著者
西見 慎一郎 矢嶋 宣幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.181-189, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
45

全身性エリテマトーデス(SLE)は,多臓器が侵される全身性自己免疫疾患である.SLEの発症メカニズムとして,疾患感受性遺伝子による遺伝的要因に環境要因が加わり,さらに自然免疫の異常,獲得免疫の異常が引き起こされることにより起こると考えられている.近年,遺伝的要因として,ミトコンドリアの機能不全やSLE患者と健常人の血液から取り出した27種の免疫細胞を解析し,疾患に関わる遺伝子の発現パターンを調べた結果,細胞種ごとに疾患の発症に関わる遺伝子と疾患の活動性に関わる遺伝子が存在し,多くの細胞で両者の遺伝子のメンバーが異なり,SLEの発症と増悪では異なる病態メカニズムが働いている可能性が指摘されている.また,Ⅰ型インターフェロンなどの自然免疫の関与が指摘されており注目されている.SLEの治療薬は従来,副腎皮質ステロイドを中心としたものが使用されてきたが,近年生物学的製剤を含む免疫抑制薬の発展が目覚ましく併用されており良好な成績をおさめている.ヒドロキシクロロキンはヨーロッパリウマチ学会のリコメンデーションでは,全例HCQを投与することが推奨された.ミコフェノール酸モフェチルはループス腎炎の寛解導入治療薬としてシクロホスファミドと差がないことが証明されており治療の主流になりつつある.また,B細胞系をターゲットとした治療薬としてリツキシマブやベリムマブといった生物学的製剤も臨床応用されている.また,経口カルシニューリン阻害薬であるボクロスポリン,BAFF/APRIL双方を中和するアタシセプト,セレブロン調節薬であるイベルドミド,JAK阻害薬など新規薬剤の開発・臨床試験も進んでおり今後さらに治療は発展していくと思われる.
著者
鈴木 秀明 森 貴稔 大淵 豊明 寳地 信介 田畑 貴久 池嵜 祥司 橋田 光一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.238-243, 2011 (Released:2013-05-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2

突発性難聴に対するステロイド鼓室内注入療法 (IT) の効果を、高気圧酸素療法 (HBO) と比較して検討した。対象は治療開始までが30日以内で初診時聴力が40 dB以上の突発性難聴患者240例で、全例においてステロイド全身投与を行い、これに加えて174例に対しHBOを (HBO群)、66例に対しITを (IT群) 併用した。聴力回復の評価は、厚生省研究班の診断基準に基づいた治癒率、著効率、有効率、および聴力改善率、治療後聴力レベル、聴力利得の計6指標について行った。その結果、症例全体の有効率は、HBO群に比べてIT群で有意に高く (81.8% vs. 68.4%、p=0.039)、多重ロジスティック回帰分析でも同様の結果が確認された。めまい (-) の場合および治療開始までが7日以内の場合の有効率もIT群において有意に高かった。以上より、HBOと比較してITのほうが突発性難聴に対してより有効であることが示された。
著者
中川 隆之
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.210-216, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
19

近年、内耳保護、再生に関連する基礎的研究の進捗に伴い、感音難聴に対する創薬研究が注目されている。感音難聴は、頻度の高い身体障害として知られているが、感音難聴に対し、米国食品医薬品局が認める薬物は存在しない。突発性難聴は、感音難聴の中では頻度の低いものであるが、診断、治療に関する臨床研究の蓄積があり、新規治療薬の対象疾患としての条件は比較的整っている。本総説では、感音難聴治療開発の現況、インスリン様細胞増殖因子1局所投与による突発性難聴治療に関わる基礎的研究、臨床研究の概要について述べ、薬事承認に向けた今後の展開について展望する。
著者
五島 史行 岩倉 昌岐
出版者
一般社団法人 日本頭痛学会
雑誌
日本頭痛学会誌 (ISSN:13456547)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.148-151, 2023 (Released:2023-09-20)
参考文献数
9

頭痛外来において耳鳴の有病率やその支障度について検討を行った.対象は,頭痛を主訴に頭痛専門外来を受診した231例とした.耳鳴の苦痛度をTHI-12,気分状態をHADSにて評価した.耳鳴を訴えたものは61例 (約30%) であった.疾患では片頭痛,特に慢性片頭痛で高い傾向が認められた.これらの耳鳴は生活への障害はあまり高度ではなかった.また耳鳴を有する患者はめまいも有している割合が高かった.前庭性片頭痛は41例あったがそのうち13例 (31.7%) で耳鳴を認めた.前兆のない片頭痛で耳鳴のある41例中7例に難聴を認め,4例は突発性難聴の既往があった.頭痛外来において耳鳴の訴えが高率に認められることが分かった.
著者
水吉 朋美 丸山 祐樹 矢野 真衣 木村 百合香 小林 一女
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.49-55, 2023-02-28 (Released:2023-03-29)
参考文献数
13

