著者
吉本 陽二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0963-C0963, 2007

【目的】<BR>我々、理学療法士は痛みを主症状とする患者を担当し治療を行う。しかし、治療効果が明確に現れず、治療が難渋する場合が多くある。そこで今回、我々は、ペインクリニック外来を受診した患者に対してアンケートを行い、疼痛を主症状とする患者の痛みに関する要因を調査した。これらの結果より、痛みを主症状とした症例に対する理学療法について検討を行った。【対象】<BR>大阪府下のペインクリニック外来を受診した251名を対象とした。対象者は男性113名、女性138名であり、平均年齢は55.7 ± 17.3歳であった。疾患は腰椎椎間板ヘルニアが81名、椎間関節症、60名、筋々膜性腰痛、19名、脊椎狭窄症、20名、その他が67名であった。<BR>【方法】<BR>アンケート調査は、ペインクリニック外来初診日に以下の内容について調査を行った。痛みはvisual analog scale (VAS )と痛みの頻度と罹病期間について質問を行った。日常生活動作の障害は、Pain Disability Assessment Scaleにて調査を行い、抑うつ、不安はHospital Anxiety and Depression Scaleにて調査を行った。加えて、睡眠障害の程度についても調査を行った。統計学的解析は、Pearsonの相関係数にて相関を確認し、年齢、性別にて調整し、強制投入法による多重ロジテック回帰分析を用いて行った。<BR>【結果】<BR>Pearsonの相関係数にて罹病期間は全ての項目と相関が認められなかったが、その他の項目間では相関が認められた。特に抑うつと不安の間には強い相関(r=0.71)が認められた。次に多重ロジテック回帰分析を用いて能力障害との関連性を認めた項目は、抑うつ(オッズ比1.13、95%CI:1.04-1.22)と不安(オッズ比1.24、95%CI:1.12-1.37)であった。<BR>【考察】<BR>日常生活の能力障害に関連していた項目は抑うつ・不安であった。痛みの代表的な心理的反応である不安と抑うつは、身体活動意欲の低下につながり、日常生活動作の能力障害<BR>を増悪する可能性がある。また、能力障害は身体の活動性を低下させ、廃用性症候群を助長し痛みの増悪につながると考えられる。理学療法士として対応できる項目としては、痛みに対するアプローチの他に日常生活動作の改善を行う必要があると考えられる。<BR>【まとめ】<BR>1、ペインクリニック外来受診患者に対してアンケート調査を行い、痛みに関する要因について検討を行った。<BR>2、日常生活動作の能力障害は、抑うつ、不安と関連性があった。<BR>3、痛みを主症状とする患者の能力障害に対しては不安・抑うつへの対応が重要である。
著者
福山 勝彦 小山内 正博 関口 由佳 二瓶 隆一 矢作 毅
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0282-C0282, 2004

【はじめに】骨折や変形性関節症術後などの骨関節疾患において、部分荷重が増加すると両松葉杖から片松葉杖に移行させる。通常、片松葉杖は健側上肢に持たせるが、時として健側上肢機能が低下していることで患側上肢に松葉杖を持たせることを余儀なくされる場合がある。今回の研究は、健側に片松葉杖を持ったときと、患側に片松葉杖を持ったときの歩行時筋活動量を比較しその特徴を調べ、早期にどの筋を優先的にトレーニングしなければならないかを検討することを目的とした。<BR>【対象・方法】健常成人女性15名(20~27歳、平均21.5歳)を対象とした。右側を患側と設定し、全荷重歩行(自由歩行)、左手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Lt松葉杖)、右手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Rt松葉杖)をメトロノームを用い、同じ歩行スピードで歩行させた。片松葉杖歩行の前に部分荷重2/3の練習を行わせ、十分歩行練習をさせた後に測定を行った。 筋電計(Mega electronics社製ME-3000P)を用い、右側大殿筋(G-max)、中殿筋(G-med)、大腿四頭筋(Quad)、外側ハムストリングス(L-ham)、内側ハムストリングス(M-ham)、下腿三頭筋(Gastro)、前脛骨筋(TA)、股関節内転筋群(Add)を導出筋とし、電極を運動点中心に20mm幅で貼付した。立脚相における各筋活動量の積分値を求め、全荷重歩行を100%として正規化し、Lt松葉杖、Rt松葉杖における筋活動量について比較検討した。<BR>【結果】全荷重歩行とLt松葉杖歩行の比較において、Quad、L-ham、M-ham以外の筋で有意に筋活動量の低下がみられた。(p<0.01) Lt松葉杖歩行とRt松葉杖歩行の比較においては、G-max、G-med、Gastroの筋活動量が有意に増加し、全荷重歩行時以上の筋活動がみられた。(p<0.01) その他の筋において有意差はみられなかった。<BR>【考察】Pauwelsの式を応用すれば、患側に松葉杖を持ったときの中殿筋は、健側に持ったときよりも3倍以上の筋力が必要であると考えられる。しかし実際には、骨盤を患側に傾斜し体幹を側屈した、いわゆるDuchenne-Trendelenburg徴候様の歩行となり、重心の患側移動が起こることでいくらかは軽減される。今回の実験では、約1.5倍程度の増加であった。<BR>股関節伸展モーメントは、床反力による上体の崩れ防止と支持機能のために作用する。患側に松葉杖を持つことは、支持基底面を減少させ、バランスが崩れやすい状態となっている。これをコントロールするために、大殿筋の筋活動が増加したものと推察する。<BR> これらのことから患側に松葉杖を持った場合、立脚相後期において、より強い推進力と足関節制御機構が必要となり、下腿三頭筋の筋活動が増加したものと思われる。<BR> 以上の結果から、患側上肢に片松葉杖を持つことを余儀なくされる場合には、早期より中殿筋、大殿筋、下腿三頭筋を中心とした筋力トレーニングを行う必要性が示唆された。
著者
佐々木 嘉光 井場木 祐治 植松 俊太
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G1282-G1282, 2008

【目的】当院では診療参加型臨床実習(クリニカル・クラークシップ:クリクラ)を導入し他の2施設も同じ方式で臨床実習を行っている。今回、当院の臨床実習形態の効果を検討するため学生に対するアンケート調査を行ったので報告する。<BR>【十全式臨床実習の内容】患者担当制を含むクリクラを臨床実習指導体制として選択し当院を含む3施設で導入した。学生は指導者の監視下で評価・訓練を行い、担当チームの仕事を常に手伝う形で実習に参加した。患者担当制については症例報告を行う症例を1例とし、初期・最終評価レポート・発表用のレジュメ作成を課題とした。その他の担当症例は学生の能力に合わせて徐々に増やし、約2ヶ月の実習で4~5症例の担当を目標とした。<BR>【方法】静岡県内にある3年制専門学校の3年生60名を対象としアンケート調査を行った。患者担当制とクリクラについては理学療法白書(1997年)に記載してある内容を用いて説明した。アンケートは各期の臨床実習終了後(2ヶ月を3期実施、延べ180施設)に行い、実習の判定が不可であった13施設を除く167施設を調査対象とした。アンケートの内容は1.臨床実習の満足度、2.患者担当制の満足度、3.臨床体験の充実度、4.1日の平均見学時間、5.1日の平均睡眠時間、6.精神的苦痛について調査を実施した。調査対象の167施設のうち十全式臨床実習を行った14施設(実施群)と他の153施設(他施設群)について、各アンケート項目の比較と検討を行った。また、アンケートの実施にあたり調査の内容について口頭および紙面で説明し同意を得た。<BR>【結果】1.臨床実習の満足度について「満足」と回答したものは実施群64%、他施設群38%であった。2.患者担当制の満足度について「満足」と回答したものは実施群71%、他施設群38%であった。3.臨床体験の充実度について「充実していた」と回答したものは実施群64%、他施設群41%であった。4.1日の平均見学時間について「2時間以内」と回答したものは実施群86%、他施設群28%であった。5.1日の平均睡眠時間について「4時間以上」と回答したものは実施群86%、非実施群57%であった。6.精神的苦痛について「全く苦痛でない」「苦痛でない」と回答したものは実施群60%、非実施群45%であった。<BR>【考察】今回の調査では、十全式臨床実習の実施群において実習及び患者担当制の満足度が高く、臨床体験が充実し、見学時間が非常に少ない結果となった。また、睡眠時間が長く、精神的苦痛が少ない傾向を示した。今回の結果から、患者担当制を含むクリクラの有用性が示唆されたが、調査を行った養成校と当院が関連施設であるためアンケートの結果に影響を及ぼしている可能性があり、今後さらに実施施設数を増やして検討していく必要があると考えられる。また、睡眠時間の改善が今後の課題と考えており、患者担当制のレポート作成について実施内容を検討する必要があると考えられる。
著者
坂川 昌隆
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EdPF1055-EdPF1055, 2011

