著者
寺本 美欧
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.79, 2021-01-25

生きた経験を未来につなげるための一冊 医療者に特化し、最新の海外文献が盛り込まれたメンタリングを解説した翻訳本はこれまでになかっただろう。かつ、従来の「メンター」に向けられた心得だけでなく、メンタリングを受ける側の「メンティー」に向けての心構えまでを網羅しており、『医療者のための成功するメンタリングガイド』というタイトルにも納得だ。先日、突然とある看護大学の学生さんから連絡が来た。将来看護師になりたい、留学もしたい、両方実現している私の話を聞きたい、とのことだ。早速オンライン上で話し、まっすぐな思いと情熱に心を動かされたと同時に、自分が提供できる情報もコネクションも、すべて惜しみなく彼女に活用してもらいたいと思った。それが、私のなかで初めて「メンター」の役割が芽生えた瞬間だ。メンティーからメンターへの転換期を迎えようとしている私にとって、絶妙なタイミングでの本書との出合いに感謝したい。 看護の世界でメンタリングという用語はあまりなじみがないかもしれない。プリセプターシップという一般的に病院で活用されている指導方法や、「指導者さん」と呼ばれる看護学生を指導する教育者など、看護の現場でなじみのある手法は多々あるが、メンタリングはそのどれとも異なる。本書を読了して感じた他との大きな違いは、メンタリングには互いに取捨選択できる権利があるということだ。著者によると、「メンターを引き受ける前に、メンティーになる人を慎重に吟味したほうがよい。その人物の成功の手助けをするということは、あなた自身の時間と個人的なエネルギーを犠牲にする、ということなのだ。だからこそ、軽々しく決断すべきでない」(Chapter 1、p.6)とある。逆もまたしかりで、メンティーも誰にメンターを依頼すべきかを吟味する必要がある。一見すると全員のメンターを引き受けないのはやや冷たく感じるかもしれないが、本書を手に取ればこの言葉の意味が理解できる。メンターになるということは、責任を伴い、支え合うという契りを結ぶことでもある。安易にメンターにならない、というのは誠実の表れだと感じた。本書には、メンタリングとの誠実な向き合い方が随所にちりばめられている。この新しいメンタリングという関係性が看護にも取り入れられれば、看護師としての熟練した知識や技術を次世代につなげるだけでなく、看護師のキャリアや選択肢が開けてくるという無限の可能性が広がるのではないか。
著者
大草 貴史 庄司 紘史 小栗 修一 中野 輝明
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.429-433, 2020 (Released:2020-06-06)
参考文献数
13

関節リウマチの59歳女性で,脳造影MRIにおいて脳軟膜を中心に増強を認め,リウマチ性髄膜炎が疑われクリプトコッカス髄膜炎を合併した症例である.2ヵ月後再発し,抗cyclic citrullinated peptide抗体,クリプトコッカス抗原価などの変動からリウマチ性髄膜炎主体と診断した.リウマチ性髄膜炎にはステロイドパルス4回にとどめ,methotrexateを継続し,クリプトコッカス髄膜炎に対してはliposomal-amphotericin Bおよびfluconazoleを継続し,両髄膜炎の再発はみていない.
著者
神津 悠
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.65-69, 2020-04-01 (Released:2020-08-14)
参考文献数
20

Anaphylaxis is a serious disease that can be encountered in all medical departments. Although the onset may occur in unforeseen circumstances, it is necessary that the initial response be as efficient as possible. This article outlines the initial response and preventive measures based on the guidelines published by the Allergy Society in 2014. In the future, with the development of new drugs such as anti-tumor drugs, monoclonal antibodies, and biologics, dealing with atypical symptoms will become an issue. In order to deepen the understanding of anaphylaxis, it is important to understand the disease state, including the phenotype, end type, and biomarkers.
著者
坂井 郁恵 水野 恵理子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_32-3_41, 2011-09-20 (Released:2011-10-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

目的:地域で生活する精神障害者の生きがいの具体的内容と特徴,生きがいに影響を与える体験を明らかにすることを目的とした.方法:対象は,3年以上地域生活を続け研究に同意が得られた精神障害者17名であり,半構成的面接を実施し,得られたデータを質的に分析した.結果:生きがいの内容を示す5つのカテゴリ【他者の存在と関わり】【現在の生活への肯定的な感情】【趣味】【信仰】【仕事】と,生きがいに影響を与える要因を示す6つのカテゴリ【自覚する症状と病気】【他者による肯定的な理解と助言】【現在の生活】【あえて距離をとる対人関係】【家族との関係】【生きがいの気づきにくさ】が抽出された.結論:地域で生活する精神障害者は,自分を理解し支えてくれる他者の存在や,現在の生活への肯定的な感情,現在の趣味を生きがいとしている者が多くみられ,生きがいは普段の生活の中に多様に存在していた.また,生きがいの気づきにくさをもつ者もおり,精神障害者にとって他者の関わりは重要であると考えられた.
著者
山田 浩久
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.71-90, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
18
被引用文献数
4

