著者
新 幸二
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-7, 2015 (Released:2015-01-27)
参考文献数
24
被引用文献数
1

消化管粘膜は常に病原性微生物の侵入の危険にさらされている.同時に腸管内腔には多くの腸内常在細菌が生息している.そのため腸管は高度に発達した免疫システムを備え,免疫細胞は病原性微生物を迅速に排除するとともに有益無害な腸内細菌に対しては過度な応答をしないように制御されている.この高度な腸管免疫システムの形成には腸内細菌の存在が重要であることが知られていたが,その詳細なメカニズムについてはあまりよくわかっていなかった.近年,ある特定の腸内細菌のみが存在するノトバイオーマウスを用いた解析により,個々の細菌種が特定の免疫細胞の活性化を行い全体として統率のとれた免疫システムの構築を担っていることがわかってきた.細胞外寄生細菌や真菌の感染防御に重要なヘルパーT細胞の一種であるTh17細胞は腸内細菌の一種であるセグメント細菌(SFB)によって誘導され,経口的に侵入してきた病原体の感染防御に貢献していることが明らかになった.一方,制御性T(Treg)細胞も腸管粘膜固有層に多く存在し,食餌成分や腸内細菌に対する過剰な免疫応答の制御に関与している.SPFマウスと比較して無菌マウスの大腸ではTreg細胞が顕著に減少しており,クロストリジウム属細菌を無菌マウスに投与すると大腸Treg細胞が強く増加したことから,腸内細菌のうち主にクロストリジウム属細菌が大腸Treg細胞の誘導を担っていると考えられた.また,ヒトの腸内にもTreg細胞の誘導を担うクロストリジウム属細菌が存在していることも明らかになった.
著者
林 隆之
出版者
独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構(旧 大学評価・学位授与機構)
雑誌
大学評価・学位研究 (ISSN:18800343)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-22, 2018-03-01 (Released:2019-03-27)
参考文献数
61

大学機関別認証評価は第三サイクルを迎えるにあたり,大学の内部質保証機能を重視した評価制度へと転換することが求められている。しかし,内部質保証とは何であり,それを実現するシステムの要素には何が必要かは明確でない。本稿では,主に国外の先行研究のレビューを通じて内部質保証の論点を明らかにするとともに,大学改革支援・学位授与機構が策定した「教育の内部質保証に関するガイドライン」の内容をその中でどのように位置づけられるか分析する。内部質保証は,質および保証の概念ともに多義的であるため,学内外の多様なステークホルダーが抱く定義を包含する柔軟性が求められる。日本では,海外同様に教育プログラムの点検・評価を内部質保証の中核とすることで,具体的な教育活動や学修成果の改善と結びつけることが当面望まれる。内部質保証概念の柔軟性ゆえ,「ガイドライン」は大学が内部質保証を構築し相互学習するための参照枠組みとなることが求められる。
出版者
日経BP社
雑誌
日経コミュニケーション (ISSN:09107215)
巻号頁・発行日
no.441, pp.67-69, 2005-07-01

米国の大手通信事業者がケーブルテレビ(CATV)事業者に対抗するべく,2005年末にも光ファイバを使ったトリプルプレイ・サービスに乗り出す。ただし,放送参入時の規制が,迅速なエリア展開のハードルになりかねない。劣勢からの挽回を狙った通信事業者の巻き返しはまだ始まったばかりだ。 ブロードバンド市場を巡る通信事業者とCATV事業者の戦いが,米国で激化し始めた。
著者
上村 雅美
雑誌
兵庫教育大学近代文学雑志
巻号頁・発行日
vol.1, pp.55-69, 1990-01
著者
加藤 総夫
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.62-64, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
16

痛みはなぜ苦しいのか? この問題に答えるためのさまざまな脳科学的なアプローチがこの15年ほどの間に進められてきた。急性痛や慢性痛に伴って活性化する脳部位は痛みネットワークを構成し,さまざまな活性化パターンや可塑性を示す。「痛み」の状態に応じて身体の反応性を制御することにより,行動を最適化して生存可能性を増加させることが痛み情動の機能である可能性を紹介する。
著者
安岡 孝一 山崎 直樹 二階堂 善弘 師 茂樹 Wittern C. 池田 巧 守岡 知彦 鈴木 慎吾
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

