著者
室橋 春光
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology Sapporo Gakuin University (ISSN:24341967)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.13-26, 2021-02-26

二重過程理論dual process theory は,カーネマンらの行動経済学に関する著作により広く知られることになった。本論では,Evans らによるシステムⅠとシステムⅡからなるモデルを紹介した。システムⅠは,進化的に古くから存在しているとみなされるメカニズムである。生得的な入力モジュールと領域特定的な知識を利用して自動的処理を行うサブシステムからなる。他方システムⅡは,進化的に新しいメカニズムで人特有のものであるとされる。抽象的な推論や仮説的思考を可能にするメカニズムであるが,そのような高次処理は制限容量に強く制約される。対極的な特性をもつこれらのシステムの関係について,さらにNey やカウフマンらの考え方に沿って,処理系列上の特性,学習への適用などについて検討した。最後に,このモデルを自閉症スペクトラム症に適用した研究を紹介し,臨床適用の有用性についても検討した。
著者
西野 勇人
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.175-194, 2021-05-31 (Released:2022-07-02)
参考文献数
33

本研究の目的は,高齢の親に対する子世代からの実践的援助がどのようなパターンを形成しているかを明らかにすることである.特に,子世代の誰がケアを担いやすいのか,公的介護サービスの利用は子世代からのケアの内容とどう関連しているのか,という2 点を掘り下げる.分析には「全国高齢者パネル調査」(JAHEAD)のデータを用い,回答者と子世代からなるダイアドデータを作成した.分析においては,「援助なし」「身体的介護を提供」「家事・生活的援助のみ提供」という3 つのカテゴリをアウトカムとしたマルチレベル多項ロジスティック回帰モデルによる推定を行った.分析の結果,回答者からみた続柄では,娘によるケア提供の確率が高かった.また,親の性別の効果は,2 つのアウトカムで異なっていた.父親と比べ母親に対しては,子世代は身体的介護を提供する確率が低く,また家事・生活的援助のみを提供する確率が高いことが示された.次に,タスク別に分けると,身体的なケアの提供確率に対しては在宅の公的介護サービスの利用が正の相関を持っていたが,家事・生活的援助のみを提供する確率に対しては公的サービスは明確な効果が確認できなかった.
著者
池田 裕
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.247-266, 2020-05-31 (Released:2021-06-23)
参考文献数
24

福祉国家に対する態度は,一次元的に測定されることが多い.一次元性の仮定は,特定の福祉国家プログラムの支持者が,他のすべての福祉国家プログラムをより強く支持すると予測する.しかし,いくつかの研究は,福祉国家に対する態度が多次元的であることを示唆している.すなわち,特定の福祉国家プログラムをめぐる対立は,他の福祉国家プログラムをめぐる対立と質的に異なるかもしれない.本稿は,国際社会調査プログラム(ISSP)のデータを用いて,日本の福祉国家に対する態度の構造と規定要因を検討する.福祉国家に対する態度の構造を正確に表現し,福祉国家をめぐる対立にプログラム間の差異があるかどうかを明らかにするのが目的である. カテゴリカル確証的因子分析によれば,福祉国家に対する態度は完全に一次元的ではなく,プログラム間の差異を考慮する必要がある.構造方程式モデリングの結果は,疾病と老齢に関する政策をめぐる対立が,失業と貧困に関する政策をめぐる対立と質的に異なることを示している.たとえば,疾病と老齢の次元では等価所得の効果が統計的に有意でない一方で,失業と貧困の次元では等価所得が有意な負の効果を持つ.低所得者が福祉国家をより強く支持するのは,彼らが疾病と老齢に関する政策ではなく,失業と貧困に関する政策をより強く支持するからである.このように,本稿の知見は,個人が福祉国家を支持する理由を理解するのに役立つ.
著者
松井 昂介 尹 漢勝 八木田 健司 西山 明 山梨 啓友 高橋 健介 有吉 紅也
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.95, no.6, pp.407-412, 2021-11-20 (Released:2022-01-28)
参考文献数
20

Balamuthia mandrillaris is one of the free-living amoebae that causes potentially fatal cutaneous and central nervous system infection. Both the diagnosis and treatment are challenging, especially when the central nervous system is involved. Herein, we report a case of granulomatous amoebic encephalitis caused by B. mandrillaris, in a patient who presented with subcutaneous lesions. A 55-year-old patient with a history of ANCA-associated vasculitis who was on maintenance dialysis was referred to our hospital for investigation and treatment of an intracranial lesion. He had had multiple subcutaneous nodules for nine months before the referral, which had been histopathologically diagnosed about a month prior to the referral as granulomatosis with polyangiitis. Brain MRI showed a space-occupying lesion with surrounding edema in the left occipital lobe. Brain biopsy was performed, and the histopathological diagnosis was epithelioid cell granuloma; no pathogen could be identified. Suspecting either deterioration of granulomatosis with polyangiitis or infection, the patient was started on treatment with a corticosteroid and several antibiotics, antifungal, and antiprotozoal agents. However, the intracranial lesion continued to progress despite all the treatment, and the patient died on the 33rd hospital day. Further investigation at the National Institute of Infectious Diseases revealed B. mandrillaris infection in both the subcutaneous and intracranial lesions. From our experience of this case, we suggest that B. mandrillaris infection be included in the differential diagnosis in patients presenting with cutaneous granulomatous lesions of unknown cause; early diagnosis, before the amoeba invades the central nervous system, is of critical importance.
著者
鈴木 朋子 今井 瑞香 窪田 素子 北 嘉昭 土田 知宏
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.22-29, 2015 (Released:2015-09-29)
参考文献数
15

