著者
土取 俊輝
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.68, pp.353-367, 2019-09-25

本稿は北海道大学文学部人骨事件を事例とし、先住民をはじめとする遺骨返還問題で何が問題とされているのかについて論じるものである。北海道大学文学部人骨事件とは、1995 年に北海道大学文学部の古河講堂内の一室から、人間の頭骨6 体が入ったダンボール箱が発見された事件である。発見された遺骨のうち返還されたものは、韓国東学党のものとされる頭骨1 体と、北方先住民のウィルタのものとされる頭骨3 体である。あとの2 体は返還先を探す事が出来ず、現在は寺院に仮安置されている。これらの人骨が北海道大学に保管されていた背景には、北海道大学が植民地主義やダーウィニズムに基づいた北方先住民の人骨の収集、研究の拠点でったことが関係している。 北海道大学文学部人骨事件を事例として遺骨返還問題を見てみると、研究機関と植民地主義との密接な関係が浮き彫りとなった。また、その植民地主義の負の遺産であるところの遺骨問題に対して、研究機関が真剣に向き合って対応していないことも、先住民の側から問題として焦点化されている。人権意識の高まった現代において、研究機関や我々研究者は、学術研究と植民地主義との関係という過去に向き合った上で、遺骨返還問題に対して取り組んでいくことが求められている。
著者
根村 直美
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.117-121, 1998-09-07 (Released:2017-04-27)
参考文献数
6

道徳哲学的にみたとき、「自己決定」とは、「いくつかの選択肢の中からーつの選択肢を他人の強制によらずに選ぶ」ことを意味する。とすれば、純粋に「自己決定」による中絶とは、「産むことも可能であるが、あえて産まないことを選ぶ」ということになる。このような意味での中絶と「避けることのできないやむをえざる決定」としての中絶は明確に区別されなければならない。ところで、純粋な意味での女性の「自己決定」の権利が常に胎児の「生きる」権利に優越するということは自明ではない。女性の「自己決定権」は母体外で生存可能な胎児の生死を決定する権利を含んではいない。しかし、他方、母体外で生存不可能な胎児については、母体を使用する権利、したがって、「生きる権利」を与えるのは、女性の「同意」である。本稿は、この「同意」を妊娠が単なる「可能性」ではなく「現実」になったときに与えられるべきものとして位置づけている。
著者
松井 繁
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.596-604, 2006-08-01 (Released:2011-03-18)
被引用文献数
1

17世紀に管鍼法を考案した先覚者杉山和一以来、鍼灸と視覚障害者とは密接な関係がある。鍼灸を研究し、貢献した視覚障害者5氏について調べた。奥村三策は19世紀文部省が禁止した鍼灸教育を復活させた。20世紀、平方龍男はリンパ鍼療法を開発し、木下和三郎は灸の研究、影山儀之助は鍼灸師初、鍼の研究をそれぞれ行なった!芹澤勝助は太平洋戦争後鍼灸存亡の危機を勝利に導き、世界初コンピューターによる東洋医学自動診断機を開発するなど多数の研究を行ない、鍼灸大学創立の道を開いた。視覚障害者は何度も鍼灸存亡の危機を乗り越え、鍼灸の科学化と取り組み、時代のニーズに応える専門書を執筆するなど、鍼灸医学を確立発展させて不滅の功績を残した。
著者
渕野 昌
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.248-259, 2004-07-27 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1
著者
大島 俊之
出版者
神戸学院大学
雑誌
神戸学院法学 (ISSN:03862046)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.883-1126, 2001-03
著者
前川 雄亮 里見 佳典 小林 博幸
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.315-322, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
24

今日においては多くの医療機器がデジタル技術に支えられて開発されている.このような機器の中でも本稿では,特にSoftware as a Medical Device(SaMD)およびDigital Therapeutics(DTx)について述べる.まず,DTxについて簡単に歴史を振り返り,海外において開発された特筆すべきDTx製品の例を紹介する.次に,日本のDTxの開発状況へ話題を移し,特に海外に対する日本の開発状況の遅延について議論する.日本におけるSaMD/DTxの開発は①保険償還制度における収益予測の不確実性,②事例の蓄積不足による規制情報の限定,③臨床試験計画や承認後のソフトウェア修正戦略の困難さ,④ソフトウェア物流・認証システムの構築,⑤競合製品としてのSaMD以外のソフトウェアの増加といった多くの課題を抱えている.以上の議論をふまえ,日本におけるデジタルヘルスケアの発展における望ましい将来像と予想される課題をいくつかあげる.SaMD/DTxだけでなく,non-SaMDも含めたさまざまな製品が開発され,エコシステムが形成・相互に接続され,トータルヘルスケアが実現されるであろう.製品開発を充実させるためには,前述の課題を一歩一歩解決していく必要がある.それらに加えて,Personal Health Record(PHR)の保護と活用のためのルール作りが必要である.最近になって,日本のSaMD開発企業数社が,業界統一組織JaDHAを設立した.企業,規制当局,その他関係者の対話を通じて,この難問が解決されることを期待する.
著者
石野 未架
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.13-22, 2016-06-20 (Released:2016-06-17)
参考文献数
31
被引用文献数
7

