著者
押切 洋子 藤沢 美由紀 阿部 泰昌 河田 理絵子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1194, 2011

【目的】ギランバレー症候群(以下GBS)は、一般的に予後良好と言われているが、回復遅延型の症例報告は少なく、回復過程については不明なことが多い。今回、我々は早期より装具を作成し、歩行練習を導入することにより、長期的に回復した症例を経験したので経過に若干の考察を加えて報告する。<BR><BR>【方法】回復遅延型GBSの症例において急性期、回復期、維持期の3年6ヵ月に渡り、身体機能および動作能力の回復経過を評価、情報収集を実施。一症例報告として報告する。<BR><BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言を順守し、本人およびご家族へ本発表の趣旨を説明し同意を得ている。<BR><BR>【結果】症例は現在30歳代男性、エンジニア、他県で独居。現病歴は海外旅行中のX-5病日目より腹痛、痺れ、四肢脱力出現。GBS疑いにて帰国、A病院入院、軸索障害型に属するAMANと診断。四肢体幹筋MMT0~1、基本動作全介助。人工呼吸器管理は約2カ月に至り回復遅延型であった。前医では約6カ月のリハビリテーション実施、予後予測は電動車いす平地自立。X+175病日目当院転院。<入院時理学的所見>MMT体幹2、肩及び肘関節2~3、手関節2、手内筋0、骨盤挙上2、股関節1~2、下腿0。ROM足関節背屈左右0°、SLR右70°左75°、その他の四肢関節も伸張痛伴う中等度~重度の制限を有し、手内筋には著明な筋萎縮を認めた。感覚障害なし。四肢の深部腱反射は消失~減弱。歩行は両側膝装具とAFO装着し、平行棒内1往復3人介助にて開始。m-FIM24/91点。入院時予後予測は自走式車いす平地自立。<発症7カ月経過時>歩行は両側KAFO作製、平行棒内重度介助にて1往復。低負荷の筋力強化でも筋疲労強く認める。<発症8-9カ月経過時>両側KAFO、平行棒内歩行軽度介助、サークル型歩行器使用し軽度~中等度介助にて約50m。m-FIM39/91点。<発症10カ月-1年経過時>両側KAFOとサークル型歩行器使用し軽度介助~監視にて約100m。筋疲労は翌日までの残存が軽減~消失。m-FIM67/91点。<発症1年1カ月経過時>両側KAFOとプラットホーム杖使用し中等度~軽度介助にて約10m。m-FIM70/91点。<1年2カ月経過時>MMT肩及び肘3~4、手関節3、手指2、股関節3~4、膝関節2。実用的移動手段は車いすにて退院。<発症2年5カ月経過時>屋内両側KAFOからAFOへ変更し軽度介助にて約30m。<発症2年8カ月経過時>屋外両側AFO、杖なし軽度介助にて約60m。<発症2年10カ月経過時>屋内装具なし、杖なし軽度介助にて約30m。<3年2カ月経過時>改造車購入し運転自立。<発症3年6カ月経過時>MMT膝関節3、足関節2。杖、装具なし屋内遠位監視にて約60m、屋外近位監視にて約30m。<BR><BR>【考察】回復遅延型GBSは予後不良との報告が多い。筋疲労性の変化については、高い筋疲労性を示した症例でも約3カ月後には筋力の回復と共に正常人と同程度まで改善したとの報告があるが、本症例では回復までに10カ月要し、遅れて回復する可能性もあることが示唆された。歩行については、予後や回復遅延により入院が長期に及び目標が不明瞭となりやすい傾向に対して、本人と話し合い、demandに即した短期目標を2-4週間毎に見直し理学療法プログラム変更。結果的に最も回復を自覚できる手段であり、モチベーション維持と能力向上に繋がった。また、予後としては、入院時予測した目標に留まらず、屋内や短距離屋外の実用的移動手段が歩行に至り、車の運転等も自立し活動範囲拡大に繋げることができた。疾患の回復に応じた能力向上を図る上で、心肺機能低下、重度ROM制限等、廃用の影響は大きな阻害因子となるが、KAFO使用した早期歩行導入は、機能改善や廃用の予防に有用な手段であったと考えられる。軸索障害型に属するAMANは回復に時間を要すことが多いとの報告もあり、本症例からも同様に、長期経過においては緩徐な機能回復を認めることが示唆された。その時点の理学的所見データのみの予後予測ではなく、長期的な変化を見過ごさず、回復の可能性を常に模索しながら、理学療法を実施すること。また、現在も緩徐に能力改善を認めているが、今後加齢と共に現在獲得した動作能力がいつまで維持可能か、維持困難となった時期にどう理学療法を展開していくかを早期より考えていく必要がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】回復遅延型GBSは予後不良との報告もあるが、具体的に獲得可能となった能力や経過の報告は少なく不明な点が多い。重症例における長期経過の報告が、類似症例における長期ゴール設定と理学療法実施の指標の一助として活用できるものであると思われる。
著者
押切 洋子 藤沢 美由紀 金谷 博子 佐藤 弘恵 阿部 泰昌
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P2273, 2009

【はじめに】<BR>ギランバレー症侯群(以下GBS)は、筋力低下を示す免疫性末梢神経障害で、回復遅延型では予後不良となる報告が多い.今回我々は回復遅延型GBSに対し、歩行練習によりADLへの効果が得られた一症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.なお本発表に際し本症例の同意を得た.<BR>【症例】<BR>20歳代男性.エンジニア.他県で独居.性格は努力家.<BR>【現病歴】<BR>海外旅行中X-5病日目より腹痛、痺れ、四肢脱力出現.GBS疑いにて帰国、K病院入院.四肢体幹筋MMT 0~1、基本動作全介助.人工呼吸器管理は約2カ月間に至り回復遅延型と診断.約6カ月間のリハビリテーション実施.前医での長期予後は電動車いす移動と予測.X+175病日目当院転院.<BR>【入院時理学的所見】<BR>MMT体幹2、肩及び肘関節2~3、手関節以遠0~2、骨盤挙上2、股関節1~2、膝関節以遠0~1.ROMは、SLR右70°左75°、足関節背屈左右0°、その他の四肢関節も伸張痛伴う中~重度の制限を有し、手内筋には著明な筋萎縮を認めた.感覚障害なし.四肢の深部腱反射は消失~減弱.起き上がり中等度介助、長座位移動及びpush up全介助、移乗2人介助.車いす駆動監視(耐久性50m).m-FIM24/91点.<BR>【経過】<BR>当院リハ開始時、両側膝装具とAFO装着し平行棒内1往復3人介助にて歩行.両側KAFO作製し平行棒内にて立位・歩行練習開始.上肢支持は肩関節外旋位、肘関節伸展位にて行い、振り出しは重心移動の介助で可能.入院1カ月目、骨盤挙上MMT3~4と回復し、立位は股関節伸展位にて保持.骨盤挙上による振り出し可能.入院2カ月目、U字型歩行器歩行開始.入院3カ月目、股関節屈曲3となりフットプレートへの足の上げ下ろし自立.push up能力向上し、トイレへの移乗監視.入院5カ月目、内外腹斜筋MMT3へ向上、トイレ及び車への移乗自立.入院6カ月目、車いす上で骨盤挙上による下衣更衣自立.入院8カ月目、プラットホーム杖歩行開始.振り出しは体幹側屈や骨盤挙上伴う股関節屈曲にて可能.m-FIM70/91点.入院9カ月目当院を車いすレベルで退院後、週3回の外来リハ継続.退院4カ月後の現在、自宅内移動は車いすから四つ這いを経て、現在膝歩き.歩行は両側KAFO杖なし約20m監視.<BR>【考察、まとめ】<BR>前医では実用歩行が困難と予測されていた症例であったが、回復に合わせた歩行補助具の選択及び歩行様式の調節を実施.その結果、体幹及び骨盤帯の筋活動が向上し、ADLや応用動作能力の向上に繋がった.実用歩行が困難と予測される症例についても、歩行練習によりモチベーションの維持を図ることは勿論、ADLへの波及効果及び相乗効果を見据えたアプローチが重要であると思われる.GBSにおける追跡調査の報告は少なく長期予後について不明なことも多く、今後も追跡調査を行っていく予定である.
著者
内田 賢一 高木 峰子 鈴木 智高 川村 博文
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P3234, 2010

