著者
寺沢 憲吾
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.154-158, 2019-01-15

本稿では,必ずしも我が国の競馬事情に詳しくない情報系の研究者が,情報処理技術を駆使した競馬予想を用いて馬券で利益を出す試みに踏み出そうとする際に知っておくべき基本事項を解説するとともに,利益を出す手法の開発の可能性について述べる.パリミュチュエル方式におけるオッズ(払戻倍率)はファンの集合知によって定められることと,利益を出す馬券の買い方とは,的中確率最大化ではなく期待値(回収率)最大化を目指すものであること,その際には集合知によるオッズと自ら求めた各馬の勝利確率との乖離を発見することが肝要であることについて解説する.
著者
是澤 博昭
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.206, pp.129-162, 2017-03-31

昭和七年三月の満州国建国宣言から同年九月の満州国承認までの、排外熱が一段落した時期に、日本国内で唱えられたのがアジアの融和と平和であった。そこで大きな役割を果たしたのが子供である。子供による日満親善交流を日満両政府や関東軍は、満州侵略の正当性を大衆に宣伝するための効果的なイベントとして認めていた。さらに日本から行状のよくない移民が多数流入した満州国では、反日感情が増幅しており、国民レベルで融和をはかる必要性もあった。そこで日満融和の名のもとに、民間教育団体である全教連と新聞社が共同で主催する日本学童使節に全面的に協力するのである。学童使節は、文相、拓相のメッセージ持参をはじめ、首相など主要閣僚、満州国の執政、国務総理、関東軍司令官等の要人への謁見や満鉄、新聞社、立ち寄り先の国内外の都市の首長や役所、在留邦人団体などの訪問にも重点を置く。そして帰路朝鮮にも立ち寄り内鮮融和をはかるなど、日満融和を唱える日本の宣伝活動の役割を担っていた。さらに派遣日程が、満州事変一周年と満州国承認に重なり、その関連イベントとしての要素を強め、国民的な支持を広げる。それが新聞報道を過熱させ、予想以上の相乗効果を生み出す。日本学童使節は非公式ながら、ある意味では国家的な使命を帯びた使節となり、大衆意識を国家戦略へと誘うイベントにまで成長したといえるだろう。政府や軍は、大人社会の醜さを覆い隠す子供による日満親善交流の政治的な利用価値を認めたのだ。さらに昭和九年初頭、日本学童使節をモデルにした皇太子誕生を祝う二つの学童使節が『大毎』・『東日』と朝鮮総督府の御用新聞『京城日報』の主催で企画実行される。その方法論は、国家への帰属意識を高めるイベントへと応用され、主人公も少女から少年へと交代するのである。
著者
佐藤 賢一
出版者
電気通信大学
雑誌
電気通信大学紀要
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.300105, 2018-02-01

This paper introduces one traditional Japanese mathematical book, Kenki Sanpo (1683) by Katahiro Takebe (1664 - 1739). In this book Takebe solved a problem of area of segment utilizing the approximate formula for the length of arc reduced by means of Lagrange interpolation. The author points out Takebe’s solution was constructed on the base of simultaneous equations which the ancient Chinese mathematician developed on the 1st century A.D.
著者
渡邉 一弘
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.95-118, 2012-03-30

