著者
富田 克利 河野 元治
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

鹿児島県内の多くのシラス崖の表面からシラス試料を採取し、どのような粘土鉱物が生成しているかを調べた。その結果、比較的最近崖が崩れた場所での崩落したシラス中の粘土鉱物はスメクタイトと10Å-ハロイサイトが認められ、その含有量は、崩落しないで残っている崖の部に含まれている粘土鉱物の含有量に比べてはるかに多量であることがわかった。出水市の針原地区え大規模な地すべりが起こったが、この地域から採取した土砂中にも多量の10Å-ハロイサイトが含まれていた。また、最近大規模な地すべりを起こした鹿児島県吾平町で採取した土砂中のも多量の10Å-ハロイサイトが含まれていた。このように崖崩れを起こした土砂中には膨潤性粘土鉱物が例外なく含まれたいた。このことは、多くの雨が降った後、膨潤性粘土鉱物の層間に水が入り、粘土鉱物が膨潤したためにそれまで土砂中の粒子と粒子がくっついていたものがはがされ、土砂中に割れ目が生じると同時に水を含んだために重量が増し、崖の崩壊が起こったものと思われる。大分県湯布院花合野では大規模な温泉地すべりがみられるが、この地域の土砂中にはスメクタイトが多く含まれていた。このスメクタイトも膨潤性粘土鉱物であり、この粘土鉱物が地すべりを起こしている要因になっていることがわかる。以上のように膨潤性粘土鉱物の存在が地すべりや崖崩壊の原因になることがわかったので、天然のシラスを出発物質にして、シラスからどのようにして膨潤性粘土鉱物が生成するのかを調べるために、合成実験を行った。天然でシラス崖の表面に生成している膨潤性粘土鉱物は、それほど温度も高くなく、大気圧下で生成しているので、低温低圧の条件下での合成実験を試みた。その結果、200℃以下での水熱条件下でスメクタイトの合成に成功したし、大気圧下でのスメクタイトの合成にも成功した。今後この実験を継続して行っていくと同時に、シラスの崖崩壊を起こすのは、どのくらいの膨潤性粘土鉱物が含まれていると危ないかを予知できるように、膨潤性粘土鉱物の含有量と崖崩壊の関係をさらに詳細に検討する予定である。
著者
服部 満江 田中 実男
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.213-223, 1958-10

本稿は鹿児島の農業の発展促進の順序を解明せんとするものであるが, そのためには, 先ずここの農業の本質を弁えた上で, その順序の判別を行わねばならぬ.鹿児島では農業が最も重要な産業でありながら, それが後進的で生産性も低いが, その主なる原因は, ここの農業が自然条件並びに市場条件に恵まれておらぬことと, 第2次産業未発達の故に農業人口が漸次増大した結果生じた多数の零細農家が農業生産を担当していることにある.そこで鹿児島の農業の発展促進のためには, これらの不良条件に対処するための処置が優先的に考慮され, 以て農業生産の安定を期することが基本的な重要事項となつてくる.その内容について概言すれば, 気象条件上農業生産にとつて最も不利な台風に対処するためには, 水陸稲の早期栽培, 畜産の強化, 果樹園の防風施設の強化が優先さるべく, また, 土壌条件上生産に不利な火山灰土壌に対処するためには, 地力増進方式の設定, ボラ, コラ層の排除, 更には畑地灌漑などが優先さるべきである.水田においても秋落田についての地方増進方式は必要であり, 用排水路の改善などが先ず考慮さるべきである.農産物販売のための市場条件の不利に対処するためには, 共同販売体制の確立は不可欠であり, また市場の動向に適応して計画的な生産を行うべき考慮も重要である.次に, 零細農が農業生産を発展的に担当し得ることを計るためには, 外部より農業資本を導入し, 計画的指導体制を確立し, また, 農家の協力体制を作り上げることが, 至難ではあつても, 優先的に考慮さるべきであり, 更に他方では, 開墾, 工場誘致, 出稼移民の促進を通じて, 零細農の発展的解消への努力もつづけられねばならぬ.これらの考慮に基づいて, 従来の諸種の農業発展促進計画を再検討すれば, 問題のとり上げ方の順序並びに各種問題間における相互関係が充分理解され得る場合が多い.
