連電位からは、逆向マスキング下のprime刺激によりP100(1次視覚野付近の活動)は明確に生じたがP300(刺激の認知)にはprime刺激の影響は生じなかった。したがって、prime刺激は初期視覚過程の処理はなされているが認知処理は行われていないことが示された。本研究ではprimeの潜在知覚による反応時間短縮効果について、行動的指標に加え脳波事象関連電位からそれらの背景にある脳内情報処理過程を明らかにした。
著者
西谷 隆夫 岩田 誠 酒居 敬一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

携帯端末で映像から情報入力を行う際の前処理演算の効率化として多重解像度処理とそれを実現するTOPS(テラ・オペレーションズ・パー・セコンド)までスケーラブルに拡張できるマルチプロセッサのアーキテクチャについて検討した。映像からのデータを活用する前処理は従来の空間的な相関に加え、画素単位の時間的な処理に重点が移りつつある。空間的な処理としてカラー画像強調アルゴリズムの演算量削減を、また、時間的な処理に空間的な要素を加え、安定性と低演算処理を狙った混合ガウス背景モデルによる前景分離を対象に検討を行った結果、双方とも従来例に比べ大幅な演算量削減を実現できた。カラー画像強調と前景モデルを組み合わせることで逆光などの劣悪状況でも追跡が可能なことも示せた。どちらの応用もローカル処理や画素ごとの判定が多く、超並列プロセッサ向きである。また、判定処理が多く、プロセッサ自体をパイプライン化すると条件判定で無駄命令が多発することも明確になった。このため、昨年度提案した超並列DSPを発展させ、その利点を明らかにした。その結果、アルゴリズムは超並列で論じ、ハードウェアはパイプライン化しない範囲の高い周波数で動作させ、超並列アルゴリズムの一部を多重化させる方式が良いとの結論になった。また、昨年度導入したセグメントバスを有効に使うと動き補償などの空間処理で最も効率が良いとされていたシストリックアレーを凌駕するアルゴリズムを導出でることも明らかになった。このアーキテクチャを1985年ごろのパイプライン処理を行わないDSPをベースにFPGAで作ると1チップに約300個実装できることを実験的に確かめた。
著者
菊地 俊夫
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は大都市近郊農村を主な対象にして、農地や谷戸、および里山や林地などの緑地空間の再編をグリーントリフィケーション(greentrification)として捉え、その創成メカニズムと持続性を明らかにすることを目的とした。グリーントリフィケーションとは「緑地空間の再編・美化」や「緑地空間価値の高度化」ともいわれるもので、その研究は農村や農山村における非経済的な価値を見直すことにもなる。大都市近郊では、農村空間の構成要素である里山と農地を農村と都市のコミュニティが協働で保全してグリーントリフィケーションを成立発展させ、そのことが大都市近郊農村の持続性を高めていた。
著者
小島 広久
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

適応スキュー角ピラミッド型コントロールモーメントジャイロを新たに提案し,スキュー角駆動機構を有する実験装置を製作した.特異点曲面のスキュー角依存性を解析し,従来角度において内部特異点曲面積が最小になることを発見した.従来のジンバル駆動則を適応スキュー角CMG 用に拡張し,約5%の姿勢変更時間の短縮に成功するとともに,オーバーシュート量の減少を達成した.またヌルモーション項を入れることによりスキュー角が姿勢変更終了後に従来角方向へ戻る傾向を与えることに成功し,連続姿勢変更にとって望ましい結果を得た.考案した制御則により,姿勢変更時間が短縮化可能なことを実験装置にて検証した.
著者
若林 芳樹 岡本 耕平 今井 修 山下 潤 大西 宏治 西村 雄一郎 池口 明子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は,日本で本格的にPPGIS(参加型GIS)を実践していくための方法論的基礎を確立することを目的として,内外での既存の実践例を調査した上で,日本の実情に即したPPGIS の応用の仕方を検討した。研究にあたっては,課題を次の四つのサブテーマに分けて取り組んだ:(1) PPGISの理論的・方法論的枠組み(2) PPGIS のための技術開発(3) PPGIS の実践例の調査(4) PPGISの実践的応用。
著者
田村 雅紀
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