古典漢文における動詞の作用域、すなわち「動詞の後に置かれる項」のまとまりを、自動抽出する手法の開発をおこなった。具体的には、Universal Dependenciesと呼ばれる文法記述手法を用いて、いわゆる四書(『孟子』『論語』『大學』『中庸』)の係り受けコーパスを制作し、これを用いて、古典漢文の形態素解析と依存文法解析(係り受け解析)をおこなうツールUD-Kanbunを作成した。さらに、このツールを発展させて、動詞の作用域を元に返り点の自動生成をおこない、日本語の活用語尾と助詞を自動で付加することで、自動的に訓読をおこなうツールUD-Kundokuを試作した。
著者
村井 淳志
出版者
東京都立大学教育学研究室
雑誌
教育科学研究 (ISSN:02897121)
巻号頁・発行日
no.4, pp.23-32, 1985-07-31
著者
鈴木 匡子
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.70-76, 2019-06-25 (Released:2019-07-04)
参考文献数
14
被引用文献数
1

注意機能は,覚醒状態を維持し,状況に応じて脳の機能をどこに優先的に振り分けて,効率的に処理を進めるかを調整するはたらきである.周囲の外的な環境や自己の内的な環境は時々刻々と変わるため,注意はダイナミックに変化する.脳損傷によって注意機能が障害されると,精神運動速度遅延,せん妄,半側空間無視,視覚性注意障害などの症状が出現する.臨床例の観察から,視覚性注意障害においては,視覚対象の動きや内容,課題などにより,視覚性注意の向けられる広がりや個数が大きく変動することが示された.注意機能は多くの認知機能の基盤となるものであり,その性質を理解しておくことは重要と考えられる.
著者
山田 高弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.606, pp.606_191-606_209, 2009-09-30 (Released:2011-11-26)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

保険制度は善意の保険契約者を前提として成立している。そのため,不正請求者を放置することは,単に保険会社が保険金を取られることだけでは済まず,保険制度自体を崩壊させかねないものである。現在,損害保険業界は一連の不払問題等の影響によって,厳しい状況におかれている。しかし,社会情勢がどうであれ,不正請求事案に厳正に対処していくことは保険会社に課せられた責務である。むしろ,このような状況であるからこそ,保険金詐欺防止への取組みが大切でありその対策が重要となるのである。本稿では,わが国の保険金詐欺の実態を偽装自動車盗難による不正請求を中心に分析し,今後業界が取り組むべき不正請求対策について論じる。
著者
平尾 和子 武井 婦貴恵 米山 陽子 高橋 節子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.49-54, 2005

サゴ澱粉の物性に及ぼす卵黄粉末添加の影響についてとうもろこし澱粉, 馬鈴薯澱粉と比較し, 澱粉懸濁液の粘度特性, ゲルのテクスチャー, 保型性および離水率を検討しTable2に示した.実際の調理面からレモンパイフィリングを調製して官能評価を行い, サゴ澱粉の調理素材としての適性を検討した.<BR>1) サゴ澱粉懸濁液の粘度変化は卵黄粉末30w/v%添加により最高粘度, 冷却25℃の粘度が無添加より増加した.<BR>2) サゴ澱粉ゲルの硬さ, 凝集性は卵黄粉末30w/v%添加により低下し, 付着性は添加, 無添加にかかわらず認められなかった.<BR>3) サゴ澱粉は卵黄粉末添加により, 他の澱粉に比べて保型性の低下が最も少なく, 形状保持に役立つ.また冷蔵による離水率はわずかに低下を示した.<BR>4) レモンパイフィリングの官能評価の結果から, 「特性評価」ではサゴ澱粉は有意に光沢があると評価された.「嗜好」では味, 硬さ, べたつき, 弾力性, 総合評価の項目では小麦粉が最も好まれたが, サゴ澱粉は硬さ以外の項目で小麦粉に次いで好まれ, とうもろこし澱粉にも近い嗜好性が認められた.
著者
津下 英明
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.168-173, 2003 (Released:2003-07-23)

