著者
森山 喜一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1032, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】脳損傷により高次脳機能障害を有する場合,身体機能のみでなく認知機能が日常生活に大きく影響する。特に半側空間無視(以下USN)を有する場合,身体機能は保たれていても安全な屋内外歩行が困難になるなどの問題が生じる。USNの患者に対しては様々な介入方法があるが,単に声掛けなどにより左へ向くことを意識させるのではなく,具体的な行動を自発的に言語化した上で介入する方法が有効といわれている。今回,脳梗塞により著明なUSNを呈した症例に対し,自己教示法を用いて左側への注意を促す介入を実施したところ,院内での歩行能力が向上したので報告する。【方法】対象者:60歳代,男性,無職。X年3月に脳梗塞を発症しその後リハビリを開始した。Br-s左上肢5,手指5,下肢5にて身体機能面は特に問題はない状態であるが,BIT行動性無視検査は通常検査115点であり,著明なUSNを認めた。自室からリハビリ室に行く際やトイレに行く際に部屋を見つけられずウロウロする,といった場面が多くみられた。本人は,「何で部屋が分からなくなるのだろう。」と述べていた。介入方法:自室からリハ室,リハ室から自室までの2通りのコースを設定し,自己教示法を用いて介入を行った。自己教示法は歩行する前に「左をよく見て歩く。」と患者自身が述べた後に歩行を開始した。シングルケース実験法を用い,自己教示法を用いなかった介入10回(A1期),自己教示法を用いた介入10回(B1期),用いなかった介入10回(A2期),用いた介入10回(B2期)の順に計40回の介入を行った。毎回,歩行時に声かけを要した回数をカウントし,各期の差を比較した。【結果】フリードマン検定,ボンフェローニ検定にて検討した結果,A1とB1期,A1とB2期に有意な差が認められ,自己教示法を用いた介入では有意に声かけを要した回数が少なかった。B1期は2回目より声かけの回数が減少し,後半ではほとんど声かけを必要としなかったが,次のA2期では5回目から減少していた声かけが徐々に再度増加していた。B2期では1回目より声かけが少なく,10回目まで維持できていた。【結論】今回,USNを有する患者に対して歩行前に「左をよく見て歩く。」と自己教示法を用いた介入を行った結果,左側への注意が向上し,道順を間違える回数が減少していた。また自己教示法を用いた介入を開始すると,次第に声かけを要する回数が減少していったが,再度自己教示法を用いない介入を行うと再び声かけの回数が増加していた。これは自己教示法の効果を示すと共に,効果の定着の為には一定期間以上自己教示法を用いる必要性を示していると思われる。今回は介入回数が限られていた為,今後はさらに継続した介入を行い,効果を検証する必要があると思われる。
著者
浪尾 美智子 守安 由香 小川 円 木村 英輝 金谷 親好 森近 貴幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0714, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】足底は手掌部よりも知覚神経分布が優勢で、姿勢制御に影響を及ぼすと言われている。今回、感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者の足底感覚に着目したアプローチを行った結果、坐位姿勢に変化がみられたので報告する。【対象】左右頭頂葉と左放線冠領域の脳梗塞両片麻痺患者の女性。触覚は右足底重度鈍麻、左足底中等度鈍麻で四肢重度鈍麻、運動覚は全て重度鈍麻であった。ラップボードを用いることで車椅子坐位を保持していた。また、端坐位保持は不可能で全介助であった。食事動作では坐位が安定しておらずリーチ動作が困難であった為、ほぼ全介助であった。【方法】端坐位の安定化を図るため机上に両前腕部を置き、足底は床面に接地させた。より多くの刺激を与える為に、感覚受容器が多数存在する母趾に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を加えた。深部感覚受容器を刺激するには圧変化や関節運動が関与してくる為、足底で床面を押す寝返り動作を行った。また背臥位にて足底と壁の間に枕やボールを置き、壁に対して垂直方向に、足底で踏むことを繰り返し行った。【結果】触覚は右足底中等度鈍麻、左足底軽度鈍麻となり、運動覚は足、膝関節は中等度鈍麻となった。坐位姿勢は右足底全面接地が行えず、左下肢で床面を押すため骨盤は後傾し、右殿部後方に荷重していた。アプローチ後は右足底全面接地が可能となり、左下肢で床面を押さなくなった為、左殿部にも荷重が行えるようになった。また机上に両前腕部を置き坐位を保っていたが、アプローチ後は端坐位保持が1分程度可能となった。車椅子坐位は左下肢でフットプレートを押すため骨盤が右に後退し、殿部が前方に滑っていたが、アプローチ後はフットプレートを押す動作が見られなくなり、坐面上に殿部を保持することが可能となった。また坐位が安定してきたため、リーチ動作が行いやすくなり、食事動作は中等度介助になった。【考察】足底に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を与えたことで、能動的感覚受容器が活性化され、足底感覚が改善し、右足底全面接地が可能となったと考えられる。寝返り動作や足底で枕やボールに圧をかけることで、足底の圧受容器が刺激され深部感覚が改善したと考えられる。足底からの感覚情報が増加し、自己のボディーイメージが確立され始めたことで、左下肢の過剰努力が軽減し、骨盤帯の後傾や後退も改善した。また体幹を支持基底面内で保持させることが可能となった為、坐位保持も可能となったと考える。【まとめ】足底感覚は脳卒中患者の姿勢制御に影響を与える感覚であることが示唆された。本症例では足底感覚へのアプローチにより坐位姿勢に変化が認められ、食事動作の改善にもつながった。
著者
飯田 隆夫
出版者
佛教大学総合研究所
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
no.27, pp.17-26, 2020-03-25

