著者
島袋 義人 松本 泉 渡久山 竜彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI2470-GbPI2470, 2011

【目的】理学療法養成校の学生にとって国家試験は、3年又は4年間の学生生活の総括であり、近年では、理学療法士国家試験の難易度が上がり、不合格になる学生が増えている。その為に、国家試験の結果では内定取り消しの学生が出ている状況で、この結果は、学生にとって一生を左右するものである。養成校においては、合格率の高低が養成校の名誉にも関わり、また大きく学生募集にも影響を及ぼす。優秀な学生を確保するために、国家試験の合格率を高く維持することが必要とされる。このような中で我々は、国家試験の合格率を高めるとともに、より質の高い人材を育成するためにも教育方法や指導方法を新たに見出すことを目的とし、第46回理学療法士・作業療法士国家試験、在学中の指定科目成績、学内模擬試験の各成績の統計分析を行い若干の知見を得たのでここに報告する。<BR>【対象】本学院の平成21年度卒業生で第45回理学療法士・作業療法士国家試験を受験した者、内訳は昼間部30名(男性:20名・女子:10名)・夜間部37名(男性:33名・女性:4名)合計67名を対象とした。<BR>【方法】本学院昼間部・夜間部在学中の指定科目で人体の構造・疾病と障害・保健医療とリハビリテーション理念(以下 専門基礎科目)及び基礎理学療法・理学療法評価学・理学療法治療学・地域理学療法(以下 専門科目)計28科目の成績、本学院で作成した国家試験対策の模擬試験12回の結果、第45回の理学療法士・作業療法士国家試験の自己採点結果をそれぞれで回帰分析にて統計分析を行った。<BR>【説明と同意】本研究に際して、対象者には学内成績結果また模擬試験結果、第45回理学療法士・作業療法士国家試験の自己採点の結果を使用については、卒業後同意書文を作成し郵送にて確認し全員から了解を得て行った。<BR>【結果】在学中の専門基礎科目及び専門科目計28科目の結果成績と第45回理学療法士・作業療法士国家試験の結果の回帰分析を行った結果、疾病と障害・基礎理学療法の成績で6.11×10-5と有意な相関を示した。また、本学院で実施した12回の模擬試験と第45回理学療法士・作業療法士国家試験の結果をそれぞれ回帰分析を行った結果、第2回と第10回の模擬試験の結果に9.21×10-8と有意な相関を示した。<BR>【考察】理学療法士養成施設指定科目の疾病と障害と基礎理学療法と国家試験の結果にそれぞれの間で有意な相関を示した。疾患と障害は近年の国家試験出題問題を確認すると文章による症例問題の出題傾向が多く、その為、各疾患を確り理解していないと解けない傾向にあると考えられ、文章からの症例を読み取る能力も問われている。基礎理学療法と国家試験の結果では、症例に対してのそれぞれの検査測定の方法からの分析を理解し文章から読み取る能力が要求される傾向にある。その為、学内の成績が国家試験の高得点を取る為に大きく反映されると考えられる。<BR> 模擬試験と国家試験の結果に有意な相関を示したのは、模擬試験の内容は過去問題を変更せずに出題した試験もあり、又過去問題を年代ごとに組み替えて作成した試験等を実施しました。その中で相関を示した模擬試験は、第2回と第10回の模擬試験と国家試験結果で有意な相関を示した。その問題は過去問題の組み替えせずに出題し、その時の結果が平均点より低い者は国家試験の点数に影響を及ぼす傾向にあった。結果から判断すると過去問題を初期の段階及び最終段階の時期にきても平均点に到達していない者は、大きく国家試験に影響を与える傾向にある。以上のことを踏まえて、学内では的確な基礎教育を積極的に指導し、模擬試験の段階では、初期及び中間、最終時の到達度が70%程度に到達していないものに関しては、初期及び中間の段階で到達度の確認を行う事で早期に本人の弱点を個別指導で行う事が出来、その時期の確認指導が合否に繋がり学生自身も時間的余裕が生まれ結果的に合否に結びつけると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法養成校の大きな目的として国家試験合格があり、これに対して学内で各科目が国家試験の影響度合いを把握することで学生教育に活かせる研究と考える。また、全国的に理学療法士養成が増えている中で、優れた知識、技能、態度を、身につけた理学療法士を育てる事が養成校としての責務として考えており、質の高い理学療法士を育成することが社会貢献を成し地位向上に繋がると考えられる。
著者
野尻 圭悟
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100697-48100697, 2013

【目的】筆者は第46回日本理学療法学術大会において、高位脛骨骨切術後患者(以下HTO患者)における矯正角と足部位置覚の特徴と関係性について報告した。HTO患者では術側足部が内外反0°もしくは外反位を足部のフラットと捉え、非術側では足部内反位をフラットと捉えており、また矯正角が大きいほど術側をフラットと知覚している患者が多かった。前額面上での膝のアライメント変化が、足部の位置覚にも影響を及ぼすことを示唆した。先行研究において島田ら(2011)はHTO側にLateral Thrustが生じる事を報告し、Martinら(2011)は、HTO術後非術側の内転モーメントの増大と内転角の増大が病態進行を助長すると述べている。バイオメカニクスにおける前額面上の変化は明らかとなっているが、静的な評価(FTA)と患者が捉える足部での平衡感覚の知覚を比較した研究は散見されない。今回HTO側と非術側のFTA・足部位置覚を、術後約1か月後と抜釘術を施行した後で比較し、FTA増大の有無と足部位置覚との関連性を調査したのでここに報告する。【方法】対象の母集団は2010年7月から12月に当院で片側HTOを施行した患者21名(女性16名,男性5名:平均年齢62.4±7.5歳)のうち、膝関節以外に外傷歴および疼痛を伴う関節を呈している症例と反対側のHTOを施行した症例を除外基準として取り込まれた者19名(女性14例,男性5例:平均年齢65.7±6.8歳)であった。対象患者は術後平均27±7.6日でFTA・足部位置覚を測定し、抜釘術(平均863±157日)を施行するために入院された際にまた同様の検査を行った。FTAの計測は両脚荷重下のレントゲン上で行い、位置覚の測定方法は、ハーフのストレッチポールの平らな部分に角度計を設置した。床面と測定面が平行にある状態をフラットと定義し、裸足・立位にて計測を行った。計測足部をハーフのストレッチポールを縦に置いた測定器に乗せ、反対側は同じ高さの台に乗って測定した。測定器と台には2等分線が引かれており、前足部は第1趾と第2趾の間を通り、後足部は踵の中点を通るものとした。測定前の状態を排除するため、被検者は床とフラットである事を目視と足の感覚で覚えた後に内・外反を自分自身で10回実施した。その後足部を目視せずフラットと感じた部分を検者に告げ、その内・外反角度を角度計にて計測した。その角度を「足部内・外反位置覚」とした。統計学的手法においてHTO術後・抜釘後のFTA・足部位置覚はt検定(p<0.05)を用い、FTAと足部位置覚の関連性を検討するためWilcoxon signed-rank testを用いて検討した。【説明と同意】対象者には本研究の内容を十分に説明し、口頭にて同意を得た後実施された。【結果】FTAは術側平均171.3±2.7°であったのが、抜釘後では平均173.2±2.1°とやや内反傾向になり有意差(p<0.04)を認めた。非術側は術後平均180.2±4.2°で抜釘後は平均182.8±2.8と、術側と同様に内反傾向を強める結果となった(p<0.03)。足部位置覚は、術側平均1.4±1.2°外反位が平均0.3±1.9°外反位へと足部内反方向へ変位し、非術側では平均1±1.4°内反位が平均2.6±2.9°内反位へと術側同様に患者がフラットと知覚する足部の位置覚は内反傾向になり、両側ともに有意差を認めた(術側:p<0.046・非術側:p<0.04)。またFTAと足部位置覚との相関では、HTO術後と抜釘後の非術側FTAと位置覚に中等度の相関が認められた(r=0.43)。しかし、術側のFTA・位置覚には術後・抜釘後に相関は認められなかった(r=0.216)。【考察】先行研究では、バイコンを用いた歩行での動的評価であったが、本研究において静的な立位アライメントでもFTAが増大する結果となった。術側におけるFTAの増大には様々な因子が考えられるが、HTOを施行したとしても股関節・足関節または患者の動作戦略を変化させなければ、手術したにも関わらず内反変形を引き起こしてしまう可能性が足部にも影響を与える事が示唆された。非術側でも同じように長期的な経過をみると、膝内反変形は助長されアライメント変化に伴い変形性膝関節症が進行する事が示唆された。また、非術側においてFTAの増大に伴い足部の位置覚も内反方向へ変位することから、患者が捉える床と足部との知覚的な障害も同時に生じており、非術側に対する治療は筋力増強やアライメントの修正だけでなく、深部感覚に対する治療も選択すべき項目になるのではと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究において、HTO術側・非術側での長期成績においてFTAの増大と足部の知覚的要素が関連していることが明らかとなり、手術施行後の入院期間において術側のみならず非術側への治療手段を考慮する必要性を示唆するものであり、臨床上意義深いものであると考える。
著者
森下 慎一郎 眞渕 敏 山崎 允 笹沼 直樹 花田 恵介 安東 直之 道免 和久 岡山 カナ子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.B0232-B0232, 2006

