著者
真塩 紀人 平林 弦大 吉田 真一 梅津 聡 沼澤 律子 高橋 佳子 篠塚 也寸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0951-G0951, 2006

【目的】近年、医療事故や医療過誤が増える中、院内はもとより科内でもリスクマネージメントに日々取り組んでいる。我々理学療法業務に携わるスタッフの日常業務において、安全管理に配慮しながらも様々なインシデント・アクシデントは避け難い現状にある。当科ではインシデント・アクシデント発生後にレポートの記載を行っているが、その中で件数を占めた「確認ミス」「体調急変」「転倒・転落」「チューブ関連」項目に焦点を当て、その背景に関しスタッフの意識調査を実施し、傾向と関連性を把握して再発防止につながる対策案を検討したので、以下に報告する。<BR>【対象・方法】平成16年10月から平成17年10月までのスタッフからのインシデント・アクシデント報告書をまとめ、項目別分析(確認ミス、体調急変、転倒・転落、チューブ関連)、職種、経験年数のデータから関連性を検討した。また、スタッフに対して各項目ごとに今までの関与の有無、原因に加え、意識調査を無記名選択記述方式及び自由記載にて実施した。<BR>【結果】有効数は121件。PT関連は58%(70件)を占め、全体の経験年数では1年目が最も多く(38件;31%)、次いで2年目(24件;20%)、3年目(22件;18%)、4・5年目(各14件;各12%)、実習生(4件;3%)、以下6年目以上となり1年目から3年目で70%近く、経験の浅いスタッフの報告の比率が高い。項目別で最多数は、体調急変 26件(21%)、次いで確認ミス20件(17%)、転倒・転落19件(16%)。転倒に至らなかった9件を含め28件(23%)、チューブ関連16件(13%)。以上の項目で、スタッフが居ながら生じた事例によるものは、「確認ミス」19件、「チューブ関連」11件、「転倒・転落」21件であり、「体調急変」では待ち時間やリハ中に突如生じたケースが殆どである。<BR>【考察】当リハ科スタッフのインシデント・アクシデントの背景に共通した要素として、「危険回避および予見能力の不足によるもの」と、「突発な体調不良といった予見不可能なもの」とに分類された。特に注目すべきは各項目ごとに1から3年目のスタッフの占める比率が高く70%を超えており、実習生からの報告もある。「確認ミス」においては、スタッフ自身が事前に防げた事例が半数以上で、患者自身に拠る事は少ない。「チューブ関連」では、移乗動作時に管を抜去する事例が殆どである。「転倒・転落」に関しては、側を離れた、階段練習時、移乗時で発生頻度が高い。背景に、経験不足により患者の身体特性・能力の把握や観察不足が関わっていると考える。更には、経験如何に関わらず不可抗力的なものもあると考える。危うい状況を察知し、患者の日々の状態変化を見て事故を未然に防ぐ能力を身に付けることは、経験により養われることが多いと考えられる。そこでスタッフへリスクを重視した十分な教育を行ない、個々のリスク管理に対する意識・対応能力を高める事が望ましいと考える。<BR>
著者
高村 元章
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0609-Eb0609, 2012

【目的】 入院期間中を寝たきりの状態で経過し、施設や在宅などの環境に移ってから回復の方向へ転じる高齢患者に、ときとして遭遇することがある。その長い回復までの道のりにおいて、本人やその家族がどのような気持ちを抱きながら過ごしてきたかを調査した研究報告は少ない。そこで、本研究ではかつて寝たきりの状態を経験し、その状態からさらなる回復へと変化した事例を対象に、回復につながった背景要因の模索を目的として、半構造的インタビューによる聞き取り調査を実施した。それらのデータの分析において、寝たきり状態となった肉親を支える過程で生じた家族が直面した心理的不安要因の抽出と、それに対する医療専門職としての配慮すべき点について考察したので以下に報告する。【方法】 対象者の選定にあたっては、これまでに寝たきりの状態を6ヶ月以上経過し、調査時点においてその状態が改善されたか、または改善過程にあり、本研究の趣旨に同意が得られた2組の高齢者とその家族を対象とした。事例1および事例2ともに、70歳代の男性で、現在、妻と共に在宅で生活している。事例1は、アルコール依存による精神障害や重度の肝機能障害など11種類の病名を有し、病院から特別養護老人ホームを経て、退所後3年6ヶ月が経過していた。障害高齢者の日常生活自立度判定基準(以下、寝たきり度)では、ランクB2からJ1へ、要介護度は4から 要支援1へと変化し、現在はシルバー人材センターからの依頼業務等もこなせる状況にまで回復している。事例2は、結核で入院中に脳出血を発症し、回復期の病院を退院後5年5か月が経過していた。寝たきり度はランクC2からB2へ、要介護 5から4へと軽快し、現在移動の中心は車椅子であるが、週2回のデイサービスでは歩行練習に励み、他の利用者と共にカラオケを楽しんでいる。聞き取り調査の分析は、ICレコーダーに録音した音声データより逐語録を作成し、それらのデータをもとにコード化、カテゴリー分類等の質的研究の手順に準じて、その要因を分析した。今回、分析の基本として、グランデッド・セオリー(Grounded Theory Approach)の考え方を受けたロング・インタビュー法(The Long Interview)を採用した。【説明と同意】 倫理上の手続きとして個人情報の保護に関する法律(法律第57号)と「疫学研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省)に基づく同意書を作成し、本人ならびにその家族に対して十分な趣旨の理解と同意を得たのちに実施した。また、インタビュー中の会話の録音についても、事前に確認をとり録音の了解を得た上でインタビュー調査を実施した。【結果】 一連の分析手順を踏み、最終的に事例1では7つのカテゴリーと27個の註釈が得られ、事例2では7つのカテゴリーと25個の註釈が得られた。それらのうち2つの事例に共通するカテゴリーとしては、「楽しみ」、「人との交流」、「役割」、「医療や福祉環境への懐疑と不満」の4つのカテゴリーに集約されたが、家族からの声が強く反映されていたのは「医療や福祉環境への懐疑と不満」と「人との交流」の2項目であった。【考察】 家族が抱える心理的不安要因としては、「医療や福祉環境への懐疑と不満」のカテゴリーに反映されている。これは病院入院中に日常的に行われている医療者側からの無配慮な予後の告知に起因しており、2つの事例ともに今後、永続的に寝たきり状態になるとの宣告を受け、酷く落胆したという。その後も様々な専門職から「寝たきり患者」としての偏った扱いを受け続け、家族の心の傷は深まり、心理的不安は益々拡がっていたものと考えられる。しかし、その後のさらなる経過の中で、寝たきり状態から回復へと転じたという事実を振り返り、家族の気持ちはいつしか医療環境や専門職に対する懐疑や不満という形に転化されていったものと考える。その一方で、施設や在宅に移ってからの回復を後押ししたのは「人との交流」というカテゴリーに反映されており、施設職員や訪問にかかわる専門職との交流とその対応の良好さが回復につながったと感じていた。つまり、専門職は対象者や家族が抱えている心の傷という点についても、もっと敏感になるべきであり、そのかかわりを通じて心のケアにも十分配慮した対応が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 寝たきり状態となった対象者およびその家族は、長い経過において多くの専門職の対応や環境変化を通じて、様々な心理的不安要因を抱えている。本研究では、理学療法士が日常の煩雑な業務環境を乗り越えて、対象者や家族への心のケアにも配慮した専門職としてのかかわり姿勢をもつことの重要性を喚起した質的研究として意義があるものと考える。
著者
浅川 康吉 遠藤 文雄 山口 晴保 岩本 光一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1129-E1129, 2006

【目的】デイサービス施設は通所リハビリテーション施設のひとつとして介護予防機能を担っている。本研究の目的はデイサービス利用者への簡易運動プログラム提供が利用者の要介護度の維持あるいは改善に与える効果を明らかにすることである。<BR>【対象】群馬県鬼石町デイサービスセンター利用者のうち、簡易運動プログラム参加のためのコミュニケーション能力などを勘案して34名に本研究への参加を呼びかけた。このうちデイサービス利用時にほぼ毎回簡易運動プログラムに参加した者22名を簡易運動プログラム参加群、中断あるいはほとんど参加しなかった者12名を対照群とした。中断や不参加の理由が明確な者は5名で認知症の悪化などであった。簡易運動プログラム参加群の構成は男3名、女19名で、研究開始時における年齢は84.4±8.0歳であった。対照群は男4名、女8名で、年齢は86.3±7.1歳であった。要介護となった主要な原因疾患は両群ともに運動器疾患がおよそ半数を占め、他に脳梗塞や認知症が多くみられた。<BR>【方法】平成14年7月から平成16年5月までの約2年間にわたりデイサービス利用時に簡易運動プログラムを提供した。簡易運動プログラムの内容は坐位での膝伸展と上肢挙上および立位での足底屈(背伸び)と股外転の4つの種目を15分程度かけて行うものであった。運動指導はデイサービススタッフが行い、運動が困難な参加者には適宜介助を行った。簡易運動プログラム提供の効果は提供開始時(平成14年7月)と提供終了時(平成16年5月)との2時点間における要介護度の変化により判定した。統計学的検定にはカイ二乗検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】簡易運動プログラム参加群における提供開始時の要介護度は要支援が8名、要介護度1が11名、要介護2が3名であり、提供終了時はそれぞれ5名、15名、2名であった。要介護度が維持あるいは改善できた者は18名で、悪化は4名であった。対照群における提供開始時の要介護度は要支援が4名、要介護度1が3名、要介護2が2名、要介護3と4が計3名であり、提供終了時には要支援はゼロ、要介護1が5名、要介護2が2名、要介護3と4が計5名であった。要介護度が維持あるいは改善できた者は4名で、悪化は8名であった。カイ二乗検定の結果、運動プログラム参加群は対照群に比べて維持あるいは改善された者が有意に多かった(P=0.01)。<BR>【まとめ】デイサービス利用者に簡易運動プログラムを提供することは、利用者の要介護度を維持あるいは改善する効果があると考えられる。
著者
今井 克敏 相田 祐樹 塩崎 浩之 巳亦 圭子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1110-E1110, 2007