著者
木部 暢子 松永 修一 岸江 信介
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1、従来、言語地図は手作業により記号を一つ一つ押していく方法で作成されていたが、この研究ではパソコンのデータベースソフトを利用して、正確かつ効率的に言語地図を作成する方法を開発し、さらに、記号から音声の出てくる「声の言語地図」の作成を試みた。2、研究の遂行のために、次のような作業を行った。まず、南九州37地点(熊本県2地点、鹿児島県19地点、宮崎県16地点)の音声の特徴について調査し、基本単語約150語の発話をDAT(デジタルオーディオテープ)に収録した。収録した音声データは1単語ごとに編集しなおし、5,550(150単語×37地点)の音声ファイルからなる音声データベースを作成した。次に、この音声データベースを基にして「南九州言語地図」(記号言語地図)を作成した。この作業には岸江信介他(2000)「エクセルとファイルメーカープロを利用した言語地図の作成」の方法を用いた。最後に「南九州言語地図」の記号と音声データベースをリンクさせて、声の出てくる「南九州声の言語地図」を完成させた。なお、ファイルメーカープロが一般にはあまり普及していないソフトであることを考慮し、これをPDFファイル形式に置き換えることにした。3、その成果をまとめて以下の2種類の報告書を作成した。(1)『南九州声の言語地図』 (冊子版)(2)『南九州声の言語地図』 (CD-ROM版)4、研究の遂行にあたり、広く専門家の意見を乞うため、研究期間中に以下の発表を行なった。(1)「南九州地方における音声言語地図の開発と作成の試み」日本方言研究会第74回研究発表会(東京都立大学) 2002年5月(2)「声の言語地図」ネットワーク構想国語学会デモンストレーション(徳島大学) 2002年11月
著者
元日田 和規
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

核磁気共鳴画像診断装置(MRI)と超音波診断装置(US)を用いた検査の実施が診療放射線技師(R)や臨床検査技師(M)に認められている。これら専門職は大学、短期大学、専修学校の異なる年限で養成されている。本研究では、RとMのMRI検査とUS検査に関する臨床能力を教育と資格試験から解析した。1.専門職教育内容:R課程(40校)とM課程(73校)にシラバスの提供を依頼し、回収した各21校と36校1のうち、授業時間数・時期・内容・教育方法が記載されているシラバスを解析対象とした。世界放射線技師会のROLE OF THE MEDICAL RADIATION TECHNOLOGIST(Guidelines for the Education Of Entry-level Professional Practice In Medical Radiation Sciences)をもとに、MRIとUSに関するコンピテンスを「画像解剖」「疾患と診断」「撮像」「装置の構成と原理」「画質の評価」「ペイシェントケア」「チーム医療」に分類し、平均授業時間を養成課程間で比較した。各項目の授業時間比率は機関で異なっていた。MRIに関する「画像解剖」「疾患と診断」「撮像」「装置の構成と原理」「画質の評価」の授業時間はR課程がM課程より有意に長かった。USに関する「画像解剖」「疾患と診断」「装置の構成と原理」「画質の評価」はR課程で有意に長かったが、「撮像」は差は認められなかった。「ペイシェントケア」「チーム医療」はR-M課程間で有意な差は認められなかった。2.国家試験:全出題数200問に対するMRIとUSの出題数はRで8-12、5-6、Mは1-2、3-6で、MはMRIで妥当性・信頼性の乏しい臨床能力評価であった。3.学会認定試験:受験資格としてMRIは装置の性能評価データの作成、USでは3年以上の臨床経験を要件として認知の評価をしていた。
著者
西中川 駿 松元 光春 上村 俊雄
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