【目的】<BR> AHCPR(健康ケア政策局・研究局)のガイドラインにおいて、褥瘡は自分自身で体位交換することのできないベッド上や車椅子上の患者に発生のリスクが高いとされている。今回我々は、仙骨部に褥瘡を伴った症例と伴わなかった症例、対麻痺2例を対象に栄養状態、ADL、骨突出部圧の状態を調査し比較検討した。<BR>【方法】<BR>(対象)対麻痺2例。症例1:61歳。男性。診断名:肝細胞癌。硬膜外血腫。現病歴:某年12月、肝細胞癌摘出術施行。術後硬膜外血腫発症し、両下肢不全麻痺が出現。入院期間中、誤嚥性肺炎の為、2週間ICUに入室。症例2:58歳。男性。診断名:脊髄炎。現病歴:某年4月、当院神経内科に入院し、脊髄炎と診断される。脊髄炎由来の両下肢不全麻痺を呈していた。<BR>(調査項目)褥瘡評価はDESIGNを使用。栄養状態は総蛋白(TP)、血清アルブミン(Alb)、ヘモグロビン(Hb)を測定。ADL評価はFIMを使用。褥瘡部の圧測定は簡易体圧計セロ(ケープ社製)を用いて背臥位、ベッドアップ肢位、側臥位、車椅子坐位で測定。<BR>【結果】<BR>褥瘡(DESIGNの合計点数):症例1は入院から5週後、仙骨部に褥瘡が発生した。14週時で8点、25週時には22点と悪化を辿った。症例2は入院期間中、褥瘡は発生しなかった。<BR>栄養状態:症例1は14週時からAlb、Hbは低値を示し、25週まで変化は無かった。症例2は8週時でTP、Alb、Hb全てにおいて低値を示していたが、13週ではTP、Hb共に改善を示した。<BR>ADL(FIM):症例1は14週時で合計点数が60点であったが、全身状態悪化に伴い18週以降は48点と低値を示し続けた。症例2は訓練開始時は61点であったが、13週の時点で80点となった。<BR>仙骨部体圧:症例1は背臥位の圧は高く、ベッドアップの上昇に伴い圧が高くなる傾向があった。症例2は背臥位や車椅子坐位での圧は高いものの症例1と比べると低かった。<BR>【考察】<BR>症例1は入院から5週後、仙骨部の褥瘡が発生した。栄養状態をみると、低カロリー状態や鉄分欠乏による貧血状態が継続していた。また、ADLは経過と共に低下し、褥瘡も悪化する傾向を辿った。逆に症例2は経過と共にADLの向上を示した。ADL向上は離床を促し、同一肢位予防にも繋がる。従って、褥瘡予防や治療の点でADL向上は重大だといえる。一方、骨突出部圧をみると症例1は背臥位やベッドアップ肢位での仙骨部圧は高かった。ベッド上の同一肢位により軟部組織が虚血性変化を起こし、褥瘡が悪化したのではないかと考えられた。<BR>今回の2症例をみると症例1のようにADLが低下し、褥瘡形成部に過度の圧がかかる場合には積極的に離床を進めていかなければならない。ポジショニングや除圧方法の指導だけでなく、離床やADL向上は褥瘡予防や治療に重大であると考えられる。
著者
森田 直明 荻野 雅史 上野 貴大 戸塚 寛之 強瀬 敏正 高木 優一 須永 亮 佐々木 和人 鈴木 英二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1345-DbPI1345, 2011

【目的】高齢者の廃用症候群は多岐にわたり、筋力低下や可動域制限のみならず呼吸機能の低下も認め容易にADLの低下に繋がってしまう。呼吸機能の低下は、予てから体幹筋力、胸郭可動性等の体幹機能低下の関連性が示唆され、その重要性は周知の通りである。朝倉らによると、肺弾性収縮力の低下、呼気筋力、気道抵抗の増加、声門閉鎖不全及び中枢気道彎曲や偏位によって高齢者の咳嗽力が低下するとされている。よって、加齢による呼吸機能低下に加え、脳血管疾患等の疾病による身体機能低下が加わった高齢者においては、より呼吸機能の低下を生じ易い状況となる。このような例に対する理学療法介入をより効果的に行うために、特にどのような体幹機能に関連性が強いかを検討する必要がある。これについては過去にいくつかの報告を認めるが、依然として検討段階にある課題と考える。Kang SWらによると最大咳嗽力(Peak Cough Flow以下PCF)160ℓ/min以下では普段でも排痰困難や誤嚥を認め、それによる誤嚥性肺炎、急性呼吸不全、窒息の危険性を呈するといわれている。よって今回はPCF160ℓ/minを境界として、体幹可動域、筋力等の体幹機能の差について検討したので報告する。<BR>【方法】対象は、平成20年3月1日から平成21年2月28日までの期間で当院に入院しリハビリテーションを施行した70歳以上の脳血管疾患の既往を有する例のうち廃用症候群を呈した19例(男性7例、女性12例、平均年齢81.5±6.9歳)とした。対象に対し、胸椎、胸腰椎の屈曲、伸展可動域、体幹屈筋群と体幹伸筋群の筋力、PCFの測定を行った。測定は、それぞれ3回施行し、最大値を採用した。体幹の可動域は、Acumar Technology製、ACUMAR DIGITAL INCLINOMETERを使用し胸椎(Th3~Th12)の屈曲、伸展可動域、胸腰椎(Th12~S1)の屈曲、伸展可動域測定を自動運動、他動運動共に施行した。体幹筋力は、オージ-技研社製、MUSCULATORを使用し、椅子座位にて大腿部と骨盤帯を固定し、足底が浮いた状態での筋力測定を行った。PCFは、松吉医科機器株式会社製、Mini-WRIGHT Peak-flow Meterを用いて測定した。対象をPCFの結果から160ℓ/min以上をA群、160ℓ/min以下をB群に分類し、各群間での各体幹機能について比較検討をした。統計的検討にはSPSS for windows10を用い、Mann-WhitneyのU検定を行い、有意水準5%とした。<BR>【説明と同意】対象またはその家族に研究の趣旨を説明し、同意を得た上で検討を行った。<BR>【結果】各群の内分けは、A群10例(男性6例、女性4例、平均年齢82.8±7.9歳)、B群9例(男性1例、女性8例、平均年齢80.0±5.7歳)であった。各測定結果は、以下に示す。PCFでは、A群280.0±90.2ℓ/min、B群97.8±22.8ℓ/min、可動域測定では、胸椎自動屈曲、A群10.9±7.8°、B群18.2±21.0°、胸椎自動伸展、A群10.0±8.3°、B群17.3±21.2°、胸腰椎自動屈曲、A群11.7±8.5°、B群17.0±16.5°、胸腰椎自動伸展、A群12.8±8.8°、B群15.3±7.7°、胸椎他動屈曲、A群13.3±7.4°、B群18.3±20.0°、胸椎他動伸展、A群18.8±14.9°、B群25.0±17.9°、胸腰椎他動屈曲、A群17.1±11.8°、B群18.7±16.7°、胸腰椎他動伸展、A群19.6±5.3°、B群19.7±5.8°であった。筋力測定では、体幹屈筋群、A群3.0±1.1N/kg、B群2.0±0.5N/kg、体幹伸筋群、A群3.6±1.9N/kg、B群3.0±0.7N/kgであった。各群間における測定結果の比較検討では、体幹屈筋群の筋力に有意差を認める結果となった。体幹可動域の屈曲と伸展、体幹伸筋群の筋力には有意差を認めなかった。<BR>【考察】結果より、PCFが160ℓ/min以下の例は160ℓ/min以上の例よりも体幹屈筋群の筋力が低下していることが明らかになった。今回の検討では、対象を脳血管疾患の既往を有する例としたことで、脳血管疾患による咳嗽力の低下を起因として体幹屈筋群の筋力低下をきたしたのではないかと推察される。この体幹屈筋群の筋力低下を生じる可能性は、咳嗽力の強さに由来すると考えられ、その境界はPCF160ℓ/minとなっているのかもしれない。一般的に呼吸機能に対する理学療法介入では、呼吸筋や体幹のリラクゼーション、胸郭の柔軟性向上、腹圧強化、骨盤腰椎の運動が重要と考えられるが、今回の研究結果からは、体幹屈筋群の筋力強化がより重要であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回の研究より、呼吸機能の1つの指標となる咳嗽力が著明に低下している高齢者で、なおかつ脳血管疾患や廃用症候群を呈した例に対する理学療法介入に示唆を与える意味で意義あるものと考える。今後は、更なる可能性の呈示、適応等についての示唆を得るため治療方法等の検討をしていきたいと考える。<BR>
著者
鶴卷 俊江 丸山 剛 前島 のり子 岸本 圭司 清水 朋枝 石川 公久 江口 清 落合 直之 井原 哲 鮎澤 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3208-E4P3208, 2010