【はじめに】<BR> 平成18年度の診療報酬改定により,地域連携クリティカルパス(以下連携パス)による医療機関の連携体制が評価されることとなった.当院では,平成18年4月より,大腿骨頚部骨折術後の連携パスを地域医療機関と協力して導入している.今回,連携パスの導入前と導入後のデータを使用して,その効果と今後の課題を検討したので報告する.<BR>【対象・方法】<BR> 対象は,連携パス導入前(平成17年1月~12月)に手術目的で当院に入院された大腿骨頚部骨折患者44名(平均年齢79.2歳,男性15名,女性29名,人工骨頭置換術19名,骨接合術25名)と連携パス導入後(平成18年4月~11月)に入院された患者36名(平均年齢79.7歳,男性8名,女性28名,人工骨頭置換術15名,骨接合術21名)とした.方法は,カルテ及び連携パス用紙の記録から,在院日数,連携パス使用数,退院時の生活状態を調査した.<BR>【結果】<BR> 大腿骨頚部骨折術後の平均在院日数は,導入前が35.1日,導入後は24.9日(連携パス使用は,18.2日)であった.連携パス使用数は36名中17名(46%)であった.パス非使用の理由としては,予後良好にて転院の必要がない(2名),既往疾患の加療が必要(4名),本人・家人の希望(6名),その他(1名)であり,当院での治療が選択された.また,連携パスを使用していない施設への転院が6名あった.連携パスが終了した患者は平成18年11月8日時点で7名おり,いずれも受傷前生活に近い状態で退院されている.<BR>【考察】<BR> 連携パスを使用することで平均在院日数の短縮が可能となっている.しかし,連携パスの使用は全体の半分以下であり,この原因として後方支援施設が2箇所だけであること,早期転院の意義について患者に十分な説明がされていないことが考えられる.現時点ではパスの使用期間が短く,連携パスの完結例はまだ少ない状態であるが,退院した患者のほとんどが受傷前生活獲得という目標を達成できている.この結果は,転院先施設での訓練継続の成果と考えられる.<BR>【まとめ】<BR> 連携パスの導入により,在院日数の短縮がみられた.また,転院した患者は受傷前生活獲得という目標を達成して退院することができている.今後の課題としては,連携パスに参加していただける医療機関を増やすこと,転院の意義について十分な説明を患者に行うことで,パスの使用数を増やしていきたいと考える.<BR>
著者
鶴卷 俊江 前島 のりこ 丸山 剛 岸本 圭司 清水 朋枝 石川 公久 吉田 太郎 江口 清
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1298-B3P1298, 2009

【はじめに】現在、脳性麻痺失調型の診断でフォローしているが、幾多の臨床所見より進行性疾患が疑われる患者を担当している.今回、麻痺性側彎症の術後リハビリテーション(以下リハ)を経験する機会を得たので、若干の考察を加え以下に報告する.<BR>【症例】14歳 女児 特別支援学校寄宿舎生活中.身体機能は側彎症、鷲手様変形、Joint Laxityあり.GMFCSレベルIII.移動は施設内外車いす自走、自宅内では殿部いざり.両側感音性難聴のため、コミュニケーションは手話および読唇法にて実施.<BR>【現病歴】1歳3か月、発達遅滞指摘され来院.脳性麻痺失調型の診断にて理学療法開始.独歩3歳.小学4年生で凹足に対し手術施行.以後介助歩行レベルとなり車いす併用.中学2年まで歩行器見守りまたは一側腋窩介助での歩行レベルであったが、徐々に歩行能力低下および脊柱側彎増悪.本年2月側彎症の手術実施.<BR>【経過】FIMで術前94点、術後53点、現在91点とセルフケア・移乗・移動で変動がみられた.中でも最大の問題点は、退院後の学校・寄宿舎生活での介助量増大であった.そこで連絡ノートや訪問による環境調整などで教員と連携をとり動作および介助方法の変更を検討・指導した.今回、術後一時的に動作能力は低下したが、退院後週3回の外来リハの継続により動作の再獲得に至った.また、生活の中心である学校・寄宿舎生活を支援する教員・介助員等との連携によりスムースに日常生活に復帰することが出来た.しかし、その反面歩行能力の改善に時間を要し、術後8カ月現在においても介助歩行は困難.訓練レベルの歩行であるため、学校内での安全性を考慮し歩行器をメイウォークに変更した.なお、13年間の経過をカルテより後方視的にGMFMを用い比較すると、9歳時58.09点から現在44.79点、GMFCSレベルも_II?III_へ悪化していた.<BR>【考察】経過からFriedreich失調症が疑われる症例である.脊髄小脳変性症など失調症に対するリハは機能維持だけではなく改善効果もあることが報告されている.本症例も術前生活と同程度まで改善が認められた.しかし、症状は徐々に増悪し、安全に学校生活を送ることは困難となってきている.今回は学校との連携により、リハと同一方法で日常生活動作を行うことで動作再獲得の時間は短縮出来、さらには日常生活の汎化につながったと推察する.教育との連携により達成できたと思われる.さらに、本児が進行性疾患であれば、今後どのように本人家族を支援していくかが課題となる.学校という集団生活の中でどこまで活動させることが良いことなのか、学校での支援体制、本人家族の願い、客観的機能および環境評価を考慮した上で現在の連携をすすめていくことが肝要と推察する.
著者
山口 賢一郎 丸岡 弘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1372-DbPI1372, 2011

【目的】肺炎は本邦における死亡原因の第4位であり,高齢になるほど死亡率は上昇する.また肺炎が治癒しても,二次的な身体機能の低下は著しく,日常生活動作(以下,ADL)の低下を避けられない症例も多い.理学療法分野における肺炎症例を対象とした報告には,ADLの低下や入院期間,再入院率に関する因子の検討がなされており,早期介入の重要性が示されている.しかし,臨床データに基づく重症度別,合併症有無別の離床の特徴や遅延因子,標準的な理学療法介入プログラムの検討については明らかでない.そこで本研究の目的は,前方視的な臨床データの収集・分析により,市中肺炎診療ガイドラインで用いられる重症度分類を用いた離床の特徴・傾向性を明らかにする.そして離床に関わる遅延因子の抽出や肺炎症例における理学療法の介入時期に関わる検討を行うこととする.<BR>【方法】対象は,平成22年6月から10月までの間にA病院(以下,当院)内科病棟に市中肺炎の診断で入院加療を要し,安静臥床から離床を目的に理学療法介入があった17症例とした.入院前ADLがベッド上のみである症例は除外した. 臨床データは,診療録や検査データより前方視的に収集した.測定項目は,基本情報(年齢,性別,身長,体重,BMI),Functional Independence Measure(以下,FIM)による ADL評価,Pneumonia Severity Index(以下,PSI)による肺炎の重症度(合併症の有無を含む),臨床検査所見(腎機能:Cre・BUN,心機能:LVEF・BNP,造血機能:Hb・Hmt,栄養状態:Alb・TP,炎症値:CRP,WBC血液ガス:P/F ratio),画像所見,臨床所見(喀痰,人工呼吸器使用の有無),経過期間(安静臥床期間,端坐開始期間,車椅子乗車開始期間,抗生剤開始期間)とした.臨床検査所見,画像所見は医師の指示のもと検査技師,放射線技師により実施された.理学療法介入は,主治医が定める安静度に準じ,中止基準を統一した.プログラムは,呼吸理学療法(排痰介助,胸郭可動域練習),四肢・体幹のリラクセーション・ストレッチ,筋力維持・改善練習,基本動作練習(寝返り,起居移乗動作練習),座位耐久性練習を実施し、中止基準に準じて可及的速やかな車椅子乗車獲得を目指した. 離床を決定するアウトカムは,Mundyらによる先行研究より,「入院から連続して20分以上の車椅子乗車が可能となるまでの期間(以下,離床期間)」とし,重症度による離床の特徴や測定項目より遅延因子を統計学的に抽出した.統計には,統計ソフトSPSS15.0Jを用いて,離床期間と各測定項目との相関関係(Spearmanの順位相関係数)と,離床期間の中央値により早期離床群・遅延群とに分け,群間比較(Mann-WhitneyのU検定,χ<SUP>2</SUP>独立性の検定)を行った.いずれも有意水準は5%(p<0.05)とした.<BR>【説明と同意】対象者,もしくは代理人に研究の目的・方法を書面,口頭にて説明し,署名にて同意を得た.また倫理的配慮に関しては,ヘルシンキ宣言に則った当院倫理委員会の承認を得た.<BR>【結果】対象者のPSIは,class III:4例,class IV:3例,class V:10例であり,それぞれの離床期間は6.8±2.2日,9.0±5.0日,18.0±11.4日であった.離床期間と各測定項目との検定では,安静臥床期間(r=0.64,p<0.01),端坐開始時期(r=0.54,p<0.05),PSI(r=0.59,p<0.05),motor FIM低下率(r=0.66,p<0.01)において,有意な正の相関が示された.また早期離床群,遅延群との比較では,両側肺野の浸潤影(p<0.01),腫瘍性疾患の合併(p<0.05)が独立した遅延因子として示された.その他の基本情報,臨床検査所見に有意差は見られなかった.<BR>【考察】本研究では,上記測定項目において離床期間との相関を示した.前本らは,高齢肺炎症例のADL低下に影響を与える因子に,安静臥床期間,重症度,精神症状及び誤嚥を挙げ,早期からの理学療法介入による離床の重要性を示しているが,本研究においてもこれを支持する結果となった.また離床期間に関連していると思われた臨床検査所見に有意差が見られなかったことから,理学療法開始の判定指標としての各種臨床検査所見は,リスク管理下での早期介入の妥当性を示唆するものと考えらえた.当院での肺炎症例における理学療法介入時期は7.8±6.1日と個人差が大きく,瀧澤らよって示された早期介入(1.9±1.3日)と比較して差があることから,今後は本研究での遅延因子(両側肺障害,腫瘍性疾患の合併)を含めてハイリスク症例をスクリーニングし,中長期的な予後も含めた早期介入効果の検討を行うことが課題である.<BR>【理学療法学研究としての意義】臨床データの前方視的蓄積によって重症度別の離床の特徴や早期離床の遅延因子を示すことは,エビデンスに基づく離床基準,標準的理学療法プログラム作成の一助となりうる.
著者
井上 義文 居倉 裕子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1400-EbPI1400, 2011

