著者
寺尾 美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

アメリカの内部告発者保護に関係した法制度につき、連邦法・州法、制定法・判例法、一般法・個別法につき、総合的考察を行いアメリカ法の特徴を明らかにしたとともに、アメリカにおいて内部告発者保護法制発達の社会的背景を探りつつ、内部告発者保護法制の目的や、内部告発に孕む諸種の問題点に関する考察も行った。
著者
相川 恵子
出版者
横浜市立篠原西小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

自閉症スペクトラムの子どもが学校での活動に参加しようとするとき、問題になりやすい要素の一つに、感覚過敏(hypersensitivity)がある。学校現場では、とくに学校環境・教育環境に不可欠な音環境(音声や音響)に対する「聴覚過敏」は、多くの教育行為に影響を与える。聴覚過敏のある児童にとって、学校環境は音の洪水・音のカオスである。現在、教育環境の整備は、高い視覚的な認知力を活用した「構造化」の形で多くの学校で取り入れられている。それに反して、音環境はまだまだ整理されていない。自閉症の子が生活する学校での音の全体的な風景(サウンドスケープ,Porteous & Mastin,1985)を調整し、ストレスの少ないものになるようにデザインするために、小学校就学以前から高等学校在籍児童・生徒までの12名の聴覚過敏のあるお子さんについて保護者と指導者(学級担任)からの聞き取り調査を実施した。その結果、次のようなことが明らかになった。保護者が、「特定の音に対する過敏性」に目を向けがちであるのに対して、教師は「音」への過敏性よりも、その子の生きにくさ・困難さ全体への支援の一部としての「音への過敏性」ととらえる傾向があった。聞き取り調査に答えた担任全員が、「聴覚過敏」への対応をしているにもかかわらず、対象児童・生徒を聴覚過敏と感じたことはないと答えている。さらに、それぞれの「聴覚過敏」の状態に合わせて継続的な支援を行っている。校内サウンドスケープ・デザインが、単に「音刺激」の調整だけに終わるのでは不十分である。(1)感度の亢進(2)特定音響特性の忌避(3)過剰情報量の忌避(4)質的変調刺激の忌避(5)予測しにくい刺激の回避・忌避(6)恐怖症対象刺激の回避・忌避(7)意味づけ困難刺激の忌避(8)理由不明の忌避等の、現象・原因別に環境調整・情報調整を行うことが、対象児童・生徒のストレス軽減につながり、全校レベルでの校内サウンドスケープ・デザインにつながると考える。
著者
滝澤 修 久田 嘉章 細川 直史 久田 嘉章 細川 直史 柴山 明寛
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

大規模災害時の被災地調査システムとして、RFID(電子タグ)リーダ・ライタ、GPS、GIS(地理情報システム)と携帯型パソコンを組み合わせた端末の研究開発を行った。RFIDを情報交換用の記憶媒体とするほか、GPSを補完する位置情報源として用い、調査作業の負担軽減及び時間短縮を実現した。
著者
西山 功一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまで血管内皮細胞にHLH転写因子Id1を過剰発現させることにより、増殖能、遊走能が増強され、in vitroおよびin vivoでの血管新生作用が亢進することを解明してきた。本研究においては、Id1の血管新生作用に関与する分子メカニズムに関し検討を行った。H18年度の研究において、1)マトリゲル上でのin vitro血管新生評価系において、血管形態形成過程ではId1は核から細胞質に局在を変化させ(核-細胞質移行)、2)この核-細胞質移行にはcAMP-protein kinase A (PKA)系にて制御されるCRM-1/exportinシステムが関与しており、3)Id1の5番目のセリンのリン酸化が重要である可能性があることを示した。これにより血管新生におけるId1の新規制御メカニズムの一つとして、血管形態形成過程にけるId1の上流の調節機構を見出し得た。平成19年度の研究においては、特に、Id1結合ターゲット分子、下流分子とその生理的意義に焦点を絞り研究を行った。その結果、1)マウス大動脈片のタイプ1コラーゲン内3次元培養系による血管新生評価系にて、新生血管内皮細胞におけるId1の核内発現強度は均一でなく、その発現には空間的周期性があることが解った。