要旨: 突発性難聴治療において高気圧酸素療法 (HBOT) は全身ステロイドによる治療への反応性不良である時に二次治療として選択されることが多く, 一次治療としての HBOT に関する報告は少ない。当院で一次治療としてステロイド全身投与と HBOT を同時に施行した42症例の成績, 効果に影響を及ぼした要因について検討した。 対象の重症度は Grade1 が8例, Grade2 が11例, Grade3 が15例, Grade4 が8例であった。 治療成績は, 治癒6例, 著明回復5例, 軽度回復10例, 不変16例であった。 治療成績について治療有効群 (軽度回復以上) と不変群を比較した。高齢, めまいの有無, 高血圧, 糖尿病は治療成績に影響を与えていなかった。治療開始まで14日以上の治療遷延群では有意に成績が悪かった。 以上より, 高齢者, 高血圧, 糖尿病, めまい合併症例に対する一次治療としての HBOT の有効性が示唆された。治療遷延群は HBOT を併用しても予後不良であった。
著者
廣田 曄子 松田 鈴夫 方 泓 星山 佳治 三浦 宜彦 川口 毅
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.228-247, 1998-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
33

我が国の小児科領域の疾病に対する治療の変遷を麻疹, 傷寒, 臍風ならびに驚の4疾患について, 中世 (西暦900年代) から近世 (西暦1800年代) にかけてその間に出版された医学書をもとに, 疾病の概念や治療の変遷について研究を行なった.その結果, これら4疾患についてはいずれもかなり古くから疾病の定義・概念が確立しており, 本研究を行なった約900年の間においてもそれぞれの概念に含まれる疾病の範囲はあまり大きな変化はみられなかった.我が国において最も古く900年代の治療方法を代表する「医心方」において, 傷寒や驚に用いられた構成生薬数は後の時代に比較して著しく少ないものとなっている.1300年代の代表的な医書である「万安方」について構成生薬数をみると, 麻疹, 傷寒, 驚のいずれも1処方当たり平均3ないし4種類の生薬が処方されている.これは中国との情報の交流が当時からすでに活発に行なわれ, 我が国の医療も急速に普及発達し, 治療に用いられる構成生薬数も次第に増加してきたものと考えられる.なお, 臍風については1種類しか処方されていないが, 当時においても臍破傷風は死病とされ, 患者に対する効果的な治療方法がなかったことから, 甘草を処方する程度で無理に多くの生薬を用いないという考え方によるものである.1500年代から1700年代にかけて特徴的なことは「小児諸病門」や「遐齢小児方」のような小児科専門の医書が著され, 当時の中国医学の影響を強く受けながらも, わが国独自の考え方での処方が上乗せされてきており, このことが構成生薬数の多い原因の一つと考えられる.1600年代の平均構成生薬数を見ると麻疹, 傷寒, 驚において平均8程度の生薬が処方されており, その処方された生薬の内容を見ると, 当該疾患に対して用いられているいろいろな処方から出来るだけ多く取入れている観がある.当時としては治療方法のない臍風 (臍破傷風) においてすらも平均3.9となって, 以前に比較して構成生薬数が増加している.1700年代にはいると, 我が国独自の風土や環境に適した医学をめざして吉益東洞は古典的な「傷寒論」を見直し, これに注釈をつけた新たな運用を提唱し, また安藤昌益のように「傷寒論」にとらわれず, まったく独自の処方を編み出す等多くの医学者が輩出した.両者とも我が国独自の処方の確立を目指しており, 処方は従来のものよりも簡潔なものが多い.この傾向は1800年代にも顕著で4疾患全てに共通して観察されたが, これは日本人の質素倹約を旨とする現実主義的性格が関与しているかもしれない.
著者
瀧原 圭子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.5, pp.239-243, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
23

肺高血圧症(PH)はさまざまな病態に関連して発症することが知られており,第5回ワールドシンポジウムによる肺高血圧症の臨床分類(Nice分類)では病因・病態が類似していると考えられる症例を5つの群に分類している.しかしながら,第5群には「詳細不明・複合的要因による肺高血圧症」として,未だ発症の因果関係が明確でない多様な疾患も数多く含まれている.肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態は,肺動脈のれん縮と器質的病変に由来し,肺動脈病変は血管構成細胞の異常増殖を伴う血管リモデリングにより形成される.肺動脈血管リモデリングには遺伝子異常だけでなく,構成細胞の増殖を制御するさまざまな増殖因子やサイトカイン,そしてこれらの情報伝達系の異常が深く関与していると考えられているが,その発症・進展過程に「炎症・感染」というプロセスも大きく関わっていることが近年指摘されている.Human immunodeficiency virus(HIV)感染だけでなく,他のウイルス感染により引き起こされた「慢性炎症」がPAH発症に関与している可能性を示唆する症例も相次いで報告されている.また,低酸素に暴露されることによりさまざまな炎症性サイトカインの産生が肺組織において増強していることも観察されている.PAH病態を理解する上で,bone morphogenic protein(BMP)シグナルと血管作動性サイトカインや増殖因子との機能的関連だけでなく,炎症性サイトカインとの関連を含めた新たな“multiple-hits theory”を理解することが必要と思われる.
著者
高村 智恵 横江 絢子 穴澤 梨江 相澤 豊昭 河野 正和 酒井 俊彦 戸島 洋一
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.219-222, 2015-03-25 (Released:2016-10-29)