相模国の古義真言宗寺院の大山寺には、一五三二(享禄五)年の仮名本『大山寺縁起絵巻』と一六三七(寛永十四)年の真名本『大山縁起』の他に一七九二(寛政四)年『大山不動霊験記』が存在する。後者は全15巻に及ぶ大部の霊験記である。この霊験の内容に関して圭室文雄・川島敏郎氏らの先行研究で解明されてきたが、霊験主に焦点を当てた分析は行われておらず、本論はこの視点から検討する。不動明王石尊権現複合霊験主不動剣と木太刀
著者
荒木 修 藤森 泰宏 小南 八崇仁 碇 公明
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第58回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.2, 2006 (Released:2006-06-07)

蚊の誘引捕獲機の開発に当たり誘引剤などの検討を行ったので,それについて報告する。誘引物として,炭酸ガス,熱,匂い,光などを検討した。この検討のための試験は屋内外で行った。さらに,赤外線カメラを用いて蚊の飛翔行動を観察した。 現在,蚊の捕獲機として入手できるのは,わが国ではCDCトラップさらにはアメリカンバイオフィジックス社が出すモスキートマグネット(MM)である。米国においてはMMに類似した商品が数多くが販売されており,それらはyahoo.comやamazon.comなどインターネット販売でも取扱われており,その入手は容易である。 これら捕獲機の主なる蚊の誘引源は炭酸ガスで,CDCトラップではドライアイスを昇華し,その他のトラップのほとんどはプロパンガスを燃焼させている。さらなる誘引源としてオクテノールや熱を併用するもの,音を利用するものもある。我々は使用の安全性を考慮し,炭酸ガスをその液体をボンベから気化させ放出することで蚊を誘引し,微小な光を用いて誘引された蚊を吸引方向へ誘導する方法を採用した。 誘引手段を検討するために室内において,我々は長さ5m,内径10cmの直管を使い,その中央から蚊を放ち,管の両端に設置した誘引物のどちらを蚊が選択するのかを調べた。これには発生飼育させた羽化後7日のメス蚊のヒトスジシマカ,アカイエカ,コガタアカイエカ,チカイエカをそれぞれ用いた。誘引物は紫外線源としてブラックライト,紫外線LEDを,熱源に表面温度41℃の携帯カイロを,匂い物質にオクテノール,L-乳酸を用いた。 その結果,誘引物が無い側よりも有る方へ蚊は移動した。4ヶの紫外線LEDは6Wブラックライトと同等の誘引を示した。オクテノールとL-乳酸の効果にはあまり差が無かった。当機は,フロリダ農工大学が行う捕獲機試験で,MMリバティの4倍の蚊を捕獲した。
著者
山本 隆一郎 野村 忍
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.22-32, 2010 (Released:2014-07-03)
参考文献数
43

