著者
松川 康夫 鈴木 輝明
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.407-426, 1985
被引用文献数
15

渥美湾の窟栄養化の機構を解明するために塩分と各態チッソ, リンの濃度分布を毎月1回1年間にわたって観測し, 若干変形したボックスモデルを用いてそれらのバランスを調べた.陸からの供給は既往資料から算出した.計算で得られた湾の水理とこれらの栄養物質の循環や光合成, 分解, 沈降, 堆積の速度を観測や実験で得られたものと比較し, 考察した.この結果, このボックスモデルが内湾の水理と物質循環に関する概括的な理解を得るうえで有効であることが確認されると共に, 内湾の富栄養現象の出現にとって重要な要因は栄養物質の流入負荷の一般的増大だけでなく, 夏の直前の雨期における集中的負荷, 植物プランクトンの取込みに適した負荷のN: P比, 夏期における内湾の成層と海水の鉛直循環と結びついた栄養物質の半閉鎖循環の形成, および恐らくは好気的条件と嫌気的条件の中におけるりンの無機的回転であることが見出された.
著者
西平 重喜
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.5-18,224, 2005-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
19

選挙制度を議員の選出方法に限れば,小選挙区制と比例代表制の理念ははっきりしている。前者はなるべく狭い地域で選挙をして,選挙民が人柄のよく分かった代表を議会に送り出そうとする。後者は選挙民の意見の縮図を議会に作り出そうというものである。これ以外の選挙制度の理念は,この2つの制度を,それぞれの社会の実情に合わせようということで,やや違った次元の理念といえるだろう。「政治改革から10年」の特集といえば,中選挙区制を廃止し並立制が採用されたのは,どんな理念によるものかが問題になる。この変更にあたっての論議の重点は,安定した政権の樹立や政権交替がしやすい選挙方法という点におかれた。あるいは少しでも中選挙区制による閉塞状態を動かしてみようという主張が強かったようだ。ここではまず各選挙制度の理念や長所短所の検討から始める。そして最後に私の選挙制度についての理念である比例代表制の提案で結ぶ。
著者
康 東天
出版者
メジカルビュー社
巻号頁・発行日
pp.745-750, 2019-08-09

<Point>1 大規模医療情報データベースは医学研究、保健行政において重要性が増している。2 臨床検査項目は試薬によって検査値が大きく変わりうるため、統一的なデータ格納が非常に困難である。3 わが国における標準臨床検査項目コードは現在JLAC10であり、データベースに最適化されたJLAC11への変換が最終段階にある。
著者
雄倉 幸昭 大槻 均 山本 正視
出版者
水資源・環境学会
雑誌
水資源・環境研究 (ISSN:09138277)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.2, pp.47-61, 1988

上水道の規模を決定するピーク需要量は,明らかに気象の影響を受けるはずである。しかし従来は,需要の傾向変動のみを追究し,その水源の安全度は,再現確率のみに頼っていた感があった。<BR>本論文では,気象も,さらには社会現象を含めても,それらは比較的長い周期のうねりを持っており,その上に各年固有の気象要因が重なったものであり,水需要はこれらのうねりと要因の影響を受けた結果と考えた。3企業体について,このうねりをスペクトル分析で求め,それに12項目から重回帰分析で抽出した気象要因を導入して,回帰式の適合度を高めた。有意な気象要因は,年間雨量,ピーク需要発生直前の雨量,日照時間および真夏日日数であった。
著者
市川 良之 井本 祥子 中島 築 海野 徳二 白戸 勝 川堀 真一 高橋 光明 中村 晃 熊井 恵美 野中 聡 長島 泰行 金井 直樹
出版者
The Society of Practical Otolaryngology
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 補冊 (ISSN:09121870)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.15, pp.86-94, 1987
被引用文献数
1

