著者
藤丘 政明 井上 敦 森近 貴幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1150-C4P1150, 2010

【目的】<BR> 肩甲上腕リズム(Scapulohumeral Rhythm:以下、SHR)が破綻している症例において、筋力や臼蓋上腕リズムの動きなど局所の状態は改善しているものの、全体として協調した動きの獲得に難渋することは多い。そこで今回、拘束条件として肩甲骨の動きを制限する患側を下にした側臥位での挙上運動が、全体として協調したSHR獲得に及ぼす影響について明らかにすることを本研究の目的とする。<BR>【方法】<BR> 本研究を行うにあたって、患側を下にした側臥位でのアプローチ(以下、SL法)では患側を下にした状態で90°側臥位をとることで、自重にて肩甲骨の自由な動きは制限されるので、その環境で挙上をすることで肩甲骨の動きを用いない動作となり、SHR獲得につながるのではないかと仮説を立てた。その仮説を検証するために、肩関節挙上時に代償動作として肩甲骨挙上がみられる症例に対して、SHR再獲得に一般的に用いられている鏡でのフィードバックを用いた方法(以下、FB法)とSL法を行い、アプローチ前後の即時効果を90°前方挙上時、Empty can test(以下、ECT)とFull can test(以下、FCT)での90°外転時における僧帽筋上部線維(Trapezius Upper:以下、TU)の筋電図積分値(以下、IEMG)と肩甲骨外転距離という評価項目を用いて比較した。FB法では鏡でのフィードバックを行いながら代償の出ない範囲での挙上運動を50回実施し、SL法では患側を下にした90°側臥位の状態で0°~90°までの挙上運動を50回実施した。対象は棘上筋断裂修復術を施行してから4ヶ月が経過している50代女性で、他動運動での可動域制限や疼痛はなかった。筋力はマイクロFET(日本メディックス社製)を使用して測定したが、安定性を高める筋である僧帽筋中部線維などについては健側と比べて80~90%程度であった。また、棘上筋の機能については、萎縮はほとんど見られず、Drop Arm Test(-)、Jobe Testでの筋力は健側に比べ85%程度であった。90°前方挙上時の患側の肩甲骨外転距離は健側と比べ3cm大きく、TUのIEMGも患側の方が大きかった。表面筋電計にはユニバーサルEMG((有)追坂電子機器製)を用いた。TUの電極貼付部位は、C7と肩峰を結んだ線上でC7より2cm外下方とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には本研究の趣旨を十分に説明し、理解を得た上で同意書に署名していただいた。<BR>【結果】<BR> FB法では、運動中のTUのIEMGは減少していたものの、評価項目での改善は得られなかった。患側を下にした運動中には、肩甲骨の外転距離にほとんど変化はなく、挙上時におけるTUのIEMGは0.8から0.1へと減少した。アプローチ後では、座位での前方挙上時におけるTUのIEMGにはほとんど変化は見られなかったが、肩甲骨外転距離は1cm程度改善し、「だいぶ肩甲骨が上がってこなくなったような気がする」という主観的な訴えも聞かれた。また90°外転時では、FCTでのTUのIEMGはほとんど変化しなかったものの、ECTでのIEMGは2.2から2.0へと減少した。<BR>【考察】<BR> 本症例は、肩関節周囲筋には健側とほぼ同等の筋力を有しているにもかかわらず、挙上時には肩甲骨の代償動作を伴った運動パターンが残存していた。そこで、運動パターン改善のためにFB法とSL法を行ったが、結果としてFB法では運動パターンに変化が得られなかった。この要因としては、鏡からの視覚的フィードバックによって、代償動作が出ない範囲での運動は行えるが、あくまで代償動作が出ない範囲の運動であるため、代償動作が出現する肢位での運動パターンの変化には結びつかなかったのではないかと考えられた。一方、SL法では肩甲骨外転距離やTUのIEMGが減少した。これについては仮説で考えたように、挙上運動時に運動の拘束条件として肩甲骨の動きを制限したことで、TUによる代償動作が行ないにくくなり、肩甲骨の動きを用いない動作が可能になったためではないかと考えられた。そうすることで代償を用いないパターンでの運動学習が行え、座位での運動パターンの改善に繋がったのではないかと考えられた。また、SL法は無意識下での運動が可能であるので、ホームエクササイズとしての指導が容易であり外来通院患者のSHR獲得の一助にもなりうるのではないかと考えられる。ただ、SL法は本症例のように疼痛がない場合には適応できるが、SL法が疼痛を惹起するような症例に対しては禁忌であると考えられる。そういった症例に対してどういった方法を用いるかについては今後の課題である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>患側を下にした側臥位でのアプローチがSHR獲得に及ぼす影響について明らかにすることで、局所の状態は改善しているにもかかわらず肩甲骨挙上のパターンを呈している症例に対するSHR獲得への介入方法の一助となり得る。
著者
溝口 桂 川端 悠士 南 秀樹 田口 昭彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db0573-Db0573, 2012

【はじめに】 糖尿病療養に於ける運動療法の自己効力感(self-efficacy;SE)を高める教育は,運動療法へのアドヒアランスを向上させる為に効果的である.またSEの向上は生活習慣の改善に結びつき糖尿病の治療や予防に有効であるとされている.糖尿病を対象とした運動療法の効果に関しては緒家らにより多く報告されているが,運動療法前後の自己血糖測定(selfmonitoring of blood glucose;SMBG)がSEに与える影響を検討した報告は渉猟の範囲では見当たらない.そこで,今回糖尿病教育目的で入院となった患者に対し,アンケート調査にてSMBGによるSEの有効性を検証し,当院の運動療法効果を立証すると共に考察を得たので報告する.【方法】 2010年7月から11月の間に糖尿病教育目的で入院した20例(男性14名,女性6名)を対象とした.病前から日常生活自立度が低い者(日常生活自立度判定B以下),高度な認知機能の低下によって調査理解困難な者,重篤な合併症(3大合併症,それ以外)を有する者は除外した.介入方法としては対象者をSMBG実施群(以下,介入群:男性8名,女性4名:平均年齢66.1±12.4歳)とSMBG非実施群(以下,コントロール群:男性6名,女性2名:平均年齢58.9±14.3歳)にランダムに割り付け,運動療法後,SEに関するアンケート調査を自己記入式で行った.(使用機器:テルモ株式会社 メディセーフ)運動療法に関しては両群共に同プログラム(ストレッチ等の準備体操・整理体操と主運動:約40分)を実施した.主運動は快適な負荷での自転車エルゴメータとし,運動強度は自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)13レベルとした.身体機能に偏りがないように男女比,年齢,行動変容段階を2群間で比較した.SEの指標には,Marcusらが作成した「運動実施に対する自己効力感」の5項目(天気が良くない時,時間がある時,時間がない時,気分が乗らない時,疲れている時)を用い,運動する自信があるか否かを絶対出来るから(5点)絶対出来ない(1点)の5段階リッカート式尺度で尋ね,その合計(5~20点)で比較した.統計学的解析は介入群,コントロール群の2群間の比較に当たって,男女比の比較にはχ<sup>2</sup>検定,年齢の比較には対応のないt検定,SEの比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.いずれの検定も統計学的有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者には調査の趣旨を説明し,口頭での同意を得た.【結果】 対象者の属性(男女比,年齢差,行動変容段階)に偏りはなく,コントロール群より介入群の方がSEが得られている結果となり,雨(雪)が降っている時,時間にゆとりがある時,疲れている時,そして各項目の合計点で有意差が見られた.またSMBG後は「こんなに変化があるのか」等のコメントも見受けられ,納得した様子の反応もあった【考察】 当院では糖尿病教育患者は4回/日の血糖測定を実施しており,1日の中での血糖値の変化は知る事が出来るが運動療法の効果としての情報とはなっておらず,今回は運動療法の効果を血糖値の変化と言う視覚的な情報を追加し体感した為,理解が深まり活動性を維持・向上させる可能性が示唆された.SEとは「ある結果を生み出す為に必要な行動を,どの程度うまく行うことが出来るかと言う個人の確信の程度」を表すもので,行動変容を促す際に重要な視点となるとされている.努力すれば自分もここまで出来ると言う自信や意欲を高める為に,4つの情報源(達成体験,代理体験,言語的説得,生理的・情動的喚起)を通し生み出されるものであると考えられており,SMBGによって情報源の1つである生理的・情動的喚起に働きかけが出来た事が示唆された.生活習慣を望ましい方向に変容させる介入を行う際,より効果が得られる情報源を中心に取り入れ,積極的に働きかけを行う事が推奨されている.井澤らは,患者の主観的健康度・機能状態(健康関連QOL)の向上を目指した運動療法の方法論を構築していく際に,身体活動自己効力感に着目する事は重要な視点となるとしており,今後も継続して行きたいと考えている.しかしSEへの働きかけは退院後の活動性の向上が期待されるが,本研究の限界としてあくまでも短期的な効果であり,長期的な効果は未検討のままである.今後は,HbA1c等をパラメータに加え長期的な治療効果を検証する予定である.【理学療法学研究としての意義】 本研究にて運動療法前後のSMBGによってSEの改善が得られる事が明らかとなった.入院期間短縮の風潮もあり早期退院となり,退院後に活動性が消極的になる事が報告されているが,運動療法の意義の理解により活動性継続・向上が期待される.また生活習慣,行動変容の段階の変化にもSEが要因に挙げられており,それらの改善も期待される.
著者
村山 慶隆
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P3172-E3P3172, 2009

