著者
西岡 秀郎 田口 志麻 山本 勇一 中川 智晴
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.168-170, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
10

アナフィラキシーショックに対する第一選択薬はアドレナリンであり,迅速な投与が死亡率を低下させる。また輸液も重要な治療である。わが国では救急救命士の処置として,アドレナリン自己注射製剤(エピペン®)所持者が自己注射できない場合のエピペン投与,および心肺機能停止前の静脈路確保と輸液が認められている。著者らはアナフィラキシーショックにより意識レベルと血圧の低下を呈した患者に対し,救急救命士がこれらの処置を実施し,症状の改善に寄与した症例を経験した。
著者
今中 忠行 森川 正章
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

【1】HD-1株宿主-ベクター系の開発HD-1株を宿主とした形質転換系を構築することを目的としてまず、各種抗生物質に対する耐性をしらべた。その結果、カナマイシン(Km)、テトラサイクリン(Tc)、アンピシリン(Ap)、クロラムフェニコール(Cm)、カルベニシリン(Cd)に対する耐性は全くなく(5μg/ml以下)、ストレプトマイシン(Sm)に対しては10μg/mlが生育限界濃度であった。続いてこれまでに開発されたPseudomonas属を含むグラム陰性細菌に広く利用されている広宿主域ベクターや大腸菌用のベクターなどを中心にエレクトロポレーション法によるHD-1株の形質転換実験を行った。それぞれのベクターにコードされている各種薬剤耐性を獲得した細胞を形質転換体として選択した。その結果、グラム陰性用広宿主域ベクターRSF1010によってHD-1株の形質転換が可能であることが判った。細胞を懸濁する溶液としては10%グリセロールが適していると思われた。実際に、Sm耐性株(形質転換体)からプラスミドを抽出してアガロースゲル電気泳動で調べた結果、RSF1010の存在が確認できた。この結果は、RSF1010はHD-1株細胞内で独立複製可能であることも示している。種々の条件を検討した結果、HD-1株の形質転換最適条件は以下の通りである。宿主(HD-1株),定常期前期菌体:ベクター,RSF1010(Sm^r):選択圧,Sm20μg/ml:電気パルス(方形波):電界強度,5kV/cm:パルス幅,1ms:遺伝子発現までの培養時間,3時間。以上の条件で得られる最大形質転換頻度は3.3×10^<-5>transformants/viable cell、最大形質転換効率は1.1×10^5transformants/μgDNAであった。【2】アルカン/アルケン生合成経路の解明まず、生物学的にCO_2からアルカン/アルケンを合成する経路のなかで最も研究が遅れており、実際反応律速になっている可能性が高いと思われる脂肪酸からアルカン/アルケンへの変換反応について検討した。緑藻類などを用いた研究成果からは脂肪酸から直接アルカン/アルケンを合成しているのではなく、脂肪酸からアルデヒドになった後アルカン/アルケンに変換される可能性が示唆されている。そこでHD-1株が最も多く蓄積していたヘキサデカン(C16)の前駆物質であると予想されるパルミチン酸あるいはヘキサデカナ-ルを使ってアルカン/アルケンの生成が実際に起こるかを調べた。^<14>C-パルミチン酸は市販のものを利用した。^<14>C-MEKISAデカナ-ルは入手不可能であったため^<14>C-パルミチン酸から化学合成した。アルカン/アルケンの生成反応は以下のようにして行った。基質である^<14>-パルミチン酸あるいは^<14>C-ヘキサデカナ-ルを含むリン酸緩衝液(pH7.0)/1%Triton X-100をナスフラスコ内でArガス通気により脱酸素処理する。同様に脱酸素処理した細胞抽出液を嫌気性ボックス内で添加後密栓する。これを遮光した湯浴中で37℃24時間保温した。反応産物を含む疎水性画分をクロロホルム抽出し、基質のみで保温したコントロールと共にシリカゲル60TLC(ヘキサンおよびヘキサン,ジエチルエーテル,ギ酸)で展開し、脂肪酸あるいはアルデヒド画分(Rf=0.5-0.7)をアルカン/アルケン画分(Rf=0.9以上)を厳密に分けて回収した。液体シンチレーションカウンターによりそれぞれの放射活性を測定した。この結果から、微量であるが細胞抽出液を加えた場合にのみアルカン/アルケの生成が確認できた。さらに脂肪酸にくらべてアルデヒドの方がアルカン/アルケンの生成率が良いことから、細菌においても脂肪酸はアルデヒドを経由してアルカン/アルケンに変換されることが強く示唆された。現在細胞抽出液をカラムクロマトグラフィーなどにより分画して、本酵素活性(アルデヒトデカルボニラーゼ)の精製を目指している。
著者
Masao Ichikawa Haruhiko Inada Shinji Nakahara
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
pp.JE20230217, (Released:2023-10-07)
参考文献数
31

