著者
白井 丈晴 藤田 真浩 荒井 大輔 大岸 智彦 西垣 正勝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1901-1911, 2017-12-15

LTE網に接続可能なスマートフォン等の端末の急速な普及により,通信の前に端末に無線リソースを割り当てるためにLTE網内で発生する制御信号も増加している.制御信号が設備の容量を超えた場合には,LTE網全体の通信品質の低下を招く恐れがある.制御信号の輻輳への対策として,通信端末が発するすべての通信に対し,プロトコルエラーとならない程度の短時間のランダムな遅延を付与し,端末が制御信号を発生させるタイミングを分散する端末制御方式がすでに提案されている.端末制御方式では,付与する遅延を最大8秒としており,この遅延により制御信号スパイクが抑制できることをシミュレーションにより示している.しかし,端末制御方式によって付与される通信遅延による利用者の体感品質(QoE)の低下が懸念される.そこで本論文では,ユーザの心理的側面からアプローチすることによって,他の対策(設備投資の増加や補償金の支払い等の方法)よりも低コストで,通信遅延によるユーザのQoEの劣化を緩和する方式の提案・評価を行う.提案方式は,「ユーザが注目してしまうようなコンテンツ」をコンシェルジュのようなキャラクタが表示することによってユーザの注意をそらし,ユーザに通信遅延の発生を気付かせない方式となっている.提案方式の有効性を示すために,クラウドソーシングを利用した500名規模のユーザ評価実験を行った.
著者
Yakov M Rabkin
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.23-34, 2017-03

本稿は2年間の交渉の末昨年7月に漸く合意に至ったイラン核交渉について、その背景にあって強力に交渉の帰趨を支配してきた国際政治の構造的な要因に着目し、それがイラン問題に留まらず広く現在の国際関係を歴史的に規定してきたことに注意を喚起しようとするものである。2013年以降のイラン核開発疑惑をめぐる交渉の実質的な主役である米国は、この交渉について国家安全保障上の「深刻な懸念」を表明するイスラエルの説得に腐心してきた。だがここでイスラエルの懸念の主な根拠がアフマディネジャード大統領(当時)の「イスラエルを地図上から消す」発言であること、この発言の真意についてあいまいな部分が残るにもかかわらず、イスラエル側がネタニエフ首相を中心にこれに固執し続けてきたことはきわめて特異なことであると言わなければならない。その背景にはオスロ合意の空洞化と軌を一にするイスラエルの国内政治の極端な右傾化、1979年の革命以後のイランを全否定して「反近代化(De-modernization)」のサイクルに落とし込もうとする一部の根強い潮流(それは皮肉にも隣国のイラクにおいて実現した)、さらに旧来からの「西欧VSアジア」の差別的構造を維持しようとする強力な力が否定しようもなく働いていると見るべきであろう。この最後の点について筆者は第二次大戦中のマンハッタン計画に言及し、当時のルーズベルト米大統領がいずれにしても西欧側にあったナチス・ドイツへの原爆の投下を躊躇する一方で、これを引継いだトルーマン大統領はその外部にあった日本に対して2度の原爆投下をためらわなかったという事実を指摘する。こうした事例に象徴される不平等な関係が現在でも絶えず繰り返されている事実は、イラン核合意の性格を公平に理解し今後の展開を見通すうえで不可欠な前提である。
著者
Rabkin Yakov M.
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー
巻号頁・発行日
vol.4, pp.23-34, 2017

<p>本稿は2年間の交渉の末昨年7月に漸く合意に至ったイラン核交渉について、その背景にあって強力に交渉の帰趨を支配してきた国際政治の構造的な要因に着目し、それがイラン問題に留まらず広く現在の国際関係を歴史的に規定してきたことに注意を喚起しようとするものである。</p><p>2013年以降のイラン核開発疑惑をめぐる交渉の実質的な主役である米国は、この交渉について国家安全保障上の「深刻な懸念」を表明するイスラエルの説得に腐心してきた。だがここでイスラエルの懸念の主な根拠がアフマディネジャード大統領(当時)の「イスラエルを地図上から消す」発言であること、この発言の真意についてあいまいな部分が残るにもかかわらず、イスラエル側がネタニエフ首相を中心にこれに固執し続けてきたことはきわめて特異なことであると言わなければならない。</p><p>その背景にはオスロ合意の空洞化と軌を一にするイスラエルの国内政治の極端な右傾化、1979年の革命以後のイランを全否定して「反近代化(De-modernization)」のサイクルに落とし込もうとする一部の根強い潮流(それは皮肉にも隣国のイラクにおいて実現した)、さらに旧来からの「西欧VSアジア」の差別的構造を維持しようとする強力な力が否定しようもなく働いていると見るべきであろう。</p><p>この最後の点について筆者は第二次大戦中のマンハッタン計画に言及し、当時のルーズベルト米大統領がいずれにしても西欧側にあったナチス・ドイツへの原爆の投下を躊躇する一方で、これを引継いだトルーマン大統領はその外部にあった日本に対して2度の原爆投下をためらわなかったという事実を指摘する。こうした事例に象徴される不平等な関係が現在でも絶えず繰り返されている事実は、イラン核合意の性格を公平に理解し今後の展開を見通すうえで不可欠な前提である。</p><p>(文責・鈴木 均)</p>
著者
宮沢 桂太郎 深町 有佑 薬師 宏治 浅中 利忠
出版者
一般社団法人 火力原子力発電技術協会
雑誌
火力原子力発電大会論文集 (ISSN:2187929X)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.22-27, 2015 (Released:2015-03-20)
参考文献数
2

