著者
工藤 正子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.116-135, 2009-06-30 (Released:2017-08-18)

本稿の主な目的は、1980年代後期にその来日が急増したパキスタン人男性と日本人女性の国際結婚を事例として、在日ムスリムとしての差異の生成とそれにともなう主流社会との関係のあり方を明らかにし、それが日本社会の多文化共生の課題に示唆するところを考察することである。最初に、これらの夫婦が日本でおかれた社会・経済的布置について、結婚数の増加と自営業への移行という2点から示す。つぎに、関東郊外のモスクに焦点をあて、そうした場に集うことが夫と妻にいかなる意味をもってきたかを検討する。つづいて、子の就学で居住地域の非ムスリムとの関係が形成されるにともない、そこでムスリムとしての差異がいかに包摂/排除されているのかを検討する。最後に、こうした主流社会との関係を、夫と妻それぞれの立場から個別に考察し、さらにこれらの家族形成の過程が日本の地域社会からトランスナショナルな空間につながっていることを指摘する。まとめと考察では、本稿が日本の多文化共生の議論に示唆するところとして次の3点を提起する。第一に、これまでの議論がしばしば「日本人」と「外国人」という単純な差異を想定しがちであったのに対して、そうした二項対立的な図式には回収されない、複雑な多文化化のプロセスと多面的な差異のあり方を明らかにすることがもとめられている。第二に、非ムスリムの主流社会の人々と同じ地域空間を共有しているにもかかわらず、在日ムスリムの微細な日常は見えにくい。その不可視性の背景にある諸要因を検討するとともに、見えにくいマイノリティの声を多文化共生の構築プロセスに反映させていく必要がある。第三に、多文化共生が一時滞在あるいは定着しつつある外国人を主な対象として議論されがちであるのに対して、そのいずれでもない、トランスナショナルな空間を循環移動する人々をも議論の視野に収めていく必要がある。
著者
青島 一平 内田 圭 丑丸 敦史 佐藤 真行
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.238-249, 2017-07-31 (Released:2017-07-31)
参考文献数
36

都市緑地は都市域における重要な生態系サービス源であり,都市住民の生活満足にも貢献している。しかしながら,都市部における人口増加に伴って,緑地が提供する生態系サービスが十分に考慮されずに都市開発が進められている。都市部の緑地が軽視されてしまう理由として,生態系サービスが可視化されていないことが挙げられる。市街地に点在する都市緑地が果たす役割は生態系サービスの中でも文化的サービスによるところが大きく,その価値は一般的な市場では取引できない性質のものである。本研究では,こうした非市場価値を貨幣評価するためにLife Satisfaction Approach(LSA)を適用する。この手法を用いることで,人々の主観的な生活満足度が緑地から受けている影響を貨幣単位で評価し,それを緑地の価値として認識することができる。本研究は兵庫県の六甲山系を含む阪神間地域を事例に,GIS(地理情報システム)を利用して地理データを独自に構築した。都市緑地については学校林,社寺林,公園緑地を特定した。その上で,同地域で社会調査を実施し,それらデータを合成して緑地の価値評価を行った。その結果,生活満足度をベースにしたときに,都市緑地は森林の6倍程度の価値を有することが示された。さらに本研究では心理学分野で使われるK6指標を採用することで,緑地が近隣住民の精神的健全性に与える影響についても分析した。結果として,都市緑被率の高いところに居住する人ほど,精神的健全性が良好な状態にある傾向を示した。さらに都市緑地の中でも社寺林が精神的健全性に与える影響が顕著であることを示した。本研究では,LSAを適用して森林と都市緑地の価値を区別して推定した。それによって都市緑地は近隣住民の主観的福利に大きく貢献していることが明らかとなり,主観的福利の観点から都市緑地の評価を行う必要性が示された。一方で森林については,LSAでは価値の過小評価につながってしまう可能性が示唆された。
著者
林 伸和
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.279-282, 2017-02-10 (Released:2018-02-10)
参考文献数
3
著者
山野 薫 小寺 正人 小堀 博史 西川 仁史 松永 秀俊 秋山 純和
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.467-473, 2011 (Released:2011-09-22)
参考文献数
17
被引用文献数
2