【はじめに】パーキンソン病では、自宅でのトイレ動作が日中は自立しているが、夜間は時間を要する、また、介助になるケースも少なくない.そこで今回、夜間のポーダブルトイレ(以下、Pトイレ)動作が困難な利用者に対して、その手順や動線のプロセスで必要な環境調整を行ったので報告する.<BR><BR>【症例と評価】52歳・男性.疾患はパーキンソン病・腸閉塞.ADL・基本動作は、夜間はトイレ要介助、屋外歩行軽介助以外は自立.Yahr2であり、歩行時に小刻み・突進現象がある.自宅での生活状況は、冬場は夜間のトイレ回数増加、同居の母親は高齢認知症のため、介護力は不十分である.居室は段差などのバリアはなく、電動ベッド上にリモコン・ブザー・枕・電気毛布などがあるため、ベッド機能が発揮しづらい状況にある.Pトイレはベッドの近くにあり、移乗用のベストポジションバーを設置している.これら本人と環境の双方を評価した結果、内服薬の効果が少ない夜間、プロセスの開始であるベッドからの起き上がり動作が困難であることが判明した.時間帯・家族・トイレのタイミングなどから、人による介助は困難であり、起き上がりも含めた一連の動作自立を目標とした.<BR><BR>【方法と結果】無駄な手順の回避や安全を考慮し、電動ベッドの機能を利用した起き上がりが自立できるような環境調整を行った.1.リモコンの位置設定、2.ベッドアップ角度設定、3.ベッドアップ時にブザーが落ちないように固定、4.3同様に枕の固定、5.端座位時に電気毛布のコードが足に引っ掛からないように固定、6.端座位時に両足が下ろしやすく、掛布団が落ちないように柵の選定を行い、動作練習の結果、一連の動作が自立した.<BR><BR>【考察】生活習慣や家族・住宅・季節・時間など、環境の影響を受けやすい個別の生活動作は、心身機能だけでなく、本人に関連する生活・介護状況も十分に評価すべきである.また、生活動作は1つの動作を切り取らず、リモコンを探してから布団を掛けて寝るまでなど、動作手順と動線の2つの流れ評価が必要である.さらに、身体機能の低下を身体機能そのものの向上で補うこともできるが、環境の機能も利用することで、より実用的な自立が実現できる.生活動作の一連の流れは、理学療法士(以下、PT)の専門性である起居・移乗・移動によって1つ1つの動作がつなげられていることが多い.PTが生活動作の自立への手段として、環境の機能を活かす利点は、1.身体機能を熟知している、2.残存機能を効果的に発揮できる、3.生活動作の基礎となる具体的アプローチができる、4.相乗効果での自立度向上・介護量軽減、などが挙げられる.本人と本人を取り巻く環境を含めた生活機能全般を見渡すこと、そして、その中にある課題と課題をつなげ、環境の機能を利用することで、これまでよりPTの専門性に深みが増すと思わ
著者
丸居 夕利佳 青木 美幸 田原 岳治 小川 鶯修 相馬 俊雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P1505-D3P1505, 2009

【はじめに】近年,糖尿病(以下,DM)患者やその家族などを対象に,様々な取り組みが実施されている.当院では,毎月DM教室を行い,理学療法士(以下,PT)等が,講義やDMウォークラリー(以下,DM-WR)などを開催している.そこで今回,当院におけるDM-WRの活動内容の紹介と,参加者のセルフエフィカシー(以下SE)について調査・検討したので報告する.<BR><BR>【対象】対象は,平成20年5月及び9月に開催されたDM-WRに参加した28名(DM罹患者15名,DM非罹患者13名:男性5名,女性23名,平均年齢66.0±14.6歳)対象者には,調査に先立ち調査の内容を説明し同意を得た.<BR><BR>【方法】対象者は血圧および血糖値測定後,全長約3.5kmのコースをウォーキングした.途中,水分補給およびDMクイズを約15分実施した.約60分でゴールし,血圧測定後,アンケートの記入を行った.<BR><BR>【アンケート内容】アンケートは3因子で構成されており,疾患に対する対処行動の積極性(14項目),健康に対する統制感(9項目),運動に対する積極性(7項目)の合計30の質問項目になっている.回答は5件法で行い,得点が高いほど自己効力感が高いことを示す.アンケートはDM-WR終了後,その場で回答し,1ヶ月後に同様のアンケートを使用し郵送で追跡調査を行った.<BR><BR>【結果】アンケートの各因子の平均値は,疾患に対する対処行動の積極性・健康に対する統制感・運動に対する積極性の順に実施直後:4.2点,4.1点,4.3点,1ヵ月後:4.3点,4.0点,4.3点であった.各回の最高得点項目と最低得点項目の平均値はそれぞれ,実施直後で「DMの自己管理に運動が必要であることを知っている」4.8点,「適度な運動を計画通りに続けることができる」3.7点で,1ヵ月後で「医師や看護師を信頼できる」4.9点,「適度な運動を計画通りに続けることができる」と「規則正しい生活を送ることができる」3.6点であった.<BR><BR>【考察】この調査を実施する過程では,1ヶ月後のSEの点数が実施直後よりも低下すると考えていたが,著明な変化は見られなかった.DM-WRの参加者は元々DM治療に主体的に参加していると考えられるため,DM-WRがSEを向上させる程の刺激に成り得なかった可能性がある.運動継続性のSEに関しては,実施直後と1ヶ月後共に点数が低い傾向が見られた.今回のDM-WRのような企画型イベントに参加するだけでは,自ら運動を計画し,継続する啓発効果までは十分に得られないと推測される.このことから行動変容に対する介入が重要であると考えられた.今後はSEアンケートの妥当性の検討,DM-WR前後のSEの調査及び検討,行動変容に対する効果判定など更なる検討が必要だと考える.
著者
若田 真 山田 純生 河野 裕治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P2494-D3P2494, 2009

【目的】<BR>有疾患者や高齢者において上肢運動は下肢運動に比べ呼吸困難感(DOB)が強い.これまでDOBに上肢運動における胸郭と腹部の非同期呼吸パターンが関連することは明らかにされているが、上肢運動における呼吸数依存の換気量増加や一回換気フローボリューム曲線の位相変化など、その他の要因との関連は不明である.呼吸数依存性換気量増大は、一回換気時間の短縮による呼気速度の増大や、位相変化が生じた場合は各肺気量位での呼気気流の予備量が異なってくるとともに、呼気気流制限(EFL)の誘因になると考えられる.以上より、本研究は上肢と下肢の運動様式の違いがEFLならびに位相変化の発生に関連するか否かを検討することを目的とした.<BR>【方法】<BR>喫煙歴、肺疾患歴のない健常女性10名(年齢21.9±1.4歳,身長:157.6±7.0cm,体重:49.4±5.7kg)を対象とした.まず、上肢運動はアームエルゴメータ、下肢運動は自転車エルゴメータを用いて心肺運動負荷試験を行い、最高仕事量の80%(80%peak watts)を上肢運動の強度とした.下肢運動の強度は、上肢運動の定常負荷時の分時換気量(VE)と等しくなる負荷量とした.定常負荷試験は5分間の安静の後、0wattsのwarm-upを3分間行い6分間の定常負荷運動を行うものとし、負荷開始4分目と6分目に呼気ガスマスク装着のままフローボリューム曲線を測定した.運動中は呼気ガス指標ならびに心拍数を連続的にモニターし、1分間隔で呼吸困難感と上肢・下肢疲労感(修正Borg指数)を測定した.以上より、運動4分目と6分目の各指標を比較し、また運動時の最大フローボリューム曲線と一回換気フローボリューム曲線との位置関係より、EFLの発生の有無ならびに位相変化を評価した.本研究は、名古屋大学医学部倫理委員会保健学部会で承認を得た (承認番号8-514) .<BR>【結果】<BR>上肢運動と下肢運動における定常運動負荷開始後4分目と6分目のVEには有意差はなかった.上肢運動における換気量の増加は下肢運動と比較して、一回換気量の増大は少なく呼吸数増加によるものであった.しかし、運動時一回換気フローボリューム曲線による評価ではEFLの発生は確認されなかった.また、上肢運動では一回換気量増加に伴う吸気終末肺気量の増加量が下肢運動と比較して有意に低下しており、下肢運動時の一回換気フローボリューム曲線と比較して右方偏位していることが観察された.<BR>【まとめ】<BR>本研究では、EFLの発生は確認されなかったが、上肢運動は下肢運動と比較して、呼吸数優位な換気増加パターンであることが示されている.また、上肢運動では一回換気フローボリューム曲線が右方偏位することが確認され、換気増加パターンとあわせて換気量増加に伴いEFLを起こしやすいことが示唆された.
著者
竹内 真太 西田 裕介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A1Sh2025-A1Sh2025, 2010