(株)東芝では,発電用蒸気タービンの起動時間を短縮するニーズに応えるため,タービン最適起動技術を開発し,海外を中心に適用を進めると同時に,国内への適用拡大を進めてきた。国内でも試運転実績が出てきたことから,タービン最適起動技術とその試運転実績について報告する。
著者
嘉山 孝正 倉沢 正樹
出版者
日経BP社
雑誌
日経ヘルスケア (ISSN:18815707)
巻号頁・発行日
no.242, pp.42-44, 2009-12

改選時期を迎えた日本医師会の役員3人がすべて外され、新たに3人の診療側委員が登用された。中でも就任早々、過激ともいえる発言を繰り出し"台風の目"となっているのが山形大学医学部長の嘉山孝正氏だ。その嘉山氏に、発言の真意と今後目指す方向について聞いた。
著者
八柳 信之 新野 正之 熊川 彰長 五味 広美 鈴木 昭夫 坂本 博 佐々木 正樹 十亀 英司 YATSUYANAGI Nobuyuki NIINO Masayuki KUMAKAWA Akinaga GOMI Hiromi SUZUKI Akio SAKAMOTO Hiroshi SASAKI Masaki SOGAME Eiji
出版者
航空宇宙技術研究所
雑誌
航空宇宙技術研究所報告 = Technical Report of National Aerospace Laboratory TR-679 (ISSN:03894010)
巻号頁・発行日
vol.679, pp.96, 1981-08

「小型溝構造液水冷却燃焼器の研究」は宇宙開発事業団によって進められている推力10トン級 液酸・液水エンジン,LE-5の開発に必要な基礎資料を得るための,詳細な液水冷却特性に関するデータ,及び広範な燃焼条件に対する燃焼特性を把握することを目的とするものである。昭和52年度に冷却用液水供給装置および供試燃焼器一号機の製作を行い,53年度より航空宇宙技術研究所角田支所において燃焼試験を開始した。また,これと同時に液水冷却特性の解析上不可欠となる燃焼性能,及び燃焼ガス側熱負荷の詳細なデータを得るために,多分割型環状水冷却燃焼器を用いた水冷却燃焼試験を行なった。これらの累積燃焼試験時間は約140回,4200秒におよんだ。ところで,実際の液酸・液水エンジンでは燃焼器の冷却に用いられた液水が噴射器から燃焼室内に噴射されて,液酸と燃焼する再生冷却方式をとるのが普通である。しかし,本研究においては液水冷却特性に関して広い範囲の冷却条件でデータを得ることを目的としているため,冷却用液水の流量,供給圧力,温度等を燃焼用液水とは独立に変えられるように別系統とした“独立冷却方式”でも試験が行なえるように計画した。さらに独立冷却燃焼試験のデータを踏まえて,完全再生冷却燃焼試験の実証を行ない,設計点では冷却能力にまだ余裕のあること,特性速度効率で98%以上の値が得られることを確認した。このように小推力,F=3KN(300kgf),燃焼器で再生冷却燃焼が可能になったことは,燃焼器構造が従来の管構造燃焼器とは違って,銅製の溝構造(いわゆるSlotted wall)燃焼室としたことによるものである。これは冷却通路となる多数の溝を長手方向の設けたもので,スペース・シャトル主エンジン(SSME)等の高圧高性能エンジンに用いられている高熱負荷燃焼器と原理的に同じものであり,我国においては未経験のものである。これによって,冷却特性を明らかにするために必要な各部の温度,圧力測定が容易になるとともに,将来の高圧エンジンへの発展性をも考慮した詳細な試験データの取得が出来たものと考える。本報告で行なう試作1号機によって得られた主な結果を簡単に述べる。冷却特性については,①小推力溝構造液水冷却燃焼器により,設計点(燃焼圧力P=3.48MPa,混合比O/F=5.5)での完全再生冷却方式による燃焼が可能であり,冷却能力としては十分な余裕のあることが分かった。しかしながら,冷却条件を広範囲に変えて行なった独立冷却燃焼試験の結果から見て, ②従来より提唱されている殆んど全ての設計式が溝構造燃焼器における熱設計式としては不適当であり,かつ設計上危険性の高いことが分った。 ③試験後,供試燃焼器の切断検査を行なった結果,溝構造燃焼器をロー付接合によって製作する本方式には多くの問題点があり,新しい製作法の開発が望まれる。特に各冷却流路間の抵抗値の不均一さ,及び内筒の変形による内外筒接合部の剥離に問題がある。次に燃焼特性については ④混合比,水素噴射温度を広く変化させて特性速度効率におよぼす影響を調べた。その結果これらの効率への寄与は,著者らが以前に得た液体酸素・常温ガス水素燃焼の場合と同様に,ほぼ噴射速度比(水素噴射速度と液酸噴射速度の比)によって表わされることが分った。さらに再生冷却燃焼時に低混合比(O/F < 3)で約100Hzの低周波振動燃焼を起したが,それ以外の試験範囲ではほぼ安定な燃焼が行なわれた。
著者
戸松 誠 岡田 成幸
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.2_1-2_19, 2011 (Released:2012-01-24)
参考文献数
24
被引用文献数
3