【目的】<BR>施設入所者において, 転倒・転落は骨折などといった重篤な障害を引き起こす要因となり, 身体機能の低下など日常生活に多大な影響を及ぼす. 転倒・転落に影響を及ぼす因子として身体機能や, 注意機能などといった高次脳機能などが挙げられている. しかしこれまで施設入所者を対象とし, 転倒・転落と身体機能との関係は検討されているものの, 注意機能などといった高次脳機能との検討はあまり行われていない. しかし施設入所者を対象に注意機能の検査を行う場合, 認知機能の低下をきたした利用者が多く, 机上の注意機能の検査が実施できないことが多く存在する. そこで, 本研究ではリハビリテーション時の行動から注意機能が評価できるBehavioral Assessment of Attentional Disturbance (以下, BAAD)によって注意機能を評価し, BAADの転倒・転落の評価指標としての予測妥当性を検討することを目的とする.<BR>【方法】<BR>対象は当介護老人保健施設に平成22年6月から平成22年9月の間に継続して入所されていた要介護高齢者124名(男性40名, 女性84名, 年齢85.5±7.6歳, 要介護度3.0±1.2). 方法として, まずBAADの評価を, 担当セラフィストにBAADの評価方法の説明後に行った. BAADの行動観察の内容は6項目(1. 活気がなくボーっとしている2. 訓練中じっとしていられない, 多動で落ち着きがない3. 訓練(動作)に集中できず, 容易に他のものに注意がそれる4. 動作のスピードが遅い5. 同じことを2回以上指摘, 同じ誤りを2回以上犯す6. 動作の安全性への配慮が不足,安全確保ができていないのに動作を開始する)からなる. この6項目についてそれぞれ出現頻度で重みづけした点数(0点:全く見られない~3点:常にみられる)を合計してBAADの点数とした. BAAD評価後, 転倒・転落の件数の前向きな調査を行った. 調査期間は平成22年度6月から平成22年度9月までの4ヶ月間とし, 事故報告書をもとに調査した. この転倒・転落件数をもとに対象者を, 4ヶ月間に1回以上転倒したもの(以下, 転倒群)と転倒しなかったもの(以下, 非転倒群)の2群に対象者を群分けした. 統計学的検討として, 転倒群と非転倒群の, BAADの成績の差をMann WhitneyのU検定を用いて分析した. <BR>【説明と同意】<BR>対象者の家族に対して, 入所時にデータを使用することを説明し, 同意をいただいている. <BR>【結果】<BR>全対象者のBAADの点数の中央値は7点であった. また調査期間中の転倒件数は68件であった. 全対象者124名のうち, 転倒群は37名(年齢86.7±7.2歳, 要介護度3.1±1.2), 非転倒群は87名(年齢85.3±7.6歳, 要介護度3.0±1.2)であった. BAADの点数の中央値は転倒群において10点, 非転倒群において5点であり, 転倒群と非転倒群のBAADの点数の間には有意な差が認められた(p<0.05). <BR>【考察】<BR>本研究の結果から, 施設入所者において, 注意機能が転倒・転落に関係することが明らかとなった. またリハビリテーション時の行動から注意機能を評価するBAADの, 転倒・転落への予測妥当性が明らかとなった. 本研究の対象は既存の介護老人保健施設の入所者である. しかし, 今後は新規の入所者を対象とした検討が必要と考える. また転倒・転落は注意機能などといった高次脳機能以外に, 身体機能などとの関係もあることが多数報告されている. このことから, BAADと注意機能以外の身体機能などといった他の要素と, 転倒との関連についての検討も必要と考える. <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究は施設入所者を対象として, 注意機能の評価法であるBAADの転倒・転落の予測妥当性を明らかとするものであり, 転倒・転落の要因を明らかとし, 転倒・転落を防止していくうえで意義のあることと考える.
著者
卜部 吉文 杉澤 秀博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101615-48101615, 2013

【はじめに】 2000年の介護保険制度の導入を契機に,在宅を基盤とした訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の充実が図られるようになった.しかし,少なくない利用者が訪問リハを長期に継続して利用するという実態がみられる.そのことは,利用者が固定化し新規利用者の受け入れが困難となることや,介護保険給付費の増加に繋がるなどの問題を生じさせかねない.この長期継続利用の要因についてはほとんど実証的な研究が行なわれていない.本研究の目的は,質的研究法を用いて,利用者の認識に基づき訪問リハの長期継続利用に至るプロセスを明らかにすることにある.【方法】 対象者は介護保険による訪問リハを1年以上継続利用しており,神経筋疾患などの進行性疾患や認知症患者以外の要支援または要介護1の高齢者9人を調査対象とした.調査は半構造的インタビューとし,インタビュー項目は,1.訪問リハを受けた目的,きっかけ,2.訪問リハを利用する前後における自分自身の変化,家族との関係の変化,3.現時点における訪問リハの利用意向であった.分析方法は,分析する現象のプロセスを質的にとらえることに優れている木下による修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ法(以下:M-GTA)とした.今回M-GTAを採用したのは,①訪問リハの長期継続利用には利用者とその家族,訪問リハ担当者の間の相互作用が影響していること,②訪問リハというヒューマンサービス領域に関連した研究領域であること,③訪問リハ利用者は多様な問題を抱えており,家族や訪問リハ担当者等との関わりは複雑でプロセス的な性格を持っていること,などの理由からである.【倫理的配慮】 研究対象の自由意思で調査への協力の承諾を書面にて得た.インタビューの中に含まれる個人情報は匿名化し,公表に際しては対象が特定できないようにした.本研究に伴う倫理的な事項は,桜美林大学倫理委員会の審査を受け承認された.【結果】 分析の結果(「 」は概念,〔 〕はサブカテゴリー,【 】はカテゴリー),以下の関係からなる3つのカテゴリーが生成された.訪問リハ開始前では,訪問リハに対する異なる2つの【取り組む姿勢】がみられた(「以前の身体に戻りたい想い」という積極的態度と「身体の回復の諦め」という消極的態度).利用に際しては,積極的な態度は〔訪問リハの特性を考え自分で利用を決定〕,消極的な態度は〔他者が訪問リハを希望し利用を決定〕という2つの異なる【訪問リハの選択理由】から利用に至っていた.〔他者が訪問リハを希望し利用を決定〕においては,「家族からの強い希望」「医療・福祉の専門家からの誘い」という2つの概念,〔訪問リハの特性を考え自分で利用を決定〕においては「自宅まで決まった時間に訪問してもらえる」「一対一のリハビリがしてもらえる」「長い時間リハビリを受けられる」「人目を気にしないで受けられる」「人との関わりを避けれる」という5つの概念が生成された.訪問リハ利用後においては,いずれの場合も【訪問リハへの評価と利用希望】(〔満足感からくる利用希望〕と〔不満足感からくる利用希望〕で構成)につながり,それが継続利用の動機となっていた.〔満足感からくる利用希望〕においては,「リハ専門家との個人的つながりの形成」「リハのきめ細かさの自覚」「現状維持・回復の喜び」の3つの概念,〔不満足感からくる利用希望〕においては「後退への不安」「自分の動作に自信が持てない」の2つの概念から生成された.【考察】 1)達成目標を明確していないことが長期利用の要因とされているが,本研究においては,機能回復以外の理由で利用者は訪問リハを選択し,利用を継続している場合も少なくないことが明らかにされた.すなわち,機能回復という点のみでの目標を明確にしたとしても,長期利用を中止する可能性が低いことが示唆された.2)利用者や家族が利用の中止を了承しないことも要因として指摘されているが,それは一般的な指摘にとどまっている.本研究では,中止を了承しないのは,個人の希望にあったサービスを受けられる,自宅で受けることができるため人目を気にしたり,他の利用者のことを気にしたりする必要がない,またリハ専門家との個人的つながりが形成され,リハのきめ細かさを自覚している,といった要因が働いていることが示唆された.3)他サービス機関との連携不足も,長期利用の要因として指摘されている.しかし,上記で言及した長期利用の要因を考えたならば,連携を強めることで対応できる部分が少ないことが示唆されている.【理学療法学研究としての意義】 訪問リハを提供される利用者側の認知に着目し,長期継続利用のプロセスや背景を明確にすることは,限られた資源である訪問リハを効率的に活用するための介入策を考える際の一助となる.
著者
西上 智彦 榎 勇人 中尾 聡志 芥川 知彰 石田 健司 谷 俊一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0866-C0866, 2007

