著者
恒石 美登里
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

膿栓をもつ者に他覚的な口臭があることは,経験的に知られている。しかし,膿栓と口臭との関連性は科学的に証明されていない。そこで本研究の目的は膿栓の表面の観察および構成する細菌を特定することで,膿栓と口臭との関連性を明らかにすることとした。口臭を主訴に来院し,同意の得られた6名の膿栓を調査した。採取した膿栓からDNAを抽出後,PCR法で増幅を行い電気泳動により16S rDNAに相当するバンドを回収した。大腸菌ベクターへ挿入後クローニングした16S rDNAにより遺伝子配列を決定後,菌種の同定を行った。また25歳男性の膿栓を滅菌キュレットで採取後,固定処理を行い乾燥後,白金で金属膜蒸着を行い走査型電子顕微鏡(S-900,日立製作所)で観察を行った。採取した膿栓は白色から薄い黄色を呈しており,表面は滑沢で米粒のような形状をしていた。扁桃腺の陰窩から膿栓を採取した際には,出血や痛みなどの臨床症状も認めなかった。走査型電子顕微鏡で,表層を拡大してみると菌が絡みあって構成されている様子が確認できた。膿栓表層をさらに倍率をあげて確認すると,球菌が多く観察された。膿栓を半分に切断した横断面では,球菌はほとんど見られずスピロヘーター様の細菌や桿菌が多く観察された。膿栓を構成する菌の同定結果から,6名全員一致して検出された属は,Prevotella属であった。全員から一致して検出される菌種はなかった。また,6名の膿栓の全てに揮発性硫化物を産生する細菌が含まれていた。この結果から,膿栓が口臭の原因物質を産生し,口臭の原因となりうることが示唆された。また,電子顕微鏡による観察から,膿栓の表層には好気性や通性嫌気性の細菌が分布し,膿栓の内部に偏性嫌気性菌が存在することが想像され,膿栓をつぶすとにおいがする理由の一端が明らかになった。
著者
太田 尚
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.2, pp.73-77, 2009 (Released:2009-08-12)
参考文献数
7

温度,大気圧,光などの環境因子が生体機能に影響を及ぼすことはこれまでの多くの研究で明らかであるが,地上において常に一定方向から一定の大きさで存在する重力が生体機能に及ぼす影響を検討することは地上においては不可能である.宇宙空間という微小重力下での滞在は宇宙飛行士の骨密度の低下や筋肉量の低下を引き起こすことが知られているが,どのような機序で起こっているかは明らかでない.1Gという重力環境で生活していた人類が宇宙空間という微小重力環境に滞在すると明らかに地上とは異なった生体応答が生じていることは重力が生体機能維持に重要な働きをしていることの傍証であると考えられる.重力が生体に及ぼしている影響を調べるには1G下での生体機能と微小重力下での生体機能との比較が一つの手段と考えられるが,微小重力という環境は非常に限られた方法でしか得ることが出来ない.今回,航空機によるパラボリック(放物線)飛行により得られる微小重力環境においてマウスを用いた実験を行うことが出来た.微小重力負荷により,血中コルチコステロンの上昇が認められたことから微小重力負荷は少なくともマウスにストレス応答を引き起こしていることが明らかとなった.また,下肢骨格筋や視床下部での遺伝子発現解析結果は遺伝子発現レベルが短時間の微小重力負荷後,時間単位で変化することを示しており,パラボリック飛行による短時間の微小重力負荷であっても,生体機能変化を分子レベルで追跡できる可能性を示している.本稿ではパラボリック飛行による微小重力下で行った実験に基づいて実験に関する方法論および実験上の注意点に関して紹介する.
著者
渡辺 文太 平竹 潤
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.354-361, 2015-05-25 (Released:2016-05-20)
参考文献数
31
被引用文献数
3