【目的】近年重度痙縮に対し、中枢性筋弛緩薬であるバクロフェンを脊髄腔内に持続投与する髄腔内バクロフェン投与(ITB)療法が行われている。当院においても脊髄障害や脳卒中患者、脳性麻痺に対し行われている。今回、重度身体障害者に対し介護負担軽減を目的にセラピストが医師と連携し、ITB療法導入を検討する機会を得た。ここに、ITB療法が介護負担に及ぼす影響について若干の考察を得たので報告する。<BR>【方法】ITB療法開始前後で、以下の3項目について評価、検討した。1.四肢筋緊張の程度をAshworth Scaleを用いた。 2.カナダ作業遂行測定(COPM)の10段階評価を利用し、日常生活動作の中で介護者にとって重要度が高い10項目について遂行度と満足度を聴取した。3.介護負担度の尺度としてZarit介護負担度尺度日本語版(J-ZBI)を用いた。対象は、当部で理学療法を受けている2名の患者である。症例1は四つ子の第四子として在胎26週720gで出生した22歳男性。身長152.0cm、体重50.0kg。成長と共に側彎の進行および四肢筋緊張亢進したが、18歳時に顕著な増悪を認めた。ADLはほぼ全介助の状態だが、コミュニケーション能力は良好。主介護者は両親、副介護者は兄である。平成21年7月8日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。症例2は生後7ヶ月につかまり立ち時に転倒。急性硬膜下血腫、脳挫傷受傷。術後に低酸素脳症および難治性てんかん合併。その後転居に伴い当院でフォローされている13歳男児。身長131.0cm、体重25.7kg。平成18年頃より側彎の進行および四肢筋緊張亢進の急激な変化あり、平成21年2月経口摂取も困難となり胃廔造設。主介護者は母親、副介護者は父親である。平成21年9月25日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。<BR>【説明と同意】趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。<BR>【結果】症例1は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.38、上肢4.25。術後下肢1、上肢2.5の減点。ADLは平均点で術前が遂行度6.9、満足度6.8。術後が遂行度8.1、満足度8.1と変化あり。J-ZBIは母親は術前5点、術後4点。父親は術前12点、術後8点と変化が見られた。症例2は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.25、上肢2.25。術後は下肢1.75、上肢1.25の減点。ADLは平均点で術前が遂行度7.4、満足度7.4。術後が遂行度7.7、満足度7.4。J-ZBIは術前23点、術後13点と減点あり。「全体を通してみると、介護をするということはどれくらい自分に負担になっていると思いますか」との問いでは、術前「世間並」が、術後「多少」と介護負担が軽減した結果が得られた。また問診から、「自力で食事をするペースが早くなった」「シャワーが楽になった」とあり、問題意識を持たなかった点でも変化が見られた。<BR>【考察】介護負担度の評価尺度として用いたJ-ZBIは、「介護負担感とは親族を介護した結果、介護者が情緒的、身体的健康、社会的生活および経済状態に関して被った被害の程度」と定義されている。2例ともに術前後で得点の減少はみられたが、もともとか「低負担感」の点数でありこの分類に術前後で相違はなかった。このことは、介護者が親である場合は、生下時より障害と共に成長してきた子の介護を負担と感じるには至らない点や症例1のようにマンパワーが満たされているケース、症例2のようにまだ母親一人で介助が出来る子の体格であるケース等、J-ZBIの介護負担感の概念に必ずしも合致しないためと推察する。しかし、このような場合も介護が長期化することで、介護負担感が高くなることは容易に想像できる。ITB療法の有用性は筋緊張を低下させることで、1.活動性(運動性)の改善が図れる、2.変形の予防・改善をねらえると考えられる。我々は新たに「介護者の負担を減らせる」効果があると提案したい。そこで、セラピストの役割として、医学的側面からケア・サポートが必要である症例を見落とさず、治療方法の選択を介護者および医師と共に検討していくことが重要であると思われる。今回各種評価方法を用い介護負担について検討した結果、介護者の主観的満足度は大きく介護負担軽減を目的としたITB療法は有用であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】重度身体障害者に対してはITB療法の有用性を評価するためには介護者側の評価が必要であることからも、評価方法については今後さらに検討していく必要があると考える。
著者
浅川 康吉 遠藤 文雄 黒澤 光義
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101338-48101338, 2013

【はじめに、目的】介護予防事業の効果として医療費の伸びの抑制が期待されている。本研究の目的は運動器の機能向上プログラムを中心にした事業における参加者の医療費の変化を、非参加者との比較を通じて明らかにすることである。【方法】群馬県藤岡市は介護予防一般高齢者(一次予防)事業として住民主導型介護予防事業「鬼石モデル」を実施している。「鬼石モデル」は住民が自主グループ活動として公民館等で週に1回、1回1時間弱の「暮らしを拡げる10の筋力トレーニング」に取り組む事業である。本研究のフィールドは平成19年度から平成20年度にかけて事業に参加した同市内の4つの行政区で、対象者は65歳以上の事業参加者70名(鬼石モデル参加群)と、行政区、年齢、性別をマッチさせて選んだ住民140名(対照群)の計210名とした。いずれも国民健康保険、老人医療保険(平成18年度)、後期高齢者医療保険(平成20年度)の加入者で、医療費は事業参加前年度にあたる平成18年度分と事業参加期間の後半にあたる平成20年度分について医科、柔整、歯科、調剤の4項目の合計金額を算出した。分析は以下の通り行った。鬼石モデル参加者と対照群それぞれについて前期高齢者(65歳から74歳まで)と後期高齢者(75歳以上)を区分し4群を構成し、一人あたり医療費として平成18年度分と平成20年度分の単純平均を算出し、金額の変化を明らかにした。その後、医療費のヒストグラムを参考にして医療費25万円以下の低位グループ、25万円超から50万円以下の中位グループ、50万円超の高位グループの3グループを分類し、4群それぞれについて平成18年度医療費と平成20年度医療費を比較した。統計学的解析にはχ²独立性の検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。鬼石モデル参加者については口頭による説明を行い、口頭による同意を得た。対照群については本研究者らが個人情報に接することがないように藤岡市から連結不可能匿名化されたデータの提供を受けた。【結果】一人あたり医療費は前期高齢者・鬼石モデル参加群(n=35、年齢71.3±2.3歳)では平成18年度は281,170円、平成20年度は359,526円であった。前期高齢者・対照群(n=68、年齢71.3±2.3歳)ではそれぞれ271,925円、370,836円であった。後期期高齢者・鬼石モデル参加群(n=35、年齢78.5±3.6歳)では平成18年度は453,246円、平成20年度は414,775円であった。後期期高齢者・対照群(n=72、年齢78.4±3.4歳)ではそれぞれ482,579円、500,136円であった。χ²独立性の検定は4群すべてで有意であった(p<0.01)。各群のヒストグラムと調整済み残差を踏まえて医療費の変化を分析したところ、前期高齢者に関しては、対照群では医療費低位グループと高位グループにおいてそれを維持する者が多く、医療費高位グループから低位グループへと変化する者が少なかった。これに対して、鬼石モデル参加群では医療費低位グループと中位グループを維持する者が多くみられた。後期高齢者に関しては、対照群と鬼石モデル参加群ともに医療費低位グループと高位グループにおいてそれを維持する者が多くみられたが、両群を比較すると、低位グループでは医療費増加の者が対照群に多く、高位グループでは医療費維持・減少の者が鬼石モデル参加群に多い傾向がみられた。【考察】行政の視点からみた地域の医療費は住民数×一人あたり医療費であり、一人あたり医療費は介護予防事業の効果をみるための重要な指標である。本研究の結果は、「鬼石モデル」が一人あたり医療費の伸びを抑制することを示し、特に後期高齢者についてはその効果が高いことを示した。その背景には、前期高齢者では、医療費50万円以内の者に対する医療費維持の効果があり、後期高齢者では医療費25万円以内の者に対する医療費維持の効果があると考えられる。後期高齢者では50万円超の者における医療費の維持・減少効果もあると思われ、一人あたり医療費の伸びの抑制が顕著に表れたと考えられる。本研究ではデータ収集時の制約から運動機能データを得ることができなかった。このため運動機能の変化が医療費にどのように影響するかは検討できなかった。この点は今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】介護予防事業が医療費に与える影響を具体的に示した研究は少ない。本研究は、理学療法士が関わる介護予防事業によって医療費の伸びが抑制できる可能性を示した点で意義が高い。
著者
古川 公宣 下野 俊哉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1064-Ab1064, 2012
被引用文献数
16

【はじめに、目的】 表面筋電図は,非侵襲下での簡便な筋機能評価方法として用いられている.我々は第46回日本理学療法学術大会にて振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)を用いた表面筋電図波形分析方法を検討し,等尺性収縮時の筋出力の違いによる振幅データ分布帯の違いを報告したが,求心性収縮中の相違は確認することができなかった.そこで本研究においては,等速性運動中の筋機能の相違をAPDFを用いて解析する事を目的として実験を行った.解析にあたり,データ抽出範囲及び設定階級幅を詳細に検討して解析を行い,その他の指標との関連性を検討した結果,興味深い結果が得られたので報告する.【方法】 下肢の運動機能に障害を残遺する疾患や外傷の既往のない健常成人11名(男性8名,女性3名;平均年齢:19.0±2.8歳,平均身長:168.5±8.9cm,平均体重:60.6±9.8kg)を対象とした.測定機器はNoraxon社製表面筋電計TeleMyo 2400Tと等速性筋力測定器BIODEX System3をシグナルアイソレーションユニットにて同期させたものを使用した.測定対象課題は運動速度60,180,300deg/secの求心性膝関節屈曲伸展運動を5回反復することとし,標準化データとして膝関節屈曲70°での最大努力下の等尺性伸展運動を5秒間行い,課題遂行中の外側広筋,内側広筋斜頭及び大腿直筋の活動電位,膝関節伸展トルク,関節運動速度を測定した.5回の求心性伸展運動のうち中間3回の運動を対象に,目標運動速度が維持されている間の筋活動電位データを抽出した.最大等尺性伸展運動中に測定された2.5%毎の40階級を設定し,各階級に該当するデータ数の全データ数に対する割合を算出,ヒストグラムを作成して運動速度の違いによる相違を検討した.また,解析対象とした運動区間の平均振幅値及び平均発揮トルクも算出し,最大等尺性伸展運動中のピーク値で標準化したもの(%peak amplitude及び%peak torque)も検討対象として使用した.統計学的検定には分散分析を用い,有意水準を5%以下として比較検討を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 一連の研究手順は研究者の所属する施設の研究倫理委員会にて承認を受けた後に開始された.また,研究の主旨と内容及び危険性の説明を事前に受け,同意書に署名をした被験者のみが実験に参加した.【結果】 内外側広筋の%peak amplitudeは運動速度の違いによる差を生じなかったが,大腿直筋は300deg/sec時が60,180deg/secと比較して有意に低かった(すべてp<0.01).%peak torqueは運動速度が速いほど有意に低下した(すべてp<0.01).APDF解析の結果では,内外側広筋の各階級において,運動速度の違いによる有意差はなかった.しかし,大腿直筋では0-5.0%の階級では運動速度が速い方が高値を示したが,15.0%以上の階級になると300deg/secが他の運動速度と比較して低値を示しはじめ,27.5-52.5%の階級では32.5-35.0%の階級を除いて有意に低値を示した.さらにこれ以降から80.0%までの階級においても60と300deg/secで後者が有意に低値を示していた.【考察】 %peak amplitude及びtorqueの結果より,運動速度の違いによる発揮トルクの変化は主に大腿直筋に依存していると考えられた.大腿直筋の%peak amplitudeを算出するデータの分布を見ると,運動速度の違いによって振幅データの分布帯が異なっており,運動速度が速く発揮トルクが低い方が,低い階級の出現率が高かった.関節運動速度ダイナモメータの抵抗によってコントロールされる等速性筋力測定器では,設定運動速度に到達するための筋活動が筋線維の同期ではなく交代によって制御されると考えられる.すなわち筋内の各部位で発生する活動電位を時空間的に加算して捉える表面筋電図では,設定速度に到達しそれを維持する際には,速い運動速度の方が筋活動電位の加重が少ないために,低い階級の分布が増加したことが一要因であると推察され,その分布域の変換点が25.0-37.5%階級付近に存在している可能性も確認された.今後はさらに条件を詳細に制御し,生理学的考察を加えることで,より明確な筋機能分析が可能であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 筋機能を詳細に評価することは,理学療法プログラム作成には不可欠である.本研究で用いた方法は,非侵襲下での筋機能解析が可能であり,今後,疾患,障害特性をふまえたデータ解析と併せることで,より有効なツールとなると考えられる.
著者
岡崎 大資 甲田 宗嗣 川村 博文 辻下 守弘 鶴見 隆正
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0723-E0723, 2004