【はじめに】内側型変形性膝関節症(膝OA)における歩行時lateral thrustは膝OA発症の原因・結果ともに関与が認められることから,lateral thrustの改善は膝OAの進行予防に寄与すると考えられる.膝OAに対して臨床で大腿四頭筋を標的とした運動療法が実施されているが,lateral thrustに対する大腿四頭筋の影響は明らかでない.本研究の目的はlateral thrustと大腿四頭筋筋力及び歩行時の内側広筋(VM),外側広筋(VL)の筋活動動態との関係を明らかにし,大腿四頭筋に対する運動療法を再考することである.<BR>【対象】膝OAと診断された15名(平均年齢69.6±7.5歳)とした.病期はKellgren & Lawrenceの分類にてGrade1が4名,Grade2が3名,Grade3が5名,Grade4が3名であった.また,大腿脛骨角(FTA)は178.4±4.0°,膝関節伸展角度は-3.9±5.2°であった.<BR>【方法】(1)hand held dynamometerを用いて,最大等尺性膝伸展筋力を測定し,体重で除した値を大腿四頭筋筋力として採用した.(2)測定は自由歩行とし,連続する3歩行周期を解析対象とした.3軸加速度計を腓骨頭直下,足関節外果直上に貼付し,加速度波形を導出した.まず,足関節外果部の鉛直成分よりHeel contact(HC)を同定し,1歩行周期を100%とした.解析はlateral thrustの指標であるHCから側方成分のピーク値に達するまでの時間(ピーク時間),ピーク値を含む加速度波形の峰数とした.同時に,評価筋をVM,VLとし,歩行時における表面筋電図をそれぞれ導出した.得られた筋電波形より遊脚期における筋活動開始時間(Onset time),立脚期における筋活動終了時間(Offset time)を求めた.また,筋活動開始からHC(Onset-HC),筋活動開始から筋活動終了(Onset-Offset)までの積分値(IEMG)を求めた.それぞれのIEMGに時間正規化・振幅正規化を行い,%IEMGを求めた.<BR>【統計処理】ピーク時間,峰数を目的変数とし,FTA,膝関節伸展角度,大腿四頭筋筋力及びVM,VLのOnset time,Offset time,%IEMG(Onset-HC),%IEMG(Onset-Offset)を説明変数として,Stepwise法による重回帰分析を行った.なお,有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】重回帰分析によりピーク時間に影響を与える因子は認めなかった.峰数に影響を与える因子はVMのOnset timeで標準化係数βは0.621であった(R<SUP>*2</SUP>=0.338,p<0.05). <BR>【考察】lateral thrustに関与する因子として,大腿四頭筋筋力ではなくVMのOnset timeが認められた.本研究結果より,遊脚期におけるVMのOnset timeの遅延を改善させる運動療法の必要性が示唆された.<BR>
著者
勝井 洋 町 貴仁 長面川 友也
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI1252-CbPI1252, 2011

【目的】<BR>頚椎深層屈筋群の抑制と頚部痛との関連性が、Boydら(2001)により報告されている。頸椎深層屈筋群の評価は、Jullらによって報告されている頭頚部屈曲テストがあるが、この評価を行うためにはStabilizer(米国Chattanooga社製)というプレッシャーバイオフィードバック器具が必要となる。我々は器具を使用しない頸椎深層屈筋群評価法を開発することを目的に、胸椎の代償を制御しながら頚椎の最大伸展から正中位への屈曲運動を評価する、頚椎伸展―屈曲テストを考案した。我々が行った先行研究(2010:ACPT)では、頚椎伸展―屈曲テストで正中位に戻すことが不可能な健常女性12名に3週間の頚椎深層屈筋トレーニングを行った結果6名が可能となり、頚椎深層屈筋群との関連があると考えた。しかし頸椎運動は頭部重量とそれを支える頚椎により行われる運動であり、頭部重量や頸部長など骨格的な影響を検討する必要があると考えた。作田ら(1990)は頭重負荷指数評価(頭部周径R、頚部周径r、頚部長Lとし公式index=R<SUP>3</SUP>・L/r<SUP>2</SUP>/1000に当てはめる)を開発した。槻本ら(2006)の研究では頭重負荷指数において頭痛あり・なしの群間,また頚部痛あり・なしの群間で有意差を認め身体的特徴が頭痛・頚部痛の原因となりうると示唆している。頭部重量とそれを支える頚椎の関係性を考える上でこの頭重負荷指数は有用であると考えた。そこで本研究の目的は頸椎伸展―屈曲テストの結果と頭重負荷指数との関連を調べ、胸椎代償運動を除いた頚椎運動と頭頚部形態の影響を検討することとした。<BR>【方法】<BR>対象者は頚椎疾患の既往の無い健常女性で、30名(平均年齢32±10歳)であった。頚椎伸展―屈曲テストは、検者による肩甲骨内転強制により胸椎屈曲運動を制限しながら、被験者に頚椎を最大伸展位から屈曲させ正中位に戻せるかを評価した。頭頚部形態測定肢位は座位で頚椎屈曲20度位とした。各形態項目は、頭部周径は眉間の位置、頚部長は大後頭隆起から第7頸椎間、頚部周径は第7頸椎を指標に計測した。測定はすべて同一検者が行なった。頚椎伸展―屈曲テストの結果から可能群・不可能群に分け頭重負荷指数を群間比較した。統計にはt検定を用い、有意水準を危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>この研究は対象者にヘルシンキ宣言に基づき説明し、文書にて承諾を受けた上で行った。<BR>【結果】<BR>頚椎伸展―屈曲テストの結果、正中位まで屈曲可能だった群(可能群)は17名(平均年齢35±11歳)、不可能だった群(不可能群)は13名(平均年齢27±8歳)であった。頭重負荷指数の平均は可能群1.6±0.3、不可能群1.7±0.3で有意差はみられなかった。<BR>【考察】<BR>今回の結果では頚椎伸展―屈曲テストによる可能・不可能の群間に頭重負荷指数の差はみられず、頭頚部形態の与える影響は無かったと考えられた。計測した形態測定項目のうち頭部周径、頚部長は骨形態であり理学療法アプローチで変化させることは出来ない要素である。これらと頚椎伸展―屈曲テストに関係がみられなかったことで、今後理学療法アプローチ可能な筋力や関節可動域、姿勢アライメント等の関連を中心に検討することが出来ると考えた。頚椎伸展位からの屈曲運動は、頚椎深層屈筋群と胸鎖乳突筋の活動がみられたとFallaらにより報告されている。Vasavada(1998)らは、頸椎伸展につれて胸鎖乳突筋と前斜角筋のモーメントアームは短縮し伸展最終域では正中位に比べ25%以下となり、頭頚部に対する屈曲モーメントは働かないと述べている。今回用いた頚椎伸展―屈曲テストでは、頸椎最大伸展位からの屈曲では頸椎深部屈筋群の作用、軽度伸展位からの屈曲では胸鎖乳突筋と頚椎深層屈筋群の作用が重要となると考えた。今後はさらに頚椎伸展―屈曲テストの頸椎伸展時の動きの評価や、各頸椎屈筋の個別の作用の評価、姿勢アライメントとの関連についても検討したいと考えた。現在健常者において研究を行っているが、健常者においても正中位まで屈曲不可能なケースがあることは興味深く、むちうち損傷等の傷害予防の視点も含め今後臨床応用を検討したいと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>頸椎のアプローチにおいて重要とされている頸椎深部屈筋群の簡便な評価の開発は臨床において有益と考える。頚椎伸展―屈曲テストを利用し健常者においても差がみられたことは頸椎疾患の予防の為の評価としても利用できる可能性があると考える。
著者
小西 勇亮
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P3279-B3P3279, 2009

【はじめに】運動を制御するためには,環境に対する空間座標系の情報のみならず自己の身体との関係を計算する空間座標の情報が不可欠である(乾 2001).今回,自己中心座標の形成により姿勢制御可能となった症例を担当する機会を得たのでここに報告する.尚,発表に際し症例並びに親族に同意を得ている.<BR>【症例紹介】33歳男性,平成20年5月1日事故による外傷性脳挫傷.広範な両前大脳動脈出血により両前頭葉・右頭頂葉領域の損傷が認められた.V-Pシャント術施行.6月3日より当院で治療開始.8月6日の評価にて,Brunnstrom Recovery Stage左上肢3左下肢4左手指4.端座位では体幹屈曲0°以上で保持ができず,頸部・体幹伸展筋群,腹筋群の筋緊張の亢進がみられ,右上肢の支持がないと後方への転倒傾向があった.自己身体の傾きに関する認識は良好も,どの程度傾いたかといった距離に関する認識が困難であり,正中位であるにも関わらず「前に倒れる」といった言語記述がみられた.開眼時と比較すると閉眼時では頸部・体幹伸展筋群,腹筋群の過度な筋緊張が軽減し,後方への転倒傾向も減少した.<BR>【治療仮説・経過】自己中心的な空間座標系における身体図式の形成には頭頂連合野が関与している(Sakata 1992.1995).この形成のためには体性感覚情報と背側経路からの視覚情報の統合が重要となる(森岡 2005).本症例においても,視覚・体性感覚の統合に問題をきたし,自己中心的な空間座標の変質により,端座位保持が困難だと考えられた.よって8月15日より体幹の運動に伴う対象物との距離の認識課題を実施した.<BR>【結果】対象物と頭部の距離の認識が可能となり,「前」「後ろ」といった言語記述から「遠い」「近い」といった言語記述に変化がみられた.端座位での頸部・体幹伸展筋群,腹筋群の過度な筋緊張は軽減し,体幹屈曲10°での保持が可能となった.約1週間経過後,ポータブルトイレでの座位保持獲得といったADLの向上も認められた.<BR>【考察】体性感覚情報と視覚情報の統合により,身体の運動方向に対して対象物との距離が変化するといった自己と対象物の距離を認識する事ができ,自己中心的な空間の処理が可能となった.その為,頸部と体幹の位置が定位出来るようになり,端座位保持に至ったと考えられた.姿勢制御に関与する自己中心座標の形成には,視覚情報と体性感覚の統合が重要であると考えられる.
著者
南角 学 西川 徹 秋山 治彦 柿木 良介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100545-48100545, 2013

