- 著者
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岡 惠介
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.105, pp.319-355, 2003-03-31
本稿は,北上山地の山村における藩政時代以来の森林利用を,商品生産や生活のための利用などに分類しながらその実態を洗い出したものである。商品生産のための利用としては,藩政時代にその起源が求められる養蚕,狩猟,たたら製鉄,牛飼養,大正から昭和初期以降の枕木生産,製炭,昭和30年以降のパルプ・用材生産がある。年間伐採量を推定すると,森林に与えるダメージが大きかったといわれているたたら製鉄用の製炭による森林伐採は,昭和期の製炭やパルプ・用材生産のための森林伐採に比べればその規模は小さい。また,たたら製鉄は三陸沿岸に比較的多く,製塩の燃料用木材の伐採も同様で,北上山地の中央部では大規模な伐採はなかった。製炭による大規模な森林伐採は,昭和10年ごろからの自動車道路の開削によってスタートし,途中からパルプ・用材生産に移行しながら,林道の延長・整備によって昭和60年代まで継続し,安家の主たる生業の位置にあった。この50年以上にわたる森林伐採に耐えうる大径木の豊富な森林は,安家川中下流域では,たたら製鉄衰退後の明治から大正期に蓄積され,また上流域では藩政時代以来の蓄積によるものであったと考えられる。生活の中では様々な森林の植物が利用され,資源の枯渇を招くような採取はみられず,また道具類の素材になる性質・形状をもった野生植物が,巧みに利用されてきた実態が浮かび上がってきた。また信仰儀礼のための森林資源の利用が多く,山村の人々の心の部分においても,森林の資源が欠かせなかったことが確認できた。現在の森林利用の重要なものに燃料としての利用があり,未来にむけた循環型社会のモデルとして,山村の薪の伝統的な利用形態を支えていく地域のシステム作りが必要であると考えられる。