わが国の牛、馬の起源、系統や渡来の時期などを明らかにする目的で全国の遺跡から出土する牛、馬に関する遺物を調査し、さらに出土骨を同定する基礎資料を得るために、在来種や現代種の骨を形態計測学的に検索し、出土骨との比較を行い、以下の結果を得た。1.牛、馬の骨や歯の出土した遺跡は、全国で牛177、馬379、合計556カ所あり、時期的には古墳から中世が多く、また、地域別では、東京、神奈川、福岡、大阪、および千葉などに多かった。2.在来牛である見島牛(雄2、雌2)、口之島牛(雄3、雌5)および現代和牛の黒毛和種(雄10、雌20)の頭蓋、四肢骨をノギスや画像解析装置を用いて計測した。実測値、主成分分析から在来牛は黒毛和種から区分された。3.在来馬であるトカラ馬(雄7、雌8)、御崎馬(雄9、雌13)、木曽馬(雄1、雌10)および現代馬のサラブレッド(雄5、雌5)の頭蓋、四肢骨を計測し、実測値、主成分分析からトカラ馬が最も小型であることがわかった。なお、牛、馬共に骨の幅、径から骨長を、骨長から体高の推定式を作成した。4.藤原京、平安京、カキワラ貝塚など24カ所の出土骨を調査したが、牛の骨は、在来牛とほぼ同じ大きさであり、また、馬の骨は、小型から中型馬の大きさで、特に御崎馬と同じ中型馬のものが多かった。5.古墳時代中期になると、わが国でも馬具が出土しはじめ、また、杏葉や馬鐸飾った馬の埴輪もみられ、埴輪馬は関東に多く、西日本では少なかった。祭祀に用いたと考えられる土馬は、奈良、平安時代に最も多く、ほぼ全国に分布しているが、特に平城京、平安京など古都に多くみられた。6.以上の調査結果から、わが国の牛、馬の渡来時期は、弥生から古墳時代と考えられるが、今後さらに全国各地の出土遺物を詳細に調査し、牛、馬のわが国へのルートを明らかにしたい。
著者
佐藤 公則 渡邊 睦 鹿嶋 雅之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究はドアノブを握るという自然な動作の中で取得しやすい掌紋を個人認証に用いることを提案した.認証手法としては回転や移動,拡縮,明度変化にロバストであるSIFT特徴を用いている.ドアノブを握る動作の中で取得される1枚の画像のみでは握りの強弱により歪みが発生する.そこで,ドアノブを握る動作の動画を用い,複数の掌紋画像を時系列に時間幅を持たせて比較することを提案し,掌紋の歪みを考慮した認証を行うシステムを構築した.その結果,等価エラー率EERは3.16%となった.また他人受入率が初めて0%となる箇所を見た場合,本人認証率は93.7%となった.
著者
木部 暢子 岸江 信介 松永 修一 福島 真司 中井 精一
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、音声を聞くことのできる言語地図『西日本声の言語地図』を作成した。これは164枚の地図よりなり、1枚のDVDに164個のPDFファイルとして収録されている。内容は「枝」「鉛筆」などの単語項目151項目、「おはようございます」などの挨拶ことば13項目の計164項目、地点は富山県から鹿児島県種子島に至る65地点。44KHzサンプリング周波数で音声処理を行なったので、音声データベースとしての価値も高い。『西日本声の言語地図』は『南九州声の言語地図』(試作版)に続いて、岸江のHP(http://www.ias.tokushima-u.ac.jp/kokugo/_private/kishie.htm)で公開し、中井のHPと声の言語地図のネットワークを結ぶ。地図作成の過程の中で、以下のことが明らかとなった。1.変化の途中の形が各地の方言音声に現れている。「声の言語地図」では、地理的分布と音声を同時に確認することにより、変化のプロセスを地理的関係で捉えることができる。2.二通りの聞き取り:「地点ごと(横)の聞き取り」と「項目ごと(縦)の聞き取り」の間に微妙な差がある。従来の研究ではこの違いが見過ごされていた。3.方言音声を公開することの重要性について主張し、その方法を提示した。これらについては、Twelfth International Conference on Methods in Dialectology(2005.8.2、カナダ モンクトン)、日本方言研究会第81回研究発表会(2005.11.10、東北大学)、変異理論研究会(2005.11.11、東北大学)等で発表した。
著者
秋山 伸一 原口 みさ子 古川 龍彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

