著者
清水 祐一郎 Yuichiro Shimizu
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2016-09-30

日本語には,現実の具体的な音声や,様子,心情などを音で表現する語であるオノマトペ(擬音語・擬態語の総称)が豊富に存在する.オノマトペは多様な概念を感覚的かつ直接的に表現することができ,生き生きとした臨場感のある描写を実現する上で,不可欠な言語要素である.また,オノマトペには新しい語形を次々と作り出す力が備わっており,より創作的・独創的なオノマトペ表現のほうが,聞き手・読み手にとってイメージがより具体的に喚起されるため,効果的であるともされる.一方で,オノマトペは本人の感覚経験と強く結びついているために,あいまいで主観的な表現でもあり,客観的にその印象を扱うことは難しい.多様な感覚を表し,新奇性のある表現が作られうるオノマトペの感性的な印象を,客観的に評価する手法を確立することには大きな意義があると考えられる.ゆえに,そのようなオノマトペの創作および活用を有効に支援することができれば,社会および文化の発展に大きく貢献できるものと考えられる.したがって本論文では,オノマトペの創作活動を支援するために,主観的なオノマトペごとの微妙な印象や,相互に似通ったオノマトペの差異を客観的に評価する「オノマトペの印象評価システム」と,広告やネーミング,漫画などの制作の現場において,制作者の所望する印象を与えるオノマトペを探索する「オノマトペの生成システム」の2 つのシステムを設計・開発することを目的とした.言語学においては一般に,言語の音とその語によって表される意味の間の関係は必然的なものでなく,恣意的なものであるとされてきた.しかしオノマトペにおいては,言語の音韻と意味との間に何らかの合理的・感覚的な結びつきが見られる場合があり,このような現象を音象徴という.すなわち,オノマトペのもつ基本的な音象徴的意味を,その語の構成する音から予測することができるとされる.近年,言語学分野や心理学分野において,音象徴に着目した従来研究があり,オノマトペにおける体系的な音象徴性が論じられてきた.一方で,オノマトペが感覚に直接結びつく特性に着目した工学的研究が近年多く存在する.しかしこれらの工学的研究のうち,オノマトペに内在する感性的な印象を,音象徴性に基づいて直接的かつ客観的に扱っている研究事例は少ないのが現状であった.そこで,本論文においては,心理学的手法によって音と意味の間の対応関係を調査し,オノマトペを構成する個々の音韻から印象を予測する手法を考えた.そして,この音象徴に基づく印象予測モデルを用いて,オノマトペの印象評価システムとオノマトペの生成システムを設計・開発した.本論文は全5 章から構成され,各章の概要は以下の通りである.第1 章では,研究の社会的背景として,オノマトペの社会における利活用の事例を取り上げ,オノマトペのもつ創作的な特徴と,創作活動における課題について述べる,本論文の目的として,感性的な印象を客観的に扱う手法を確立し,オノマトペの創作支援を可能にするシステムを設計・開発することと定める.第2 章では,まずオノマトペの分類と定義について述べる.擬音語や擬態語など多様な概念を含むオノマトペの分類についての概要を示し,本論文で扱うオノマトペの範囲を定義する.次に,オノマトペに関連する文理両分野における従来研究を取り上げる.オノマトペの特徴である音象徴性について概説し,20 世紀の欧米言語学と欧米心理学,日本語学における研究の流れに加え,オノマトペの感性的側面を工学分野に取り入れた近年の研究についても概観する.ここで,オノマトペの音象徴に基づいたシステムの設計・開発の背景となる知見を共有し,本論文の意義と位置づけを明確にする.第3 章では,オノマトペの印象評価システムの設計・開発に関する研究について述べる.あいまいとされるオノマトペの意味を客観的に推定するために,オノマトペの特徴である音象徴性に着目する.オノマトペを構成する個々の音韻の要素からオノマトペ全体の印象を予測するモデルを構築し,辞書データベースに頼らない印象評価手法を試みることによって,新しく創出された新奇性のある表現についても,客観的な印象評価を可能にする.第4 章では,オノマトペの生成システムの設計・開発に関する研究について述べる.第3 章で述べたオノマトペの印象評価手法を応用し,ユーザがシステム上で任意に入力した印象評価値を目的として,遺伝的アルゴリズムによるオノマトペの探索・最適化手法を実現することによって,ユーザの直感的な印象に合致したオノマトペを生成する手法を試みる.また,生成システムと印象評価システムとを統合し連携させることによって,ユーザの印象により適合したオノマトペを探索する活用法を可能にする.第5 章では,本論文の総括として,オノマトペの印象評価システムおよびオノマトペの生成システムの設計・開発に関する研究を振り返り,明らかになった課題について議論する.そして,両システムの活用や新たなシステムの設計,オノマトペの工学的応用に関する今後の展望についても論じる.
著者
薗部 寿樹
出版者
米沢史学会
雑誌
米沢史学 (ISSN:09114262)
巻号頁・発行日
no.37, pp.145-162, 2021-10-20
著者
藤川 義雄 Yoshio Fujikawa 京都学園大学 KYOTOGAKUEN UNIVERSITY
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.45-57, 2005-07-20