【はじめに】<BR> 本研究は高齢者に対する継続的転倒予防教室(以下教室)において、行動分析学的介入による自主運動の継続的実施の可能性と参加者間のソーシャルネットワークの確立の可能性について検討したので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 対象は地域在住の高齢者25名(男性7名、女性18名)、平均年齢72.9±5.9歳であった。<BR> 方法は全6回の教室において指導した7種類の自主運動(柔軟性に関する運動3種類・筋力に関する運動3種類・ウォーキング)を教室開催時以外の自宅での実施頻度を向上させるための介入を行った。教室終了後の半自主的に継続されている教室の8回をフォローアップ期とした。介入は行動分析学的介入方法を用い、ベースライン期とフォローアップ期は用意したカレンダーに自宅での運動実施毎にシールを貼りその頻度を研究者が確認するのみとし、介入期Bは自主運動実施頻度が多い者に対する注目・賞賛(社会的強化子)、介入期Cは自主運動実施の報酬として実施頻度に応じて簡単なパズル(付加的強化子)を渡すこととした(A・B・C・Aデザイン)。また、フォローアップ期の後半で7名の対象者に、各期を通じての自主運動に対する意識の変化や参加者同士の関係についてインタビューした。<BR>【結果】<BR> 全員の自主運動実施頻度の平均はベースライン期:171.7±82.5回、介入期B:256.9±38.9回、介入期C:588.9±104.9回、フォローアップ期:413.2±33.2回であった。また、インタビューではベースライン期には「健康に良いと言われたので運動した」、「カレンダーへシールが貼れように運動を頑張った」との内容が含まれていた。介入期Bでは「他人が読み上げられて誉められることが羨ましい」、「自分が読み上げられて誉められたことが嬉しかった」やその反面「読み上げられるのは恥かしい」などの内容も含まれていた。介入期Cでは「パズルは痴呆防止にいい」、「パズルが面白かった」や、パズルをもらえることを理由に運動したのではなく「友人同士で一緒に運動するから楽しい」、「自主運動が自分の生活の一部に定着した」、「運動すると体が楽になる、気持ち良い」などの内容が含まれていた。<BR>【考察】<BR> 自主運動実施頻度が向上した理由として、介入期B・Cにおいて注目・賞賛やパズルをもらえるという強化子が影響したと考えられる。しかし、参加者はフォローアップ期に強化子を提示しなかったにもかかわらず介入期Bより高い頻度で自主運動を実施していた。これは賞賛やパズルを強化子とするのではなく、自主運動の実施に内在した強化子(楽になる、気持ち良い)や参加者同士で自主運動を実施するといったソーシャルネットワークを確立し維持することで保たれていると考えられる。このように教室の役割は転倒予防のための機能的かかわりを持つのみならず、参加者間のソーシャルネットワークの確立と共に生きがいやQOLの維持にも繋がることと考えられる。
著者
和泉 健太 武内 耕太 寺坂 聖子 中島 寛貴 正意 敦士 小田桐 匡 松永 秀俊
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.H4P3270-H4P3270, 2010

【目的】日常生活において、我々は座る対象を選択することなくかつ安全に座るという一連の手続きを、無意識のうちに行っている。ところが、実際に臨床では能力的に低下を認める高齢者や脳血管障害患者などは、座るという動作が必然的に増加するにも関わらず、着座する際に対象物に対して尻もちをつく(転倒)傾向があるように感じる。この着座に至るまでの手続きには、様々な筋を動員することで身体制御を行っていることから、原因に下肢の筋力低下が疑われ、筋力や動作に伴う重心移動の観点からについて様々な報告がある。しかし、着座の手続きには対象物の高さや座面などの情報を視覚としてとらえる入力プロセスが含まれており、その情報と身体情報とを照合することで正確な運動が行われ、安全な着座動作に至ると推測される。このように入力情報に基づいて脳内処理を行い、動作に変換するプロセスについては十分研究がされていない。<BR>本研究では、上記の背景に基づいて、アイマークレコーダーと三次元動作解析装置を用いて、着座動作における最低限の視覚情報と頸部の動き(体性感覚)による入力情報から、対象物への安全な着座動作、特に高さを決定する機構について検討することにした。<BR><BR>【方法】21~22歳の視覚異常がなく、着座を行う対象物が十分に見える程度の視力を有した健常男子大学生3名(身長:170。2±3。19;平均値±標準偏差)を対象とした。<BR> 対象物は幅16cmのものを使用し、高さは本研究内で高さによる違いを検討するため、20cm、40cm、60cmの3種類の高さが設定できる昇降台を使用した。<BR> 被験者は、対象物に向かって、両肩関節90度外転位で閉眼している状態で、約1m先に対象物を配置した。被験者は合図とともに閉眼した状態で基本的立位をとり、対象物に対して向きなおった後、対象物に向かって左足を踏み出した際に験者によって「A(着座する)」または「B(着座しない)」の指示が与えられた。被験者は指示の入力と同時に開眼し、対象物手前で回転した後、指示に則した動作を行う試行とした。対象物の高さについては不規則に提示されるものとした。<BR> その他、被験者に対する注意としては、尻もちをつかないように着座すること、カメラの間から対象物を注視すること、できるだけ早い動作で行うことを指示した。<BR> 運動反応中の身体運動は、三次元動作解析装置(MAC 3D System、nac IMAGE TECHNOLOGY社製)を用い計測され、眼球運動については、アイマークレコーダー(EMR-8、nac IMAGE TECHNOLOGY社製)を用い、瞳孔/角膜反射法によって計測された。また、得られた視線データは同時にVTRに記録され、対象物への注視時間を計測した。高さごとに視線データを計測し、高さによる傾向を分析した。統計処理は二元配置分散分析、T検定を用いて多重比較を行った。統計学的有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】被験者には、本研究の目的、方法、安全性、個人情報の保護等についての十分な説明を行い、裸眼での実験への参加について同意を得た。<BR><BR>【結果】頸部屈曲角度は、着座なし条件で対象物が低いほど小さくなる傾向を示し、着座あり条件では対象物が低いほど大きくなる傾向を示した。注視時間は、着座なし条件では高さによる影響を受けなかったが、着座あり条件では対象物が低いほど注視時間が短縮する傾向をみとめた。このうち対象物の高さが20cmと60cmの間で、着座あり条件における注視時間に有意差を認めた(p<0.05)。<BR><BR>【考察】着座なし条件においては対象物が高くなるにつれて注視する座面の位置が高くなり、それに対応して頸部屈曲角度は小さくなるが、着座条件が付随しないために運動変換の必要がなく、視覚による情報を重要としなかったため、時間に変化が認められなかったと考えられる。着座あり条件においては、方向転換後にアクションを起こさなければならず、脳内での運動変換プロセスの負担は対象物が低くなるにつれて大きくなるために着座という動作を優先することから、注視時間が有意に短かったのではないかと考える。<BR> 以上より、様々な高さの対象物に対する着座動作には、頸部の屈曲角度より視覚による入力情報が優先され、その量は脳からのアウトプットが正確に遂行できるだけの最低限量で入力されることが示唆された。また、対象物が低くなる(運動量が大きくなる)ほど、脳内処理時間が延長することも推測された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今後、本研究を基に脳血管障害患者や高齢者など、対象とする範囲を拡大することで、安全な動作獲得による生活レベルの向上には視覚へのアプローチが重要となることが考えられる。今後も視覚情報と身体運動との関連性に着目し研究していきたい。
著者
佐藤 萌都子 田村 幸嗣 吉田 裕一郎 河野 芳廣 森山 裕一(MD)
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100387-48100387, 2013