【目的】<BR>「ハビリテーション」という言葉は,全国民にほぼ浸透していると思われるが,リハビリテーションと同程度に「理学療法士」という職名が周知されているか,と問われれば疑念の意を抱かずにはいられないのが現状ではないだろうか.理学療法士が「理学療法士及び作業療法士法」という法律で規定されている以上、国会の場でどの程度発言されているのかを調査することは,「理学療法士」が我が国においてどの程度周知されているのかを知る一つの手段になるのではないか,と考えられる。そこで今回、国会会議録を基に調査を行い、発言があった委員会名や時期などについて知見が得られたので報告する。<BR>【方法】<BR>国立国会図書館がインターネット上で提供している国会会議録データベースを基にして、昭和36年1月1日を基準日として平成20年12月31日までの57年間の国会会議録すべてを対象に、会議録中に「理学療法士」が一回でも記録されている会議録の調査検討を行った。国会の各種委員会の会議は,国会会期中毎日開催されており,1回の委員会では様々な案件が審議される.そのため,1回の委員会の中で「理学療法士」という言葉が何度記録されても,1回の委員会は1件として取り扱った.あわせて,国会図書館憲政資料室の請願資料一覧から,理学療法士に関する請願資料をすべて収集し検討した.<BR>【説明と同意】<BR>国会会議録は,国籍を問わず誰でも閲覧できる資料であり,倫理的に問題はない.<BR>【結果】<BR>57年間にわたって開催された国会各種委員会の会議録は、総計60,032件であり、そのうち「理学療法士」との記録がある会議録は377件認められた。内訳は,社会労働委員会の133件が最も多く,続いて厚生委員会が39件、厚生労働委員会が36件、予算委員会が19件、内閣委員会が18件認められた.本会議、文教委員会、予算委員会第三分科会がそれぞれ16件、決算委員会が12件、予算委員会第四分科会が9件、国民福祉委員会が7件、法務委員会、および国民生活・経済に関する調査会がそれぞれ4件であった.予算委員会第二分科会、予算委員会公聴会、文部科学委員会、国民生活に関する調査会、決算行政監視委員会はそれぞれ3件,労働委員会、予算委員会第五分科会、逓信委員会、地方行政委員会、税制問題等に関する調査特別委員会、交通安全対策特別委員会、決算行政監視委員会第三分科会でそれぞれ2件ずつ認められた.農林水産委員会、少子高齢社会に関する調査会、国際問題に関する調査会、行政監視委員会、個人情報の保護に関する特別委員会、議員運営委員会、環境特別委員会、外務委員会、科学技術振興対策特別委員会、沖縄及び北方問題に関する特別委員会で,それぞれ1件ずつ認められた。<BR>377件のほとんどが,会議録に名前が出てきた程度であり,「理学療法士」が議論として壇上に上がっていたのは,わずか44件のみであった.44件の会議は,そのほとんどが厚生省,もしくは厚生労働省管轄の会議においてであり,昭和40年代は「理学療法士及び作業療法士法」に関わる特例措置などが主な議題となっていた.当時は,全日本鍼灸按マッサージ師会の多くの会員から,国会に対して特例期間延長に関する請願が提出されていた.なお,昭和47年11月4日,日本理学療法士協会の野本卓会長は,理学療法士の養成を4年制大学で行うよう理学療法士作業療法士の国家試験受験資格の法改正の必要性を請願し,昭和49年5月7日,参議員の社会労働委員会において日本社会党の藤原道子議員から法改正案として議題にあげられたが,審議されず廃案となっていた.<BR>昭和50年代は,大学における教育など養成方法に関することが多く,特に昭和60年12月10日の参議員社会労働委員会においては理学療法士の養成過剰が議論されており,竹中浩治厚生省政策局長からは,今後は質の向上に努力したいとの発言が認められた.<BR>昭和60年代および平成に入ってからは,職域に関する議論が多く,介護保険や老人保健施設における理学療法士の役割などに関する議題が多かった.<BR>【考察】<BR>国会会議録を概観すると,その時代に即した議題が目立っていた.しかし,「理学療法士」が議論として壇上に上がったのはわずか44件しかなく,国会の場で理学療法士があまり述べられていない現状を鑑みると,診療報酬において理学療法の重要性が反映されていないことにつながっているように感じられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>第45回衆議院総選挙においては,比例東北ブロックから山口和之氏が初当選したことで,国会の場で理学療法士について議論されることが今後は多くなることが予想される.理学療法士が国会論戦に参加することで,議論の内容がどのように変わるのか,基礎資料となる.
著者
常盤 香代子 面田 真也 今井 保 阪上 奈巳 安藤 卓
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1482, 2011

【目的】<BR> 臨床実習は体力的・心理的負担の多い環境であり、それが体調管理に影響する学生は少なくない。今回、体調不良をきっかけに欠席が続いたが、実習を再開し最後まで継続できた学生を経験した。数日間の欠席により自分自身をみつめる経験ができ、実習を通じ能動的な学習行動が変化としてみられた。本学生の臨床実習教育において、体調不良や欠席の要因を分析し、実習指導内容と学生の変化について考察する。<BR>【方法】<BR> 実習終了後に学生、臨床実習指導者(以下、指導者)、教員各々に対し、本実習を通じての学生の変化についてインタビューを行った。また、養成校の用いる実習評価表や学内成績について過去の実習と比較した。<BR> 対象学生と実習経緯:平成22年度の臨床実習8週間の学生で最終実習であった。実習前の教員からの情報提供(内容:意欲はあるが指導者との関わりが不十分で積極性がなく、追求心が少なく、知識や技術も不十分である)を元に、指導者と充分な意思疎通がとれるように配慮した。また、紙面上の指導ではなく臨床場面での経験を重視した教育方針で実習を開始した。学生は開始早々に症例を担当し、その数日後に体調不良で欠席となり欠席は4日間続いた。教員からの情報で、学生が一時は実習を終了すると訴え混乱しており、親と相談し実習を継続する意思がみられたものの、施設に再度出向くことに対する強い不安があることを確認した。その為、施設まで指導者と同伴し再開した。<BR>【説明と同意】<BR> 学生と養成校に研究の目的を説明し、実習やインタビューの内容、成績の開示について同意を得た。<BR>【結果】<BR> インタビューにより、学生からは「対象者に責任を感じるようになった」「コミュニケーションの本来の意義が理解でき自然にとれるようになった」「評価や治療、検証作業を自分で考えて進めることができた」「レポート課題などストレスに弱い自分がわかった」等の内容、指導者からは「臨機応変に動けるようになった」「自分で考えて行動するようになった」という内容、教員からは表情や対応が明るくなった等と様々な内容が聴取できた。実習評価表は、リスク管理や能動的学習姿勢、理学療法士像の形成について向上していた。しかし、技術の振りかえりや自己主張に関しては成績が低いままであった。学内での症例報告等の成績はやや低下していたが、臨床実習成績は合格レベルであった。<BR>【考察】<BR> 課題の多い学生という情報の元、実習が始まり、実習早々に欠席が続いたが最後まで継続でき、学生は責任感や有能感を得て行動に成長がみられた。体調不良の要因は、症例レポートが無意識下でストレスになり、それが関係していると考えた。しかし、実習での欠席が初経験であり、先がみえない不安と今までが皆勤であるという自分の支えのようなものを失い、適切な判断力が欠け混乱を引き起こし、欠席が続いたと推察した。これは本学生のこれまでの人間関係の構築において、本来の意義を理解しないまま関係性を築いてきたことが学生の価値観の形成に影響し、あいまいな判断基準で行動してきたことが関係していると考え、それは学生の本質的な課題であると捉えた。そして過去の実習でも、懇切丁寧な誘導型の指導により、学生の人間形成に必要な価値観や判断力を養う場面が少なかったと考えられる。欠席が続いた後、教員や親に現状を受容され励まされたことで、本来の自分を冷静に振り返ることができ、実習を再開する気持ちになったと考える。欠席への反省と指導者や対象者への迷惑、2度とできない失敗等を考えると再開する不安が強い中、再開できたことは学生にとって自己決定の中での挑戦であったと考える。これらをふまえ、再開後の実習では対象者と関わる機会を大いに取り入れ、治療の一部を任せる環境や過度な助言は与えず、学生が自ら考え主体的に動かなければ解決に向かわないような環境を調整した結果、対象者への責任感が芽生え能動的な学習が習慣化され、理学療法過程の考察に論理的要素が増え、対象者の変化や問題解決に応じる行動になった。実習終了後の学内成績は低下しており、誘導型の指導による症例の理解と自ら考察した症例の理解の格差が生じたことに指導内容の課題を感じる。しかし、欠席が続くという実習では負と捉えがちになる経験や失敗・行き詰まるという経験を共に乗り越え、学生の本質的な課題において成長が認められたことは学生の将来につながる教育に携わることができたと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 臨床実習は対象者を通じ理学療法が学べ、理学療法士像が形成される貴重な教育現場である。学生の質の多様化がみられる中、実習で問題になる学生において要因を分析し、適切な教育内容で支援できるよう、臨床実習のケースを考察した。
著者
大林 弘宗 浦辺 幸夫 宮下 浩二 松井 洋樹 井尻 朋人 武本 有紀子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0325-C0325, 2006

【目的】 ストリームライン(stream line;SL)とは、水の抵抗を軽減するために水中で横一線に近い状態をとる姿勢であり、競泳競技の基本となっている。その一方で、SL姿勢時の過度な腰椎前彎が腰痛を引き起こす要因となることが言われている。しかし、競泳競技にみられる肩関節を中心とした上肢の運動と、腰椎アライメントの関連について研究されたものは少ない。本研究はSL姿勢に伴う肩関節屈曲角度の変化と腰椎前彎角度の関係を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】 対象は本研究の趣旨に同意を得られた肩関節および腰部に疾患がない健康成人50名(男性25名、女性25名)とした。平均年齢(±SD)は21.2±1.9歳であった。50名を競泳選手である競泳群27名(男性14名、女性13名)と競泳経験のない非競泳群23名(男性11名、女性12名)の2群に分類した。両群に直立位、肩関節屈曲30°、60°、90°、120°、150°、SL姿勢の計7姿勢をとらせ、各姿勢の腰椎前彎角を測定した。腰椎前彎角の測定にはスパイナルマウス(Idiag AG.Switzerland)を用いた。両群間において直立位と、各姿勢での腰椎前彎角の関係、ならびに姿勢を次の段階へと変えた際の腰椎前彎角の角度変化について比較した。統計処理は対応のあるt検定、studentのt検定を用いた。危険率5%未満を有意とした。<BR>【結果】 腰椎前彎角は競泳群では直立位(21.96±8.43°)と比較して、肩関節屈曲90°(25.22±7.01°)、120°(24.74±7.31°)、150°(24.19±7.29°)、SL姿勢(24.41±10.33°)において有意な変化を認めた(p<0.05)。非競泳群では直立位(20.74±7.53°)と比較して、肩関節屈曲30°(23.30±8.64°)、60°(23.39±8.36°)、90°(25.83±8.34°)、120°(24.48±8.02°)、150°(24.04±7.46°)、SL姿勢(28.43±7.56°)全てにおいて有意な変化を認めた(p<0.05)。しかし、両群間のそれぞれの姿勢の腰椎前彎角の比較において有意な差は認められなかった。また、腰椎前彎角は両群とも肩関節90°までは増加し、120°~150°までは減少した後、再びSL姿勢に向けて増加する傾向がみられた。肩関節150°~SL姿勢間にて、腰椎前彎が競泳群で0.22°増加するのに対して非競泳群では4.39°増加した (p<0.05)。<BR>【考察】 今回、肩関節屈曲150°~SL姿勢の間で、競泳群では腰椎の前彎がほとんど変化しなかったのに対し、非競泳群では前彎が増強した。これは肩関節屈曲最終域での肩甲帯の可動性が影響しているのではないかと考えた。競泳選手において、肩甲帯の可動性は一般成人よりも大きく(加藤ら、2005)、脊柱伸展による代償の必要が少なかったためと考える。逆に、肩関節の障害後に、肩甲帯の可動性が低下したまま競技を行うと、腰痛などの問題が惹起される可能性も考えられた。今後は肩屈曲最終域にて変化が大きいことに着目し、両群の相違点について検討したい。<BR>
著者
坂本 雅昭 中澤 理恵 竹沢 豊 山路 雄彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0321-C0321, 2005