【目的】人工股関節置換術(以下,THA)術後早期の理学療法では,術後の合併症の予防に取り組みながら,より効率的に股関節機能や運動機能の向上に図ることが重要となる.近年,股関節の深部外旋筋群は股関節の安定性に関与することが報告されており,股関節外旋筋に対するトレーニングが注目されている.しかし,股関節外旋筋のトレーニングがTHA術後早期の股関節外転筋および歩行能力の回復に与える影響を検討した報告は見当たらない.本研究の目的は,股関節外旋筋の筋力トレーニングがTHA術後早期における股関節機能および歩行能力の向上に有用であるかどうかを検討することである.【方法】対象は片側変形性股関節症で初回THAを施行された28 名とした.さらに,当院のプロトコール通りに術後の理学療法を行った14 名(以下,Control群)と,通常の理学療法に加えて股関節外旋筋に対するトレーニングを実施した14 名(以下,Ex群)に無作為に分類した.股関節外旋筋のトレーニングは,腹臥位で股関節屈曲0°・膝関節屈曲90°での股関節外旋運動,仰臥位と側臥位での股関節軽度屈曲位からの股関節外旋運動とし,術後1 週間は自動介助,術後2 週目からは自動運動,術後3 〜4 週間は低負荷でのトレーニングを行った.評価時期は術前と術後4 週とし,測定項目は術側の股関節痛,術側の股関節屈曲と外転の関節可動域,術側の下肢筋力(股関節外転筋力,股関節外旋筋力,膝関節伸展筋力),Timed up and go test(以下,TUG)とした.股関節痛は,日本整形外科学会の股関節判定基準の股関節痛の点数を用いた.股関節外転筋力と股関節外旋筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,股関節外転筋と膝関節伸展筋の筋力値はトルク体重比(Nm/kg),股関節外旋筋力は体重比(N/kg)にて算出した.統計処理は,各測定項目の術前と術後の比較には,対応のあるt検定とMann-WhitneyのU検定を用い,統計学的有意基準は5%未満とした.【説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果】年齢(Ex群60.5±6.4歳,Control群60.8±7.5歳)と身体特性(Ex群:身長154.8±5.5cm,体重55.9±6.4kg,Control群:身長153.7 ± 9.4cm,体重52.2 ± 9.9kg)および術前の運動機能に関しては,両群間で有意差を認めなかった.Ex群の股関節外転筋力は術前0.63 ± 0.15 Nm/kg,術後0.72 ± 0.12 Nm/kgで術後に有意に高い値を示した.一方, Control群の股関節外転筋力は,術前0.60 ± 0.14 Nm/kg,術後0.58 ± 0.14 Nm/kgであり,術前と術後で有意差を認めなかった.股関節外旋筋力については,Ex群が術前1.05 ± 0.27 N/kg,術後1.05 ± 0.25 N/kgで有意差を認めなかったのに対して, Control群では術前0.97 ± 0.35 N/kgよりも術後0.78 ± 0.39 N/kgに有意に低下していた.また,TUGに関しては,Ex群のTUGは術前8.50 ± 1.67 秒,術後7.62 ± 1.08 秒で術前と比較して術後に有意に低い値を示したが,Control群で術前8.25 ± 2.07 秒,術後8.61 ± 1.46 秒で術前と術後で有意差を認めなかった.股関節痛および股関節屈曲と外転の関節可動域は,両群ともに術前と比較して術後で有意に改善していた.【考察】股関節深部外旋筋は,臼蓋に対して大腿骨頭を求心位に保持することから股関節の安定性に関与すると考えられている.本研究においては,股関節外旋筋に対するトレーニングを実施したことにより,臼蓋と大腿骨頭の安定性が得られ,より効率に股関節外転筋群による筋力発揮が可能となったために股関節外転筋力が術前よりも14.3%向上したと考えられた.さらに,股関節外旋筋のトレーニングを行うことで股関節外転筋力が術前よりも向上したことから,THA術後早期での歩行能力も同時に改善したと考えられた.今後の課題として,THA術後早期の運動機能の向上が術後中期および長期的な運動機能の回復過程に及ぼす影響を検討していく必要性があると考えられた.【理学療法研究としての意義】本研究の結果より,THA術後早期における運動機能の向上に対して股関節外旋筋のトレーニングが有用であることが示され,理学療法研究として意義があると考えられる.
著者
由留木 裕子 鈴木 俊明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1060-Ab1060, 2012

【はじめに、目的】 アロマテラピーは芳香療法とも呼ばれ、代替療法として取り入れられるようになってきた。アロマテラピーは、リラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマテラピーが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。本研究では鎮静作用や、抗けいれん作用があると言われているラベンダーの刺激が筋緊張の評価の指標といわれているF波を用いて、上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響を検討した。【方法】 対象は嗅覚に障害がなく、アロマの経験のない右利きの健常者10名(男性7名、女性3名)、平均年齢25.9±6.0歳とした。方法は以下のとおり行った。気温24.4±0.8℃と相対湿度64.3±7.1%RHの室内で、被験者を背臥位で酸素マスク(コネクターをはずしマスクのみの状態)を装着し安静をとらせた。その後、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼とした。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30回とした。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3滴、滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。香りの強度が70.7±7.7のビニール袋をマスクに装着し2分間自然呼吸をおこない、F波測定を吸入開始時、吸入1分後、ビニール袋をはずし吸入終了直後、吸入終了後5分、吸入終了後10分、吸入終了後15分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。統計学的検討は、kolmogorov-Smirnov検定を用いて正規性の検定を行った。その結果、正規性を認めなかったために、ノンパラメトリックの反復測定(対応のある)分散分析であるフリードマン検定で検討し、安静時試行と各条件下の比較をwilcoxonの符号付順位検定でおこなった。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 出現頻度においては、安静時と比較して吸入開始時、吸入1分後ともに増加傾向を示した。安静時と比較して吸入10分後は有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1分後は安静時と比較して有意に増加した(p<0.05)。吸入終了直後からは安静時と比較して低下する傾向にあった。立ち上がり潜時は、ラベンダー吸入前後での変化を認めなかった。【考察】 本研究より、ラベンダー吸入中は出現頻度、振幅F/M比が促通され、吸入後は抑制された。出現頻度、振幅F/M比は、脊髄神経機能の興奮性の指標といわれている。そのため、本研究結果から、吸入開始時、吸入1分後には脊髄神経機能の興奮性が増大し、吸入後には抑制されたと考えることができる。吸入開始時、吸入1分後の脊髄神経機能の興奮性増大に関しては以下のように考えている。小長井らによると、ラベンダーの香りの存在下では事象関連電位P300の振幅がコントロール群と比較して増加したとの報告されている。事象関連電位P300は認知文脈更新の過程を反映するとされており、振幅の増大は課題の遂行能力が高いことを示している。感覚が入力され、脳内で知覚、認知、判断され、行動を実行するという能力が高いということであると考える。行動を実行するには運動の準備状態が保たれていることが推測され、脊髄神経機能の興奮性が高まっていることが考えられた。この報告と本研究結果から、ラベンダーの吸入時には大脳レベルの興奮性の増加が促され、その結果、脊髄神経機能の興奮性が増大したと考えることができた。脊髄神経機能の興奮性が吸入後から抑制されたことについては、ラベンダーが体性感覚誘発電位(SEP)に及ぼす影響を検討した研究で、ラベンダー刺激中から刺激後に長潜時成分の振幅が持続的に低下したと報告されている。これは、ラベンダーの匂い刺激が嗅覚系を介して脳幹部、視床、大脳辺縁系および大脳にそれぞれ作用し、GABA系を介して大脳を抑制したものと考えられた。今回の被験者は、アロマ未経験者を対象にしたが、アロマ経験者での結果と異なることも想定できる。また、アロマの種類によっても、効果の違いがあることが考えられる。今後、研究を行うことで、運動療法に適したアロマを取り入れ、新しい形の理学療法を展開したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 アロマ未経験者を対象とした筋緊張に対するラベンダーを用いたアプローチは以下のように考えることができる。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に理学療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。
著者
長谷場 純仁 中尾 周平 池田 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O2175-D3O2175, 2010