【はじめに、目的】 癌患者、その家族にとって終末期をどのように過ごすかは大きな問題のひとつである。今回、癌の進行に伴い、ADLおよび活動意欲が低下し、目標喪失となった終末期癌患者への理学療法を担当した。本症例を通し、意識変化のきっかけを与えることで、共通目標の設定・自宅退院が可能となった症例を経験する機会を得たため、報告する。【方法】 症例は30歳代女性。子宮肉腫に対し、他院にて子宮全摘+両側付属器切除施行。その6年後、子宮肉腫クラスV再発を認められ、当院にて抗癌剤治療目的に入院となる。生命予後については、主治医より"年単位は難しい"と入院時のインフォームドコンセントにて症例・ご家族に対し告知済みである。ご家族は夫・両親・義理の母親を中心に終日誰かが病室にいる状態であり、症例に対し非常に協力的であった。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し、患者情報を診療記録から抽出した。症例ご家族に対し、本学会にて症例報告を行うことについて同意を得た。また、当院の倫理委員会の承諾も受けた。【結果】 当院入院から退院までを以下の3相に分け、経過を報告する。(介入初期)当院入院約1ヶ月経過し、機能改善目的にリハビリテーション(以下リハ)開始となった。介入当初は、PS2~3と個室内トイレへは点滴台歩行にて自立レベルであったが、終日嘔気・嘔吐に加え間欠的な腹部痛、下腿浮腫を中心とした倦怠感により臥床傾向であった。また、人目を気にすることで個室外出はほとんどみられず、"リハが入っても何もできない"とリハ介入に対しての強い不安が聞かれた。そこで、まずは「個室からリハ室までの外出」を目標に、他の利用者のいない昼休み時間を利用するなど環境設定をしながら、少しずつ離床を図った。(活動範囲拡大期)点滴台歩行に加え自転車エルゴメーターを中心に運動耐容能改善を図るなかで、"思ったより歩けた""動けるなら自宅に帰って妻らしく家事がしたい"など心理的変化に加え、意欲的な発言がみられ始めた。一時的には病棟内を散歩するなど、人前に出る機会も多くなり、身体機能の向上を図ることができた。PTに対して、在宅復帰への希望がある一方で、ご家族の負担となることへの不安を話す場面もあったが、症例、ご家族、病棟スタッフを含め「自宅退院」という目標を共有した。その後、抗癌剤治療の合間に自宅退院の予行を含め、訪問看護を導入しながら一時退院となった。(自宅復帰移行期)再入院に伴い再び介入したが、抗癌剤治療開始に併せ、腹水の増加や熱発・嘔吐が持続し、誤嚥性肺炎を呈するとNGチューブ・ドレーン留置となり、徐々にベッドサイドでの身体機能維持を目標とした緩和的な介入が中心となった。加えて、症状の不安定性により積極的な介入が行えない日が増えた。そのため、病棟との連携の中で疼痛コントロールを図った上での介入を行い、リラクゼーション・下腿浮腫に対するマッサージをはじめとし、体調に合わせたプログラム設定の中で、個室内の点滴台歩行の継続を図り、機能維持に努めた。最終的な自宅退院が近づく中、希望がみられる一方で"家に帰っても家族の迷惑になるのでは"という強い不安が聞かれたが、家族の受け入れを得ることができ、再入院から2ヵ月後、状態維持のまま自宅退院となった。【考察】 介入当初、活動意欲の低かった症例に対し目標設定を行うことに大変苦慮したが、症例に合わせた環境設定を行うことで個室外への離床を図ることができ、そこから前向きな意識変化を生み出せたことが自宅退院という共通目標設定に大きく繋がったと考える。また、終末期においてADL低下は避けられないが、緩和的介入へ移行し症状が不安定な中でも介入し続けることで治療はまだ続いているという精神的な支えとなり、身体機能低下を遅らせるだけでなく、目標への意欲を保持することも可能であると考える。自宅退院が決まったのち、症例からは笑顔とともに"やっぱり家が良いね"と、ご家族からは"家に帰らせることができて良かった"という発言が聞かれ、QOL向上を図れたことから今回のPT介入は適切なものであったと考える。【理学療法学研究としての意義】 癌の終末期において、QOLの向上を図ることは重要である。ADL機能の向上が図れなくなった時こそ、身体機能面への介入だけでなく、症例に合わせた理学療法を行い、目標を共有し意識を高めることはQOL向上に有効なアプローチと考える。
著者
古西 勇
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P2267-E4P2267, 2010

【目的】正座は,靴を脱いで家に上がる文化や畳に代表される日本独自の住環境を背景に,食事や来客の対応,仏事などに際して誰にでも要求され,人生の長い期間にわたって繰り返される習慣である.正座にはかしこまった気持ちを表現するという儀礼的な意味合いが強いため,特に高齢女性では,膝痛があってもその習慣を続ける場合が多いと考えられ,女性の方が男性よりも変形性膝関節症の有症率が高いこととも関連している可能性が考えられる.地域での保健活動における理学療法士などリハビリテーション専門職の果たすべき役割の重要性は今後も増していくと考えられるが,膝痛のある中高年者,特に膝痛のある中高年女性を対象とした,正座など日本独自の習慣や文化を考慮した疫学的研究は少ない.本研究では,膝痛のある中高年者において正座の習慣の有無や,正座の習慣がない場合の理由に性別による違いがあるかどうかを明らかにすることを目的とした.<BR><BR>【方法】新潟県北部内陸にあるA市在住の40歳以上80歳未満の市民から居住地区・年齢階層・性別で抽出率が等しくなるように無作為に抽出した3600人を対象とし,平成20年度後半に郵送法による「ひざの痛みに関するアンケート調査」を実施した.回収した1866人分の回答(回収率51.8%)から,重度の障害があると回答した人を除き,性別・年齢・居住地区・身長・体重や正座に関する質問項目への回答の記入漏れがなく,回答から膝痛のあることが確認された493人(女性296人,男性197人)を分析対象とした.属性は,身長158.7±9.0cm(女性153.6±6.0cm,男性166.3±7.3cm),体重58.7±10.3kg(女性53.9±7.8kg,男性66.0±9.2kg),BMI23.3±3.3kg/m<SUP>2</SUP>(女性22.9±3.2kg/m<SUP>2</SUP>,男性23.9±3.3kg/m<SUP>2</SUP>)[平均値±標準偏差]であった.正座に関する質問は,普段正座をする習慣があるかないか,それがないとしたら理由は正座が困難なためか必要ないためかという2項目とした.正座の習慣の有無と性別との関連と,正座の習慣がない場合の理由と性別との関連を明らかにするため,χ<SUP>2</SUP>独立性の検定を行った.有意水準は5%とした.<BR><BR>【説明と同意】アンケートの調査票の1枚目の扉に,回答が匿名化情報として処理されることを明記し,回答をもって「みなし同意」とした.<BR><BR>【結果】正座の習慣の有無と性別との関連において,女性では習慣ありが215人(72.6%),なしが81人(27.4%),男性では習慣ありが111人(56.3%),なしが86人(43.7%)と女性が男性に比べて習慣ありの割合が有意に大きく(p<0.001),オッズ比は2.06であった.正座の習慣がない場合の理由と性別との関連において,女性では困難のためが61人(75.3%),必要ないためが20人(24.7%),男性では困難のためが50人(58.1%),必要ないためが36人(41.9%)と女性が男性に比べて困難のためという理由の割合が有意に大きく(p=0.019),オッズ比は2.20であった.<BR><BR>【考察】本研究の結果から,膝痛のある中高年者の中で,女性は男性に対して正座の習慣のある人の割合が大きく,その習慣がない人の中でも正座が困難なために普段の正座を控えている人の割合が大きいことが示唆された.既に膝痛のある人にとって,正座の習慣を続けることは膝痛の改善を妨げ,変形性膝関節症の発症や症状の進行のリスク要因となる可能性が考えられ,習慣や住環境など国際生活機能分類(ICF)でいうところの背景因子への働きかけを含めた地域での保健活動が必要と考えられる.今回の結果で,正座の習慣がない人の中で,その理由が正座をする必要がないためと回答した人が,自宅でどのような座位をとっているのかまでは明らかにできなかった.今回の結果は,農村部で一般的な畳や襖,縁側などのある開放的な家屋の多い地域を対象とした調査に基づくことから,より都市型の住環境の多い地域など,異なる地域へも調査範囲を拡大することも今回の結果を一般化するために必要と考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】地域で在宅の膝痛のある高齢者や中高年者を対象とした理学療法介入の研究は行われているが、正座のような習慣や住環境へのアプローチを含めた研究は少ない.本研究は,理学療法士の職域を地域へと拡大していくための有用な情報を提供した.
著者
松永 秀俊 奈良 直貴 彌永 修一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.796-796, 2003