MRPがグルタチオン抱合体排出ポンプとして機能していることを示唆する報告がなされた。MRPの発現している多剤耐性変異株C-A120からmembrane vesicleを調製し、ロイコトリエンC_4(LTC_4)の取り込みを調べたところ、ATP依存性にLTC_4を輸送することが判明した。LTC_4に対するKm値は1,55μM、ATPに対するKm値は80μMであった。LTC_4の取り込みはジニトロフェノールやシスプラチンのグルタチオン抱合体で阻害された。これらの結果から、C-A120細胞で発現しているMRPがグルタチオン抱合体を輸送することが明らかとなった。そこでブチオンスルホキシミン(BSO)により細胞内のグルタチオン(GSH)レベルを低下させることによりC-A120細胞の薬剤耐性を克服できるかを調べたところ、100μMのBSOはC-A120細胞のビンクリスチン(VCR)に対する耐性を完全に克服した。BSOはC-A120細胞のGSHレベルを親株KB-3-1細胞でのGSHレベルに低下させ、C-A120細胞内へのVCRの蓄積も上昇させた。つぎにP-糖蛋白質の関与した多剤耐性を克服する薬剤(ベラパミール、セファランチン、PAK-104P)がMRPの関与した多剤耐性を克服するかを検討した。ピリジン誘導体PAK-104PのみがC-A120細胞のVCRに対する耐性を完全に克服した。PAK-104PはC-A120細胞へのVCRの蓄積を増加させ、C-A120membrane vesicleへのLTC4の取り込みを阻害した。VCRのグルタチオン抱合体はまだ確認されていないが、VCRがグルタチオン抱合されMRPにより細胞外へ排出されることを示唆している。また、PAK-104PはP-糖蛋白質とMRPを同時に発現した多剤耐性腫瘍の耐性克服に有用と考えられた。腫瘍でのMRPの発現を調べたところ、肺扁平上皮癌で高い発現が認められた。胃癌や大腸癌では肺扁平上皮癌でみられたような高いMRPの発現を示すものはなかった。肺扁平上皮癌の一部では、少なくとも部分的にMRPが抗がん剤耐性に関与しているのではないかと考えられた。
著者
川畑 義裕
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

報告者は現時点まで、1)歯周病関連グラム陰性菌のリポ多糖(LPS)、グラム陽性菌の口腔レンサ球菌全菌体、Micrococcus luteus全菌体あるいはその粗細胞壁画分などを、細菌細胞壁ペプチドグリカンの要構造に相当する合成ムラミルジペプチド(MDP)を前投与したマウスに静脈注射すると、アナフィラキシー様ショック反応を惹起する事実、2)LPSによって誘導されるショックの機序として、血小板の末梢血から肺への急激な移行と、血小板の臓器での凝集、崩壊に随伴した急性の組織崩壊が成立し、MDPは本反応を増強している事実を明らかにしてきた。さらに、3)抗補体剤を供試した実験から、本ショック反応には補体が関与していることを突き止めた。そこで、本研究の当初の立案した計画に基づいて、マンナンやラムノース、グルコースなどを構成多糖として含有する口腔レンサ球菌の細胞壁がレクチン経路により、補体を活性化し、血小板崩壊に続発して本アナフィラキシー様ショック反応が起こるとの仮説を提起し、その真相究明を手掛けた。口腔レンサ球菌の研究が進行していく中で、コントロールとしてのマンノースポリマー(MHP)を構造的に具備したKlebsiella O3(KO3)LPSに極めて強力なショック誘導作用が認められたので、当初の計画を軌道修正し、MHP保有LPSを供試する実験を実施した。その結果、1)MHP保有LPSが強力な血小板反応を惹起すること、2)MHP保有LPSは、ヒトマンノース結合レクチン(MBL)と結合して、血清中のC4を捕捉して、補体系を活性化することを証明し、論文にて発表した。
著者
日暮 吉延
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、サンフランシスコ講和条約発効後から1958年の日本人戦犯完全釈放までを対象時期としたうえで、日本人戦犯釈放をめぐる国際関係と政治過程を実証的に分析するものであるその目的は、講和条約発効後の戦犯釈放に関する旧連合国側の政策決定過程を仔細に検討し、いまだ不分明な1950年代における日本人戦犯釈放の政治過程に関する諸事実を発掘、解明することにある。裁判後の戦犯処理は、従来の戦犯裁判研究において看過されてきた問題であり、本研究は、日本人戦犯釈放問題に内外で初めて本格的かつ総合的な分析を加えるものと位置づけられる本研究課題については、厳密な意味での先行研究は存在せず、1950年代の戦犯釈放問題という研究上の空白を埋める役割が認められる。研究期間を通じて多数の一次資料・情報の入手、系統的な分析作業を行ない、講和条約発効後の戦犯釈放に関する旧連合国諸政府の対応がかなりの程度、解明されたそれ以前の時期、すなわち占領期の戦犯釈放に関しては、本研究計画の開始前に連合国側の政策決定過程を中心に検討ずみであり、それを本研究の成果と接合することで、占領期から講和条約発効後を通じた連合国側の戦犯釈放政策が明らかとなった