【目的】<BR> 当施設では、理学療法士の個別の関わり方には限界があるため、より多くの利用者にリハビリテーションを提供するために、集団体操を行っている。集団体操は、画一的かつマンネリ化しやすいという側面があるため、これの活性化を図るために、平成21年8月より音楽を取り入れた集団体操を試みた。今回は、集団体操に音楽を介入させたことによる利用者の参加状況の変化について報告し、集団体操の特性および可能性について考える機会としたい。<BR><BR>【方法】<BR> 入所者に対し、運動機能の維持・向上および運動機会の確保を目的に行っている集団体操(2回/週、20~30分/回)に、音楽を介入させる。音楽の介入方法は、以下の通り。理学療法士1名は、インストラクターとする。季節感や記憶に作用するような話を交えながら、運動量を調節しつつ、集団体操の進行役を務める。もう1名の理学療法士は、運動の動きやテンポに合わせ、利用者の反応に応じたピアノ伴奏を行う。体操中の伴奏は、運動の動きやテンポに合わせた伴奏と、利用者の好みに合わせたものや季節感をとりいれた曲を演奏し、利用者が歌いながら体操をする場面もある。使用器具として、電子ピアノ(カシオ社製Privia PX-120)を用いた。集団体操への参加状況については、各階毎に、音楽導入前後の10回について、利用者の反応を「自発的に参加」「促しにより参加」「拒否」「無関心」の4つに分類し、比較した。また、集団体操に関わったことのある介護職員を対象に、音楽導入前後の利用者の集団体操時の様子について、アンケート調査を行い、「良くなった」「変わらない」「悪くなった」から答えを一つ選択し、また、気づいた点を自由記載してもらった。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 利用者・家族には、リハビリテーション実施計画の説明とともに、本研究について十分な説明を行い、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 2階入所者(平均要介護度;3.1)は、10回の延べ参加人数合計は、音楽導入前:218人、音楽導入後:248人。音楽導入前の反応は「自発的」:142人・65.1%、「促し」:41人・18.8%、「拒否」:13人・6.0%、「無関心」:22人・10.1%。音楽導入後の反応は「自発的」:179人・72.2%、「促し」:32人・12.9%、「拒否」:12人・4.8%、「無関心」:25人・10.1%。職員アンケートの結果は、「良くなった」:9名・81.8%、「変わらない」:2名・18.2%、「悪くなった」0名・0%であった。3階入所者(平均要介護度;3.6)は、10回の延べ参加人数合計は、音楽導入前:291人、音楽導入後:278人。音楽導入前の反応は「自発的」:151人・51.9%、「促し」:61人・21.0%、「拒否」:25人・8.6%、「無関心」:54人・18.5%。音楽導入後の反応は「自発的」:168人・60.4%、「促し」:50人・18.0%、「拒否」:21人・7.6%、「無関心」:39人・14.0%。職員アンケートの結果は、「良くなった」:12名・100%、「変わらない」:0名・0%、「悪くなった」0名・0%であった。以上の結果から、概ね、利用者の反応が良い方向へ変化したことが確認できた。<BR><BR>【考察】<BR> 昨今、高齢者が音楽で得られる効果には、様々な報告がある。それは、身体的、生理的、心理的、社会的(対人)なプラス効果である。今回、集団体操にピアノ伴奏を取り入れたことで利用者の反応が良好となり、参加状況が改善した。これは、ピアノ伴奏の意味合いは、バック・グラウンド・ミュージック的なことではなく、利用者の反応や体操の内容に合わせてピアノ伴奏することが、利用者の興味をひき、このような結果につながったと思われる。また、随時、テンポや音の強弱の調整が可能であるため、体操の内容にメリハリがつき、利用者が最後まで集中して参加したり、歌に合わせて体操したりすることで、あまり疲労感を感じることなく、運動量を確保できた。コミュニケーションの観点からも、音楽を介入させることにより、理学療法士側の非言語メッセージ(顔の表情、声の表情、身ぶり等)が強調され、利用者と良好な関係性を築き、活気ある集団体操となった。当施設の「集団体操」の主目的は「より多くの利用者を対象に、身体機能維持・向上のために、効率よく効果的に運動させること」であったが、音楽を取り入れたことにより、様々なプラス効果が得られ、体操の内容だけではなく、導入や進行方法も再考するいい機会となった。今後も、理学療法士の専門性、音楽のもつ特性、そして集団体操という環境条件を生かしながら、今後は当施設のオリジナルとなるよう、さらに工夫を重ねていきたいと思う。<BR> <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 音楽を介入させることで、集団体操を活性化することが出来た。音楽の特性を生かしながら、理学療法士の専門性を発揮することの重要性が伺えた。
著者
荻原 啓文 荒木 海人 上村 麻子 金内 理江 江口 勝彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CdPF2042-CdPF2042, 2011

【目的】<BR> 野球やサッカーなどでは,ガムを噛みながら競技を行っている選手を見ることがある.ガム咀嚼が脳血流量を増大させる,あるいはガム咀嚼により覚醒水準が上昇したなどの報告があるが,その結果として運動パフォーマンスにどのような変化をもたらすのであろうか.本研究の目的はガム咀嚼が単純反応時間に及ぼす影響を明らかにすることである.先行研究から,中枢神経への影響であるると推察される.我々は,「反応時間,なかでも中枢神経処理過程を反映しているといわれているpremortor time(以下PMT)を短縮させるのではないか」という仮説をもとに,ガム咀嚼時の,光刺激に対する単純反応時間を検討した.<BR>【方法】<BR> 対象は健常若年成人男性20例(平均年齢22.1歳±1.4)であった.条件1)何も口に含まない,条件2)ガム(エクササイズ・キシリトール ロッテ社)咀嚼,の二条件で光刺激に対する膝伸展を課題として単純反応時間の測定を行った.被験者を足底が床に着かない高さで背もたれつきの椅子に座らせ,右踵部と椅子脚前面に電極を付け右膝関節伸展運動の指標とした.さらにEMGシステムPTS137(Biometrics社)を用い右側大腿直筋より筋電図を導出した.被験者の右前方に配置した光刺激装置の発光部から予告合図なしで単色光を発光させ,刺激に対し素早く膝関節を伸展させた.光刺激,筋電図,関節伸展運動の信号を同期させA/D変換器PowerLab16/30(ADInstruments社)を経由しパーソナルコンピューターに取り込んだ.また,条件2では先行研究に従い,鼓膜温をガム咀嚼前と咀嚼10分後に測定し,脳血流量の指標とした.条件1,2の測定順序はランダム配置にて行った.光刺激から関節運動が起こるまでの時間を反応時間(reaction time,以下RT),光刺激から筋活動が生じるまでの時間をPMT,筋活動から関節運動が起こるまでの時間をmortor time(以下MT)とした.<BR> 得られたデータは,統計解析ソフト(JMP5.0.1,SAS Insti.)を用い,単純反応時間は条件1,2について,鼓膜温はガム咀嚼前後での測定値について,それぞれ対応のあるt-検定を用い分析した.有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象は,本研究の目的・方法・参加による利益と不利益などの説明を十分に受け,全員自らの意思で参加した.また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,卒業研究倫理審査により承認され実施した.<BR>【結果】<BR> RTは条件1(180±20msec),条件2(177±18msec)と,条件間による有意な差はなかった(p=0.68).PMTは条件1(117±17msec),条件2(112±18mesc),MTは条件1(63±16msec),条件2(65±15msec)と,それぞれ条件間による有意な差はなかった(p=0.84,p=0.27).鼓膜温は,条件1(摂氏35.6度±0.4),条件2(摂氏35.8度±0.4)と,条件間に有意な差を認めた(P=0.003).<BR>【考察】<BR> 一般に鼓膜温は脳循環の内頚動脈温を反映する深部体温であるとされている.塩田<SUP>1)</SUP>はガム咀嚼は脳血流量を増加させ,覚醒レベルを上げると報告している.本研究では,ガム咀嚼前に比べ咀嚼後の鼓膜温は有意に上昇したことから,脳血流量が上昇したと考える.<BR> 一方,条件1と条件2の単純反応時間に有意な差は認められなかった.佐橋<SUP>2)</SUP>は,「ガム咀嚼は認知的機能を亢進させ,反応時間の短縮をさせると考えられる」と報告している.また,佐藤<SUP>3)</SUP>は,光と音刺激による「ジャンプ動作」および「ボタン押し」課題による身体運動反応時間について報告しており,ガム咀嚼前後で差は無かったとしている.本研究でも脳血流量は増加したものの,RT,PMT,MT共に短縮しなかった.<BR> 本研究の結果より,ガム咀嚼は脳血流量は増加せしめるが,反応時間は短縮させないことが明らかになった.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> ガム咀嚼による運動パフォーマンスへの影響を明らかにすることにより,スポーツ競技のみならず,広く応用できる可能性がある.<BR>【文献】<BR>1) 塩田正俊・他:ガム咀嚼による脳覚醒が運動パフォーマンスに及ぼす影響,体力科学. 58(6) : 852, 2009.<BR>2) 佐橋喜志夫:ガム咀嚼が事象関連電位に及ぼす影響,歯科基礎医学会,46(2) : 116-124, 2004.<BR>3) 佐藤あゆみ:ガム咀嚼が身体運動反応時間へ及ぼす影響,東京歯科大学歯科衛生士専門学校卒業研究論文集,20, 2008.
著者
川崎 永大 富樫 結 小林 武司 佐藤 惇司 山本 優一 藤田 貴昭 蛯名 葉月 大河内 香奈 佐藤 達夫 大槻 剛智
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1421-EbPI1421, 2011