目的:腫瘍マーカーは早期がんでは上昇しにくい,偽陽性が多いなどの理由から,スクリーニングには不適格と考えられている.今回CA19-9について,受診者への適切な情報提供・精査への案内に役立てるデータを得るために,当センターでのCA19-9陽性的中率と高値例の傾向を検討した.対象:2006年1月から2013年6月までに,当センター人間ドックでCA19-9を測定した延べ32,508例中,高値(>37.0U/mL)を呈した延べ790例のうち,人間ドック高値後に計2回以上,当院(病院もしくは当センター)でCA19-9の再検を施行した320例を検討対象とした.方法:CA19-9はARCHITECT® アナライザー i 2000SR(アボット,東京)CLIA法にて測定し,正常値:0.0~37.0U/mLとした.結果:8症例にがんを認めた.内訳は膵臓がん4例,胆嚢管がん1例,十二指腸がん2例,大腸がん1例だった.8症例のがん診断時のCA19-9値の中央値は,198.2(46.4~2,968)U/mLだった.うち5例には過去に正常値の記録があり,残る3例は初回指摘だった.陽性的中率は2.5%だった.結論:CA19-9陽性的中率は2.5%と低率のため,CA19-9高値例を全例精査するのは非効率的だが,CA19-9高値とその推移だけで要精査群の抽出は困難と思われた.今後,臓器特異性の高いmicroRNAとの併用など,より効果的ながんスクリーニングの選択肢が増えることを期待する.
著者
廣部 紗也子 小國 健二
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A2(応用力学) (ISSN:21854661)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.38-48, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

乾燥破壊現象における亀裂の特徴的な幾何形状の支配法則は未だ解明されていない.既存研究は,乾燥に伴う不均一な水分分布が亀裂パターン形成の重要な役割を担うという直観に反し,解析領域内での一様な水分分布を前提とするか,水分移動・変位場の発生・破壊の擬似的な連成解析に留まっていた.本論文では,乾燥破壊における亀裂パターン形成の問題に対し,i) 乾燥に伴う水分移動と体積変化,ii) 不均一な体積収縮を反映しつつ,つりあい状態を満たす変位場の発生,iii) 亀裂の形成,全ての連成モデルを提案する.粒子離散化有限要素法による固体連続体の変形及び破壊の過程の解析と,破壊面の形状を反映させた拡散係数をもつ拡散方程式の有限要素解析の弱連成解析を行うことで,乾燥破壊現象に特徴的な亀裂パターンとその幾何形状の変化を再現する.
著者
Jing ZHANG Dan LI Hong-an LI Xuewen LI Lizhi ZHANG
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE TRANSACTIONS on Information and Systems (ISSN:09168532)
巻号頁・発行日
vol.E106-D, no.2, pp.229-239, 2023-02-01

In order to solve the low-quality problems such as low brightness, poor contrast, noise interference and color imbalance in night images, a night image enhancement algorithm based on MDIFE-Net curve estimation is presented. This algorithm mainly consists of three parts: Firstly, we design an illumination estimation curve (IEC), which adjusts the pixel level of the low illumination image domain through a non-linear fitting function, maps to the enhanced image domain, and effectively eliminates the effect of illumination loss; Secondly, the DCE-Net is improved, replacing the original Relu activation function with a smoother Mish activation function, so that the parameters can be better updated; Finally, illumination estimation loss function, which combines image attributes with fidelity, is designed to drive the no-reference image enhancement, which preserves more image details while enhancing the night image. The experimental results show that our method can not only effectively improve the image contrast, but also make the details of the target more prominent, improve the visual quality of the image, and make the image achieve a better visual effect. Compared with four existing low illumination image enhancement algorithms, the NIQE and STD evaluation index values are better than other representative algorithms, verify the feasibility and validity of the algorithm, and verify the rationality and necessity of each component design through ablation experiments.
著者
堤 瑛美子 郭 亦鳴 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.2, pp.72-83, 2023-02-01

