著者
毛塚 和宏
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.194-212, 2017

<p>本稿の目的は「個人主義の浸透により恋愛結婚が普及した」という個人主義仮説を, フォーマル・アプローチによって検討することで, 新たな理論的説明を提示することである.</p><p>個人主義仮説は, 「家」や「分」を重視するような集団主義的な人々は見合い結婚を選択し, 自分の意思を尊重する個人主義的な個人は恋愛結婚を選択する, と仮定する. これに対して, 個人主義への志向と恋愛結婚の選択は必ずしも直結しない, という意識と行為の関連について批判がなされている.</p><p>そこで, 本稿では「選好の進化」によるアプローチを用いることで, 意識と行為をそれぞれ独立に扱い, その単純ならざる関係を分析する. 個人主義の浸透プロセスを考慮した恋愛結婚の普及モデルを構築し, 意識と行為の時系列変化を捉える.</p><p>その結果, 先行研究では想定されていなかった「慎重な個人主義」という行為パターン (選好) が析出した. 慎重な個人主義はある程度の階層維持を考慮に入れ, 見合い結婚・恋愛結婚を選択する. 恋愛結婚の普及に際して, この慎重な個人主義が, 見合い結婚中心的な社会の中で恋愛結婚を志向する選好を社会に涵養する, という重要な役割を果たすことが示唆された.</p>
著者
麦山 亮太
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.248-264, 2017
被引用文献数
1

<p>キャリアの中断は, 個人の社会経済的地位を動揺させ, 格差を生成する契機である. 本稿の目的は, キャリアの中断による格差の生成過程を明らかにすることにある. 中断の効果を問うにあたり, 従来の地位達成モデルにもとづく分析は, キャリアの中断の効果が個人の異質性に由来するものか, その後の地位を低下させることに由来するものかを分離できないという点で不十分であった. そこで本稿では, 2005年SSM調査の職業経歴データから同一個人について複数時点の観察を作成しパネルデータ分析の手法を適用することで, 以上の効果を分離し, 中断がその後の正規雇用獲得確率に与える持続的影響を捉える. 加えて, 中断時年齢, 中断期間の長さ, 中断に至った理由によってキャリアの中断の効果が異なるかどうかについても検討する.</p><p>分析の結果, 個人の異質性を除いてもなお, 男性は20年弱, 女性は20年以上, キャリアの中断を経験することでその後の正規雇用獲得確率は低い水準にとどまることが示された. 男性はとくに30歳以上の壮年期においてその効果が強い. 女性は, 年齢・中断期間・離職理由による差異はあるものの, キャリアの中断はどの層にとってもその後の正規雇用獲得確率を持続的に低下させる契機となっている. さらに, キャリアの中断はより地位の低い個人が経験しやすいイベントであり, それまでの格差をさらに拡大させる役割を果たしている.</p>
著者
武田 俊輔
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.265-282, 2017
被引用文献数
1

<p>本稿は, 伝統的な都市祭礼における複数の祭礼集団間の対抗関係と, それを楽しむ見物人のまなざしと行為とが対抗関係に与える作用について明らかにする. 従来の都市祭礼研究の多くは対抗や競い合いが祭礼の場において具体的にどのように成立し, それぞれの町内の人々によって経験されるのかについて, そしてその優劣を判断する見物人の存在が対抗関係にもたらす作用について, 十分に論じてこなかった.</p><p>また見物人のまなざしが与える影響について分析した数少ない研究においても, 担い手たちが祭礼における対抗関係をどのように経験し, それに基づく興奮と面白さを創り出すのか, またそれを眺める見物人が対抗関係にどう関与し, 「面白さ」を拡大すべくいかに担い手に働きかけるのかといった, 担い手と見物人の意識および行為を十分に捉えることができていない.</p><p>本稿では上記の点について明らかにすべく, 滋賀県長浜市の長浜曳山祭という都市祭礼において, 祭礼組織同士の対抗関係が喧嘩という形で最もあらわになる「裸参り」行事を事例として分析を行う. そこで見物人のまなざしの下での祭礼における対抗関係について, 担い手・見物人双方の興奮と楽しみが創り出されていく仕組みや, 見物人たちが担い手に対して対抗関係を拡大すべくどのように働きかけるかについて論じ, 見物人の対抗関係への作用とそれが都市祭礼においてもつ意味の重要性について明らかにする.</p>
著者
鹿又 伸夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.283-299, 2017

<p>日本の世代間所得移動と貧困の世代間連鎖に関する研究では, 成育家庭の経済状態から始まる影響の経路そして成育家庭の貧困から始まる地位の経路が, 貧富の世代間再生産傾向を作りだすことに焦点をあてている. しかし, 親の学歴や職業など他の成育家庭要因にくらべて, 成育家庭の経済状態から始まる影響経路が子世代の経済的格差を作りだすのかは, 検証されるべき問題である. その検証を, 全国調査データをもちいて, 経済状態を家計水準として測定し, 無職を対象に含めて行った. 分析結果は, 成育家庭の経済状態を始点とする影響経路だけが, 子世代の経済的格差を作りだす顕著な経路とはいえないことを示した. 子世代の経済的格差を作りだす主要な影響経路は, 成育家庭の経済状態, 親の学歴と職業がそれぞれ本人学歴に影響し, その本人学歴から離学後職業へ, 離学後職業から現職へ, そして現職から本人の経済状態へとつながる連鎖的影響経路だった. 男性での貧困に到達しやすい地位経路は, 成育家庭の貧困だけでなく親の低学歴からも始まっていた. しかし, 女性では現職から本人の経済状態への影響が男性ほど強くないため, 明確な地位経路はなかった.</p>
著者
脇本 聡美 Satomi WAKIMOTO 神戸常盤大学教育学部こども教育学科
雑誌
神戸常盤大学紀要 = Bulletin of Kobe Tokiwa University (ISSN:21884781)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-7, 2013-03-31