1990年代,極度の不振に苦しんだ日産自動車が,カルロス・ゴーンの指導の下,劇的な復活を実現し,企業再生モデルとして注目されているのは周知の通りである。この再生に当たり,非常に重要な役割を果たしたのが日産リバイバルプランとして示された中期経営計画であった。この経営計画は,期限と数値目標がはっきりと示され,経営者にとっては投資家に対するコミットメントとなり,従業員にとっては一人一人が目指していくべき方向となり,投資家にとっては経営責任の遂行を評価する基準として機能した。その目標実現過程は,会計データから検証可能であるが,そこにはビッグ・バスと呼ばれる会計手法がとられていた。日産の復活の過程を損益計算書とキャッシュ・フロー計算書を対比していくことで,一般的な評価とはまた異なるV時回復の姿を見て取ることができる。
著者
笹木 葉子 ササキ ヨウコ Yoko SASAKI
雑誌
北海道医療大学看護福祉学部紀要
巻号頁・発行日
vol.12, pp.69-74, 2005-12-20

育児は生活の営みの一部であり、時代、文化、習慣、によって大きく左右される。育児相談ではそれら時代の変化や文化、習慣、個人の価値観等に応じて育児法の情報を提供していかなければならない。しかし、相談に応じる医療者に対する育児法に関する系統的な教育は確立されておらず、個人的見解や経験則に基づく助言が中心になっている。育児法に関する情報を科学的で統一した見解にするためには、エビデンスに基づいて1つ1つ検証していかなければならない。「子どもの睡眠」については養育者の睡眠にも影響を及ぼすため、深刻な場合が多い。この相談に適切に対応するには乳幼児の睡眠生理についての正しい知識が必要である。睡眠については、大脳の生理学や内分泌の研究の進歩によってかなり詳しく解明され始めている。本研究では、乳児期各月齢ごとに睡眠覚醒リズムの生理をまとめ、睡眠覚醒リズムの確立を促す育児法について検討した。全月齢共通に"朝は明るく夜は暗く静かに過ごす"ことを基本に、妊娠期の母親の生活リズムの調整や、乳児期の日中の授乳、離乳食、遊び、運動、タッチケア、沐浴、入浴等で生活にメリハリをつけるなど実践的な育児法に関する情報をエビデンスに基づき整理した。
著者
長 友昭
出版者
拓殖大学政治経済研究所
雑誌
拓殖大学論集. 政治・経済・法律研究 = The review of Takushoku University : Politics, economics and law (ISSN:13446630)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.1-21, 2021-03-25

本稿では,日本法と中国法における氏名権・姓名権および親の命名権について,日中両国の現行法の解釈と実務の状況を紹介することによって明らかする。日本における氏名権は,民法にはほとんど規定がなく戸籍法の関連規定があるのみであるが,司法の実務では,命名権の制限の基準について「悪魔」ちゃん事件で見られるように権利濫用禁止の法理が用いられることが多い。しかし,氏名権の性質からすれば,公共の福祉の保護ないし公序良俗違反の基準が適切である場面も多い。中国については,姓名権として1986年の民法通則や婚姻法において認められていたものが,司法・立法のレベルでさらに解釈され,今般の民法典の中で人格権編に規定が置かれることになった。その過程で生じた「北雁雲依」事件や「趙C」事件を検討すると,公序良俗違反の視点や公共の利益の視点で判決が出されており,その成果が中国民法典の規定にも取り入れられたといえる。
著者
廣部 千恵子 ヒロベ チエコ Chieko Hirobe
雑誌
清泉女子大学紀要
巻号頁・発行日
vol.50, pp.87-132, 2002-12-25