血管形成過程にてのこのような制御を受ける分子としてNotch/Hey経路が示されていた為、Id1とNotch/Hey経路のクロストークを推定し培養細胞系にて検討を行った結果、2)Id1はHLH転写因子Hey2を含めたいくつかの重要なNotch下流分子を負に制御していることが解った。3)さらに、その制御にはHey2の発現上昇が関与していた。これらの結果はId1とNotchシグナル経路のクロストークによる新規血管新生制御メカニズムの可能生を示唆するものである。また、Notch/Hey2経路は動脈内皮細胞分化にも重要であることが解っており、Id1が同経路を制御することで動静脈分化機構にも関与する可能生をも示唆するものであり大変興味深い知見であると考えられる。
著者
齋藤 仁
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究目的を達成するために平成22年度に行った研究内容は,以下のようにまとめられる(齋藤ほか,2011,GIS-理論と応用,投稿中).1.土砂災害のリアルタイムモニタリングシステム(SWING system)の構築前年度までの研究で得られた「2種類の降雨イベント(短時間集中(SH)型と長時間継続(LL)型)の特徴」に基づいて,斜面崩壊を発生させる降雨イベントのリアルタイムモニタリングシステム(the system with Soil Water Index Normalized by Greatest value, SWING system)を構築した.SWING systemは,気象庁発表の毎正時の解析雨量と土壌雨量指数をリアルタイムで解析し,現在の降雨イベントをSH型またはLL型に分類する.その結果を図化・Web表示することで,日本全域を対象として,斜面崩壊を発生させる降雨イベントのリアルタイムモニタリングが可能である.本システムは,http://lagis.geog.ues.tmu.ac.jp/swing/にて試験公開した.2.2010年の豪雨による土砂災害を対象とした,SWING systemの検証SWING systemの構築後,2010年に発生した土砂災害(九州南部,岐阜県八百津町,広島県庄原市など)をモニタリングし,本システムの有用性を検証した.その結果,霧島市国分重久や岐阜県八百津町での事例では,SH型の降雨イベントとして過去10年間で最も斜面崩壊が発生しやすい状況であったことをモニタリング,事前予測できた.また,霧島市霧島大窪や都城市高野,庄原市の事例では,LL型の降雨イベントとして,斜面崩壊が発生しやすい状況であることがモニタリング,事前予測できた.より多くの事例での検証やシステムの改良が必要であるが,本システムを土砂災害情報として応用できる可能性が示された.
著者
五十嵐 治一 黒瀬 能聿 五百井 清
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ロボット・フィールド上方に般若したビデオカメラ(グローバルビジョン),ホストPC1台(画像処理サーバ,通信中継サーバ,リモートブレイン用プログラム),ホストPCに内蔵された画像キャプチャーボード,ロボット5台から構成されるロボットシステムを構築し,次の4つの研究を行った.第1に,ロボットのマーカ認識において,照明条件に頑健な色抽出法の研究を行った.この目的のために,背景色(床画の緑色)とマーカの色(黄と青の2色),ボールの色(オレンジ)の閥値データベースを利用した方式を考案し,評価実験を行った.特に,濃い影の領域を人工的に生成し,影の存在するロボット・フィールド上での3色の抽出も試みた.実験では,商い正抽出率と,低い誤抽出率が得られ,提案方式の有効性を確認することができた.第2に,ロボス社製の4輪全方向走行型ロボットを使用して,走行制御の学習法に関する研究を行った.学習法としては強化学習の一種であるQ学習を用いた.具体的な例題として,ロボット1台が静止状態から目標点へ直進するタスクを取り上げて学習実験を行った.実験の結果,直線軌道の角度誤差を半減させるという効果を得ることができた.第3に,マルチエージェント・システムにおける行動学習法として,方策勾配法を用いた学習方式を考案した.応用例として,獲物と複数ハンターとによる「追跡問題」,カーリングにおける簡単な2体力学問題の逆間題,サッカーエージェントにおけるキッカーとレシーバとの協調行動問題を取り上げて,学習実験を行い,その有効性を検証した.第4に,移動ロボットの誘導制御に用いるために指示位置情報が取得可能な小型ポインティング装置を開発した.