【目的】<BR> 近年、心不全や呼吸器疾患の患者に対するEMS (electrical muscle stimulation)による効果が海外を中心に報告されており、これらの疾患で積極的な運動が困難な症例に対してEMSが理学療法の選択肢のひとつとなると予測される。従来、EMSとして低周波を両下肢の主要な筋に対し施行する場合、装着する導子の数も多く、場合によっては複数の機器が必要とされることもあり、周波数や強度の調整も煩雑であった。最近、ポータブルで操作の容易な低周波治療器(ホーマーイオン研究所製 AUTO Tens PRO)と両下肢の主要筋に同時に通電できる、取り扱いも簡便な下肢専用導子が臨床応用された。そこで今回我々は、これらを用い低周波の短期間の施行における筋力増強効果と両下肢の同時刺激による血圧や心拍数などの循環動態への影響を調査した。<BR>【方法】<BR>(実験1) 筋力増強効果について<BR> 対象は健常成人8名(男性7名、女性1名、年齢28.3±4.2歳:平均±標準偏差)。低周波を被験者の左下肢の前脛骨筋(以下TA)に施行した。機器の使用方法は説明書に沿って導子を装着し、部位とモード設定を行えば簡単に施行可能なTHERAPY PATTERN SELLECTIONで部位は下肢、モードは廃用を選択した。これにより施行時間15分と周波数(3-20Hz)は自動で設定された。刺激の強度は被験者が耐えうる最大の強さとして被験者自身が調整し、施行頻度と期間は1日1回、週4日以上の連続3週間とした。TAの筋力測定はBIODEX SYSTEM 3を用い、被験者は仰臥位にて足関節の背屈0度で等尺性収縮による足背屈を5回行い、その最大トルク値の平均から体重比(以下トルク体重比:単位N・m/kg)を求めた。測定は左右両側を実験開始日とその3週間後に行い、それぞれの値について対応のあるt検定を行った(p<0.05 )。<BR>(実験2) 循環動態への影響について<BR> 対象は健常成人13名(男性11名、女性2名、年齢26.1±4.4歳)。低周波は下肢専用導子を使用し、両下肢の大腿四頭筋、ハムストリングス、TA、下腿三等筋に同時施行することとし、機器の設定は実験1と同様で、刺激の強度も被験者が耐えうる最大の強さとした。循環動態の指標として血圧、心拍数、SpO<SUB>2</SUB>、不整脈の有無を施行前、施行開始5分後、同10分後、終了直後に電子血圧計、ECGモニター、パルスオキシメータにより測定した。それぞれの値の比較についてscheffe法による多重比較を行った(p<0.05 )。また、主観的運動強度についてBorg scaleを施行前後に問診し、翌日以降の筋疲労や筋痛についても問診を行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には実験に関する目的、方法、リスクについて十分に説明し同意を得た上で実験を行った。<BR>【結果】<BR>(実験1)低周波を3週間施行前後のトルク体重比は、低周波未実施の右TAで施行前0.27±0.09、施行後は0.32±0.12となった(p>0.05)。低周波を施行した左TAは施行前が0.26±0.12で施行後が0.36±0.10となり有意差が認められた(p<0.01)。<BR>(実験2) 両下肢への低周波の同時施行における血圧、心拍数、SpO<SUB>2</SUB>はいずれも施行前、施行開始5分後、同10分後、終了直後において有意差は認められなかった(p>0.05)。Borg scaleは施行後に4が3名、3が1名、2が2名、1が3名、0が4名であった。翌日の問診では10名について筋痛が生じ、その多くが下腿三頭筋に生じていた。<BR>【考察】<BR> 実験1より同機器の低周波によるEMSによって3週間という期間でも筋力増強効果があることが示唆された。しかし、未実施の右TAでも有意差は認められないもののトルク体重比は大きくなっており、これは、他の筋力増強運動に関する多くの研究よっても未施行側も増強されることが認められていることからそれらと同様の結果が示されたと考えられる。また、実験2の結果から、両下肢への主要筋への同時刺激を行っても全身的な循環動態には影響しないことが示された。これは低周波による筋収縮の特性として1回の収縮が極めて短時間であることが理由のひとつであると考える。Borg scaleについは0から4とバラツキが認められたが、刺激の強度について被験者が耐えうる最大の強さとしたことで筋の疲労感に主観的な差が生じたのではないかと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究から低周波によるEMSは全身的な循環動態に影響することなく両下肢筋に施行でき、かつ筋力増強効果が示されたことから、重度の心不全や呼吸器疾患の患者に対する理学療法の選択肢となりうる。さらに効率的に行うための刺激の強度、回数などについて調査する必要がある。<BR><BR>
著者
田鹿 慎二 島内 卓
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100201-48100201, 2013

【目的】体幹の動的安定性を保つ為には、運動の方向や外的な荷重に対処する表層筋と、個々の脊椎間の安定性に関与する深層筋が、適切なタイミングおよび適切な活動量で機能しなければならない。Kaderらは腰痛患者の80%に多裂筋の萎縮があることをMRIにて報告し、多裂筋の機能不全と腰痛には有意な相関があることを報告している。そこで今回、慢性腰痛症患者が外的な荷重に対処した際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用いて検証した。【方法】現在著名な神経症状を有さず、3ヶ月以上腰痛が継続している慢性腰痛症患者10名(男性10名、平均年齢36.8±9.2歳)と腰痛を有さない健常群12名(男性11名女性1名、平均年齢26.7±2.2歳)を対象とした。尚、事前に研究の目的と方法を説明し同意を得た上で測定を実施した。測定肢位は被験者を安楽な立位姿勢に保たせ、次に肩関節屈曲30°、外転0°、肘関節屈曲70°位にて前腕を90°回外させた状態と定めた。被験筋は多裂筋(L5/S1棘突起外側)および脊柱起立筋(L1棘突起外側)とした。また、荷重負荷の瞬間がデータ上に記録されるように圧力センサー(FRS402)を被験者の両手掌面の第2中手骨頭部に固定した。その後重さ3Kgのメディシンボールを被験者の手掌より45cm高位より落下させ、両手にて捕球した際の多裂筋、脊柱起立筋の活動量と反応開始時間を計測した。尚圧力センサーからのアナログ信号をサンプリング周波数1KHzにてパーソナルコンピューターに取り込み解析を行った。計測は5回行い、その平均値を代表値として算出し測定には表面筋電図(Megawin バイオモニターME6000)を用いて動作により得られたデータを全波整流した後、正規化(100%MVC)し各筋のピークトルク値を求めた。また反応開始時間については、圧力センサーが反応した時点を基準の0秒とし、安静立位時における基線の最大振幅±2SDを超えた時点を反応開始時間として算出し比較検討を行った。統計処理には対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】メディシンボールを捕球した直後の脊柱起立筋の筋活動は腰痛群85.6%に対し健常群68.1%と腰痛群が有意に高い値を示し(p<0.05)多裂筋の筋活動は腰痛群49.4%に対し健常群50.3%と有意差は認められなかった。外的荷重に対する多裂筋の反応開始時間に関しては、腰痛群がボールを捕球し圧力センサーが反応する0.19秒前に先行して活動するのに対し、健常群は0.14秒前に先行して活動する結果となり、2群間に有意差は認められなかった。【考察】慢性腰痛症患者に外乱負荷や外的荷重が生じた際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用い客観的に評価し、機能不全の原因を明確にする目的で今回の研究を行った。しかし多裂筋において、負荷発生時の反応開始時間の差は両群間で認められず、Newmanらの慢性腰痛症患者は多裂筋の萎縮により、活動開始時間が遅延し機能不全が生じるとする報告とは異なる結果となった。一方で慢性腰痛症患者の脊柱起立筋の活動量が健常群よりも高いことが確認された。この結果について、両群間において多裂筋のピークトルク値に有意差は認められないものの、慢性腰痛症患者の多裂筋にはMRIにて筋萎縮が認められるとした報告から、外的荷重が発生した際に生じる体幹の前方モーメントに抗する多裂筋の収縮力では腰部の安定化が不十分となり、代償として脊柱起立筋の筋活動が過剰になったと推測した。今回の結果から腰痛が慢性化する背景には、筋バランスの不均整による脊柱起立筋の慢性的な疲労の蓄積が強く関与していることが考えられる。
著者
小玉 美津子 篠宮 光子 島田 蕗 鶴見 隆正
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101205-48101205, 2013

【はじめに、目的】神奈川県立麻生養護学校では、自立活動教諭として2008年6月より、理学療法士(以下PT) 、作業療法士が配属となった。業務内容は主に校内、校外における児童・生徒の実態把握や、教科・領域(自立活動)に関するアドバイス、ケース会の開催や教員、保護者からの相談対応、研修会講師などである。PTへの相談内容としては、呼吸介助、排痰介助方法、体の動かし方、姿勢、ポジショニング、歩行・階段の援助方法、運動量の調整に関する相談が多い。学校生活では車椅子で過ごす時間が多い中、目的に応じて、色々な姿勢を取り入れている。本発表では、本校2012年に在籍している肢体不自由教育部門の児童生徒の各ポジショニングの実態を紹介するとともに、PTが介入後の変化について考察を加え報告する。【方法】肢体不自由教育部門全生徒のうち大島の分類区分1,2の生徒30名のうち、日中活動のそれぞれの姿勢をポジション別に、1.医療ケアの有無、2.変形の有無、3.異常呼吸の有無との関連性で、PTが介入することで実施可能になったポジションをまとめた。今までとれなかった姿勢をとる事で、生活上何が変わったか、担任がどのように実感できたか振り返りを行った。【倫理的配慮、説明と同意】本発表にあたり、学校長ならびに神奈川県教育委員会で発表主旨、内容について承諾を得た。【結果】小学部11名のうち胃ろうを含む児童6名中3名、中学部12名のうち胃ろうを含む生徒5名中3名PTが介入することで腹臥位が可能になった。高等部は7名のうち胃ろう、気管切開を含む生徒がいなく、バルーンなどの訓練具を使用すれば、全員腹臥位が可能だった。又担任の聞き取りからは、腹臥位をとることにより、排痰姿勢がとれ呼吸が楽そうだった。背中側への心地よい刺激を受けいれる機会を得た。担任だけでなくPTが介入することによって、安心して腹臥位をとることが出来たなどの意見を聞くことが出来た。【考察】学校生活で色々な姿勢がとれるように指導することも多いが、気管切開や胃ろうなどの医療ケアの関係、成長期における変形・拘縮の進行等の影響で困難なことも多い。学校に配置されたPTとして、校内で教員が安心して実施できる方法を提示することは、児童・生徒の主体的な学習を考えた場合、その意義は大きいと考える。国際生活機能分類(ICF)では、「できる活動=能力」と「している活動=実行状況」に分けて考えることが重要であると明記されている。特別支援学校においても、PTがハンドリングや補助具を工夫することで「できる」ことを教員の誰でもが日常的に「できる」ようにすることが大切になる。「できる活動は」すぐには「している活動」となりにくいが、特別支援学校内にPTが配置されたことにより、日常的に教員と協働し、学校生活の中で関わることで、「している活動」に展開していくことが出来る。対象児童・生徒30名中19名が呼吸状態に何らかの課題がある中で、家庭では困難な姿勢であっても、学校生活上、日常的にとれることは、特別支援教育のチーム力として評価したい。【理学療法学研究としての意義】2007年特別支援教育のための教育法の改正や2009年特別支援学校の学習指導要領の改訂により、教育現場においても専門家としてPTが関与することが多くなっている。障害の重度・重複傾向の中、医療、福祉側でのPTが関わる限界もあり、一人ひとりの子どもに理学療法を長期展開することは難しい。むしろ生活支援という視点で子ども達を取り巻く支援者に適切な関わりを理解してもらうことも重要であり、その意味からも、特別支援学校内でPTが配置された意義は大きい。
著者
佐久間 敏 宮下 有紀子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0768-A0768, 2004