【目的】<BR> 日本人の死亡因子の上位である脳卒中は、心筋梗塞の発症率と比較し高い罹患率にある。また、脳卒中後の後遺症は健常者と比較し転倒リスクを高めるため、内・外的因子を踏まえた上で介入方法を随時検討する事は周知の通りである。<BR> 脳卒中後の後遺症により歩行障害を呈した対象者の足関節背屈機能の低下は特徴的で、歩行能力低下の一因子となる。麻痺側下肢の足関節背屈機能の低下は、麻痺側立脚期の前方推進力を非効率的なものとし、健側下肢は各動作において多彩なパフォーマンスが要求され努力的な歩行を強いられる。<BR> そこで、本研究では慢性期脳卒中患者を対象とし、足関節背屈機能の代償が期待される転倒予防靴下の有効性をこの場にて検証した。<BR>【方法】<BR> 慢性脳卒中患者7名(年齢62~86歳 男性4名 女性3名 発症期間3.0±1.2年 Stroke Impairment Assessment Set平均52±9点)を対象とした。明らかな高次脳機能障害や足関節拘縮が認められず杖を用いれば監視下にて歩行可能な対象者とし装具は装着していない。<BR> 検査者は対象者の10m最大歩行を自覚的な疲労に応じ1~3回実施し、裸足、市販靴下+ルームシューズ、転倒予防靴下+ルームシューズの3条件で異なった歩行様式から歩行時間と歩数を記録した。<BR> 統計処理として対象者の歩行時間と歩数をFriedman検定および多重比較試験(Bonferroniの不等式)にて統計処理を行い有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> すべての対象者には、慢性期脳卒中患者を対象とした研究と説明した上でヘルシンキ宣言に則り書面にて同意を得ることができている。<BR>【結果】<BR>10m最大歩行は平均値にて裸足22.8±10.4秒、市販靴下+ルームシューズ22.8±9.3秒、転倒予防靴下+ルームシューズ18.7±9.3秒となり、裸足と転倒予防靴下+ルームシューズの間に有意差が認められた(p<0.01)。平均歩数は裸足28±4歩、市販靴下+ルームシューズ28±5歩、転倒予防靴下+ルームシューズ27±5歩となり裸足と転倒予防靴下+ルームシューズの間で有意差が認められた(p<0.01)。<BR>【考察】<BR> 片麻痺患者の歩行特性の一つとして、歩行時の足関節背屈機能の低下が問題とされる。転倒予防靴下は健常成人を対象とした研究において、歩行または段差昇降における高いtoe clearanceを保ち足関節の背屈機能を代償するとされている。<BR> 本研究では3種類の条件が異なった歩行において転倒予防靴下+ルームシューズの組み合わせが最も高い歩行能力を発揮した。歩行時の足関節背屈機能の改善は、床反力の前後成分を変化させ、床反力の制動成分を減少し、立脚初期より後方に位置する身体重心を効率よく前方へ推進させ全体的に歩行時間及び歩数の減少に至ったと考える。しかし、その他の群間検定においては有意差がみられなかったが、持参していただいたルームシューズの素材や形態が異なり、靴着用時に足部より受ける床反力を定量化できなかった事が問題であり今後の検討課題としたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 転倒予防靴下は脳卒中患者の足関節の機能を代償し歩行能力を改善させるため、リハビリテーションのみならず屋外歩行での積極的な利用が進められると推察される。
著者
佐々木 祥 渡邉 誠 奥山 夕子 登立 奈美 木下 恵子 寺西 利生 園田 茂
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb0533-Bb0533, 2012

【はじめに、目的】 2006年度診療報酬改定により、回復期リハビリテーション病棟における訓練単位数の1日上限が9単位に引き上げられた。我々は回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者において、診療報酬改定前の2005年度より、改定後の2008年度の方がADL改善効果が高いことを示してきた。これらの報告はFunctional Independence Measure運動項目(FIM-M)の総得点での比較であるが、FIM-Mは項目毎に難易度が異なることが報告されており、それによる訓練効果も一様でないことが予測される。そこで、今回我々は脳卒中片麻痺患者の訓練量増加がFIM-M各項目に与える影響について検討したので報告する。【方法】 対象は当院回復期リハビリ病棟に入・退棟した60歳以上の初発脳卒中片麻痺患者のうち保険診療上の訓練量が1日上限6単位であった2005年4月1日から2006年3月31日までの211例と、1日上限9単位であった2008年4月1日から2009年8月31日までの304例である。入棟期間中の1日平均訓練単位数を算出し、STを除くPTとOTの単位数が5から6単位であった1日上限6単位の症例を6単位群、7から9単位であった1日上限9単位の症例を9単位群とした。発症から当院入棟までの期間が60日以内、訓練に支障をきたす重篤な併存症がなく入棟中に急変増悪しなかった患者に限定し、最終的な対象者は6単位群73例、9単位群76例であった。性別は6単位群で男性46名、女性27名、9単位群で男性38名、9女性38名であった。原疾患は6単位群で脳梗塞39名、脳出血34名、9単位群で脳梗塞41名、脳出血27名であった。年齢、発症後期間、在棟日数、FIM-M項目毎の入・退棟時得点、FIM-M項目毎の退棟時得点から入棟時得点を引いた値(FIM-M利得)を2群間で比較した。統計は年齢、発症後期間、在棟日数にはt検定を、各項目の入・退棟時FIM-M得点とFIM-M利得にはマン・ホイットニーU検定を、性別、原疾患にはカイ2乗検定を使用した。有意水準はp<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 患者情報の学術的使用に関する同意は入院時に書面で確認した。【結果】 6単位群、9単位群の順に年齢71.7±6.3歳、70.6±6.5歳、発症後期間33.5±12.1日、31.9±13.0日、在棟日数60.9±26.8日、61.2±26.6日であり、2群間の差は認めなかった。各項目の入棟時得点は移乗(浴槽・シャワー)で9単位群の方が有意に高かったが、他の項目では差がみられなかった。退棟時得点は食事と階段で差がみられなかったが、他の項目では9単位群の方が有意に高かった。各項目のFIM-M利得は排尿・排便コントロールでは差はみられなかったが、その他の項目では9単位群の方が有意に高かった。【考察】 本研究では、脳卒中片麻痺患者の訓練量増加によるFIM-M項目別の改善効果を検討した。川原ら(2011)は訓練量を増加することでFIM-Mを改善させると報告している。今回のFIM-M項目別検討においても、訓練量を増加した方が全体的にFIM-Mは改善する傾向を示しており、特に4項目以外(食事、排尿・排便コントロール、階段)の項目で高い改善を示した。辻ら(1996)は脳卒中障害者のFIM-Mの自立度は排尿・排便コントロール、食事で高く、階段で低いと報告している。今回、食事の退棟時得点、排尿・排便コントロールのFIM-M利得で有意差がみられなかった理由として、FIM-M項目の中では比較的低難易度で自立しやすい項目であり天井効果が働いたことが挙げられる。階段の退棟時得点で有意差がみられなかった理由として、階段は入院時から平均得点が低く、FIM-M項目の中で高難易度であることから、床効果が働いたのであろう。以上より、訓練量増加はFIM-M各項目を全体的に改善させることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により、理学・作業療法の訓練量増加がどのADL項目に影響を及ぼすか検証することができた。今後はどの訓練内容が効果的であったかなど、質的な検討が必要である。
著者
宮川 博文 稲見 崇孝 井上 雅之 小林 正和 西山 知佐 大須賀 友晃 本庄 宏司
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O2127-C3O2127, 2010

【目的】愛知県理学療法士会健康福祉部は平成17年より、地域住民の健康増進、スポーツ傷害の予防と改善を目的に県内行政機関と連携をとり、スポーツ傷害講座を年1回開催している。平成20年度はスポーツ傷害の発生機序からの予防対策に注目し、小・中学生バスケットボールチームを対象にバスケットボール女子日本リーグ機構(以下WJBL)外傷予防プログラムの紹介を中心に講座を開催した。今回の研究の目的は小・中学生に対するWJBL外傷予防プログラム(以下プログラム)の有効性、問題点をアンケート調査及びプログラム紹介後の実施状況より検討することである。<BR>【方法】対象はN町小学生(以下ミニ)・中学生(以下ジュニア)バスケットボールクラブチーム女子選手38名(ミニ17名:平均年齢10.7±1.1歳、ジュニア21名:平均年齢14.0±0.9歳)、保護者22名、指導者3名の計63名である。尚、競技レベルはミニがA県大会出場レベル、ジュニアは東海大会出場レベルである。プログラムは膝前十字靭帯(以下ACL)損傷、足関節捻挫など下肢の外傷予防を目的に2007年日本臨床スポーツ医学会、国立スポーツ科学センター、WJBL所属チームのトレーナーによって作製された。その内容は1.筋力(下肢・体幹筋)、2.バランス、3.ジャンプ、4.スキルの4項目で、それぞれベーシック(高校生、大学生)、スタンダード(大学生上位・実業団)、アドバンス(WJBLトップ選手)の3段階より構成されている。今回は体育館を会場とし、ベーシックを中心としたプログラムを6名のスタッフ(理学療法士3名、トレーナー1名、理学療法士養成校学生2名)による講義及び実技にて紹介した。<BR>アンケートはプログラムの紹介後に会場内で調査用紙を配布し、記入後その場で回収した。アンケート内容は以下の5項目である。1)下肢外傷の既往歴:医療機関で診断された外傷、2)プログラムがどの程度できたか:自覚的達成率、3)プログラムで最もケガの予防に役立つと思われる項目は何か、4)プログラムを通常の練習に取り入れたいか、5)プログラムを練習に取り入れる場合、何分が適当か、尚、プログラム紹介後に実施状況を調査した。<BR>【説明と同意】アンケート調査の説明はスポーツ傷害講座終了後、全対象に行い、同意の上で調査の協力を得た。<BR>【結果】回答数は63件で回収率は100%であった。1)下肢外傷の既往歴:ミニ期での発生は足関節捻挫3件、足関節骨折1件、ジュニア期は足関節捻挫8件、足関節骨折3件、ACL損傷2件であった。2)プログラムの自覚的達成率:筋力はミニ72.1、ジュニア79.8%、以下同様にバランスは69.1、78.6%、ジャンプは76.5、81.0%、スキルは67.6、82.1%であった。 3)プログラムで最もケガの予防に役立つと思われる項目:ミニは筋力とジャンプ、ジュニアはジャンプであった。4)プログラムを通常の練習に取り入れたいか:対象全員が取り入れたいと回答した。5)プログラムを練習に取り入れる場合の時間:最も回答の多かった時間はミニ15、ジュニア20、保護者20、指導者10分であった。プログラム紹介後の実施状況:紹介後4ヵ月での実施状況は、ミニはジャンプ、スキルの一部、ジュニアは筋力、ジャンプの一部が実施されるのみで、プログラムは通常練習に十分に取り入れられていなかった。<BR>【考察】ミニ・ジュニア選手に対するプログラムのスポーツ現場への導入は、ジュニアを中心に下肢外傷が多数発生していること、ベーシックを中心としたプログラムがミニ約70%、ジュニア約80%の自覚的達成率で実施可能であること、選手、保護者、指導者全てが通常練習への導入を希望していること等から早期に実現すべきと考える。しかし、スポーツ現場への導入は今回紹介したスポーツ傷害講座の開催による現場指導者や選手へのスポーツ外傷予防に対する理解を得るのみでは困難であった。スポーツ現場への導入にはそれに加えてプログラムの実施が現場のスポーツ活動の妨げにならず、さらに競技力向上につながるプログラムメニューの工夫が必要であり、我々理学療法士がスポーツ現場に足を運び指導者、選手と意見交換を重ねメニューを作成することが必要不可欠と考える。具体的には1)プログラムの実施時間は10~15分とする、2)プログラムの内容はウォームアップメニューとしてリズミカルでチームの士気を高め、さらにサーキット形式、ボールを使った形式など実践に近いメニューも取り入れる等の工夫が必要と考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】スポーツ現場は外傷予防に強い関心を持っているがその導入に至っていないのが現状である。外傷予防プログラムの内容、導入方法等の検討はスポーツ傷害の発生機序からの予防対策として重要であり、理学療法学研究としての意義は高いと考える。<BR>
著者
新村 秀幸 佐藤 優也 北 潔
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2193-CbPI2193, 2011