【目的】<BR>ヒトの歩行や走行中、心拍リズムと運動リズムが近付いた際、2つのリズム間で同期現象を示すことが報告されており、この現象はCardiac-Locomotor Synchronization(CLS)と称されている。CLSの生理学的意義の1つとして、活動筋の弛緩のタイミングと心臓の拍動のタイミングが一致し、筋内圧が下がった時に筋へ血液が流入することで、活動筋への血流量が最大化することが推測されている。我々は、先行研究にてCLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数と酸素摂取量を比較し、心拍数に差がない状態でも、酸素摂取量はCLSを誘発した歩行で高値を示すことを確認した。このことからCLSを誘発することにより歩行中の動静脈酸素含有量格差に差が出ることが推測された。本研究では、CLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数、酸素摂取量、下腿筋血流量を測定し、CLSの生理学的意義を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】<BR>対象は心血管系疾患の既往がない若年男性8名(年齢21±2歳、身長169.6±3.53cm、体重57.7±4.20kg(平均±標準偏差))とした。対象者は心電図用電極、右踵部にフットスイッチ、左下腿外側に筋血流量計プローブ、呼気ガスマスクをそれぞれ装着し、対象者が運動リズム120step/min、心拍数120bpmとなるトレッドミル速度と傾斜を決定した。次に、以下の2つのプロトコルを実施した。プロトコル1では、CLSを誘発するため、対象者は先に決定したトレッドミル負荷にて、120beats/minのブザーに合わせた歩行を約5分間行い、心拍数が定常状態に達した後、心電図計からのブザーに歩行リズムを合わせた。呼吸リズムは歩行リズムとの比率が1:4となるよう指示し、その際の呼気と吸気の比率は1:1とした。対象者は定常状態にて10分間歩行を行った。プロトコル2では、同様のトレッドミル負荷にて5分間のウォーミングアップを行い、その後定常状態にて10分間の自由歩行を行った。定常状態での10分間を測定期間とした。2つのプロトコルの順はランダムに実施された。プロトコル1から導出された心拍リズムと歩行リズムを用いて、2つのリズム間の結合度を示す指標、位相コヒーレンス(λ)を1分毎に算出した。λは0から1の数を示し、高値であるほど2つのリズム間の結合度が高いことを表す。プロトコル1にてλが0.6を超えている部分をCLSが発生しているととらえ、CLS発生時と自由歩行時を対応のあるt検定にて比較した。またCLSの発生している時間数と、CLSを誘発した歩行と自由歩行の平均値の差(プロトコル1-プロトコル2)の関連を、スピアマン順位相関係数検定を用いて検討した。有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には口頭にて実験の主旨を説明し、同意書にて参加の同意を得た。本研究は、聖隷クリストファー大学の倫理委員会の承認のもと実施した。<BR>【結果】<BR>プロトコル1にて8人中7人の対象者でλが0.6を超える部分が観測された。CLS発生時と自由歩行時の比較の結果、酸素摂取量はCLS発生時が29.13ml/kg/min、自由歩行時が28.19ml/kg/minでありCLS発生時で有意に高値を示した。筋血流量を示すと考えられるTotal HbはCLS発生時が17.91g/dl、自由歩行時が17.58g/dlでありCLS発生時で有意に高値を示した。心拍数には有意差は認められなかった。CLSの発生している時間数と2つのプロトコル間の差の関連は、Total Hbにて相関係数0.70(p=0.07)、酸素摂取量にて相関係数0.61(p=0.10)であった。<BR>【考察】<BR>酸素摂取量と心拍数では、我々の先行研究と同様の結果が確認された。また、CLSが発生している際に筋血流量が増加することが確認された。更にCLSの発生している時間が長い対象者ほど、自由歩行時よりもCLSを誘発した歩行で筋血流量、酸素摂取量が高値を示す傾向がみられた。以上のことから、CLSが発生している歩行では、同負荷の自由歩行と比較して、筋血流量が増加し、その結果、活動筋への酸素供給量の増大、それに伴うタイプ1線維の活性化、酸素代謝の亢進が起こり、酸素摂取量が増加することが推測された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>CLSは若年者よりも高齢者で、また、低強度よりも高強度において発生しやすいことが報告されている。このことは、運動による要求に対し、活動筋と心血管系を協応させることで血液循環の効率化を行い対応した結果であると考えられる。CLSを誘発することによって、運動中の心血管系と活動筋間の協応を導くことができる可能性があり、今後検討を行うことで、高齢者や心疾患患者に対する運動療法として応用できると考えられる。
著者
田中 美香 西田 宗幹 大平 雄一 植松 光俊
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1087-E1087, 2006

【はじめに】早朝や準夜帯における理学療法(以下、PT)の必要性が言われて久しいが、その客観的な効果を検証した報告は少ない。我々は自宅退院後の活動量の増加に伴い疲労感や痛みの訴えを認め、入院中の活動量不足、特に夕食後から消灯までの時間の活動量が低いことを報告した。この問題を改善するため当院でも遅出PTプログラムの実施(以下、遅出PT)を導入した。本研究ではこの遅出PTにより身体活動量がどのように変化するのかを検討した。<BR><BR>【対象および方法】対象は当院回復期リハビリテーション病棟入院女性患者7名(84.4±6.6歳)、Barthel index84.3±7.9点、整形外科疾患2名、脳血管障害3名、内科疾患2名であった。遅出PTの対象は、退院を約1ヶ月以内に控えた患者とし、その実施は週3回、17時~21時とした。夕食前後は移動および整容動作の確認を行い、夕食1時間後の19時頃からセラバンド等を用いた集団体操と、個別トレーニングを組み合わせて実施し20時30分までに終えて、就寝の準備を始めるようにした。<BR> 身体活動量の評価にはベルトにて臍部の高さ腹部中央に装着した携帯型動作加速度装置アクティブトレーサー(GMS社製AC-301)を用い、加速度設定は0.05、0.15、0.2Gの3CHとし、各CHでの総カウント数を身体活動量とした。計測は遅出PT実施前の不特定日と、実施後の遅出PT実施日、1日の17時~21時時間帯で行い、それぞれ1時間毎の時間帯別の比較をした。また、前回報告の退院後在宅活動量との比較も実施した。統計は遅出実施前後の身体活動量の比較にpaired t-test、在宅での身体活動量との比較にunpaired t-testを用い、有意水準1%とした。<BR><BR>【結果】17時~21時までの平均総カウント数の遅出PT実施前・後比較では、それぞれ0.05Gで12173±632→24234±2498、0.15Gで1696±225→4170±2499、0.2Gで473±207→1102±182とすべての加速度領域で遅出PT実施後有意に増加した(P<0.0001)。時間帯別の比較では、19時帯で0.05G、0.15Gで(P<0.001)、0.2G(P<0.0001)、20時帯では全ての加速度領域で実施後、有意に増加した(P<0.0001)。前回の退院時在宅身体活動量との比較では、全てにおいて有意差は認めなかった。<BR><BR>【考察】身体活動量は有意に増加しており、時間帯別比較からも夕食後から消灯時間までの身体活動量を向上させる上で有効であることがわかった。さらに、今回の遅出PTが在宅での身体活動量とほぼ同様の活動量が獲得できたことから、在宅生活に向けての準備として適切であると考えられる。また、遅出PT実施中の患者は笑顔が多く、その参加を楽しみにしている反応から生活の質への効果も推測できた。<BR><BR>
著者
樋口 由美 北川 智美 岩田 晃 小栢 進也 今岡 真和 藤堂 恵美子 平島 賢一 石原 みさ子 淵岡 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101447-48101447, 2013

【はじめに、目的】中等度以上の身体活動を継続することは、心血管病、大腸ガン等の発症率低下のみならず、生命予後の延伸にも寄与することが知られている。しかし一方で、デスクワーク、テレビ視聴等の座ってすごす時間(座業時間)が長いと、同程度の身体活動を習慣にしていても、座業時間が短い人々に比べて死亡率の上昇が報告されるようになった。ただし、中壮年以上のコホート研究で報告されており、座業が高齢者に与える影響については不明な部分が多い。 本研究は、中等度以上の身体活動を習慣にしている高齢者の座業時間と、運動機能および生活機能との関連を検討することを目的とした。【方法】大阪府南部に位置するH市で、介護予防事業の拠点施設を定期的に利用する者を対象に研究参加ボランティアを募集した。応募した60歳以上の男女127名に対し、平均的な1週間の身体活動量を質問票にて調査した。質問票は、国際標準化身体活動質問票IPAQ(短縮版)を用いた。調査の結果、中等度(4METs)以上の身体活動を習慣にしている者97名(女性71名、平均年齢73.9歳、61-90歳)を分析対象者とした。同じく質問票より1日当たりの座業時間を調査した。座業時間とは、座って行う作業、テレビ視聴、おしゃべり等の合計時間であり、睡眠時間は含まない。運動機能は、5m通常歩行時間とTimed up & go test(以下TUG)を測定した。5m通常歩行時間は、11m歩行路の中央5mの所要時間を計測した。TUGは原典と同じく通常歩行の速さで計測した。生活機能は、老研式活動能力指標(13点満点、高いほど良好)にて調査した。座業時間と運動機能および生活機能の関連を分析するため、1日の座位時間が6時間以上の群と6時間未満の群に2群化し、年齢を共変量とした共分散分析を用いて男女別に解析した。なお、基準とした6時間は先行研究を参考とした。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。なお、本研究科研究倫理委員会の承認済みである。【結果】分析対象者の1日の座業時間は平均4時間19分であり、男性の平均は4時間52分、女性は4時間7分と女性の方が座業時間の短い傾向を示した。座業時間による2群化は、男性では6時間未満(n = 19)、6時間以上(n = 7)、女性は6時間未満(n = 50)、6時間以上(n = 21)であった。なお、座業時間2群間でBMIに男女ともに有意差を認めなかった(男性:6時間未満22.0、6時間以上21.8 女性:21.5、21.3)。運動機能に対する共分散分析の結果、男性の座業時間6時間未満群は、5m歩行時間の平均値が3.8秒、6時間以上群が4.0秒であった。女性では6時間未満群3.4秒、6時間以上群3.8秒と座業時間の延長に伴い有意に歩行時間が遅延した。TUGでは、男性の6時間未満群が8.1秒、6時間以上群8.8秒、女性も各々7.0秒、7.5秒であったものの、年齢調整後の分析結果では有意差を認めなかった。生活機能に対する共分散分析では、男女ともに座位時間と老研式活動能力指標との間に統計学的関連を認めなかった(男性:6時間未満11.5点、6時間以上12.1点 女性:12.3点、12.0点)。【考察】中等度以上の身体活動を習慣とする高齢者において、1日の座業時間が6時間以上の女性は、年齢調整後も有意に歩行速度が低下していた。従来、中等度以上の身体活動を日常生活に取り入れることは、健康状態や生命予後に良好な影響を与えることが明らかであるが、座って過ごす時間の延長は、高齢期においても身体活動がもたらす好作用を阻害する可能性が示唆された。なお、男性でも同傾向を認めたが有意差に至らなかったことは、対象者数の少なさが要因の一つと考えられる。一方、生活機能が高い本研究対象者では、座業時間の影響は確認されなかった。【理学療法学研究としての意義】地域高齢者に対する予防的アプローチにおいて、中等度以上の身体活動を推奨すると同時に、座って過ごす生活時間(座業時間)にも留意することで介護予防さらに生命予後の改善が期待されること。
著者
兒玉 隆之 中林 紘二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O1045-A3O1045, 2010

