著者
松浦 誠
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲 (ISSN:09155805)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.43-54, 1971-05-30

本稿では, 日本産のスズメバチ属(Vespa)ハチ類6種について, 1954年以来観察した350巣の記録をとりまとめた。1. Vespaでは種によって営巣場所に一定の選好傾向がみられ, 地上の非遮蔽空間を選好する種類と地上または地下の遮蔽空間を選好する種類に区別できた。2. 非遮蔽空間を選好する種類はV. analis insularisとV. xanthopteraの2種であった。前者は常に非蔽空間に営巣し, 86.0%(74/86)の巣は地表に近い草木の枝または茎に巣を設けた。後者のV. xanthopteraでは80.7%(134/166)の巣が非遮蔽空間にみられ, 68.1% (113/166)の巣は建造物の外部に営巣していた。また19.3% (32/166)の巣は地上または地中の遮蔽された空間に営巣しており, 邦産Vespa中, 営巣場所の選択にもっとも融通性を備えていた。3. 常に遮蔽空間に営巣する種類はV. crabro flavofasciata, V. tropica pulchraおよびV. mandariniaの3種であった。このうち前2種は地上および地下の広狭を問わず, いずれの遮蔽空間にも営巣していたがV. mandariniaでは常に地中の狭い既存空洞に営巣していた。4. V. simillimaはV. xanthopteraと同じように, 遮蔽空間および非蔽遮空間のいずれにも営巣していたが, どちらをより選好するかは, 観察例が少なく明らかでない。5. 非遮蔽空間選好種では, 外被は各巣盤を完全に被護しているが, 遮蔽空間選好種では, 外被は薄く下段の巣盤は被護されることなく常に露出していた。6. 営巣場所と方位との相関は各種ともみられなかった。7. 営巣場所の地表面よりの垂直距離についてみると, 空中巣のV. analis insularisでは2m以内の高さに84.5%の巣が分布していた。一方V. xanthopteraでは2∿7mの高さに79.5%の巣がみられた。遮蔽空間選好種のV. crabro flavofasciataとV. tropica pulchraの空中巣は4.5m以下にみられた。地中巣は, V. xanthoptera, V. crabro flavofasciata, V. tropica pulchraおよびV. mandariniaの4種とも, 地表より60cm以内の比較的浅い部分に分布していた。8. 地上または地中の遮蔽空間に建設された巣では, 営巣空間への入口と巣を結ぶ通路の長さは, 3∿420cmで, この間を巣の個体は歩行して巣に達した。9. 前年の同種の営巣跡に再び営巣を繰り返す例がV. xanthoptera, V. crabro flavofasciataおよびV. analis insularisの3種に観察された。10. Vespaの同種および異種間において1地域に相互に近接して営巣する例がみられた。
著者
井上 秀雄 萩原 健一 中嶋 暉躬
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.307-313, 1993

チャイロスズメバチは, キイロスズメバチとモンスズメバチの巣に社会寄生することが知られている。本研究は, SDS電気泳動および高速液体クロマトグラフィーを用いて3種スズメバチの毒嚢成分の比較検討を行った。キイロスズメバチ毒とモンスズメバチ毒の泳動パターンには顕著な差が認められなかったが, チャイロスズメバチ毒は他の2種との成分パターンがわずかに異なり, 蛋白性成分の多様性が示された。さらに, チャイロスズメバチ毒には, スズメバチ毒に共通した活性ペプチドであるマストパランやVes-CPsが検出されなかった。一方, スズメバチ科のもつハチ毒の特徴であるセロトニン, ヒスタミン, ポリアミンがチャイロスズメバチ毒にも含まれていた。とくに, プロトレッシンおよびセロトニンの含量は他の2種に比べ顕著に高いことを認めた。これらの結果から, チャイロスズメバチ毒は, 従来報告されているスズメバチ属のハチ毒と異なる成分組成をしていることが示唆された。
著者
大利 昌久 樋山 御理男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.281-284, 1977
被引用文献数
3

