著者
金丸 裕志
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.23-33, 2019-03-31

本稿は、これまでの政治体制の比較研究における民主化論や政治体制論を検討し、21世紀に入って盛 んに論じられている権威主義体制の研究に着目して、政治体制の実証的分類および体制移行の検証を可能 にする分析枠組みの構築を目的とする。冷戦後の民主化の時代には、政治学では盛んに民主化研究が行わ れ、1990年代に民主化の限界が見えると、今度は権威主義体制とのグレーゾーンに位置する政治体制が 注目された。21世紀には民主化の「後退」や「バックラッシュ」がいわれ、現在は権威主義体制の研究 が盛んに行われている。本稿では、こうした流れに沿って、民主化論、グレーゾーン体制、選挙権威主義・ 競争的権威主義体制論を順に検討し、これらをふまえて自由民主主義・選挙民主主義・競争的権威主義・ 覇権政党・一党独裁・君主政/軍政/個人独裁の類型からなる政治体制の分類枠組みを提示する。この分 類枠組みは、要素累積的に構成されており、そのため、政治体制の比較研究および体制変動の検証に有効 であると考えられる。
著者
青山 敏明
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.3, no.8, pp.403-410,386, 2003-08-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
65
被引用文献数
2 2

中鎖脂肪酸は, 通常油脂中の長鎖脂肪酸と消化吸収性が大きく異なり, 肝臓に直接運ばれ, 素早く酸化されてエネルギー源となる。この結果, 食後の熱産生が高く, 食後の血中トリグリセリド濃度が上昇しない。また, 中鎖脂肪酸は通常の条件で安全と確認されている。最近, 中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール (MCT) および中・長鎖トリアシルグリセロール (MLCT) の体脂肪蓄積抑制効果がヒトの長期摂取試験で示された。このMLCTは, 中鎖脂肪酸が比較的少量であるが体脂肪蓄積抑制に有効であり, 汎用食用油として有用である。
著者
西田 芳正
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-50, 2003-05-24 (Released:2017-09-22)

日本人、日本社会と在日韓国・朝鮮人の民族関係を検討する際、被差別部落の問題を避けることはできない。戦前、多数の朝鮮人が部落およびその周辺地域に流入、定着したことが知られており、職業、地域、学校などさまざまな場面で両者が近接して生活することになった。本論文では、特定地域での両者の関係史をたどり、他地区の事例も踏まえつつ両者の関係性を整理した。日本社会の差別性のゆえに職住において両者は接近せざるを得ない構造的な与件があり、職業において競合する立場に置かれることにもなる。差別的な意識を双方が抱いていることも事実であるが、日常生活場面では良好な関係が成立していたことを示す記録が多数残されている。貧困、生活苦のなかでの密接な関わりは、民族関係成立の条件を考える上で一つの手がかりとなるだろう。また、マイノリティ集団を相互に比較検討する視点もさまざまな知見をもたらすはずである。それぞれの集団に課せられた障壁=バリアのあり方、その認識と対応のあり方を比較によって検討することは、それぞれの集団の特性を浮かび上がらせるだけではなく、日本社会の差別的構造をも明らかにするはずである。
著者
中川 健司
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.67-81, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
16
被引用文献数
4

EPAに基づく介護福祉士候補者が国家試験を受ける上で漢字が大きな障壁となると予想されており,国家試験を見据えた漢字学習支援が急務となっている。本研究では,国家試験受験の上で必要な漢字知識を検証するために,過去8回の国家試験中に出現する漢字の頻度と傾向を調査し,介護分野の漢字教材で扱われている漢字と比較対照した。その結果,8回の国家試験中の出現頻度が29回以上の漢字497字で,全13科目においても,その中の介護関連3科目においても,出現漢字(延べ)の約90%がカバーされる一方で,教材で扱われている漢字でカバーできるのは50%未満にとどまることが明らかになった。この調査結果は,介護分野の教材で扱われている漢字では,国家試験に出現する漢字をカバーしきれていないことを意味し,国家試験に対応するためには,漢字教材で扱われている漢字以外にも試験に頻出する漢字を相当数学ぶ必要があることを示唆している。
著者
金 銀珠
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.123-137, 2006-04-01