A clinical evaluation was conducted on 107 patients with laryngeal cancer treated in our department between 1976 and 1985. Their mean age was 64.0 years, and the male to female ratio was 12: 1. Histopathologically, squamous cell carcinoma was the most common malignant tumor constituting 97.2% of all the cases, whereas there were only 3 cases of verrucous carcinoma. There were 52 cases of glottis,52of supraglottis and 3 of subglottis. The overall five-year survival rate was 62.7%. The five-year survival rates for Stages I to IV were 74.6%,84.9%,54.2% and 31.1%, respectively. As the five-year survival rate of T4 cases was 0%, more aggresive therapies such as combinations of extended operation, irradiation and chemotherapy appear to be required in such cases. In our clinic, the patients with metastases to the cervical lymph nodes at preoperation were treated with radical neck dissection combined with the total laryngectomy in most cases. Radical neck dissection for such patients decreases the number of death due to uncontrolled metastases to the cervical lymph nodes. In the cases of the advanced stage, careful postoperative examination is required.
著者
花渕 馨也
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.459-477, 2009-12-31 (Released:2017-08-18)

変身の一つの技法としての憑依は、狂気やトランスとして語られる無秩序な動作なのではなく、日常とは異なるコードにおいて行為と主体の関係を構成する、統御された振舞いである。人類学者が見出してきたのは、一見して狂気にも見える憑依の舞台で演じる主人公達であり、理性的な説明を与えうるその秩序ある振舞いであった。憑依は身体や出来事の偶発性を飼い慣らし、人間を社会化する一つの方法として見ることもできるだろう。だが、憑依は必ず痙攣する身体からはじまるように、統御しがたい身体の偶発性や、予測不可能な出来事と結びついており、憑依の実践には説明を拒否するかのような、不確かな振舞いや出来事の曖昧さが顕著に見られる。精霊憑依とは規範から逸脱する根源的な他者とつきあう方法でもあるのだ。本稿では、ンダマルと呼ばれる野蛮な王の精霊とある女性の親子三代にわたる家族的関係の歴史を検討することで、不確かな他者としての精霊との移ろいゆく関係を通じたコモロにおける身体-自己の形成と変容のあり方について明らかにしたい。
著者
阿部 一幾 小金沢 知己
出版者
一般社団法人 日本燃焼学会
雑誌
日本燃焼学会誌 (ISSN:13471864)
巻号頁・発行日
vol.57, no.179, pp.27-35, 2015 (Released:2018-01-26)
参考文献数
20

Humid air turbine systems that are regenerative cycle using humidified air can achieve higher thermal efficiency than gas turbine combined cycle (GTCC) power plant even though they do not require steam turbine, high combustion temperature, or high pressure ratio. In particular, the advanced humid air turbine (AHAT) system appears to be highly suitable for practical use because its composition is simpler than that of other systems. Moreover, the difference in thermal efficiency between AHAT and GTCC is greater for small and medium-size gas turbines. To verify the system concept and the cycle performance of the AHAT system, a 3 MW-class pilot plant was constructed. As a result of an operation test, the planned power output of 3.6 MW was achieved, so that it was confirmed the feasibility of the AHAT as a power-generating system. Moreover, the 40 MW-class AHAT test facility was developed and confirmed practicability of the AHAT system with a heavy-duty gas turbine for industrial use. In these AHAT systems, a cluster nozzle burner configuration, which has many coaxial jet streams of fuel and air, was adapted to cope with both flame stability and NOx reduction problems. From the test results, NOx emission is expected to be less than 10ppm for the future commercial AHAT system.
著者
青木 好美 片山 はるみ
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.255-262, 2016 (Released:2017-03-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

