著者
上田 浩一 安田 雅俊
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.151-157, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
24
被引用文献数
1

九州の西に位置する長崎県の五島列島における,絶滅種カワウソLutra lutraの過去の分布を明らかにするために,公立図書館等における文献調査と年配の地域住民への聞き取り調査を行った.カワウソに関する9件の文献資料と8例の証言から,かつて五島列島にカワウソが広く分布したことが強く示唆された.本地域におけるカワウソの生息記録は,文献では1950年代まで,目撃情報では1981年まであった.本地域個体群の絶滅には,かつての乱獲と1928年の禁猟以降の密猟が大きく寄与したと考えられるが,生息地の消失も付加的に影響した可能性がある.今後,さらなる調査によって,本地域におけるカワウソの記録が蓄積されるとともに,写真や毛皮といった物的証拠が発見されることを期待する.
著者
嶋崎 量
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.75-82, 2015-03-30 (Released:2018-02-01)

若者を使い潰すブラック企業の被害救済と根絶のため,若手弁護士を中心に約200名の弁護士によりブラック企業被害対策弁護団が設立され,活動している。具体的な活動内容は,ブラック企業被害者に対する相談活動や,個別事件の訴訟活動だけでなく,ブラック企業対策プロジェクトを通じて他分野の専門家と連携しながら,ブラック企業被害に関する各種セミナーや相談会の開催,書籍の執筆,学校現場などでのワークルール教育の実施など多様な社会的活動を行っている。ブラック企業被害者を救済し,ブラック企業を根絶するためには,本稿に掲載するような具体的な被害実例を社会に周知させ,多くの労働者が声をあげやすくする状況を作り出すだけでなく,様々な専門家と連携して,社会的な取り組みを進めていくことが重要である。

29 0 0 0 OA 地理写真帖

著者
野口保興 編
出版者
東洋社
巻号頁・発行日
vol.内國之部第2帙, 1900
著者
諸岡 卓真
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.96-110, 2012-11-15

Although mainstream mystery writers have in the past stayed away from unscientific elements such as superhuman powers and ghosts, the most recent trend in Japan is to have detectives in stories solve cases using supernatural powers. This is a reaction to the impossibility of problem-solving by inference within the limits of information given in one story, which detective fiction fans commonly refer to as "issues related to the later works of Ellery Queen." It is important to note that this trend of incorporating supernatural powers was a way to overcome the limitations placed by the rigor of inference expected by the reader. This study closely examines one of the latest such examples, Detective Fantasy : Nanase with a Steel Bar (2011) by Shirodaira Kyo, and offers an insight into how the structures of conventional mysteries have been abandoned, and what kinds of new issues contemporary writers are facing now.
著者
和田 博夫 伊藤 潔 大見 士朗 岩岡 圭美 池田 直人 北田 和幸
出版者
京都大学防災研究所
雑誌
京都大学防災研究所年報. B = Disaster Prevention Research Institute Annuals. B (ISSN:0386412X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.B-1, pp.81-96, 1999-04-01

1998年8月7日飛騨山脈上高地付近において群発地震が発生した。衛星通信システムの導入によって周辺観測網のデータが得られるようになった最初のイベントであり, 8カ月間に10, 000個以上の震源を求めることができた。活動は, 上高地付近の東西に帯状の地域, 穂高岳から槍ヶ岳にかけての南北の帯状の地域及び野口五郎岳付近の南北に帯状の地域に発生し, これらの活動域を移動, 再帰する現象が見られた。決められたH・2以上の地震約300個のメカニズム解は北西-南東方向に主圧力軸をもつ横ずれ型が卓越し, 群発地震の南北, 東西の並びと調和的である。また隣接する焼岳の火山活動との関連が注目されたが, 火山活動を示す現象は観測されなかった。なお, 今回の活動に関するデータを, 地元岐阜県上宝村へ随時提供して災害対策の基礎資料とした。
著者
岩尾 俊兵 前川 諒樹
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.341-350, 2016-06-25 (Released:2017-02-25)
参考文献数
25

Thompson (1965) は、既存の官僚制組織が仕事を細分化・専門化させることで企業の生産性を向上させると同時に、仕事の過度な細分化を生じさせイノベーションを阻害する可能性があると指摘した論文である。しかしながら、Thompsonの議論は官僚制組織 (官僚的な組織) と創造性を単なる対立関係にあると想定したものではなく、官僚制組織にいくらかの修正を加えることで生産性と創造性が両立できるのではないかと論じている。たとえば、この論文では、官僚制組織において創造性を担保する役割がプロフェッショナルに求められており、イノベーティブな活動に従事するそのようなプロフェッショナルを処遇するには単線評価でなく総合評価がよく、仕事自体の面白さによって内発的動機づけが行われる必要があるという。
著者
石川 昌明
出版者
一般社団法人 システム制御情報学会
雑誌
システム制御情報学会論文誌 (ISSN:13425668)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.115-121, 2017-04-15 (Released:2017-07-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

The purpose of this paper is to propose the stochastic infectious model with time delay and to study the stability of the disease-free steady state. In the realistic spread of the infectious disease, environmental change and individual difference cause some kinds of random fluctuations in the model parameters. Moreover, in the vector-borne diseases such as malaria and dengue fever, there exists time delay caused by an incubation period in the virus development in the vectors (mosquitoes) on the transmission of disease. Taking these facts into consideration, we propose a stochastic SIR(susceptible-infected-recovered) model with time delay. We analyze stability of the disease-free steady state, and study the influence of time delay and the random noise on the stability by numerical simulations.
著者
浦野 茂
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.18-27, 2016

