著者
内藤 隆夫
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.21-35, 2011-12-08

本稿では北海道近代史の方法論に関する研究史の検討を通じて、今後このテーマを進めていく手がかりをつかむことを課題とした。具体的には方法論に関わる代表的論文を三つに分類し、筆者の考えをまとめた。即ちまず「開拓史観」と呼ばれる方法に対して、それへの批判の高まりが「開拓の進展」の肯定論を全否定しかねない傾向を生んだことを踏まえ、定義を修正し、批判論者が念頭に置く「開拓史観」的研究とそうでない研究を区別すべきとした。次に「辺境論」「経済学的意味における植民地論」に対して、「辺境」の本来の意味からの遊離、実証研究との対話の困難、政治・社会の問題の捨象という問題を踏まえ、「辺境」は概念ではなく本来の地理的な意味で用い、「経済学的意味における植民地」概念の安易な適用は慎むべきとした。「内国植民地論」に対しては、北海道近代史の構造把握を目指した議論であると認めた上で、「植民地」論でありながらアイヌ支配の問題を組み込めていない、「開拓史観」と同様一面的であるという問題点を指摘した。そして、今後の北海道近代史研究では開拓の進展とそこで生じた問題点との緊張関係を意識して分析を進めることが重要とした。
著者
湯山 英子
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.227-240, 2020-01-17

本稿では,戦後ベトナムからの「引揚げ」と「残留」に関する調査で得られた,関連資料の所在を提示し,それら資料の検討を行うものである。本研究の大きな目的は,第2次世界大戦後ベトナム(場合によっては,仏印と記する)からの「日本人」引揚げの過程および全体像を解明することにある。そのため,次の4つにそって,調査・研究を進めている。①可能な限り数量的に確認することで全体像の把握をする。②個別体験の集約・集積によって,(個々の経験を)全体における位置づけをする。これによって③戦前,戦時期の再検討と④「人の移動」の通史を構築することが可能になる。初段階として,上記①と②を明らかにするにあたり,どういった関連資料があるのか,最近のアーカイブス公開状況を踏まえて,その部分をまずは示しておきたい。
著者
永田 知之
出版者
京都大學人文科學研究所附屬東アジア人文情報學研究センター
雑誌
東方學資料叢刊
巻号頁・発行日
vol.18, 2009-09-30

京都大学人文科学研究所東アジア人文情報学研究センターが前身の時代より長らく開催してきた漢籍担当職員講習会での配布資料等に基づいて作成、漢籍の書誌情報採取に用いる参考書の紹介を主題とする。本文では検索の用途別に、汎用性が高い工具書等の特徴・使用法を略述する。後に附す漢籍整理参考資料では情報収集に役立つ文献・Web pageを列挙、簡単な説明を加えた。
著者
小倉 拓也 OGURA Takuya
出版者
秋田大学教育文化学部
雑誌
秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学 (ISSN:24334979)
巻号頁・発行日
no.76, pp.33-40, 2021-03-01

Erwin Straus est connu pour son concept de l’espace du paysage, qui est présenté dans son magnum opus, Du sens des sens (1935), et qui a influencé ses contemporains. Cependant, il a été élaboré à travers ses théories précédentes sur le spatial, notamment celle développée dans « Les formes du spatial » (1930) où ce concept n’est pas présenté comme tel. Straus y fait une distinction entre l’espace optique et l’espace acoustique, induit par une analyse phénoménologique des modes de manifestation de la couleur et du son. C’est ainsi la distinction qui conduit à la formulation ultérieure de l’espace du paysage. Dans cet essai, étude préliminaire pour comprendre le concept de l’espace du paysage, nous proposons une lecture fondamentale de son article de 1930.
著者
間枝 遼太郎
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.59-79, 2022-01-31

