著者
中津 俊樹
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.14-27, 2012-02-25

19世紀における共産主義思想の出現とロシア革命(1917年)以降,ローマ教皇庁及びカトリック教会は共産主義の無神論的理念を宗教としてのカトリックと教会組織への脅威と見なし,教会組織と信徒に対する共産主義思想の浸透の阻止を図った。第二次世界大戦終結後の冷戦構造の拡大に伴い,ローマ教皇庁及びカトリック教会はこの動きを加速させた。中国のカトリック教会は教皇庁の方針を踏まえ,中華人民共和国の建国前後の時期に国内の教会組織と信徒に対する共産主義思想の影響の排除を試みた。本来,教皇庁の一連の方針は教会組織の防衛と信徒の宗教的意識という内的領域の堅持を目指したものであり,政治権力との対決は意図されていなかった。中国のカトリック教会の場合も同様であった。だが,カトリック信徒が社会的少数派で,かつ新政権が無神論的理念を新たな政治・社会秩序の建設における理論的柱と位置付けている状況下において,中国のカトリック教会の行動が本来の意図とは無関係に,新政権への敵対的行為と見なされる事は不可避であった。
著者
有田 伸弘
出版者
関西福祉大学研究会
雑誌
関西福祉大学研究紀要 (ISSN:13449451)
巻号頁・発行日
no.7, pp.1-12, 2004-03

合衆国憲法修正1条「宗教活動の自由条項(The Free Exercise Clause)」は、連邦議会(ならびに州議会)が宗教活動の自由に対して制約を加えることを禁じている。同条項の目的は、世俗の権威(civil authority)による宗教への侵害を禁じることによって「個々人の信教の自由jを確保することにあると考えられている。それ故「特定宗教の、あるいはすべての宗教の宗教的慣行を妨げたり、また…諸宗教問に差別を設けたりするために」、世俗的権威を濫用することは「その負担がたとえ間接的なものにすぎない性質のものであっても禁じられる」といわれる。 そもそも、ここにいう宗教活動とは、どのような活動を意味しているのであろうか。宗教を「人と神との内なる対話jと捉えるならば、宗教活動は「内心領域における精神活動」を意味するに止まり、宗教活動の自由条項も政府が「内心の自由」を直接的あるいは間接的に侵害することを禁じているにすぎないことになる。すなわち、宗教活動の自由条項は「特定の宗教を信仰しているというだけで、個人ならびに集団を処罰したり、差別することは許されないし、また、特定の宗教を信仰するように強制することも許されない」ことを意味することになる。 しかしながら、宗教というものは、信仰という内心領域における精神活動だけではなく、人の生活様式に浸透し、宗教的儀式や祝典さらには信仰実践などの「外面的な行為Jを伴うものであろう。宗教をこのように捉えるならば、宗教活動の自由条項は、単に内心領域における信仰の自由を保障するだけではなく、信仰に結びついたこれらの行為の自由をも保障する趣旨の規定であると解されなければない。日本国憲法第19条「信教の自由」もアメリカ合衆国憲法修正1条「宗教活動の自由」も等しく、こうした外面的な行為の自由をも保障していると一般に解されている。 では、「宗教的行為の自由を保障する」とは「同種の行為であっても、他の動機に基づく行為とは区別して信仰と密接に関係する行為に対しては、何らかの便宜を図る」ということを意味するのであろうか。しかし、信仰に基づく行為に対して「特別の便宜」を認めることは、政府が特定の宗教(あるいはすべての宗教)を有利に扱うことになり、もう一つの宗教関連条項である「国教樹立禁止条項(Establishment Clause) 」と抵触する可能性が生じてくる。両条項とも一般的な見方をすれば、「政府が宗教に干渉あるいは関与してはならない」と解することができ、抵触の可能性はないように思われるが、国教樹立禁止条項からは「政府の宗教的中立性の要求」が導き出され、宗教活動の自由条項からは「宗教的実践に対する便宜の要求」が導き出されると解するならば、両条項の間には抵触の可能性が生じる。 この問題に関しては、本来、「国教樹立禁止条項」及び「宗教活動の自由条項Jの両条項の解釈が問題となるが、本稿では、特に宗教活動の自由条項の問題に焦点を当ててみたい。国民の大多数からは奇異に見える宗教的行為に対して、憲法はどのような保障を与えていると解すべきなのか。建国当初から宗教的多元主義を余儀なくされたアメリカにおいて、アメリカ合衆国連邦最高裁がいかなる解釈を施してきているのか、その歴史的変遷を概観し若干の考察を加えたい。
著者
後藤 昌弘 彼末 富貴 西村 公雄 中井 秀了
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.521-525, 2000-06-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