Background: In Japan, older drivers have been encouraged to surrender their driving licenses for traffic safety despite the potential adverse social and health outcomes of driving cessation. We reconsidered such policies and social pressure by comparing the risk of at-fault motor vehicle collisions (MVCs) across the age groups of drivers.Methods: Using the national data of police-reported MVCs that occurred between 2016 and 2020, we examined the number of at-fault MVCs per licensed driver (MVC rate) and the number of fatally and non-fatally injured persons per at-fault MVC by the sex and age groups of at-fault drivers.Results: The MVC rate of older drivers was higher than that of middle-aged drivers but lower than that of young drivers. The number of injured persons among the collided counterparts (collided car occupants, motorcyclists, bicyclists, and pedestrians) per MVC caused by older drivers was not greater than that by drivers in other age groups. In fatal MVCs caused by older drivers, drivers themselves or their passengers tend to be killed rather than their collided counterparts. Overall, the results were mostly consistent between male and female drivers.Conclusions: The risk of at-fault MVCs increased with the advancing age of drivers after middle age; however, this risk among older drivers did not exceed that among young drivers, without posing a high risk of injuries to their collided counterparts.
著者
鍋島 茂樹 増井 信太 坂本 篤彦 埜田 千里 菅沼 明彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.204-207, 2021 (Released:2022-07-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1

症例は24歳女性。第1病日より咽頭痛が出現。第2病日より38℃台の悪寒・発熱がみられたため第3病日に発熱外来を受診し,感冒と診断された。鼻咽頭スワブより PCR にて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子を検出したためホテルへ移動,しかしその後も連日高熱および嘔気が続いていた。第5病日の昼に主治医の指示により麻黄湯の内服を開始。内服後に発汗して解熱し,その後も発熱をみていない。しかし嘔気が増強したため,麻黄湯は1日のみで中止した。第7病日の PCR は陽性であったが,Ct 値ではウイルス量の低下が示唆された。麻黄湯はインフルエンザに有効であると報告されているが,本症例のように,インフルエンザ様症状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しても有効である可能性が示唆された。また,副作用として嘔気を助長する可能性があるため,柴胡剤など他の方剤との組み合わせも考慮されるべきである。
出版者
富士通
巻号頁・発行日
1962
著者
梅本 丈二 北嶋 哲郎 坪井 義夫 喜久田 利弘
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.306-310, 2009 (Released:2010-10-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

パーキンソン病患者の流涎と摂食・嚥下障害との関係を評価する。対象は福岡大学病院歯科口腔外科で嚥下造影検査 (VF) を行ったパーキンソン病患者16名 (男性7名, 女性9名, 平均年齢67.3±8.0歳) とした。Hoehn & Yahrの重症度分類では, StageIIIが9名, IVが6名, Vが1名であった。患者への問診から流涎の重症度を5段階, 頻度を4段階にスコア化した。また, 側面VF画像から口腔咽頭通過時間, 舌運動速度, 下顎運動速度を解析し, さらに口腔期の嚥下障害を37点満点でスコア化した。流涎の重症度は, 口唇のみが7名 (44%), 衣服まで及ぶものは4名 (25%) であった。流涎の頻度は, 「ときどき」が8名 (50%), 「しばしば」という患者が4名 (25%) であった。流涎スコアと口腔咽頭通過時間の間に有意な相関関係を認めた (r=0.659, p=0.011)。また, 口腔期嚥下障害スコアと口腔咽頭通過時間 (r=0.540, p=0.037), 舌運動速度と口腔咽頭通過時間 (r=-0.522, p=0.046) の間には有意な相関関係が認められた。パーキンソン病患者の流涎は, 舌などの動作緩慢による唾液の送り込み障害が一因となっている可能性が示唆された。
著者
佐藤 成基
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.348-363, 2009-12-31 (Released:2012-03-01)
参考文献数
53
被引用文献数
1

1990年代以後,欧米先進諸国の移民統合政策が変化してきている.それまでの「デニズンシップ」や「多文化主義」に傾斜した政策が後退し,「統合」という概念により重点が置かれるようになっている.それは一見,「グローバル化」時代のトレンドと矛盾するように見える.本稿は,このような最近の変化を,19世紀以来の国民国家形成とグローバルな移民の拡大との歴史的な連関関係のなかで考察してみる.国民国家は,19世紀以来200年間のグローバルな変容のなかで形成/再形成され,またグローバルに波及してきた.そのようななかで国民国家は,移民を包摂・排除しながらその制度とアイデンティティを構築してきた.本稿は,その歴史的過程を明らかにしたうえで,最近の欧米先進諸国の「市民的」な移民統合政策への変化が,「異質」なエスノ文化的背景をもった移民系住民を包摂するかたちで国民国家を再編成しようとする,新たな「ネーション・ビルディング」への模索であるということを主張する.最後に,こうした最近の欧米先進諸国における変化から日本の状況を簡単に検討する.
著者
向井 喜果 布野 隆之 石庭 寛子 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2206, (Released:2023-09-08)
参考文献数
74