【目的】<BR> 脛骨大腿関節(以下膝関節)は大腿骨内側の関節面が外側に比べて大きく、蝶番関節という形状特性から屈曲・伸展に加え、内外旋が生じることが知られている。関節内運動についての研究も多く、屈曲90°あるいは120°までの報告が散見できる。しかし、洋式・和式といった文化の違いや趣味活動などによっては120°以上の関節可動域(以下ROM)も必要とされる機能である。国による生活背景の違いから、欧米における報告の多くは膝関節屈曲90°あるいは120°までのものがほとんどであり、150°に至るまでの報告はわずかしか見られない。その中でNakagawaら(2000)は健常若年者20名で脛骨に対する大腿骨の運動を最大屈曲位(164±4°)でMRIから運動学的に分析した。またLiら(2004)は13死体膝に対して、脛骨を移動させ屈曲角度を150°まで増やしながら関節内運動を観察した。これらはいずれも脛骨の内旋が確認されるものの、疾患との関連や可動域制限への影響は述べられていない。そこで膝関節屈曲運動および膝疾患と下腿内旋の関連を明確にするため、変形性膝関節症(以下OA)膝と健常膝で内旋の影響を検討した。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は整形外科外来通院患者41名(79.0±6.6歳)、64肢で、このうちOA膝は50肢、健常膝は14肢であった。OA症例は Kellgren-Lawrence分類II~IIIでIVが1肢であった。強直および膝屈曲90°未満での可動域制限のある症例、または強い炎症を有する症例は除外した。対象者へは日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の測定法(1995)に準じてゴニオメーターで膝関節屈曲ROMを測定した。測定後、対象者をOA膝内旋群(IR群)、OA膝外旋群(ER群)、健常膝外旋群(NER群)に分けて介入を行い、再度屈曲ROMを測定した。測定時はバイアスを防ぐため、アイソフォース GT-300(オージー技研社)を用いて他動運動の強さを一定(1kgf)とした。測定結果から介入前後の平均可動域で、3群の比較検討を行った。介入は屈曲90°から脛骨の内旋または外旋を加えて屈曲させ、痛みを出現させない範囲で運動が止まるまで行った。介入前後の平均可動域の比較にはPaired t-testを、3群間での差の比較にはANOVAを用い、Tukeyの多重比較を行った。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究はヘルシンキ宣言に則って計画され、対象者は本研究の主旨を説明し、同意を得ることのできた者のみとした。また、全対象者は診療の範囲内で行い、測定終了後は内外旋のうち可動域の良い方で終了した。<BR><BR>【結果】<BR> OA膝ROM制限の程度はKellgren-Lawrence分類との関連は認めなかった。膝屈曲ROM(介入前/後)はIR群で129.6±9.1°/137.41±9.4°(p=0.0002)、ER群で134.6±13.8°/131.3±13.3°(p<0.0001)、NIR群では143.2±8.9°/147.1±8.3°(p=0.0002)であり、IR群、NIR群は介入後にROMが有意に増加、ER群は有意に減少した(paired t-test)。ROMの変化量の平均値も3群間それぞれで有意差を認めた(ANOVA ; Tukey's HSD)。<BR><BR>【考察】<BR> IR群・NIR群とも90°以上の屈曲時に下腿を内旋させることで関節可動域の改善を認め、外旋を行ったER群では可動域が低下した。これは今回介入した内旋および外旋の影響であるといえる。Liらは膝屈曲120°で脛骨の内旋が8.1°、150°屈曲で内旋が11.1°起こることを報告しており、これらは本研究から臨床でも十分に活用できるものであることが示唆された。また、外旋させるのみで可動域が悪化することからも、関節内の運動が可動域に与える影響は少なくはないことが容易に推察される。健常膝・OA膝とも下腿内旋で改善したことは、健常とされている膝にも下腿の内旋障害が存在している可能性を示した。改善された膝屈曲ROMの変化量は健常膝に比べOA膝でより著明であり、このことからも元々存在した関節内運動の障害にOAが加わることで、可動域制限をより助長していることが推察される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> OA患者のROM制限は、整形外科疾患の中でも多く携わる症候の一つである。今回の結果より、下腿内旋が可動域制限の治療として有効であることが示唆された。また、OA膝の可動域制限には病態変化によるものだけでなく、下腿の内旋障害もその一因であったといえる。これらからOAによる可動域制限の治療方法や治療の順序などが新たに確立できる可能性が示される。
著者
辻野 綾子 平山 哲 佐川 史郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3217-E4P3217, 2010

【目的】<BR> 当院は施設に入所されている知的障害児者を対象にリハビリを提供している。対象者がリハビリを理解し意欲的に進めていくためには知的能力の十分な発達が必要であり、知的能力の発達状況によりリハビリの内容や方法、到達点を特段考慮せざるを得ないことが多い。また知的障害以外に様々な問題を抱えているためにリハビリそのものを実施できないことも多く、特に生育過程で不適切な養育を受けた場合には、リハビリを実施する以前の段階で考慮しなければならない点が非常に多い。そのような経験を持った対象者に接する際には十分な準備と注意を要する。乳幼児期に虐待を受けた経験のある知的障害を伴った多発骨折患者の症例を経験したので、それらの特性を踏まえて報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 対象者は児童施設に入所中の17歳男性で、基礎診断は知的障害と反応性愛着障害。学校校舎より転落、両足部を含む多部位骨折を受傷し外科的治療後当院へ転院。両足部を外科的固定された段階でリハビリ開始される。基礎診断に特異な問題のある対象者に対するリハビリの実施方法を事前検討し、実施内容や経過を後方視的に検証した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者には今回の発表内容や形式について説明し同意を得た。また本児の処遇担当職員(児童施設の職員、ワーカー)を通じて家族の承諾を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 受傷後5週目より両足部ギプス固定のため患部外トレーニングを中心に実施した。対象者の知的能力にあわせたセラバンドを用いた自主トレーニング(自主トレ)を作成し開始。シャーレ固定になり次第、患部のROMexや筋力トレーニング開始し、タオルギャザー(自主トレにも追加)も開始する。受傷後8週目には左足は足底板装着による全荷重許可され、右足は1/3荷重より開始となり立位訓練に移行。体重計を用いての荷重量の学習ができてから歩行訓練を平行棒内より開始し松葉杖歩行へ移行。受傷後9週目に全荷重松葉杖歩行が可能となり当院を退院し週3日の通院リハビリを開始。同時に施設職員との連携も行い施設内での自主トレも同じように進めていった。徐々に松葉杖歩行は安定してきたものの跛行があった時期には片松葉杖歩行の訓練を行い、跛行消失後の受傷後6カ月目より独歩での日常生活開始。受傷後9カ月目には通院リハビリ終了し部活動も再開した。<BR><BR>【考察】<BR> 受傷前の生活レベルの獲得までに9ケ月を要したが、知的障害児であったことを考慮すれば順調にリハビリが進んだものと考えられた。知的障害児は同年代の子どもに比べ知識や技能を有用に活用できるだけの能力や経験に乏しいことが多く、また主体的に活動に取り組む意欲が十分に育っていないことも多い。そのため抽象的・思考的な内容より、実際的・具体的な内容や短期目標設定などの指導が効果的となりやすい。当症例は中度の知的障害があり情報整理が困難であった為、運動指導の際には明確で分かりやすい表現や方法が必要だった。プログラムの内容は同一肢位で行えるよう配慮し、指導用具には簡単で分かりやすいようにイラスト表記を用いた。また、当症例は虐待経験から自己肯定感が希薄で失敗すると過度に落ち込んでしまい意欲の低下をきたすことがあった。リハプログラムを進める際には容易な課題から行っていき成功経験を増やすよう工夫した。跛行が生じている間は安定して実施できている片松葉杖歩行を継続させ成功体験を増やし意欲的に自主トレを継続させるように努めた。また「もう一生治らないって思ってきた」などの負の感情が芽生えることがあったが、受傷後と比較し出来るようになったことを強調し努力を誉めるなどしてモチベーションの維持に努めた。本児の主張が時と場面で変化し、大人の対応や返答が都度異なることにより情緒的に不安定になることがあった。そのため、他施設の職員との連絡を密にし本児に対する対応が異ならないように努めることも必要であった。知的障害があり虐待による経験からの問題行動が見られる児童であっても障害特性を理解して対応し、周りの環境や人的要因にもアプローチすることにより、必要なリハビリを進めることが出来たと考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 被虐待児の多くは情緒行動上の問題が多く、さらに知的障害を伴うと一般病院での医療ケアを十分に受けることが困難で、当症例のようにリハビリが進まない段階で退院となることがある。当院でも児童期の骨折後のリハビリが不十分であったため、中高年期にその後遺症が顕著となる症例が多くみられ、知的障害者が高齢になった際に健康で豊かな生活を送るためにも児童期のリハビリは大切であると考えられる。今回の発表により、知的障害児や被虐待児の障害特性を知ってもらい、当症例のようなケースへの対応に生かせて頂きたい。
著者
浅海 靖恵 森田 喜一郎 松岡 稔昌 小路 純央 中島 洋子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2028-A4P2028, 2010

