著者
鈴木 道男 山下 博司 藤田 恭子 佐藤 雪野
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ディアスポラ存続の条件として、構成員によるアイデンティティーの共有がある。しかし、他文化の中に暮らす人々にとって、アイデンティティーの再確認がなくては、「故国」、「民族」は意識から遠のく。それが同化のプロセスの一面であるが、マイノリティにとってその結束の拠所である「故国」、「民族」、「歴史」は彼らが不動のものとして捉えている規範通りのものではない。むしろ、これらのビジョンは常に変容し、それをもとに自らの立場を絶えず確認することで、彼らは継続的に結束を保っている。すなわち、永続的なデイアスポラとして存在するマイノリティには、その個々人の意識の有無は別として、結束の紐帯を再確認させ、たえず強化するする機構が必ず存在する。かかる共通認識の下、ディアスポラの維持・確認、あるいは創出の装置としての文学の諸相をとらえた。山下は、本来ディアスポラたちが形成した国家と目されているシンガポールにおいて、他国に住まうシンガポール人に対して、あらためてシンガポール系ディアスポラというまとまりを付与しようとする政府の政策と文学の位置づけを論じた。佐藤はドイツ語で書くチェコ人女流作家レンカ・レイネロヴァーに焦点を当て、主観性を伴う自伝や語りも、一つの時代を知る重要な資・史料であるとする立場から、ドイツ系チェコ人ディアスポラの激動の20世紀をたどろうとした。藤田は多文化の平和的共生が機能し、ドイツ語をあやつるユダヤ人の桃源郷とされてきたブコヴィナの像を、ユダヤ系女流詩人アウスレンダーの作品から抉り出し、ユダヤ人のアイデンティティ形成におけるその政治的意味を考察した。鈴木は、民族主義の高まりの中で、はじめて自らをマイノリティあるいはドイツ系ディスポラとして意識したトランシルヴァニアのドイツ系住民において、その結束の紐帯とて企図された詩集と、その国家社会主義的意図の意味について考察した。
著者
NGUYEN T. Hanh 石島 健太郎 菅原 敏 長谷部 文雄
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1149-1167, 2021

<p> インドネシアのビアクで行われたCoordinated Upper-Troposphere-to-Stratosphere Balloon Experiment in Biak (CUBE/Biak)観測キャンペーンの一環として行われたクライオジェニックサンプリング実験による大気サンプルから推定された平均大気年齢(mean age)の成層圏高度分布について、大気大循環モデルに基づく化学輸送モデル(Atmospheric general circulation model-based Chemistry Transport Model: ACTM)を用いたBoundary Impulse Evolving Response (BIER)法とラグランジュ後方流跡線解析の二つの方法を適用して検証した。ACTMは、大気大循環モデルをEuropean Centre for Medium-Range Weather Forecasts Reanalysis-Interim (ERA-Interim)にナッジングすることにより、1時間間隔の現実的な気象場を提供した。BIER法では陽に解像されない拡散混合過程を考慮することが可能であり、後方流跡線解析では空気塊が観測地点に到達するまでの経路を区別できる。ACTMによって再現された共通の輸送場に対して二つの方法を適用することは、CO<sub>2</sub>とSF<sub>6</sub>から推定された平均年齢を評価する上で有用である。計算に用いた輸送場の信頼性は、ラグランジュ法によって再現されたCO<sub>2</sub>、SF<sub>6</sub>、および水蒸気の鉛直分布を観測結果と比較することで評価した。二つの方法による平均年齢をCO<sub>2</sub> ageと比較すると、ラグランジュ法の結果が比較的良い再現性を示した。ラグランジュ法の平均年齢はやや小さくなるバイアスが見られたが、このことは流跡線計算を一定の有限時間で停止させているためであると考えられる。一方、BIER法の平均年齢は、高度25km以上においてCO<sub>2</sub> ageよりも大きくなっており、モデルの拡散の効果が大きい可能性が示唆された。これとは対照的に、SF<sub>6</sub> ageとの比較では成層圏下部のみで再現性が良いものの、SF<sub>6</sub> ageはラグランジュ法の平均年齢よりもかなり大きくなった。ラグランジュ法では中間圏起源の空気塊が含まれていないことや、観測された上層のSF<sub>6</sub>濃度が流跡線から再現された濃度よりもかなり低くなっていることから、観測された大気サンプルがSF<sub>6</sub>消失の影響を受けた中間圏大気との混合の影響を受けているために平均年齢が過大評価になっているという仮説を裏付けている。</p>
著者
山下 修一 伊藤 英樹 柴田 道世
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.408-409, 2015