【目的】脳内神経活動に伴う局所脳血液供給量の増加が報告(Roy, 1890)されて以来、さまざまな脳機能イメージングを用いた脳機能評価が報告されてきた。中でも、近赤外線分光法(Near infrared spectroscopy; NIRS)は、局在神経活動と相関する毛細血管の血行動態変化を反映することが示唆されており(Yamamoto, 2002)、脳機能評価には非常に有用である。しかし、原理的に空間分解能が低く、脳深部を含めて脳機能の局在を細かく決定することには困難を要する。そこで本研究では、表情のもつ情動刺激による課題を用いて、精神生理学的指標である事象関連電位(ERPs)P300成分の脳波・脳磁場解析プログラムLORETA(Low Resolution Brain Electromagnetic Tomography)による神経活動源推定と、NIRSによる脳血流量(Oxy-Hb)変動の同時測定を行い、時間的空間的解析による詳細な脳機能評価を試みる。<BR>【方法】対象は、健常ペイドボランティア20名(男性9名、女性11名、平均年齢27.5±4.1歳)。測定デザインはブロックデザインを用い、Taskを4回(Rest5回)施行した。Task時の課題には、情動的作用を有するヒトの「泣き顔」および「笑い顔」を標的刺激(出現率30%)、「中性」表情(出現率70%)をコントロールとした視覚オッドボール課題を用いた。測定方法は、脳波電極を国際10-20法に基づき、average referenceによりFp1・Fp2・F7・F3・Fz・F4・F8・T3・C3・Cz・C4・T4・T5・P3・Pz・P4・T6・O1・O2・Ozの部位へ装着、NIRS(日立メディコ社製, ETG-4000)も同法に基づきT3T4を端点とした3×5のプローブ(左右44チャンネル)を装着し、神経活動電位測定とOxy-Hb測定を同時に記録測定した。得られたERPsデータをもとに、Microstate segmentationによるP300成分出現時間域を算出後、LORETAによる課題施行時の脳神経活動解析を行い、Task時のOxy-Hb変動をNIRSにより検討した。<BR>【説明と同意】総ての被験者に、測定前に研究内容を説明し書面にて同意を得た。尚、本研究は久留米大学倫理委員会の承認を得て行った。<BR>【結果】Microstate segmentationの結果から、P300出現時間域は、「泣き顔」刺激課題時361~476ms、「笑い顔」刺激課題時367~482msとなり、LORETA解析では、「中性」、「笑い顔」に比べ「泣き顔」の刺激課題時に扁桃核、前頭前野で有意に高い神経活動を認めた(p<0.05)。さらに、NIRSにおいても、「笑い顔」より「泣き顔」の刺激課題時に前頭前野におけるOxy-Hbの増加を認めた。<BR>【考察】本研究は、脳機能を詳細に評価するため、LORETA解析による神経活動についての時間的空間的分解能と、NIRSによる脳血流動態の同時測定を行った。結果、前頭前野が担う認知機能は表情のもつ情動的作用の影響を受けることが強く示唆された。また、NIRSが脳神経系の電気的興奮過程を反映したものであることが明らかとなり、脳機能評価としてのマルチモーダルモニタリングとして有用であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳機能評価において、非侵襲的脳機能計測法であるLORETA解析とNIRSの同時測定は、詳細な時間的空間的解析の一助として理学療法学研究において有用であると考える。
著者
髙橋 龍介 萩原 礼紀 龍嶋 裕二 角田 亘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101495-48101495, 2013

【目的】人工膝関節置換術(以下TKA)施行患者の歩行解析は広く行われているが,その多くは片側TKAを対象としている.しかし,歩行は一側では成立しない動作のため,非術側の影響を受ける.また,変形性膝関節症(以下KOA)においては両側罹患している症例が多いために非術側の影響は顕著になる.特に,KOA患者の歩行時の訴えとして立脚期の疼痛が多い.そこで今回,両側KOA患者に対して両側同時TKAを施行された患者の歩行周期の区間時間比率に着目して,立脚期の時間変化を把握する目的で三次元動作分析を実施し,手術前後で比較・検討したために報告する.【方法】当院整形外科にて両側同時TKAを施行し,当科で術後に理学療法を施術した症例のうち,関節リウマチを除いた独歩可能な両側KOA8例(女性7例,男性1例)とした. 平均年齢74.1±5.0歳,全例横浜市大分類Grade4及び5,術後19.1日で退院した.術前の平均FTA右188.9±8.0°左191.6±8.1°,平均膝ROMは屈曲右122.0±14.1°左115.6±18.0°,伸展右-10.0±8.5°左-9.4±13.5°であった.測定日は,手術前日と退院前日に実施した.測定課題は,10mの直線歩行路上における自由歩行とした.測定前に複数回の試行を実施し動作に習熟させた後に5回測定した.被験者の体表面上位置に直径15mmの赤外線反射標点を貼り付け,空間座標データを計測した.測定は,歩行が定常化する4歩行周期目以降の位置に補正空間を設定し,空間内を移動する反射標点を三次元動作解析装置により撮影した.サンプリング周波数は120Hzとした.解析方法は,観測データをPCに取り込み,平均的な波形を抽出するために,最小二乗法により最適化を行い,位相を合わせ平均化した.計測した1歩行周期を,画像データから各歩行周期に分類した.歩行速度,左右重複歩距離・時間,歩行周期の区間時間比率を3次元動画計測ソフトにて求めた.測定された値は,5次スプライン補間により補正し,小数点2桁目を四捨五入した.対応のあるT検定にて左右脚と術前後での有意差を求めた.有意水準は5%未満とした.測定項目は平均±標準偏差で表記した.【説明と同意】主治医同席のもと,本研究の目的および方法について,十分に説明し書面にて同意を得た.本研究は,本学医学部の倫理委員会の承認を得ておこなった.【結果】術前の速度0.7±0.2m/sec,右重複歩距離86.1±17.5cm時間1.2±0.2sec,左重複歩距離85.6±17.0cm時間1.2±0.2sec,歩行周期の区間時間比率の右脚はHS-FF6.6±1.8%,FF-MS3.4±2.3%,MS-HO29.8±5.1%,HO-TO16.1±3.5%,TO-HS44.1±5.7%,左脚はHS-FF7.6±2.2%,FF-MS1.9±1.3%,MS-HO27.3±3.1%,HO-TO17.4±5.4%,TO-HS45.9±5.2%であった.術後の速度0.6±0.1m/sec,右重複歩距離84.9±13.2cm時間1.3±0.1sec,左重複歩距離84.2±12.9cm時間1.3±0.1sec,歩行周期の区間時間比率の右脚はHS-FF6.3±1.6%,FF-MS2.3±1.1%,MS-HO34.6±3.7%,HO-TO13.4±2.4%,TO-HS43.5±2.8%,左脚はHS-FF7.3±1.3%,FF-MS2.1±1.4%,MS-HO32.1±7.3%,HO-TO12.5±5.3%,TO-HS46.0±4.9%となった.比較した左右脚と術前後すべての項目において有意差は認められなかった.【考察】測定した項目は左右同様の傾向を示し,平均値を術前後で比較するとMS-HOが拡大し,HO-TOが短縮する傾向を示した.これは,TKAによってアライメントが矯正され,術後の理学療法で再獲得したアライメントに合わせた効率的な運動学習が得られたことで,片脚で安定した荷重制御が可能となりHOのタイミングが延長されたと考えた.術前後で有意差が認められなかったことは,術後2週間で自由歩行は可能となったが術前の状態を上回るほど改善には至らなかったためと考えた.しかし,片側TKA後に1~2週では歩行能力は低下し,3~4週に術前の状態を上回るとの先行研究がある.そのため,今後に術前の状態を上回ると予測されることから,引き続き経時的に変化を追って状態を把握する必要がある.【理学療法研究としての意義】今後増加する高齢手術対象者に対応するため,術後により効率的な理学療法を行うことが必要となる.そのためには,詳細な動作様式を把握し,術前より術後の状態を予測することが重要と考える.
著者
三浦 雅史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P3563-G3P3563, 2009