<p>本稿の目的は、北海道浦河郡の「べてるの家」で始まり、近年急速に普及している当事者研究について、これを相互行為の組織方法という観点から検討することである。最初に、精神障害や発達障害にともなう困難の経験をその障害をもつ人びと自身が共同で研究するという営為に含まれている課題について明らかにする。そのうえでこの課題に対していかなる実践的な対処方法がありうるのか、筆者の観察してきた事例にもとづいて考察をおこなう。</p>
著者
池川 佳宏 秋田 孝宏
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.133-139, 2014

平成22〜23年度の文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業マンガ分野において,国立国会図書館,川崎市市民ミュージアム,明治大学米沢嘉博記念図書館,京都国際マンガミュージアム,大阪府立中央図書館国際児童文学館の5つの機関のマンガ所蔵をデータベース化するプロジェクトが行われた。これに際し,どのような内容のデータを集め,どのような共通のメタデータ項目を設定し,どのようにデータを整理し書誌の同定を行ったかについて,実際の作業内容をもとに報告する。また,プロジェクトの成果として,現在,所蔵元が明確なマンガについて,その数量を明らかにした。
著者
藤田 智也 北田 修一 原田 靖子 石田 ゆきの 佐野 祥子 大場 沙織 菅谷 琢磨 浜崎 活幸 岸野 洋久
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.163-173, 2017 (Released:2017-03-29)
参考文献数
40
被引用文献数
3 4

北海道から東北太平洋沿岸の産卵場9か所において2003年から2014年に採取したニシン16標本618個体についてmtDNA調節領域の塩基配列549 bpを決定した。FSTのNJ樹は,北海道,尾駮沼,宮古湾・松島湾のクラスターを描き,本州より北海道で遺伝的多様性が高かった。東日本大震災後の宮古湾ではハプロタイプ頻度が震災前と大きく異なり,尾駮沼に酷似した。北海道では約60万年前から集団が拡大,本州では20万年程度安定していたが,最終氷期後の温暖化と一致して2万年ほど前から急減していると推測された。
出版者
京都
雑誌
同志社女子大学大学院文学研究科紀要 = Papers in Language, Literature, and Culture : Graduate School of Literary Studies, Doshisha Women's College of Liberal Arts (ISSN:18849296)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.15-39, 2015-03-31

西洋鉱物学の移入によって始まった我が国の鉱物学において、最初の困難な課題の一つは和語、漢語、外来語、およびこれらの混種語が存在した鉱物名を一つに定めることであった。その最初の試みは小藤文次郎他編『鉱物字彙』(明治二十三年〔1890〕刊)である。その書で選定された鉱物名を語種によって分類すると、漢語がその七割程を占める状態であったが、それから八十五年後の森本信男他編『鉱物学』(昭和五十年〔1975〕刊)では外来語が逆転して半数以上を占め、編著者は将来は外来語名を使うことが望ましいと述べている。しかし、その書に用いられている漢語名の多くは現在もなお用いられている。これは効果的に用いられている漢語語基の働きによるものであり、将来も漢語名は用いられるものと推測される。
著者
柳家 権太楼
出版者
リーガル
巻号頁・発行日
1936-04
著者
室井 康成
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.8, pp.65-105, 2018-03

2000年以降、いわゆる「荒れる成人式」問題が顕在化している。一般に成人式は、多くの日本人が加齢の過程で経験する重要な人生儀礼の一種として理解されているため、その荒廃ぶりは現代の若者の未熟さを示すものとして、しばしば睥睨の対象となっている。それは成人式が、近代まで日本各地において、15歳前後の若者に対して行なわれてきた成人儀礼「元服」の現代版として捉えられることも一因だと思うが、実は両者に連続性はない。これまで現行の成人式は、敗戦直後に埼玉県蕨市で行なわれたものが全国に普及したとする説が有力であったが、本稿の調査を通じて、それがすでに戦前の名古屋市で行なわれていたことが明らかとなり、その開催趣旨や運営方式から、そこに元服的要素はなく、あくまでイベントとして開催されていたことを確認した。翻って成人式定着以前の類例を、各地の民俗事象を手掛かりに見てゆくと、何歳を成人と見なすかという基準は、ほぼ集落単位で取り決められており、全国一律の基準などなく、またその認定時期も個人の成熟度に応じて、かなりの柔軟性を持っていたことが明らかになった。この場合の成熟度とは、男子は「親の仕事を手伝う能力」、女子の場合は「結婚可能性」であり、いずれも個人差を前提としていた。だが、そうした柔軟性を駆逐したのが、明治期の徴兵制に起源をもつ「成人=20歳」という新基準であったが、これも全国民の間で共有されたと政府が認めたのは、戦後10年を経た頃であった。逆説的だが、「成人=20歳」という認識も、戦後の官製成人式の普及によって国民の間に浸透したのである。しかし、現在では新成人の約半数は就学者であり、しかもその段階で既婚である者も少ないであろう。前代に比べて現代の若者が幼く見えたとしても、それは仕方のないことである。法の規定とは別に、成人と見なす基準は時代や個人の境遇によって変わるということは、近代の民俗史が語るところだが、そうした様々な差異を無化して、無作為に人を一堂に集めるから荒れるのであり、そこに官製成人式の限界がある。とはいえ、多くの人が経験し、しかも70年以上の歴史をもつ行事であれば、それは十分に民俗学の対象である。通常、民俗学はその対象を「保護・顕彰」すべきものとして捉えるが、本稿では、現行の成人式が民俗的根拠を欠いた意義なきものであることを論じ、その廃止を提言する。