2011年度より公立小学校で、「外国語活動」として英語教育が必修科目となった。本稿では、現在「外国語 活動」が何を目指し、どのように公立小学校で教えられているかを検証し、(8 諸国やアジア諸国、特に韓国 の小学校英語教育との比較から日本の英語教育の課題を論じる。小学校での英語教育をより充実したものにす るための示唆として、現職教員が英語を教えるための研修プログラムを整備することが急務であり、さらに、 小中高大と連携したカリキュラムの枠組みの中での小学校英語の到達目標を定めた上で、英語を教えることが できる小学校教員の養成課程を整える必要性を指摘する。
著者
三重野 卓
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.81-102, 1991-05-01 (Released:2009-11-16)
被引用文献数
1

現在、「生活の質」の在り方が問われているが、そのための生活様式は、断片化されている。ここでは、「生活」を総体として把握するために、その生活空間を「日常性空間」、「非日常性空間」として把握し、その相互浸透の状態を論理的に定式化することにしたい。もちろん、日常性空間とは、「生活の場」、「労働の場」をいみし、個人の生活経験、生活史の集積した「場」である。それに対して、非日常性空間は、様々に考えられるが、「遊びの場」とすると、自由、解放の機能を担うものである。そして、両空間を明らかにするためには、人びとの演技、リズム、表現、さらには、共感、共振、共生、共鳴などの「共」現象、想像力の在り方が問題になる。確かに、近代社会は、非日常性を軽視することによって成り立っているとしても、実際には、日常性と非日常性の交差するところに、個人の復活の可能性があろう。労働も遊戯も、リズム性、社会的欲求、それによる共同性という点では、共通している。また、日常性空間に氾濫する情報は、日常性をパッケージしているが、それととともに、その意味作用は、われわれを非日常性へと誘う。このように「共」現象というとき、情報と人間の共生、情報の意味との共振も必要になる。さらに、個々人、日常性空間の深層―表層という視点も望まれ、その間の循環、深層と非日常性の関係の把握は、「生活の質」のために不可欠になろう。
著者
高 宜良 永安 朋子 内藤 あかね 中井 久夫
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.287-336, 1997-03

直接治療に関与した強迫症の長期外来治療例全例9例の記録とグラフ表現とによって治癒過程を研究した。その際,本症を全生活障害と捉えて身体診察とアートセラピーを行い,また症状の改善にもまして生活の再開と拡大とを重視した。治癒過程は特徴的に症状中心期,感情表出期,生活拡大期の3期と,各段階の移行期に分けられ,段階ご存に「病圧」が格段に低下する。全体を通じての治癒的因子は,睡眠,薬物に対する心理的受容性,必要薬物の比較的少量,症状の生活阻害が部分的であることである。治療者側の基本的態度は超自我的脅威と専門家的不関性とを避けて基本的信頼の維持を態度で示すことである。これは特に治療中断後の再開時に重要である。また,症状中心期においては,目標は患者の意識における症状の脱中心化と患者の士気の維持向上である。治療の反作用として身体的動揺と身体症状の発現,症状の激化,行動化とが出現するが,いずれも一過性であり,治療に活用しうる。続く移行期にはしばしば治療上意味のある患者の「一時雲隠れ」が起こる。その意義は土居の甘え理論によっても森田の精神交互作用によっても理解しうる。感情表出期においては症状よりも,生の苦悩と苦渋な生活状況とが中心となる。治療的セレモニーの雰囲気の醸成のために音調の重視,アートセラピー,身体診察が貢献する。生活拡大期においては患者を信頼し,支持的態度とタイミングについての助言でよい。
著者
荒川 亮 櫻田 陽 森 英季 長縄 明大 渋谷 嗣 大日方 五郎
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2014年度精密工学会秋季大会
巻号頁・発行日
pp.173-174, 2014-09-01 (Released:2015-03-01)

超音波を発生させる機構のうち,数十kHz程度の低周波数から強力な超音波を得られる振動子としてランジュバン型振動子が知られている.ランジュバン型振動子はその特性から,霧化技術やソナーといった高帯域の振動が求められる分野で広く用いられている.本研究では,ランジュバン型振動子における単振動の超音波駆動源として,円環型圧電素子について電気的・機械的に評価し,振動特性の改善に関する検討を行なった.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.219, pp.76-78, 2002-12

「昨日、上山電機が従業員を集めて倒産を告げたらしい。大口取引先は仕掛品や在庫をすべて持ち出し、社長は台湾に雲隠れしたそうだ」。八月三一日、滋賀県の地元経済界をこんな噂が駆けめぐった。 上山電機(滋賀県志賀町、上山能成社長)は、携帯電話などのカラー液晶ディスプレーに使うカラーフィルターを生産する滋賀県では数少ないハイテク関連メーカー。
著者
藤岡 正樹 梶 秀樹 三平 洵
出版者
地域安全学会事務局
雑誌
地域安全学会梗概集
巻号頁・発行日
no.27, pp.101-104, 2010

Since 25^<th> June, 2009, the authors have released the new game software for earthquake disaster education on portable game terminal bases to the public market. This paper describes the development process of the software and proposes an educational and training. The paper first tries to identify the general problems of disaster education and training exercise for promoting people's awareness and responding skill to an occurrence of earthquake, and then formulates the conceptual framework to be installed in the software. The paper thus contributes to those who have same interests on a game as a disaster training tool.