日中戦争中の弾丸除けの御守である千人針や日の丸の寄書きを見ていると、かなり頻繁に出てくる見慣れない漢字のような文字「[扌+合+辛][扌+台][扌+合+辛][扌+包+口](サムハラ)」。その文字は千人針のみならず衣服に書き込まれたり、お守りとして携帯された紙片に書かれたり、戦時中の資料に様々な形で見られサムハラ信仰とも言うべき習俗であることが分かる。戦時中のサムハラ信仰は、弾丸除け信仰の一つに集約されていたと考えられるが、その始まりは少なくとも江戸時代に遡り、その内容は、怪我除け、虫除け、地震除けなど多岐にわたっていた。「耳囊」をはじめとした江戸期の随筆にこの奇妙なる文字、あるいは符字とも呼ばれる特殊な漢字が度々紹介されている。その後、明治時代になり、日清・日露戦争といった他国との戦争に際して、弾丸除けのまじないとして、活躍することとなる。出征する兵士に持たせるお守りとして大量に配られ、その奇妙なる文字は兵士たちの間で弾丸除けの俗信として広がっていった。なかでも田中富三郎という人物の活動がサムハラ信仰を全国的に知らしめるきっかけとなり、戦時中のサムハラ信仰を全国的に普及させ、現在のサムハラ神社に引き継がれている。俗信の研究の重要性は、宗教などに権威化されたお札などと違って、民間信仰のなかから生まれ、少しずつ様々な意味づけがなされ、いつの間にか人々がその奇跡を信じ、成立するものである。戦時中の人々は、弾丸除けの俗信を信じることで、その現実を乗りきろうとした。こうした俗信の由来は、その時代時代に信じやすいように様々な逸話が加えられ、加工されていく。その時代のなかで解釈することと、その俗信の変化を通史的に整理することと、その両面が研究として必要となる。サムハラ信仰の研究は少なからずあるが、断片的であり、通史的に現代までを俯瞰する研究はない。本稿では、江戸期に始まるサムハラ信仰を現代まで俯瞰することを目的とする。
著者
笹岡 伸矢 大槻 きょう子
雑誌
奈良県立大学研究季報
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.1-30, 2020-03-31
著者
瀧 大知
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Human Studies (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.133-150, 2019-03-08

本稿は警察によるヘイトデモへの対応を分析し、その課題を明らかにすることを目的としている。そのために、筆者によるフィールド調査のデータをもとに、警察とカウンター行動との関係に注目した。分析の結果、本稿では以下の点を明らかにした。まず、警察の目的はヘイト・スピーチを止めることではなく、デモを安全に終わらせようとするのみであること。つぎにそのような姿勢の警察にとって、カウンターはデモ隊と衝突を起こす危険性のある「挑発行為」としか捉えられておらず、一般通行人にとっての「迷惑」行動とされていること。その背景には日本に人種差別を規制する法律がないことを指摘した。そのうえで「ヘイトスピーチ解消法」の課題を提示している。
著者
吉田 忠彦
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 = Ikoma Journal of Economics (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.699-712, 2009-07-01

日本でNPOとされているのは, 民間の小規模な市民活動団体であり, かなり限定的な概念になっている。 このような日本におけるNPO概念が, どのようにして形成されたかを探ることがわれわれの研究の目的である。そのうち初期の段階でとりわけ重要な役割を果たした日本ネットワーカーズ会議について, 各種の資料およびキーパーソンとのインタビューによって調査した。 その発足の過程や活動の内容を詳細に記述する。 (英文) In Japan, a concept of nonprofit organization is restricted. That covers only small civil groups. A purpose of this study is searching why and how that narrow concept formed. Especially, I observe Nihon Networkers' Kaigi (JNC; Japan Networkers' Coference) that played important role in early stage. In this paper, I describe the process JNC started and their activities in detail. The data collected by analysis of documents and interviews.
著者
小澤 京子
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.37-48, 2018-03-31

In Japanese literature and art created during the age of modernism (1920s–1930s), the fantastic and supernatural events began to occur late at night in the middle of Japan’s modern cities, especially Tokyo. This was clearly contrasting the ghost or horror story of preceding era, in which the supernatural phenomena occur during the daytime in the deep mountains or dense forests remote from the town. This essay examines how this new tendency in literary fantasies—the ephemeral and surreal events of the urban nighttime — is inspired by the alternations in nocturnal lifestyle (e.g., night theater, cabaret, nocturnal stroll in the city) accompanying the urbanization after the Great Kantō earthquake in 1923. They reflect the changes in perceptions due to some technological innovations, such as streetlamps, electric illuminations, motorcars, trains, telephones, and especially, the cinema. The surreal visions and the real cityscapes often interpenetrate and are reversed around the strolling body with unreliable perceptions. The urban nocturnal life’s novel experiences, unstable perceptions caused by new technologies, and the anxiety from the contrast between the traditional and the modern form the matrix of the novel nocturnal fantasies represented in the literature and illustrations of the modernism era.
著者
豊島 よし江
出版者
了德寺大学
雑誌
了德寺大学研究紀要 = The Bulletin of Ryotokuji University (ISSN:18819796)
巻号頁・発行日
no.10, pp.77-86, 2016