本研究の目的は,実際の就寝環境における入眠時選択的注意が入眠困難に及ぼす影響を2週間のホームワーク実験によって検証することが目的であった。13名の入眠困難者は実験群と統制群に割り付けられた。実験群は,後半の1週間,就寝時の注意統制のため毎日寝床で数息観(自発的な呼吸を数える禅瞑想課題)を実施した。実験群と統制群における,入眠時選択的注意尺度得点,入眠時認知活動尺度得点,1週間の平均入眠潜時の違いを検討するため,2要因反復測定分散分析(2群×2時期)を行った。その結果,入眠時選択的注意得点において有意な交互作用が確認された(F(1,11)=6.24,p=.030)。また入眠時認知活動尺度の第2因子(眠れないことへの不安)得点において交互作用の有意傾向が確認され(F(1,11)=3.78, p=.078)た。さらに1週間の入眠潜時において交互作用の有意傾向が確認された(F(1.11)=3.35, p=.095)。本研究より,入眠時選択的注意の入眠困難に及ぼす影響が示唆され,数息観による注意統制が入眠困難に効果的である可能性が考えられた。
著者
Michiko Sato Teruhiro Morishita Takafumi Katayama Shigeko Satomura Hiroko Okuno Nami Sumida Masae Sakuma Hidekazu Arai Shinsuke Katoh Koichi Sairyo Akihiko Kawaura Eiji Takeda
出版者
The University of Tokushima Faculty of Medicine
雑誌
The Journal of Medical Investigation (ISSN:13431420)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1.2, pp.151-157, 2020 (Released:2020-05-02)
参考文献数
53
被引用文献数
8

A clearer understanding of skeletal muscle mass (SMM) in middle-aged and elderly individuals is important for maintaining functionality. In the present study, age-related changes in SMM, the threshold of SMM with walking difficulty, intestinal nutrient absorption rate, and various serum factors were examined in Japanese populations of different ages. We used 24-h creatinine excretion as a measure of total body SMM. Age-related decreases in SMM, intestinal nutrient absorption rates, and serum 25-hydroxyvitamin D [25(OH)D] concentrations were significantly higher in women than in men. The cut-off values for SMM (kg), its percentage of total body weight (BW), the SMM index [SMMI] (Kg / m2), and creatinine height index (CHI) (%) in elderly individuals with walking difficulty were approximately 8-10 kg, 17-20% of BW, 3.9-4.6 kg / m2, and 44%, respectively. Serum 25(OH)D concentrations were closely associated with SMM (kg, % of BW, kg / m2) and CHI (%) as well as the intestinal absorption rates of nitrogen (%) and phosphorus (%) in women, but not in men. The present results demonstrate that vitamin D is an important metabolic factor in skeletal muscle, and contributes to the optimal management of skeletal muscle and the prevention of sarcopenia. J. Med. Invest. 67 : 151-157, February, 2020
著者
西川 賢
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.88-98, 2012 (Released:2017-09-01)
参考文献数
71