著者
加香 芳孝 青木 孝良
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

豚の脳通電失神と殺法(電殺法)と,炭酸ガス麻酔失神と殺法(ガス麻酔と殺法)とによる,と殺豚肉の肉質を比較することを目的とし,まずと殺前の失神法のストレス負荷の差を比較するため,ストレスホルモン,アドレナリンの放血血液中濃度を指標として比較したところ,一見ストレス負荷が少ないと思われる炭酸ガス麻酔の方が同ホルモン濃度が高かったので,ラットを用い基礎実験した結果,豚を麻酔室へ追込むために使用される電気ムチの影響で高いことが明らかとなった.しかし,ガス麻酔と殺法ではストレス負荷が大きいにも拘らず,異常内PSEの発生率が0〜4%以下であるという事実との矛盾を解明するため,血液と筋肉の両者について両法でと殺した豚について検討した結果,次の諸点が明らかとなり,上記の矛盾の原因も解明された.(1)放血血液のpHは電殺法では7.45±0.067(n=50)であるが,ガス麻酔と殺法では7.00±0.096(n=21)であり,炭酸ガス吸入に起因するアシド-ジスの結果,脳循環血液pHの急激な低下によって脳の機能麻痺による失神状態の出現が推定された.(2)胸最長筋についてと殺後30分以降48時間までのpHの経時的変化を測定比較したところ,電殺豚(n=10)では30分後の6.42から徐々に低下し20時間後に5.84となり,以後やや上昇して6.09となる変化を示したのに対して,ガス麻酔と殺豚(n=10)では頭初から低く30分後の5.74から殆ど変化無く48時間後も5.78であった点は対象的であり,しかも従来PSE発生原因はと殺後1時間以内のpHの急激な低下にあるとされていたが,ガス麻酔と殺豚ではPSE発生は皆無であった.(3)ストレス負荷が大きいにも拘らず,PSEが発生しない原因追及のためアドレナリンが筋肉細胞に作用する際の二次メッセンジャ-として働くcAMPの生成量を比較したところ,電殺豚では極めて高いのに対してガス麻酔と殺豚では顕著に低い(-50%)ことを世果に先駆けて発見したが,その原因はアデニル酸シクラ-ゼ活性が筋肉の低pHのために低下することに起因すると推定した.
著者
地頭薗 隆 下川 悦郎 野元 俊秀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-50, 1986-03-25
被引用文献数
1

火山地帯に位置し, 火山砕屑物に厚く覆われている鹿児島大学農学部附属高隈演習林において, 森林理水試験流域を設置し, 水文観測を開始した。この観測は, 火山地帯における山地流域の流出特性を解明すること, 同時にこのような特異な環境条件下での森林の水源かん養機能, 洪水調節機能, 土地保全機能等について検討するための基礎資料を得ることを目的としている。ここでは, 試験流域の地形, 地質, 土壌, 植生等の調査結果について述べ, 1984年〜1985年の水文観測資料から試験流域の流出特性について考察した。得られた結果をまとめると次のようである。1)試験流域は, 扇形をした放射状流域であり, 標高520〜680mの高度域に位置し, 面積は43.42haである。2)流域の地質は, 中世界に属する砂岩からなる四万十層, これを覆うように洪積世末期に姶良・阿多両カルデラから大量に噴出した降下軽石が分布している。また, 土層の上層部には流域ほぼ全体にわたり霧島および桜島から噴出した火山灰および降下軽石が分布している。3)試験流域にルーズな状態で堆積している降下軽石層は非常に侵食されやすいため, 流域からは多量の土砂流出が行われている。1984年8月〜1985年8月の1年間に流域から流出された土砂量は約150m^3(約345m^3/km^2)であった。4)試験流域のほとんどは森林であり, 約40%がスギを主体とした針葉樹林, 残りの約60%が壮齢の広葉樹林である。5)試験流域における降雨-流出の関係を解析し, 流出特性について考察した。その結果によると, 試験流域では直接流出は一般山地流域より短時間で終了し, 直接流出継続時間は2〜23時間であった。したがって, 直接流出量も少なく, 直接流出率は0.1〜12%の範囲にある。6)地下水減水定数は, 0.001〜0.022(1/hr)の範囲にあり, 平均0.007(1/hr)であった。これらの値は一般山地流域より小さい。試験流域は火山砕屑物に厚く覆われていることから, 地中水は一般山地流域よりも長い経路をたどりゆっくり河川に達している。その結果, 地下水減水曲線の勾配は緩く, 無降雨時期にも安定した, 高い基底流量が得られている。無降雨時期の基底流量は試験流域において夏期0.04(m^3/s/km^2), 冬期0.02(m^3/s/km^2)である。