昨年度に引き続き,「骨材回収型コンクリート」における油脂系改質処理剤を用いた改質処理効果(特許出願済)に関する応用的検討を行い,その結果なども踏まえ,骨材回収型コンクリートの運用方法についても考察した。以下に得られた知見の概要を示す。1.ZKT-206法による骨材回収型コンクリートのアルカリシリカ反応低減効果の迅速評価結果JIS A 1804 骨材試験法と比較し,コンクリート法の場合,調合の影響を考慮することができる。w/c=0.6で,普通骨材を用いた改質処理法(標準の3回塗布)で製造した供試体を,材齢2日で加圧装置にかけると,アルカリシリカ反応を示さない試料でも相対動弾性係数が低下する場合がある。w/c=0.4ではそのような結果は生じなかった。従って,ASR抑制効果を意図して改質処理をしても,迅速法の場合,調合によりその効果が十分に説明できない場合が生ずることが確認された。また,その結果により,同コンクリートの長期的な力学挙動(クリープ等)や耐久性について更なる検討が必要と考えられた。2.改質処理再生骨材を念頭に置いたモルタル部分の吸水率低減性実験再生骨材に改質処理を施して目的とする効果を得るために,吸水率低減効果を詳細に検討した。結果,モルタル部分のw/cが,0.2〜0.6範囲では,実験室結果では,3回までの処理で,吸水率を十分に低減できることが確認された。3.改質処理再生骨材コンクリートの耐久性油脂系の場合,中性化速度係数は無処理と比較して低下する(w/c=0.6の場合)。これは,再生骨材のプレウェッチングが不要となり,マトリックスが緻密になる効果が期待できるためと考えられる。乾燥収縮ひずみは,無処理よりも若干低減し,それはAIJの収縮ひずみ予測式で示される範囲の変化を示す。単位クリープひずみは一般的なコンクリートよりも増大する可能性があり,そのような物性を有するものとして位置づける必要があると考えられた。(本検討は,他の研究予算による支援も受けて実施した。)4.骨材回収型コンクリートの運用方法JIS規格(案)が検討されている再生骨材Mを対象とした技術的運用も含め,環境側面を再整理し,用途拡大の方策を検討した。そして運用面では,技術的問題以上に解決すべき問題があることが把握された。
著者
河島 思朗
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究は、オウィディウス『変身物語』における詩的技法を詳細に研究することを主眼とする。とりわけ、物語相互の連関に着目して、作品の解釈を試みる。『変身物語』に含まれる多彩な物語群は、個々に独立する物語でありながらも、互いに連関を有している。この理解については先行研究も広く認めるものであるが、個々の物語の理解に影響を与えるような物語同士の内的な連関については、具体的に議論され得る余地はなお多く残されている。今年度は、第一に物語相互の連関について、第4巻55-388行、第10巻86-219行、第15巻60-487行を考察し、新たな理解を見出した。さらに『変身物語』に影響を与えた他のラテン文学作品との関連から考察した。とりわけ、ウェルギリウスの『牧歌』、『農耕詩』、『アエネーイス』の分析を行ない、『変身物語』の文学史的位置づけを考察するとともに、作品の詩的技法上の特質を研究した。また、『変身物語』の古代ローマにおける社会的・文化的意義、また作品の神話学的な意味についての研究を推し進めることによって、その詩的技法の効果を分析した。以上の研究成果は、2009年の都立大学哲学会において、「アリスタエウスの物語の意義-ウェルギリウス『農耕詩』第四巻」として口頭発表する予定であり、また「ミニュアースの娘たちが語る物語群-オウィディウス『変身物語』4.55-388に描かれる変身の意味-」を2008年中に『ペディラヴィウム』に、"Personal Pronouns in Ovidius Metamorphoses10.86-219"を2009年にSeiyo-kotengakuに、それぞれ論文として投稿する予定である。またこれらの研究成果によって、課程博士論文提出予備資格を取得済みであり、さらにこの成果を平成20年度首都大学東京オープンユニバーシティーにおいて一般向け講義として発表することが決定している。
著者
舛本 直文 王 一民 任 海 MACNAMEE Micheal BARNEY Robert MACDONALD Gordon
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