【はじめに】昼間部3年間、夜間部4年間の両学部の教育指導に当たって、両者の持つ不安に多く直面した。それぞれの特徴として昼間部学生(以下、昼間部)は級友とのトラブル、進級に関する問題など多くの不安を訴えるが深刻なものは少ない。それに対し、夜間部学生(以下、夜間部)は訴える不安は少ないが、経済問題など、一度表面化すると深刻なものが多く認められた。そこで、両学部を入学時から継続的に不安について調査し比較・検討することで、何らかの傾向を見つけ、事前に対策を講じることができることを期待し入学時及び定期試験前に調査を行った。【対象と方法】平成14年度理学療法学科に入学した昼間部40名(男性28名、女性12名)(既婚者3名)、平均年齢22.1±4.14歳と夜間部40名(男性37名、女性3名)(既婚者6名)、平均年齢25.2±4.71歳の計80名を対象とした。 対象者全員に対し入学式終了後(以下、入学時)、及び、前期定期試験1週間前(以下、前期試験時)にMAS(Manifest Anxiety Scale:日本版MMPI)を用いた不安検査を行い、両群を比較した。また、同時に、その不安の要因を探るために、LazarusらのDaily Hassles Scaleをもとにした宗像の日常苛立事尺度を用い検討した。30項目に対し、「日頃イライラを感じているかどうか」について、「大いにそうである」「まあまあそうである」「そうではない」の3段階で評定させ、それぞれ2、1、0点と得点化し、各項目の合計点を尺度得点とした。【結果】入学時に於けるMASの結果は昼間部で21.2±7.47、夜間部で17.8±7.95となり、若干、昼間部に点数の高い傾向が認められるが、両者間に有意差は認められなかった。更に、日常苛立事尺度の結果から、その不安要因として挙げられたものは夜間部では生活に密接した具体的なものであったが、昼間部では生活から懸け離れたものが多く認められた。 また、前期試験時に於けるMASの結果は昼間部で19.9±7.79、夜間部で15.2±7.43となり、入学時に比べ、夜間部の不安傾向が昼間部に比べ低いことを依然として示していたが、両群ともに不安傾向は改善していた。更に、日常苛立事尺度の結果から、夜間部では昼間部に比べ「家族への責任」「転職後の生活」などの不安要因が高く、昼間部では夜間部に比べ「人間関係」「外見・容姿」「陰口」などの不安要因が高かった。【まとめ】今回の結果から、初めての定期試験に対する不安より、入学時の不安が強いことが分かった。また、夜間部に比べ、昼間部は常に不安が強く、その要因についても学部ごとに特徴的であることが理解できた。 以下、今回の結果を更に分析し、後期試験時に予定しているデータの結果を加え報告する予定である。
著者
坂本 裕規 村上 慎一郎 近藤 浩代 村田 伸 武田 功 藤田 直人 藤野 英己
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1306-Ab1306, 2012

【はじめに、目的】 骨格筋量は30歳を頂点として加齢と共に減少する。また、筋力低下による活動量の減少は生活習慣病発症の危険因子である肥満を助長する。一方、筋力や体型は運動や食事などの環境要因だけでなく遺伝的要因も関与する。運動能力に関する遺伝子は200以上、肥満に関しても127以上の遺伝子の関連が報告されている。これらは筋力やBMI、体脂肪量に関連する。しかし、筋力低下や肥満に関係する遺伝子多型の情報は臨床応用には未だ至っていない。高齢者における遺伝子のこれらの遺伝子多型を解明し、筋力低下や肥満を生じやすい対象を特定できれば、予防的な早期介入が可能になると考える。本研究では高齢者における筋力や体型に関係すると考えられる遺伝子の多型が筋力や体組成に及ぼす影響について検証した。【方法】 対象は地域在住の健常女性164名(72.8±7.08歳)とした。体型や筋力に関係すると考えられる成長ホルモン受容体(GHR)、毛様体神経栄養因子(ZFP91-CNTF)、アクチニン3(ACTN3)、インスリン様成長因子受容体(IGFR-1)に関する遺伝子多型の解析のため口腔粘膜から得た細胞を用い、核DNAを抽出(Gentra Puregene Buccal Cell Kit,QIAGEN)した。TaqmanプローブによるリアルタイムPCR法でアレルの検出を行い、遺伝子多型(SNP)を同定した。筋力と体型を評価するため、握力、膝伸展力、足把持力の等尺性筋力を測定した。さらに、超音波機器を用いて大腿遠位部内側における内側広筋の筋厚を計測した。体組成の測定は、BMI、脂肪量、体脂肪率とした。測定結果の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当該施設における倫理委員会の承諾を得て行った。また対象者には実験の目的と方法を詳細に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 GHRにおけるSNP頻度はAA型20%、AG型50%、GG型30%であった。内側広筋の筋厚では、GG型はAG型に比べて有意に高値を示した。また膝伸展力と足把持力は、GG型がAA型に比べて有意に高値を示した。さらに握力でも同様に、GG型はAA型とAG型に比べて有意に高値を示した。この結果からGHRのGG型においては筋力や筋量が高く、A型アレルを持つ高齢女性は筋力や筋量が有意に低くなることが明らかとなった。次にZFP91-CNTFのSNP頻度はAA型44%、AT型38%、TT型18%であった。足把持力は、AT型はTT型に比べて有意に高値を示した。また脂肪量は、TT型がAA型に比べて有意に高値を示した。同様にBMIと体脂肪率においてもTT型はAA型とAT型に比べて有意に高値を示した。この結果よりTT型のSNPを持つ高齢女性では筋力が低く、肥満傾向が高いことが明らかになった。一方ACTN3とIGFR-1の遺伝子に関しては、各SNP間に有意差を認めなかった。【考察】 健常高齢女性において、GHR遺伝子多型は筋厚と筋力に、ZFP91-CNTF遺伝子多型は筋力と体組成に関与することが明らかになった。GHR遺伝子多型は筋厚と筋力の両方に影響を及ぼしていたことから、GHR遺伝子多型は筋肥大による筋力に関連することが明らかとなった。またZFP91-CNTF遺伝子多型は筋厚には影響を及ぼさなかったことから、ZFP91-CNTF遺伝子多型は神経系が関与する筋力に関係すると示唆された。先行研究ではGH投与によって青年の除脂肪体重が増加するとしている。またCNTF遺伝子多型は成人の筋力に影響を及ぼすとされている。以上のことから、健常高齢女性においてもGHR遺伝子多型は筋量に、ZFP91-CNTF遺伝子多型は筋力に関与すると考えられる。ACTN3遺伝子に関して、持久力を要するスポーツ選手と瞬発力を要するスポーツ選手の間で遺伝子型が異なるとの報告がある。一方、ACTN3遺伝子多型は筋力に影響を及ぼさないとする報告もある。本研究では、高齢女性におけるACTN3遺伝子多型は骨格筋量や筋力に影響を及ぼさなかった。異なるスポーツ特性間では差異を認めるが、地域在住の健常女性のような一般的な対象者では差異を認めなかったため、ACTN3遺伝子はトレーニングへの反応性に影響を及ぼすものと思われる。また本研究ではIGFR-1遺伝子多型は筋力と体組成の両方に影響を及ぼさなかった。先行研究ではIGF-1遺伝子多型が筋力に影響を与えるとされているが、その先行研究では対象が白人と黒人に限定されている。本研究の対象は日本人のみであったため、人種の違いによって異なる研究結果がもたらされた可能性がある。今後は対象集団を拡大することと、理学療法介入の効果を検討することが課題であると考える。【理学療法学研究としての意義】 GHRとZFP91-CNTFの遺伝子多型が高齢女性の筋力や体組成に影響を及ぼす事が明らかになったことから、筋力低下や肥満を生じやすい者を特定し、早期から理学療法士が介入できるようになる可能性が示唆された。
著者
柏木 圭介 野田 健登 孫田 岳史 松本 仁美 東福寺 規義 南谷 晶 海老沢 恵 正門 由久 内山 善康
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100529-48100529, 2013

【はじめに、目的】 肩腱板断裂術後患者において,日常生活動作の獲得は重要な要素である.日常生活動作の獲得は様々な運動機能や環境要素が組み合わさることで可能となるものであり,医療従事者側からの客観的評価(JOA score,Constant score 等)のみではなく患者側による評価も重要な要素である.この患者側による評価を用いた研究は術後6ヶ月,1年,2年と経過の長い対象の報告が多いが,詳細な経時的なデータはなく,術後6ヶ月以内の比較的早期の報告はない.今回我々は2011年に日本肩関節学会より作成された患者立脚型評価システムShouder36 V.1.3(以下,S36)を使用し,当院で行った肩腱板断裂術後患者を対象に経時的評価を行ったので報告する.【方法】 対象は関節鏡を利用したmini-open法で手術を行い,当院の肩腱板断裂術後プロトコールで理学療法を施行した中断裂以下の肩腱板断裂患者12名12肩(男性:9名,女性:3名)とした.手術時年齢は平均57.3±13.0歳であり,術後3,4,5ヶ月時点にS36の用紙による自己記述式アンケート調査を実施し,各領域において各月の点数を比較検討した.なお,S36は全6領域36項目であり,各項目の順番をランダム化し,疼痛(6項目),可動域(9項目),筋力(6項目),日常生活動作(7項目),健康感(6項目),スポーツ能力(2項目)について回答する.点数は5段階(0-4)で値が大きいほど良好な状態を示し,各領域間の平均値を算出するものである.統計処理はTukeyのHSD検定を用い,有意水準5%未満を有意差有りとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,東海大学医学部付属病院臨床研究審査委員会(受付番号11R085号)により承認された.尚,対象者には研究目的および研究方法を十分に説明し同意を得た.【結果】 S36の各項目の得点は,術後3ヶ月,4ヶ月,5ヶ月の順に,可動域は3.3点,3.7点,3.8点であり,3ヶ月と5ヶ月間に有意な改善を認めた(p=0.017).疼痛は3.2点,3.7点,3.8点であり,3ヶ月と5ヶ月間に有意な改善を認めた(p=0.016).筋力は2.9点,3.3点,3.5点,日常生活動作は3.3点,3.8点,3.8点,健康感は3.3点,3.8点,3.8点,スポーツ能力は2.3点,2.6点,2.9点であり,筋力,日常生活動作,健康感,スポーツ能力においては有意差を認めなかった.【考察】 S36において,術後3ヶ月と5ヶ月間で可動域と疼痛の改善に有意差がみられた。これは可動域と疼痛の項目は肩関節下垂位や挙上90°以下の動作が多く,比較的難易度が低い運動であるため,術後に改善が得られたと考える.しかし,筋力の項目は挙上90°以上での保持動作が多いため,3ヶ月から5ヶ月の短期間では改善が乏しく,差が出なかったと考えられた.次に有意差を認めた領域の項目を検討すると,可動域において術後3ヶ月と5ヶ月間で最も得点の変化が少なかったのが「反対側のわきの下を洗う」であり,次いで「エプロンのひもを後ろで結ぶ」であった.これは,今後の内転,内旋動作獲得の重要性が示唆された.また,疼痛の項目において術後5ヶ月で最低得点であった「後ろポケットに手を伸ばす」は患側の肩関節伸展,内旋動作により棘上筋への伸張ストレスによる疼痛が考えられ,改善が乏しかった.このことより,当院の肩腱板断裂術後プロトコールでは伸展と内旋のストレッチを6週まで制限しており,その他の運動と比較すると運動許可時期が遅いため,その後の改善に時間を要すと考えた.以上より,疼痛と肩関節内旋可動域制限との比較の必要性が示唆された.さらに,術後3ヶ月で最低得点であった「患側を下にして寝る」は術後5ヶ月で改善がみられた.それは圧迫ストレスの疼痛であり,術後の炎症や術前の疼痛が関連し,術後経過と共に疼痛が軽減したものと考えられる.日常生活動作と健康感は術後3ヶ月時点ですでに高得点であり,その後の改善に有意差を認めなかった.スポーツ能力は術後3ヶ月から5ヶ月において低い得点のままであり,対象の年齢では項目の難易度が高いことが考えられた.【理学療法学研究としての意義】 患者立脚型評価としてのS36を用いて,中断裂以下の肩腱板断裂術後患者における各領域の3ヶ月から5ヶ月の経過を追い,術後3ヶ月から5ヶ月で可動域と疼痛の項目の改善を認めた.今後はS36と医師(整形外科医,リハビリ科医),理学療法士からの客観的評価を比較検討していきたい.
著者
荻野 敦子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.G0360-G0360, 2004