生体内還元物質であるグルタチオン(GSH)は,活性酸素種の除去(抗酸化)や,求電子的な化合物,重金属など生体異物(毒物)の解毒の最前線に立つ極めて重要な分子であり,酸化ストレスを介してがん化学療法から薬剤耐性,生活習慣病に至るまで,病態と深くかかわる.GSH生合成は,律速基質であるCysの供給に大きく依存しており,近年,GSH代謝やCys供給(Cys availability)にかかわる酵素やトランスポーターが,抗がん剤などの重要な創薬ターゲットとして注目されている.本稿では,GSHの代謝を概観したあと,GSHのもつチオールの化学にフォーカスし,GSHの代謝異常と病態の複雑な関係,GSH代謝やCys availabilityにかかわるタンパク質とその活性制御が有用な創薬につながる可能性について解説する.
著者
木庭 康樹 上田 丈晴 沖原 謙 田井 健太郎 高根 信吾
出版者
日本体育・スポーツ哲学会
雑誌
体育・スポーツ哲学研究 (ISSN:09155104)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.101-120, 2013 (Released:2014-07-05)
参考文献数
32

This study aims to identify the structure of sports games in order to analyze soccer games. In the paper before last, we focused on the structure of "competition" as "play" to clarify the concept of "competition" which is the basis for the meaning of "bodily movement competitions (sports)". In doing this, we were able to formulate the function for this structure through the following comparative function.On a condition of r, A = cf (a, b) = a > b, a = b, a < b(where, r : rule, A : agōn, cf : comparative function, a : contestant, b : opponent, > : win, = : draw, < : loss)In the last paper, we clarified that "bodily movement related to competition" is provided for by four characteristics: usability, expression, acquisition, and reciprocity.Our next topic is to consider the development and the optimization of human movement in sport. The human movement in sport has a certain relation with other elements such as rule, tactics, sense of values and others, while keeping the independence as the movement form. It has an original role and function under the relationship with other elements. When an element in the structure of sports builds the new relations with other elements, the sports accomplish a change and development in a true meaning. The creation of a new movement form to enable such the translation of the structure of sports is the development of human movement in sport.In the using process and the learning process of the movement form, sports players come to cannot but acquire and use the form of the technique developed and made an object by an individual. However, they are promoted development of a new form of the technique by the decline of the value of the form of the technique occurring as a result of competition in the game and the decline of the value of players using it. But a form of the technique developed newly also cannot avoid the "alienation" in the using process and the learning process of such the movement form.The concept of "Pareto optimum" clarifies that any movement form has the limit of the geometrical ambiguity (relation between both merits and demerits), as long as they have a definite form, a certain decided figure. However, this means a new movement form and other movement forms connect a new relation between both merits and demerits, and they have the possibility of further optimizing for more purposes.Our future topic is the last aim of this study, to clarify the entirety of "bodily movement competitions (sports)" based on the results considered in our earlier papers.
著者
冨永 靖德 天羽 優子
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.121-134, 2006-03-22

水の動的構造をラマン散乱分光の観点から検討した.水のラマン散乱スペクトルは,H2O分子の基準 振動解析から得られる基準振動では説明ができない.水素結合の3次元的なネットワークで形成され る短い時間のクラスター的な構造を考える事によって,大筋が理解される事を示した.このクラスター 的な構造は,psのオーダーで生成消滅を繰り返しており,その揺らぎが,ラマンスペクトルの中心成 分に現れる.これらのスペクトル解析から,水と水溶液系の水素結合の状態を解析できる事を示した.
著者
郡 修徳 小澤 武史 高崎 雅彦 江口 久恵 三輪 興三 沼 潤幸 阿部 信
出版者
公益社団法人 日本薬剤学会
雑誌
薬剤学 (ISSN:03727629)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.34-45, 2001 (Released:2019-05-18)
参考文献数
19

We prepared a troche containing camostat mesilate for the prevention of the mucositis in the mouth induced by cancer chemotherapy. The troche was formed by the direct compression of a powder mixture of camostat mesilate, a flavoring agent, hydroxypropylcellulose, and magnesium stearate. A troche containing 10% or 20% hydroxypropylcellulose and a flavoring agent of coffee or green apple diminished the bitterness of camostat mesilate. It was found that the metabolising rate of camostat in saliva was much slower than that in blood, although metabolites in saliva were the same kinds as those in blood. The amounts of camostat retained in the mouth after administration of the troche to healthy subjects were much larger than those after applying a gargle which had a bitter taste. Moreover, the troche containing the flavoring agent of green apple showed smaller amounts of camostat and its metabolites retained in the mouth compared to the troche containing the flavoring agent of coffee. It is considered that the increase in the secreting volume of saliva after administration of the troche containing the flavoring agent of green apple would prevent the retaining of camostat and its metabolites in the mouth. Moreover, the administration of a troche is more convenient than that of a gargle for patients. The troche prepared in this study would be a substitute dosage form for the gargle and promote the quality of life in patients.
著者
木村 遊 大野 敦生 豊田 裕司 高須 孝広 下川 翔平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.O-001, 2020 (Released:2020-01-01)

