著者
小林 好信 水上 勝義
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.148-159, 2019-09-30 (Released:2019-12-21)
参考文献数
43
被引用文献数
1

目的:柔道と陸上競技において,スポーツ傷害の重症度に関連する心理社会的要因を明らかにする。方法:機縁法による男女大学柔道選手793人と陸上競技選手655人を対象に,スポーツ傷害の状況や競技成績,個人特性,対処資源,健康に関する事項,ストレス反応に関するアンケート調査を1年間の間隔をおき2時点で行った。初回調査時に傷害のない柔道選手222人と陸上競技選手191人を分析対象として,1年後の受傷の状況を目的変数(非受傷群/軽症群/重症群),標準化した初回調査の心理社会的要因を説明変数として,性,年齢,競技成績,過去の傷害の罹患期間にて調整した多項ロジスティック回帰分析を各競技にて行った。結果:1年後の調査で軽症と重症の傷害発生は,柔道が40人(18%)と20人(9%),陸上競技が14人(7%)と18人(9%)であった。多変量解析の結果,非受傷群と比した調整後オッズ比[95%信頼区間]は,柔道の軽症群にて本来感 .49[.27-.90],重症群にて獲得的レジリエンス2.26[1.03-4.98],問題解決型行動特性2.86[1.30-6.27],メンタルヘルス不良3.26[1.41-7.54]であった(p <.05)。同じく,陸上競技の軽症群にて健康管理の自信感 .32[.13-.77],重症群にて資質的レジリエンス .36[.14-.91],獲得的レジリエンス2.60[1.08-6.25]であった(p <.05)。結論:傷害の発生要因は,競技種目や重症度により異なり,また両競技とも獲得的レジリエンスは,重症傷害の発生リスクを高めることが示唆された。
著者
久保 善博
出版者
一般社団法人 日本鉄鋼協会
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.109, no.1, pp.25-32, 2023 (Released:2022-12-31)
参考文献数
13

The aim of this project was to learn roles of titanium oxide (TiO2), an impurity contained in iron sand, in the products resulting from traditional iron making processes, tatara operations. For this purpose, iron sand was collected using two different mineral processing methods from four different locations in the Chugoku area of Japan, and these samples were used to run small-scale tatara experiments. Iron sand collected with traditional gravity separation method contained 8 to 12% TiO2, while iron sand collected with modern magnetic separation method contained less than 5% TiO2. When gravity-separated iron sand was used in a tatara under strong reducing conditions, zuku (cast iron) flowed out of the tatara. In contrast, magnetically collected iron sand failed to produce zuku, but did produce raw steel at the bottom of the furnace. Further, even magnetically isolated iron sand could produce zuku when it was supplemented with ilmenite, a titanium-iron oxide containing mineral. The results show that TiO2 plays a key role in producing cast iron in tatara operations, and the fact that Akome iron sand is known to produce cast iron as it contains higher levels of TiO2. In contrast, Masa iron sand which is known to produce steel (tamahagane) contains much less TiO2 and hence is not suitable to produce cast iron. These observations agree with historical descriptions stating that pre-modern tatara operators knew to add iron sand from a specific locality (which is rich in TiO2) to Masa-type iron sand to produce cast iron.
著者
遠藤 穣治 矢野 光洋 鬼塚 敏男 中村 栄作 中村 都英 桑原 正知
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.421-424, 2009-04-25 (Released:2009-05-13)
参考文献数
5

【背景】われわれは低濃度大量浸潤局所麻酔(TLA)を用いた非全身麻酔下血管外科手術を80例以上経験した.【症例】対象は2003年 9 月から2008年 3 月の間,TLAを用いて血管外科手術を行った82例.麻酔法はTLAと局所麻酔,硬膜外麻酔,腰椎麻酔,静脈麻酔を組み合わせて行った.【結果】TLA併用麻酔下に施行した手術の内訳は下肢静脈瘤ストリッピング47例,末梢動脈系手術22例,大動脈内ステント内挿術 4 例,透析シャント作製 6 例,ペースメーカ埋込 2 例,感染透析グラフトのデブリドマン 1 例であった.TLAの使用方法はTLA単独35例,TLA併用47例であった.手術は安全に執り行われ,術死・入院死例はなく手術創感染もみられなかった.術中安静不良例のうち 3 例は大腿―膝窩バイパスをTLA単独で施行した例であった.いずれも静脈麻酔薬の持続注射を追加し,とくに合併症なく手術を終了できた.【結論】TLAはその簡便性・安全性・疼痛軽減の持続性といった観点より,末梢血管外科手術の麻酔法としても比較的有用であると考えられたが,TLA単独での手術は症例を選ぶべきであると考える.
著者
関根 涼太 大黒 義之 村井 まどか 野々村 美宗
出版者
一般社団法人 色材協会
雑誌
色材協会誌 (ISSN:0010180X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.163-170, 2023-05-20 (Released:2023-05-27)
参考文献数
27