【目的】<BR>我々は,群馬県高等学校体育連盟(高体連)サッカー専門部との協議の上,応急処置および傷害予防を目的とし,平成16年度の群馬県高校総合体育大会(県総体),インターハイ予選(インハイ予選),選手権予選においてメディカルサポートを実施した。本県では,以前より高校野球でメディカルサポートが行われていたが、サッカー競技では今回が初の取り組みとなった。本研究の目的は,群馬県高体盟サッカー競技におけるメディカルサポートの内容を整理し,次年度へ向けての課題を明らかにすることである。<BR>【対象及び方法】<BR>対象は,県総体に出場した56校55試合,インハイ予選に出場した58校57試合,選手権予選に出場した57校72試合とした。メディカルサポートを行うため,群馬県スポーツリハビリテーション研究会を通じ,本県内の理学療法士にボランティア参加を募った。メディカルサポートの内容は,試合前の傷害予防のためのテーピング等のケア,試合中(原則として選手交代後)及び試合後の外傷に対する応急処置・ケアの指導であった。また,次試合への申し送りのため,傷害名,受傷機転,対応に関する申し送り表を作成した。各試合会場には,理学療法士が2名以上常駐するように配置した。<BR>【結果及び考察】<BR>メディカルサポートに参加した理学療法士は県総体延べ38名,インハイ予選延べ42名,選手権予選延べ70名であった。メディカルサポートで対応した選手数は延べ393名(県総体112名,インハイ予選128名,選手権予選153名),対応件数は518件(県総体137件,インハイ予選181件,選手権予選200件)であった。試合前の対応は266件であり,試合中・試合後の対応は262件であった。試合前の主な対応内容はテーピングであり,試合中・試合後の主な対応内容はテーピング,アイシング,ストレッチング,止血処置であった。テーピングは356件,アイシングは156件,ストレッチングは56件,止血処置は5件であり,テーピングが最も多い対応内容であった。テーピングの部位別内訳は,肩関節9件,肘関節2件,前腕6件,手関節7件,手指18件,体幹27件,股関節4件,大腿50件,膝関節48件,下腿29件,足関節147件,足趾9件であり,下肢に対するテーピングが全体の80%を占め,足関節が最も多かった。サッカー選手の傷害に関する過去の報告では,若年者の年代ほど足関節捻挫が多いと報告されており,同様の結果となった。今後の課題として,テーピングを含めた応急処置に関する技術の向上を図る必要性が示唆された。
著者
石渡 智之 長谷川 秀一 川島 昭彦 高木 賀織 伊藤 めぐみ
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0929-C0929, 2004

【はじめに】電撃傷は人体への通電により起こる傷害である。今回、電撃傷を受傷し、手術、理学療法によりROMやADLが改善した症例を経験したので報告する。<BR>【症例紹介】41歳、男性。診断名は電撃傷(55%の広範囲熱傷)。平成12年9月1日電車の屋根の上で作業中、服が燃えているのを発見。深達度は骨盤帯前面・両下肢後面が3度、体幹前面・両下肢前面・殿部が2度。<BR>【理学療法経過】平成12年9月26日PT開始。医師より両下肢は熱傷が重度のため運動は禁忌。ROMは両肩関節屈曲制限あり。10月12日医師より両下肢の運動の許可がでる。ROMは両股関節屈曲50°内外転20°両膝関節屈曲30°伸展0°足関節背屈右-50°左-55°。MMTは両股周囲筋2、大腿四頭筋1。PT内容はマッサージ、関節モビライゼーション、他動的ROM運動、筋力増強運動である。デブリードマン術、植皮術後で大腿部・膝関節周辺の軟部組織が不安定な時期は、強度の運動で軟部組織の損傷を防ぐため愛護的に行った。自主的運動として40cm台による大腿部・膝関節周辺の軟部組織の持続的伸張を30分間指導した。平成13年3月軟部組織が安定してきたため積極的に行った。他動的ROM運動では疼痛の程度を口頭にて10段階で示してもらった。(10段階評価)限界の痛みを10とした。10段階評価で9から9.5の関節角度での保持を30秒間行い、これを4回施行した。両足関節のROM改善はみられなかった。平成14年1月22日左足関節に対しイリザロフ創外固定器装着術を施行。4月1日左足関節は背屈0°になる。5月16日右足関節に対しイリザロフ創外固定器装着術を施行。8月22日初めて平行棒内歩行を行う。平成15年8月ROMは右膝屈曲130°左膝屈曲160°右足背屈5°底屈30°左足背屈5°底屈5°。MMTは両大腿四頭筋4、背屈筋1、底屈筋1。歩行は両松葉杖を使用して院内自立。<BR>【考察】ROM運動については、術後で軟部組織が不安定な時期は愛護的に、軟部組織が安定した時期には積極的に実施した。ROM運動の実施の際には、熱傷部の軟部組織の状態を把握しておくことが重要であり医師と密に情報交換していくことが肝要と思われた。疼痛の10段階評価の使用は、痛みの程度を客観的に把握することができ他動運動での伸張力の調節が容易になり効果的であった。PTによるROM運動によって両膝関節は良好な改善が得られたが、両足関節は改善がみられなかった。両下肢後面は深達度が3度と深く、軟部組織の伸張性が重度に低下した為と考えられた。イリザロフ法による尖足の矯正は顕著な改善がみられた。イリザロフ法は、創外固定器の矯正ロッドを操作し徐々に軟部組織を伸張していく方法である。軟部組織の損傷があり伸張性が重度に低下した場合に有効とされており本症例は適応が高かったものと思われる。今後は両松葉杖歩行での屋外自立を目標とし社会復帰につなげたい。
著者
新野 浩隆 鈴木 章 廣野 文隆 中野 美紀 八木下 克博 岡部 敏幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G1741-G1741, 2008

【はじめに】<BR> 静岡県でのメディカルサポートを開始して5年が経過し、今年度の第89回選手権静岡大会(以下、今大会)からは1回戦10球場からのサポートが実現した。<BR> 静岡県高等学校野球連盟(以下、静岡県高野連)の理事長は「傷害予防の一環として各チームにトレーナーが何らかの関わりを持つ組織づくり」を課題に挙げている。その組織づくりの第一歩として、静岡県内の高校野球部におけるトレーナーの現状を把握するためのアンケート調査を、静岡県高野連より依頼を受け実施したので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 対象は、静岡県高野連に加盟し今大会に参加した全120校。大会前の責任教師・監督会議において主旨の説明と協力要請を行い、1回戦、2回戦の先攻後攻を決める際に、試合後のクーリングダウンを実施するかどうかの確認と合わせて口頭による質問を行った。項目は、トレーナーが「いる」・「いない」であり、「いる」と回答があった場合、「何名いるか」、「本日、帯同しているか」、「いない」と回答があった場合、「トレーナーが必要(欲しい)と思うか」とした。<BR>【結果】<BR> トレーナーのいる高校は39校(全高校の32.5%)で、公立で27校(公立全体の27.8%)、私立で12校(私立全体の52.2%)であった。人数は延べ43名で、2名、3名いる高校がそれぞれ1校ずつであり、その他は1名であった。大会への帯同については、39校中22校(56.4%)であった。<BR> 逆に、トレーナーのいない高校は81校(うち、公立70校、私立11校)であり、全体の67.5%であった。さらに、トレーナーのいないチームで、「必要だと思うか」という質問に対しては、「必要」は47校(全体の39.1%)、「不要」は34校(全体の28.3%)であった。<BR> 「必要・不要」の具体的な理由としては、「いてくれればありがたいが、今はそこまで深く考えていない」、「金銭面の問題がクリアできればトレーナーは欲しい」、「責任教師、監督などの指導者が兼任しているから不要」、「居てくれても良いが、そこまでのチームではない」等であった。<BR>【まとめと今後の展望】<BR> トレーナーのいる高校は全高校の約3割で、公立高校より私立高校で割合が高かった。また、トレーナーのいる高校と、いないが「必要」と考えている高校を合わせると全体の7割にのぼった。逆に、約3割の高校でトレーナーを「不要」と考えていることがわかった。<BR> 以前、当部門でおこなったアンケートでは、「自校にトレーナーがいるため、サポートは不要である」という意見があった。普段よりチームに関わっているトレーナーが選手、監督らの信頼が厚いのは当然である。現在、大会中に球場内で選手に関われるのは当部門の理学療法士のみであるため、各校のトレーナーとの連携が必要であると考える。<BR> 今回の調査結果を踏まえ、今後も静岡県高野連と協力し、選手が安心してプレーできる環境および組織づくりに取り組んでいきたい。
著者
三枝 幹生
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1335-B3P1335, 2009