著者
岡本 新 前田 芳實
出版者
鹿児島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究では、染色体顕微切断技術をニワトリのNo.1染色体に応用することにより、染色体より採取したDNAをPCR増幅後、FISH(fluorescence in situ hybridization)法によるマッピングまでの一連の操作を検討し、さらにNo.1染色体特異的DNAのサブクローニングを行い塩基配列を決定した。顕微切断は、ガラスナイフの先端にいかに染色体断片を付着させるかが回収のポイントであった。1本の染色体より回収した断片は、タンパク質とDNAの複合体であるためにProteinnase K処理によりタンパク質を除去した。PCR増幅に関しては、2回増幅を繰り返すことにより100bpから600bpまでの範囲の増幅産物を確認できた。このことから1つの染色体断片でも十分に増幅可能であることが明らかとなった。得られたPCR産物をビオチン標識しFISHを実施したところ、増幅産物の由来するNo.1染色体上にシグナルを検出することはできたが十分な再現性は得られなかった。さらにこのDNAを挿入断片とするサブクローニングを行いシークエンス反応に供したところ、480bpの塩基配列を決定することができた。以上の研究結果をもとに家禽における今後の顕微切断法を応用したペインティングマーカーの課題について考察してみると、(1)FISH法におけるシグナルの再現性、(2)複製Rバンドを併用したハイブリポジッションの同定、(3)塩基配列にが決定されたPCR産物の利用、(4)他の大型染色体への応用、および(5)微小染色体識別マーカーの作出などがあげられる。
著者
村岡 雍一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、繊維・繊維製品実物そのものからの映像を画像解析装置に呼び込み、自動的に次元解析を行う方法を確立すること目的とした。画像解析装置および自動次元解析装置を完成させ、研究室において各種試料の画像の解析を行い、継続的にフラクタル次元データの蓄積を続けている。繊維は細長く可撓性のある材料で、「形態」そのものが物性よりも重視される特殊性をもつ。繊維の細長さはアスペクト比と繊維直径により数値化できるが、撓みやすい繊維が曲がりくねった形態を取った場合、その形態を数値化するためにフラクタル幾何学の理論を応用した。フラクタル幾何学は自己相似集合と非整数次元を特徴とする。マンデルブロのフラクタル幾何学はハウスドルフ測度と次元を基礎理論として複雑な自然の形態やCGによる図形を非整数次元で表す。フラクタルには完全自己相似集合と統計的自己相似集合があるが、繊維・繊維製品は統計的自己相似集合と見なすと都合よく解析できる。フラクタル次元にはハウスドルフ次元と等価な相似次元、ディバイダ次元、ボックス・カウンティング次元があるが、コンピュータ処理に適しているのはボックス・カウンティング次元であるから、次元解析にはボックス・カウンティング法を用いた。ボックス・カウンティング法を用いて次元測定した試料の内には次のような例がある。捲縮ナイロン6フィラメントの次元分布は1.00〜1.65であった。透湿防水素材にコーティングされた多孔性ポリウレタンドープの孔の次元分布は1.8660〜1.8793であった。曲がりくねったフィラメントモデルとして作成した修正ランダムコッホ曲線の次元分布は1.033〜1.310であった。
著者
甲斐 敬美
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