近年,教育現場ではオンラインラーニングシステムで収集された教育ビッグデータをいかに有効に活用するかが課題となっている.人工知能分野では,これらの教育ビッグデータに機械学習手法を適用し,学習者の課題への反応を予測することにより,学習者への適切な支援を行うアダプティブラーニングが注目されている.Tsutsumiら(2021)はアダプティブラーニングのために深層学習手法と項目反応理論を組み合わせ,パラメータの解釈性をもちながら高精度な反応予測を可能とするDeepIRTを開発し,高い予測精度とパラメータの解釈性を実現している.しかし,DeepIRTでは学習者の潜在的な能力値を推定する際に最新の学習データのみを用いるために,過去の学習データを十分に反映できていない可能性がある.本研究では,DeepIRTに新たなHypernetworkを組み合わせ,学習者の過去の学習データと最新の学習データの重要性を推定することで両者のバランスを最適化しながら能力値推定を行う.評価実験では,提案手法が最先端の反応予測手法を上回る反応予測精度を示した.
著者
中野 幹生 駒谷 和範
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会研究会資料 言語・音声理解と対話処理研究会 第96回(2022.12) (ISSN:09185682)
巻号頁・発行日
pp.39, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)

対話システムは,様々な技術を統合して構築されるため,情報技術教育の題材として有効であると考えられる.しかしながら,既存の対話システム構築フレームワークは,情報技術教育を目的としたものではないため,必ずしも初学者が学習目的で使うのに適しているとは言えない.そこで我々は,拡張性の高いアーキテクチャをもち,可読性の高いコードで書かれた対話システム構築フレームワークDialBBを開発している.DialBBは,ブロックと呼ぶモジュールを組み合わせることで対話システムを構築できるフレームワークである.システム開発者は,DialBB付属のブロックを用いることで簡単にシステムを構築できるが,自作のブロックを用いることで高度なシステムを構築することもできる.DialBBを対話ロボットコンペティション2022用のシステムの構築に利用してもらい,対話システム構築フレームワークとしての有用性を確認した.

1 0 0 0 物語論

著者
藤井貞和 [著]
出版者
講談社
巻号頁・発行日
2022
著者
柴田 玲奈 宇都 康行 石橋 賢一
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.313-318, 2019-12-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
33

マコガレイの稚魚,未成魚,成魚の分光視感度特性を調べるために,暗順応した供試魚の眼球から網膜電図(ERG)を記録した。得られた ERG のデータを Stavenga et al.(1993)のテンプレートに当てはめ分光応答曲線を求めた。稚魚,未成魚,成魚における最大応答波長はそれぞれ531 nm,524 nm,515 nm であり,すべてのステージで緑に感度が高いことが示された。マコガレイ稚魚は浅瀬に生息し,成長とともに生息水深が深くなる。分光感度ピーク波長が成長とともに短波長側にシフトすることは,生息水深の光環境への適応と推測された。
著者
藤田 真一
出版者
関西大学国文学会
雑誌
國文學 (ISSN:03898628)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.237-264, 2019-03-01
著者
渡辺 美鈴 渡辺 丈眞 松浦 尊麿 河村 圭子 河野 公一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.99-105, 2005-01-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
18
被引用文献数
20 17

自立生活の在宅高齢者において, 外出頻度から判定した閉じこもりが要介護に移行するか, また低水準の社会交流がより強く要介護状態の発生を増幅するのかを明らかにするために, 閉じこもりおよびその状態像から要介護の発生状況を検討した.平成12年10月に兵庫県五色町の65歳以上の自立生活の在宅高齢者を対象 (2,046人) に閉じこもりに関する質問紙調査を行った. その後平成15年3月末日まで追跡し (追跡期間: 30カ月), 要介護移行について調査した. 閉じこもりの判定には外出頻度を用い, 1週間に1回程度以下の外出しかしない者を「閉じこもり」とし, 外出介助と社会交流を組み合わせた閉じこもり状態像をIからIVに分類した.「閉じこもりI」は一人で外出困難かつ社会交流はある,「閉じこもりII」は一人で外出困難かつ社会交流はない,「閉じこもりIII」は一人で外出可能かつ社会交流はある,「閉じこもりIV」は一人で外出可能かつ社会交流はないとした.本地域において, 自立生活の在宅高齢者の閉じこもり率は7.5%, 30カ月追跡後の要介護移行率は12.7%であった. 閉じこもりの約半数は閉じこもりIIIであった. 閉じこもり群は非閉じこもり群に比べて有意に高い要介護移行率を示した. 年齢別にみた見た場合, 85歳未満の高齢者においては, 閉じこもり群からの要介護移行率は非閉じこもり群に比べて有意に高率であったが, 85歳以上では, 両者の間に有意差を認めなかった. 閉じこもりの状態像別では非閉じこもり群と比較してどの群も高い要介護移行率を示した. 社会交流のない群はある群と比べて (IIとI, IVとIII), 要介護移行率が高い傾向を示した.以上の結果から85歳未満の自立生活の在宅高齢者においては, 閉じこもりが要介護移行のリスク因子になる. 要介護のリスクファクターとしての閉じこもりの判定には外出頻度・「週に1回程度以下」を使用するのが有用である. さらに閉じこもり状態像において, 社会交流のないことは要介護移行により強く関連することが認められた.
著者
臼井隆一郎編
出版者
世界書院
巻号頁・発行日
1992