【目的】理学療法学とは基礎知識を習得した上で正確な技術を要求される実学であることは言うまでもない.よって、理学療法教育では理学療法評価や治療に関する理論を理解し、さらに実践できる能力を身につけさせることが重要である.一般的な教授方法としては、その技術に関する理論を説明し、次に教員によるデモンストレーション、学生同士の実技といった流れである.しかし、このような技術を習得するには多くの時間を要し、正規の時間内に習熟できない場合が多い.結果として、学生は空き時間を利用したり、学期末テスト直前に学生同士で実技練習が行われる.しかし、学生同士の実技練習が正確に行われているかは甚だ疑問である.そこで、教育方法の改善の一環として、講義・実習を電子媒体化する方法を試みた.本研究では講義・実習の電子媒体化に関する試みを紹介し、試行後のアンケートから今回の取り組みについて検討した.<BR>【方法】調査対象は平成19年度、本学の2年生であった25名とした.対象に調査目的およびアンケートの取り扱い等について説明し、同意を得た上でアンケート調査に協力いただいた.調査対象とした科目は著者が平成19年度後期に担当した「運動器障害理学療法学実習」、「義肢装具学」である.いずれも2年次に開講される必修科目である.講義回数は「運動器障害理学療法学実習」では2コマ連続で13回(計26コマ)、「義肢装具学」は1コマを13回実施した.<BR> 電子媒体化の具体的な方法は以下の通りである.まず、講義等をデジタルビデオカメラで録画した.この録画映像を光ディスクであるDVDに書き込んだ.DVD1枚に対し、講義または実習1回分について保存した.このDVDを学生に対し、自由に貸し出した.<BR> 平成19年度後期終了後、DVD活用に関するアンケート調査を実施した.アンケート内容は、DVD利用の有無、DVD利用の目的、DVD利用枚数、DVD利用の効果等について無記名で実施した.<BR>【結果とまとめ】アンケート回収率は100%であった.DVDを利用した学生は22名、利用しなかった学生は3名であった.利用しなかった3名の意見としては「他の学生に借りられていた」、「時間が取れなかった」であった.DVDを利用した22名について、DVDの利用枚数は平均8枚であった.DVD利用の目的としては「教員の解説の確認」、「実技内容の確認」、「テスト勉強の一環」で占められていた.DVD利用の効果については「少し効果あり」が8名、「かなり効果あり」が14名であり、「効果なし」と答えたものはいなかった.アンケート結果より、多くの学生がDVDを利用し、なおかつ、その有効性を認めていた.特に理学療法評価や治療手技については、実技を動画で確認できたことから高い学習効果を認めていた.今後は、今回の試行をさらに改良し、よりよい教育方法について検討したいと考えている.
著者
久保田 珠美 藤井 満由美 末廣 淳 廣瀬 賢明 武智 あかね
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B2S2027-B2S2027, 2009

【はじめに】重症心身障がい児・者に対しての腹臥位の効果は染谷らが主張しており、当センターでは呼吸機能に問題を有する経管栄養の入所者に対し、数年前から積極的にその導入を試みている.その対象である10名のうち7名が、日中の数時間から睡眠時に腹臥位を導入している.今回、その中でも腹臥位の受け入れがよかった1例と慣れにくかった1例の呼吸機能と胸郭の変形について経時的変化を追ったので報告する.なお、今回の研究では保護者の了解を得ている.<BR>【方法】呼吸機能はSpO<SUB>2</SUB>、胸郭の非対称性は烏口突起から上前腸骨棘までの距離とCobb角で測定した.<BR>【症例】<U>症例1</U>: 6歳女児.インフルエンザ脳症後遺症による四肢麻痺.GMFCSレベル5で喉頭軟化症を認める.胸椎右凸Cobb角21°・胸腰椎左凸Cobb角20°の側彎を呈している.2歳時、上気道喘鳴があり、痰・唾液の量も多かった.座位保持椅子に座らせられないほど常に反り返っていたため、前傾座位から練習した.3歳時での入所に伴い病棟でも股関節を軽度屈曲位の四つ這い様姿勢で過ごすようになった.5歳時より夜間の導入もはじめ、現在一日90分を4回行っている.結果として、呼吸機能ではSpO<SUB>2</SUB>が94%以下に下がる日数は減ったが、胸郭の非対称性は若干の増悪を認めた.<U>症例2</U>:8歳女児.脳性麻痺による痙直型四肢麻痺.GMFCSレベル5.胸椎左凸Cobb角60°・胸腰椎右凸Cobb角58°の側彎を呈している.H19年よりPT場面で四つ這い様の腹臥位の検討を開始したが、感覚の過敏性があることでけいれんの頻発やSpO<SUB>2</SUB>が80%台に下がるなど拒否が強く週2回のPT場面でしか実施できなかった.しかし、下顎の後退に伴う呼吸状態の不安定性を改善するためH20年5月に本人用の腹臥位装置を完成させ2ヶ月間PT場面で使用することでSpO<SUB>2</SUB>が安定してきたため、7月より病棟での使用を開始し、現在一日40分を2回行っている.結果として、呼吸機能ではSpO<SUB>2</SUB>が94%以下に下がる日数が減り、胸郭の非対称性も減少した.<BR>【考察】重症心身障がい児・者にはバリエーションの多い姿勢をとらせることが必要であると考えられるが、腹臥位は窒息などの心配から日常生活の姿勢としては受け入れられにくい.しかし、当センターの活用状況をみると、頭部のコントロールが難しく嚥下や呼吸に課題のある場合には、気道の正中位保持や痰が従重力に排出されるなど、まず健康状態の改善が図れたことで病棟での活用の幅・時間が増えた.同時に腹臥位では、骨盤・下肢の重みからくるねじれが防止でき、本人に適した腹臥位装置で体幹の短縮部を持続的に伸張することで、変形の進行を防止する一手段になると思われる.今後もこの2症例に対し、継続的に経過を追っていきたいと考える.
著者
鈴木 静香 田中 暢一 村田 雄二 永井 智貴 高 重治 正木 信也
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48102087-48102087, 2013

【はじめに、目的】 我々は、第47回日本理学療法学術大会において、結帯動作の制限と考えられる筋に対してストレッチを施行し、結帯動作の即時効果の変化を捉えた。そして、結帯動作の制限因子は、烏口腕筋、棘下筋であることを報告した。その後、「烏口腕筋・棘下筋は介入回数が増えることでより効果が増大し結帯動作は改善するのではないか?」また、「小円筋は介入回数が増えることで効果が出現し結帯動作は改善するのではないか?」という疑問が出てきた。そこで今回は、前回介入した筋に対して、介入する回数を増やし結帯動作の変化を捉えることを目的に研究を行なった。【方法】 対象は左上肢に整形外科疾患の既往のない健常者10名(男性7名、女性3名、年齢22~36歳)とした。結帯動作の制限因子と考えられる烏口腕筋、棘下筋、小円筋を対象とし、これらの筋に対してストレッチを週2回を2週間、計4回実施した。結帯動作の評価方法は、前回同様、立位にて左上肢を体幹背面へと回し、第7頸椎棘突起から中指MP関節間の距離(以下C7-MP)を介入前後で測定し比較を行った。各筋に2分間ストレッチを実施する群(烏口腕筋群、棘下筋群、小円筋群)とストレッチを加えず2分間安静臥位とする群(未実施群)の計4群に分類し、複数回の介入による結帯動作の経時的変化を検討した。よって、1回目介入前の値を基準値とし、C7-MPの変化は、基準値に対し各介入後にどれだけ変化したかを変化率として統計処理を行った。また、それぞれの筋に対する介入効果が影響しないよう対象者には1週間以上の間隔を設けた。統計処理では、各群について、複数回の介入による結帯動作の変化を検討するために対応のある一元配置分散分析を用い、多重比較にはTukey法を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に対して事前に研究参加への趣旨を十分に説明し、同意を得た。【結果】 棘下筋群の変化率の平均は、1回目10.8%、2回目11.4%、3回目15.7%、4回目19.5%であった。一元配置分散分析の結果、棘下筋群のみに有意差を認めた(p=0.0003)。しかし、多重比較では各回数間の有意差は認めなかった。また、烏口腕筋群や小円筋群や未実施群は、有意差は認めなかった。【考察】 結果では棘下筋群のみに有意差を認め、前回の介入でも棘下筋に効果を認めた。高濱らは、結帯動作の制限因子は棘下筋であると述べている。以上より、棘下筋に介入することで結帯動作を改善することができるとわかった。しかし、多重比較において、有意差を認めなかったため、どの回数間で効果が得られているのかを追究することができず介入回数についての考察に至ることができなかった。その原因としては、症例数が少ないことが考えられる。今後は症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組み、介入回数についても考察したいと考える。烏口腕筋では、前回、介入において即時効果を認めていたが、複数回の介入による結帯動作の変化は認めなかった。烏口腕筋は肩の屈筋であり、上腕骨の内面に付いているために伸展および内旋で緊張するという報告もあり、結帯動作における制限因子の可能性は高いと考えられる。しかし、今回有意差を認めなかった原因は、症例数が少ないことや、他にストレッチの強さや場所など方法になんらかの問題があったとも考えられる。今後、方法を確立した上で、症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組んでいきたいと考える。小円筋では、小円筋は介入回数が増えることで効果は出現し結帯動作は改善するのではないかと考えていた。しかし、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めなかった。高濱らは、結帯動作は肩の外転・伸展・内旋の複合運動であり、小円筋は内転位であるために下垂位では緩んでいると述べている。以上より、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めず、結帯動作における改善には小円筋は関係がないと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果より棘下筋に複数回介入することで、結帯動作の変化率はより増大することがわかった。臨床において結帯動作が困難な症例に対しての介入の一つとして有効である可能性がある。具体的な介入回数について追究できなかったため、今後の課題として取り組んでいきたい。
著者
貴志 真也 森北 育宏 片岡 大輔 木村 侑史 吉田 隆紀 小林 啓晋 鈴木 俊明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O3042-C3O3042, 2010