本論文においては,第一に,政治的保守主義に関する有意な経験的実証研究を行うために,客観的に正当な根拠があると考えうる基準において,政治的保守主義を概念化することを試みる。第二に,先行研究を検討することでアメリカの共和党の保守化を対象にして,政治的保守化という現象の説明可能な三つの競合する理論を提示する。(1)政治的活動家に関する理論:これは共和党の保守化を保守主義の理念を媒介する政治的活動家の活動とそれを媒介する政治制度から説明する。(2)決定的選挙と政党再編に関する理論:この理論によれば共和党の保守化は決定的選挙とそれに伴う再編を通じて生じたものとして説明できる。(3)イシュー・エヴォリューション:これは共和党の保守化を個々の争点領域におけるイシュー・エヴォリューションが長期間にわたって重畳的に蓄積されて生じたものとして説明する。
著者
Ryuichiro TANAKA Hiroo TAKAYAMA Masami MOROTOMI Toshikata KUROSHIMA Sadao UEYAMA Keisuke MATSUMOTO Akio KURODA Masahiko MUTAI
出版者
Japan Bifidus Foundation
雑誌
Bifidobacteria and Microflora (ISSN:02869306)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-24, 1983 (Released:2011-02-23)
参考文献数
25
被引用文献数
130 184

We studied the effects of administration of TOS, a new growth factor derived from lactose for Bifidobacterium, and Bifidobacterium breve 4006 on the fecal flora of normal subjects. All of the Bifidobacterium species tested, eight reference strains and B. breve 4006 were capable of fermenting TOS in vitro, while others, 2 Bacteroides strains and 4 Lactobacillus and Enterobacteriaceae strains, showed an appreciable growth among 55 cultures tested. It was evident that TOS is not intestinally absorbed by the recipient subjects, from hydrogen breath test. In vivo, TOS (3g or 10g/day) was observed to promote the growth of both administered B. breve 4006 and resident Bifidobacterium strains. Simultaneous administration of B. breve 4006 and TOS caused the suppression of gram negative anaerobes and aerobes, Bacteroidaceae and Enterobacteriaceae, and the reduction of fecal ammonia and urinary indican excretion. It is concluded that TOS is a typical bifidus factor.
著者
横内 光子
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.555-561, 2007-10-01 (Released:2008-10-24)
参考文献数
23
被引用文献数
2 3

心理測定尺度とは, 心理現象を測定する方法の1種であり, いわば, 目に見えない心理現象を把握するための「心の物差し」である。心理測定尺度では, いくつかの質問に対する回答を得点化することによって, 心理現象の個人差を把握することが可能となる。尺度の開発では, 心理現象を理論的構成概念として明確に定義し, それを反映する質問項目を設定するために一定の手続きが必要となる。心理現象は, 直接見ることができないだけに, その尺度が正確かつ適切に目的とする心理現象を測定できるか否かが特に重要となる。この尺度の精度や適切性の指標となるのは「信頼性」と「妥当性」である。本稿では, 臨床・研究で心理測定尺度を有効に活用するために必要な基本的知識について, 尺度の作成過程と信頼性・妥当性を中心に概説する。
著者
福島 良典 大澤 幸生
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第26回全国大会(2012)
巻号頁・発行日
pp.3E1R66, 2012 (Released:2018-07-30)

ソーシャルメディアにたまった個人ログ,集合知を活用し,その人が今まで気付いていなかったが重要だと感じるニュースの推薦を行う.従来の研究では,自分が今まで過去に見た情報に似たニュースを推薦する研究が多かった.本項では,そういった過去に見たものに似た情報ではなく,過去に見た情報のログに基づき,その人が次に興味を持ちそうな情報を予測して,推薦することを目的とする.
著者
寺田 真 中馬越 清隆 玉岡 晃
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.1160-1166, 2015-06-10 (Released:2016-06-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

片麻痺,意識障害,痙攣を来たした17歳,男性.頭部MRI T2WIで両側前頭葉皮質,大脳基底核に多発する高信号域,脳血管造影で両側ACA近位部に分節性の血管狭窄がみられた.RCVSとの鑑別に苦慮したが,髄液異常があり,発症3カ月後でも血管狭窄が残存したことからPACNSと診断した.両側性,複数の血管支配域におよぶ若年性脳梗塞ではPACNSを鑑別に挙げ,髄液検査と脳血管造影を施行する必要がある.