<p>本研究では,月の満ち欠けを科学的に説明させるために.従来モデルを改善し,モデルの操作を月の満ち欠けの理解に結びつけるための読み物を開発して,小学校教員(N=57)と理系学生(N=33)を対象にして試行した.そして,新たに開発したモデルと読み物で,中学生(N=256)でも科学的な月の満ち欠けの説明ができるようになるのかを検証した.その結果,小学校教員と理系学生の比較からは,事前調査では,小学校教員の49 名(86.0%),理系学生の21 名(63.6%) がLevel 0 となり,小学校教員や理系学生にとっても,月の満ち欠けの説明は困難であった.事後調査では,小学校教員の55 名(96.5%),理系学生の全員がLevel 1 以上の説明ができるようになり,地球の影・自転での説明は見られなくなった.中学生の試行からは,授業で月の満ち欠けの学習を終えたばかりなので,事前調査の段階でも地球の影は関係しないことを理解していたが,30%以上の生徒にとっては,科学的に月の満ち欠けを説明することが難しく,地球の自転で説明している生徒も10%以上いた.事後調査では,Level 1 以上が目安の80%を上回り,中学生にも月の満ち欠けを科学的に説明させることができた.</p>

1 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1951年11月29日, 1951-11-29
著者
江崎 雄治 栗田 邦明 松島 功 木津 暢彦 中嶋 哲二 金戸 進
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.125-204, 2000-07
被引用文献数
1

この報告は第38次南極地域観測隊気象部門が, 1997年2月1日から1998年1月31日まで昭和基地において, および, 1997年1月25日から1998年1月20日までドームふじ観測拠点において行った気象観測結果をまとめたものである。観測方法, 測器, 統計方法等は第37次観測隊とほぼ同様である。越冬期間中特記される気象現象として, 次のものがあげられる。1) 昭和基地での年平均気温はほぼ平年並みであった。9月の月平均気温は-23.6℃であり歴代1位の低さであった。2) 昭和基地において, 9年連続で大規模なオゾンホールを観測し, オゾン全量の最低月平均値は10月の164m atm-cmであった。これは観測開始以来2番目に低い記録であった。3) 昭和基地において, 1年を通して地上オゾン濃度観測を行った。8月28日から29日にかけて地上オゾン濃度急減現象を観測した。4) 昭和基地において, エアロゾルゾンデにより成層圏エアロゾルの観測を行った。年間を通して6台のエアロゾルゾンデを飛揚した。5) ドームふじ観測拠点における1997年の年平均気温は-54.4℃, 最低気温は7月8日に観測した-79.7℃であった。
著者
久保川 淳司 大久保 嘉人 佐々木 博司 横山 隆一
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌. B (ISSN:03854213)
巻号頁・発行日
vol.118, no.3, pp.239-245, 1998

As the necessity of high quality electric power supply is increasing, it has been required to make up sophisticated power system operations in which several requirements stemming from economy, security and environmental aspects should simultaneously be satisfied. In general, a problem of satisfying several noncommensurable criteria is called a multi-objec-tive optimization problem. Although the most powerful means to obtain desirable system operations is optimal power flow (OPF), a straightforward application of the conventional OPF optimize only one objective and the remaining objectives must be treated as constraints. However, since such objectives are in trade-off relationships each other, it is necessary to develop an efficient multi-objective OPF.<br> In this paper, we shall propose a solution method of multi-objective OPF by means of fuzzy coordination. In the first step, the degree of satisfaction of Decision Maker on each objective would be maximized with a pre-specified member-ship function. The membership function would be updated in accordance with the DM's preference information and target value of the objective function. The degree of satisfaction will be improved step by step by updating the membership functions. Finally, the saticificing solution for the Decision Maker would be obtained. The proposed method has been applied to the IEEE 57 and 118 test system, producing successful results.
著者
松尾 拓 中村 由紀子 鈴木 恒治
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.5, pp.888-895, 2015-05-05 (Released:2015-05-05)
参考文献数
30

症例は73歳,女性.局所進行乳癌に対してnab-パクリタキセルによる化学療法を受けていた.治療開始から約9カ月後に,肝機能障害のため化学療法は中止となった.MRCPとERCPでは肝門部胆管の狭窄と肝内胆管の口径不同を認め,nab-パクリタキセルによる二次性硬化性胆管炎が疑われた.同剤による二次性硬化性胆管炎の報告はこれまでになく,示唆に富む症例と思われ,報告する.

1 0 0 0 OA 袴について

著者
原 ますみ
出版者
文教大学女子短期大学部家政科
雑誌
家政研究
巻号頁・発行日
vol.15, pp.28-33, 1983-01-01
著者
油谷 曉 垣内 正年 香取 啓志 尾久土 正己 猪俣 敦夫 藤川 和利 砂原 秀樹 眞鍋 佳嗣 千原 國宏
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.318-332, 2011

