著者
伊藤 伸泰
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

稀釈合金系の磁性のモデルとして研究が始まったスピングラスモデルは、競合する相互作用を原因として複雑で興味深い振舞いを示すさまざまな系の研究の際にも重要なモデルとなっている。その重要性は今日、物性物理に留まらず、最適化問題、神経網、蛋白質ほかの分野でも認識されている。このようなスピングラス系に対して、相転移の研究に際して有効な場合が多いことが本研究代表者により明らかとなった「非平衡緩和法」を応用し、解明することが本研究の目的である。2年間に渡る研究の結果、次のような成果が得られた:正方格子および立方格子上のスピングラスモデルについて、常磁性強磁性相転移を精密に調べた。その結果、相境界がこれまで以上の精度で解明された。強磁性相互作用の濃度を変化させると、磁化や相関長などの静的な物理量の指数や動的指数は普遍的ではないことが明らかとなった。さらに静的な指数に対しては弱い普遍性が成り立つ一方、動的指数では弱い普遍性は成り立たないことが明らかとなった。この静的指数の弱い普遍性はスピングラス相との3重臨界点では、破れていることも明らかとなった。立方格子上のスピングラスモデルのスピングラス転移、スピングラス相でのクローン相関関数の非平衡緩和の様子が明らかとなり、グラス転移に対する非平衡緩和法による研究手法が確立した。現在、この手法によるゲージグラスモデルの研究も進められている。強磁性相の近くでは、スピングラス相中に強磁性秩序状態をもつ熱力学的状態が存在することが明らかとなった。このような状態は、ランダムな相互作用分布に対して測度0で存在すると解釈されるが、このような相を捉えることができたのは、非平衡緩和法ならではの発見である。このことから、3次元スピングラス相がこれまでに考えられていた以上に複雑な多重谷構造を持つことが示唆される。
著者
嘉本 伊都子 KAMOTO Itsuko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.23-50, 2011-12

旧姓長田信子さんは、アメリカ軍に徴兵され極東での勤務を志願した飯沼星光さんと渋谷の富ヶ谷教会で結婚式をあげ、1953年9月に軍用船で海を渡った。彼女自身は戦争花嫁だとは思っていない。なぜなら星光さんはアメリカで生まれた二世ではあるが、幼少期から青年期までを日本で過ごしたいわゆる帰米二世であるからだ。日本人という同人種ゆえに国際結婚とは位置づけていないのである。しかし、アメリカ国籍をもつ日系二世のG・Iと、日本人女性との結婚は、敗戦後の国際結婚の歴史なかでも重要な位置を占める。飯沼信子さんのケースを取り上げることによって、研究上、焦点が当てられてこなかった帰米二世との「国際結婚」について考察していく。
著者
真鍋 淑郎
出版者
一般社団法人 日本リモートセンシング学会
雑誌
日本リモートセンシング学会誌 = Journal of the Remote Sensing Society of Japan (ISSN:02897911)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.366-372, 2001-09-28
参考文献数
8
被引用文献数
1

大気・海洋結合モデルの数値実験によると,21世紀末ころには地表の全球平均気温は現在より2~3℃程度上がる。昇温は,陸面で更に大きくなると予測される。また,半乾燥地帯の土壌水分が減少し,砂漠が拡張しそうである。二酸化炭素などを規制せずに放出し続ければ,数百年先に大気の二酸化炭素濃度が,今の4倍位になり,非常に大きな気候の変化がおこる可能性が大きい。これからは,温暖化に伴う全球的変化の検出,放射強制力を持っ温室効果ガス,エアロゾル等の分布決定,モデルに組み込まれた色々な素過程の検証等にRemote Sensingが増々重要になるであろう。
著者
村井 純 真鍋 大度 藤井 進也 若林 作絵
出版者
慶應SFC学会
雑誌
Keio SFC journal (ISSN:13472828)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.8-20, 2020

§ SFCの音楽、そして真鍋さんとの出会い§ 真鍋さんと音楽の出会い§ COVID-19禍で生まれる新しいこと§ 創造性の泉と音楽の科学§ これからの音楽と科学§ 近未来の感動シアター§ 音楽と医科学の可能性特集 音楽と科学対談
著者
山口 順也 天谷 直貴 前田 千代 佐藤 岳彦 森下 哲司 石田 健太郎 荒川 健一郎 宇隨 弘泰 李 鍾大 夛田 浩
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.SUPPL.3, pp.S3_54-S3_60, 2013 (Released:2015-01-09)
参考文献数
10