A case of anaphylactic shock from the wasp, Vespa tropica, was recorded in Higashi-Yamanashi city, a typical agricultural area in Japan, on October 12,1976. This case was a 51-year-old female farmer who was stung on the nap by a wasp while working at her farm. Approximately ten minutes later, dyspnea and cloudiness of consciousness developed. When she was brought to hospital at twenty minutes after the wasp sting, blood pressure was unable to obtain and moist rales was audible all over the chest. At approximately 15 minutes on I. V. drip including predoning, nor-epinephrine, aminophyllin and histamics as well as on oxygen, initial symptoms were stabilized and consciousness became clear. The review of hospital charts revealed that ten patients had been treated for wasp or bee stings in the hospital of the present case during the period of October, 1975 to September, 1976. further epidemiological studies on wasp or bee stings need to be carried out. Desensitization therapy may be useful for those known to be hypersensitive to stings. It is also advisable that those especially in close contact with these insects be educated on the danger of their sting.
著者
大櫛 祐一 坂本 正弘 東 順一
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of applied glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.153-157, 2009-07-20
被引用文献数
6

含水下マイクロ波加熱(140°C, 5分)を利用して抽出したヤマブシタケ子実体に含まれる多糖類の特徴を, 通常の外部加熱を用いた熱水抽出(100°C, 6時間)から得た多糖類の化学構造と比較検討することにより解析した. サイズ排除クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した主な多糖類は, 通常の外部加熱ではfucogalactanと(1→6)結合に富んだ(1→3;1→6)-β-<small>D</small>-glucanであったのに対し, マイクロ波加熱の場合では(1→3)結合に富んだ(1→3;1→6)-β-<small>D</small>-glucanであった. マイクロ波加熱抽出物の低分子画分(M-3 fraction)に含まれるgalactose, fucoseの含量がかなり高くなっていたことから, マイクロ波加熱では, fucogalactanは低分子化していることが示唆された(Table 2). また, メチル化分析の結果(Table 3)から, 通常の外部加熱により得られる(1→3;1→6)-β-<small>D</small>-glucanの(1→6)結合のうち22.5%がマイクロ波加熱中に開裂していることが予想された. 本研究の結果より, ヤマブシタケ子実体から(1→3)結合を多く含むβ-glucanを抽出する上で, 通常の外部加熱を用いた熱水抽出よりも含水下マイクロ波加熱抽出の方が有効であることが示された.
著者
大櫛 祐一 坂本 正弘 東 順一
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of applied glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.231-234, 2008-10-20
被引用文献数
6

前報(Ookushi <i>et al.: J. Appl. Glycosci</i>., <b>55</b>, 225-229 (2008))に引き続いて抽出方法を検討した結果,ヤマブシタケ子実体に含まれるglucanの92.7%を抽出することに成功した.その内訳は,42.3%がアルカリ抽出,17.7%が酵素処理-マイクロ波照射,10.7%が再度アルカリ抽出によって抽出された(Table 1).残りの22.0%はマイクロ波加熱熱水抽出により抽出される水可溶(1→3;l→6)-β-<small>D</small>-glucanである(Ookushi <i>et al.: J. Appl. Glycosci</i>., <b>53</b>, 267-272 (2006)).熱水抽出残渣に含まれるglucanの構造をメチル化分析により解析した結果,全て(1→3;1→6)-β-<small>D</small>-glucanに属し,次の三つの異なった存在形態を有していることが明らかとなった.(1)水素結合により強いネットワークを形成している(1→3)結合に富んだタイプ,(2)タンパク質・キチンと複合体を形成している(1→6)結合に富んだタイプ,および(3)タンパク質・キチンと複合体を形成している(1→3)結合に富んだタイプであった.
著者
辻井 弘忠 末成 美奈子 増野 和彦
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.1, pp.73-79, 2003-03

