著者
高山 哲治 岡久 稔也 岡村 誠介
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.153-158, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
11

大腸癌をめぐる最近の話題の一つは,過形成性ポリープ(あるいは鋸歯状腺腫)から発癌するというserrated pathwayの提唱である.すなわち,これらの病変の分子生物学的な解析が進み,従来発癌しないと考えられてきた過形成性病変の一部,特に右側結腸の大きい過形成性ポリープから発癌しうることが明らかにされつつある.もう一つの大腸癌をめぐる話題は,大腸癌に対する化学療法の進歩である.すなわち,oxaliplatin(L-OHP)などの新規抗癌剤の開発に加え,Vascular endothelial growth factor(VEGF)やEpidermal growth factor(EGF)受容体(EGFR)を標的とした新しい分指標的治療薬が開発された.特に,EGFRに対する単クローン抗体は,K-ras遺伝子変異の無い癌に有効であることが明らかとなり,これらの遺伝子異常を調べて治療を行う,いわゆる個別化医療の時代に入りつつある.
出版者
改造社
巻号頁・発行日
vol.第2巻, 1928
著者
中村 祐貴 井内 美郎 井上 卓彦 近藤 洋一 公文 富士夫 長橋 良隆
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.203-212, 2013-10-01 (Released:2014-08-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

長野県野尻湖底には,過去10万年以上にわたり堆積物が累積しており,後期更新世以降の湖水位変動を明らかにし,さらにはその原因である水収支の変動を検討できる可能性がある.本論文では,野尻湖の音波探査記録に見られる湖水位指標と火山灰年代との組み合わせから,湖水位変動を復元した.その結果,湖水位は過去約4.5万年間に8回の上昇・下降を繰り返していることが明らかになった.復元された湖水位変動と,野尻湖における花粉組成や全有機炭素濃度プロファイル,グリーンランドのNGRIPや中国のSanbao/Hulu洞窟の酸素同位体比プロファイル,および地球規模の寒冷化イベントの時期とを比較すると,寒冷期とりわけHeinrich eventなどの急激な寒冷期と湖水位上昇期とが対応している.寒冷期に湖水位が上昇する要因としては,地球規模の急激な寒冷化の影響を受け,冬季モンスーンが強化されたことに伴う日本海からの水蒸気供給量の増加によって,この地方の降雪量が増加したことが,主要因として考えられる.
著者
松下 治
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.753-761, 1999-11-30 (Released:2009-02-19)
参考文献数
31

二種のガス壊疸起因菌Clostridium perfringens, C. histolyticumから計三種類のコラゲナーゼを精製した。それらの構造遺伝子を解析したところ,予想一次配列にセグメント構造(S1, S2, S3)が認められた。N末端側のS1には金属プロテアーゼに共通なモチーフ(HEXXH)が存在していた。C末端側のS2, S3には重複が認められ,酵素により重複パターンが異なっていた。C. histolyticumの酵素の一つColHを用いて構造活性相関の解析を試みた。N末端側のS1のみからなる組換え酵素が水解活性を示したので,S1は触媒ドメインを形成すると考えられた。単離C末端領域が不溶性コラーゲンに結合することから,この領域はコラーゲン結合ドメイン(CBD)を形成すると考えられた。CBDを用いて細胞成長因子をコラーゲンにアンカーリングし,局所で長時間作用させることができた。CBDの構造が新しい薬物送達システム(drug delivery system, DDS)の開発に応用できる可能性が示された。

1 0 0 0 OA 松島大観

著者
山下重民 編
出版者
竹内書房
巻号頁・発行日
1913
著者
田原 信
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.110-114, 2020 (Released:2020-09-02)
参考文献数
21

現在,検出された腫瘍の遺伝子変異に応じて分子標的薬を処方するがんゲノム医療が様々な癌腫にて進展している。甲状腺がんにはBRAF,RET,NTRKなどのactionableな遺伝子異常の頻度が他の癌腫と比較して高い。しかし,承認されている薬剤は,NTRK阻害剤のみであり,現時点では効果の期待できる治療薬にたどり着くには数多くのハードルが待っている。RET癒合遺伝子を有する甲状腺がん,RET遺伝子変異陽性の甲状腺髄様がんに対しては,RET阻害薬の治験が進行中である。BRAF V600E変異又はALK癒合遺伝子を有する場合には,患者申出療養下の医師主導治験に参加可能であれば,薬剤の提供を受けることができる。個別化医療を推進するためには,初回治療時の遺伝子異常検査,トランスレーショナルリサーチ,臨床研究のための施設整備,多施設共同研究などを進めていく必要がある。
著者
中辻 真
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.6, pp.436-446, 2022-06-01