渡り鳥は過去数十年の間に世界的規模で個体数を減少させてきた生物グループの一つである。減少した理由の一つとして、いずれの種も繁殖地、越冬地、および中継地といった多様な生息環境を必要としており、そのどれか一つでも開発などにより劣化や消失が生じると、それぞれの種の生活史が保証できなくなることが挙げられる。渡り鳥のこれ以上の減少を防ぐためには、その食性を十分に理解した上で、餌資源が量的かつ質的に減少しないような生息地管理を適切に進めていく必要がある。本研究では、新潟県の福島潟で越冬する大型水禽類オオヒシクイとコハクチョウにおける越冬地の保全策を検討する一環として、2種の食性をDNAバーコーディング法と安定同位体比分析を組み合わせることにより明らかにした。その結果、オオヒシクイは越冬期間を通して水田ではイネを、潟内ではオニビシを主要な餌品目としていたのに対し、コハクチョウは11月にイネを主要な餌品目としていたものの、12月以降では、スズメノテッポウおよびスズメノカタビラなどの草本類に餌品目を切り替えていた。本研究を通し、オオヒシクイとコハクチョウの餌利用は水田環境と潟環境に分布する植物に大きく依存していることが明らかになった。2種が今後も福島潟を越冬地として利用し続ける環境を保つには、ねぐらと採餌環境としての福島潟および採餌環境としての周辺水田を一体とした保全を施していくことが望まれる。
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.363-368, 2011-05-28 (Released:2011-06-29)
参考文献数
76
被引用文献数
2
著者
後藤 貞人
出版者
日本刑法学会
雑誌
刑法雑誌 (ISSN:00220191)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.55-61, 2013-03-10 (Released:2020-11-05)
著者
船木 靖郎
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.9, pp.602-610, 2022-09-05 (Released:2022-09-05)
参考文献数
46

有限個の核子(陽子と中性子)が強く自己束縛した系である原子核は,核子が空間的に十分詰まった密度の飽和性を示す一方で,核子間2体力が良い近似で平均場に繰り込まれることも知られている.フェルミ粒子である核子が次々にエネルギー軌道を占有した殻模型構造は,この平均場構造の代表例であり,基底状態に代表される飽和密度領域での原子核構造の基本的性質として理解されてきた.そのような通常の飽和密度領域から離れ,より低密度領域で起こる主要な現象の一つが,クラスター化である.核子の媒質中で複数の核子集団が束縛状態を作りサブユニットとして析出する現象である.このようなクラスター化現象は,原子核,無限個の核子からなる核物質系を問わず,核子多体系一般に低密度領域で普遍的に存在することが知られている.そのようなサブユニットとしての安定な最小単位はα粒子(ヘリウム原子核4He)である.α粒子はボーズ統計に従うことから,核物質系でのαクラスター化は同時にボーズ–アインシュタイン凝縮という観点からも注目を浴びることになった.原子核でのαクラスター構造は,古くは1930年代から調べられてきたが,2000年代になり核物質系での研究に触発される形で,αクラスターのボーズ凝縮という観点から研究されるようになった.その結果特に,有名なホイル状態や16O核の4α分解しきい値近傍の励起状態で,核子すべてがαクラスターとして分解し,かつそれらがすべてガスのように互いの相関無く自由に運動し,同一の最低エネルギー軌道を占有するというα凝縮状態が実現されていることが分かってきた.一方で,このようなα凝縮状態は,原子核中に出現する数多くのクラスター構造状態の中では特別な状態であると考えられた.クラスターが空間局在し,その平衡点周りにゼロ点振動しているようなもの,というのが他の大多数のクラスター構造状態に対する基本的理解であった.この典型例は,20Neの16O+αクラスター構造状態,α直線鎖状態等であり,20Neの16O+αクラスター状態では,対応する正負パリティの回転帯スペクトルが観測されており,それらを正しく再現するためには,まさにクラスターの空間的局在化が必須条件であった.それにもかかわらず2010年代に入り,α凝縮状態のようなクラスターのガス的構造に立脚した,非局在型クラスター模型波動関数が,16O+αクラスター構造を完璧に記述することが示されたのである.串刺し団子のような形態と考えられてきたα直線鎖状態に対しても同様であった.これは一次元上でのガス的α凝縮という新奇な構造を示すものである.これらの事実が明らかになるにつれ,α凝縮構造からその他多数のクラスター構造を統一的に記述するための重要なパラメータの存在が浮かび上がってきた.核子の殻模型構造を持った基底状態に対し,そこに埋め込まれたクラスタ―間の相対自由度が励起され,新たにクラスターによる平均場が形成される.このクラスターポテンシャルは,あたかも構成クラスターを内包する「器」のように解釈でき,その「器」の形状こそが重要なパラメータであることが分かってきた.そして基底状態から出発し,α凝縮状態へと至るクラスター構造形成発展の道筋は,この「器」の膨張発展として記述できる可能性が示唆されている.