【目的】事象関連電位のP300成分は、認知機能を反映する精神生理学的指標として、統合失調症などの精神障害者様をはじめとし多くの研究がなされてきた。一般に、アルツハイマー型認知症患者様のP300潜時は延長すると報告されている。我々もアルツハイマー型認知症患者様では、P300振幅の低下と潜時の延長という特徴があると報告してきた。今回、もの忘れ外来に受診された方を対象に、泣き、笑い写真提示時のP300成分の解析を行うと共に、HDS-R、MMSEおよびMRIの検査を実施し認知症患者様群の特性を検討したので報告する。<BR><BR>【方法】久留米大学もの忘れ外来に受診された被験者34名(72.73±7.51歳)を対象とした。総ての被験者は、非認知症群(HDS-Rが21点以上、MMSEが24点以上)20名、認知症群(HDS-Rが20点以下あるいはMMSEが23点以下)14名であり、2群間の年齢に有意差は観察されなかった。総ての被験者は右ききで、脳梗塞、脳出血等の既往が無く、言語機能・聴覚機能にも障害はなかった。P300測定には日本光電NeuroFaxを使用した。事象関連電位は、視覚オドボール課題を用い、標的刺激(20%の出現確率)として、赤ん坊の「泣き」または「笑い」写真を、非標的刺激(80%の出現確率)として、赤ん坊の「中性」写真を用いた。総ての被験者に、「赤ん坊の泣いている写真または笑っている写真が出たら直ぐ、ボタンを押すように」教示した。「泣き」写真、「笑い」写真は、被験者ごと順序を変更した。脳波は、国際10-20法に基づき、両耳朶を基準電極として18チャンネル(F3,F4,C3,C4,P3,P4,O1,O2,F7,F8,T3,T4,T5,T6,Fz,Cz,Pz,Oz)から記録した。P300成分は、Fz,Cz,Pz,Oz から最大振幅、潜時を解析した。P300振幅は、時間枠350-600 msの最大陽性電位とした。P300潜時は、P300最大振幅の時点とした。眼球の動きは、日本光電の修正ソフトを使用し、さらに±50μV以上の振れは除外した。認知症症状評価尺度として、スクリーニングテストは、HDS-R,MMSEを用い、MRI検査はVSRADのZスコアを用いた。統計処理は、群間比較に2元配置分散分析および1元配置分散分析、多重比較検定にFisherのPLSD、相関の検定にピアソンの積率相関係数を使用、いずれも危険率5%未満を有意とした。<BR><BR>【説明と同意】総ての被験者には、当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した。尚、当研究は、久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている。<BR><BR>【結果】P300最大振幅は、認知症群が非認知症群より有意に低下し、「泣き」「笑い」の表情間における差はなかった。P300潜時は、認知症群が非認知症群より有意に延長し、認知症群でFz,Czにおいて、非認知症群では、Cz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かった。P300成分と症状評価尺度との関係では、年齢と潜時の間に、被験者全体において「泣き」Fz、Czで、非認知症群において「泣き」「笑い」全チャンネルで正の相関が見られた。HDS-Rと最大振幅の間に、被験者全体において「泣き」「笑い」Cz,Pzでやや正の相関が見られ、 HDS-R、MMSEと潜時の間に、被験者全体において「泣き」Pz「笑い」Czでやや負の相関が見られた。VSRADのZスコアとP300の間には、被験者全体において「泣き」「笑い」全チャンネルで潜時との間に正の相関が、Fz,Czで最大振幅との間に負の相関が見られた。なおVSRADのZスコアは認知症群が非認知症群より有意に大きい値であった。<BR><BR>【考察】今回の結果において、P300最大振幅が、認知症群で有意に低下したことは、認知症群では非認知症群に比べ、注意資源の分配量が低下していることを示すものであり、P300潜時が有意に延長したことは、認知症群の注意資源の分配速度が低下し、刺激の評価時間が延長していることを示すものである。またP300潜時が、認知症群でFz,Czにおいて非認知症群でCz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かったことは、非認知症群同様、認知症群においても「泣き」提示に強く情動が喚起し注意分配機能を増大させたと考える。認知症症状尺度とP300の関係において、年齢と潜時の間、VSRADのZスコアと潜時との間に被験者全体において有意な正の相関が見られた。このことより、情動関連視覚課題を用いた視覚誘発事象関連電位P300の測定は、侵襲もほとんど無く、いずれの場所でも検査が可能で認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となりえる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今後、さらに症例数を増やし、非認知症群をより詳細にMCI等のように分類し、認知症への移行が懸念されるハイリスク中間群の早期発見・予防に役立つP300の有用性を検討していきたい。
著者
佐野 歩 岩本 浩二 冨田 和秀 萩谷 英俊 滝澤 恵美 水上 昌文 門間 正彦 大賀 優 居村 茂幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P3046-A4P3046, 2010

【目的】<BR>近年、筋圧や筋力評価、筋肉や腱の損傷回復の効果判定など多くの分野に超音波診断装置が用いられてきており、有用といわれている。超音波診断装置による画像診断は、X線では評価しづらい軟骨・筋肉・腱・靱帯・神経を抽出することができ、MRIでは評価しづらい滑膜や関節液の貯留、筋肉や関節の動きを評価することが可能である。また、無侵襲で容易に操作が可能な検査技術である。肩関節や側腹部診断など多くの研究が行われている半面、測定結果への信頼性に対して懐疑的な意見も散見できる。超音波診断装置を用いた測定結果への信頼性研究は少なく、確立されているとは言いがたい現状である。本研究では、肩関節周囲筋のなかでも計測指標が簡単で、筋腹が皮下にて計測できる棘下筋を対象に、本研究では超音波診断装置を用いた筋厚測定の信頼性について検討したので報告する。<BR>【方法】<BR>計測にはHONDA ELECTRONICS社製CONVEX SCANNER HS-1500を用いた。プローブは、周波数7.5MHzのリニアプローブを使用し、全て同一の検査者が実施した。被験者は肩関節に痛みを有しない健常成人男性5名、左右10肩とした。被験者の平均年齢は26.4±4.2歳、平均身長は171.0±5.6cm、平均体重は65.4±5.6kg、平均BMIは22.4±2.4であった。棘下筋の計測部位は、棘下筋のみを計測できる部位として、棘下筋を皮下に直接計測可能な肩甲棘内側1/4、30mm尾側の筋腹にて計測した。計測肢位は椅子坐位で、体幹部は床に対し垂直となる中間位、上腕は体側につけ上腕長軸は床面と垂直に下垂し、肘関節90度屈曲位、肩関節内旋外旋中間位ならびに前腕回内回外中間位とする肢位で、前腕部の高さを調整したテーブルに乗せ、余計な筋収縮が入らずに安楽に配置できるように配慮した坐位姿勢を基本測定姿勢とした。測定は、肩関節中間位、肩関節最大外旋位、肩関節最大内旋位の3肢位である。肩甲骨へのプローブの接触角度は、肩甲骨の傾斜角に垂直とし、傾斜角度を左右ともに測定した。肩関節自動運動での内旋・外旋以外の代償運動が行われないように、第3者が肘関節部を固定して実施した。再現性の確認のために、測定は3日間に渡り実施し、代謝の影響を考慮して同一時間帯にて棘下筋厚を測定した。左右3肢位での棘下筋厚で得られたデータは、各肢位にて3回ずつ測定した際の平均計測値を級内相関係数ICC(1,3)を用いて検者内の信頼性について検討した。統計解析はSPSSを用い,一元配置分散分析により級内相関係数ICCを算出し検討した。<BR>【説明と同意】<BR>すべての被験者に対し、ヘルシンキ条約に基づき、書面にて研究内容を十分に説明し、同意を得た。<BR>【結果】<BR>画像測定での平均値は右中間位10.7±3.04mm、右内旋位9.3±2.32mm、右外旋位18.5±2.88mm、左中間位7.9±2.58mm、左内旋位7.2±1.82mm、左外旋位16.6±4.12mmであった。<BR>級内相関係数では、右中間位ICC=0.964、右内旋位ICC=0.845、右外旋位ICC=0.961、左中間位ICC=0.920、左内旋位ICC=0.958、左外旋位ICC=0.923となり、それぞれ高い信頼性を示した。<BR>【考察】<BR>今回の測定方法により、棘下筋厚の測定値において高い検者内信頼性が示された。測定肢位や検査方法に条件設定を細かく行ったことにより、再現性を高めることができた。今回高い再現性が示された理由として、棘下筋はランドマークがとりやすく、皮下より棘下筋のみの計測が可能なため、機器測定条件の設定が簡便であることがあげられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今後は得られた信頼性を基に適応を拡大し、肩関節疾患を有する患者に対し、理学療法の効果を超音波診断装置を用いて検討して行きたい。<BR>
著者
守安 健児 森近 貴幸 横井 正
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.B0790-B0790, 2007