目的:本研究の目的は,日本語版自傷行為に対する反感の態度尺度(SHAS-J)の信頼性と妥当性を検討することであった.方法:全国の救命救急センターに勤務する看護師764名を対象に無記名自記式質問紙調査を実施し,302名(39.5%)の有効回答を分析対象とした.質問紙は,対象者の基本情報,SHAS-J,看護師の感情労働尺度,共感的コーピング尺度を用いた.分析は,探索的因子分析,確認的因子分析,相関分析を行った.結果:探索的因子分析の結果,SHAS-Jは4因子から構成されていた.4因子は「共感的実践力の低さ」,「ケアの反感」,「積極的理解の欠如」,「権利と責任に関する無知」であった.4因子についてCronbach α係数は0.83~0.54であった.併存妥当性の基準とした共感的コーピング尺度および看護師の感情労働尺度とは有意な相関が認められた.結論:SHAS-Jは,Cronbach α係数により信頼性が概ね確認された.また,共感的コーピング尺度や看護師の感情労働尺度との関連により妥当性が概ね確認された.
著者
島津 弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1.はじめに</b> <br>仙台平野は2011年東北地方太平洋沖地震による津波被害を受けた.名取川に沿って津波はおよそ6km遡上した.名取川下流堤外地は伝統的土地利用慣行が残り,高水敷は現在でも民地として耕作が行われ,これらの農地は津波遡上の被害を受けた.地震津波災害以降,名取川では複数回の洪水が発生し,高水敷にも氾濫した.このとき津波堆積物や塩分が流されるとともに,一部の農地は再び被害を受けた.津波災害後,放棄されたままの農地もあったが,多くは再耕起された.しかし,その後放棄される農地が拡大してきた.本発表では津波遡上およびその後の洪水時の水の流れと高水敷への影響を河川の微地形との関係から明らかにし,耕作放棄およびその拡大との関わりを検討した.現地調査は2011年5月(被害状況,表層堆積物),8月(農地の復興状況,津波被害聞き取り),2012年11月(地形断面測量,その後の洪水による影響,耕作放棄の状況),2013年11月(耕作放棄の状況)に行った.また,耕作放棄状況の把握には空中写真およびGoogle Earthの画像も用いた.&nbsp;<br><b>2.名取川堤外地の微地形と津波遡上プロセス<br></b> 名取川堤外地の微地形と津波遡上の概要についてはすでに報告した(島津,2012,日本地理学会発表要旨集82).堤外地部分は流路となっている低水敷と平水時の水面とは2m程度の比高がある氾濫原である高水敷に分けられる.高水敷は2段の地形面に分けられる.地形面上には流路跡と考えられる縦断方向に延びる浅い凹地が見られる. 河口からの距離に応じて遡上した津波の強さと卓越するプロセス,微地形との関係が異なる.河口~2.5kmでは高水敷における水深が4m程度に達し,遡上および引き波による強い侵食が生じた.2.5km~4kmでは高水敷における水深は3m程度で堆積プロセスが卓越した.4km~5kmでは津波の深さが急に浅くなった.微地形の高まり部分は水没しなかったが,そのほかの部分では水流があり,堆積が生じた.5km~6kmでは微地形の低まりの部分を津波が遡上した.津波が遡上した部分ではわずかに堆積が生じた.<b>&nbsp;<br></b><b>3.津波災害後の河川洪水による高水敷への影響<br></b> 津波災害後の2011年9月,2012年5月,6月に流域で豪雨が発生した.調査地域の上流端の名取橋におけるこれらの出水時の最高水位は平水時の+4~4.5mであった.聞き取りによると高水敷上に氾濫し,河口から4km地点より上流側における影響が大きかった.微地形の低まりの部分では湛水したこともあり,作付けされていた作物が大きな被害を受けた.一方,高まり部分も影響を受けたが,被害の程度は小さかった.氾濫水が低まりの部分を集中的に流下したことが推定できる.2012年11月の観察では,堤防沿いの微地形の低まりの部分では,観察直前の雨で湛水していた.このような部分で耕作を行っている人もいたが,降雨後にしばしば湛水するようになったとのことである.<br>&nbsp;<b>4.津波災害後の耕作放棄地の拡大と微地形の関係<br></b> 津波災害後の5月上旬に現地に入ったときには,盛んに再耕起が行われていた.一方,そのままで放置された農地も多く存在していた.そのような農地は2.5kmより河口寄りに多く,津波による被害程度が大きかっただけでなく,閖上地区では耕作者の死亡,移転により放棄されたところもある. 一度,上流寄りでも再耕起されない場所や,再耕起されたところでもその後放棄された場所も見られた.それらは微地形の低まりの部分に集中し,帯状に分布している.以上のことから,高水敷の微地形が津波遡上とその際の地形プロセスに影響しただけでなく,その後の河川洪水の際も大きく影響した.排水不良地を形成し,その結果そのような場所が耕作放棄につながったと考えられる.
著者
都留 康
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.42-52, 2005-01