著者
槇野 博史 和田 淳 小川 大輔
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

糖尿病性腎症の病態の初期には細胞肥大が重要であり、その後慢性炎症が糖尿病性腎症の進展を促進させている。核内受容体のmodulatorはこれらの病態を総合的に改善する薬剤の候補である。Peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR)-δアゴニストおよびLiver X receptor (LXR)アゴニストは抗炎症作用によって治療効果を発揮し、Retinoid X receptor (RXR)アンタゴニストは主として細胞周期の異常を是正して細胞肥大を抑制することが判明した。核内受容体のmodulatorは糖尿病性腎症に有効であると考えられる。
著者
東畑 郁生 GRATCHEV Ivan Borisovich BORISOVICH Gratchev Ivan
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年の都市再開発では、従来存在していた工場などから廃棄物が地中に浸透して地盤汚染を起こしていることが、しばしば発見されている。この問題への対処としては、汚染物質の除去あるいは封じ込めが想定されてきた。環境的な視点に立つならば、このアプローチは妥当である。しかしそれに加え都市の再開発を考えるならば、地盤の剛性や支持力のような力学的性質が化学物質の浸透によってどうに変化するのか、という問題意識を欠くことができない。さらに、地球温暖化に伴って海水面上昇が議論され、電解質である塩水の浸透によって粘土地盤の地盤沈下の可能性も、考慮しなければならない。このような視点から本研究では、全国各地から粘性土のサンプルを集め、これに酸性流体や電解質流体を浸透させる装置を製作し、粘土の剛性や沈下などの力学的性質に起こる変化を測定した。まず酸性流体の影響を調べるため、中性およびpHの小さい流体を浸透させ、その後一次元圧縮実験を行なって粘土の持つ剛性を測定した。当初、酸性流体は粘土の圧縮性を高め、剛性を減少させると予想していた。しかし実際には剛性が増加する粘土と減少する粘土とが存在し、その原因としてモンモリロナイトのような粘土鉱物の含有量が想定された。すなわち酸性流体廃棄物の浸透によって地盤沈下を起こしやすい地盤とそうでない地盤とが存在する。次に電解質であるが、真水で飽和した粘土試験体に、海水程度の濃度の塩水を浸透させ、体積収縮を測定した。粘土鉱物間の流体のイオン濃度が上昇すると電気二重層が収縮して鉱物同士が接近し、体積収縮につながるものと予測していた。使用した粘土は東京下町の有楽町粘土であり、東京における海水面上昇の影響を想定した。実験結果によれば電解質の浸透は体積収縮をあまり起こさなかった。これは当該粘土が本来海水中で堆積したものであり、塩水の影響はすでに完了しているもの、と考えられる。
著者
長友 敏
出版者
宮崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

テンブレートマッチング法にて、画像計測をするためのソフトウェアを製作するため、OpenCVによる画像処理ライブラリを用いて、C言語のプログラミングにより、実験用のソフトウェアを製作した。次に、昼夜各専用のUSBカメラ2台で計測するため、カメラ座標から実座標への変換をするキャリブレーション用ソフトウェアと座標変換用のソフトウェアを製作した。本計測システムは、計測台、飼育ケージ、昼間用SUBカメラ(画素数:500万画素)、夜間用赤外線USBカメラ(画素数:314万画素)、赤外線LEDで構成されている。カメラは計測台に設置したケージの上部から撮影し、パソコンを通して専用ソフトウェアで画像処理をおこなった。また、赤外線LEDを照射することで、夜間の計測をおこない自然な状態での計測を実現させた。本研究の実験は,宮崎大学動物実験規則に従い,動物実験計画書(宮崎大学動物実験承認番号2011-527)に従って実施した。使用した小動物はマウス(C57BL)、実験場所はフロンティア科学実験総合センター生物資源分野コンベンションエリアにて実施した。マウスに直径6mm円形のマーカーを貼り付け、マーカーの画像をテンプレート画像として、テンプレートマッチング法で追跡した。その結果、テンプレートマッチング法により小動物の追跡を実現した。自動追跡については、マーカーの自動認識率を30秒間隔で24時間計測した結果、自動認識率が1時間ごとの平均で約70%であった。エラーを起こした原因として、マーカーの隠れやウッドチップ等の誤認識があった。誤認識した部分を手動修正し、本システムでの小動物の行動測定を実現させた。