長野県林業センターで系統維持しているヤマブシタケ(Hericium erinaceum)6系統(国内産4,台湾産1,中国産1)を供試し,ヤマブシタケ子実体の収穫所要日数および収量ならびに子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性を調べた。すなわち,栽培培地基材であるコーンコブミール含有量の違いや栄養剤添加が,子実体の収穫所要日数および収量に及ぼす影響ならびに各系統の子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性に及ぼす影響を調べた。その結果,実験に用いたヤマブシタケ6系統の子実体抽出エキスともHeLa細胞に対する細胞毒性活性がみられた。子実体の収穫所要日数が少なく,子実体の収量の多い系統はY5とY6,子実体エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性の強い系統はY1とY2であった。栽培培地基材であるコーンコブミールを添加すると子実体の収穫所要日数は短かくなり,子実体の収量は少なかったが,コーンコブミール添加によって子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性は高まった。栄養剤(フスマ)添加によって,子実体の収量は少なくなったが,子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性は高くなった。これらのことから,ヤマブシタケの系統は台湾産および中国産より国内産のY1~3系統のものを使用し,栽培培地基材としてはコーンコブミールを,栄養剤としてはフスマをそれぞれ添加して栽培すれば,HeLa細胞に対する細胞毒性活性の強い子実体を生産出来ることが判明した。
著者
鈴木 美季子 柴沼 真友美 香取 輝美 清水 通隆 木村 修一
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.11-16, 2010
被引用文献数
2

本研究はヤマブシタケおよびマイタケを飼料に添加しマウスに経口投与させることにより,EL4 腫瘍細胞の増殖を抑制するか否かを検討したものである.その結果,ヤマブシタケ単独添加およびマイタケ単独添加でも EL4 腫瘍細胞増殖抑制の傾向がみられた.また.フローサイトメトリーによって免疫担当細胞について検討したところ,マイタケの単独添加では,腫瘍細胞移植による脾臓でのキラー T 細胞・NK 細胞の減少を抑制した.ヤマブシタケ添加では腫瘍抑制の効果が得られたものの,マイタケ添加とは異なる免疫能の応答を示した.マイタケ 80%ヤマブシ 20%を混合し,飼料に 1%添加した群ではマイタケ,ヤマブシタケ単独よりも強い腫瘍細胞増殖抑制効果を示した.また,脾臓での NK 細胞・キラー T 細胞の減少抑制効果がマイタケ単独添加と同様に認められた.<br>

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著者
今関六也本郷次雄共著
出版者
保育社
巻号頁・発行日
1973
著者
河野 公一
出版者
東北工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,ロシア極東地域で毎年発生している森林火災の状況を把握するため,衛星画像を用いて7年間分の解析を行った.その結果,焼け跡は4月と10月に多く,また,火災煙は5月に多く検出された.これらの結果の分析から,前年の10月の焼け跡がその後に雪で覆われ,翌年の4月に雪が融けて再び検出されることが分かった.さらに,5月に多く観測される火災煙の発生場所は,前年の10月の焼け跡の多くと一致していることも分かった.提案法ではこれらの情報を複合的に用いることにより,森林火災の発生メカニズムの一つを明らかにした.
著者
南 武志 岩下 武史 中島 浩
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.65, pp.1-8, 2011-07-20

本論文では高周波電磁場解析の一手法である 3 次元 FDTD 法におけるキャッシュメモリを考慮した性能改善手法の提案と性能評価を行う.3 次元 FDTD 法の計算カーネルは時間発展に関するループにより与えられ,各タイムステップにおいて電場と磁場の値が交互に更新される.3 次元 FDTD 法の計算カーネルは演算あたりのロード/ストア量が大きく,一般にメモリ帯域の影響を受けやすい計算である.キャッシュメモリのヒット率を向上しメインメモリへのアクセスによる性能の低下を軽減する性能改善手法として,解析領域をタイルと呼ぶ小領域に分割し各タイル内で複数のタイムステップに関する処理を連続して行うタイリングと呼ばれる手法が存在する.しかし,単純な固定タイルによる実装では,タイル間での冗長な計算がオーバーヘッドとなっていた.そこで,本論文ではタイリング手法において,タイルの位置と形状を時間ステップごとに変化させ計算量の増加を防ぐ手法を提案する.提案手法を評価した結果,AMD 製クアッドコア Opteron プロセッサよる数値実験において 4 スレッドによる並列処理を行った場合,一般的な 3 次元 FDTD 法の実装と比較して計算時間を約 50% 短縮させることに成功した.This paper deals with performance improvement of three dimensional FDTD kernel for high frequency electromagnetic field analyses. The FDTD method is one of explicit time stepping methods. The electric and magnetic fields are updated alternately in each time step. Since the calculation of the FDTD method has a large byte/flop ratio, its performance is limited by memory throughput. For a remedy of it, there is a technique called tiling, in which the analyzed domain is divided into multiple small domains. By updating electrical and magnetic fields in each small domain in multiple time steps, we can utilize cache data efficiently. However, when we implement tiling based on simple fixed size tiles, redundant calculations are required between adjacent tiles. In this paper, we propose a new tiling technique for three dimensional FDTD method without redundant calculations. This method prevents an increase in the amount of calculations by changing the position and shape of the tile at each time step. Numerical tests on a quad-core AMD Opteron processor show that the proposed three dimensional FDTD method attains up to 50 percent reduction in the calculation time compared with an ordinary implementation of the three dimensional FDTD method.
著者
田久保 圭誉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