【目的】 長期臥床により寝たきりとなった患者に対し、理学療法士として何を提供できるのか、今回3名の患者の記述から再考していく。<BR>【方法】 長期臥床により寝たきりとなった患者3名(寝たきり期間3~12年)に対して、接触課題、運動イメージ、視覚イメージを用いた問題を出し、解答していただいた。3名はいずれも既往に大腿骨頚部骨折あるいは脳梗塞などを発症後、寝たきりとなり、今回、誤嚥性肺炎等で入院となった。 四肢の屈曲拘縮が著明で、頭頚部は後屈位となり、褥創等の合併症も併発していた。<BR>【結果】 当初はいずれの患者についてもスポンジなどの接触課題やどの関節が動いたかを解答させる課題において疼痛を訴える、「(肩が)痛い」、「やめて、さわらんで」などの記述であった。上下肢に触れていなくても「動かすよ」というセラピストの声かけのみでも同様の記述を認めた。顔周囲の接触については「(触ってるのが)わかる」、「やわらけーなー」、「(鼻を触ると)鼻じゃな」などの記述を得られるが、体幹や四肢末梢程、疼痛や不快な感情の訴えが多く認められた。<BR> セラピストが「(○○関節は)どうなってるの?」、「曲がってるの、伸ばしているの?」等を問いかけても末梢では殆ど不正解となり、記述も「ようわからん」、「みえんもん」、「どっかにいっとる」などの記述しか得られなかった。<BR> 患者自身の身体を撮影し、患者に自分の身体の位置関係等をイメージさせる、あるいはモデル写真を見せ、自分の身体との差を記述させた。視覚的に写真を確認させた後の記述には変化を認め、「(肘は)曲がってしもうとるなあ」、「(手は)胸にのっかっとるなあ」などの3人称記述を得られるようになり、さらに触れたり、僅かに動かした場合にどこの部位かは正答を得やすくなった。「(指し示した写真のように)肘を伸ばそうか」、「掌が見えるように手を開いて」などとイメージさせることが可能となった。最終的には1人称記述が可能となった。<BR>【考察】 特徴的であったものに、3名とも当初は自分が臥床していることさえもわかっておらず、寝たきりが及ぼす自己身体認知の欠如の大きさを伺わせた。体幹、四肢末梢等は自分の身体ではあるものの注意は向かず、「痛い」という言葉で逃避的に保護するしかないものであることを伺わせた。今回の3名に於ては視覚イメージを手がかりにすることで自分の全体図を理解し、運動イメージを用いやすくなったと思われる。<BR>【まとめ】 すでに長期間寝たきりとなっている患者に対し、他動的関節可動域訓練や起坐訓練のみでなく、その世界を共有し、自分の身体、すなわち世界を取戻していくことが理学療法士の役割であると思われる。今後その治療展開をさらに検討していきたい。
著者
松本 元成
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1213-Db1213, 2012

【はじめに、目的】 廃用症候群の理学療法は、廃用に至る疾患が多岐にわたり、その障害像も多様である。その為臨床上正確な予後予測は、困難であることが多い。しかし廃用症候群に対して理学療法を実施する場合、「介入による改善の可能性」や「改善に要する見込み期間」の記載が義務つけられており、診療報酬上も正確かつ早急な予後予測が要求されている。本研究の目的は、廃用症候群患者のリハ開始時における因子の中から、最終的なFIM利得に影響する因子は何かを検討し、正確な予後予測の一助を作成することである。【方法】 対象は、平成22年4月1日から平成23年7月31日までに、当院一般病棟より回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)に転科された廃用症候群の患者46名で、その内死亡退院、状態悪化による一般病棟への転科、入院期間が1週間以内、リハ開始1週間以内の血液データが不明なものは除外した38名である。対象者の年齢、入院からリハ開始までの日数、入院日数、回リハ病棟におけるFIM利得、リハ開始時の嚥下能力(藤島のグレード)、リハ開始より1週間以内の血清アルブミン値(以下、ALB)を診療録より後方視的に調査した。統計処理はFIM利得と各因子との相関をSpearmanの順位相関係数を用いて分析した。平成23年の全国回復期リハ連絡協議会の報告によれば、廃用症候群患者のFIM利得の全国平均は10.4点である。それに則り、FIM利得が11点以上の群を改善群、10点以下を非改善群の2群に分類し、Mann-WhitneyのU検定を用いて各因子について分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ条約に則り、臨床研究に関する倫理指針を遵守した。また個人が特定できる情報は削除し、個人の同定を不可能とした。【結果】 対象の平均年齢は81.7±7.8才、リハ開始までの平均日数は7.5±6.4日、平均入院日数は87.5±34.0日であった。分析の結果、FIM利得とリハビリ開始時の嚥下能力(r=0.39)、およびFIM利得と入院からリハ開始までの日数(r=0.24)とに正の相関を認めた。FIM利得改善群は16名、非改善群は22名であった。改善群のリハビリ開始時の嚥下能力の平均は9.3±1.2、非改善群は5.95±4.23で2群間に優位な差を認めた(p<0.05)。その他の項目においては、改善群と非改善群とで有意な差を認めなかった。【考察】 リハ開始時の嚥下能力は、FIM利得との相関があり、また改善群と非改善群において優位な差を認めた。リハ開始時の嚥下能力とADLの回復に関連があることが示唆された。今回の研究ではFIM利得とALB値との相関や、群間におけるALB値に優位な差を認めなかった。ALB値には半減期があり、血液データ上、開始時に低栄養と思われる状態であっても、嚥下能力が保たれていれば、栄養確保しつつ負荷量に配慮した理学療法を実施することにより、ADLの改善が期待できる。リハ開始時の嚥下能力を把握することは廃用症候群の予後予測に有用である可能性があると考える。介入当初より他職種との連携を図り、PTにおいても摂食嚥下面の評価介入を行う必要性があることも示唆される。また、入院からリハ開始までの日数とFIM利得に相関を認めた。疾患の重症度が高く、臥床期間が長期化することで、ADLの回復を妨げられること、および早期のリハ介入がADLを向上させる可能性を示唆するものと思われる。【理学療法学研究としての意義】 廃用症候群の予後予測において、FIM利得を用いてその傾向を明らかにすることを試みた。リハ開始時の嚥下能力とリハ開始までの日数を把握することが予後予測の一助となることが示唆された。開始時の嚥下能力とリハ開始までの日数は、リハ介入当初より、容易に把握することが出来るため、臨床的にも簡便な指標となり得ると考える。
著者
木原 太史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100051-48100051, 2013

【はじめに、目的】橈骨遠位端骨折などの患者の運動療法を行う際、手関節の背屈・掌屈の関節可動域(以下、ROM)の角度が改善しても、日常生活動作の中で、なかなかうまく動作が改善しない事を経験する。日本リハビリテーション医学会が制定するROM検査法では、手関節の掌屈・背屈は、前腕中間位にて測定するように定められている。だが、日常生活動作の中で、前腕中間位で動作する事は少ないように感じる。今回、前腕の肢位の違いにて手関節背屈のROM角度(以下、手背屈ROM角)に差があるのかを比較検討し、その因子について検証するため、前腕の屈筋群に着目し、筋腹を直接圧迫するダイレクトストレッチ法(以下、ストレッチ)を実施することで、手背屈ROM角がどう変化するのかを測定し、検証を行った。若干の知見を得たのでここに報告する。【方法】対象は手関節に問題のない健常成人29名(男性17名、女性12名、平均年齢31.3±7.9歳)とした。まず、29名の左右の手関節背屈ROM角を、前腕の中間位、回内位、回外位で測定した。また、その背屈運動時に、同時に起こっている手関節の橈側・尺側への偏位角度(以下、偏位角)も測定した。その後、背屈時の拮抗筋となる前腕の屈筋群に対して、患者の痛みを伴わない程度の弱いストレッチを行い、手背屈ROM角の変化を測定した。ストレッチの強さは、防御性筋収縮反応が出ない程度の強さで、伸張時間は、各筋腹に対して20秒×3か所の合計1分間行った。29名の対象者のうち、ストレッチを(1)橈側手根屈筋に対して行った10名(以下、FCR群)、(2)尺側手根屈筋に対しての10名(以下、FCU群)、(3)長母指屈筋に対しての9名(以下、FPLM群)、(4)深指屈筋に対しての9名(以下、FDP群)に実施した。その後、ストレッチ前後の手背屈ROM角について統計処理を行った。統計処理は、対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意差有りとした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には今回の研究に対して十分な説明を行い、同意を得た。【結果】(1)前腕の肢位による手背屈ROM角は、平均で回外位58.09±7.57°、回内位64.83±8.15°、中間位77.7±6.43°であり、手背屈ROM角は、回外位<回内位<中間位となり、中間位が最も大きかった。それぞれp<0.0001と有意差があった。(2)また、その時の偏位角は、平均で、回外位20.65±8.28°(橈側偏位)、中間位6.54±6.36°(橈側偏位)、回内位16.39±6.97°(尺側偏位)であった。偏位角においても、それぞれの肢位で、p<0.0001と有意差があった。ストレッチ実施前後での変化として、有意差が出たものとしては、(3)前腕中間位で、手背屈ROM角は、FDP群が、78,29±9.52°→84.14±6.04°、偏位角は、FPLM 群が、6.29±6.18°→2.71±2.56°(橈側偏位)へと角度の変化が見られた。同じように、(4)前腕回内位で、手背屈ROM角は、FCR群が63.4±2.76°→70.8±3.85°、FPLM群が64.86±8.03°→68.57±6.9°、偏位角は、FPLM 群が、14±2.31°→9.71±6.21°(橈側偏位)、(5)前腕回外位で、手背屈ROM角は、FCR群が55.2±4.02°→63.1±8.64°へと変化が見られた。前腕回外位での偏位角は、どの筋群においても、特に有意差は見られなかった。【考察】手背屈ROM角を前腕中間位、回内位、回外位で測定した結果、前腕の肢位により、有意差が見られ、前腕中間位での背屈角度が最も大きかった。これは、前腕の肢位による橈骨と尺骨の骨関係により筋の走行も変化するため、筋の伸張による制限も因子の1つと考えられる。それを検証するために、前腕の3つの肢位にて、各手関節屈筋群に対し、ストレッチを行い、手背屈ROM角と偏位角の変化を見た。前腕回内位では、手背屈ROM角はFCR群とFPLM群に、偏位角はFPLM群に変化が見らえた。これは、橈側の浅層と深層の筋の伸張感が回内位での手背屈ROM角の制限因子の1つになっていることが考えられる。また、前腕回外位でも、手背屈ROM角はFCR群に有意差が見られたことで、回外位においても、橈側の筋であるFCRが因子の1つとなっていることがわかる。【理学療法学研究としての意義】以上のことより、手背屈動作にて、浅層の橈側手根屈筋とともに、深層の筋である長母指屈筋が、筋によるROMの制限因子を考える上で重要であり、前腕のどの肢位においても、これらの筋へのアプローチを考えていく必要があるといえる。
著者
岡田 真衣 角田 友紀 蛭間 基夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101831-48101831, 2013