【はじめに】「純粋無動症とは歩行に際してすくみ足と加速現象を特徴とするが、振戦や筋固縮を認めず、L-DOPAが無効である神経症候である.…中略…、純粋無動症の経過観察中に進行性核上性麻痺と同一の症候が出現した症例や神経病理学的に進行性核上性麻痺と診断された症例が報告され、純粋無動症は進行性核上性麻痺の非定型例または病初期の症候の可能性がある(南山堂 医学大辞典第19版より抜粋).」この診断名のもとに週1回の通所リハビリテーションを利用される利用者に対して、理学療法士ができたこと、そして考えられた今後の地域課題について報告する.<BR><BR>【症例】72歳・男性.退職後は、多趣味であり幅広く活動していたが、平成16年頃から「身体が思うように動かない」ことを自覚.徐々に右足の引きずり、両足のすくみ足が著明となり、平成20年1月に純粋無動症と診断される.同年3月より短時間の通所リハビリテーションを週1回で利用開始となる.現在、週1回は変更なく、通常時間での利用をされている.介護度は要支援1、通院は投薬調整の目的で3週ごとに通われている.<BR><BR>【経過】通所開始時、FIM124点.歩行・階段の項目のみ各6点.すくみ足著明だがT字杖で身辺ADL自立.右遊脚時に下垂足みられ足部の引きずりが認められるが、靴着用で減少する.感覚障害は右足外側に軽度の痺れ訴えあり.住環境の整備・筋力および全身持久力の維持・すくみ足の緩和を目標に個別メニューを作成し実施した.現在、自宅内は早期に生活導線へ手すりを設置したこともありADLは自立、FIMは一部修正自立で121点.筋力・全身持久力は良好に維持されているが、すくみ足の増強が認められ歩行速度・TUGなど低下傾向にある.これに伴い自宅での外出は減少傾向となっている.<BR><BR>【考察】その都度の運動指導は、本人の理解や認識にも左右されるものの週1回の通所リハビリテーションでも十分行える.筋力そのものの維持は可能であったが、すくみ足の症状について改善は得られなかった.パーキンソン病などと異なり純粋無動症は内服の効果が期待できないとされていることからも今後は易転倒の増加が考えられる.また疾患が特異的であるため情報が少なく、利用者本人と家族、介護現場のスタッフの不安も非常に大きい.「医療から介護へ」・「病院から自宅へ」のシフトが進められている昨今、医療機関主体で連携パスが進められているが、医師不足で常勤医不在も珍しくはない.医療主体で動き出しにくい場面がある.今後の経過をどのように診ていくのか、自治体の枠、医療・介護の枠、それらを超えた取り組みが必要である.<BR><BR>【倫理的配慮】本報告は本人が特定されないよう配慮するとともに、本人とご家族への説明・承諾を得て報告した.
著者
五十嵐 大貴 佐藤 一浩 伊藤 圭介 山崎 真奈美 藤田 志保
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI2383-EbPI2383, 2011

【目的】脊髄性筋萎縮症(以下,SMA)1型(Werdnig-Hoffmann病)は,重症乳幼児型で生後6ヶ月までに発症し,全身の筋緊張低下・呼吸困難・哺乳困難などを伴い,2歳までに死亡する例が多い.ただし,適切な人工呼吸器管理を行なえば,成人までの生存も可能となっている.<BR> 今回,人工呼吸器管理にて在宅生活を行なっているSMA1型の1事例に対して訪問理学療法(以下,訪問PT)を行なった6年間の経過について考察を加え報告する.<BR>【方法】事例に関して,訪問PTが関わった6年間の経過を訪問看護・PTの記録及び整形外科診療録から後方視的に調査,その関わりの中で重要であった事項を抽出し,検討を行なった.<BR>〔事例紹介〕18歳女性.生後5ヶ月頃,呼吸困難となり入院,SMA1型と診断.気管切開により人工呼吸器装着.その後,長期間の入院を経て,12歳で自宅退院となる.その後すぐに訪問看護・PTが訪問を開始した.ADLは全介助.会話の理解は良好,表出は眉間でYes-No.1日をベッド上臥位で過ごすが,リクライニング式車椅子で外出も行う.運動は眉間をしかめるのみ.全身に関節可動域制限があり,脊柱右凸側弯(Cobb角80°).経管栄養(胃ろう).人工呼吸器管理,SpO<SUB>2</SUB>97~100%,HR100回前後/分.胸郭は扁平・狭小化(左>右).家族4人暮らしで主介護者は母親.<BR> 訪問PTは生命維持及び,より快適な在宅生活を継続する目的で,呼吸PT(胸郭可動性の維持,体位ドレナージなど),背面の皮膚・筋の伸張(萎縮予防),関節可動域訓練を基本に行なった.<BR>【説明と同意】今回の研究に際して,訪問看護ステーション管理責任者の同意を得た上で行った.また,対象者及びその保護者には書面にて目的や内容の説明を行い,同意書に署名していただいた.<BR>【結果】<BR>1)訪問PT開始:12歳時.PTに対する受け入れ困難から,理解を得るため目的指向型アプローチを行った.訪問学級も開始,担任との情報交換も行なった.<BR>2)車椅子作製:13歳時に側弯悪化(Cobb角102°)から,申請となる.新しい車椅子は自宅にて医師も交え仮合わせを行い完成した.<BR>3)仙骨部褥創:13歳4ヶ月~14歳7ヶ月で完治.患部の皮膚・皮下組織にずれや圧迫が生じないようにポジショニングの確認や訪問看護師との情報交換も行った.<BR>4)てんかん発作:13歳8ヶ月から発作が出現.発作後には背面筋群に短縮と痛みの訴えがあり,同箇所への伸張を強化した.<BR>5)左尿路結石:16歳時から発熱や左半身の浮腫が出現.発熱時には左腰背部の短縮と痛みの訴えがあり,マッサージなど愛護的に対応.浮腫に対するプログラムも追加した.<BR>6)入浴再評価:18歳時,訪問看護師から母親の介助負担の増大が指摘され,入浴方法を再評価.母親は入院時から長期間行っている入浴方法の変更に否定的であった.そのため母親の想いなどに沿う形で新しい入浴方法を提案した.<BR>7)側弯:13歳時に一時悪化したが徐々に改善し,18歳時にはCobb角66°となった.<BR>8)呼吸状態:感染による一時的な発熱や痰の貯留はあったが,受診を必要としたのは年に1~3回程度.肺炎などの呼吸障害による入院はなかった.<BR>【考察】港らによれば,SMA1型は人工呼吸器の使用を選択し,いかに安定した呼吸状態を維持できるかが生命予後を保つ上で重要であるとしている.本事例は母親や訪問看護師,PTが協力し,呼吸管理を行なったことで呼吸障害による入院は6年間なかった.退院時にはすでに全身の関節可動域制限や側弯などの変形・拘縮が定着,在宅でも仙骨部褥創や尿路結石が出現していた.これら長期臥床状態が引き起こす廃用症候群への対応が疾患の特性からも必要であった.母親による入浴介助やその方法を提案する場合は,安易に福祉用具を進めるのではなく,介助者側の想いや母子関係がもたらす精神的効果などのバックグラウンドも理解したうえで提案しなければならなかった.<BR>【理学療法学研究としての意義】SMA1型を含め小児分野の訪問リハビリの報告は少ない。また、前回の学術大会でも報告したが,本事例のように出生後もしくは早期に入院となっていたケースが訪問リハビリに対して退院後のケアを希望することが多く,最近の問題であるNICU長期入院児への対応も含め,地域での訪問看護・リハビリの受け入れが重要となる.
著者
金井 章 渡辺 さつき 小林 小綾香 大瀬 恵子 植田 和也 後藤 寛司 森田 せつ子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0453-Ab0453, 2012