Web上に整備されている大規模な知識ベースに存在するセマンティクスは,個別のサービスに蓄積されているユーザの行動ログの統合分析に活用できる.ユーザ行動は,三つ以上のオブジェクトを含む関係で表現でき(例:“ユーザ”が“ウェブページ”に“タグ付け”するなど)るため,テンソルはユーザ行動を表現するための合理的な方法論を提供する.近年提案されたSemantic Sensitive Tensor Factorization (SSTF) は,オブジェクトの背後にあるセマンティクス(例:アイテムのカテゴリ)を用い,テンソル分解を行い,ユーザー行動を高精度に予測できる.しかし,SSTFは一つのサービスに対するテンソル分解のみを取り扱うため,(1) 異質なサービスのデータセットを同時に扱う場合に起こるバランス問題,及び (2) 観測データが不十分な場合に発生する希薄問題を解決できない.本論文で提案するSemantic Sensitive Simultaneous Tensor Factorization (S3TF) は,(1) 個々のサービスのテンソルを作成し,個別にテンソル分解を実行するのではなく,同時に実行する.これにより,バランス問題に起因する予測精度の低下を回避できる.また,(2) 分散した行動ログの背後にあるセマンティクスを用い,テンソル分解時に意味的なバイアスをサービス間で共有する.これにより希薄問題を回避する.実世界のデータセットを用いた実験により,S3TFは,既存のテンソル分解手法よりも高い予測精度を達成し,また,サービスを跨る暗黙の関係を抽出できることを示した.
著者
Jerdvisanop CHAKAROTHAI Katsumi FUJII Yukihisa SUZUKI Jun SHIBAYAMA Kanako WAKE
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE TRANSACTIONS on Communications (ISSN:09168516)
巻号頁・発行日
vol.E105-B, no.6, pp.694-706, 2022-06-01
被引用文献数
1

In this study, we develop a numerical method for determining transient energy deposition in biological bodies exposed to electromagnetic (EM) pulses. We use a newly developed frequency-dependent finite-difference time-domain (FD2TD) method, which is combined with the fast inverse Laplace transform (FILT) and Prony method. The FILT and Prony method are utilized to transform the Cole-Cole model of biological media into a sum of multiple Debye relaxation terms. Parameters of Debye terms are then extracted by comparison with the time-domain impulse responses. The extracted parameters are used in an FDTD formulation, which is derived using the auxiliary differential equation method, and transient energy deposition into a biological medium is calculated by the equivalent circuit method. The validity of our proposed method is demonstrated by comparing numerical results and those derived from an analytical method. Finally, transient energy deposition into human heads of TARO and HANAKO models is then calculated using the proposed method and, physical insights into pulse exposures of the human heads are provided.

1 0 0 0 現代思想

出版者
青土社
巻号頁・発行日
vol.12, no.9, 1984-08

1 0 0 0 OA 天理教祭文集

出版者
今井天誠堂
巻号頁・発行日
1937
著者
田村 温美 筒井 英光 伊藤 純子 小原 亮爾 星 雅恵 久保田 光博 矢野 由希子 池田 徳彦
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.269-273, 2021 (Released:2022-02-22)
参考文献数
15

甲状腺・副甲状腺手術の後出血は1~2%の頻度とされている。頸部は狭い空間であることから,少量の出血でも血腫による静脈潅流障害により喉頭浮腫から気道閉塞に至る可能性がある。このため,甲状腺・副甲状腺手術において後出血は最も緊急性の高い合併症である。当科では,後出血予防の様々な取り組みにより,後出血に対する再開創率は0.5%と好成績であった。しかしながら,手術を行う限り後出血はどうしても一定の頻度で発生してしまうため,発生防止と同時に,早期発見と迅速な対応を行う取り組みが必要である。当科ではその取り組みのひとつとして,頸部マーキングを行っている。ひも1本でできる危機管理をコンセプトにこの頸部マーキングを「東京医大ひも法」と名付けて行っている。「簡便」かつ「安価」で導入可能であること,安全が「見える化」「数値化」することでチーム内での情報共有や早期発見に有用な方法である。ひも法における「マーキングが2cmずれたら主治医コール」は妥当な基準と考えている。
著者
松本 聰
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.187-191, 1997-03-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1
著者
廣瀬 覚 高田 祐一
出版者
独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所
雑誌
奈良文化財研究所学報 : 日韓文化財論集4
巻号頁・発行日
no.100, pp.1-43, 2021-03-31

本稿では、古代国家成立期の日韓の石工技術を比較し、その共通性と差異を確認する作業を通じて、古代日韓の石工技術の発展過程とその歴史的意義を追究した。古代日韓における石工技術の最大の相違は、矢穴技法による石材切断工程の有無にある。朝鮮半島では、三国時代には初源的な矢穴技法が出現するものの、その本格的な導入は7世紀中頃以降であり、統一新羅時代には特徴的な縦断面三角形の矢穴が登場する。高麗時代以降は再び方形矢穴に回帰することからも、三角形矢穴の展開は新羅の盛衰とほぼ軌を同じくしており、その背景には国家的造営事業を通じて専業化を遂げた石工集団の存在を推測することができる。また、新羅の矢穴技法は石材の成形を主目的とするものであり、採石自体は自然の節理や転石に大きく依拠するものであった。飛鳥時代初期に朝鮮半島から伝来した硬質石材の加工技術は、半島でも矢穴技法が未成熟の段階のもので、自然の転石・塊石をノミによる敲打で表面処理するだけの相対的に簡易なものであったとみられる。結果的に、7世紀中頃以降の石材加工の複雑化や消費の拡大に対して、半島では矢穴技法を用いて硬質石材を成形していくのに対し、同技法を欠く日本では軟質の凝灰岩を中心的素材とすることで、これに対処せざるを得なかったものと考えられる。そうした技術的相違が存在する一方で、日本、朝鮮半島ともに、国家の宗教的・政治的施設の造営事業を通じて7世紀後半に石工技術が急速に発達を遂げていく点では一致をみている。その背景には、強大な唐の圧力に対峙すべく、政治・文化諸制度を急ぎ整備していこうとする日韓に共通した国家的課題の存在を見て取ることができる。