【はじめに】日本の選手達に海外交流の機会を作り、日韓両国の文化交流を目的とした知的障害者サッカー親善大会は、2001年秋に第一回大会が横浜にて韓国を迎えて開催された。第二回大会は2003年10月10日~13日までの4日間、韓国・釜山にて開催され、日本代表選手団は海外遠征を果たした。結果は接戦の末、5-3で日本が逆転勝利を収めた。<BR>今回、日本代表チームのトレーナーとして帯同し、知的障害者スポーツに携わる医事として今後の課題を検討したので報告する。<BR>【選手・スタッフ概要】今回遠征に参加した選手は関西・四国地方の養護学校に通う学生および養護学校OBによる選抜チームで、学生5人、社会人15人から成る。選手平均年齢は19.9歳(16~31歳)であった。同行したスタッフは、地域サッカー協会副会長1名、養護学校教諭・知的障害者施設職員7名、臨床心理士1名、医師1名、理学療法士1名であった。<BR>【現場での対応】今回現地で何らかの治療行為を受けた選手は6名であった。その内容は、後遺症を有する選手へのリコンディショニング、足底胼胝の徐圧処置、靴擦れ、試合中の急性外傷(足部打撲)に対するRICE処置と救急病院への搬送、下腿打撲、頭痛であった。大会期間中、選手たちは自分の症状を自ら訴えることがほとんどなかったため、スタッフから症状の有無を問い掛け、スタッフルームに来てもらった。<BR>【理学療法士(PT)の役割】本人から痛みやコンディショニング不良の申告がなければ症状を発見することは困難であり、訴えがないということは、重篤になり得る外傷を見逃してしまう危険性を意味する。したがってPTは試合会場のみならず、生活全般において選手とコミュニケーション図り、詳細に観察する能力が求められる。また通常現場で求められる対応に加え、自ら訴えることが少ない選手だからこそ、試合前後のコンディションチェックを個別に行い、外傷・障害の早期発見と処置を徹底する必要がある。<BR>【今後の課題】知的障害者スポーツに帯同するにあたり、PTとして現場で対応できる幅広い技術を受け持つ以外に、選手の社会性に対する支援も必要であると考える。PTとしては選手の怪我や体調不良を見逃してはならないが、選手に依存されてはならない。つまりスタッフがすべて聞き出すのではなく、状態の良し悪しに関わらず自分のコンディションを選手から訴えさせることが重要になる。スタッフに促されてから訴える現状では選手の自主性を伸ばすことは出来ないため、自ら自己表現する習慣をつけ、その自主性を支援できる関係が望ましいと思う。<BR>選手の自主性が乏しいのは知的障害のためではなく、支援者の支援が先にたち自己表示をする経験が少なかったからではないだろうか。彼らの努力によって伸ばせる能力と我々が支援すべき範疇の見極めが今後の課題と考える。
著者
伊能 良紀 三井 利仁
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0925-C0925, 2007

【目的】高校野球には高等学校野球関連規定により、毎年12月1日から翌年3月20日まで練習に主点を置くために対外試合を禁止する規則がある(練習試合は3月第2土曜から解禁)。これをアウト・オブ・シーズン規定という。このアウト・オブ・シーズン規定により春の全国選抜高等学校野球大会(以下、選抜大会)と夏の全国高等学校野球選手権大会(以下、選手権)は、出場決定から本大会までの期間の練習目的が大きく異なる。選抜大会出場校は、選抜大会前にアウト・オブ・シーズンを挟むため、自チームの競技力向上はもちろんの事、秋季大会やそれ以前に受けた傷害・慢性障害(以下、障害)を治療・改善する事にも力を注ぎやすい。さらに、この期間に新たな傷害を受けない事が選抜大会で十分な能力を発揮する事に繋がる。今回、選抜大会出場校のアウト・オブ・シーズンに関わったので報告する。 <BR>【対象及び方法】選抜大会に出場した高校の野球部員21名(身長169.1±4.9cm、体重63.78±5.78kg)に対し、理学療法士と野球部専属トレーナーが外傷に対する応急処置・ケア等、傷害・障害から競技復帰へのコンディショニング・トレーニング指導等を行った。<BR>【結果】関わった人数は、全部員21名のうち、11名(投手4名、捕手1名、内野手4名、外野手2名)。傷害・障害部位は、肩5例、肘4例、腰部7例、股関節1例、膝4例、足部1例の23例。そのうち、急性外傷6例(肩3例、腰部1例、膝1例、足部1例)、慢性障害:17例(肩2例、肘4例、腰6例、股関節2例、膝3例)であった。関わった内容は、練習メニューとは別にテーピング3例、コンディショニング22例、トレーニング指導15例であった(重複あり)。<BR>【考察】様々な傷害・障害を持つ選手がいたが、この期間中に受傷する選手より、秋季大会中や秋期大会以前の野球歴から障害を持ち続けている選手が23例中17例と多かった。その理由として、投手が練習終了後にアイシングをするだけで、整理体操を行う選手も少なく、身体のケアに関心が低かったことが考えられた。アウト・オブ・シーズンの期間を利用して、傷害・障害に対する直接的なアプローチだけでなく、身体のケア・整理体操の必要性を選手に自覚させる取り組みとして、身体のケアについて講義も行った。選手が身体のケアに関心を持ち実践した事により、アウト・オブ・シーズン中に受ける傷害を減らす事ができた。さらに、秋期大会以前の障害も改善できた。以上から、身体のケアのみに練習時間が取られていたこれまでより、多くの練習量の確保ができた。今回の活動で、選抜大会での活躍に少なからず寄与でできたのではないかと考えている。今後の課題として、どのようなメディカルサポートがアウト・オブ・シーズンにとって適切か調査・研究していきたい。<BR>
著者
山田 実 樋口 貴広 森岡 周
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C1O2012-C1O2012, 2009

【目的】<BR> 肩関節周囲炎のような運動器疾患患者の多くは、疼痛や関節可動行制限によって、自ら患側肢の能動的な運動を制限してしまう(学習された不使用).このことが、関節可動域改善の妨害因子となることは明らかであり、何らかの対応が求められる.一方、運動イメージを簡便に想起させる手段の一つに、身体部位のメンタルローテーションを用いる方法があり、CRPSのような難知性疼痛患者に対する介入としても臨床応用されている.学習された不使用は、皮質レベルでの機能変化であるため、CRPS患者と同様に、その他の運動器疾患患者においても、メンタルローテーションを用いた介入が有用である可能性がある.そこで本研究では、学習された不使用状態にある肩関節周囲炎患者に対するアプローチとして、簡易型メンタルローテーション課題(簡便に運動イメージ想起を行う手段)を考案し、その有用性を検討した.<BR>【方法】<BR> 対象は、片側罹患の肩関節周囲炎患者40名(年齢; 54.8±10.5歳、日整会肩基準; 64.1±6.3点)であった.なお、明らかな石灰沈着や腱板損傷を認めた場合は除外した.対象者には紙面および口頭にて、研究の説明を行い署名にて同意を得た.対象者は、無作為に介入群20名と対照群20名に分けられた.介入期間は1ヶ月であり、両群ともに、標準的リハビリテーションを週に2~3回の頻度で行った.加えて介入群には、簡易型メンタルローテーション課題が課された.この課題は、回転(0°、90°、-90°、180°)してある左右側それぞれの上肢および手の写真をみて、それが右手なのか左手なのかを回答するものである.120枚の写真(上肢、手)を入れた、はがき用のクリアファイルを用いて、毎日15分程度、1ヶ月間行うよう指導した.1ヶ月間の介入前後には、日整会肩基準、屈曲角度、外転角度、1st外旋角度を測定し、アウトカムとした.統計解析には、二元配置分散分析およびpost hoc testを用い、介入効果の検証を行った.<BR>【結果および考察】<BR> 介入前のベースラインの比較では、年齢、発症より介入開始までに要した期間、日整会肩基準、屈曲角度、外転角度、1st外旋角度の全てで有意な群間差を認めなかった(p>0.05).二元配置分散分析の結果、日整会肩基準、屈曲角度、外転角度、1st外旋角度の全てで交互作用を認め、介入群で有意な改善を認めた(p<0.05).なお両群ともに、すべての指標の介入前後で有意な改善を示していた(p<0.05).これらのことより、標準的リハビリテーションだけでも肩関節機能の改善は期待できるが、加えて、簡易型メンタルローテーション課題を用いたトレーニングを行うことで、より機能改善に有用であることが示唆された.<BR>【結語】<BR> 肩関節周囲炎患者において、簡易型メンタルローテーション介入を行うことは、機能改善に有用である.
著者
鈴木 誠
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0188, 2004