【目的】 妊婦は、その経過とともに外力の影響を受けやすくなり、子宮破裂、常位胎盤早期剥離、後腹膜血腫などが生じやすい。そのため、災害時における外傷の予防には非常に注意を要する。特に、大規模地震の頻発する本邦では、地震時における妊婦の安全確保のための対策は非常に重要であるにもかかわらず、震災時の妊婦被災状況は明らかになっていないのが実情である。また、2007年より緊急地震速報の運用が始まったことで、数秒から数十秒前に揺れへの対応を取ることが可能となったものの、妊婦のサポートについて十分な検討は行われていない。そこで、妊婦における地震の揺れに備えるための安全な姿勢を検討することを目的として、揺れによる身体への外力の程度について検証した。【方法】 対象は、妊娠経験のある健常女性19名(平均年齢33.4±3.2歳、平均体重54.2±8.1kg、平均身長160.0±4.7cm)とした。被験者は、妊婦を模擬するための妊婦体験ジャケットLM-054(高研社製、重量7.2kg、妊娠8ヶ月から9ヶ月に相当)を装着・非装着の状態とし、起震車(カバヤシステムマシナリー社製)を用いて震度5弱の揺れにより身体へ加わる力を加速度計(WWA-006:ワイヤレステクノロジー社製)を用いて計測した。加速度計のサンプリング周波数は200Hzとし、左右の上後腸骨棘中央に装着した。振動時間は15秒で、中間10秒間について、3軸方向の合成加速度を解析した。計測姿勢は、揺れに備える姿勢として姿勢1:かがむ、姿勢2:膝をついてかがむ、姿勢3:お尻をついてかがむ、姿勢4:四つん這い、姿勢5:四つん這いで頭と胸を床に近づける、姿勢6:机を支えにした立位、姿勢7:壁を支えにした立位の7姿勢とした。得られた結果から、ジャケット装着の有無による差を対応のあるt検定で、姿勢による差を分散分析にて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者へは本研究について説明し、研究への参加承諾を得た。また、本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認を受け実施した。【結果】 平均加速度・最大加速度(単位;mG)は、ジャケット無しで姿勢1:211.6±90.5・497.1±86.3、姿勢2:234.5±99.8 ・566.4±144.7 、姿勢3:295.4±132.2 ・712.4±198.5 、姿勢4:209.5±88.7 ・503.4±149.7 、姿勢5:235.7±98.6 ・584.7±152.0 、姿勢6:248.0±121.6 ・657.6±127.9 、姿勢7:301.2±145.9・789.9±125.3 であった。ジャケット有りでは、姿勢1:200.4±79.0 ・447.1±75.0 、姿勢2:220.4±88.6 ・544.4±131.5 、姿勢3:252.8±109.4 ・607.4±110.5 、姿勢4:169.5±72.6 ・403.4±70.2 、姿勢5:219.0±89.8 ・526.1±61.7 、姿勢6:193.0±98.9 ・544.6±73.5 、姿勢7:225.0±111.8 ・586.6±102.3 であった。両群ともに、姿勢4が最も低い値を示し、ジャケット無しに比べジャケット有りで低い値を示していた。【考察】 妊婦では、平均11kgの体重増加が起こり、腹部と乳房が前方にせり出してくるため、身体重心位置が変化する。また、ホルモン環境の変化により関節が柔らかくなり、可動域が増大するため、立位姿勢が不安定となり、日常生活における種々の動作も制限される。このような状況の中で、地震時に揺れに対応するための、身体へ負担の少ない待機姿勢をとることは非常に重要である。今回の結果では、四つん這いが最も腰部への加速度は低く、負担の少ない姿勢であることが確認された。これは、四つん這いは支持基底面が広く安定した姿勢であり、腰部は揺れを生じている床の部分から一定の距離をとり、上下肢により体幹重量による慣性を利用して揺れを軽減させることができるためであると考えられた。一方で、床におしりをついてかがむ姿勢は最も大きな加速度を示していた。これは、揺れを生じている床の部分から臀部へ直接外力が伝わるため、その影響を受け易い姿勢であると考えられる。また、ジャケット無しに比べ有りで加速度が低くなっていたのは、ジャッケットによる身体重量の増加に伴う慣性力の増加効果によるものと考えられる。ただし、身体状況の変化や、その後の動作への影響などでは不利となることから、さらに検討が必要と考えられる。【理学療法学研究としての意義】 妊婦の揺れに備えるための適切な待機姿勢を明確にすることで、震災時の妊婦外傷を予防することができ、震災に対する不安感を軽減することができる。
著者
渡邊 紀子 平井 達也 宮本 浩秀 千鳥 司浩 下野 俊哉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P3009-A4P3009, 2010

【目的】変形性膝関節症(膝OA)は,膝機能低下の影響により日常生活動作の遂行に支障をきたしやすい.日常生活動作を適切に遂行するには,調整能力が重要であるが,膝OAでは最大筋出力の検討が多く調整能力についての知見は少ない.調整能力の評価方法の1つにグレーディングという概念がある.グレーディングとは自己の出力強度を主観によって調整する能力をいう.本研究の目的は,膝OA患者の膝伸展グレーディング能力を検討するために健常高齢者と比較することである.<BR>【方法】対象は,健常高齢者10名(健常群),平均74.0±2.6歳,変形性膝関節症と診断された高齢者7名(膝OA群),平均76.7±5.7歳で腰野の分類にてグレード1~3,FTAは179±2.7°で,すべて女性とし,認知症状のない者(HDS‐R25点以上)とした.尚,両群に年齢の有意差はなかった.方法は,OG技研社製アイソフォースGT‐300を使用し等尺性膝伸展出力を測定した.測定肢位は端座位膝関節90°屈曲位とし,測定下肢は,健常群ではランダムに決め,膝OA群では患側とした.本実験では,100%(最大出力)を測定後,グレーディングを測定した.順序は100%に対し,A:40%→80%→20%→60%,B:60%→20%→80%→40%をA-B-A,B-A-Bの2パターンを対象者ごとにランダムに割り当てた.測定は,検者の合図により出力を開始し,指示された目標値になったと思うところで対象者に合図をさせた.実験中の痛みの強さに対して,実験後,VASを用い評価した.データは,合図の時点での出力データを採用し,3回の平均値を代表値とした.データ処理は,対象者ごとに各目標値に対する割合をグレーディング値(G値:%),各目標値とG値の絶対誤差(誤差:%),G値の変動係数(CV)を算出した.統計学的分析は,1)G値,2)誤差,3)CVについて,対象者(健常群・膝OA群)と目標値(20,40,60,80%)を要因とした混合2要因分散分析を行った.事後検定は単純主効果の検定及び多重比較を行った.いずれも有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】対象者には,倫理的配慮と上記研究内容を口頭で説明し,同意を得た.<BR>【結果】G値(平均)は,健常群/OA群の順で,目標値20%:29.2/39.2,40%:36.3/49.1,60%:42.1/61.3,80%:49.1/65.1であった.分散分析の結果は,1)G値:対象者要因(F(1,15)=2.302,n.s)に有意な主効果は認められず,目標値要因(F(1,15)=28.468,p<.001)に有意な主効果が認められ,また有意な交互作用(F(1,15)=1.115,n.s)は認められなかった.目標値要因の主効果における多重比較では,目標値20%に対し40%,60%,80%に,40%に対し60%,80%に有意差が認められた.2)誤差:対象者要因(F(1,15)=0.033,n.s)と目標値要因(F(1,15)=1.857,n.s)において有意な主効果は認められず,また有意な交互作用(F(1,15)=0.778,n.s)も認められなかった.3)CV:対象者要因(F(1,15)=9.508,p<.01)と目標値要因(F(1,15)=4.234,p<.05)に有意な主効果が認められ,また有意な交互作用(F(1,15)=5.429,p<.01)も認められた.目標値要因の主効果における多重比較では,20%に対し60%,80%で有意差が認められた.交互作用における単純主効果の結果, 20%と40%の対象者要因に単純主効果が認められ,膝OA群の目標値要因で単純主効果が認められた.膝OA群の目標値要因の単純主効果に続く多重比較では,20%に対して40%と60%に有意差が認められた.尚,本実験中のVASは全対象者0であった.<BR>【考察】健常群と膝OA群を比較した結果,G値に差はなく,誤差での比較も差は認められなかった.しかし,CVについては,20%と40%で健常群より膝OA群の方に変動が大きく,また,膝OA群において出力量の違いで変動が大きくなることが示唆された.一般に,膝OAでは,関節位置覚の低下や筋収縮の遅延をまねくとされ,これらの要因が,グレーディング時の変動に影響を与えた可能性が考えられた.また,罹患年数や変形程度の影響なども考えられるため,今後,膝OA群の対象者数を増やし,さらに検討する必要がある. <BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法評価は,最大筋力などで表すような,量的な評価を指標にしたものが多いが,グレーディングのような質的評価も加えて,運動器疾患の運動機能を捉えることは重要であると考えられる.
著者
松下 征司 上田 喜敏 宮本 忠吉 中原 英博 橋詰 努 北川 博巳 土川 忠浩 永井 利沙 竜田 庸平 直江 貢 米津 金吾 佐々木 寛和 山上 敦子 藤澤 正一郎 末田 統
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2084-A3P2084, 2009

【はじめに】<BR> 車いすは歩行困難な高齢者や障害者にとって使用頻度の高い福祉用具の一つであり,使用者のシーティングや駆動特性等については多くの報告がある.しかし,車いす駆動が身体機能に及ぼす影響についての報告は,まだ散見される程度である.本研究では,基礎的実験として車いすのタイヤ空気圧の違いによる身体負荷を酸素摂取量と駆動トルクから算出した仕事率より評価したので報告する.<BR><BR>【対象と方法】<BR> 対象は,ヘルシンキ宣言に基づき本実験に同意の得られた健常男性3名(A:体重71kg・56歳,B:63kg・32歳,C:72Kg・27歳)である.実験装置として,トルク計(共和電業製)とロータリ・エンコーダ(小野測器製)を内蔵した計測用車いすを用い,酸素摂取量の計測には携帯型呼吸代謝測定装置VO2000(S&ME社製)を使用した.なお,事前にダグラスバッグ法(以下,DB法)によるVO2000の検証を行った.心拍計はS810i(ポラール社製)を使用し,主観的運動強度はボルグ指数を用いた.実験方法に関して1回の計測はVO2000により走行開始前5分間の安静時酸素摂取量を計測した後,10分間1周60mのコースを10周走行した(時速約3.6km/h).1周回毎(1分毎)に心拍数とボルグ指数を記録した.車いすの駆動ピッチは60ピッチ/分とし,計測開始前に10周練習走行を実施した.車いす走行中の身体負荷を比較するため,タイヤの空気圧(300kPa,200kPa)をパラメータとした.<BR><BR>【結果】<BR> 車いす駆動に使われた酸素摂取量は駆動時平均酸素摂取量-安静時平均酸素摂取量より求まる.酸素摂取量より仕事率の被験者平均値を求めると 200kPaは約206[W],300kPaは約151[W]となった.また,車いすを駆動するのに必要とされる仕事率は,計測用車いすから得られる駆動トルク[Nm]と車輪の回転角より算出した.駆動トルクより,10周走行中の平均仕事率を算出すると空気圧200kpaの被験者平均値は約22.2[W],300Kpaは約14.9[W]となった.心拍数とボルグ指数においては,200kPaでの心拍数の被験者平均値は115.3[bpm],300kPaは105.3[bpm]であった.200kPaのボルグ指数平均値は約12.9,300kPaで約10.9であった.すべての計測項目において各被験者ともタイヤ空気圧の低い場合が高い場合と比較して運動負荷が高くなる傾向を示した.<BR><BR>【考察】<BR> 酸素摂取量および駆動トルクより算出される仕事率は,タイヤ空気圧の違いに対し同じような傾向を示し,身体負荷の違いを明らかにできた.被験者間の仕事率を比較すると,全体の傾向は一致しているが個人差も観察された.原因として年齢や体格,運動能力などの個人因子の影響が考えられ,今後これらを含めたより詳細な検討を行う予定である.
著者
河野 芳廣 田村 幸嗣 吉田 裕一郎 森山 裕一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D4P3171-D4P3171, 2010