【はじめに】本症例は肩関節初動時に放散痛と挙上最終域で衝突感を訴えていた.この原因が頚部の椎間関節障害によると仮説を立て介入を行い,改善が得られたため報告する.【症例】50代女性.平成31年1月に当院に受診し頚椎症,肩関節周囲炎と診断された.介入時は4月であり主訴は右肩関節挙上困難と運動時痛であった.【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,目的および方法を説明し同意を得た.【評価】疼痛:挙上初期から頚部右側〜右前腕尺側に放散痛(NRS7),挙上80°で衝突感(NRS4).筋緊張:僧帽筋上部線維,頭半棘筋の緊張亢進.肩関節ROM右:屈曲:80 °,外転:60 °.頚部ROM右:側屈:15 °.MMT(右/左):三角筋,棘上筋,上腕二頭筋(3 /4).整形外科テスト:Neer・Hawkins test,Spuring test右側陽性.動作観察:挙上運動で肩甲骨挙上,前傾が先行的に起こる.画像所見:頚椎MRI:C5 /6,C6 /7狭窄.【仮説】本症例の疼痛は筋力低下部位,頚椎MRIより椎間孔での狭窄によるものと考える.挙上困難な原因は椎間関節障害により主動作筋の筋力低下が生じ,大胸筋等で代償運動が出現した結果,ROM制限や衝突感が出現したと考えた.【治療】1.頚部筋緊張緩和2.頚椎モビライゼーション【結果】疼痛:放散痛消失,挙上110°で衝突感(NRS4).肩関節ROM右:屈曲110°,外転100°.頚部ROM右:側屈:30°.MMT(右/左):三角筋,棘上筋,上腕二頭筋(4 /4).整形外科テスト:Spuring test陰性.【考察】疼痛と挙上困難の原因は整形外科テストや主動作筋の筋力低下を生じていたことから神経根症状とインピンジメント徴候が考えられた.肩関節周囲炎が拘縮期に移行しており,ROMのEnd feelから軟部組織の伸張性が低下している.このことから上腕骨頭の骨頭偏位によりインピンジメント徴候が起こることも予想されるが,主訴である疼痛の質や部位がC5 〜C7神経支配領域であるため椎間関節障害の問題と考えた.

2 0 0 0 OA 1.糖,蛋白質

著者
武田 英二 宮本 賢一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.7, pp.1029-1033, 1996-07-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

近年の分子生物学の発展により,腸管での栄養素吸収の分子機構が明らかになってきた.糖質の吸収は能動輸送と促通拡散を示す特異的なグルコース・トランスポーターによって行われる.アミノ酸およびペプチドに対しても中性,塩基性,酸性アミノ酸およびペプチドのトランスポーターが小腸上皮細胞の刷子縁膜や側底膜に存在して,特異的な輸送系を構成している.さらに,これらの輸送を調節すると思われる分子も明らかにされている.
著者
葉 清規 対馬 栄輝 村瀬 正昭 大石 陽介
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11713, (Released:2020-02-20)
参考文献数
34

【目的】本研究目的は,頸椎変性疾患患者に対する,McKenzie 法(以下,MDT)と頸部深層筋エクササイズ(以下,DCME),物理療法の効果を分析することである。【方法】MDT 群51 例(MDT,物理療法),DCME 群43 例(MDT,DCME,物理療法),物理療法群18 例に対し,5 ヵ月後まで定期的にCROM,NDI,JOACMEQ,VAS(頸部症状),SF-8 を測定し,治療経過の差を解析した。【結果】CROM,NDI,JOACMEQ,VAS,SF-8 で交互作用がみられ,MDT 群,DCME 群で,1 ヵ月後以降に改善がみられた。物理療法群では,2 ヵ月後にVAS の改善がみられた。複数の評価項目の効果量で,MDT 群,DCME 群,物理療法群の順に高値であった。【結論】頸椎変性疾患患者に対し,MDT,頸部深層筋エクササイズを実施することで,物理療法のみと比較して,多面的な改善を得られる可能性がある。