2008年北京大会、2010年バンクーバー冬季大会、2010年シンガポール・ユース大会を対象に調査研究した。北京大会では国際聖火リレー問題および愛国主義教育との関連から平和教育が十分ではなかった。バンクーバー大会では国際聖火リレーの禁止およびオリンピック教育における平和運動の不十分さから平和メッセージの発信不足。シンガポール・ユース大会でも平和的メッセージの発信の不十分さ。以上が明らかとなった。
著者
赤穂 まなぶ
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は錘型の孤立特異点を持つ特殊ラグランジュ部分多様体のフレアー理論について詳しく調べ、正則曲線の分類についていくつかの結果を得た。カラビ・ヤウ多様体における特殊ラグランジュ部分多様体は、ミラー対称性との関わりで、現在非常に注目を浴びている。この特殊ラグランジュ部分多様体のモジュライ空間をコンパクト化したとき、そのコンパクト化の境界の点に対応するものは、基本的には、特異点を許容する特殊ラグランジュ部分多様体であると考えられる。しかし一般には、その特異点の様子はあまりにも複雑で、まだ現在の技術では到底理解が出来たという段階には至っていない。そこで最も簡単な場合である、錘型の孤立特異点について調べた。まず、ハーベイとローソンによる3次元複素ユークリッド空間の中の特殊ラグランジュ錘と、それを滑らかな特殊ラグランジュ部分多様体に変形したもの(漸近的特殊ラグランジュ錘)を用意する。この変形は1次元分のパラメーターを持っており、そのパラメーターが0のときに原点に錘型の孤立特異点が現れる。そして2次元円盤から複素ユークリッド空間への正則写像で境界がハーベイ・ローソンの漸近的特殊ラグランジュ錘に含まれるようなものを考える。このとき、そのような正則円盤は基本的に標準正則円盤しかないと言うことが証明できた。また先のパラメーターが0になったとき、この標準正則円盤は消滅する。さらに、標準正則円盤は横断正則性を満たしており、これにより標準正則円盤のモジュライ空間は一点からなることが分かった。次の段階として、現在、境界にいくつかの特異点を持つ正則円盤の分類も試みている。これはコンパクトな特異特殊ラグランジュ部分多様体とその滑らかな変形を調べる上で局所モデルとなる、非常に重要な研究材料であり、その解明が期待される。
著者
山崎 晴雄 長岡 信治 山縣 耕太郎 須貝 清秀 植木 岳雪 水野 清秀
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

