著者
阿児 雄之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.436-442, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

博物館では,収集・保管・展示などに供する資料(いわゆる収蔵資料)と,その資料および博物館活動にまつわる事項を記述した情報のデジタル管理が進められている。東京国立博物館を例にして,博物館活動を支援するデジタル管理の状況を案内し,併せて,これらの整備がもたらす資料と情報提供の実際を展示に焦点を当てて例示した。実際の展示空間とウェブコンテンツが融合した展示が一般的になりつつあり,そこでの魅力的な鑑賞体験は博物館ならではのハイブリッド型提供といえよう。
著者
長谷川 幸代
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.415, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

コロナ禍を経て,社会ではいっそう頻繁にデジタルツールを利用するようになっています。特にオンラインで送受信できるという面で,距離や時間の制約を越えて様々な活動が可能になります。「資料」を提供する機関でも,資料をデジタル化することで,アナログではできなかったことが可能になりました。しかしながら,アナログ資料にも利点が沢山あり,今後は双方をうまく提供したり利用したりできることが重要になってきます。アナログとデジタルの双方による情報提供を「ハイブリッド型の情報提供」として,今月号では特集「ハイブリッド型情報提供の実際」を企画しました。本特集では,まず,根本彰氏に総論としてメディア論の観点をふまえ,アナログとデジタルの双方を含めたメディアの変遷を論じていただきました。続いて各論では,以下の5本の記事を掲載しています。間部豊氏には,公立図書館でどのようにハイブリッド型の情報提供が行われているか,電子図書館サービスの具体的な内容を絡めながら解説していただきました。前川道博氏には,地域行政文書を中心に紙で提供されていた情報がデジタル化されることに対しての知見を記していただきました。阿児雄之氏には,博物館での事例を中心にアナログとデジタルによる資料・情報提供の実際の状況をご紹介いただきました。大髙崇氏には,地域放送局によるアーカイブへの取り組みをもとに,人材育成や他機関との連携等今後の課題について述べていただきました。安形麻理氏には,マイクロ資料に焦点を当て,マイクロフィルムの特徴や提供と保存について詳細にご説明いただきました。インターネットが社会に台頭している現代でも,双方をうまく活用することでより充実した資料・情報提供が実現できるのではないでしょうか。本号では,そのための様々な知識を執筆者の皆さまより発信していただけたと思います。(会誌編集担当委員:長谷川幸代(主査),尾城友視,鈴木遼香,森口歩)
著者
根本 彰
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.416-422, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

紙の書物がもつ身体的特性が人の認知と密接に関わり,それが近代において書物が学術,文学,教育における特権的位置づけを獲得してきた。しかしながら,メディア論ではマクルーハン以降,書物メディアに比べてマルチメディアがもつ身体感覚的特性ゆえに影響力が大きいとされてきた。そして21世紀のネット社会においては,書物も含めてすべてのメディアがデジタルネットワークに吸収されようとしている。本稿ではメッセージを運ぶ仕組みであるコンテナとメッセージそのものであるコンテンツに分けて,メディアの変遷を歴史的に考察した。その上で,書物がもつ流通,検索,アーカイブにおける歴史的特性を活かした対応が要請されること,そして,その際に国立国会図書館デジタルコレクションの在り方が一つのモデルとなると述べた。
著者
間部 豊
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.423-429, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

ハイブリッド図書館という概念が登場して20年あまり経つ。特に公立図書館においてはデジタル媒体による情報提供に遅れが出ていたが,近年においてバリアフリー法の施行に伴う読書支援対策やCOVID-19流行に対する非来館型サービスへの対応として電子図書館サービスの導入が進められている。本稿では電子図書館サービスを含む公立図書館におけるデジタル媒体の情報源による情報提供について現状を整理するとともに,アナログ媒体の情報源と合わせたハイブリッドな情報提供がどのように行われているのか確認した。今後の課題としてデジタル媒体の情報提供は質・量ともに拡充する必要があることを確認した上で,今後の展望について検討した。
著者
大髙 崇
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.443-448, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

NHKの放送番組アーカイブの保存と整備の経緯を振り返り,今後に向けた課題解決に向けて,地域放送局の一人の職員の取り組み事例を報告する。NHKは,1980年代まで,体系的・組織的なアーカイブ保存がなされなかった。その後,資料部(後のアーカイブス部)が一元的に保存と整備を担い,デジタル化も進捗したが,現在もメタデータ整備や,未編集のフィルムやテープの映像素材の扱いなどの課題が存在する。NHK金沢放送局のアーカイブ企画『懐かしの映像』の成功事例から,放送局におけるアーカイブ人材の育成と,地域や専門機関などとの連携・協働の必要性という教訓が浮上する。
著者
真野 隆司 水田 泰徳 森口 卓哉
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.219-225, 2012 (Released:2012-07-15)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

樹勢の異なるイチジク(Ficus carica L.,‘桝井ドーフィン’)に対し,不織布マルチの被覆とかん水が樹体の生育と果実品質に与える影響を検討した.不織布マルチは着色良好で糖度の高いイチジクを生産できるものの,いや地条件下やかん水量の少ない樹勢の弱いイチジクに対して行うと,一層樹勢を弱め,小玉果や変形果の発生を助長した.一方,密植栽培で樹勢の強いイチジクに対して不織布マルチをする場合,pF 2.5程度を維持できれば,密植樹の樹勢を抑制でき,収穫時期も早まるとともに果実品質も向上することが明らかになった.
著者
石橋 一昴
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.246-255, 2021 (Released:2021-07-16)
参考文献数
36
被引用文献数
1