【はじめに】2000年に施行した介護保険により要介護認定者を対象とした住宅改修が全国で統一的に受給できるようになった.しかし,一方で改修内容は6項目に限定されており, 多様なニーズに対応するため,基礎自治体による費用支援制度の整備が求められる.ただし,この自治体による費用支援制度の実態調査は人口規模の大きい市区に限定され,町村を対象とするものは少ない.また,自治体による費用支援制度の実態調査は建築分野における報告は多いものの,理学療法士をはじめとする医療技術者による報告は少ない.【目的】本報告では自治体による費用支援制度の整備状況を把握することを目的として,関東甲信越地方を対象として調査を実施した.【方法】対象は関東甲信越地方1都9県の全452市区町村で,質問紙によるアンケートを実施した.調査票の配布,回収は郵送またはFAXで行った.全452自治体のうち263自治体(有効回収率58.3%)から回答を得た.回答が得られた自治体のデータは住宅改修に要した費用の助成及び融資制度について,市区(158自治体)と町村(105自治体)に分け,クロス集計を用いて分析した.調査期間は2012年4月7日から2週間であった.【倫理的配慮,説明と同意】自治体に対して調査票とは別に研究の目的,方法及び個人情報の取り扱い等を記した書面を同封し,返信をもって研究参加に同意があるとして調査を行った.【結果】(1)制度の整備状況:市区,町村とも「助成制度あり」の割合が最も高く,整備率は市区88.6%(140自治体),町村74.3%(78自治体)である.また,「融資制度あり」の整備率は市区24.1%(38自治体),町村1.9%(2自治体)である.「両制度あり」の割合は市区21.5%(34自治体),町村1.9%(2自治体)である.また,いずれの制度も整備されていない割合は,市区8.9%(14自治体),町村25.7%(27自治体)である.(2)助成制度の整備数:各市区町村における助成制度の整備数は,「1制度のみ」の割合が最も高く,市区77.9%(109自治体),町村85.0%(68自治体)である.「複数制度あり」は市区22.1%(31自治体),町村15.0%(12自治体)である.(3)助成制度の制限内容:制度の利用対象者は「障害のある者」とする割合が最も高く,市区69.6%(190助成制度),町村70.5%(93助成制度)である.障害の程度に関する規定は「障害者手帳」による割合が高く,市区56.8%(108助成制度),町村61.3%(57助成制度)であり,次いで「要介護認定」による割合が高く,市区43.2%(82助成制度),町村38.7%(36助成制度)である.年齢による規定では,年齢による「規定なし」とする割合が高く,市区53.8%(147助成制度),町村61.4%(81助成制度)である.年齢制限を設けている場合には「65歳以上」とする規定が最も高く,市区86.5%(109助成制度),町村82.4%(42助成制度)である.(4)融資制度の整備数:融資制度は町村の整備数が少ないため,以下市区と同時に記載する.市区町村における融資制度の整備制度数は,「1制度のみ」の割合が最も高く,87.5%(35自治体)である.「複数制度あり」は12.5%(5自治体)である.(5)融資制度の制限内容:制度の利用対象者は,障害による「規定なし」とする割合が高く, 80.4%(37融資制度)である.「障害のある者」とする割合は,41.3%(19融資制度)である.障害の程度に関する規定は「障害者手帳」による割合が高く,73.7%(14融資制度)であり,次いで「要介護認定」による割合が高く,21.1%(4融資制度)である.年齢による規定では,年齢による「規定なし」とする割合が高く,73.9%(34融資制度)である.年齢制限を設けている場合には「65歳以上」とする規定が最も高く,92.3%(24融資制度)である.【考察】本調査では人口規模に関係なく市区及び町村において,助成制度の整備が同水準で進んでいるが,融資制度では整備率が市区に対して町村が低い傾向にあった.つまり,現在の我が国の自治体による住宅改修の費用支援が助成制度を中心としていることが明らかになった.様々なニーズを有する利用者に対応するためには,複数の制度が整備されることが望ましい.しかし,支援額が高額になる融資制度は,人口規模が小さく財源が限られる町村では整備が難しいと考えられる.また,利用者にとっても返済する義務があるため,経済的負担が大きく,利用が難しい制度である.助成制度の内容を検討すると制度利用者に関しては何らかの障害を有する65歳以上の者を対象としているものが多い.これは介護保険による住宅改修と対象者が重複するものであり,これは介護保険では対応しきれない利用者のニーズを補足する制度となる可能性もあるが,本調査では各制度の具体的な内容について明らかにできていない.従って,各制度の内容を調査し,介護保険との関連性について検討する必要性が示された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,住宅改修において重要な役割を有する理学療法士に対して自治体による費用支援制度の啓発の契機となり,今後の制度の利用促進に貢献する可能性がある.
著者
飯塚 有希 花房 祐輔 大塚 由華利 篠﨑 かおり 外山 洋平 國田 広規 伊藤 有希 牧田 茂
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI2148-BbPI2148, 2011

【目的】心臓リハビリテーションの普及により心不全に対する理学療法の報告は増えつつある。しかし乳幼児に関しては、治療の進歩に伴い生存率が向上しているにも関わらず、病態が多岐に及ぶこともあり、まとまった報告は少ない。今回、染色体異常や明らかな脳血管障害を認めない、心不全により長期入院を要した乳幼児の理学療法(PT)を実施する経験をしたので報告する。<BR>【方法】発達評価としてはKIDS乳幼児発達スケール(TYPE T)にて全9項目をPT介入前後で評価し、総合発達指数(DQ)を算出し下位項目についてもDQに変換し算出した。<BR>【説明と同意】今回の発表に際し、入院経過等のデータ使用に関して書面にて説明し、ご家族より同意を得た。<BR>【症例1】2歳2ヶ月女児。出生時は問題指摘されなかった。生後5ヶ月時に哺乳不良となり近医受診し、拡張型心筋症と診断された。以後、うっ血性心不全にて入退院を繰り返していた。1歳9ヶ月時に再び心不全増悪にて入院し、20日間人工呼吸器管理となった。抜管後も心負荷軽減のため終日NasalDPAP装着下、厳重な水分管理を要している。<BR>入院前に独歩獲得していたが、心不全治療のため1ヶ月間の鎮静を要し、抜管後も心不全を繰り返し離床が困難であった。啼泣により容易に心拍数の上昇を認めたため、臥位にて本人の許容しうる範囲での手遊びから始めた。抱っこでのギャッジアップ、座位練習へと段階的に移行し、並行してバギー乗車での活動時間延長を図った。心不全増悪徴候がみられる場合には、必要に応じて担当医に確認し、活動量・時間を抑え、臥位での介入とする等で対応した。2歳2ヶ月時にあぐら座位獲得し、バギーにて散歩や食事が可能となった。<BR>【症例2】1歳8ヶ月女児。日齢2日に心雑音を指摘され近医受診し、ファロー四徴症と診断された。6ヶ月時に手術適応となり根治術を施行した。術後、乳糜胸水が出現し胸管結紮術を施行した。それ以降人工呼吸管理となり、10ヶ月時に抜管したが、脂質や水分の過摂取による胸水出現を繰り返し厳密な水分・栄養管理を要している。<BR>術前に寝返り獲得していたが、術後の長期人工呼吸器管理・鎮静を要したことで、背臥位での姿勢管理による全身の筋力低下、胸郭の可動性低下に加え、腹臥位への不快が強くなっていた。またタッチングの機会が減ったことで過敏さを認め、表情も乏しい状態であった。そのため、人工呼吸管理中より介入し、側臥位や半腹臥位のポジショニング、正中指向のリーチ動作、音刺激や声掛けから始めた。抜管後は寝返りや座位練習を中心に実施した。症例1同様、心不全徴候に応じて負荷量を調節した。また家族付き添いとなったため、家族指導も実施した。1歳7ヶ月時に寝返り獲得、座位は支えれば可能、笑顔も多く見られるようになった。<BR>【結果】身体的な発育として、PT介入前後で症例1は身長84c→90cm、体重7266g→6962g、症例2は身長は65c→71cm、体重は6974g→5795gであった。KIDS乳幼児発達スケール(TYPE T)では、症例1でDQ34.4(1歳10か月時)→69.2(2歳2ヶ月時)、症例2でDQ10(10ヶ月時)→35(1歳8ヶ月時)と遅滞はあるものの両者とも発達を認めている。下位項目では、特に運動/操作/理解言語/対成人社会性は症例1で5 /23/64/64→23/69/92/100、症例2で10/10/30/20→30/35/45/40とPT介入前後とも運動項目に比べ、操作・理解言語・対成人社会性の方が高い発達指数の傾向がみられた。<BR>【考察】PT介入前後において運動項目が他項目に比べ遅延した理由として、両症例ともPT介入期間中、成長期に関わらず身長・体重ともに大きな変化なく経過しており、心不全コントロールのため長期低栄養・臥床状態が強いられたことによる身体的成長の著しい遅滞があげられた。それに対して、臥床傾向にあってもある程度の操作や精神面の発達は、運動面に比べて発達獲得しやすいと考えられた。<BR>乳幼児は不調を訴えることできず、負荷量の調節が難しい。しかし、発達に必要な経験をせずに乳幼児期を過ごしている児にとって、精神発達に見合った遊びを取り入れ、可能な範囲での発達援助を行うことが本症例のように緩やかながらも精神・運動発達に繋がっていく可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】先天性心疾患を有する小児期の運動療法は、疾患や心機能によって効果が異なり、多様性の面から先行研究のエビデンスレベルはやや低くなっているのが現状である。本研究は、長期の臥床と入院管理を要する場合、病態に合わせた長期的な発達フォローを行っていく必要性を示唆するものである。