2009年7月22日に日本で皆既日食という天体ショーが起こり,様々な組織が皆既日食映像の伝送実験や多彩なイベントを行った.4K超高精細映像の伝送方法について共同研究を行っている朝日放送株式会社(ABC)では大規模なIPネットワークを使用した全天4K超高精細映像の伝送実験を企画し,奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)も参加協力を行った.この伝送実験では,世界初の試みとして,皆既日食が起こっている場所の臨場感を全天4K超高精細映像を使用して可能な限り伝送するという目的で行われ,無事に実験の目的を達成することができた.本論文では,NAIST独自で非圧縮全天4K超高精細映像のLayer 3ネットワークを用いた伝送実証実験を行い,有効な伝送手法として実験を成功させたことについて報告し考察を与えることとする.
著者
Lin Lyu Chunying Hu Miao Ye Cong Chen Ming Huo Shinichiro Murakami Ko Onoda Hitoshi Maruyama
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
Journal of Physical Therapy Science (ISSN:09155287)
巻号頁・発行日
vol.33, no.10, pp.748-752, 2021 (Released:2021-10-13)
参考文献数
16
被引用文献数
1

[Purpose] This study investigated the effects of co-contraction resistance exercises of the transverse abdominal and pelvic floor muscles in middle-aged females with stress urinary incontinence. [Participants and Methods] We included 32 females with stress urinary incontinence and divided them into two groups: the inner muscle training group and the pelvic floor muscle group. The thickness of the transverse abdominal muscle was measured during four tasks: (1) rest, (2) maximum contraction of the transverse abdominal muscle, (3) maximum contraction of the pelvic floor muscle, and (4) maximum co-contraction of the transverse abdominal and pelvic floor muscles. In the latter three tasks, measurements were obtained while the participants performed resistance movements using a Thera-band®. A home program was conducted in both groups, and the intervention lasted for 8 weeks. [Results] The cure rates for SUI were 87.5% and 68.8% in the inner muscle training and pelvic floor muscle groups, respectively. After the intervention, the thickness of the transverse abdominal muscle significantly increased in the inner muscle training groups performing maximum co-contraction of the transverse abdominal and pelvic floor muscles and maximum contraction of the transverse abdominal muscle. [Conclusion] Inner muscle training exercises are more effective than pelvic floor muscle exercises in improving inner muscle function and urinary incontinence in middle-aged females.
著者
吉武 俊一郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.415-421, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2

都市縮減時代における、地域特性を反映した都市・地域再生の方向性・プランを検討する上で、小地域単位の将来人口推計手法をその根拠を構築するために活用することが考えられる。代表的な手法であるコーホート要因法・コーホート変化率法による小地域単位での推計は、国土交通省国土技術政策総合研究所が作成したプログラムで行うことができる。しかし、小地域単位での推計にはパラメータの不安定さという問題がある。本研究では首都圏1都3県と縮減が進んでいる郊外都市での分析を通して、将来人口推計の信頼性を確保するためには、人口規模・増減と住宅 所有関係・建て方から、対象とする小地域を絞ることが有効であるということを抽出した。また、人口減少・高齢化の進む地域において、今後の空き家・空き地の増加を予測し、対応を検討する上で将来世帯数推計が重要であるが、各小地域における世帯数の動向と住宅ストックの特性に関連性があり、従来のパラメータをあてはめる推計方法を小地域で適用することは難しい。本研究では、将来人口推計による人口減少と高齢化進行をもとにした、世帯人員・世帯数減少の推計による、空き家・空き地増加を予測する手法を提示した。
著者
伊藤 洋 榊原 健介 三木 靖雄
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1028-1031, 2012-10-01

平成23年12月のある日,当院の救急救命科医師から連絡が入った。 「脳死患者から移植臓器提供がありそうで,移植コーディネーターからの説明が終わり,1回目の法的脳死判定が行われる」と…。 その前月に,愛知医科大学病院における『脳死患者からの臓器摘出マニュアル』が,平成22年7月に日本臓器移植ネットワークが発表した『臓器提供施設の手順書』をもとに作られたばかりで,それまでに1度だけ委員会が開かれただけだった。約10年前と1年前に,それぞれ別々に医局関連病院で,脳死ドナーから臓器摘出が行われたという話は聞いていたが,当院では初めてだった。 それから実際の臓器摘出術までは約1日。高度救急救命センターを運営する救急救命科と中央手術部での麻酔管理をする麻酔科とで,業務が分かれている当院の特性もあるが,院内のコーディネートを含め,さまざまなことを感じた。 本稿では,その実体験から見えてきた脳死下臓器提供の実際と課題について述べる。
著者
KOJI KOIKE
出版者
The English Linguistic Society of Japan
雑誌
ENGLISH LINGUISTICS (ISSN:09183701)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.568-587, 2013 (Released:2017-09-21)
参考文献数
34

This paper provides a syntactic analysis of the locative inversion construction in English, dividing it into two types: one with an unaccusative verb and the other with an unergative verb. It is argued that the former type has the locative PP simultaneously attracted by T and Top by applying the idea of “independent probing” proposed by Chomsky (2008). On the other hand, the latter type has a syntactic structure in which the subject DP undergoes Heavy NP Shift, while the locative PP moves only to SpecTopP, but not to SpecTP. It is shown that the analysis based on these syntactic structures can give a principled explanation to the major syntactic properties of the two types of locative inversion construction within the framework of the Minimalist Program.