鮮新・更新世に噴出した火山灰層の対比・編年を通じて、日本各地の後期新生代堆積盆地の層序・編年を行った。これを利用して、関東平野や北陸地域、宮崎平野などの古地理変遷を明らかにした。また、洞爺火山や浅間火山などの活動史や地形変化を示した。これらにより以下の成果を得た。1.中央日本(大阪〜関東)において1.3Maの敷戸-イエロ-1テフラの存在確認を初めとして、4〜1Ma(百万年)の間に少なくとも12枚の広域指標テフラの層序及び分布を明らかにした。これにより、10〜50万年ほどの間隔で時間指標が設定でき、本州に分布する鮮新・更新世盆地堆積物編年の時間分解能や対比精度が著しく向上した。2.本研究で発見した坂井火山灰層(4.1Ma)は現在日本で知られている最古の広域テフラである。アルカリ岩質の細粒ガラス質火山灰で、その岩石記載学的特徴から同定対比が比較的容易であり、今後、日本列島の古環境復元に活用できる重要な指標テフラとなろう。3.関東平野の地下についてボーリングコア中の火山灰と房総半島や多摩丘陵に分布する火山灰の対比が進み、平野の地下構造、深谷断層-綾瀬川断層の活動史、テフラ降下時の古地理などが判明した。4.関東平野の地下構造とテフラ編年から、この地域の活断層の一部は15Maの日本海開裂時に形成された古い基盤構造が、1Ma以降の前〜中期更新世頃に新しい応力場で再活動を始めたものであることが明らかになった。5.北海道各地のテフラ情報が集積され、洞爺火山の活動史などが明らかになった。6.九州の火山活動史がとりまとめられると共に、テフラを用いて宮崎平野の地質層序、地形面の編年が詳細に調査され、鮮新・更新統の層序が明らかになった。7.テフラを利用して浅間火山の更新世活動史、泥流流下機構、周辺の地形発達との関係が明らかになった。8.本研究で改良した広域テフラを用いた地層の編年・対比技術はエチオピアの人類遺跡の調査・研究にも活用された。
著者
長瀬 勝彦
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の成果のひとつとして、意思決定と理由との関係について整理することができた。意思決定は事前に設定された理由に基づいておこなわれる、また意思決定をした本人はその理由を事前に認識しているし、事後に想起された理由も信用できるというのが一般的な通念であるし、規範的意思決定理論とその関連分野の研究も、基本的にはその認識に立脚している。しかし、われわれの研究を通じて浮かび上がってきたのは、理由がもっと不確かで融通無碍な存在であることである。人間の意思決定のほとんどは無意識的におこなわれるが、そこに理由があるかどうかもあやふやであるし、あったとしても意識されていない。意識的な意思決定に際しては、しばしば理由探しがおこなわれるが、分析的な理由付けは人間本来の意思決定とは質的に異なっているために、期待ほどの成果が上げられない。他者に説明するときとそうでないときには異なった理由が採用される。事後的に想起された理由は、客観的な記録ではなく、そのときに妥当と思われた解釈であって、無意識の自己正当化などに影響されている。理由のこのような側面は、さらに研究していく必要がある。そのほかの成果として、人間の記憶の不確かさについて、やや新しい知見が得られた。過去の研究では、日常的に目にしている紙幣や硬貨のデザインを描かせると、ほとんどまともに描けないことが見出されている。それをもって記憶の不確かさの証左のひとつとされてきたのであるが、紙幣や硬貨はデザインが複雑であるし、記憶しにくい。本研究では、コンビニエンスストアのセブン・イレブンとローソンの看板のマークを被験者に描かせた。このようなマークは単純で、目立つようにデザインされている。したがって記憶に残りやすいと予想される。しかし、ほとんどの被験者は十分に正確とみとめられるほどには描くことができなかった。
著者
千葉 聡
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.145-154, 2008-03
被引用文献数
1

筆者は2007年6月に東京都と首都大学東京の南硫黄島の学術調査隊に参加する機会を得て、南硫黄島の陸産貝類の調査を行なった。南硫黄島の本格的な陸産貝類相の調査は今回が初めてであり、これまでその詳細は謎に包まれていた。調査の結果、新たに9種の分布が確認され、南硫黄島には13種の陸産貝類が分布することが明らかになった。そのうち4種が未記載の南硫黄島固有種と考えられる。特に山頂部の雲霧林において最も高い種多様性が認められ、一方、海岸部には陸産貝類は全く生息していなかった。また小笠原群島では戦前に絶滅したタマゴナリエリマキガイが南硫黄島に現生していることを確認した。今回新たに見出された種の中には、同種ないし近縁の種が伊豆諸島には分布するが、小笠原群島には分布しない種が含まれていた。以上の知見から、南硫黄島の陸産貝類は、小笠原群島にはない特異な要素を含み、生物地理学的に独自性の高い極めて貴重なファウナであることが示された。
著者
鈴木 創 川上 和人 藤田 卓
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.89-104, 2008-03
被引用文献数
1

