著者
脇本 聡美 Satomi WAKIMOTO
出版者
神戸常盤大学
雑誌
神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-7, 2010

両親を亡くし、財産も少ない29歳のリリー・バートはその美貌と洗練された感性を駆使し、華やかなニューヨーク社交界に受け入れられようと、金銭的な力を持つ結婚相手を求めている。ソースティン・ヴェブレンの言う「顕示的消費」が社会的規範となっている社交界では、個人の金銭的な力が社会的名声と直結する。有閑階級の生活を手に入れようとする一方で、リリーはその社会的規範を超越したいという願望を持っている。結局、金銭的な力は手に入らず、でっち上げられたスキャンダルによって社交界を追放されたリリーは、自活する術ももたず、窮地に陥る。たまたま手にしていた手紙によって、リリーは自分を陥れた相手に復讐し、社交界に返り咲くという手段が残されていたが、自分が本当に求めていたものは、物質的ではなく精神的な充足であると気付いたリリーは、その手段を使うことなく、命を落とす。金銭至上主義社会の順応者になることを放棄し、人間として正実な道を選び死んだリリーは、道徳的にイノセンスを貫いたという点では、アメリカのイヴに、人間として気高い選択をして破滅したという点では、悲劇のヒロインと見ることができる。自分自身も社交界の中心にいた作者イーディス・ウォートンは、リリーの悲劇によって金銭至上主義となった社会を批判している。
著者
金子 功
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.974-987,1139, 1992-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
38
被引用文献数
11 14

男女による違いや加齢により嚥下時の舌骨運動がどのように変化しているかを解析し, 嚥下動態を定量的に評価することを今回の研究目的とした. 対象は咽喉頭異常感症の男性44例, 女性27例とした. 頸部側面からX線映画撮影を行い, 舌骨体下端の測定点の運動をモーションアナライザーで分析した.〈結果〉1. 舌骨の安静時位置は男女差があり, 女性が男性よりも高位にあった.2. 舌骨の安静時位置は, 男性女性とも加齢により下降が認められた.3. 嚥下時間, 挙上距離は加齢により延長し, これは挙上第一相時間, 挙上第一相距離の延長によると考えられた.
著者
古味 一洋 荒川 良 天野 洋
出版者
日本ダニ学会
雑誌
日本ダニ学会誌 = Journal of the Acarological Society of Japan (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.29-35, 2008-05-25
参考文献数
17
被引用文献数
1 10

高知県の果菜類栽培施設で発生する土着カブリダニ6種(ヘヤカブリダニ,コウズケカブリダニ,ミチノクカブリダニ,サイタマカブリダニ,キイカブリダニ,ニセラーゴカブリダニ)および生物農薬資材として販売されているククメリスカブリダニの,ミナミキイロアザミウマ1齢幼虫に対する捕食能力を評価した.供試した土着カブリダニ6種のなかで,キイカブリダニの日当たり捕食量と産卵数が最も多く,3日間平均で,12.2頭,6.5卵であり,この値はククメリスカブリダニの3倍程度の高いものであった.また,ニセラーゴカブリダニの捕食量も5.8頭とククメリスカブリダニより多かった.以上の結果より,キイカブリダニとニセラーゴカブリダニはアザミウマ類の天敵として有望な種と考えられた.ヘヤカブリダニ,コウズケカブリダニ,ミチノクカブリダニ,サイタマカブリダニもミナミキイロアザミウマ1齢幼虫に対する捕食性が認められた.
著者
吉井 豊藤丸 村上 義一
出版者
公益社団法人 日本セラミックス協会
雑誌
窯業協會誌 (ISSN:00090255)
巻号頁・発行日
vol.65, no.737, pp.123-129, 1957-05-01 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14