【はじめに】第38回学術大会にて,片麻痺患者の立ち上がり動作は,動作前の坐位姿勢における坐骨と軟部組織のアライメントが重要であるという報告をした。坐骨が軟部組織上を麻痺側へスライドしている時は立ち上がりにくく,健側へスライドしている時は立ち上がりやすいという結果を得た。そこで今回は,坐骨が麻痺側へスライドしている片麻痺患者(以下崩れ群)と健側へスライドしている片麻痺患者(以下修正群)の比較を,立ち上がり動作時の下肢機能に着目し,床反力データを分析したので報告する。<BR>【対象】片麻痺患者16名。端坐位保持が可能。健側膝伸展筋力MMT4以上。麻痺側下肢Br.Stage2~4。また痴呆を伴わない測定内容が理解可能なものを選出した。<BR>【方法】坐面にはガラス板を用い,ガラス越しに支持面の状態測定を行った。そして坐骨と軟部組織のアライメントを第38回学術大会にて我々が報告した方法により計測し,崩れ群と修正群に分類した。次に足部の位置を中足骨が膝蓋骨の真下になる位置かつ肩幅位置になるようにセットし,健側前方に位置させた横手すりで,立ち上がり動作を行わせた。測定機器は床反力計3枚(アニマ社製MG-100)を用い,サンプリング周波数60Hzで,右下肢・左下肢・坐面の情報が得られるようにセットした。分析するパラメータは,殿部から足部への重心移動の制動機能に着目するため,離殿する瞬間の床反力Fy(前後方向)成分のデータを抽出した。そして崩れ群と修正群の2群間において,Fyの平均値の差をt検定によって比較した。<BR>【結果】崩れ群と修正群の分類結果は,崩れ群が6名,修正群が10名だった。立ち上がり動作時の床反力Fy成分のデータは以下のような結果となった。健側下肢のFy成分は,崩れ群の平均値が62.4N(SD=10.1),修正群の平均値が50.3N(SD=25.6)で有意差は得られなかった。一方,麻痺側下肢のFy成分は,崩れ群の平均値が23.9N(SD=11.4),修正群の平均値が0.17N(SD=11.3)で,崩れ群と修正群の間に有意差が認められた(p<0.005)。<BR>【考察】健側下肢は,崩れ群・修正群ともに床反力が前方へ傾き,重心を足部へ移動させるための推進機能として働く。麻痺側下肢は,修正群では床反力が真上を向き,麻痺側半身を支える機能として働く。すなわち坐骨を健側へスライドさせている姿勢は,麻痺側下肢を支持機能として使える状態にある。一方,崩れ群の麻痺側下肢は床反力が前方へ傾く。しかしこの現象は,麻痺の機能低下を考慮すると,健側下肢が演じている推進機能とは異なり,前のめりにさせる力と解釈すべきである。すなわち坐骨が麻痺側へスライドしてしまっている姿勢は,麻痺側下肢を支持機能として使えない状態にある。以上のことから片麻痺患者に対する坐骨と軟部組織のアライメントの調整は,麻痺側下肢を「使えない足」から「支持するための足」に機能回復させるという結果を得るための重要な過程であると考える。
著者
大西 珠枝 熊井 初穂 大矢 寧 秋山 純一 中嶋 正明 祢屋 俊昭
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.F0625-F0625, 2005

【はじめに】<BR>筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy:MyD)患者は疼痛を主訴とする者が多い.そして当院のMyD患者の約半数は腰痛を訴える.当院では,疼痛に対する治療手段として徒手療法(筋膜リリース)を適用することが多い.徒手療法はMyD患者の腰痛に対して効果的であり疼痛を緩和する.しかし,その効果の持続性に乏しくその日のうちに疼痛が再発しADLに支障をきたす症例がほとんどである.一方,我々はこれまで人工炭酸泉を物理療法領域で活用すべく研究を進めてきた.人工炭酸泉浴は浴水に溶解する二酸化炭素の経皮侵入により血管拡張や酸素飽和度の上昇をもたらす.第38回日本理学療法学術大会において人工炭酸泉浴は浸漬部だけでなく非浸漬部においても酸素飽和度を上昇させる等の効果を有することを報告した.今回,腰痛を訴えるMyD患者に対し人工炭酸泉下肢局所浴を適用し,その腰痛緩和効果を評価した.対照としてホットパック,徒手療法を実施し,これらの療法の腰痛緩和効果を評価した.<BR><BR>【対象と方法】<BR>対象は,腰痛を訴える運動機能障害度:stage4のMyD患者3名(53歳男性,48歳女性,61歳女性)とした.痛みの程度はvisual analogue scale (VAS)を指標に評価した.その他,視診・触診を行った.評価は,治療直前・治療直後・夜の計3回行い,疼痛の日内変動,効果の持続性についても観察した.各療法は1回20分間,5日間ずつ施行した.<BR><BR>【結果】<BR>VASは治療直前・治療直後・夜の順にホットパックでは5.7±2.1,5.3±0.6,5.0±0.0,徒手療法では6.0±1.0,5.0±1.0,5.7±1.5,人工炭酸泉下肢局所浴では6.7±1.2,3.0±0.0,3.3±0.6となった.ホットパックは腰痛緩和効果を有するものの「病棟に帰る間までに冷めて,腰が痛くなる」などの感想が聞かれ持続性は低かった.徒手療法は腰部の皮膚の可動性が増した.人工炭酸泉下肢局所浴は他の療法に比べより高い腰痛緩和効果が認められた.そして「足のほうから温かく よく眠れた」,「長くぽかぽかする」などの感想が聞かれ 治療効果の持続性に優れた.<BR><BR>【考察】<BR>本実験から人工炭酸泉浴下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対してその有効性を持つことが示唆された.その機序として全身的な自律神経系の緊張緩和,血流促進による物質交換の正常化を伴う浮腫の吸収,および疼痛性物質の分解による痛覚消失が考えられる.徒手療法(筋膜リリース)はMyD患者の腰痛に対して効果的であるが持続性が低い.しかしセラピストから治療を受けたと実感でき満足度が高い.人工炭酸泉下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対して効果的で持続性が高い.MyD患者の腰痛に対する理学療法として徒手療法に加え人工炭酸泉下肢局所浴を併用すればさらに効果的であると考えられ,これらを併用した際の効果は今後の課題である.
著者
中谷 知生 田口 潤智 笹岡 保典 堤 万佐子 谷内 太 土屋 浩一 藤本 康浩 佐川 明 天竺 俊太
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0228-Ca0228, 2012