【目的】<BR> 剣道活動中の傷害発生率は他のスポーツに比べて低いものの、剣道を継続しているものには腰痛症が多く認められる点が剣道競技におけるスポーツ障害の特徴である(和久1991)。そこで今回、その要因を検討するための指標を得る目的に、剣道選手の脊柱Alignmentと脊柱筋の特徴について調査した。<BR>【方法】<BR> 立位姿勢と踏み込み動作姿勢の脊柱側面像のX-P撮影を行い、腰椎前弯度をL1椎体上縁とL5椎体下縁とのなす角をCobb法に準じて測定し、立位姿勢と踏み込み動作姿勢の比較と腰痛群と非腰痛群の2群の比較を行った。統計学的分析は、2×2(痛み×姿勢)分散分析を用いて各群間の平均値の違いを検証した。さらに、交互作用が認められた場合、Tukey HSDによる多重比較を行った。つぎに、MRIにて腰椎のT2強調画像の横断面像を撮影し、L3高位の多裂筋面積と大腰筋面積との比(多裂筋/大腰筋比)を測定した。多裂筋/大腰筋比は、左右の比較と左右平均値を腰痛群と非腰痛群の2群で比較した。統計学的分析はStudentのt検定を用いた。さらに、立位姿勢から踏み込み動作の腰椎前弯変化度と多裂筋/大腰筋比の相関性について調査した、統計学的分析は、Peasonの相関関係で求めた。有意水準は各々5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究の趣旨を説明し同意を得た大学男子剣道選手20名(大学で腰痛を経験したことがある選手:以下腰痛群10名と過去に腰痛を1度も経験したことがない選手:以下非腰痛群10名)とした。腰痛群は、全例がO大学の診療所にて筋・筋膜性腰痛症の診断を受けた症例である。本研究は大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科倫理委員会の承認を得た。<BR>【結果】<BR> 腰椎前弯度は、痛みの有無に有意な主効果が認められ(F(1,36)=14.74,p<0.001)、同じく立位姿勢と踏み込み動作姿勢においても有意な主効果が認められた(F(1,36)=68.29,p<0.001)。さらに、痛みと姿勢について有意な交互作用が認められた(F(1,36)=6.73,p(0.014)。その後の多重比較では、腰痛群と非腰痛群の2群とも立位姿勢に比べ踏み込み動作姿勢の腰椎前弯度が有意に増強した(p<0.01)。また、その増強は腰痛群が有意であった(p<0.05)。多裂筋/大腰筋比は、腰痛群・非腰痛群とも左右で有意差は認められなかった。また、左右平均値は腰痛群37.6±7.8%で非腰痛群61.0±21.6%に比べ有意に低値を示した(p<0.01)。多裂筋/大腰筋比が小さくなると腰椎前弯度が大きくなるという有意な相関が得られた(p<0.01)。<BR>【考察】<BR> 今回行った踏み込み動作姿勢のレントゲン画像による脊柱アライメントは、立位姿勢に比べ腰椎前弯度が有意に増強した。さらに、その腰椎前弯の増強は腰痛群が有意に大きかった。したがって、剣道競技における踏み込み動作は、腰椎前弯に伴うストレスが腰椎部に加わる特徴があり、腰痛群は特にその要素が強いと思われる。腰痛群において腰椎前弯度変化が大きい理由について、腰痛群の立位姿勢における腰椎前弯度が非腰痛群に比べて有意に少ないことが挙げられる。その要因として、多裂筋/大腰筋比が非腰痛群に比べ有意に少ないこと、多裂筋/大腰筋比が少ないと立位姿勢の腰椎前弯度も少ないという正の相関関係が得られたことなどから、多裂筋/大腰筋比の低下が考えられる。以上のことから、多裂筋/大腰筋比が少ないと踏み込み動作時の腰椎前弯変化が大きくなり腰痛を引き起こす危険性があるため、多裂筋を選択的に鍛え筋量を増やすことが腰痛予防につながると示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 近年、スポーツ医学の進歩に伴い、理学療法士がスポーツ選手の障害予防ならびに早期スポーツ復帰のための理学療法をドクターと連携し行うことが重要とされている。そのため、スポーツの競技特性を理解することは障害予防のリハビリテーション、早期復帰への理学療法を行う上で大切である。今回の研究は剣道競技の身体的特徴と腰痛の関係について調査した内容であり、剣道選手の腰痛予防、腰痛からの競技復帰に向けた理学療法を行う上において意義のあるものと考えています。
著者
西野 學 吉本 真樹 守山 知子 上坂 裕允 池田 聡恵 吉村 郁恵 片田 圭一 大浦 渉 浅利 香 西 耕一 内山 伸治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.426-426, 2003

【はじめに】COPD患者に対する包括呼吸リハビリテーション入院プログラム施行中に状態が悪化する症例を最近続けて経験し,リスク管理の難しさを再認識させられた.どのような状況で状態悪化が助長されたかについて検討したので報告する.【方法】1999年5月より2002年11月までに当院にて包括呼吸リハビリテーション入院プログラムを施行したCOPD患者のカルテを遡及的に調査し,状態悪化の有無,状態悪化をもたらしたと考えられる要因に関して検討した.【結果】2年7ヶ月の期間に33名が入院プログラムを終了していた.その内2名は合併疾患の治療のためにプログラムが途中で中止されていた.残る31名の内3名に状態悪化によるバリアンスが発生し,その内1名は入院中に死亡,2名はプログラムが一時休止され予定より延長されて終了していた.その3名の経過および初期評価時点での医学的データ等を以下に記す.<B>症例1</B>;79歳男性,身長168cm体重43kg,努力性肺活量(FVC)2.72L,一秒量1.36L,6分間歩行テスト( 6MWT)距離480m.7月下旬よりプログラム開始,週末毎に外泊繰り返し15日目入浴後に悪寒戦慄,発熱を認め肺炎合併.22日目死亡.入院前は過負荷の運動習慣があった. <B>症例2</B>;70歳男性,身長150cm体重45kg,FVC1.57L,一秒量0.64L, 3L酸素投与下6MWT距離300m.7月末よりプログラム開始,4日目より息切れ感じ始め10日目に熱発,肺炎を合併しプログラムを中断,再開しても外泊後微熱出現することあり3週間延長にて終了. <B>症例3</B>;74歳男性,身長158cm体重42kg,FVC1.92L,一秒量0.61L,6MWT距離440m.9月末よりプログラム開始,週末毎に外泊繰り返し22日目に熱発,肺炎を合併し6週間の中断の後再開して終了.外泊時家が寒かったとのこと.またその後の外出や外泊後に微熱発現傾向あり.入院前は月2回以上の頻度で体調をくずし近医を受診していた.【考察】今回の3症例においては1)運動に対してのモーチベーションが高すぎる,2)体調不良の自覚が不十分,3)生活環境の変化時に体調不良となる,という傾向が見られた.高齢の慢性呼吸器疾患の方はもともと日常生活上の活動性が低いため,環境の変化や急激な運動は予備力のない身体に過度のストレスを与えることになり,自覚症状の乏しい患者ではその傾向がさらに強くなる.これに対し医療者側としては,1)患者の体調を考慮した至適運動処方の徹底,2)気温・湿度など環境因子への配慮,3)より頻繁な他職種との情報交換,等によって患者の体調を管理する必要がある.包括呼吸リハビリテーション施行上の運動強度設定は高負荷での報告が多いが,今回の経験から,低めの設定でむしろリスク管理を徹底させる方がより賢明と思われた.
著者
源 裕介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101313-48101313, 2013