本研究の目的は、江戸時代の人口調節としての間引き・堕胎の実態、また通過儀礼としての産育習俗から見た日本の子育て、日本人の子ども観について文献を通して考察することである。歴史を通して見えてきたのは「堕胎・間引き」は全国的に慣習として存在したこと。堕胎法としては子宮収縮作用のある植物を用いる・冷水に浸かるなどであった。間引き法としては濡紙を口に当てる、手で口をふさぐなどの直接的なものとネグレクトなど間接的方法があった。これらの根底には貧しさがあり、親たちが生きるためのやむにやまれぬ選択であった。そして、そこには「7歳までは神の領域に属するもの」として「子どもを神に返す」という古来の日本人の精神があった。また、七五三に見られる通過儀礼は、子どもが無事に生まれ、無事に育つことの困難な時代にあって不安定な時期を乗り越えた節目の儀礼であった。そこには生まれた子どもを慈しんだ日本人の英知と祈りがあった。
著者
佐久間 悠太
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.135-158, 2014-02-28
著者
川戸 貴史
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.66, pp.163-185, 2022-06-30

本稿は、近年厖大な研究成果が蓄積されてきた中世日本の貨幣流通史の概要を叙述したものである。主に中国から流入した銭貨を貨幣として受容した中世日本では、15世紀にかけて銭貨が大量に流入し、国家的な主導を経ずに安定的な貨幣流通秩序が形成された。しかし15世紀後半に中国が銭貨の鋳造を放棄したため日本への流入が減少し、16世紀に混乱が生じた。同時期に日本で石見銀山の開発が進み、1560年代には日本でも銀を貨幣として用いるようになった一方、各地で深刻な銭不足に見舞われ、秩序も混乱が続いた。統一政権誕生後は列島規模での秩序の再編成が必須の課題となり、17世紀前半にかけて江戸幕府は自らその整備を進めていった。当該研究では論者によって見解が分かれている論点があり、本稿ではそれらについていくつか指摘して今後の課題を示した。
著者
秋篠宮 文仁 アキシノノミヤ フミヒト Fumihito AKISHINONOMIYA
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
1996-09-30