南硫黄島において2007年6月17日〜27日にオガサワラオオコウモリPteropus pselaphonの調査を行った。捕獲調査により得られた個体はすべてが成獣の雄であった。外部形態の測定値は、1982年調査及び近年の父島における測定値の範囲内であった。1982年調査において、他地域より明るいとされた本種の色彩は、本調査でも観察された。また、前調査において「昼行性」とされた日周行動については、昼間および夜間にも活発に活動することが観察された。食性では、新たにシマオオタニワタリの葉、ナンバンカラムシの葉への採食が確認された。南硫黄島の本種の生息地は、2007年5月に接近した台風により植生が大きな攪乱を受け、食物不足状況下にあることがうかがわれた。本種の目撃は海岸部より山頂部まで島全体の利用が見られた。生息個体数は推定100〜300頭とされ、25年前の生息状況から大きな変化はないものと考えられた。本種はかつて小笠原諸島に広く分布していたと考えられるが、現在の生息分布は、父島及び火山列島に限られている。父島では人間活動との軋轢により危機にさらされており、その保全策が課題となっている。人為的攪乱が最小限に抑えられた南硫黄島の繁殖地の存続は、本種の保全上極めて重要である。このことから、今後これらの本種の個体群推移についてモニタリングを続ける必要がある。
著者
苅部 治紀 松本 浩一
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.135-143, 2008-03

南硫黄島において、25年ぶりの昆虫相調査を実施した。今回は調査日程も5日間と短かったこともあり、各種トラップを併用し、効率的な調査を心がけた。その結果、現在までに同定されたものだけで67種の昆虫が確認され、このうちの22種は島新記録であった。また、島固有とされるミナミイオウヒメカタゾウムシ(固有属種)、ミナミイオウトラカミキリ(固有亜種)は、健在であったが、前者は前回調査で報告されたものと比較して、きわめて少数の確認にとどまった。島の昆虫相については、まだまだ解明度は低く、長期的な環境モニタリングのためにも、今後の調査の充実が望まれるとともに、生態面の調査も進めていくべきであろう。
著者
川上 和人 鈴木 創
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.105-109, 2008-03

小笠原諸島では、移入種であるクマネズミが無人島も含めて広く分布している。本種は、動植物の捕食者として生態系に大きな影響を与えることが知られており、保全上の懸案事項の一つとなっている。南硫黄島では、これまでネズミ類の侵入は確認されていないが、前回調査が行われた1982年以後に侵入している可能性は否定できない。そこで、南硫黄島においてネズミ類の侵入の有無を明らかにするため、誘引餌の設置、自動撮影調査、食痕の確認等を行った。この結果、ネズミ類が生息しているという証拠は得られず、現在のところ南硫黄島にはネズミ類が生息していないと考えられた。ネズミ類が生態系へ与える影響は極めて大きいため、今後もネズミ類の侵入に関してはモニタリングを続ける必要がある。
著者
中野 俊
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.31-48, 2008-03