本稿では、叡山文庫天海蔵『諏訪大明神画詞』の祭絵部第一から第七、および末尾に付随する『当社春日大明神之秘記』の翻刻を行い、また『当社春日大明神之秘記』の解題を付す。 『当社春日大明神之秘記』は、諏訪信仰研究においては『諏訪大明神画詞』の教林文庫本などの末尾に付随している文献として比較的古くから存在が認識されていたものの、春日社の研究ではあまり知られないものであった。春日社の社記を多く収録する『神道大系』神社編十三春日(神道大系編纂会、一九八五年)や藤原重雄・坪内綾子・巽昌子「中世春日社社記拾遺」(『根津美術館紀要此君』第四号、二〇一三年三月)などでも紹介はなされていない。 『当社春日大明神之秘記』の作成者と考えられる人物は、元亀三年(一五七二)の奥書に名が記される「采女春近」である。采女春近は春日社の神人(下級神職)の中でも有力な家である南郷常住神殿守家(采女姓)の人間と推測され、故実に詳しい人物であったと思われる。 『当社春日大明神之秘記』の内容は、基本的に文永年間頃成立の『中臣祐賢春日御社縁起注進文』を素材としながら、十六世紀の当時までに伝わっていた他説、さらには比較的新しい説なども組み込んだものとなっている。室町時代には春日社の社家による社記の研究は停滞したとも言われるが、『当社春日大明神之秘記』はそのような時期における、春日社の社記に関する活動を示す貴重な資料の一つとして位置付けることができる。
著者
河野 義行
出版者
長崎大学教育学部政治学研究室
雑誌
架橋 = KAKYO
巻号頁・発行日
vol.3, pp.255-281, 2002-03-20
著者
Bitabarova Assel
出版者
Slavic-Eurasian Research Center, Hokkaido University
雑誌
Eurasia Border Review (ISSN:18849466)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.63-81, 2015

This article examines the Tajik-Chinese border settlement and Tajik debates over it, both of which have yet to be extensively examined by either domestic or foreign scholarship. The long-standing territorial dispute between China and Tajikistan in the remote Pamir Mountains finally came to an end in January of 2011 with the ratification of the Tajik-Chinese Border Demarcation Protocol. Although the peaceful border settlement has laid the foundations for friendship between the two neighbours, Tajik attitudes varied significantly among different interest groups, ranging from overt opposition to overt support of the demarcation protocol.
著者
伊勢田 哲治
出版者
名古屋工業大学 技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 = Journal of Engineering Ethics (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-36, 2016-11-30

フォード・ピントの設計上の欠陥の事例は, その設計のもとになったとされる非倫理的計算を示す「ピント・メモ」とともに, 日本の技術者倫理教科書の中で頻繁に言及されてきた. しかし、この事例についての「通説」には多くの不正確な点があり, とりわけ, 「ピント・メモ」は実はピントの設計に直接は関係しない文書であることが分かっている. この問題についての注意喚起はすでになされているが, 技術者倫理教育コミュニティの反応はそれほど敏感とはいえない. 本論文では「通説」の不正確な部分をより一次資料に近い文献をもとに確認するとともに, 現行の技術者倫理教科書でこの事例がどのように扱われているか, 具体的に検討し, 分類する. さらに, 現行のさまざまな取り上げ方に長短があることを踏まえ, 本論文で「フィクション派」と名付ける, 別の取り上げ方を提案する.
著者
村澤 和多里
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.75-97, 2018-08-30

本稿では,1990年代後半から心理-社会的な問題として注目されるようになった「ひきこもり」という現象について,心理学的側面と社会学的側面のそれぞれを概観し,それらを総合的に理解する枠組みを提示することを目的とした。 心理学的側面については,自己愛パーソナリティやシゾイドパーソナリティとの関連が指摘されてきたが,近年では発達障害との関係も注目されている。これらに共通する特徴は,「自己の脆弱性」と「過度の自己コントロール」である。また,この現象の社会学的側面としては,日本における思春期の親密性の質的変化,巧妙な社会的排除のメカニズム,就労構造の変化などが挙げられる。 本稿では,Young, J.(1999)の「排除型社会」の理論を参考に,心理学的側面と社会学的側面を包括的に理解する枠組みを提示した。