本研究では,東日本大震災における東北地方の被災県を対象に,被災地で生じた居住地移動の類型化を通して,被災地の居住地移動と市街地再編との関係を明らかにした。分析の結果,被災地特有の特徴を示す居住地移動は,「新市街地対応型」,「自主探索型」,「疎開型」とそれらの「複合型」に類型化された。「新市街地対応型」は,主に被災市町村内で行われる短期,短距離の移動であり,行政の市街地再編計画に被災者の移動が取り込まれていくことになるが,「自主探索策型」は被災者が個々に域外に流出するため,人口が流出した市町村よりも流入先の市町村における市街地再編計画に,より大きな影響を及ぼす。一方,原発事故等に起因する「疎開型」は,健康被害に対する懸念や長期の避難生活がもたらす帰還意識の低下や市街地の物理的荒廃が住民の大幅減につながり,市街地再編計画の実施自体が危ぶまれている。また,上記移動パターンの特徴を併せ持った「複合型」は,今後の動向を把握しにくい移動であり,市街地の再編計画の細やかな修正が求められていくものと考えられる。いずれにおいても,安心を手に入れることが出来ないでいる被災者の不安を解消し,できるだけ早期に被災による居住地移動を完結させることが,被災地における市街地再編の条件になる。
著者
Atsushi Mizuno Chisa Matsumoto Daisuke Yoneoka Takuya Kishi Mari Ishida Shoji Sanada Memori Fukuda Yoshihiko Saito Keiko Yamauchi-Takihara Hiroyuki Tsutsui Keiichi Fukuda Issei Komuro Koichi Node
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Reports (ISSN:24340790)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.137-141, 2021-03-10 (Released:2021-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
6

Background:From the early phase of the Coronavirus disease-2019 (COVID-19) pandemic, cardiologists have paid attention not only to COVID-19-associated cardiovascular sequelae, but also to treatment strategies for rescheduling non-urgent procedures. The chief objective of this study was to explore confirmed COVID-19 cardiology case experiences and departmental policies, and their regional heterogeneity in Japan.Methods and Results:We performed a retrospective analysis of a nationwide survey performed by the Japanese Circulation Society on April 13, 2020. The questionnaire included cardiology department experience with confirmed COVID-19 cases and restriction policies, and was sent to 1,360 certified cardiology training hospitals. Descriptive analysis and spatial autocorrelation analysis of each response were performed to reveal the heterogeneity of departmental policies. The response rate was 56.8% (773 replies). Only 16% of all responding hospitals experienced a COVID-19 cardiology case. High-risk procedures were restricted in more than one-fifth of hospitals, including transesophageal echocardiography (34.9%) and scheduled catheterization (39.5%). The presence of a cardiologist in the COVID-19 team, the number of board-certified cardiologists, any medical resource shortage and a state of emergency were positively correlated with any type of restriction.Conclusions:We found both low clinical case experiences with COVID-19 and restrictions of cardiovascular procedures during the first COVID-19 wave in Japan. Restrictions arising as a result of COVID-19 were affected by hospital- and country-level variables, such as a state of emergency.
著者
桑波田 浩之
出版者
横浜経済学会
雑誌
エコノミア (ISSN:00129712)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.57-71, 2015-05

2011 年3 月に発生した東日本大震災は,多くの東北地方の企業に深刻な被害をもたらし,輸出は一時的に急激な落ち込みを見せた.震災の影響は被災企業だけにはとどまらず,被災企業が含まれるサプライチェーンが分断されることで,取引ネットワークに含まれる生産者にも影響を与えた.この輸出の縮小がどのようなプロセスで生じたかという点は,研究者や政策担当者の大きな関心事である.本論文は,震災により日本が急激な輸出額の落ち込みを経験した2011 年の3 月から6 月における港別,品目別に細分化された日本の貿易統計を用いて,2011 年の大震災の輸出額への影響を定量的に分析した.分析は,貿易総額の変化を品目数や品目当たりの取引相手国の増減による変化(extensive margin)と,品目当たりの平均輸出額の増減(intensive margin)へそれぞれ分解し,震災後の変化を調べた.その結果,出荷港別の分析では,震災の影響が大きかった東日本の港において,輸出額減少の大部分はintensive margin で説明されるものの,2011 年5 月,6 月の回復に向かう途上でextensive margin の影響が大きくなっていることが明らかになった.また,品目別の分析では,東北地方の主要産業である電気機器や自動車産業の品目において,輸出減はextensive margin よりもintensive margin の落ち込みが大きく寄与していることが示された.
著者
半沢 英一
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.240-246, 1984-07-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
著者
Kensuke Toyama Michiya Igase Joshua M. Spin Yasunori Abe Amarsanaa Javkhlant Yoko Okada Markus U. Wagenhäuser Hubert Schelzig Philip S. Tsao Masaki Mogi
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Reports (ISSN:24340790)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.170-177, 2021-03-10 (Released:2021-03-10)
参考文献数
23
被引用文献数
4