真空調理法の条件設定は, 経験と勘に基づく試行錯誤によって決められることが多い.本研究では, 少ない実験回数で最適値を決定することができるRCO法を用いて, 真空調理によるリンゴコンポートの最適調理条件を求めた.リンゴ果実は, 高知県佐川町産 “ジヨナゴールド”, “ふじ” を用いた.まず, 一般的調理書5冊の調理条件の平均値を用いて普通調理と真空調理を行い, 評点法によりどちらのコンポートが好まれるかを調べた.その結果, 真空調理品が有意に好まれた.次に, シロップの糖濃度10~50% (w/w), 加熱時間0~60分の範囲でRGOプログラムにより示された調理条件で調理を行い, 官能検査の総合評価が最も高くなる条件を最適調理条件とした.その結果, シロップの糖濃度37%, 加熱時間32分が最適調理条件であることがわかった.
著者
布村 紀男
出版者
富山大学総合情報基盤センター
雑誌
富山大学総合情報基盤センター広報 富山大学総合情報基盤センター 編 (ISSN:21883181)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.49-52, 2016

近年,各種方面でビッグデータの話題が良く取り上げられている。GoogleのMapReduceとGoole File Systemの論文を契機にHadoopに代表される巨大なデータ解析に必要なシステムが開発されている。その中でも最近人気急上昇のApache Sparkについて,ビッグデータやデータサイエンスに全く精通していない素人の筆者がミニマムクラスタ環境作成し,サンプルプログラムを少し動かしてみた体験を紹介する。
著者
鈴木 紘一 小尾 和洋 北洞 哲治 横田 曄 森 忠敬 宇都宮 利善 桐原 陽一
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.152-157, 1984

抗生物質起因性偽膜性大腸炎の成因として, 腸内嫌気性菌であるClostridium difficileの産生する毒素が重視されている. 同菌の検出及び毒素産生能を検索しえた症例を呈示し, 主として合成ペニシリンによる急性出血性大腸炎との対比検討を行つた. 症例は47才女性. 化膿性子宮内膜炎にて子宮内容掻爬術を施行後, FOM, ABPC, CEX, CETなどの抗生物質を持続的に投与中, 腹痛, 下痢, 粘血便, 裏急後重を来した. 大腸内視鏡検査にて直腸より下行結腸にかけて大小様々の黄白色を呈する偽膜と炎症性粘膜を認め, 糞便よりC. difficileを検出した. 同菌の培養濾液及び糞便濾液につき細胞傷害試験及び血管透過性因子をみる家兎腸管ループ試験, 皮内反応を行い毒素の存在を証明した. C. difficileは炎症消退後の固型便より再び検出されたが毒素産生能はみられなかつた. 急性出血性大腸炎とは異なる病態であり, 両疾患の相違につき言及した.
著者
藤岡 穣 淺湫 毅 稲本 泰生 加島 勝 高妻 洋成 高橋 照彦 村上 隆
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