本報告で, ポルトランドセメントの偽凝結の一原因をセメント中の半水石膏硬化力によるとする観察からその機構を解明してみた. 半水石膏硬化力のみでは偽凝結を完全に解明することは出来なかったけれども, セメント中の半水石膏の硬化時刻を考えに入れること -セメントの偽凝結はある量以上の半水石膏を含み, しかもこの半水石膏がある時間の範囲 (フェデラル規格試験法では混練後1-5分) に硬化する場合にのみ偽凝結としてあらわれる-によって, 今まで説明出来なかった諸現象の一部を解明することが出来た. 結論を以下箇条書に述べると,1) 珪砂に少量の半水石膏を添加し粉砕した粉末試料は, その含有量がSO3として0.5%で偽凝結を起し, 1.2%以上では始発も急結を示した. この試料において混練時間を長くするか, 半水石膏の硬化時間を早める二水石膏を添加するか, または湿度の高い状態で風化させ半水石膏の一部を二水物に変えることによりペーストの硬化を進め, 混練により練殺すことにより, この偽凝結を消すことが出来る. 一方これと反対に, 混練時間を短縮するか, 炭酸アルカリのように半水石膏の硬化時間を遅らすものを添加することにより偽凝結性を強くしうる.2) セメントの場合は珪砂, 半水石膏混合粉末ほど単純ではないが, 同様な傾向が認められる. セメント中の半水石膏の硬化時間は半水石膏自身の硬化時間および二水石膏, カルシウムサルホアルミネート, アルカリ塩, 石灰化合物その他により複雑な影響を受けると考えられる.セメント中の半水石膏の硬化時間を実測することは困難である故, その尺度を知るために, 半水石膏とセメントを半々に混合した試料を石膏試験法により, その始発時間を測定することにより目安とすることが出来る.3) 仕上ミルから出たばかりの新鮮セメントの半水石膏硬化時間は非常に早いものが多く (特にオープンサーキュット式のようにミル内に水蒸気が多い場合), ほとんど混練時間中に練殺されるため偽凝結とはならない. したがって, セメント中の石膏含有量と偽凝結の強さは, 新鮮時でぽ直接関係がない. セメントが風化すると, セメント中の石膏硬化時間が遅れてくるため, 練殺されない結果, 偽凝結を起し, 石膏量の多いセメントほど偽凝結が強くなる. フェデラル規格の場合, 混練終了後1-5分間に硬化する石膏量と偽凝結とは密接な関係が認められる.4) 偽凝結セメントに二水石膏を添加した場合, または湿度の高い状態で風化した場合偽凝結が消える理由は, セメント中の半水石膏の硬化時間が早くなるためである. 後者の場合は, 高湿度下の風化のためセメント中の半水石膏が二水物, サルホアルミネート等に変化し, 半水石膏の量が減少すると共に, 生成物が半水右膏の硬化時間を早めるためである.5) セメントを湿度の低い状態で風化させた場合永らく偽凝結状態を保つが, これはこの状態ではセメント中の半水石膏が安定して存在するためであろう.6) クリンカー粉末を湿度の高い状態で風化し, これに半水石膏を加えたセメントは強い偽凝結を示す. またクリンカー粉末を湿度の低い状態で長期間風化したものは半水物, 二水物のいずれを添加しても偽凝結を起す.これらの場合, 偽凝結と半水石膏硬化時間との間には関係が認められない. これらの現象は上述のものとは異なった理由によるものと考えられ, この別種の偽凝結はセメント中の半水石膏の硬化力に起因せず, クリンカー自身の硬化力によるもので, 試験温度が低い場合にはあらわれず, 混練後静止されると直ちに硬化し, 石膏によって, その硬化を防ぐことが出来ない特徴を持っている. これに関しては後日報告する予定である.7) セメント中の半水石膏に起因する偽凝結を防止する方法としては, 防湿袋を使用することにより風化を防ぐこと, 現場コンクリートミキサーで少量の二水石膏粉末を添加混練し, 混練を出来るだけ長くすること, また実際に行うことはなかなか困難であるが, 仕上ミルの温度を下げてセメント中の石膏の一部を二水物として残しておくか, またはセメントを冷却した後二水石膏の粉末をセメント粉砕後添加混合することが考えられる.
著者
時田 浩
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 = Acta humanistica et scientifica Universitatis Sangio Kyotiensis (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
no.49, pp.267-281, 2016-03

『頭痛肩こり樋口一葉』は井上ひさし(1934–2010)が1984年に執筆した戯曲である。音楽劇としての魅力と,女性だけ6人の登場人物たちの人生模様の切実さとが観客の興味を引いて,繰り返し上演される代表作となっている。 樋口一葉(1872–1896)は貧困の中に夭折し,一般には薄倖の作家として考えられているが,井上ひさしはそうは捉えない。この作品の中で,井上は一葉を悲劇のヒロインにはせず,むしろ作家としては幸福な生涯を生きたと考える。それゆえ作品は笑いのあふれる喜劇として描かれ,観客に登場人物に同化するのではなく,その生き方の意味を考えるように仕向けることが意図されている。 戯曲化する際には,一葉の小説『十三夜』や『にごりえ』を作品中に取りこみ,登場人物の結婚の現実をコミカルに描写したり,幽霊を登場させることで作品の世界の広がりを大きくし,世間全体を劇中に取りこむことに成功している。 女性6人のドラマというと,三島由紀夫の『サド侯爵夫人』が名高い。井上ひさしはこの人物構成を採りいれ,男性を舞台に1人も登場させないことで,当時の社会を支配していた男性原理を浮かび上がらせようとした。それは同時に一葉の文学の本質をも明らかにすることも可能にした。
著者
金谷 良夫 Kanaya Yoshio
出版者
神奈川大学
雑誌
麒麟 (ISSN:09186964)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.34(47)-27(54), 2011-03-31
著者
孟和扎 日嘎拉
出版者
中央大学大学院事務室
巻号頁・発行日
2016-03-18

【学位授与の要件】中央大学学位規則第4条第1項【論文審査委員主査】梅村 坦(中央大学総合政策学部教授)【論文審査委員副査】岩田 重則(中央大学総合政策学部教授),保坂 俊司(中央大学総合政策学部教授),劉 孝鐘(和光大学現代人間学部教授)
著者
瀬戸 康雄 井浦 一光 糸井 輝雄 柘浩 一郎 片岡 美江子
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本鑑識科学技術学会誌 (ISSN:13428713)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.39-47, 2004 (Released:2007-12-05)
参考文献数
9
被引用文献数
7 8

The detection performance of an Environics OY M90 chemical warfare agent detector was investigated with nerve gases, blister agents, blood agents and related compounds. The vapors of sarin, soman, tabun, dimethylmethylphosphonate and also acetone were recognized as “NERVE”, those of mustard gas, lewisite 1 and also 2-mercaptoethanol as “BLISTER”, and those of hydrogen cyanide and cyanogen chloride as “NERVE” or none and not as “BLOOD”. Neither the vapors of solvents, such as methanol and n-hexane, nor the mixture of sarin and acetone, both of which were recognized as “NERVE”, were categorized as any chemical agent. The time from the sample drawing until the alarm indication varied with the species of chemicals, from a few seconds for sarin to a half minute for lewisite 1. Except for mustard gas, once chemical agents were drawn into the detector for two minutes, the alarm indication continued for longer than 10 minutes and it took several minutes for the maximum intensity to be reduce by half.