前3論文において、日本の民間薬のうちで風邪に使用する食物、民間薬について述べ、さらに皮膚のトラブルの一部について述べてきた。本論文においてもこの皮膚のトラブルに対して使用している民間薬の追加分について論じる。本論文において、それぞれの症状に対する利用法を簡単にアイウエオ順に記載し、一番左の列に使用する植物名などを、二番目に簡単な利用法を、そして最後に文献番号を記載した。今回の調査でまとめたものの中には使用法のはっきりしないもの、効果のはっきりしないものも多くあるので、諸氏のご意見をいただき、お教えを請いたい。hirobe@seisen-u.ac.jp
著者
櫻木 怜 池野 早紀子 岡崎 龍太 梶本 裕之
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.133-136, 2014-09-12

近年視聴覚コンテンツの臨場感向上を目的とした全身触覚提示デバイスが数多く提案されている.こうしたデバイ スは共通して体格差による着脱の制限や煩雑さの問題を持つ.そこで本研究は身体に装着する振動子の数を可能な限 り減らし,かつ広範囲に振動を提示するため,ユーザの骨を介して身体広範に振動を提示することを試みる.本稿で は,身体広範囲に振動を伝達可能な骨部位の選定を行い,結果として選定された鎖骨に適した振動提示デバイスを製 作した.
著者
植田 智之 中西 惇也 倉本 到 馬場 惇 吉川 雄一郎 小川 浩平 石黒 浩
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:21888760)
巻号頁・発行日
vol.2019-HCI-184, no.16, pp.1-8, 2019-07-15

いじめにおいて,傍観者はいじめを止めたいという道徳観を持ちながらも,いじめに巻きこまれる懸念や気恥ずかしさといった理由から,積極的に仲裁を行わないという問題がある.そこで,チャットグループ内の一人の傍観者を装ってチャットボットが仲裁する発言を代替し,装われた傍観者に半強制的に仲裁を行わせる手法を提案する.これにより,仲裁を装われた傍観者に仲裁者としての自らの役割を半強制的に自覚させる効果が期待される.この効果を検証するため,被害者に協力する仲裁行動,被害者を攻撃する加担行動の両方を被験者が自由に取ることができるシステムを作成し実験を行った.提案手法により被験者の仲裁行動が増加し,加担行動が抑制する様子が観察された.このことから,チャットボットが仲裁を装うことで被験者に仲裁をする役目を自覚させ,いじめを縮退させる行動へ誘導できると考えられる.
著者
魯 成煥
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.117-146, 2014-03-31

本稿は、九州のある篤志家が自分の私有地に朝鮮の義妓である論介を祀ることによって惹起した韓日間の葛藤について考察したものである。論介は、晋州の妓女というだけでなく、全国民に尊敬される愛国的英雄で民間信仰においても神的な人物である。韓国の国民的な英雄である論介の霊魂を祀った宝寿院の建立と廃亡は、韓日間の独特な霊魂観の対立を象徴するものであった。和解と寛容、平和という純粋な理念に基づいて行われたとしても、当初から様々な問題点を抱えていた。論介にまつわる伝説を歴史的な事件として理解し、命を失った論介と六助に対する同情から彼らの墓碑が造成され、韓日軍官民合同慰霊祭が行われた。これを日本人は、怨親平等思想に基づいた博愛精神の発露だと表現するかもしれない。しかし韓国人はそれとはまったく違う感覚で見る。つまり、それは敵と一緒に葬られることであり、霊魂の分離であり、祭祀権と所有権の侵害というだけでなく、夫のある婦人を強制的に連行し、無理やり敵将と死後結婚させる行為だと考え、想像を超える民族的な侮辱であると感じるのである。