〔目的〕2010年4月に理学療法士免許を取得した理学療法士(新人理学療法士)を対象にリスクマネジメントに関する不安について,その現状把握と問題点の整理をおこなった.〔対象〕新人理学療法士47名(平均年齢23.9±3.8歳)とした.〔方法〕自記式アンケート調査により,回収した回答を分析した.〔結果〕新人理学療法士の診療を行ううえでの不安の第1位は「自分の評価や治療に自信がないこと」(31人)であった.職場の規則やシステムなどにおける不安の第1位は,「緊急時に組織の一員としての動きに自信がないこと」(19人)であった.〔結語〕新人理学療法士のリスクマネジメントに関する不安は,個人の能力に帰属する卒前教育の要素と入職直後に取り組む施設内教育システムの要素があることがわかった.
著者
永嶋 哲也
出版者
福岡歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

(1) 恋愛が12世紀の発明だと言われる場合に、それは「恋愛感情の発明」のことを意味せず、恋愛観の文化的転換のことを意味していることを論じ論文として公開した。つまり恋愛に対して神聖視するという受け取り方が生じたということ意味である。(2) アミキティア(amicitia)に関する古代哲学思想を中世の人びとがどのように受け入れたか調べるために、アベラールとエロイーズの往復書簡を検討し、成果を学会発表の形で公開した。(3) ダンテ『神曲』とペトラルカ『わが秘密』を題材に、恋愛信仰とキリスト教信仰とが両立し、また同時に対立もしていたということを明らかにし、論文という形で公開した。
著者
吉岡 亮衛
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.100, pp.57-64, 2000-10-27
被引用文献数
6 3

本論は、コンピュータによる俳句の研究を行うために必要な俳句データベースと、俳句を分析するために必要な季語データベースの本格的な構築に先立ち、季語データベースの構造とデータベースに収録すべき季語の数を検討した結果を報告するものである。具体的には、2種類の季語を集めた本を材料として、共通に存在する季語を取り出し、それらの季語を用いて、サンプルとして抽出した俳句の季語を特定することを試みた。1 542語の季語で、448句の俳句を分析した結果、全体の約65%の俳句の季語を特定することができた。加えて、季語データベースと俳句データベースを用いて可能となる数量的研究の一部を紹介する。This paper reported the investigated results about the amount of Kigo in Kigo-database. This investigation is needed for building Kito-database, that is useful to analyse the Haiku. A Haiku-database and a Kigo-database are both needed to study Haiku by computer. Concretely, at first the common appeared Kigo in two books are selected. And it is tried to specify Kigos of sample haikus with those Kigos. About 65% of 448 Haikus are specified with 1,542 Kigos. Additionally and example of a possibility of quantitative research about Haiku by using a Kigo-database and a Haiku-database is introduced.
著者
下川 和洋
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.148-154, 2007-08

2005年11月2日、気管切開をした女児の保護者は保育園入園を求めて、入園不承諾処分を行った東大和市を相手に処分取り消しと保育園入園承諾の義務付け、および保育園への入園を仮に承諾することを求める仮の義務付け申し立てを東京地方裁判所に行った。この裁判は、「医療的ケア」が必要であることを理由に保育園入園を拒否することが行政として適切な対応なのか、という「医療的ケア」に焦点化された裁判であったと言える。仮の義務付けの判決により、女児は仮の保育園入園が実現した。また、判決では、「医療的ケア」を理由に入園を不承諾した市の対応は裁量権の乱用であるとし、措置にあたっては、個々の子どもの実態をよく検討する必要性が再確認された。 現在、「医療的ケア」を必要とする子どもたちが、地域の小学校・中学校に増えてきている。こうした中、「医療的ケア」の有無を保育や教育行政の処分・措置の条件にするのではなく、保育園や学校において適切な支援が受けられるように、自治体は一層の充実が求められる。