Background:Tight junction (TJ) disruption and dysfunction are involved in the progression of arteriosclerosis. miR-501-3p regulates endothelial TJ protein-1, resulting in TJ disruption. Because exosomal microRNAs can travel to distant tissues and influence cell behavior, patients with elevated miR-501-3p may experience accelerated vascular disease progression secondary to miR-501-3p-induced reductions in TJ. This study investigated whether plasma exosome miR-501-3p levels are associated with vascular stiffness, an indicator for arteriosclerotic changes.Methods and Results:Fifty-one subjects (mean [±SD] age 70±8 years, 37% male) enrolled in a medical checkup program were recruited to the study. Brachial-ankle arterial pulse wave velocity (baPWV) and plasma exosome miR-501-3p expression were measured. Patients were divided into 2 groups depending on whether their miR-501-3p ∆Ctvalues were above (“High”; n=24) or below (“Low”; n=27) the cut-off levels determined by receiver operating characteristic (ROC) curve analysis. Median (interquartile range) baPWV levels were significantly higher in the miR-501-3p High than Low group (1,664 [1,496–1,859] vs. 1,450 [1,353–1,686] cm/s, respectively; P<0.05). Multivariate logistic regression analysis showed a significant association between increased baPWV and High miR-501-3p expression (odds ratio 4.66). At follow-up visits (mean 62 months later), baPWV remained significantly higher in the miR-501-3p High than Low group (1,830 [1,624–2,056] vs. 1,620 [1,377–1,816] cm/s, respectively; P<0.05).Conclusions:High expression levels of exosome miR-501-3p contribute to arteriosclerotic changes.
著者
竹内 愛 高 峰美 田村 敦子 尼崎 正路 上田 宏隆
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.717-722, 2017 (Released:2017-11-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1

がん患者のせん妄改善を目的として,院内でクエチアピン坐剤を製剤し,その有用性について検討した.2011年4月から2014年10月までに,緩和ケア病棟に入院した患者のべ644例のうち,クエチアピン坐剤を使用した108例の,後方視的診療録調査を行った.患者背景・投与状況・せん妄による興奮症状の改善度〔Agitation Distress Scale(以下ADS)による過活動型せん妄の改善度の評価〕・副作用について検討した.全体群・クエチアピン坐剤単独投与群・他剤併用群いずれも,ADS値は坐剤投与前後で有意な低下を認め(p<0.0001),せん妄改善に貢献する可能性が示唆された.副作用についてはクエチアピン内服と同等程度であり,また,坐剤という剤型ゆえの問題も認めず,簡便かつ安全に使用可能と判断した.以上より,がん患者のせん妄に対して,クエチアピン坐剤が有用であると考えられた.
著者
矢ケ﨑 太洋
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.371-392, 2019 (Released:2020-02-15)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

東日本大震災は三陸沿岸地域に大きな津波災害をもたらした。被災した地域社会は,防災集団移転などの住宅の高台移転によって津波リスクを低減した。その一方で,三陸沿岸地域では住民の転出によって人口減少の傾向にあり,地域社会は大きな再編を迫られつつある。本研究は東日本大震災後に人口減少と地域組織の改変を経験した気仙沼市浦島地区を対象として,地域社会の再編の過程と人口減少への対応について,レジリエンスの概念を用いて明らかにすることを目的とする。地域社会はレジリエンスが発揮されることにより再編され,その形態には災害以前の地域性が反映される。浦島地区は東日本大震災の津波によって大きな被害を受けたが,過去に大きな津波の被害を経験した集落は,既に住宅が高台に移転していたため被害が少なかった。被害の大きかった3集落はそれぞれ被災以前の地域組織を基盤とした防災集団移転を実施した。その過程において,被災以前に形成された集落を越えた広域な関係性が集落間の情報交換を容易にし,情報の共有が復興を促進した。浦島地区は被災後に住民の転出によって人口が減少しており,転出者が集落の行事に参加できる賛助会や,広域なまちづくり組織である浦島地区振興会を結成することで転出者との関係性を維持する。被災した地域社会はレジリエンスが発揮されることにより,災害に強く人口減少へ対応した形態に再編される。
著者
Takuya Sakamoto Ryohei Imasaka Hirofumi Taki Toru Sato Mototaka Yoshioka Kenichi Inoue Takeshi Fukuda Hiroyuki Sakai
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Electronics Express (ISSN:13492543)
巻号頁・発行日
pp.12.20141197, (Released:2015-01-28)
参考文献数
23
被引用文献数
10 29

We demonstrate an accurate remote measurement of heartbeats using an ultra-wideband radar system. Although most conventional systems use either continuous waves or impulse-radio systems for remote vital monitoring, continuous waves suffer from non-stationary clutters, while impulse-radio systems cannot detect heartbeats. Our ultra-wideband radar system has a moderate fractional bandwidth intermediate of these systems, resulting in both the suppression of clutters and high sensitivity in measuring accurate heart rates even in a dynamic environment. A simultaneous measurement of the vital signal of a participant employing the ultra-wideband radar and electrocardiography reveals the high accuracy of the radar system in measuring the heart rate varying over time.