著者
蘆田 裕史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、シュルレアリスムにおける衣服と身体の問題を理論的な見地とモードとの関連の双方から考察していくことを目指した。その際に着目したのが「切断=裁断」の概念である。シュルレアリスムの「イメージ」においては、衣服が人間身体に代置されるものとして描かれることが珍しくない。それはすなわち、身体が不在のものとなり、衣服のみが現前することである。また、シュルレアリストが描く身体はしばしば切断され、パーツへと解体されている。これはある意味で、衣服的なありかたである。というのは、衣服は本来いくつかのパーツが縫合されることで成立するものであり、常に解体可能なものであり、切断される身体はあたかも衣服であるかのように扱われているといえる。アンドレ・ブルトンがパピエ・コレを型紙になぞらえていることから、衣服制作とコラージュとの関係に着目し、当時現れはじめた立体裁断の手法との関連を明らかにした。つまり、身体にあてられた布地は既にして身体と同一化しているのであり、表象のレヴェルにおいては布地にハサミを入れることと身体にハサミを入れることが同じ行為と見なされるのである。このことを踏まえつつ、ブルトンの『狂気の愛』における有名なスプーンの分析を参照することで、シュルレアリスムにおいては衣服が潜在的な身体として捉えられうることを口頭発表「シュルレアリスムにおける衣服と身体-切断=裁断の概念をめぐって-」において提示した。これはシュルレアリスム内部での問題にとどまらず、シュルレアリスムを同時代のモードの世界に関連づけられる点において、シュルレアリスムにおける衣服の問題を語る上で外せない論点となることは間違いない。
著者
山本 祐輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は「Web情報の信頼性の評価」に関する研究として2つの課題に取り組んだ.1つ目の研究課題は,Webページに掲載された画像の信憑性を分析するためのアルゴリズムの開発である.本アルゴリズムのために,昨年度開発したWeb情報の信憑性を分析する汎用的なアルゴリズムを画像信憑性分析のために応用・改善した.開発した分析アルゴリズムは,画像の信憑性を画像とその周辺テキスト内容(例:キャプション)との整合性に着目した分析アルゴリズムである.また,提案アルゴリズムの応用システムとして,Web画像の信憑性をブラウジング時にリアルタイムに解析できるアプリケーションImageAlertを開発した,ImageAlertを用いることで,閲覧中の画像の信憑性を分析し,より信憑性の高い画像を取得することが可能となる.開発したアルゴリズム・アプリケーションは,既存のメディア情報とは異なり信憑性の検証がほとんど行われないWeb情報,特にインターネット広告の画像の信憑性検証に有益である.2つ目の研究課題は,インターネットユーザの信憑性判断モデルの推定に基づくWeb検索結果の最適化に関する研究である.情報の信憑性は,情報の種類や情報を閲覧するユーザによって評価尺度が異なる情報特性であることが知られている.そこで,2つ目の研究課題では,検索結果に対するユーザの信憑性フィードバック情報から信憑性判断時にユーザが重視する信憑性評価観点を推定し,それを基にWeb検索結果を再ランキングするシステムを開発した.提案システムによって,(1)通常のWeb検索結果では確認することが難しい信憑性判断情報を確認すること,(2)膨大なWeb情報の中から各々のユーザにとって信憑性が高いと思われるWebページを効率よく検索することが可能となる.
著者
平田 豊
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

運動学習の中核を担う小脳内情報処理機構を魚類を用いた神経生理学実験により明らかにした.また,その知見を数理モデルとして集約し,計算機内に実装して,ロボットアーム等に用いられる実機モータの制御に応用することに成功した.