【目的】効果的な呼吸理学療法実施のために、目的に応じた最適姿勢を見つけることは理学療法士の重要な役割である。今回、急性薬物中毒により、ICU内の人工呼吸器(SIMV(VC)+PS)での管理のもと、閉塞性無気肺を呈したケースに、呼吸理学療法を施行し、効率的に改善した経験を若干の考察を加え報告する。<BR>【説明と同意】今回の報告は当院の倫理委員会の承認を受けている。<BR>【症例と経過】急性薬物中毒による入院歴がある40歳代の女性。薬の多量服用後、誤嚥によりERに搬送。気管挿管とBF(気管支鏡検査)にて精査し誤嚥性肺炎あり、右上肺野、左肺野に無気肺認める。ICUへ転棟、体動あり、鎮静薬(ドルミカム、マスキュラックス共に5ml/h)下でSIMV+PSモードで呼吸管理SIMV12回に同調。上記の誤嚥性肺炎あり、ポジショニングと吸引施行継続する。鎮静剤減量(3ml/h)後、自発呼吸認めるも呼吸回数は12回、TV500ml/回で呼吸器に同調。肺エアー入りは全体的に弱く断続性ラ音聴診。BT38度台まで上昇。口腔内は粘調度の高い喀痰、気管チューブは水様性の喀痰吸引。吸引持続するも体動はない。2時間後に低換気で、気道内圧上昇アラーム(+)、両肺特に右肺より粗い断続性ラ音聴診、吸引も少量、開放吸引実施し中等量。体位は左側臥位にて30分ごと吸引療法実施。5時間後に鎮静剤off、開眼、うなずき(+)、BP170台、自発呼吸あり呼吸回数増える。TV500ml/回前後で安定も両肺から粗い断続性ラ音聴診、CXP上左肺の陰影悪化、無気肺おこしている状態、BF施行し右肺は中等量、左肺は分泌物なし。理学療法処方となる。実施施行後、胸写再検後、左陰影改善し、PSモード、サーモベント5L経過後、呼吸器離脱し抜管、酸素マスク5Lで咳嗽可能となり、翌日転院となる。<BR>【結果】Servoi(シーメンス社製)SIMV(VC)+PS、PEEP5cmH2O、設定にて管理中。バイタル変化:(SPO298→100%HR94→87bpm,BP135/87→149/79,RR12→22,BT38.3→38.7°C2時間おき計測、理学療法前→後)呼吸器モニター変化(MV/EtCO2 7.3/37→10.9/29,気道内圧23→16,VTi/VTe599/557→481/4232時間おき計測、理学療法前→後)意識レベル:E4VTM6→E4V5M6 <BR>理学療法:聴診にて左下肺は気管支音聴診(左上肺は断続性ラ音)。ポジショニング(右半腹臥位→右側臥位)で呼吸介助実施(30分間)。ヘッドアップ30度のポジショニングをとる(60分間)。その後、再度右側臥位で呼吸介助実施後、吸引(白黄色の粘稠痰中等量)。左下背野は肺胞音聴取、深呼吸の促がしも可能でリズム良好となる。<BR>【考察】人工呼吸器管理下(SIMV+PS)で、しかも自発呼吸が減弱しており、十分な咳嗽が行えない状況では、換気血流不均等是正やVAP防止のため、仰臥位の延長を可能な限り避けて、目的に合った体位を選択し、呼吸理学療法の技術を加え実施した。また、当ケースはBMI29のobesityでその体型の呼吸機能への影響も多いと考え、ウィ-ニング中で自発呼吸の促進を効率的にするため、仰臥位から坐位へという体位を選択して、呼吸理学療法を実施することは抜管にむけて効果的であった。<BR>【理学療法学研究としての意義】呼吸理学療法を実施するにあたり、チーム連携により体位は重要と考え、できる限り早期に、しかも目的に沿った呼吸理学療法を展開することで、二次的合併症の重度化を防止することや在院日数短縮ということを経験できた。<BR><BR>
著者
鈴木 智高 髙木 峰子 菅原 憲一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1125-AbPI1125, 2011

【目的】<BR> 私たちが生活する環境には様々な道具があり,日々巧みに操作され活用されている。理学療法においても,歩行補助具や自助具等に道具が用いられ,各場面において理学療法士は対象者の身体運動に応じて環境を調整し,再適応を図っている。生態心理学によれば,環境が提供するアフォーダンスと動物の知覚が相互に作用することで,行為は制御される。特にヒトの場合,進化の歴史からみても,把握・操作可能な道具は重要な位置づけにあり,ヒトにとっても握る行為は,最も基本的な運動の1つである。よって,これらは極めて高い相互関係にあると考えられる。<BR> 近年の研究により,道具に対する知覚が特異的な脳活動を生じさせ,認知処理過程にも影響を及ぼすことが報告されている。しかし,アフォーダンスと実際の行為における相互作用を明らかにしている知見は少ない。そこで本研究は,道具に対するアフォーダンス知覚と行為の対応性に着目し,その対応性が認知処理と運動発現に及ぼす影響を筋電図反応時間(以下EMG-RT)により検討した。<BR>【方法】<BR> 被験者は健常な右利きの学生22名とした。提示する刺激画像には,道具画像(右手で把握可能な道具)と,動物画像(握ることをアフォードしないであろう対照画像)の2種類を用いた。反応する運動課題は,右手指屈曲(本研究でアフォードさせる動作)と,右手指伸展(対照動作)を採用した。刺激画像と運動課題の組み合わせによって,被験者を以下の2群に分けた。Compatible群(以下C群)は,道具画像に対して手指屈曲を(刺激画像と運動課題が一致),動物画像で手指伸展を行った。逆に,Incompatible群(以下IC群)は,道具画像に対して手指伸展(不一致),動物画像で手指屈曲を行った。<BR> 実験1は通常の選択反応課題であり,予告画像(画面中央に"+")後に刺激画像として道具,動物,NO-GOがランダムに提示された。提示後速くかつ正確に運動課題を実行するように指示した。実験2では予告としてアフォーダンス画像(手すり)を提示し,刺激画像が出るまで右手による把持イメージをさせた。EMG-RT(刺激提示から筋電図出現までの時間:ms)は表面筋電図を用いて測定し,被検筋は右浅指屈筋と右総指伸筋とした。解析は,二元配置分散分析を行い,有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は,本学研究倫理審査委員会による承認後実施した。参加者には,事前に書面および口頭にて説明し,同意が得られた者を対象とした。<BR>【結果】<BR> 実験1では刺激画像と運動課題の2要因間に有意な交互作用が存在した。post hocテストの結果,道具画像*屈曲動作のEMG-RTが,動物画像*屈曲動作に比べて有意に遅かった。実験2は,実験1に類似した結果であったが,交互作用はわずかに有意水準に達しなかった。実験間の比較では,C群,IC群ともに実験2のEMG-RTが有意に遅い結果となった。この遅延は,IC群において特に顕著であった。<BR>【考察】<BR> 人工物の認識は自然物に比べて遅いと考えられるが(Borghi AM,2007),本研究の選択反応課題では刺激画像に主効果はなかった。よって,刺激同定段階の影響は少なく,道具画像*屈曲動作の遅延はその対応性によるものであり,反応選択・反応プログラミング段階に差が生じたと考えられる。動物画像に対する動作や道具画像に対する伸展動作は対応性のない無意味な行為であり,刺激同定後,機械的に運動発現に至る。このような対象を識別する視覚情報処理は腹側経路にて行われると言われている。一方,道具画像に対する屈曲動作には対応性があるため,その行為は目標指向性を帯び,視覚誘導性が強調されると考えられる。対象の空間情報や視覚誘導型の行為は背側経路によって制御される。さらに,両経路にはネットワークがあり,道具の認識において相互作用が生じると示唆されている。加えて,道具に対する頭頂葉の特異的な活動を示唆する報告もある。よって,道具の認識と対応する行為の選択には広範な神経活動を伴い,その結果,運動発現が遅延したものと推察される。<BR> 実験2ではアフォーダンス予告により全条件でEMG-RTが延長した。運動イメージを課すことでEMG-RTが遅延した先行研究もあり(Li S,2005),本研究も同様にアフォーダンス予告がタスクの複雑性を増大させたものと考えられる。しかし,この遅延はIC群で著しく,道具画像*屈曲動作において最少であったことから,予告状況下と刺激画像*運動課題の一致がEMG-RTの遅延を軽減させうると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 環境との相互作用により生じるアフォーダンスと行為の対応性は,非意識下において特異的な認知処理を生ずることが示唆された。ゆえに,理学療法場面では患者の特性に応じて各種動作を円滑にする豊かな環境と知覚探索機会をともに提供していくことが望ましい。
著者
鳥居 昭久 小形 滋彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1126-C4P1126, 2010