Probabilities apply not to events in the real world we are familiar with, but to our information about that world at any given moment in time. But students understand “equally likely” to be based not on the recognition that probabilities apply to our information about events, but the recognition that probabilities do not apply to events in the real world we are familiar with. The purpose of this study is to develop principles for teaching “equally likely” based on the recognition of probabilities applying to our information about events in probability education. As a result, we developed principles for teaching “equally likely”, which consist of the following levels:1. We introduce “equally likely” based on a large number of independent identical trials of a random experiment in the physical world.2. We expand probability mathematically, and teach conditional probability.3. We make students understand that:• Probabilities apply not to events in the real world we are familiar with, but to our information about that world at any given moment in time.• “Equally likely” is an assumption in a hypothetical world based on the principle of insufficient reason.through problems about Bayesian updating.
著者
野村 比加留
出版者
マーケティング史学会
雑誌
マーケティング史研究 (ISSN:24368342)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.165-175, 2023-09-30 (Released:2023-09-30)
参考文献数
16

本稿ではマーケティング実践史研究を類型化する試みを行っている。類型化の基盤としてそれぞれの研究がどのような目的で執筆され,どういう点に重点を置いているのかに注目した。また,時代区分についても検討材料としている。 本稿では①経営史におけるマーケティング実践史,②流通史におけるマーケティング実践史,③特定業界に特化したマーケティング実践史,④4Pを意識したマーケティング実践史の4つの類型に区分した。それぞれについて特徴が見られた。 類型化することでマーケティング史研究(特に実践史)についてどの様な傾向があるのかを整理することができる。また,実践史に関連した未開拓・未発達な研究領域も明らかにすることができたと考える。
著者
大内 秀二郎
出版者
マーケティング史学会
雑誌
マーケティング史研究 (ISSN:24368342)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.127-146, 2023-09-30 (Released:2023-09-30)
参考文献数
164

本論文の目的は,官報において公告された商業登記や当時の紳士録,各種年鑑などの同時代的史料を活用して,1930年代の東京電気の販売会社の実態を,その設立の経緯や役員の構成,事業所の所在地から明らかにすることである。東京電気は1930年4月に東京市内に3つの販売会社を設立して以降,1939年までには全国(朝鮮を含む,北海道と台湾を除く)を8つのブロックに分割し,それぞれを地域販社が統括する体制を整備した。各販売会社の役員構成や設立の経緯は多様であり,有力電気商を統合して内部化するかたちで設立されたものもあれば,電気商の人・組織を活用せずにその影響を極力排するかたちで設立されたものもあった。多様な形態の販売会社の存在は,東京電気と有力電気商との複雑な関係性を示唆する。
著者
光澤 滋朗
出版者
マーケティング史学会
雑誌
マーケティング史研究 (ISSN:24368342)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.112-126, 2023-09-30 (Released:2023-09-30)

いわゆるマーケティングがわが国ではいつ,いかにして生成したかについては,わが国学界ではいまだ決着を見ていない。綿糸紡績業の歴史は,マーケティングが明治時代の大手紡績業者と伝統的問屋間の対立・抗争からもたらされたことを示している。当時,この業界で中間商人排除運動が大々的に展開されたのもその結果とみてよい。
著者
宇戸平 久美子 横山 恵美理 NICOLAS Alexandre VELLEMAN Damien
出版者
日本香粧品学会
雑誌
日本香粧品学会誌 (ISSN:18802532)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.213-220, 2022-09-30 (Released:2023-09-30)
参考文献数
12

The lips are a prominent part of the face along with the eyes, and their shape and color can affect the impression of the face. In terms of the color of the lips, the most common concerns were whitish, thin, dull, and the difference in color between the upper and lower lips. It is also recognized that the color of lips become lighter and duller with age, but the thinner shape makes it difficult to measure the color precisely with conventional instruments.In this study, we measured the color of vermilion part of the upper and lower lips of 765 volunteers (aged 15–74) in winter using a non-contact measurement device. Of which 162 were reassessed in summer in order to investigate seasonal changes.Since lip color tends to gradually lower brightness, redness, and yellowness with age after 30s, it was considered as one of the aging sign. In addition, it was confirmed that the lower lip color changes more with age than the upper lip. Sun exposure habits and seasonal change did not affect much the color of lips, but smoking habits suggested that lip color was greatly influenced by blood flow.There was a moderate correlation between the brightness of the lips and skin (cheek), but no correlation was found for other color values. It was confirmed that lip color was not affected by water content.It was found that there were three types of lip color among Japanese women, but there was a difference between the actual color values and the self-assessment.
著者
田中 惠子
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.227-231, 2023 (Released:2023-08-21)
参考文献数
31

Newly identified autoantibodies in relation with autoimmune encephalitis have enabled the reclassification of diseases in neurology and psychiatry and its clinical scope has steadily grown. Many of them present with psychosis, memory disturbances, seizures, and movement disorders. Detection of disease–specific autoantibodies is useful for proper diagnosis and not missing immune therapy. Also, characterizing these antibody–binding antigens offer opportunities to investigate underlying pathogenesis of neurological features and understand general mechanisms of autoimmunity. However, the number of autoantibodies is increasing, which makes it difficult to use them as a diagnostic tool. Commercially available antibody–testing is limited to several autoantibodies. Others need to be sent to certain research laboratories. Additionally, several papers caution about frequently occurring false positive or false negative results and advise testing using several different detection techniques, such as brain tissue immunohistochemistry and live–cell based assays. It is crucial to think about the diagnosis of the patients very carefully not depending on only the results of the autoantibody–test, but rather observing detailed clinical features for proper treatments.