著者
赤塚 若樹
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-10-20

本研究のテーマは、20世紀チェコの視覚芸術における文学的想像力のはたらきを、美術史的・文学史的・文化史的観点からだけでなく、歴史的・社会的・政治的文脈においても検討することにあった。絵画、写真、グラフィック・デザイン、コラージュ、映画、アニメーションといったさまざまなジャンルをあつかいながら、20世紀に開花したチェコの視覚芸術が、表現の点でも思想の点でも、文学と密接な関係を取り結びながら発展してきたことをあきらかにした。
著者
日置 寛之
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

レンチウイルスは長期発現が可能であるという利点はあるものの、目的遺伝子の発現量が他のウイルスベクターよりも弱いという欠点があった。そこで、神経細胞特異的かつ高発現を可能にするレンチウイルスの開発を進めた。神経細胞特異的プロモーター(SYNプロモーターなど)の制御下でGFPを発現させた場合、ウイルス注入から一週間程度ではGFPの蛍光輝度は非常に弱く、GFPの発現を検出するには免疫染色法が必須となる。そこで、SYNプロモーター下でテトラサイクリン調節性トランス活性化因子(tTA:Tet-Off)を神経細胞特異的に発現するウイルス、Tet応答性プロモーター下でGFPを発現するウイルスを二重感染させるシステムを開発した(Double Lentiviral Vector Tet-Off Platform)。神経細胞特異的に発現したtTAはTREプロモーターを活性化し、その結果GFPの蛍光輝度は40倍程度まで増大した。8週間に渡ってGFPの発現を観察したが、神経細胞特異性に変化はなく、また細胞傷害性も認められなかった。
著者
新井 浩子
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、昭和初期における文部省社会教育局の活動実態を明らかにする新資料を整理・分析し、近代社会教育行政の整備・展開過程に関わる貴重な資料として公開することを目的としたものである。昭和初期の社会教育政策についての先行研究は、社会教育局の掌握内容の変遷、組織化過程、代表的指導者の理論研究が行われているが、具体的な社会教育活動を明らかにする研究はほとんどない。本研究代表者は、この未開拓分野に関する新資料を発掘した。新資料は、社会教育局が創設された1929年前後の時期に社会教育を牽引した指導者たちへのインタビュー調査の記録テープ全38本である。調査は1960年代に財団法人日本女性学習財団(当時:財団法人大日本女子社会教育会)によって実施されたものである。本研究では、オープンリール型テープだったものをデジタル変換するとともに、内容をテキスト化して資料として利用可能な状態にした。併せてインタビューの証言者に関する資料収集を行い、社会教育指導者としての役割を明らかにした。約17時間に及ぶ記録テープには、18名の証言が収められている。それは具体的には、社会教育局長、社会教育局職員、県社会教育主事、日比谷図書館長、博物館研究者、青年団指導者、ボーイスカウト指導者、女学校校長、民衆娯楽関係者などによる証言である。証言内容と証言者に関する情報分析から、これまでほとんど知られていなかった民衆娯楽、文部省社会教育局、図書舘・博物館の社会教育施設、府県レベルでの社会教育活動の実態を確認することができた。その結果、1920~30年代に文部省社会教育局が各領域の指導者と密接な関係を結びつつ、その活動を通して社会教育行政の整備を推進したことが明らかになった。今回の調査・研究によって明らかになった事実、昭和初期文部省社会教育活動の歴史的意義については、論文・学会発表において公表していく予定である。また本研究によって整理した証言テープは、現在、(財)日本女性学習財団と公開方法を検討中である。
著者
中村 香子 ホルツマン ジョン
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、民族文化観光が、ホストである地元の人びとにとって、どのような経済的資源・文化的資源となっているのかを解明し、地域社会の開発=発展のために民族文化観光が果たしうる役割を探究することを目指している。本研究では、アフリカの「マサイ」を事例に、現地の人びとがみずからの「伝統的な文化」(ダンス、儀礼、装身具、衣装、家屋など)を外国人観光客に提供する民族文化観光が、地元の人びとの経済を支え、自文化に対する誇りを高めるために果たしうる役割に関する情報基盤を提出する。
著者
甲本 卓也
出版者
広島市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