【はじめに、目的】 通常歩行においてプレスイングは体重が反対側へ移動する時期であり、この時の足関節底屈トルク(以下セカンドピーク)は遊脚期に必要な振り出しの初速を形成するとされている。そのため、プレスイングにおけるセカンドピークの減少は歩行速度の低下を引き起こすと考えられており、脳損傷後片麻痺者では強いセカンドピークを得られる者ほど速い歩行速度を得られるという報告がある。一方で、大腿骨近位部骨折術後患者におけるセカンドピークが歩行能力にどういった影響を与えるかについては明らかにされていない。本研究の目的は、大腿骨近位部骨折術後患者におけるセカンドピークの有無が歩行能力、特に歩行スピードに与える影響を明らかにすることである。【方法】 対象は、当院に入院中の大腿骨近位部骨折術後患者12名(平均年齢77.3±6.0歳、男性2名、女性10名)とした。術式の内訳は観血的骨接合術6名・人工骨頭置換術5名・人工股関節全置換術1名であった。術後の炎症やそれに起因する疼痛による歩行能力への影響を避けるため、疼痛の訴え無く10m以上介助なしで歩行可能な者を対象とした。計測時の術後経過日数は平均81.6±25.5日であった。効果判定の指標は川村義肢社製Gait Judge System(以下GJ)を使用した。GJは短下肢装具Gait solitionの油圧ユニットに発生する足関節底屈方向の制動力を計測する機器であり、これによりセカンドピークの定量的な評価が可能となる。今回の調査では対象者の術側下肢にGJを装着し、快適速度歩行および最大速度歩行を測定した。その結果、最大速度歩行においてセカンドピークを発揮している群と発揮していない群の2群に分割し、快適速度および最大速度で歩行した際の歩行速度・ケイデンス・歩数の差をt検定で比較した。さらにセカンドピークのトルク値と歩行速度との関連をSpearmanの順位相関係数を用い算出した。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属施設長の承認を得て、対象者に口頭にて説明し同意を得た。【結果】 対象者12名中、最大速度歩行時にセカンドピークを発揮した者が5名、発揮していない者が7名であった。セカンドピークを発揮した5名の術式は、観血的骨接合術2名・人工骨頭置換術3名、セカンドピークを発揮していない7名の術式は、観血的骨接合術4名・人工骨頭置換術2名・人工股関節全置換術1名であった。両群ともに快適速度に比較して最大速度では有意に歩行速度・ケイデンスが増大し、歩数は有意な変化は見られなかった。両群間を比較すると、セカンドピークを発揮している群は比較していない群よりも最大速度が有意に高かった。セカンドピークのトルク値と最大速度の間には-0.6と有意な負の相関関係が認められた。【考察】 大腿骨近位部骨折術後患者においても、セカンドピークを発揮できる群では発揮できない群に比べ歩行速度を向上させることが可能であるという特徴が明らかとなった。一方で、セカンドピークのトルク値と最大速度の間には負の相関関係が認められた。脳損傷後片麻痺者ではセカンドピークの減少は歩行速度の低下を引き起こすため、セカンドピークのトルク値と歩行速度に正の相関関係が認められている。しかし、変形性股関節症に対して人工股関節置換術を施行した患者におけるプッシュオフに関する先行研究では、立脚中期から後期にかけての強い足関節底屈運動は股関節伸展運動の不足を補うための代償的手段として用いられるという報告がある。よって今回の研究結果から、大腿骨近位部骨折術後患者においてもセカンドピークは遊脚期に必要な振り出しの初速を形成するという意味で歩行速度向上に貢献する一方で、トルク値の増大は股関節の機能低下を補うための代償動作という意味も含んでいるという可能性が推察された。今後は更にデータ数を増やし、大腿骨近位部骨折術後患者における最適なセカンドピークのトルク値、またそれを発揮させるためのトレーニング法を明らかにすることを目的に、特に股関節伸展運動の可動域、下肢筋力などの指標を用いた多角的な評価を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、歩行時の足関節運動が大腿骨近位部骨折術後患者の歩行速度を決定する要因の一つであることを示すものである。また従来、主に脳損傷後片麻痺者の評価で用いられることの多かったGJによる足関節底屈トルクの計測が大腿骨近位部骨折術後患者の歩行能力を評価する上でも有用であることを明らかにしている。以上2点において、本研究は大腿骨近位部骨折術後患者の理学療法の発展において重要な示唆を与えるものと考える。
著者
笠井 千夏 海部 忍 柿本 直子 畳谷 一 田村 靖明 田村 英司 土橋 孝之 高田 信二郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100973-48100973, 2013

【目的】当院は地域医療に貢献することを病院理念として掲げ,リハビリテーション部においても21年間継続し行政委託事業を実施している。当院では,平成18年度行政委託事業の一つとして「阿波踊り体操リハビリ編」を制作した。その後,対象者の症状や状態に合わせて選択できるよう「ロコモ編」,「寝たまま編」を制作するに至った。近年,運動器障害のために要介護状態となる危険の高い状態はロコモティブシンドローム(以下ロコモ)と呼ばれ,認知度が高まっている。本体操の構成は,徳島県の伝統文化である阿波踊りをアレンジし,阿波踊りの音源を基にした創作音楽に,当院セラピストが考案した5分間のリハビリ体操を組み合わせたものである。本体操は阿波踊りのイメージを残しつつ下肢運動機能向上と障害予防を目的としたストレッチ,筋力強化等を中心とした運動に焦点を当てた体操となっている。今回,「阿波踊り体操ロコモ編」を6ヵ月実施した結果を報告する。【対象及び方法】対象は当院が在所する吉野川市にて行政委託事業として実施されている介護予防教室に参加した106名(男性11名,女性95名:平均年齢74±14歳)である。対象者には阿波踊り体操ロコモ編を実施した前後において身体機能評価とアンケートを実施した。方法は阿波踊り体操ロコモ編を実施前と6ヵ月実施後に身体機能評価としてTimed Up &Go(以下TUG),Functional Reach Test(以下FRT),握力,膝伸展筋力(ANIMA Corporation社製μTas F-1)を理学療法士が測定した。その結果を統計学的分析にて,t検定(p<0.05)を用いて行った。また,実施前後に紙面でのアンケート調査を対象者に実施した。【説明と同意】対象者には研究の目的,内容,および個人情報の取り扱い関して十分に説明を行った上で同意を得て行った。【結果】介護予防教室実施前後を通して身体機能評価が可能であったのは69名であった。阿波踊り体操ロコモ編実施前後においてFRT,膝伸展筋力では若干の向上が認められたが,統計学的分析では有意な差は認められなかった。しかしながら,阿波踊り体操ロコモ編に対するアンケート調査では体操に対する感想にて「楽しかった」との回答が全体の86%,「楽しくなかった」が0%「どちらでもない」が13%,「無回答」1%と体操に対する印象は良かった。また,6ヶ月間の介護予防教室終了後『ロコモ編を継続したいですか』との質問に対しては「はい」が73%,「いいえ」が0%,「どちらでもない」が17%,「無回答」10%と体操の継続に対する意識の高さが認められた。【考察】阿波踊り体操ロコモ編における今回のアンケート調査で,本体操は満足度が高く,継続性が高いという前向きな回答を得られた。健康体操を継続するためには,それが楽しくなければ継続できない。阿波踊り体操ロコモ編は地元伝統文化の特性を活かした結果,親しみやすく,楽しんで行える体操であったと推測される。今後の課題として, 身体機能面での効果や実施回数の更なる検証が必要であると考える。また,本体操は日本運動器科学会学術プロジェクトの承認を受け,平成24・25年度事業として指導者の育成,更なる地域への普及活動に努める予定である。【理学療法学研究としての意義】本体操は地元伝統文化の特性を活かし,県下への普及を目的に考案され,実施した体操である。これらの働きかけは地域リハビリテーションを展開していく上で,有意義であると考える。
著者
香川 真二 村上 仁之 前田 真依子 眞渕 敏 川上 寿一 道免 和久
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.B0148-B0148, 2007

【目的】本研究の目的は、動作の熟練した頚髄損傷(頚損)者の身体感についての語りから、理学療法について再考することである。<BR><BR>【方法】サイドトランスファーが獲得されているC6完全麻痺患者に自らの身体についての半構造化インタビューを行い、得られた患者の主観的側面を解釈し、考察した。尚、対象者には本研究の趣旨を説明し、学会発表への同意が得られている。<BR><BR>【結果】インタビュー結果の一部を示す。<BR>Th:「怪我した直後の身体ってどんな感じ?」Pt:「頚から下の感覚が急に鈍くなったから、足の位置とか手の位置がよくわからんようになったり、自分の体をどう認識していいかわからへんようになってました。初めて車椅子に座った時は、座ってる感覚なかったかな。車椅子にこう、くくりつけられているような感じ。今は、この感覚のない身体でも、微妙に感じがわかるんですよ。だから、この感じが座ってるっていう感じって。だから体で覚えるとかじゃなくて頭で覚えんとしゃーないっすね」<BR>Th:「リハビリして動作が上手になっていく時ってコツみたいなのがあるの?」Pt:「突然じゃなくって、間違えたり正解したりとかを繰り返すのも必要なんかなって。成功ばっかりじゃダメで失敗したからそこに何かをみつけていくみたいな。そんな風にして自分たちが頚髄損傷になってから今の状態があるんかなーって」<BR><BR>【考察】「自分はこうである」といった確信は、個人としての主体が現実の秩序を疑ったり、確かめたりしながら築きあげたものであり、自分自身の「客観」や「真理」を保障するものである。今回の結果から、頚損者では受傷直後に自己の「身体状況」における確信が破綻していることが明らかとなった。さらに、「車椅子にくくりつけられているような感じ」といった「知覚」も変貌していた。つまり、受傷前までほぼ一致してきた「身体状況」と「知覚」が一致しない状態に変化している。この不一致が動作獲得の阻害因子の一つになっていると考えられた。そして、動作が獲得されるためには失敗と成功の中に表れる「身体状況」と「知覚」の関係性から、何らかの秩序を見つけていく必要がある。理学療法においては、まず「身体状況」と「知覚」の一致を目的に運動療法を行わなければならない。そのためには、「身体状況」と「知覚」をひとつずつ確かめながら体験的に認識することが必要となる。具体的には、セラピストが言語により動作の内省を「問い」、患者は自己の身体で知覚されたことを言語で「表象」する。セラピストの支援で構造化されていく語りの中で、患者自身の体験が意味づけられ、「身体状況」と「知覚」の関係性を学習し、新たな身体における確信が再構築されると考えられる。<BR>
著者
河合 麻美
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1468-GbPI1468, 2011