【目的】ボートジュニア世界選手権大会(2009年8月5日~8日、フランス)への日本代表チームトレーナーとして帯同する経験を得た。ボート競技については、シニアチームには専属トレーナーが帯同しているが、ジュニアチームには初めての帯同となった。これは競技力向上の一つとして、これまでコーチと選手のみだったジュニアチームに、トレーナーサポートを加え、コンディショニングなどに対する意識向上を図る意味があった。今回、このサポート経験からボート競技における今後の課題を明らかにし、多くのジュニアスポーツに共通すると思われる課題について考察することを目的に報告する。<BR><BR>【方法】2009年ボートジュニア世界選手権大会に参加した日本代表選手10名(男性5名、年齢17.8±0.4歳、身長182.8±5.1cm、体重78.0±6.8kg、女性5名、年齢17.2±0.4歳、身長165.2±2.9cm、体重61.8±2.4kg)を対象として、国内外での事前合宿および本大会期間中の約3週間のトレーナーサポートを実施、ここでみられた問題点について検討した。選手把握の為に国内合宿前に文書にて状況調査を行い、それに基づいて合宿時に初回面接を行った。また、合宿および遠征中の毎朝、簡易調査票を配布回収し、必要に応じて問診を行った。トレーナーサポートとしては、身体的問題点に対する治療的なアプローチ(物理療法や運動療法による)、ストレッチングやテーピングなどの指導や実施、休養や栄養摂取などのアドバイス、必要に応じて面接などによる心理的サポート、日本ボート協会医科学委員会所属医師との連携による医療サポートなどを行った。<BR><BR>【説明と同意】今回のトレーナーサポートは日本ボート協会医科学委員会からの派遣によるものであり、得られた情報は全て日本ボート協会医科学委員会に帰属する。また、各選手および所属の高校ボート部顧問へ事前に説明の文書を送付し、トレーナーサポートとそこで得られた情報は、個人情報保護法に則り厳正に管理される旨の説明を文書にて行い、同意を得た。<BR><BR>【結果】最終的には、全選手に何らかのトレーナーサポートが必要であった。身体的問題点としては、慢性障害がほとんどであり、筋の張りや関節可動域制限が中心であった。原因は疲労の影響によるもの、フォームの崩れ、アライメント不正からと考えられるものが多かった。国内合宿2日間におけるトレーナーサポートは合計20回、移動日を除く直前合宿および本大会期間中の17日間は合計141回となった。また、全選手にストレッチ方法や事後のトレーニング、休養方法や栄養摂取などについてのアドバイスが必要であった。特に補食摂取については、管理が必要な場面があった。他、本大会競技中には大きなトラブルは発生せず、各レースに向けてのコンディショニングは順調であった。<BR><BR>【考察】ボート競技は陸上競技や水泳競技などと同様に、本大会までのトレーニングやコンディショニングピークの合わせ方が、競技成績に大きな影響を与える。今回のトレーナーサポートによって、身体的問題点に対して事前に対応できたことが、本大会でのトラブルを未然に防ぐことにつながったと推察される。一方、ジュニアスポーツ選手ということもあり、自分の身体的特徴や問題点を十分に把握できていない面がみられ、将来的な障害発生の危険性が推察された。これは、身体的機能やトレーニング方法のみならず、栄養管理や休養の取り方などの知識にもみられ、個人差も大きかった。今回の帯同時に、これらについて個々に具体的な指導ができたことの意義は大きいと感じた。身体的変化の大きな発達期のジュニアスポーツ選手という特性から考えても、日常的、長期的なサポートが必要であり、加えて、中高校部活動が中心のジュニアスポーツにおける指導者の多くが、必ずしも身体的問題の専門家ではないことを含めて考えても、日常的で継続的なトレーナーサポートの必要性は大きいと思われた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】ジュニアスポーツに対する日常的で継続的なトレーナーサポートは、スポーツ障害予防の観点からも重要であり、理学療法士がチームのトレーナーとして果たせる役割は大きい。このため、様々なジュニアスポーツにおける理学療法士の関わり方を検討する必要がある。
著者
今井 一郎 原 久美子 赤岡 麻里 八森 敦史 石川 秀太 右田 正澄 宮島 奈々 菅谷 睦 田中 博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI2406-EbPI2406, 2011

【目的】臨床現場において,脳卒中患者から標準型2輪自転車(以下自転車)に乗りたいという希望をよく聞く.第43回学術大会では症例数3名で自転車動作を検討した.今回は症例を増やし,脳卒中患者の自転車動作の観察とStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)を実施し,自転車動作に必要な身体機能を検討した.<BR>【方法】対象は,脳卒中の既往があり,発症前に自転車に乗ることができ,移乗動作自立の患者AからHの8名(男女4名ずつ,平均67.75歳,発症病月平均45.5ヶ月)と,週1回以上自転車に乗っている50歳以上の健常者9名(男性4名女性5名,平均65.56歳)とした. 方法は,脳卒中患者のSIASと自転車動作の観察を行なった.自転車前提動作(以下前提動作)は,1)スタンドをしてペダルを回す.2)ペダルに足を載せた状態から片足での床面支持,3)外乱に対してブレーキ維持とした.1)から3)すべて可能であれば,走る(10m自由な速度で走行し,タイム計測と,40cm以上のふらつきを観察)・止まる(10m走行後,目標物手前で停止の可否,笛の合図からの停止距離)・曲がる(外側に膨らまないように走行.1カーブ5箇所の床に40cm幅に貼ってある印で軌跡を確認.印を内側から1点2点とし,カーブ5箇所の合計点を算出)の自転車動作を行なった.健常者は自転車動作のみ実施した.<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿い,対象者には事前に書面で研究内容を説明し同意を得た.<BR>【結果】脳卒中患者のSIASは,上肢の項目では,患者Aは22点(運動9点,筋緊張5点,感覚5点,非麻痺側握力3点),以下同様に,B22(10,4,6,2),C19(8,4,5,2),D19(8,3,6,2),E23(10,5,6,2),F21(10,4,4,3),G17(6,4,5,2),H14(3,2,6,3)となった.下肢は,患者Aは26点(運動15点,筋緊張5点,感覚6点),同様に,B25(15,4,6),C26(15,6,5),D26(15,5,6),E22(12,4,6),F23(15,4,4),G17(8,4,5),H15(7,3,5)となった.前提動作は,ABCDは1)から3)すべて可能,EFGは1)3)は可能,2)は不可,Hは1)から3)すべて不可となった.自転車動作は健常者と前提動作すべて可能であったABCDで実施した.走るのタイム計測では,健常者平均5.75±0.96秒,脳卒中患者平均8.37±1.54秒で有意差(P<0.01)がみられ,ふらつきは健常者1名以外は40cm以上のふらつきがみられた.目標物手前で止まるでは,A以外は停止可能であった.笛の合図で止まるでは,停止距離が健常者平均143.78±34.83cm,脳卒中患者平均124.0±70.03cmで有意差はなかった.曲がるでは健常者平均25.56±3.28点,脳卒中患者平均35.25±5.25点で有意差(P<0.01)がみられた.<BR>【考察】前提動作では,2)が可能の患者は不可能の患者と比べて,SIAS下肢の得点が高い傾向にあった.また,SIAS上下肢とも最も得点の低いHは前提動作すべて不可能であった.僅かでも運動機能障害,感覚障害,筋緊張異常があると,前提動作の2)が困難となり安全な自転車動作ができなくなると考えられる.自転車動作では,走行時のふらつきにおいて40cm幅でも健常者のほとんどが不可能であった為,脳卒中患者も評価できなかった.目標物手前で止まるでは,Aはできる限り目標物の近くで止まるように意識したため接触した.自転車は速度が速いほど停止距離は長くなる.走るのタイム計測では健常者が脳卒中患者と比較しタイムが速かった.また笛の合図からの停止距離は差がなかった.これは,脳卒中患者の前提動作では問題がなかった僅かな上下肢の機能障害と,発症後自転車に乗車していない為,自転車乗車の感覚が健常者と比較して十分ではなかったことが,走行スピード低下やブレーキの遅れに繋がったと考えられる.それにより,脳卒中患者のスピード低下の為の停止距離の短縮と,ブレーキの遅れによる停止距離の延長が,健常者の停止距離と同等になったと考えられる.自転車は曲がるとき遠心力と重力を均衡させる為,曲がる方向に車体を傾ける必要がある.脳卒中患者は下肢の機能障害やスピード低下の為,車体を傾けることができずカーブで外側に膨らむと考えられる.以上により脳卒中患者の自転車動作には,非常に高い分離運動機能や協調機能,巧緻運動機能が重要である.また自転車乗車の感覚については,練習の有無による自転車動作の検討が今後必要と考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】この研究は,自転車動作での基礎的運動機能と応用動作における差異や連携を明らかにし,理学療法学としての運動機能面の評価が深まると考える.
著者
松村 将司 宇佐 英幸 小川 大輔 市川 和奈 畠 昌史 見供 翔 竹井 仁
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100760-48100760, 2013