発作性房室ブロックは, 心房興奮が予期せず突然に心室に伝導しなくなる病態と定義され, 長時間の心停止を生じるため, 繰り返す失神や突然死の原因となることが知られている. 本例は63歳, 男性. 主訴は眼前暗黒感・意識消失. 2010年 5月に意識消失発作あり近医を受診. 非通常型心房粗動と房室伝導能低下に伴う心室ポーズを認め, 当院に紹介. 心臓超音波検査では軽~中等度の僧帽弁狭窄を認めた. 当院入院後には心房粗動下に最大13秒の心室ポーズがみられ, その際には失神前駆症状を伴っていた. 恒久ペースメーカーの適応と判断したが, まずは心房粗動の治療を優先し心臓電気生理検査を施行. CARTOを用いてマッピングしたところ, 左房天蓋部に瘢痕領域を認めた. Activation mapにて左房天蓋部の瘢痕領域と右上肺静脈の天井との間を後壁側から前壁側に旋回する心房粗動と同定した. 瘢痕領域から右上肺静脈の天井にかけての線状焼灼にて心房粗動は停止し, 以後心房粗動は誘発不能となった. 洞調律に復帰後にはAH・HV時間の延長なく, また, 房室伝導能も正常であった. さらに, 治療後には房室ブロックに伴う心停止は消失した. その後は房室ブロックの再燃なく, ペースメーカーなしで経過している. 僧帽弁狭窄に伴う非通常型心房粗動で, 心房粗動時にのみ発作性房室ブロックした稀有な 1例を経験したので報告する.
著者
鎌田 佑太郎 松中 亮治 大庭 哲治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.43-53, 2021-04-25 (Released:2021-04-25)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究は外出先別に加齢に伴う訪問頻度の変化を定量的に把握したうえで,訪問頻度の変化が1日平均歩数に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,2016年と2018年の2時点の1日平均歩数と都市公園や商業地区といった外出先別の訪問頻度の変化を把握し,これら訪問頻度の経年的な変化が1日平均歩数に及ぼす影響を分析した.その結果,徒歩のみの外出中における中心市街地,運動施設・都市公園,商業地区への訪問の頻度の増減,自転車および公共交通による外出中における中心市街地への訪問の頻度の増減が1日平均歩数の増減に影響を及ぼすことを明らかにした.
著者
樋之津 史郎
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.198-201, 2019 (Released:2020-02-21)
参考文献数
18

FDAでは臨床研究のアウトカム評価(Clinical Outcome Assessment)を以下の様に定義している。「A COA is any assessment that may be influenced by human choices, judgment, or motivation and may support either direct or indirect evidence of treatment benefit.」である。また,COAは4つの要素から構成されており,それらの要素は,Patient-reported outcome (PRO),Clinician-reported outcome (CliRO),Observer-reported outcome (ObsRO)とPerformance outcome (PrefO)である。PROの一つとしてHealth-related quality of life (HROLあるいはHRQOL)がある。近年,医療経済的視点での癌診療評価にQuality-adjusted Life Year (QALY)という概念が導入され,QALYの計算にはEQ-5DなどのQOL調査票を用いて得られたQOLの評価が必須である。しかしながら,QOL評価に対して,生存/死亡のようなハードエンドポイントではないことから,「不確実な測定値」というイメージを持っている臨床医も少なからず存在する。そこで,臨床医のPROやQOLに対する理解を助けることを目的としてQOL調査票作成プロセスについて概説した。今後PROを取り入れた臨床研究計画の際に役立つことを期待している。
著者
佐藤 寧
出版者
埼玉大学社会調査研究センター
雑誌
政策と調査 (ISSN:2186411X)
巻号頁・発行日
no.19, pp.25-28, 2020

自動音声応答通話(オートコール)調査は、10年以上前から選挙情勢を測るための手法として活用されてきた。選挙情勢を分析するためのデータとして有効だが、回収率も低く確率標本に対する調査ではないため、調査結果の「値(%)」を世論として報道するに値する科学的根拠に乏しく、インターネット調査などと同様、主要マスコミの報道で世論を分析した報道で活用されることはなかった。しかしながら、インターネット調査は市場調査の分野では大いに活用されており、その有用性が確認されている。これには、非確率標本に対する調査の活用方法が確立されていることが背景にある。そして、オートコール調査に対しても同様のノウハウを当てはめることが可能である。本発表では、このノウハウを活用したオートコール調査の世論分析への活用について、「世論観測」の概念と共に解説する。Automated phone surveys have been used for more than 10 years as a method of gauging voter intentions in elections. They are useful in obtaining data for analyzing voter intensions, but the response rate is low and they do not target probability samples. Thus, there is not enough scientific basis for using the “value (in percentage terms)” of the results of such surveys while reporting news on public opinions. For this reason, automated phone surveys, as in the case of internet surveys, are not normally used by major media outlets for analyzing public opinions.However, internet surveys are widely used in market research, and their effectiveness has already been confirmed. The reason being, when it comes to internet surveys, a method has been established for using surveys of non-probability samples. The same know-how could be applied to automated phone surveys.This presentation discusses, along with the concept of “public opinion observation,” how to use this know-how in analyzing public opinions obtained from automated phone surveys.
出版者
日経BP社
雑誌
日経コンストラクション (ISSN:09153470)
巻号頁・発行日
no.446, pp.26-28, 2008-04-25

志を高く持つ。業務の目玉を作り、知恵を絞る。シングルヒットをタイムリーヒットにする……。自らを律する10項目の心得を常に胸に秘め、業務を惰性でこなさない。こうした姿勢が、プロポーザルでの高い特定率や業務表彰へとつながってきた。 「発注者と仕事をするときに、常に心がけていることがある」。