本研究は活断層による都市直下地震を対象に、36パターンの断層パラメータを設定して実施された複数の被害評価結果に基づき、自治体が最優先すべき想定地震を決定するための手法を提案するものである。防災対策項目を構造化し、防災対策を実施する自治体関係部局に対して、階層分析法(AHP:Analytic Hierarchy Process)を応用し防災対策項目の重要度評価を行う。さらにこの重要度と複数の被害評価結果を用いて、複数の想定地震の優先度を求め、優先地震を決定する。
著者
岸 俊行
出版者
福井大学教育地域科学部
雑誌
福井大学教育地域科学部紀要 (ISSN:2185369X)
巻号頁・発行日
no.2, pp.211-224, 2012

本研究では,従来あまり指摘されてこなかった運動技能における技術と知識との関連 の検討を行った.運動技能として野球を取り上げ,技術の指標として打率をもちいた. 選手個人の持っている知識と打率との関連の検討をおこなった.分析の結果,知識と打 率には負の相関が見られた.すなわち,知識を多く持っている選手は打率も低い傾向が 示唆された.また,調査対象者の知識質問紙の結果で最適尺度法を行った結果,「机上 の理論」「実践的知識」「必須知識」の3つの知識群が弁別された.「実践的知識」群以 外の群では,打率の低い選手の方が打率の高い選手よりも有意に多く知っているという 結果であった.特徴のある調査対象者を抽出し,ストラクチャード・インタビューを行 った結果,打率の低い選手は,知識を覚えることが打率をあげる契機になると信じてい ることが分かった.福井大学教育地域科学部紀要(教育科学) , 2, 2011
著者
大橋 利和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1443-1446, 1966-11-15

I.緒言 望遠鏡や顕微鏡等の光学器械を覗く時,正視眼者でも接眼鏡のDiopter (以下D.と略す)目盛が負側に傾くことが多いが,この現象がどの程度の割合で存在し,又,如何なる因子がどの程度に関与しているかを見る目的で,実験を行ない成績を得たので報告する。
著者
吹田 年
出版者
茨城大学工学部
雑誌
茨城大学工学部研究紀要
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-58, 1969-12

The Gibson Method was presented in December 1923, at the annual meeting of A. S. M. E. by Norman R. Gibson. For measuring the flow of water this method has been applied in field efficiency tests of turbines in hydro-electric power plants in our country and others, especially in America, as this method does not reguire the accessibility to the inside of penstocks as compared with other methods. According to the codes on the simple Gibson Method in our country or in America, it is necessary that the penstocks through which the flow of water is being measured be straight conduits. Literature on the essential studies on the errors of the gibson method are few and no clear conclusion has been reached concerning the errors. In this paper, the author carried out the model experiments with a straight pipe line of 3 inches in diameter, 75 meters in length, 9.6 meters in static head to chech the errors in the Gibson Method, and determined the causes of the errors and also determined the