背景.良性石綿胸水は職業性の比較的高濃度の石綿ばく露により生じる疾患と考えられているが,疫学的調査が十分ではなく,その実態については不明な点が多い.症例.76歳男性.職業性の石綿ばく露歴はないが,小児期よりかつて操業していた石綿工場近隣に居住しており,工場周辺でよく遊んでいた.健診で右胸水貯留を指摘され経過観察をしていたが,胸水の増加を認めたため入院となった.胸水は血性,滲出性でリンパ球優位であり,確定診断のため局所麻酔下胸腔鏡検査を施行した.胸腔鏡検査では壁側胸膜にプラークを認めたが,腫瘍を疑う所見はなく,発赤部の生検でも悪性細胞は検出されなかった.上記より良性石綿胸水と診断してフォローしているが, 2年以上経過した現在でも悪性腫瘍の出現はない.結論.近隣ばく露が原因と考えられる良性石綿胸水の1例を経験した.良性石綿胸水は比較的低濃度の石綿ばく露でも発症し得るため,原因不明の胸水の鑑別診断には当疾患も念頭に置き,職業歴のみならず,居住歴も聴取することが重要である.
著者
清水 和雄 尾方 昇
出版者
日本海水学会
雑誌
日本塩学会誌 (ISSN:03695646)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.13-19, 1962 (Released:2013-05-17)
参考文献数
14
被引用文献数
1

It was reported in the previous literatures that molybdenum, vanadium and uranium contained in sea water are concentrated in bittern. Therefore, we conducted the present study for the purpose of gathering these constituents from bittern by adsorption of ferric hydroxide. This paper gives data on adsorption curves obtained by experiments which were conducted to find the relationship between pH and adsorption ratio. Optimum pH of adsorption was 3 to 4 in molybdenum, 3 to 7 in vanadium and above 6 in uranium respectively, but only adsorption pH of uranium changed in case of co-existence with carbonate ion, and it adsorbed with pH 7 to 8 in this case.In addition, this paper gives data on desorption curves for water extraction from adsorbent obtained by experiments which were conducted to find the relationship between pH and desorption ratio. pH of desorption was above 4 in molybdenum, above 7 in vanadium and below 6 in uranium repectively, as pH becomes the higher, desorption of molybdenum and vanadium becomes more complete. Desorption of uranium was done above pH 9 in case of Co-existence with carbonate ion, These results showed a possibility of seprating molybdenum, vanadium and uranium from each other by application of adsorption and desorption. It was also possible to separate molybdenum from vanadium by application of anion exchange column.Moreover, the methods of determining vanadium by N-benzoyl-N-phenyl-hydroxylamine and uranium by 1, 2-pyridylazo-2-naphthol were checked and improved, and these methods were applied to bittern and others with good results.
著者
菊谷 正人
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.47-84, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
31

1988年12月に消費税法によって公布され、1989年4月に施行された消費税は、油・酒類・タバコを除く広範な物品・サービスの供給に課される間接税である。わが国おける消費税は、製造・流通過程の各段階で課税され、かつ、その製品の最終消費者に担税させる附加価値税(VAT)でもある。VATとは、事業者が販売時に課税され、税務当局に売上税額を報告するが、事業者自身の購入品に支払う仕入税額を取り戻すことができる多段階一般消費税である。わが国では、消費税導入時から仕入税額控除の方法として会計帳簿に基づいて帳簿方式が採用されてきた。2023年10月1日には当該税額控除の方法は、インボイスに基づいて仕入税額を売上税額から控除するインボイス方式に変更される。インボイスは、課税事業者が他の課税事業者に課税物品を供給する際に交付する必要がある。本稿では、帳簿方式とインボイス方式における特徴と問題点が比較的に検討される。
著者
矢田 勉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

前近代の日本語表記における漢字・平仮名・片仮名の三字種の関係性については、片仮名・平仮名の用途区分を中心に言及されてきたが、先行研究は、ある一時期のみを分析対象とするか、時代差を考慮せず一つの論理で説明しているために、その時代的変遷が分析されてこなかった。本研究計画は、そうした問題意識から、三文字体系併用についての史的記述の再構を目ざす。そのために、同時期成立の漢字文・片仮名文・平仮名文の例を時系列に沿って出来る限り多く収集した上で、各々の筆者や成立事情・内容などを踏まえて、なぜその表記体が選択されたのかを分析し、各時代における三体系の用途の相違と重なりとを明らかにし、その変遷を記述する。