【はじめに、目的】歩行時立脚相において、足部アライメントの崩れは関節の安定性低下及び正常な関節運動の阻害を生じさせ、関節構成体及び軟部組織へ過度のストレスを作って疼痛を発生させる。このような症状は臨床上多く見られ、個々のマルアライメントに応じた理学療法が施行されることが通例である。今回、後足部回内不安定性により踵立方関節及び浅腓骨神経領域に強い歩行時痛を生じ、インソール療法にて回内不安定性の是正を実施するも疼痛消失に至らず治療に難渋したが、リスフラン関節可動性改善と踵部の補高を追加したところ、長期化していた歩行時疼痛の消失に至った症例を経験した。これらの経過と疼痛のメカニズム、理学療法についての報告を、考察を加えて以下に報告する。【方法】症例は60才代女性で、職業は病院内ワーカー業務である。平成24年1月初旬、歩行時左足関節外側部痛を生じ、経過とともに徐々に疼痛は悪化し、同年7月に歩行困難な状況になったため当院に受診した。初診時は疼痛性跛行が強く、左足部へは荷重困難な状態であった。理学所見では、関節可動域において背屈が両側共15°と制限を認め、後足部回内が健側15°患側20°と患側にて過可動性を認め、さらに前方引き出しテストにおいて、健側と比べて強陽性と不安定性が強かった。フットプリント上では静止時、歩行時共に後足部回内による扁平足の所見を認めた。圧痛は左足部外側から下腿外側のかけて広範囲に認めたが、特に足根洞付近と外果前方~下部にNRS10と強い疼痛が確認された。また、X線上にて距腿関節外側に小さな骨棘が確認され、同部位にて過回内しながら背屈強制をすると轢音とともに疼痛が出現した。理学療法では、まず足関節背屈可動域改善とインソールにて後足部回内制動、足趾屈筋筋力強化を実施したことで、理学療法開始5週目までにNRS5程度まで疼痛の改善が確認できた。また遠位脛腓間と距腿関節を安定させるテーピングを追加して施行後、理学療法開始10週目までにNRS3程度まで疼痛の改善が確認できた。その後は疼痛改善が停滞し、立脚中期から後期にかけてNRS3程度の疼痛が残存した。15週目に再評価を実施し、リスフラン関節第4・5列の背屈方向への可動性低下と距腿関節部の骨棘が原因と捉え、リスフラン関節可動性改善とインソールヒール部分の5mm程度の補高を実施、その後の経過を観察した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、口頭にて本発表の主旨を説明し同意を得た。【結果】リスフラン関節第4・5列の背屈方向への可動性改善、インソールヒール部分の5mm程度の補高を実施したことで、2週間後(理学療法開始17週目)5週間続いたNRS3の歩行時痛は消失、圧痛も踵立方関節にNRS3程度の軽度な疼痛の出現と、改善が見られた。【考察】本症例は、後足部回内不安定性に対し前足部外側可動性低下という特徴があったため、荷重時の関節圧縮応力がanstableな踵立方関節へ集中しやすい状態にあり、結果的に同部位に疼痛が残存していたと考えられる。これに加え、距腿関節のOA change、前方不安定性、外側の骨棘出現という状況に、後方tightnessによる距骨後方移動の減少が重なったため、立脚後期における正常な関節運動が阻害され、前方インピンジメントを起こしやすいという状況にあったと考えられる。これらの疼痛メカニズムの背景を考えると、インソールによる後足部回内不安定性の是正及び距腿関節背屈可動性改善のみでは疼痛消失は図れないことが考えられ、治療の追加としてリスフラン関節背屈可動性を改善し荷重時の関節圧縮応力を分散させ踵立方関節へのストレス軽減を図ること、また距骨の過度の後方滑り込みを是正し骨棘部分での前方インピンジメントを改善するため踵を補高すること、これらの2つの治療が本症例には必要であったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】足部の疼痛を見分ける際、骨及び関節の数が多いため、正確な疼痛部位の把握が難しい。今回のようなケースは、多数あるケースの中の一ケースではあるが、今後臨床で足部の疼痛を見極める際、参考になる一情報となればと考える。
著者
高橋 優 南谷 さつき 中東 真紀 石原 領子 長太 のどか 古屋 かな恵 張本 浩平
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101610-48101610, 2013

【はじめに、目的】 春日井市は、65歳以上の老年人口が20.1%であり全国平均と比較し現状の老年人口は若干少ない地域である。超高齢社会において高齢期の健康の保持と増進においては栄養は重要なものである。今回、在宅における栄養摂取の現状把握をMini Nutritional Assessment-short form(以下MNA-SF)を用い、実際に摂取している総カロリー量及びたんぱく質量と比較し若干の知見を得た。【方法】 評価期間は平成24年8月20日~平成24年9月15日の4週間とした。対象は、本調査の趣向を説明し同意を得られた、当訪問看護ステーションを利用している10名(男性6名・女性4名)、平均年齢75.3±8.9歳とした。 (1)栄養評価は、MNA-SFを用い、栄養障害の状態を栄養障害あり・低栄養のおそれあり・栄養障害なしの3つに分類した。栄養評価は、担当スタッフに検査方法を十分に説明し、(2)の開始前の訪問時に実施した。(2)摂取カロリー・摂取たんぱく質量については3食3日分の食前・食後の写真撮影を利用者または家族により実施した。写真撮影の漏れがないよう3食3日分の食事チェック表を作成し間食の記録も行なった。なお、外食に行かれた場合、撮影漏れ・撮影不良が起きた際は、1日分の食事を後日改めて写真撮影をするなど行なった。摂取カロリー・摂取たんぱく質量の測定は管理栄養士が統括した。(3)統計学的解析は、MNA-SFスクリーニング値と摂取カロリー・摂取たんぱく質量・BMI値で回帰分析を用い有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、調査を行う前に本調査の趣向を紙面と口頭で説明し、インフォームドコンセントを得た。【結果】 (1)MNA評価結果は、栄養状態良好4名、低栄養のおそれあり6名、低栄養0名、BMI平均21.1±4.3であった。(2)摂取カロリー・たんぱく質量は、1日分の平均摂取カロリー1543.8±220.4キロカロリー、摂取たんぱく質量62.4±15.3グラムであった。(3)MNA-SFスクリーニング値と摂取カロリー・摂取たんぱく質・BMIの回帰分析の結果、摂取カロリー、摂取たんぱく質量とは有意な相関を認めなかった。BMIはR値:0.46、 p値: 0.02で有意な相関がみられた。【考察】 在宅における栄養摂取の現状を把握するためにMNA-SF評価ツールと食事撮影・測定を実施した。MNA-SFと摂取カロリー・タンパク質量の相関はみられなかったが、BMIとの相関はみられた。MNA-SFとBMIは密接な関係にあり栄養状態の把握にBMIが有用に働く事が示唆された。MNA-SFの結果からは、MNA-SFの最大の特徴は低栄養の階層化における低栄養のおそれありというグレーゾーンの設定である。今回の結果より低栄養のおそれありの6名は、低栄養となる可能性がある。摂取カロリー・摂取たんぱく質量からは、普段の食事より、写真撮影時の方が多めの食事となりバランス良く摂取されている可能性があるが、全国平均では、摂取カロリー1821.5±101.5キロカロリー、摂取たんぱく質量68.3±4.0グラムであり、平均一日あたり摂取カロリー数は約300キロカロリー、摂取たんぱく質量は約6グラム足りていない結果となった。以上のことから、MNA-SFと摂取カロリー・摂取たんぱく質量の相関は得られていないが、低栄養のおそれありの利用者が低栄養になる可能性があり、サルコペニア等の問題も浮上してくる事が考えられた。今後は、詳細な栄養摂取の現状把握が行なえるよう対象者を増やし、摂取カロリー・たんぱく質量の測定方法を考慮して実施したいと考える。【理学療法学研究としての意義】 高齢者における栄養の摂取量低下は、健康に多大な影響を与える事が、多くの研究により明らかにされている。高齢者が地域で満足した生活を営む為に栄養状態の把握・改善に対してアプローチしていかなければならないと考える。
著者
高井 遥菜 永井 理沙 椿 淳裕
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101213-48101213, 2013

【はじめに、目的】近年,生体透過性に優れた近赤外光を用いて,脳循環酸素代謝を計測する近赤外線分光法(NIRS)が急速に普及してきた.NIRSが注目を集める大きな要因は,その安全性と拘束性の低さであり,様々な場面に応用されている.一方,NIRSの計測方法に由来する問題点として,NIRS信号は純粋な脳血流量だけでなく,頭皮血流や体循環変動等の要因によって変化するとの報告もあり,計測したヘモグロビン変化と脳神経活動との関連性の解明が不十分であるといった点も指摘されている.特に認知課題中の血圧変動の影響については十分に検証されてはおらず,この影響について明らかにすることでNIRSの信頼性を高める方法の開発に役立つのではと考えた.そこで本研究は認知課題中の血圧変動がNIRS 信号に及ぼす影響について検討することを目的とする.【方法】右利き健常成人男性12 名(年齢21.2 ± 0.4 歳)を対象に,カラーワードストループ課題(CWST)中の酸化ヘモグロビン量(oxy-Hb)を脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,測定した.プロトコルは,課題前安静20 秒,課題中20 秒,課題後安静20 秒の計60 秒を1 セットとし,これを3 回繰り返した.NIRSによる測定領域は,CWSTで賦活するとされる左前頭前野背外側部と,CWSTの関与が少ないとされる補足運動野とした.プローブ間隔30mmのホルダを使用し,国際10-20 法におけるCzを基準とし,照射プローブ8 本,受容プローブ8 本を頭部に4 × 4 の配列で設置した.また,CWST中には連続血行血圧動態装置(Finometer,Finepress Medical Systems)を使用し,右手の第3 指から脈拍1 拍ごとに収縮期血圧(SBP)を測定した.解析は課題前安静20 秒の平均からの変化量を求め,3 回分を加算平均し,全被験者分を平均した.統計処理はSBPとoxy-Hbとの相関関係の強さを課題前安静,課題中,課題後安静それぞれで,スピアマン順位相関係数検定により求めた.有意水準は5 %とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した.被験者には実験内容について十分に説明をし,書面にて同意を得た.【結果】認知課題遂行に伴いSBPは最大21.9 ± 8.4 mmHg上昇した.SBPとoxy-Hb間の相関係数は,左前頭前野背外側部で課題前安静r=-0.089(p=0.272),課題中r=0.729(p<0.05),課題後安静r=0.304(p<0.05)と課題中のみに強い正の相関がみられた.補足運動野では,課題前安静r=-0.031 (p=0.705),課題中r=0.362 (p=0.735),課題後安静r=0.302 (p<0.05)であり,いずれにも強い相関は認められなかった.【考察】本実験では認知課題実施に伴い,20mmHg程度のSBP上昇が認められた.これはプレッシャーや緊張状態から交感神経活動が亢進したことによるものと考えられる.しかし,今回の結果では前頭前野背外側部のSBPとoxy-Hbとの間に,課題中においてのみ正の相関が認められた.この原因としてNIRS信号が安静中の血圧変動には影響されず,課題中の大きな血圧変動に影響を受けたこと考えられる.一方で,補足運動野においては相関が認められなかった.血圧がNIRS信号に影響を与えるならば,全チャネルにおいて血圧上昇に同調したoxy-Hbの上昇が観察されることが推測される.しかしCWSTの賦活領域のみに血圧との相関がみられる結果となった.このことは,血圧上昇が交感神経活動亢進のみによらず前頭前野背外側部局所の血流を増加させるために血圧を上げていた可能性を示している.先行研究では,一定強度以上で脳の限局的な活性領域に過剰に酸素が流入するのを防止する調整メカニズムの存在が明らかにされている.これより,一定以下の刺激では血圧上昇を伴って活動組織以外の血流を活動部位へ引きこむ現象が起こり得るのではないかと考えた.これがが裏付けられれば,NIRS計測における血圧上昇が脳活動と無関係のアーチファクトでない可能性も考えられ,今後検証していく必要がある.他の解釈としては,前頭前野背外側部が特に皮膚血流をNIRS信号に反映しやすいような構造であることも考えられる.これまでに前額部のoxy-Hb濃度変化の大部分は,心拍数とは異なる自律制御下にある皮膚血流のタスクに関連した変化が原因であり,前頭極部分でのNIRS計測に大脳皮質の血流変化が反映されにくいことが報告されている.【理学療法学研究としての意義】本研究は,NIRSを用いたより純粋な脳機能計測へ発展させる為の基礎的な研究として位置付けることができ,脳活動に着目した理学療法効果判定の精度向上に繋がるものである.
著者
平 和晃 田中 良実 大西 智子 森本 信三 山際 政弘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P3074-B4P3074, 2010