【目的】<BR>平成22年度に行われた理学療法士実態調査(PT白書)によると、会員の75%が社会生活においてストレスを感じていると回答しており、会員に対し職場や家庭など日常的なストレスにどう対応していくかの策が必要になると考えられる。今回、私は対人関係のストレス対策の一つとしてセルフコーチングを用いて自分の感情をコントロールし問題解決する方法を提案し、社団法人千葉県理学療法士会ワークライフバランス部、社団法人神奈川県理学療法士会会員ライフサポート部において理学療法士を対象とした研修会を開催しアンケート調査を行ったので、内容と共にアンケート結果を報告する。<BR><BR>【方法】<BR>平成22年1月社団法人千葉県理学療法士会ワークライフバランス部、6月社団法人神奈川県理学療法士会ライフサポート部においてセルフコーチング研修会「テーマ:自分らしく働こう」を開催した。時間はいずれも講義30分、参加者同士で行うワークを60分の全90分で行った。研修会終了後、参加者全39名を対象に無記名選択式及び記入式アンケートを行った。内容は研修会の満足度、セルフコーチングでの難しいと感じる点(複数回答可)、参加しての気付き(自由記載)、感想の4項目とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>アンケート調査施行の際、本研究の趣旨と本学会への発表の説明を行い、対象者全てに同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR>研修会の講義内容はセルフコーチングで大切な自分の内側のコミュニケーション、A.感情を受け止める方法、B.感情の捉え方・解釈の仕方、C.信念(ビリーフ)の書き換え方、D.自分への質問の選択法、E.相手へ伝える方法に分けて行い、ワークでは自分自身のコミュニケーションを発見するタイプ分けを行った後、参加者とのシェアや自分らしさを見つけるためのワークをディスカッション形式で行った。アンケートの回収率は100%で、結果は研修会に対する満足度ではとても満足27名(69%)、まあまあ満足9名(23%)、どちらともいえない1名で、セルフコーチングで難しいと感じる点は講義内容よりA.13名(17%)B.13名(17%)、C.11名(14%)、D.28名(36%)であった。また参加しての気付きは、自分を見つめ直すことが出来たが25名と最も多く、多様性・人との違いを感じることが出来た8名、職場で使える5名、その他、考え方を変えていけそう、自分にOKが出せた、自分の目標が見つかったなどの回答があった。 <BR><BR>【考察】<BR>今回、理学療法士を対象としたセルフコーチング研修会を開催し、参加者からは概ね満足との結果が得られた。これまで理学療法士対象の研修会では参加者同士のディスカッションの場などはあまりみれらず、参加者も初めは戸惑い気味であったが、終了時には笑顔で参加者同士が会話する姿が多く見られた。ワークを通じて自分のコミュニケーションをを見つめ直すと共に、他人との違いを知ることで人の多様性を実感することが出来たものと思われる。また、アンケート結果から参加者は少なからずコミュニケーションの困難を感じている場面があることが分かり、ただ苦手意識を感じるだけでなく、その方法を提示することでまた明日からの職場や家庭のコミュニケーションで実践していけるのではないかと考える。平成22年度のPT白書によると、現在自分のことを「幸せでない~どちらとも言えない」と感じている会員は全体の28.7%となっている。幸せであるかどうを感じるのは自分自身であることから考えると、自分の内側のコミュニケーションを良くすることで「幸せ」に関する感じ方や受け止め方も変わってくるのではないかと思われる。また厚生労働省が2008年に発表した「平成19年労働者健康状況調査結果の概要」によると仕事での最大のストレスの原因は「職場の人間関係」であり、仕事の質や量を上回る結果となっていた。理学療法士は職業柄、職場において人とのコミュニケーションは欠かすことが出来ず、職場スタッフだけでなく、患者さんや利用者さん、ご家族、他職種などその対人関係も多岐に渡っている。このことから、理学療法士自身が日常のストレスをコントロールし問題解決することで、仕事や家庭の充実や就業継続に繋がると考えれ、理学療法士を対象としたセルフコーチングなどコミュニケーション研修会の必要性が示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>理学療法施行上様々な場面でコミュニケーションは不可欠であり、且つ仕事上の最大のストレス原因は対人関係であることから、我々理学療法士一人ひとりがストレスコントロールやコミュニケーション法を学び、生活することで仕事の充実に繋がり、理学療法の質に貢献出来ると考える。
著者
吉川 昌利 岡田 直之 吉岡 豊城
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea0343-Ea0343, 2012

【目的】 厚生労働省の調査によると、ICD-10に基づく死因分類のうち、建築物内または周辺での日常行動に関連すると考えられる死因の中で、公共的建築空間及び街路等の公共的空間を発生場所とする死因は、「転倒・転落」が圧倒的であった。また、H.Luukinenら(2000)によると転倒によって死亡に至らなくても約1割は骨折や重篤な障害を引き起こし、日常生活を制限されることになるとしている。また、河野(2007)は転倒・転落による死者数の将来予測として2015年には年間4000人を超えると予測しており、急速化する高齢化に伴って拡大するリスク因子について検証することの意義は大きいと考える。その上で、鈴木(2006)は転倒の原因は男女ともに「つまずいた」が圧倒的に多く、次いで「滑った」あるいは「段差に気付かなかった」が続いているとしており、Saidら(2005)や齊藤ら(2010)をはじめ障害物のまたぎ動作に関する様々な研究や報告がなされてきた。しかし、それらは地域高齢者や脳卒中片麻痺患者を対象としたものが多く、疾患特性で検討した報告は少ない。今回我々は当院入院中の患者を対象に、対象物のまたぎ課題を行い、自己身体認知への影響やその傾向と対策を検証することとした。【方法】 当院回復期病棟入院患者で機能的自立度評価法(Functional Independence Measure以下FIM)の移動(歩行に限る)項目が5点以上の患者21名(男性8名、女性13名 平均年齢73.0±10.77歳)を1.下肢整形外科疾患群(以下整形群)、2.中枢神経疾患群(下肢疾患群以外の整形外科疾患を含む:以下中枢群)と大別し、バーの跨ぎ課題を実施した。実施手順は次の通りである。まず被験者が立位の状態で7m先にあるバーの高さを、自分が跨ぐことができると思われる最大の高さに設定する。設定はバーの高さを検者が操作し、被験者はそれを見て目的の高さになったら申告するという方法で行った。その後申告したバーの高さを変えずに、バーを被験者の50cm前方に移動した。7m前方で申告した高さを修正する場合は、7m前方での高さ設定と同様の方法でバーの高さを変更した。バーの高さが決定された後、実際に跨ぎ動作を実施し、その高さを跨ぐことができた場合はさらにバーを上げ、失敗した場合はバーを下げるという手順を2回繰り返し、実際の跨ぎ動作能力の最大値(以下、最大値)を測定した。【倫理的配慮、説明と同意】 臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)、個人情報保護法、ヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には本研究趣旨を十分に説明、書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 跨ぎ動作1回目での成功率は、整形群30%(3/10人)、中枢群81.8%(9/11人)と整形群において有意に失敗する傾向がみられた(p<0.01)。最大値と距離別予測値との相関を比較した結果、両群ともに距離に関係なく最大値と相関を認めた。また、距離別予測値と最大値との誤差は、7m予測値・50cm予測値ともに整形群で有意に誤差が大きく(p<0.05)、距離間に有意差は無いが50cm予測値との誤差がより大きい傾向を示した。【考察】 整形群では、またぎ動作1回目において失敗する傾向がみられ(p<0.01)、その際の値と最大値は負の誤差、つまり自己を過大評価する傾向にあった。岡田ら(2008)はリーチ距離と見積もり誤差の関係で負の誤差と転倒群の関連を示しており、本研究のtaskとは異なるが転倒予防の一助となる可能性を示唆している。上述のSaidら(2005)は脳卒中患者の障害物またぎ動作は健常者に比べ、障害物-足部間クリアランスの増大など、代償的ストラテジーにて行われると報告されている。つまり、中枢群では代償的ストラテジーの選択によりまたぎ動作をより安全に遂行した結果、初回での成功率が高値を示した可能性がある。また、距離別予測値と最大値の誤差は整形群で有意に大きく(p<0.05)、50cm予測値でその傾向は大きかったことからも、整形群では疾患による下肢の身体認知の誤差を代償するストラテジーの選択や指標の選択が乏しいと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、整形群で有意に自己身体認知に誤差が生じる可能性が示唆された。その上で、生活環境に限局した動作練習たけでなく最大能力を認識させる課題の提供や評価、または身体や環境を指標とした課題の提供を行いフィードバックすることで新たな自己身体認知を確立する必要がある。今後、またぎ動作の方法をより細かく評価し代償パターンの検証や、指標の選択に何を用いたかを明らかにすることで加速的介入を図れると考える。