国内の彫刻史、金工史、考古学、保存科学の研究者との連携、協力に加え、韓国国立博物館の研究グループとの共同研究という研究体制のもと、日本、韓国、中国、ベトナム、欧米等において、 半跏思惟像および関連の金銅仏について、 蛍光X線分析 100 余件、3 次元計測 11 件 、X線透過撮影 7 件の調査を実施した。その結果、青銅の成分については、日本製の金銅仏は止利派の作例を除けば多くは自然銅に僅かに錫を混ぜた青銅を用いており、南朝作例では錫分が特に多く、百済製とみられる作例でも錫分が多い傾向をしめすこと、華北の作例では錫と鉛が同程度に含まれるとの暫定的な見解を得ることができた。また、技法面では、従来、鬆(青銅の凝固時に内部に残る気泡)が多いのは韓半島もしくは中国製とみられていたが、鬆の多寡は必ずしも製作地に関わらないこと、韓半島や中国の作例では細部の造形も基本的には鋳型の段階で表現しているのに対して、日本の作例では鏨の使用が多いことなどが明らかになった。一方、 2009 年に南京において初めて南朝・梁代の金銅仏が出土し、 2010 年にはカンボジア南部で 2006 年に出土した梁代とみられる金銅仏が紹介されたが、その一部は山東や韓半島出土ないし伝来の金銅仏に近似しており、従来、文献から指摘されていた南朝と百済との交流、さらには山東を含む 3 地域間の交流が実作例によって裏付けられた。以上の科学的調査、南朝製金銅仏の発見等の結果、日本や韓国に伝来する金銅仏については製作地を再検討する必要があること、半跏思惟像についても南朝を含めた伝播のあり方を検討する必要があることが明らかとなった。
著者
滝澤 恵多郎 齋藤 寛
雑誌
研究報告システムLSI設計技術(SLDM)
巻号頁・発行日
vol.2013-SLDM-163, no.13, pp.1-6, 2013-11-20

本稿では,束データ方式による非同期式回路を FPGA に実装するための設計支援ツールセットを提案する.始めに面積や静的タイミング解析のしやすさを考慮し,プリミティブを用いて制御モジュールを定義する.これらを用いて制御回路を実現する.次に設計制約コマンド生成の自動化,タイミング検証の自動化,タイミング違反時の遅延調整の自動化を行うツールセットを提案する.提案するツールセットと商用の FPGA 設計ツールを使用することにより,FPGA を対象にレイテンシ制約を考慮した束データ方式による非同期式回路設計が容易に行える.実験ではいくつかのベンチマークに対し提案するツールセットを適用し,回路面積,実行時間,消費電力,消費エネルギーの観点から同期式回路との比較を行う.
著者
石川 理恵 千田 栄幸 水木 敬明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ISEC, 情報セキュリティ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.319, pp.13-18, 2014-11-14

n人のプレーヤーがいて,プレゼント交換を行いたい場面を考える.すなわち,不動点(fixed point)を持たない置換をランダムに生成したい.裏面が同一の模様である4色のカードを用いると,そのようなランダム置換を秘匿したままで生成できるとともに,置換しのものを明らかにすることなく,不動点を持たないことの証明が可能であることが知られている.本研究では,この問題の解法の効率化に取り組む.すなわち,既存の手法ではn^2に比例した枚数のカードが必要であるが,本研究ではnlognに比例した枚数のカードで十分であり,色も2色で十分であることを示す.
著者
Charoensriset Samawadee
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.339-336, 2007-12-20
著者
新井 一寛
出版者
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
雑誌
アジア・アフリカ地域研究 (ISSN:13462466)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.471-488, 2007

<p>This article elucidates the initial formation process of a Sufi order through a certain saint's relation with his devotees. This saint is a descendant of Prophet Muhammad. His devotees think that he has knowledge of Islam, special power by which he can even kill people, and personal magnetism. I consider that the community that is formed around the saint is one in which devotees share the original Islamic view of the world, and which represents the initial state of Sufi orders before systematization. Before the 19th century, when the institutionalization and systematization of Sufi orders by the state started, there were religious groups centering on a certain charismatic person in Egypt. </p>