近年,木材の見た目と物理的特性を向上させる植物油脂由来の塗料が注目されている。そこで本研究では,植物油脂由来の塗料またはポリウレタンを塗布したスギ(白太・赤身),ヒノキ,カラマツ,オークの色彩・光沢と摩擦ダイナミクスを評価した。植物油脂は木材表面の色彩と光沢を大きく変えずに,自然な仕上がりとなった一方で,ポリウレタン塗料は木材表面の光沢を強めた。また,2種類の塗料とも動摩擦係数を小さくする潤滑効果が確認された。レーザー顕微鏡およびX線コンピュータ断層撮影による観察により,植物油脂由来の塗料は一部の液体成分が浸透,表面にも固形分が残るため,木材本来の表面の凹凸構造が残るが,ポリウレタンの場合は木材表面が完全に覆われて平滑になったことから,表面形状の違いがこれらの特性に関係していることが示唆された。
著者
相庭 武司
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.160-168, 2019-07-18 (Released:2020-09-12)
参考文献数
33

心筋細胞のカルシウム動態(Ca2+ハンドリング)は,活動電位波形や心筋収縮にも密接に関係し,イオンチャネルやトランスポーターなどのさまざまな影響を受けるため,遺伝性不整脈疾患においても,Ca2+ハンドリングの異常は致死性不整脈の発生に強く関係している.QT延長症候群やカテコラミン誘発性多形性心室頻拍においては交感神経の緊張が催不整脈的に,Brugada症候群においては交感神経の緊張は不整脈抑制に作用している.一方で心不全においては,細胞内のCa過負荷や電気的な非同期性収縮によって,Ca2+ハンドリング異常を生じ,収縮性の低下につながっている.特に,左室非同期性心不全(dyssynchronous heart failure)においては,左室内で収縮が遅れる側壁側においてCa2+ハンドリング異常が顕著であり,両室ペーシングによる心室再同期療法(CRT)によって電気的なズレが改善すると,Ca2+ハンドリング異常も改善を認めた.このようにCa2+ハンドリング異常は心筋細胞の興奮・収縮連関において非常に重要な意味をもっており,それらを理解することで致死性不整脈の発生や心不全の成因を解明し,新たな薬物治療の重要な標的となることが期待される.
著者
五十嵐 章史
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.6-8, 2020 (Released:2020-03-27)

本日は山王病院アイセンターセンター長の清水公也先生にインタビューをさせていただきたいと思います。私は母校である北里大学医学部の学生実習のときに清水先生と初めて出会い,その卓越した美しい手術に憧れて眼科に入局しました。その後は現在に至るまで16年に渡りご指導いただき,近年ではプライベートや人生についてもご指導いただくことが多く実の父親よりも父親のような存在になっています。今回インタビュワーの機会をいただきましたので先生のこれまで輝かしい経歴など色々お聞かせいただきたいと思います。
著者
古川 泰司 宮澤 幸久
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.11, pp.3193-3200, 2011 (Released:2013-04-11)
参考文献数
3

国民皆保険制度を維持している我が国において,臨床検査もまた医療保険の枠組みの中で運用されている.総医療費が年々増加する中,検体検査費用は微減しており,医療の根幹をなす臨床検査の質の維持が危ぶまれている.このような経済的圧力の中,臨床的有用性と検査効率を改善する努力が続けられているが,精度管理,検査データの標準化など,効率的運用を行うための問題点は多い.
著者
松山 大
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.53-77, 2022-12-30 (Released:2023-03-30)

本論は、真宗の開祖、親鸞が二双四重の教相判釈において竪超を「大乗真実の教」と記述する事由の検討とその考察を主題とする。親鸞による経の領解方法は二双四重の教相判釈と呼慣わされているが、なかでも、『仏説無量寿経』から導き出される横超が真実であり重要であるとされる。それ以外の経は方便との位置付けが宗派内外で半ば常識である。だが、親鸞自身は『教行信証』「信巻」のいわゆる「横超断四流釈」において、聖道門に於ける頓教である竪超の経文について「大乗真実の教なり」と記述している。この記述さえも方便であるという、矛盾する理解がこれまで続いてきた。そこで本論において、一、菩提心釈と横超断四流釈での記述、二、『愚禿鈔』での記述、三、「化身土巻」真仮分判釈での記述、四、横超断四流釈後の便同弥勒の文における記述、以上の箇所での親鸞による教相判釈を吟味し、これまでとは異なる解釈の可能性を提示している。
著者
吉野 斉志
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.27-51, 2022-12-30 (Released:2023-03-30)

本論では近年翻刻・公刊された西田幾多郎の「宗教学講義ノート」(一九一三~一四年講義)に基づき、時期の近い公刊著作『善の研究』(一九一一年)とも照応して、初期西田の宗教哲学の解明を目指す。西田によれば、一方には純粋経験の統一があり、他方にはその分化発展と自己限定により個物が成立する。そして究極の統一にこそ「神」あるいは「宗教的なもの」が求められる。この思想は「宗教学講義ノート」でも共通しており、西田が同時代の様々な宗教論や思想史に関する著作を参照しながら宗教思想に判断を下す論に、はっきりとその立場が現れている。また、『善の研究』の宗教論は「汎神論」を主張しているが、この論の背景も「宗教学講義ノート」を参照することにより、仏教が汎神論であるという理解と、その仏教を擁護する意図があったことが判明する。西洋の文献を渉猟し、その内在的な批判から独自の論を立てようとした「西洋哲学者」としての西田の姿が、この読解から明らかになるはずである。