南硫黄島は第四紀後半に形成された火山島であるが、噴火記録や噴気活動はない。追跡できる火砕物層準を基準とし、成層火山体である南硫黄島火山を下位から古期火山噴出物-1、古期火山噴出物-2、南部中期火山噴出物、北部中期火山噴出物および新期火山噴出物に区分した。いずれも陸上噴出した溶岩および火砕岩からなり、広域的に認められる有意な浸食間隙は存在しない。海食崖を貫く岩脈は254本を数えた。その大部分は放射状岩脈である。岩質は溶岩・岩脈ともにすべて玄武岩である。斑晶として斜長石、単斜輝石、かんらん石を含む。最大径1cmに達する大型の斑晶が多く、特徴的に単斜輝石を40-50%程度含む玄武岩も見つかった。
著者
福田 千鶴
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、近世武家社会で記録として残された奥向に関する史料を網羅的に把握して、今後の研究の基盤づくりをすることを目的とした。4年間の研究で明らかになったことは第1に、当初に予定した以上の史料の存在が確認でき、データベースを作成することができた。このことは、今後の奥向研究を本格的に進めるための計画を展望するうえで、重要な成果であったといえる。具体的な作業では既刊の大名史料の目録から奥向に関する史料に関するデータベースを作成し、まとまった史料が伝来する大名史料には調査に赴き、史料収集を行った。とくに松代真田家・萩毛利家・鳥取池田家・彦根井伊家・徳山毛利家などにおいて良質な史料が伝来することが確認できた。第2には、近世前期に関しては記録類の確認がほとんどできなかったが、近世後期に関しては前述のような大名家において史料が伝来していることが確認できた。したがって、今後の大きな課題として、近世前期の史料発掘を継続して行い、武家社会における奥向の成立過程を具体的に考えることのできる研究環境を整える必要がある。ただし、女性の書状(消息)に関しては、仙台伊達家・萩毛利家に伝来しており、そうした史料を中心に分析していくことで、近世前期の史料的限界を克服していく必要がある。第3に、調査の過程において、奥向の役職にかかわった家臣の家に、奥向に関連する史料が伝来することが確認できた。これは、今後に奥向史料論を構築するうえでも重要な視点を得られたといえる。今回の調査では主に大名史料を分析の対象としたが、今後はこうした家臣の家に伝来した史料群に関しても調査を広げていく必要があることを示唆している。以上の4年間の研究により、論文2本、研究報告4本、図書2冊において成果を公表した。
著者
須永 修通
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

学校施設の環境配慮型転換を進めるには,環境配慮型施設としての目標値を設けること,また,その目標値を達成するような新たな設計基準・指針を策定することが必要である。本研究の目的は,その第一段階として,実態や効果が皆目不明なエコスクールモデル事業認定校の実態を把握し,エコスクール化のための各手法の効果や問題点を明らかにすることである。そこで,本研究では,省エネルギー型のエコスクール認定校を中心に,アンケート調査と実測調査を行い,建物の特徴やエネルギー消費量,夏期の室内環境を気候区分ごとに検討した。平成18年度までのエコスクール認定校609校のうち省エネルギー型を中心に246校にアンケート調査を行い,147校分のデータを得て解析した。また,全国の主要都市で実測調査も行った。以下に得られた知見の一部を示す。1)省エネ手法には,太陽光発電,省エネ型設備,雨水利用などが全地域において数多く採用されているが,エコスクール認定校であるにもかかわらず,校舎に断熱の無い学校が約2割あり,窓は一重ガラス,アルミサッシの学校がほとんどを占め,断熱性の向上が大きな課題であることが示された。2)エコスクールの方が一般小学校よりも,エネルギー消費が多い傾向がみられた。IV地域では,エコスクール27校の平均が540MJ/m^2,一般校3校の平均は390MJ/m^2であった。この原因として,一般校の施設水準が低いままであること,また,エコスクールはオープンスペース型であることから校舎の奥行きが深くなり照明などの設備が増加することなどが原因と考えられた。3)夏季の教室は35℃程度にもなるが,下校時に窓を閉め切ることが教室温度の高温安定を助長していることが明らかになった。また,暑さ削減対策として行われている植栽による日射遮蔽,夜間通風は効果のあることが示された。
著者
原 朗 山崎 志郎 加瀬 和俊 金子 文夫 岡崎 哲二 寺村 泰 西野 肇 池元 有一 伊藤 正直 植田 浩史 柳 沢遊 沼尻 晃伸 山口 由等 渡辺 純子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本共同研究では、制度設計と市場経済の関係性の観点から、20世紀の日本経済を概観し、高度成長期の特徴を捉えた。このため、世界経済およびアジア経済の枠組み、日本の産業構造、産業組織、経済政策、企業間関係、労働市場、消費動向、消費者意識の変化について分析した。その結果、戦後世界の安定化と日本と対アジア関係の再構築、産業政策と産業調整、企業間取引、消費構造の高度化など1950年代から60年代に現れた制度設計と市場経済の安定的で特徴的な様相を明らかにした。