【はじめに】現在、某中学校サッカー部にてメディカルサポート活動を行っている。試合を前にして選手が筋肉の疼痛や張り、それに伴う関節可動域や筋力の低下といった筋肉痛と思われる症状を訴えることがあり、筆者が対応している。中学生という発育の加速期でもあるこの時期には、筋肉や筋腱付着部にトラブルを起こしやすく、スポーツ障害を招きやすいという事は過去の報告にも数多くある。しかし、筋肉痛に注目した中学校サッカー選手の報告は少ない。今回の調査では筋肉痛を訴えた選手の傾向に着目した。<BR>【目的】筋肉痛を訴えてきた中学校サッカー選手の傾向を分析する。また、中学生年代のサッカー選手に理学療法士(以下、PT)が関わる際の一考察を示す。<BR>【対象及び方法】対象は、2002,2003年の2年間で某中学校サッカー部に所属していた選手46名(12歳から15歳)のうち、公式戦(5大会)及び練習試合(1試合)において筋肉痛を訴え、メディカルサポートを行なった選手5名である。当チームは2002,2003年の2年連続県大会出場の実績を有する。調査は、事前にチェックリストを作成し選手にメディカルサポートを行った際、記入した。そのリストを、筋肉痛を訴えた選手の(1)ポジション(2)部位(3)学年についてそれぞれ分類した。<BR>【結果】(1)ポジションでみると、ディフェンダー(以下、DF)が4件,ミッドフィルダー(以下、MF)が1件であった。(2)部位は、腰部が2件,大腿部が5件であった。(3)学年においては、中学3年生が4件,中学1年生が1件であった。<BR>【考察】今回の結果では、DFの筋肉痛の訴えが多く、部位は腰部から下肢に集中していた。また、中学3年生の訴えが大半を占めていた。サッカーという競技の中で、DFは守備を中心とし、ボディーバランスを保ちながらボールを奪い守備を行なわなければならず、個人対個人の局面においては自身の意志とは別の、相手に応じた動きを強いられる事が多いという動作特性がある。このような動作は、筋肉が伸張しながら張力を発揮する伸張性収縮の連続であり、これが試合中常に繰り返されていると考えられる。筋肉痛は筋肉の伸張性収縮運動時に発生すると言われている。よって、DFの動作特性から筋肉への過剰な刺激が負担となった結果、筋肉痛を誘発しているのではないかと考えられる。また中学3年生という学年は発育の加速期でもあり、骨の伸びに対し筋肉や腱の成長が伴わず相対的に柔軟性が低下する時期でもあることも、原因として考えられる。そこでPTが関わる際には、ポジションごとの動作特性を把握した上でのケアが必要であると考えられる。また、中学生年代の選手にはトレーニングはもちろんのこと、ストレッチやマッサージ、クーリングダウンといった日頃のケアの実施と啓蒙活動が必要ではないかと考えられる。今回の研究は症例数が少ないため、今後さらなる調査研究が必要だと考えられる。
著者
西村 圭二 北村 淳 白星 伸一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0333-C0333, 2007

【はじめに】不良坐位姿勢による作業は腰痛のみならず肩周囲や頸部の障害の原因となりうることを臨床上経験する.我々は先行研究において自作の腰椎骨盤固定ベルト(以下ベルト)の効果について検討してきた.その結果,ベルト装着直後,脱ベルト後において重心前方偏位と骨盤前方傾斜角度増加を確認した.そこで今回,ベルト装着による姿勢変化が頸椎運動性に与える影響ついて検討したので報告する.<BR>【対象と方法】対象は不良坐位姿勢を呈した成人9名(平均30.8±7.2歳).測定肢位は股,膝90°屈曲位で足底を接地する端坐位とし,第7頸椎(C7),第1胸椎,両耳垂,両肩峰にマーカーを付けた.また瞬間中心計測のために前後,左右,頭頂のマーカーを付けたカチューシャを自作し,通常端坐位での頸椎屈曲,伸展,側屈,回旋をデジタルビデオカメラ(SONY社製)にて撮影した.次にベルトを腰椎生理的前彎位,骨盤軽度前傾位で装着し5分後、脱後の運動を撮影した.撮影画像から通常端坐位,装着時,脱後の各可動域を計測し比較した.可動域測定は日本整形外科学会が定める改訂関節可動域表示ならびに測定法に準じた.瞬間中心は各運動において2点のマーカーの始点と終点を結ぶ線の垂直二等分線が直交する点をDartFish Software(ダートフィッシュジャパン)にてパソコン上で求め,重心線(上半身重心が位置する第9胸椎を通る垂線)と瞬間中心との距離を比較した.統計処理は反復測定分散分析を,多重比較検定にはDunnett法を用い危険率5%未満とした.<BR>【結果】伸展は通常46.3±6.7°,装着時58.4±10.0°,脱後57.3±10.1°(p<0.05),回旋は通常55.1±4.9°,装着時63.7±9.0°,脱後66.6±6.7°(p<0.05)と可動域が増加した.屈曲は通常40.7±11.6°,装着時43.5±9.3°,脱後46.1±6.7°,側屈は通常29.3±6.5°,装着時35.3±6.7°,脱後35.6±5.0°と増加したが有意差はなかった.瞬間中心は屈曲では通常5.0±2.8cm,装着時1.2±1.5cm,脱後1.7±2.3cm(p<0.05),伸展は通常4.3±2.1cm,装着時0.8±1.4cm,脱後1.4±1.2cm(p<0.01)と有意値を示し重心線に近づく傾向にあった.側屈は通常0.6±0.4cm,装着時0.5±0.7cm,脱後0.8±0.6cmと有意差はなかった.回旋は条件上計測できなかった.<BR>【考察】ベルト装着により頸椎運動が増大した.通常端坐位は頸椎が軽度屈曲位を呈し瞬間中心も前方に位置していた.骨盤後傾,腰椎後彎姿勢では頸椎が屈曲し頭部の前方並進を伴うため,伸展モーメントが高く頸部のストレスは増大する.先行研究よりベルトの効果として骨盤前傾,腰椎前彎方向への制御が容易に行えることが挙げられる.ベルトによるアライメント矯正で頸椎屈曲と頭部前方並進が減少し伸展モーメント低下が示唆され,瞬間中心が重心線付近に位置したことから頸椎運動が増大したと考える.適切な姿勢での作業は頸部ストレス軽減に繋がることが示唆された.<BR><BR>
著者
森近 貴幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P2402-C3P2402, 2009

【目的】中学生サッカークラブチームのコンディショニングを目的にサポートを行っており、スポーツ外傷予防としてストレッチングやトレーニングなどの指導を行ってきた.しかしながら、競技特性や成長期の年代であることから、予期せぬ外傷や故障が絶えないのが現状であった.サポート開始から外傷件数の減少は認めるものの、より一層の予防を図るため、一昨年度よりFIFAの提唱する予防プログラムThe F-MARC 11(以下The 11)を導入し始めた.予防プログラムの効果をさらに引き出すために、第43回日本理学療法学会で発表した前十字靭帯再建術後の高校サッカー競技選手の競技復帰の一助となったフェルデンクライス・メソッドの動きによる気づき(以下ATM)を加えた予防プログラムを開始し、その効果を検証したので以下に報告する.<BR><BR>【対象と方法】本研究について十分に説明し本人及び保護者から同意を得た当クラブチーム在籍選手(平成19年度52名、平成20年度54名)を対象に4月から9月までの6か月間のスポーツ外傷件数を前年度の同時期と比較した.10月以降は3年生の進路の関係上、人数やサポートに違いが生じていることから除外した.試合など年間スケジュールは両年とも同様で指導者も同一である.The 11は一昨年より導入しており、筋力やバランスを中心としたもので構成されている.改訂版として、昨年10月よりATMのメニューを追加し、スポーツ外傷発生件数とその内訳を比較した.なお、オスグッドシュラッター病などの慢性スポーツ障害は除外した.また、4月と9月に実施しているJFAフィジカル測定ガイドラインに準じたフィールドテストの結果もあわせて考察した.<BR><BR>【結果】19年度では全件数24件で、前年度の27件に対して1割強の減少を認めた.今回のATMプログラム導入後では17件で、前年比70%の発生件数となった.内訳では、足関節靭帯損傷や捻挫が10件から7件、大腿、下腿の肉離れや筋損傷が6件から3件と減少した.膝関節靭帯損傷、半月板損傷は3件から2件に減少したが、前年度にあった前十字靭帯損傷は0件であった.また、フィールドテストでは、アジリティテストの数値は向上したが、他の項目では顕著な向上は認めなかった.<BR><BR>【考察】前年度との比較により、ATMプログラム導入後に発生件数が減少したことから、スポーツ外傷予防に効果があったと考えられる.サッカーでの外傷はコンタクトプレー、オフ・ザ・ボールでの動きなど多彩な原因が関与している.ATMにより神経系の賦活がなされ、これらの身のこなしが変化したのではないかと考えられる.よって、従来のThe 11では補えきれなかった身体の使い方を自分自身で学ぶことができたと考えられる.今後は、県内の中学生年代の各チームにも予防プログラムを導入し、どの要素に変化をもたらしたのか詳細に検証を進めたい.