【目的】近年、睡眠が運動記憶の固定化を促進することが明らかとなってきており、若年健常者では睡眠前と比べ睡眠後に、運動技能の向上がみられたと報告されている。脳卒中患者においても非麻痺側上肢での追跡課題では、睡眠によって運動記憶の固定化が促進されたと報告されている。しかし、脳卒中患者を対象とした研究は非常に少なく、脳卒中患者における系列動作学習での睡眠の効果は不明である。本研究では、指の系列運動課題を用いて脳卒中患者において睡眠が系列運動においての運動記憶の固定化を促進するか予備的に検討する。<BR><BR>【方法】高次脳機能障害、認知症がない(Mini mental state examination26点以上)の脳卒中患者3名を対象とした。症例1:50歳代の右利きの女性。右放線冠ラクナ梗塞の診断であり、発症から3か月経過していた。麻痺側Brunnstrom recovery stage(以下BRS)は上肢III、手指IVであった。症例2:70歳代の右利きの男性。左脳梗塞の診断であり、発症から1か月経過していた。麻痺側BRSは上肢V、手指Vであった。症例3:80歳代の右利きの女性。右放線冠梗塞の診断であり、発症から5ヶ月経過していた。麻痺側BRSは上肢III、手指IIIであった。運動課題は、非麻痺側上肢にて示指、小指、中指、環指の順に指をタッピングさせる課題とし、可能な限り速く、正確に実施するよう求めた。実施時間は、1セットを運動30秒―休憩30秒とした。初期学習は午前9時に15セット実施し、その12時間後と睡眠後の24時間後に再テスト(以下12hテスト、24hテスト)として各5セット実施した。症例3のみ、睡眠前テストによる学習効果を考慮して、初期学習の24時間後、36時間後に再テスト(以下36hテスト)とした。初期学習の最初の5セットはリズム刺激を与えながら実施し、それ以降はリズム刺激なしで実施し、リズム刺激なしでの各セット間の施行数の平均値を算出した。また、テスト施行時の覚醒度の評価としてカロリンスカ眠気尺度日本語版(以下KSS-J)を各テスト実施前に聴取し、全テスト終了後に実験期間中の睡眠時間と睡眠の質の評価指標であるピッツバーグ睡眠評価表日本語版(以下PSQI-J)を聴取した。<BR><BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,研究の主旨を文書にて説明し、署名にて同意を得た。<BR><BR>【結果】運動課題の施行数は、症例1、2では12hテスト実施時に比べ、睡眠後の24hテストにて施行数の増加を認め、症例3では睡眠後の24hテストで施行数の増加を認めたが、36hテストでは増加を認めなかった(症例1:初期学習12.3±2.63回、12hテスト13.0±3.24回、24hテスト17.4±1.95回、症例2:初期学習18.6±0.84回、12hテスト19.8±2.3回、24hテスト22.6±1.67回、症例3:初期学習11.5±0.71回、24hテスト13.8±0.84回、36hテスト13.6±0.9回)。KSS-Jは、症例1、2では初期学習と12hテストにて高い覚醒度を示し、24hテストでは低下したが、症例3では変化を認めなかった(症例1:初期学習3、12hテスト3、24hテスト7、症例2:初期学習4、12hテスト3、24hテスト8、症例3:初期学習3、24hテスト2、36hテスト3)。睡眠時間は、症例1が9時間、症例2が7時間30分、症例3が8時間であったが、症例2、3は2時間ごとに覚醒されていた。PSQI-Jは、症例2のみカットオフ値を上回っていた(症例1:1点、症例2:8点、症例3:3点)。<BR><BR>【考察】全ての症例で24hテストでの施行数の増加が認められたことから夜間の睡眠が運動記憶を固定化させた可能性が考えられた。これは、他の運動課題で実施している先行研究と一致するものであった。各症例の運動記憶の固定化が促進された要因として、脳卒中患者の睡眠時間中のノンレム睡眠の段階2が占める時間が高齢者と比較して多いことが考えられる。また、症例2,3では2時間ごとに覚醒されていたにも関わらず、24hテストの実施数が増加したことも、睡眠の1周期が90分であることから、ノンレム睡眠の段階2が関与しているためであると考えられる。しかし、症例2、3は症例1と比べ、睡眠後のテストの施行数の増加が少なかった。これは、ノンレム睡眠の段階2の時間が睡眠周期の増加に伴い増加することから、症例1に比べ症例2,3はノンレム睡眠の段階2の時間が少なかったためであると考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究により夜間の睡眠が脳卒中患者の運動記憶の固定化を促進させる可能性が明らかとなった。今後は対象者を増やした上での統計学的検討、短時間の睡眠と脳卒中患者の運動記憶の固定化の関連性について検討する必要がある。
著者
吉水 隆広 公文 久見 巽 香織 吉田 佳奈 石田 崇 谷口 由利子 井原 史江 阿部 誠
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0264-C0264, 2004

【目的】当院では整形外科クリティカルパスについて、パスの整合性と明確なアウトカム他職種間での共通理解を目的としたパス検討会を平成14年5月より開催し、順次パスの改訂に取り組んでいる。TKAパスについては、平成14年9月より改訂運用しているが、改訂時に術後の転院を円滑に行なう目的で術前バリアンス評価(以下術前V評価)が導入された。今回は、術前V評価導入後1年間の結果について検討を行なったので報告する。<BR>【方法】平成14年9月から平成15年8月までの期間にTKA目的で入院した73名中、術前V評価が実施でき術後に合併症を生じなかった44名、男性13名、女性31名、平均年齢73.2±6.2歳、内訳はRA3名、OA39名、その他2名について、術前バリアンスの有無及び各術前バリアンス項目(痴呆・FIM・転倒歴・呼吸循環・歩行耐久性・肘及び手関節可動域制限・活動性・他関節疼痛)ごとの術後在院日数・転院率について比較検討した。術前V評価は、バリアンス項目8項目より術前に術後22日目を退院とするパスに適応があるかどうかの予測を行なう試みであるが、バリアンスの判定は定めた基準に適応しない項目が8項目中1項目でもあればバリアンスありとした。<BR>【結果】術前バリアンスなし群(以下V無群)22名、男性6名女性16名、平均年齢73.6±7.4歳、内訳RA1名、OA21名は術後在院日数24.4±5.0日、転院率9%。術前バリアンスあり群(以下V有群)22名、男性7名女性15名、平均年齢72.8±4.9歳、内訳RA2名、OA18名、その他2名は術後在院日数28.6±9.0日、転院率23%であった。各術前バリアンス項目ごとの結果ついては、痴呆群は0名。FIM群9名は術後在院日数27.0±7.1日、転院率22%。転倒歴群7名は術後在院日数28.6±9.5日、転院率14%。呼吸循環群3名は術後在院日数29.0±15.7日、転院率33%。歩行耐久性群8名は術後在院日数46.0±11.0日、転院率25%。可動域制限群4名は術後在院日数28.8±12.4日、転院率0%。活動性群1名は術後在院日数21日、転院率0%。疼痛群8名は術後在院日数47.3±11.5日、転院率38%であった。<BR>【考察】今回の結果から術前バリアンスの有無による術後在院日数、転院率に差を生じたことは術前V評価の必要性を示唆していたが、V無群に転院率が9%も生じ、逆にV有群の転院率が23%程度であったことから術前V評価の内容を変更する必要性があると考えている。術後在院日数より術前のFIM、転倒歴、関節可動域に関してはバリアンスへの影響は少なく、歩行耐久性、疼痛についてはバリアンスとなる可能性が高い結果より、今後はこの2項目に関するデータの蓄積とより詳細な内容の検討で術前V評価の精度を高めていけるのではないかと考えている。