本稿の目的は,機械関連のメーカーA社が1993年度と96年度に実施した2回の希望退職募集を分析対象とし,希望退職応募者と在職者全体ならびに自己都合退職者とを比較することにより,両者の査定点などにどのような差異があるのかを分析することにある.A社人事データを分析した結果,以下のことが明らかとなった.まず,第一次雇用調整においては,在職者全体と希望退職者との比較,ならびに自己都合退職者と希望退職者との比較から,希望退職者の職能資格等級や給与は相対的に高いにもかかわらず,査定点は在職者と同等程度であり,自己都合退職者よりも低いことが判明した.つまり,この回は,希望退職者は会社にとって辞めてほしい人だったといえる.次に,第2次雇用調整においては,同様の比較から,管理職層では在職者全体と希望退職者との間の査定点はほぼ同等程度であったが,非管理職の資格の低い層では希望退職者の査定点が有意に高く,自己都合退職者と希望退職者との間には査定点の差はないことが明らかとなった.これから,非管理職層で能力の高い者が流出している可能性があるといえる.希望退職には指名解雇とは異なり「誰が辞めるかわからない」面がある.A社の事例は,優遇条件や勧奨活動によっても,会社が辞めてほしい人だけが辞めるのではなく,成績優秀者も流出するという逆選択現象が希望退職には伴うことを明らかにしている.
著者
佐藤 考一
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.18, no.39, pp.673-678, 2012-06-20 (Released:2012-06-20)
参考文献数
6

This paper is a study on renovation to make a new skin on building envelope by dry method. The discussion about countermeasures how to fix fall troubles of external finishing which covers GRANDSHIP in Shizuoka City is examined as a case study, the followings are pointed out: firstly scope of consideration to add a new skin to existing envelope is clarified. Secondary the risks of modifying works to envelope are categorized to two types: one can avoid them by modifying design, the other can’t. Finally the process model to compare means of renovating building envelope is proposed.
著者
大村 優華 猪本 修
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.17-20, 2019-06-01 (Released:2019-05-29)
被引用文献数
1

中学校理科における音の単元で,音色を授業で扱うための実験教材の開発について検討をおこなった.現行の学習指導要領では,中学校1年次において音による現象という単元を学習する.そこでは音の伝わり方や,音の3要素である音の大きさ,高さ,音色があることを学習する.音の3要素のうち大きさと,高さについては実験活動を通して理解ができるような授業が展開されることが多いが,音色に着目した授業はあまりなされていない.音色を波形から読み取ることが難しいなどの理由から音色に関する実験活動が乏しいのが現状である.そこで,音色について分かりやすく効果的に授業で扱えるような,複数の音叉を用いた実験教材の開発をすることにした.純音からなる音叉の音を複数個同時に鳴らすことによって,音色を形成する要因である倍音列を人工的に作り出すことが可能となる.これにより段階的に響きと波形の変化を学ぶことができるため,音色の理解が深まることが考えられる.また,本手法により単純な構成の波形をとる楽器の音色を再現することができる.
著者
児玉 健一郎 河岡 友和 相方 浩 若井 雅貴 寺岡 雄吏 稲垣 有希 盛生 慶 中原 隆志 平松 憲 柘植 雅貴 今村 道雄 川上 由育 岡田 友里 森本 恭子 織田 麻琴 木村 修士 有廣 光司 茶山 一彰
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.162-170, 2018-03-20 (Released:2018-03-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1