With the aim of elucidating the evolutionary origin of junglefowls and their domestication processes, I conducted molecular evolutionary analyses of mitochondrial DNAs for various kinds of birds belonging to the subfamily Phasianinae. I then found that the real matriarchic origin of all the domestic fowls examined in the present study was an Asian continental population of Gallus gallus gallus. The phylogenetic analysis conducted in this study also suggested that the continental population of Gallus gallus gallus is the monophyletic ancestor of all domestic fowls. These findings resolve the long-time controversy concerning monophyletic versus polyphyletic origin theories of domestic fowls. <br /> The present thesis is composed of four chapters. In Chapter 1, as an introduction, I described the evolutionary significance of the domestication processes of junglefowls and the overview of taxonomical problems of birds within the subfamily Phasianinae, particularly junglefowls and domestic fowls. <br /> In Chapter2, attention is focused on the molecular phylogeny of the subfamily Phasianinae. Comparisons of DNA sequences for mitochondrial control regions among 16 avian species belonging to the subfamily Phasianinae, revealed the following: (1) Generalized perdicine birds (quails and partridges) are descended from ancient lineages. Even the closest pair, the common quail of the Japanese subspecies (Coturnix coturnix japonica) and the Chinese bamboo partridge (Bambusicola thoracica), maintained only a 85.7l% identity. (2) The 12 species of phasianine birds previously and presently studied belong to three distinct branches. The first branch is made up exclusively of members of the genus gallus, while the second branch is made up of pheasants of the genera Phasianus, Chrysolophus and Syrmaticus. Gallopheasants of the genus Lophura are distant cousins to these pheasants. The great argus (Argusianus argus) and peafowls of the genus Pavo constitute the third branch. Members of the fourth phasianine branch, such as tragopans and monals, were not included in the present study. (3) The one perdicine species, Bambusicola thoracica, is more closely related to the phasianine genera Gallus and Pavo than to members of other perdicine genera. The above might indicate that Bambusicola belongs to one stem of the perdicine lineage which later split into two sublineages that yielded phasianine birds; one evolving to Gallus, while the other differentiated toward Pavo and related genera. (4) Tandem duplication of the 60-base unit was established as a trait unique to the genus Gallus, which is shared neither by pheasant nor by quail. <br /> In Chapter 3, I discuss evolutionary relationships between red and green junglefowls. The noncoding control region of the mitochondrial DNA of various gallinaceous birds was studied with regard to its RFLP (restriction fragment length polymorphism) and sequences of the first 400 bases. Unlike its close ally green junglefowl, the red junglefowl Gallus gallus is a genetically very diverse species; a 7.0% sequence divergence was seen between those from Thailand (Gallus gallus gallus and Gallus gallus spadiceus) and that of the Indonesian island of Java(Gallus gallus bankiva). Furthermore, the divergence increased to 27.83% when each transversion was regarded as an equivalent of 10 transitions. On the other hand, a mere 0.5-3.0% difference (all transitions) separated various domestic breeds of chicken from two subspecies of Gallus gallus gallus of Thailand, thus indicating a single domestication event in the area inhabited by this subspecies, with the red junglefowl being the origin of all domestic breeds. Only transitions separated six diverse domesticated breeds. Nevertheless, a 2.75% difference was seen between RFLP type I breeds (white leghorn and nagoya) and a RFLP type VIII breed (ayam pelung). The above data suggest that although the mitochondrion of RFLP type V is the main contributor to domestication, hens of other RFLP types also contributed to this event. <br /> Finally, in Chapter 4, the evolutionary origin and dispersal patterns of domestic fowls are discussed from various .aspects of molecular evolution and human history. With the aim of elucidating in more detail, the genealogical origin of the present domestic fowls of the world, I determined mitochondrial DNA (mtDNA) sequences of the D-loop regions for a total of 21 birds which belong to the red junglefowl (Gallus gallus) comprising three subspecies (6 Gallus gallus gallus, 3 Gallus gallus spadiceus and 3 Gallus gallus bankiva) and 9 birds representing diverse domestic breeds (Gallus gallus domesticus) . I also sequenced mtDNAs from 4 green junglefowl (Gallus varius), 2 Cingalese junglefowl (Gallus lafayettei) and 1 grey junglefowl (Gallus sonnerati). I then constructed a phylogenetic tree for these birds using nucleotide sequences, choosing the Japanese quail (Coturnix coturnix japonica) as an outgroup. Moreover, I found that a continental population of Gallus gallus gallus was the real matriarchic origin of all the domestic species examined in the present study. It is also of particular interest to note that there were no discernible differences among Gallus gallus subspecies; Gallus gallus bankiva being a notable exception. This was because Gallus gallus spadiceus and a continental population of Gallus gallus gallus formed a single cluster in the phylogenetic tree. One obvious and distinct feature that customarily separates Gallus gallus gallus from Gallus gallus spadiceus is the color of their ear lobes: white for the former and red for the latter. The fact that domestic breeds of the chicken are of two kinds as to color of ear lobes is a clear reflection of the contribution made by Gallus gallus gallus as well as by Gallus gallus spadiceus to their ancestry. Gallus gallus bankiva, on the other hand, is a distinct entity, thus, deserving its subspecies status. This implies that a continental population of Gallus gallus gallus was the monophyletic ancestor of all domestic breeds. I also discuss the possible significance of the initial dispersal pattern of present domestic fowls, utilizing the phylogenetic tree.
著者
北川 智也 垣内 正年 新井 イスマイル 猪俣 敦夫 藤川 和利
雑誌
コンピュータセキュリティシンポジウム2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.2, 2017-10-16

自動車の故障診断端子からController Area Network (CAN)バスにメッセージを送信することで,ブレーキ操作・速度メータの偽装などの不正制御ができることが知られている.一方で故障診断端子に取り付けて,スマートフォンから車両情報を取得できる社外品ドングルが容易に入手可能だが,その危険性については十分な考察がない.数種類の社外品ドングルの仕様や性能を調査したところ,それらの多くがCANバスに任意の偽装メッセージを送信可能であった.また,一部はスマートフォンとの接続を横取りできた.本論文では,実車を用いて25m程度離れた場所から攻撃可能なことを示し,社外品ドングルを取り付けた際の安全上の脅威について検証結果を報告する.