一酸化炭素と水素からガソリンを製造するような反応は体積が減少する反応であり、このような反応を流動触媒層反応器で行うと、体積減少により非流動化が起きて安定な操作が不可能となる。本研究ではモデル反応として二酸化炭素の水素化反応を行い、安定な操作が行える方法について反応器モデルと実験によって検討した結果、一方の原料である二酸化炭素を2段に分割して供給することによって、非流動化を避けることができることを明らかにした上で、二段目の供給位置やガスの分割比について、最適な操作条件を明らかにした。
著者
徳永 正雄 石橋 松二郎 徳永 廣子
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

好塩性細菌が生産する好塩性酵素は、酸性アミノ酸に富み、net chargeがマイナス荷電に偏っており(等電点が低い酸性タンパク質)、この性質が高い可溶性と、変性しても凝集しないで巻き戻る高い構造可逆性を保証している。通常生物由来酵素に酸性アミノ酸の導入、もしくは好塩性蛋白質と融合蛋白質を作ることによって、好塩性を付与し、高い可溶性を持たせ、安定性を高めた蛋白質の分子育種に成功した。
著者
坂田 祐介
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究実績1.ミツバツツジ,クルメツツジへの耐暑性の導入:ミツバツツジ交配系統ではオンツツジ,ハヤトミツバツツジ,サクラツツジを,クルメツツジ交配系統ではマルバサツキをそれぞれ交配親にしたF_1を高温・高湿など不適環境下で生育させ,生存した個体群から耐暑性に富む個体を選抜した.2.ヒラドツツジへの四季咲き性の導入:キンモウツツジ×ヒラドツツジの交配で,当年9月から翌年1月にかけて高率で開花する四季咲き性の個体群(系統)を作出した.これらのうち9月もしくは10月中に早期開花する個体へヒラドツツジを戻し交雑し,BC1種子を得た.3.ミツバツツジへの常緑性の導入:常緑のサクラツツジを交配親に用いると,常緑性のF_1が100%得られることを明らかにした.4.クルメツツジ交配系統への二重咲き性の導入:二重咲き花のクルメツツジを花粉親に用いた交配で,F_1に二重咲き花が50%の割合で出現したことから,二重咲き性は優性形質で,この形質に関してクルメツツジはヘテロの遺伝子型を持つことを明らかにした.5.ミツバツツジ,クルメツツジ,ヒラドツツジの新花色の育種:ミツバツツジとクルメツツジ交配系統では,F_1にはいずれの組合わせも一方の交配親の持つ紫紅色が優位に出現した.多彩な花色を獲得するにはF_2の作出が必要で,F_1を自殖しF_2種子を得た.これに対しヒラドツツジ交配系統では,F_1には両親の花色を示す個体と両親の中間の花色を示す個体が出現した.HPLCによる花弁の色素分析の結果,優性に発現するデルフィニジン系色素生成に関わる遺伝子がヘテロ型で存在することを明らかにし,優れた花色の個体を選抜してそれらへのヒラドツツジの戻し交雑を行った.
著者
日暮 吉延
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本報告書は、占領期における日本人既決戦犯の釈放問題を検討するものである。一般的な理解からすれば、戦犯裁判が終結したことで戦犯問題は解決したと見られるかもしれない。しかし実は戦犯問題は、裁判の終結後、拘禁・減刑といった管理面へと焦点を移したのである。そこで本報告書の目的は、講和条約の発効以前、すなわち日本占領期に時期を限定し、日本人戦犯の釈放がなぜ、どのように実施されたのか、同時期におけるドイツ人戦犯の釈放状況はいかなるものであったのか、講和条約の戦犯条項はいかなる意図と背景のもとに策定されたのか、を明らかにすることに置かれる。まず第一節では、連合国最高司令官総司令部(GHQ)の減刑計画が始動する政治過程を取り上げている。検討の結果、合衆国政府において戦犯の赦免構想は一九四六年頃から存在していたこと、GHQの減刑政策はドイツ占領と連動していたことが明らかとなった。第二節では、GHQがドイツ占領政策の進捗状況を追い越し、1950年3月7日に「回章第五号SCAP Circular No.5」を発することで、減刑のみならず仮釈放も実施していく過程を検討している。さらに、同時期におけるドイツとイタリアをめぐる政策状況を参照し、また内地送還や死刑停止に関する日本側の態様についても分析を加えた。第三節の対象は、対日講和条約第11条(戦犯条項)の形成過程である。初期の構想、草案の微妙な変化の意味等を詳細に分析した結果、日本側が戦犯裁判の判決を受諾する規定の意味、日本側に与えられた「勧告」権限の意味を明らかにした。以上は、先行研究がほとんどない未開拓の分野を一次資料で実証的に解明した研究成果である。