2元線形ブロック符号のトップダウン(適応)型再帰的最尤および準最尤復号法を考案し、アルゴリズムの有効性を計算機シミュレーションにより示した。従来、最尤復号法の効率的なアルゴリズムとしてはトレリスダイアグラムを用いるヴィタビ復号法が広く知られていたが、実行に際して必要な加算、比較といった演算の回数と記憶容量の問題から、構造がよく知られた2元線形ブロック符号においても符号長64程度までしか計算機シミュレーションによる誤り特性の解析ができなかった。本研究では符号の持つ再起構造に着目し、従来法には無い、次に示す改善を具現化可能なアルゴリズムを考案した。第一に加算に関して、再利用される可能性のある加算結果をメモリに格納し、必要に応じて計算済み結果を再利用し、加算に関する重複計算を完全に除去した。この改善点の実現に伴い、メモリ使用量は増加するが、適応型アルゴリズムとして実現しているため、従来法に比較しても総合的には大きな問題にはなっていない。第二に比較演算に関して、従来法では同じ比較演算が複数の箇所に散在していることが多く、演算の種類が加算の結果の種類の概ね2乗に達するため、比較演算が同一かどうかの判定が簡単ではない。そめため、重複した比較演算が従来法には多数含まれていたが、提案アルゴリズムでは、符号の構造に関する情報を利用することにより、比較演算の重複箇所そのものを理論的に特定し、可能な限り共有することにより、従来法で大きな問題となっていた比較演算の数を劇的に削減することに成功した。第三に、従来法では最適化問題の解法をまじめな総当り的手法によって実現しているため、加算、比較といった演算の回数は、入力系列に無関係に固定的な数値となっていた。提案アルゴリズムでは、枝刈りの手法を最大限活用することにより、入力系列に加えられている雑音の大きさに応じて計算量が変化するようにしている。つまり、雑音が小さな入力系列に対する復号は早く停止するため、平均計算量の低減が可能となっている。以上のような改善に関するコンセプトを実現した最尤復号法および最小重み探索を用いる準最尤復号法のアルゴリズムとして考案し、ソフトウエア実装した。最尤復号法に関しては、よく知られたいくつかの符号として、(128,64,16)RM符号、(128,64,22)拡大BCH符号に関して数値演算シミュレーションにより、精度の高い誤り制御特性を初めて得るとともに、平均的計算量に関して、ヴィタビ復号法などの従来法と比較して劇的な低減が実現されることを示した。また準最尤復号法に関しては、いくつかの符号長256および512のRM符号に関して、優れた誤り制御特性と小さな平均計算量を実現する優れた復号法であることを示した。
著者
高橋 進 元田 結花 安井 宏樹 小舘 尚文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.政権交代の政治学の狙いは、主として2つあった。一つは戦後西欧諸国の政権交代の事例研究を実証的に行なうこと。2つめは、政権交代に関する政治理論を考察することであった。2.第1の目的については、「東京大学COE先進国における《政策システム》の創出」と協力し、試論的に考察した(本プロジェクトの研究分担者以外にも協力者も求めた)。その成果は、COEのOccasional Paper「政権交代の政治学」として刊行済みである。その後研究会を重ね、修正の後、今年度又は来年度に東京大学出版会から本として刊行される。扱う国は、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダであり、それに理論編が加わる予定である。3.2つ目の目標は、現在研究代表者である高橋 進が、その理論モデルを研究中であり、先の東京大学出版会から刊行予定の本に収録する。内容は、レジーム変動と政権交代の中間にあるセミ・レジーム変動といえる政権交代を抽出することにある。そのため分析レベルを3つに区別し、第1のレベルとして、政治的思潮の変化(例えばサッチャリズムから第3の道へ)がどのように生起するのかに焦点をあてる。第2のレベルとして政党システムの再編成を扱う(例えば日本の55年体制の崩壊とそれと同時に起きた政党システムの再編)、第3のレベルは政策の問題であり、与野党間の政策距離の違いが政権交代にどのような影響を与えるのかというのが具体的内容である。4.以上の研究に付随して、先のCOEとも協力して、COEのOccasional Paperとして「変調するヨーロッパ政治」を刊行。加えて、これもCOEと協力してEUに関するシンポジウムも開催(2005年9月)し、それもCOEのOccasional Paper, EU Symposium : The EU Constitutional Treaty and the Future of Projectを刊行した。〔以上〕
著者
深沢 克己 齊藤 寛海 黒木 英充 西川 杉子 堀井 優 勝田 俊輔 千葉 敏之 加藤 玄 踊 共二 宮野 裕 坂野 正則 辻 明日香 宮武 志郎 那須 敬 山本 大丙 藤崎 衛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

当初の研究計画に即して、国際ワークショップと国際シンポジウムを3年連続で組織し、第一線で活躍する合計14名の研究者を世界各国から結集して、キリスト教諸宗派、イスラーム、ユダヤ教などを対象に、広域的な視野のもとで異宗教・異宗派間の関係を比較史的に研究した。これにより得られた共通認識をふまえて、研究者間の濃密な国際交流ネットワークを構築し、研究代表者を編集責任者として、全員の協力による共著出版の準備を進めることができた。
著者
多田野 寛人
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究課題では,複数本の右辺ベクトルをもつ連立一次方程式を解くためのBlock Krylov部分空間反復法の高速・高精度アルゴリズムの研究を行った.本研究課題を通してBlock Krylov部分空間の安定化手法を開発し,同法の計算量削減による高速化を行った.開発手法を素粒子物理学分野の格子QCD計算に適用し,有効性を確認した.