造血幹細胞(HSC)はニッチと呼ばれる特殊な微小環境で維持される。本課題ではHSCは骨髄内骨膜近傍領域において低酸素状態で細胞周期を静止期にとどめていることを見出した。また、こうした性質の維持のためには低酸素応答因子HIF-1alphaとその蛋白を破壊するために必要なE3 ユビキチンリガーゼVHLが必須であり、HIF-1alphaが失われるとHSC は老化してストレス耐性を失った。一方、VHL欠損でHSCの細胞周期がより静止状態になったことから、HIF-1/VHL制御系の精密な制御はHSC維持に必須であることが示された。
著者
原 大介
出版者
豊田工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

日本には「中間型手話」呼ばれるタイプの手話があり、一般的には日本手話と日本語対応手話の文法が混ざり合ったものであると言われるが、明確な「混合」は確認できなかった。聴者が使う中間型手話は、音声日本語のフットをリズムの単位として利用する傾向がある。語表出の時間は日本手話よりも30%超長い傾向にあった。取扱い分類辞と道具分類辞の使用比率においては、聴者の中間型手話は、日本手話や手話を知らない日本語話者のジェスチャーにおける使用比率と有意に異なっており物品のどの側面に着目しCLとして表現するかに独自性が見られた。ろう者が使用する中間型手話は、表出方法は簡略されるが日本手話文法に依存する傾向が強かった。
著者
新名 庸生 佐藤 雅彦 馬谷 誠二 八杉 昌宏 湯淺 太一
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.3, no.5, pp.31-31, 2010-12-10

プログラミング言語Zには簡潔で厳密なセマンティックが与えられており,将来的にはZで記述したプログラムついてもその数学的,論理的性質を素直に記述,証明できる言語になることを目指している.今回はZのコア言語となるpure Zと,Javaで書かれたLisp処理系JAKLDを基にしたpure Zの実装を紹介する.JAKLDは携帯電話でも動くコンパクトさと改造しやすさからpure Zの実装に適している.今回のpure Zの実装は今後の拡張に備え,コンパクトさと改造のしやすさを引き継いだ実装になっている.The programming language Z is given a simple and strict semantics, and we expect we will be able to easily describe mathematical and logical properties of programs written in Z in the future. In this search, we introduce a core language of Z called pure Z and its implementation based on JAKLD, a Lisp system written in Java. JAKLD is suitable for the purpose because it is so compact that some versions of it runs on mobile phones and designed so that it will be easy to add, delete, and modify its functionalities. Our implementation of pure Z keeps the compactness and easiness for the next extension.
著者
嶋原 浩
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.501-524, 2011-08-05

常磁性対破壊効果の強い第二種超伝導体において、重心運動量が0ではないCooper対による、Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov状態(FFLO状態)と呼ばれる超伝導状態が理論的に予想され、近年、重い電子系超伝導体や有機物超伝導体において、その実現が示唆される実験結果が得られている。この論文では、超伝導理論の基礎をひと通り学習した学生を想定して、FFLO状態について入門的な解説をする。(より詳しいレビューとしては、文献[1,2,3]などがある。)