The family of mono-ADP-ribosyltransferase includes not only bacterial toxins but also mammalian enzymes. Recently, crystal structures of arginine-specific ADP-ribosyltransferase have been revealed, giving a better understanding of type IV toxin. They are VIP2 from Bacillus and Ia from Clostridium perfringens. VIP2 and Ia ADP-ribosylate the Arg177 of actin. They consist of topologically similar N- and C-domains, which have not been expected from the amino acid sequence. C-domain is an enzymatic domain. N-domain interacts with VIP1 and Ib, respectively. C-domain structures were basically the same but the surface charge of N-domain was found significantly different between VIP2 and Ia. Rat ART2.2 and rho-targeted C3 toxin(asparagine-specific)consist of only one domain and the structure is similar to the C-domain of Ia. We summarize the crystal structure and the reaction mechanism of Ia.
著者
斉藤 恵子
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻比較文化 (ISSN:13454307)
巻号頁・発行日
no.1, pp.48-71,図5〜6, 2000-03

This paper is based upon university lectures I gave in 1998 as part of a joint series on Women's Studies. The principle aim that year was to find examples of women's ways of life within each lecturer's own specialized field. Salome was taken up. The story of Salome proved popular in Christian art from an early period, and has been portrayed in other fields such as literature, music, dance and cinema. The theme permits various approaches. Salome, best known as the heroine in Oscar Wilde's one-act play and Richard Strauss's opera, is remembered as the immediate agent in the execution of John the Baptist, but she is unnamed in the Gospels, Mark and Matthew. It is her mother Herodias that is a main agent in the beheading of John. Herodias was infuriated by John's stinging rebuke of her marriage to Herod Antipas as the marriage violated Mosaic Law. Herodias has been regarded as a cruel and wicked woman who prompted her daughter to ask for the holy prophet's head, but she would have sharply protested against Mosaic Law which was extremely unfair to women. Heredias's condemnation of Judeo-Christian laws and ethics as too favorably biased toward male supremacy is a voice worth listening to. Iconographically, Salome has often been confused with Judith of Bethulia, a beautiful Jewish widow who saved her country from the evil enemy by beheading the enemy's general with his sword. Two pictures of "Judith,alias Salome" by Gustav Klimt are adequate illustrations. Judith was sometimes regarded as the female counterpart of King David of Judea, and was admired by such woman painter as Artemisia Gentileschi. But both Salome and Judith have been portrayed by the nineteenth century "fin de siecle" artists as erotic symbols. In her Tale of Salome's Nurse, contemporary historian and writer, Shiono Nanami, interprets Salome as the courageous woman, fully aware of her responsibility as a monarch, with keen insight into the political and religious disturbances within Jewish society. Completely independent of her frail mother, she requested her step-father give her the head of John the Baptist as a reward for her dance of the seven veils. In this way, Shiono has interpreted, Salome as having brought momentary peace to her country, Judea. In conclusion, Salome is an exciting example from whom we can learn both positive and negative lessons.
著者
田宮 康臣 青柳 昌宏
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.163-164, 1982-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
1

筆者らは南極ロス島バード岬のアデリーペンギン北ルッカリーにおいて,ナンキョクオオトウゾクカモメが,ペンギンの巣からいったん奪い,放棄した生卵を1個採集する機会に恵まれた.そこでこの生卵をルッカリーの中に営巣する一番いのナンキョクオオトウゾクカモメの巣中に入れ,抱卵させる実験を試みた.ナンキョクオオトウゾクカモメはアデリーペンギンの卵を継続して抱卵し,20日後に孵化させた.孵化したアデリーペンギンのひなは,ナンキョクオオトウゾクカモメによってガードされたが,餌を与えられることには成功せず,数日でおそらく飢えのため死亡した.これは,親とひなとの間で給餌行動のパターンが一致せず,また餌の種類や給餌様式もまったく違っているためと考えられる.