近代文法学における「形容詞」は,江戸時代以来の伝統的な形容詞論をスタートラインにおけば,その規定が最初は名詞修飾機能中心へと移行し,次は叙述機能中心へと移行しながら,成立したものである。このような二度の移行に関わっていたのが西洋語のAdjective解釈である。本稿は,近代文法学における「形容詞」「連体詞」概念がどのように成立したのかを,西洋文法におけるAdjectiveとの関連から考察した。近代文法学の「形容詞」概念がAdjectiveを名詞修飾だけに極度に限定していきながら成立し,その結果として,今日の学校文法における「連体詞」が登場する過程を示した。
著者
安井 裕司
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.659-668, 2014-08-10 (Released:2017-04-29)
参考文献数
51
著者
江田 真毅
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.289-306, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
151

日本において動物考古学は,遺跡から出土する動物遺体を資料として人類の過去を研究する考古学の一分野である.一方,動物遺体の分析からは,動物の過去の生態も復元できる.日本でも遺跡から出土した哺乳類の骨からその分布や大きさの時代的変化を復元する考古動物学的研究の例がいくつかある.しかし,小論で「考古鳥類学」的研究と呼ぶ遺跡から出土する鳥骨に着目して,動物側の視点からその過去の様相を調べる研究はほとんどなかった.日本には600種を超える鳥類が分布しており,その生態は多様である.歴史的な環境の変化に対する各種の応答も様々であったと考えられるため,哺乳類とは異なる生態変化の様相を検出できる可能性がある.遺跡から出土した骨を同定し,さらに骨の形態やDNA,組織,安定同位体比などを調べることで,分布や形態,集団構造,遺伝的多様性,食性など当時の鳥類の生態を復元できる.筆者らがこれまで取り組んできたアホウドリPhoebastria albatrusの研究では,この種がかつては日本海北部やオホーツク海南部にも分布していたことが分かった.また約1,000年前のアホウドリには体サイズと食性の異なる2つの集団があり,さらに2つの集団の子孫は現在鳥島と尖閣諸島に生息していることも明らかになった.これらの知見は,実際には2種からなる可能性があるこの危急種の保全の方向性を決定づける重要なものである.今後,次世代シーケンサーによるゲノムの比較や,コラーゲンタンパク分析が遺跡出土の鳥骨に応用されることで,考古鳥類学の発展が期待される.これまで鳥類の研究は主に進化的時間スケールと生態的時間スケールで進められてきた.考古鳥類学的研究から得られる情報は,これらの時間スケールの間を埋めるものであり,日本においても今後さらなる研究の発展が期待される.
著者
内藤 準
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.155-175, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
68

リベラリズムの制度的秩序の基礎である「自由と責任のルール」は,われわれの社会的世界を構成する日常言語に組み込まれている.そのルールに依拠するわれわれの社会は,いかなる秩序のあり方を示すのか.本稿ではまず,リベラル・パラドクスの枠組みを応用して,自由と責任のルールおよび契約の自由からなる制度が,相互行為を規範的に秩序づける仕組みをまとめる.そのうえで,(1)リベラリズムに立脚する「近代市民社会の秩序」の基本的性格を検討する.そして,(2)貧困や格差の文脈における自由と責任のルールの意味と,いわゆる「自己責任論」の問題点を,社会の規範的な秩序形成という観点から,全国調査データの知見もふまえて検討する.分析の結果,(1)近代市民社会の秩序は人びとの十分な自由を前提とすること,その秩序は排除的な性格を持つことが明らかになる.さらに,(2)社会の規範的な秩序形成という観点からみると,拡大する貧困や格差の文脈において自己責任を理由に弱者支援や再分配政策を拒絶することが,むしろ秩序の基礎である自由と責任のルールそのものを掘り崩す可能性があることが分かる.
著者
森 顕登
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.63-79, 2015-03-23 (Released:2017-03-24)

戸籍制度は親族関係を公証する国民登録制度であるが、この制度のもとに作成される戸籍は災害のたびに存在の危機にさらされてきた重要文書の一つである。昨今の例では2011年の東日本大震災で4つの自治体の戸籍正本が滅失しているが、先の大戦でも空襲によって戸籍を滅失させた自治体が相次いだ。例えば旧東京市部では7区の戸籍が被害を受け、そのうち3区はそのすべてを滅失している。来たるべき空襲に備えて戸籍はどのように管理されていたのか。そして、滅失した戸籍はいかにして再製が図られたのか。この二つの問いの答えを得るべく、法務省民事局編『民事月報』26巻2号(1971年刊)に掲載された戸籍実務家による座談会を分析する。