【はじめに】アライメントは理学療法を行っていくうえで必ず評価するものだが、その基礎となるデータを包括的に示した研究は少なく、特に日本人を対象として年代別に調べたものはない。そこで今回、骨盤と下肢アライメントの年代比較と性差を分析した。【方法】被験者は20-79歳の健常成人141名(男68名、女73名)とし、A群:20-30歳代(男25名、女25名)、B群:40-50歳代(男21名、女25名)、C群:60-70歳代(男22名、女23名)の3群に分けた。平均年齢はA群:男26.6歳、女27.8歳、B群:男49.1歳、女50.3歳、C群:男69.9歳、女69.6歳であった。立位アライメントの測定は、一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss X4)を用い正面像、側面像を撮影した。画像解析にはシルエット計測(Medic Engineering社)を用い、矢状面:骨盤前傾角度・膝伸展角度、前額面:骨盤傾斜角度・大腿脛骨角度(以下、FTA)・大腿四頭筋角度(以下、Q-angle)の解析を行った。navicular drop test(以下、NDT)は計測器を作成し測定した。立位での踵骨角度、腹臥位での大腿骨前捻角の測定はゴニオメーターで行った。分析には、各年代の男女それぞれにおいて左右の測定値に有意差がないことを確認し左右の平均値を用いた。結果は、二元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)で処理し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究安全倫理委員会の承認を得た上で、被験者には事前に研究趣旨と方法について説明した後、書面での同意を得て実験を行った。【結果】括弧内に平均値を、性差は男:女の順に示す。骨盤前傾角度とFTAは交互作用を認め、年代と性別に主効果を認めた。骨盤前傾角度は男性には年代差はなく、女性においてA群(17.5°)とB群(17.7°)がC群(13.7°)より有意に大きく、性差はA群(14.2°:17.5°)とB群(13.6°:17.7°)で女性が有意に大きかった。FTAは、男性には年代差はなく、女性においてC群(176.5°)がA群(174.5°)とB群(173.4°)より有意に大きく、性差はA群(178.1°:174.5°)とB群(176.7°:173.4°)において男性が有意に大きかった。以下の項目は交互作用を認めなかった。前捻角、Q-angle、膝伸展角度については、年代と性別に主効果を認めた。それぞれ、A群(10.6°、17.8°、180.8°)とB群(11.0°、19.0°、179.8°)がC群(8.3°、14.8°、176.5°)より有意に大きく、性差は女性が有意に大きかった(7.5°:12.3°、15.2°:19.1°、177.4°:180.7°)。NDTは性別に主効果を認め、男性が有意に大きかった(9.2mm:8.2mm)。骨盤傾斜角度、踵骨角度は有意差を認めなかった。【考察】年代比較の結果から、男性には年代による差がみられず、女性では60-70歳代に骨盤前傾角度が小さくなり、FTAが大きくなった。また、前捻角、Q-angle、膝伸展角度については男女含めた全体の平均として60-70歳代に小さくなっている。前捻角が小さいと股関節が外旋し、運動連鎖としてQ-angleは小さくなるため、以上の結果から、健常成人は60-70歳代に膝内反・屈曲傾向が強まり、特に女性では骨盤後傾と膝内反が強まることが示された。次に性差をみると、A群とB群において骨盤前傾角度は女性が、FTAは男性が大きく、C群では有意差を認めなかった。また、前捻角、Q-angle、膝伸展角度については、従来から言われている通り女性のほうが大きい結果を示した。そして、足部の回内程度を表すNDTは、男性のほうが大きい値であった。これらから、性差を比較すると男性は股関節外旋、膝内反・屈曲、足部回内位、女性は股関節内旋、膝外反・伸展位となっており、年代比較と同様、60-70歳代に女性の骨盤後傾、膝内反が強まることで、それ以前に存在した男女差がなくなったと考える。以上から、健常成人の場合、男性のみでは年代によって変化は現れないが、女性では60-70歳代に変化が現れることがわかった。特に骨盤前傾角度とFTAについては、女性特有の変化として注目する必要があると考える。また、男女含めた健常成人では股・膝関節に関連する項目が60-70歳代に変化しており、この年代がアライメントに変化が生じ始める重要な年代であると考える。【理学療法学研究としての意義】日本人における年代別間の骨盤と下肢アライメントを網羅して比較したデータはなく、健常成人における基礎データとなると考える。
著者
青木 啓成 児玉 雄二 小池 聰 長崎 寿夫 山岸 茂則 奥田 真央 谷内 耕平
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0312-C0312, 2006

【目的】長野県理学療法士会社会局スポーツサポート部では長野県高校野球連盟の依頼により、1999年より硬式野球大会のメディカルサポート(以下サポート)を開始し、2000年より全国高等学校野球選手権長野大会(以下長野大会)一回戦よりサポート体制を整備した。また、硬式・軟式の他公式戦のサポートも開始し、長野県の高校野球選手の傷害予防とコンディショニングに取り組んできた。今回は第87回硬式長野大会のサポート結果を分析し、1回戦からのサポート体制の必要性を明確にすることを目的とした。<BR>【長野県高校野球サポート体制】硬式は長野県下の6球場に、軟式は2球場に原則1日2名の理学療法士(以下PT)を配置し、硬式・軟式の長野大会・県大会サポートを行った。内容は選手への個別対応を原則とし、試合後のチームごとのクーリングダウンなどは行わなかった。参加PTはスポーツサポート部高校野球部門に登録した63名であり、大会事前研修は年2回実施した。研修は障害特性を考慮し、補助診断として肩関節の理学所見を中心に研修を行い、専門医の受診を推奨できるようにした。また、ストレッチ・テーピング等の実技研修も行った。<BR>【対象・方法】調査大会は、第87回硬式長野大会に参加した98校を対象とした。同大会のサポート結果を集計し、大会ベスト16前・後(以下B16前・後)の選手の利用状況と障害の特徴とサポート内容について調査し、大会期間中のサポート体制について検討した。<BR>【結果】球場のサポート室を利用した選手は延べ78名、同大会参加PTは延べ74名であった。全体のサポート実施時期は試合前22件、試合中16件、試合後39件で試合後の利用が多かった。症状は急性期41件、亜急性期20件、慢性期19件であり、主訴は安静時痛16件、運動時痛54件、疲労21件で急性期・運動時痛への対応が最も多い傾向にあった。利用・治療回数は1回が65件、2回10件、3回3件であった。障害部位は肩関節23件、腰背部12件、次いで肘関節、足関節、大腿・下腿の順に多い傾向であった。治療内容はストレッチ33件、テーピング29件、アイシング26件であり、コンディショニング指導が40件であった。B16前後で比較すると試合後利用は圧倒的にB16前に多く59%、主訴に関しては安静時・運動時痛に差はないものの疲労がB16前26%、B16後14%であった。<BR>【考察】選手の利用時期はB16前の利用者が圧倒的に多いことから、一回戦からのサポート体制の妥当性と重要性が示唆された。障害部位は過去の実績同様、肩関節、腰背部障害が多く、障害特性となっている。B16前の急性期症状・疲労が多いことは慢性・陳旧性障害が大会前に悪化、または再発している可能性も考えられる。以上により、的確なサポートを実施するために、補助診断としての理学所見が必要であり、さらには、大会期間中のみでないサポートやメディカルチェックの検討が必要であると考えられた。<BR>
著者
青木 一治 木村 新吾 友田 淳雄 上原 徹 鈴木 信治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.197-197, 2003

【はじめに】腰椎椎間板ヘルニア(以下,HNP)患者の下肢の筋力低下は日常よく経験する。しかし,術後それらの筋力の回復過程に関する報告は少なく,そもそも筋力低下が回復するかどうか,どの程度の筋力低下なら実用段階まで回復の望みがあるのかなど,患者への説明に苦慮するのが現状であろう。今回,HNP患者の術後筋力回復経過を調査し,若干の知見を得たので報告する。【対象】手術目的で入院し,下肢筋力が徒手筋力テスト(以下,MMT)で4レベル以下であったHNP患者で,術後経過を観察できた35名(男30名,女5名)37肢,平均年齢40.7歳を対象とした。障害HNP高位はL4/5:25名,L5/S1:10名であった。HNPのタイプは,subligamentous extrusion(以下,SLE)10名,transligamentous extrusion(以下,TLE)17名,sequestered(以下,SEQ)8名であった。手術は全て顕微鏡下椎間板摘出術を行った。【方法】筋力測定は全てMMTで,各被験者につき同一検者が行い,前脛骨筋(以下,TA),長母指伸筋(以下,EHL),腓腹筋(以下,GC)および長母指屈筋(以下,FHL)の何れかに低下があるもので,術後筋力の推移をみた。追跡期間は最長6年で,平均11.1ヵ月であった。【結果】それぞれの筋で経過をみると,TAでは,3,4レベルのものは1ヵ月から6ヵ月の間に多くが回復していた。1,2レベルでは6ヵ月頃までには3,4レベルまで回復するが,その後5まで回復するものは少なかった。また,0の症例では1年経っても1レベルであったが,その後回復を始め,6年後には3レベルまで回復していた。EHLでも同様の傾向があり,1,2レベルのものは1年ほど経過を見ても3,4レベルの回復であった。GCでは,2レベルが境になっているようで,5まで回復するものと,大きな回復を見ないものがいた。FHLもGC同様の傾向であった。このように筋力の回復は,3,4レベルでは術後3ヵ月以内に回復するものが多いが,1,2レベルのものでは6ヵ月から1年の経過を要し,ある程度実用段階まで回復するが,長期間を要する。筋力の回復をHNPのタイプで比較すると,TA,EHLではSEQのもので著明な筋力低下を来しているものが多く,TLEでは0,1のものは予後が悪かった。一方GC,FHLはSEQでも術後の回復は良い傾向にあったが,GCの1,2レベルのものは筋力の回復をみないものもあった。【結語】術前の筋力と比較すると,何らかの回復をみたものが多かった。筋力の回復経過では,術前3レベル以上のものは数ヵ月で回復が期待できることが分かった。1,2レベルのものは,中には4,5レベルに回復するものもいるが,多くは4レベル未満の傾向が強く,完全な実用段階の回復ではなかった。