63歳,男性.20年前,検診にて肝腫瘤を指摘されたが詳細不明であった.4年前の40×35 mmから60×50 mmと増大傾向となり,紹介入院となった.腹部超音波検査では肝S6/7に60×50 mm大の不整形,境界不明瞭,内部不均一,低エコー腫瘤を認めた.造影CT検査では肝S6/7に60×50 mm大の病変は共に単純CTで等吸収,造影早期相で濃染,後期相で淡い低吸収となった.ソナゾイド造影超音波検査では動脈優位相では全体が不均一に濃染された.門脈優位相ではhypo echoicとなりpost-vascular phase(Kupffer phase)ではdefectを呈した.病理組織検査では肝原発濾胞性リンパ腫と診断され,外科手術にて完全著効となり12カ月生存中である.肝原発濾胞性リンパ腫は非常に稀な疾患であり報告する.
著者
廣野 喜幸
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.18-36, 2019

<p> 1980 年代のバイオテクノロジーの進展は人体の商品化を可能にし,資本システムは実際に人体を商品化してきた.先進諸国は臓器売買を禁じる法律を制定したが,発展途上国では(特にイランでは国家主導で)売買がなされている.経済的アクターによる生権力は,近代世界システムが外部を周辺化したさいに,強制労働という規律権力で始まり,18~19 世紀を中心とする黒人奴隷制度で「生き続けよ,そうでなければ死に廃棄せよ」とする生権力の形態をとり,それが引き続き人体のパーツに達したと解釈できる.このタイプの経済的生権力は近代世界システム論のいう半周辺地域に,より深く浸透しているが,この機序の詳細を解明することが今後の課題となろう.</p>
著者
田中 治和
出版者
東北福祉大学仏教文化研究所
雑誌
東北福祉大学仏教文化研究所紀要
巻号頁・発行日
no.1, pp.43-60, 2019-12-31

本稿の目的は、シャカイフクシの人間観を仏教の人間観・世界観を援用しての批判的考察である。本稿は、仏教社会福祉学の立場ではないが、社会福祉原理論研究から、社会福祉の人間観の再考には、仏教の人間観から学ぶべき重要な観点が示唆されているとの仮説に立つ。検討結果は、次の通り。①仏教の慈悲、キリスト教の隣人愛の具現化、信仰の発露として、日本における救済形態の中心、また底流となり、現在の社会福祉に至っている。②社会福祉の特性は、個別的な方法で特殊的なリスクに対応する対人サービス及び施策にある。③仏教の人間観等からすれば、社会福祉の人間観は皮相であり、その人間観は浅薄である。④人間の根源的な課題である人の生きる意味を問うには、現状の社会福祉では難しく、仏教の人間観等に基づく回答が望まれる。 The purpose of this study is to criticize the understanding of human in social welfare by referring to the understanding of human in Buddhism. But the aim of this study is not to support Buddhism totally. So we concentrate only on the understanding of human in Buddhism. The following points have been cleared. Ⅰ. There is a similarity between the charity of Buddhism and that of Christianity. In Japan, this shapes today's social welfare. Ⅱ. The character of social welfare is services and policies which treat each cases individually. Ⅲ. Comparing Buddhism with social welfare, social welfare doesn't enough philosophy about human and life. Ⅳ. Social welfare should learn from Buddhism to clear the meaning of life.
著者
伊藤 修一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.585-598, 2001-10-01
参考文献数
33
被引用文献数
9

本稿では,千葉ニュータウンの戸建住宅に転入した世帯の,夫婦の居住地選択への関わり方の解明を試みた.対象世帯の多くは,「夫が外で働き,妻が家庭で家事や育児」を行う,典型的な郊外居住の核家族世帯である.これらの世帯は,住宅取得が困難な1990年代前後に転居を決定し,住宅の質や価格の面で公的分譲主を信頼していた.用いた住宅情報は,公的物件の情報が得やすい媒体に偏り,公的物件供給の地域的な偏りも住宅探索範囲を限定している.また,夫婦それぞれの居住地選択の基準は性別役割分業に影響を受けており,転居後も継続就業する妻のいる世帯では,妻の就業地の近くに候補地を設定するなど,住宅探索範囲が就業状況によって異なる.ただし,現住地の選択には抽選が制約となっており,選択結果に対する不満は予算の都合により生じている場合が多い.