本研究の目的は,生徒との相互行為の中で立ち現れる教師の実践知を会話分析の手法を応用して記述することである.データは関西圏の公立中学校1年生の教室で撮影した英語の授業20時間分であり,そのうち観察された1件の臨界事象に焦点をあてて分析を行った.その結果,教師はあるIRF連鎖の中で一人の生徒から予想外の誤答があった場合,1)生徒の反応に応じていくつかの質問の定式化手続きを用いることで,その生徒の質問に対する理解度を検証すること,2)他の生徒と別のIRF連鎖を構築することでその生徒のアフォーダンスとなる応答方法を示し,最終的にその生徒から正しい応答を引き出すことが明らかになった.このように記述された教師の実践知は,授業を生徒との相互行為と捉えるなかで明らかになったものである.結語では,このような会話分析を用いた教師の実践知記述の試みが今後の授業研究にどのように貢献し得るかを述べる.
著者
松本 敏秀
出版者
仙台市科学館
雑誌
仙台市科学館研究報告 (ISSN:13450859)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.18-20, 2016 (Released:2021-09-07)

透明骨格標本の作製には,いくつかの方法がある。高価な試薬を極力使用せず,安価で美しく仕上げる方法を模索した。タンパク質の分解には,一般に高価なトリプシンを使用するが,これを安価なパンクレアチンで代用することにより,低コストで作製することに成功した。
著者
吉川 昌太 木下 篤 船間 汐莉 松木 明好
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.404-412, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
34

【目的】小脳性運動失調を伴う脳卒中患者2症例に対して,体重免荷トレッドミル歩行練習(以下,BWSTT)を実施し,その効果を検討した。【方法】対象は小脳性運動失調を伴う亜急性期脳卒中患者の50 歳代の女性と60 歳代の男性とした。ABA 型のシングルケースデザインを用い,それぞれ期間を10 日間ずつ設定した。A 期には四肢と体幹の協調性練習,立位でのバランス練習や平地での歩行練習を受けた。B 期にはA 期の理学療法に加えBWSTT を実施した。評価項目は最大歩行速度,歩幅,歩行率,TUG,SARA,BBS,FACT,FAC とした。【結果】2 症例ともに最大歩行速度はA1 期と比べ,B 期において有意な向上を認めた。しかし,2 症例ともにB 期ではA1 期に比べSARA(歩行,立位,踵すね試験)やBBS の変化は乏しかった。【結論】小脳性運動失調を伴う脳卒中患者におけるBWSTT は歩行能力の向上に影響を及ぼす可能性が示された。
著者
浅岡 真衣
出版者
富山大学比較文学会
雑誌
富大比較文学
巻号頁・発行日
vol.9, pp.67-83, 2017-03-10

「幽霊塔」は、江戸川乱歩による探偵小説で、一九三七(昭和十二)年一月から一九三八(昭和十三)年四月まで『講談倶楽部』に連載された。これは、黒岩涙香の翻案小説「幽霊塔」(『萬朝報』に一八九九(明治三十二)年八月十日から一八九〇(明治三十三)年三月九日まで連載)をもとに乱歩がリライトしたものである。原作から乱歩版まで、時計塔が物語の舞台であることは変わらない。乱歩が「想像も及ばない奇怪な着想」と言ったように、作品の魅力の核となっているのがこの時計塔である。作中で時計塔は、不可解な事件が起こり、その結果人が亡くなる場所、そして伝説の財宝が隠されている場所である。なぜ、これらの舞台が時計塔なのだろうか。時計塔が舞台であることに何か意味があるのだろうか。これまでの先行研究では、翻案作品であることや、作中に登場する整形手術について論じているものはあるが、時計塔については注目されてこなかった。そこで本稿では、時計塔が作品のなかでどう描かれているか、登場人物との関わりなどに注目して、時計塔がこの作品のなかでどういう意味を持つのかを考察していきたい。
著者
早瀬 良 大久保 暢子 佐々木 杏子 角濱 春美 沼田 祐子 三上 れつ 菱沼 典子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.79-88, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
19

本研究の目的は我が国の急性期病院において根拠ある看護技術の普及に関わる組織的要因とその具体的内容を明らかにすることであった. 根拠ある看護技術が普及している施設に勤務している8施設28名の看護師を対象とし, 半構成的面接調査を実施した. 結果, 根拠ある看護技術の普及に関わる組織的要因について, 237コードの意味内容から27サブカテゴリーに分類し, 5カテゴリー (【組織風土】【看護管理者の推進行動】【部署メンバーの態度・特性】【組織内の協力】【経済的な影響】) を抽出した. 根拠ある看護技術を普及させるために特有な組織的要因として, 個々人の特性である【看護管理者の推進行動】と【部署メンバーの態度・特性】が示され, 特に看護師長のリーダーとしての特性の重要性が見い出された. また, 組織構造の内部特性として【組織風土】【組織内の協力】, 組織の外部特性として【経済的な影響】が示され, 多職種連携の土壌の重要性ならびに診療報酬が普及を促進するきっかけとなることが見い出された.